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2024.09.18
下記の通り第22回SGRAカフェを会場及びオンラインのハイブリット方式開催いたします。参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。
テーマ:「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」
日 時: 2024年10月5日(土)11:00~12:30(その後懇親会)
方 法: 会場及びZoomウェビナー
言 語: 日本語
主 催: (公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会 [SGRA]
申 込: こちらよりお申し込みください
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected])
*ポスターに使われている刺繍の模様はTatreez Traditionsのデザインに基づいているものです。
■ 開催趣旨
第20回SGRAカフェ「パレスチナについて知ろうー歴史、メディア、現在の問題を理解するために」(2024年2月3日、渥美財団ホール)と第73回SGRAフォーラム「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」(6月25日、昭和女子大学)に続き、「パレスチナを知ろう」シリーズの締めくくりとして、今年最後のSGRAイベントを開催します。これまでは国際政治やパレスチナ問題の現状に焦点を当ててきたことを踏まえ、今回は文化、文学、芸術にスポットライトを当てます。
パレスチナに関するニュースは戦争や紛争に偏りがちですが、パレスチナ人には逆境の中で形成された独自で多様な文化的アイデンティティ―があります。パレスチナの文学や芸術は民族が国家を奪われ、自決権を認められず、土地や文化の喪失を経験してきた中で、「故郷」をどのように捉えているかを映し出しています。
パレスチナの芸術や文学がいかにして平和的な抵抗の手段となり、抑圧や占領に対抗する一つの形となっているのかについても探求します。メディアでは語られることのないパレスチナの別の側面をご紹介し、このシリーズがポジティブな視点で終わることを目指します。
■ プログラム
11:00-11:05 開会
司会:シェッダーディ アキル (慶應義塾大学)
11:05-12:05 講演
講師:山本薫(慶應義塾大学)
12:05-12:30 質疑応答・ディスカッション
オンラインQ&A担当:銭海英(明治大学)
■ 講師紹介
山本薫 Kaoru Yamamoto
慶應義塾大学総合政策学部准教授。東京外国語大学博士(文学)。専門はアラブ文学。パレスチナをはじめとするアラブの文学・映画・音楽などの研究・紹介を行う。近刊に「パレスチナ・ガザに響くラップ」島村一平編著『辺境のラッパーたち―立ち上がる「声の民族誌」』青土社、アダニーヤ・シブリー『とるに足りない細部』(翻訳)河出書房新社。
■ 講師からのメッセージ
2023年10月7日にガザ地区からイスラエル領内への奇襲が行われたことへの報復として、パレスチナ人へのジェノサイドが開始されてからもうすぐ1年になります。しかし、イスラエルによる攻撃はパレスチナ人の生命・財産に対するものにとどまりません。19世紀末に始まるユダヤ人のパレスチナへの組織的入植の目的は、ユダヤ人国家イスラエルを建設してパレスチナのアラブ人を追放するだけでなく、その存在の歴史的記憶を抹消することにもありました。そのためパレスチナ人の闘争は、自分たちの生命・財産を守り、正当な権利を回復するための政治的・軍事的・経済的・法的な闘いであるだけでなく、歴史と記憶をめぐる闘いでもあり、その点において文化はきわめて重要な役割を果たしてきたのです。本イベントでは、パレスチナ人が文化を通じて自分たちの歴史的存在とその人間的価値を証明してきた歩みをご紹介します。
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
プログラム詳細
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2024.09.05
2024年8月10日(土)午前9時から、チュラーロンコーン大学文学部にて開催された円卓会議では、タイにおける「日本語、日本語教育、日本文学、日本文化」に関する研究の特徴が報告された。タイで発表された学術論文のデータベースを基にしたものである。その後、これらの研究を後押しする二つの学術協会の役割、活動内容、研究の特徴の紹介があった。
まず、「日本語・日本語教育・日本文学」に関する研究の全体傾向について、チュラーロンコーン大学文学部教授のカノックワン先生から報告があった。(1)過去11年間(2012-2022年)にタイで発表された外国語・外国文学に関する論文の中で、日本語に関するものは350本あり、英語1077本、中国語682本に次いで、3番目に多い。(2)日本語教育分野の論文が多いこと、タイ語で書かれた論文が多いことなどが特徴。(3)2018-2019年は論文数が特に多い。この時期は国による大学教員昇進基準の改定時期と重なる。(4)2015年以降、日本語で書かれた論文が減少した。
「日本語および日本語教育」研究の現状については、タマサート大学教養学部教授のソムキアット先生から報告があった。(1)過去29年間(1994-2022年)にタイで発表されたこの分野の学術論文数は528本。(2)日本語教育に関する研究(教室活動、実践研究など)の割合は2012年頃までは増えていたが、その後は減る傾向にある。翻訳の研究は2008年頃から始まっている。(3)研究方法は、アンケートが最も多く、5年毎の平均で24-39%だが、客観的な方法(テスト、コーパスの利用)や、インタビューなども取り入れられるようになっており、今後も研究の質の向上が期待できる。
「日本文学」研究については、タマサート大学教養学部准教授のピヤヌット先生から報告があった。(1)過去29年間(同上)にタイで発表されたこの分野の論文および図書は152件。最も多いのは作品分析で、約9割を占めている。(2)対象作品の時代区分は、現代(関東大震災以降)が約4割、中世(鎌倉時代から安土桃山時代)が約2割を占めている。(3)現代文学研究が多い理由は日本語で比較的容易に読めることや、タイ語翻訳版が多いことなどが考えられる。中世文学研究が多いのは「仏教」に関係したテーマがあり、タイに仏教徒が多いことが考えられる。
次に、学術協会の紹介では、最初にタイ国日本研究協会(JSAT)会長であるチュラーロンコーン大学文学部准教授のチョムナード先生から、「タイにおける日本の社会と文化研究の現状と課題―JSATの視点から」と題して報告があった。(1)タイの日本研究者の集まりは1980年代後半から始まり2006年に組織化、2011年に学会誌『jsn』を発刊、2013年に協会名をJSATに改名し、現在に至っている。(2)活動の目的は日本研究者同士の意見交換や研究成果の共有など。(3)活動内容は年次学術大会、ワークショップ、オンラインセミナーの開催や、年2回の学会誌刊行など。(4)日本の社会・文化研究の特徴は、現代に関する文献・資料研究が多いことや、フィールドワーク調査が少ないことなどである。
二つ目の学術協会の紹介では、タイ国日本語日本文化教師協会(JTAT)アドバイザーであり、元カセサート大学人文学部准教授のソイスダー先生から報告があった。(1)タイの日本語教師会は2003年に設立され、2009年にタイ国日本語日本文化教師協会となった。(2)活動目的は学術的な意見、教授資料、教授法や経験の共有など。(3)活動内容は、教師向けに年3回のセミナーや年2回の短期訪日研修などがある。学生向けには、ドラマコンテストや輪読会(ビブリオバトル)などを開催。(4)2024年には「第1回タイ国日本語教育国際シンポジウム」を開催し、基調講演で生成(ジェネラティブ)AI時代の言語教育を取り上げ、質的な教師の育成を支援している。
最後の質疑応答では、初めてタイを訪れた方が、バンコクの町中に日本語の看板があることを取り上げ、日本語教育の状況や教科書について質問。登壇者からは、大学では中上級レベルの市販教科書と自作教材を併用している、との回答があった。また、日本語学科がある高校もあり、国際交流基金バンコク日本文化センターが開発した教科書が主に使われ、高校卒業時に同基金などが運営する日本語能力試験(JLPT) N4レベル(基本的な日本語を理解できる)相当の内容を学んでいるとの説明があった。他にも日本の環境への取り組みに対する関心や、タイ国内外の学術協会との交流などについて質問があり、学際的、国際的な話題について活発に議論された。
当日の写真
<香山恆毅(こうやま・こうき)KOYAMA Koki>
チェンマイ大学人文学部日本語講師。東京都立大学工学部建築工学科卒業。日本およびタイにて建築施工管理(1995-2011年)。チュラーロンコーン大学文学部修士課程外国語としての日本語コース修了(2015年)。
2024年9月5日配信
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2024.08.27
2024年6月25日、第73回SGRAフォーラム「パレスチナの壁:『わたし』との関係とは?」が昭和女子大学でオンラインと対面のハイブリッド方式で開催されました。1月9日に開催されたSGRAカフェに続き、パレスチナ問題を取り上げたイベントは2回目です。ロシアによるウクライナ侵攻に続いて、イスラエルとパレスチナの衝突は長年保たれてきた世界平和を破壊する重大な出来事と見なされがちですが、私は「第二次世界大戦後の世界は平和である」というイメージ自体が誤りだと思います。パレスチナの住民を含む多くの人々が、常に戦争のリスクを抱えて不安の中で生活しています。
東アジアでも、冷戦によって台湾海峡や38度線を境とした緊張が消えることは一度もありませんでした。それにもかかわらず、第二次世界大戦や冷戦後、衝突の可能性が無視されるほど世界が平和であるというイメージは皮肉なほど強く存在します。「世界平和」というイメージが作り上げられてきたことを示しているのでしょう。このイメージは「衝突」や「戦争」を特定の地域や民族に結びつけ、「文明的かつ先進的で、民主的な」社会とは無縁なものとして描かれることで作られています。今回のフォーラムはまさにこのような文脈の中で、パレスチナで起きている問題は、「わたし」たちから遠く離れた「平和な民主世界」の外部にあるのではなく、常に「わたし」たちと関連していると訴えました。
フォーラムは、3つの報告と質疑応答で構成されました。明治大学特任講師のハディ・ハーニ氏が、パレスチナ問題を理解するための基礎知識を紹介。特にパレスチナ問題を取り上げる際には「誰がテロリストか」という問いかけがしばしば提起されるが、これがパレスチナで実際に起きている人権侵害や戦争暴力から議論の焦点をずらしてしまい、効果的でないと主張しました。
東京工業大学大学院生のウィアム・ヌマン氏は、ヨルダン川西岸やガザの植民地建築を事例に挙げ、建築がいかに政治的道具として抑圧や排除を強化するものになるかを論じました。公共空間は決して政治から離れたものではなく、排除や抑圧を強化する危険を常に抱えています。「わたし」たちと関連している例として、2021年の東京オリンピックを契機に渋谷区などで起きた街の高級化(gentrification)が、それまでの住人を排除することになり、ガザでの都市構造と同じ効果をもたらしていると解説しました。
最後に早稲田大学学部生の溝川貴己氏が、東京におけるパレスチナ解放運動の当事者として、東京での活動がどんなグループや運動と交差しているかを紹介しました。東京での活動が現地の多くの団体と実際に交差している様子は、フォーラムのテーマである「『わたし』との関係とは」を実例で示してくれました。
質疑応答では、発表者の3人が現場とオンラインからの質問に答えました。具体的には「パレスチナ(テロリスト)VSイスラエル(民主社会)」という二項対立の取り扱いや、日本人(特に大学生)がどのようにこれらの活動に関わるべきかというテーマが取り上げられました。
「テロリストVS民主社会」という二項対立について、発表者たちはパレスチナで起きている戦争暴力は単なる政治問題ではなく、正義の問題であるとの合意に達しました。特にヌマン氏は、正義の問題を政治問題として討論のテーマとすることに注意を喚起しました。言い換えれば、ヌマン氏は人権などの基本的な倫理的問題は、議論の余地がないものであるべきだと主張しました。
次に、日本の人々、特に大学生が政治的関心を失いつつある現状において、いかに多くの人々に運動に参加してもらうかという問題について、溝川氏は自身の経験を踏まえて、諦めずに活動を続けることの重要性を強調しました。政治的活動に頻繁に参加すると、「意識が高い」といったスティグマ(偏見や差別)を受ける危険があるものの、周囲に「意識が高い」人がいないと問題提起が困難になるため、継続的な参加が重要であると主張しました。
フォーラム後、パレスチナ活動家のアイダさんが手作りのパレスチナ料理を提供し、皆で一緒に食事しながら、さらに交流を深めました。
私は性的マイノリティを対象としたフェミニズム・クィア研究を専攻しており、フォーラムでも多くの感銘を受けました。この研究では「わたし(主体・主語)」というものがその理論を支える重要なツールです。この報告でもあえて自分の存在を消すことなく、「私は」から始まる文を書きました。その意味で、今回のテーマ「『わたし』との関係」も自明なものです。実際、クィア研究者のジュディス・バトラーも『戦争の枠組み』という本の中で、メディアがいかに「戦争/衝突」を文明社会の外部にあるものとして構築しながらも、テレビ画面を通してそれを視聴している人々に無限に近づけているかについて論じています。
さらに、イスラーム文化が同性愛を嫌悪するホモフォビックであるため、LGBTの権利を支持する民主国家がそれらの国に対して戦争を起こしても「正義」の一種であるという政治に対する批判もクィア・スタディーズの重要な柱の一つです。その意味で、溝川氏が報告したパレスチナ解放運動とクィア運動の連帯も不思議なものではありません。クィア運動は長年「人権」などの名義で行われてきましたが、それは近年強い揺り戻しを受けています。というのも、LGBTの人権を保護することが生まれ持った性別と性の認識が一致するシスジェンダー・異性愛者の人権を侵害するという議論が多く提起されるようになったからです。しかし、それは実際にはパレスチナ問題のように討論のテーマに扱われるべき「政治問題」ではなく、議論の余地がない「正義(Justice)」の問題であるという姿勢が重要なのではないかと思いました。
最後に、「壁」というメタファーについてお話しします。フォーラムではパレスチナ問題を議論する「壁」を、タブーと言論の自由への抑圧および物理的な分離の壁の象徴として扱っていますが、私はそれが実はさらに豊富な意味と政治性を秘めていると思います。「壁」の辺境という意味と「皮膚」との類似性を強調したいです。「壁」も「皮膚」も外部と内部を分離する機能および、外部から内部を守る機能の両方を備えています。そして両方ともある「主体(身体)」の辺境を示すものです。それはもちろん拒否や保護の姿勢を含みますが、接触、とりわけ接触することによる快楽(性的なものも含む)、あるいは包まれる安心感が存在する場所にもなります。壁/皮膚が存在することとは、痛みと快楽が同時に存在することを意味しています。これまでパレスチナ問題に対して議論できない、わからない「壁」を感じているということは、心の中のその壁に向き合えば、まさにその壁から接触/連帯が生じうる可能性があることを意味しています。
当日の写真
アンケート集計
<郭立夫(グオ・リフ)Guo Lifu>
2012年から北京LGBTセンターや北京クィア映画祭などの活動に参加し、2024年東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻で博士号を取得し、現在筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局助教。専門領域はフェミニズム・クィアスタディーズ、地域研究。
研究論文に、「中国における包括的性教育の推進と反動:『珍愛生命:小学生性健康教育読本』を事例に」小浜正子、板橋暁子編『東アジアの家族とセクシュアリティ:規範と逸脱』(2022年)や「終わるエイズ、健康な中国:China AIDS Walkを事例に中国におけるゲイ・エイズ運動を再考する」『女性学』vol.28, 12-33(2020 年)など。
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2024.08.22
2024年8月9日(金)~13日(火)、バンコク市の中心に位置するチュラーロンコーン大学にて、21ヵ国から346名の登録参加者を得て、第7回アジア未来会議が開催されました。総合テーマは「再生と再会(Revitalization and Reconnection)」。「100年に一度とも言われるパンデミック後のアジア、地球社会は変化の時代に入った。社会、経済、文化、教育など多方面における大きな変化に対して私たちはどのように向き合い、乗り越えて行けばよいのだろうか。国際的・学際的な若い研究者たちが集い、共に語る、この「再会」の場が新しいアジア、地球社会の未来を「再生」させる源ともなることを期待しつつ、課題解決の糸口を模索すること」を目標に、基調講演とオープンフォーラム、円卓会議、そして数多くの研究論文発表が行われ、広範な領域における課題に取り組む国際的かつ学際的な議論が繰り広げられました。
10日(土)午前9時、同大学文学部の教室で、渥美フェローが企画実施を担当する8つの円卓会議が始まりました。
1) 日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性「東アジアの『国史』と東南アジア」(日中韓同時通訳)
2) チュラーロンコーン大学日本語講座セッション「タイにおける日本研究の現状と展望」(日本語)
3) Exploring the Impact of Generative AI on Education and Research(英語)
4) Asian Cultural Dialogues “The Limits and Possibilities of Freedom” (英語)
5) Animal Release Problems in Asia: Harm caused by introduction of animals into natural environments, with special reference to fish(英語)
6) ASEAN Centrality in Turbulent East Asia(英語)
7) INAFセッション「東アジア地域協力における朝鮮半島の統一と開発協力」(日本語)
8) モンゴルと中央アジアにおける文化と資源の越境(日本語)
午後3時30分からクラウンプラザホテルで開会式が行われました。最初に明石康大会会長の開会宣言があり、同大学文学部スラディート・チョティウドムパン学部長から歓迎挨拶、在タイ日本大使の大鷹正人様と在タイ韓国大使の朴容民様からご祝辞をいただきました。引き続き、渥美直紀・渥美国際交流財団理事長より共催、協賛、参会のお礼と基調講演の講師紹介がありました。
基調講演では、社会起業家でありバンコクで最年少の副知事であるサノン・ワンスランブーン氏が多くのスライドを使って「バンコクと私たちの未来」について熱く語ってくださいました。官僚組織の簡素化、デジタル化を推進しながらも「人々が中心」「動脈から毛細血管へ」と次々に魅力的な改革を紹介して400人の聴衆を魅了しました。
引き続き開催されたオープンフォーラム「アジアの巨大都市と未来への挑戦」では、建築・都市開発の専門家によって、巨大都市(メガシティー)の全体像とバンコク、マニラ、そしてインドネシアの都市マカッサルの現状と未来への挑戦についての報告がありました。
その後、会場でウェルカムパーティーが開催され、参加者はタイ料理と民族音楽、人形劇を楽しみました。
第7回アジア未来会議のプログラム
11日(日)午前9時から、同大学の会場で53セッションの分科会が行われ、198本の論文発表が行われました。アジア未来会議は国際的かつ学際的なアプローチを目指しており、各セッションは発表者が投稿時に選んだ「平和」「環境」「イノベーション」などのトピックに基づいてグループ化され、学術学会とは趣を異にした多角的で活発な議論が展開されました。
セッションごとに2名の座長の推薦により優秀発表賞が選ばれました。
優秀発表賞の受賞者リスト
優秀論文は学術委員会によって事前に選考されました。2023年9月20日までに発表要旨、3月31日までにフルペーパーがオンライン投稿された94本の論文を10グループに分け、延べ42名の審査員が査読しました。ひとつのグループを6名の審査員が、 (1)論文が会議のテーマ「再生と再会」と適合しているか、(2)分かりやすく構成され、理解しやすいか、(3)論点が明確に提示され説得力があるか、(4)課題への取り組み方に創造性があるか、(5)国際性があるか、(6)学際性があるか、という指針に基づいて審査し、各審査員は、各グループ9~10本の論文から2本を推薦し、集計の結果、上位21本を優秀論文と決定しました。
優秀論文リスト
クロージングパーティーは、午後6時30分からマンダリンホテルで開催されました。2013年にバンコクで開かれた第1回アジア未来会議のクロージングパーティーでも司会を務めた渥美フェロー2名の司会で進められ、優秀賞の授賞式が行われました。今回の受賞者21名だけでなく、コロナ禍のために対面で開催できなかった第6回の受賞者も含めて優秀論文の著者40名が登壇し、明石大会会長から賞状が手渡されました。続いて、優秀発表賞52名が表彰されました。
最後に第8回アジア未来会議の開催場所が発表され、ホストである東北学院大学(仙台市)の大西晴樹学長による招待のスピーチとビデオによる大学案内がありました。
12日(月)、参加者はそれぞれ、アユタヤ観光ツアー、寺院と王宮ツアー、水上マーケットそしてタイ料理教室等に参加しました。
第7回アジア未来会議「再生と再会」は、(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)主催、チュラーロンコーン大学文学部東洋言語学科日本語講座の共催、在タイ日本大使館、国際交流基金の後援、(公財)高橋産業経済研究財団と(一社)東京倶楽部からの助成、日本と在タイ日系企業からのご協賛をいただきました。同大学日本語講座では実行委員会を組織し、当日はたくさんの学生さんにお手伝いいただきました。また、タイ鹿島の皆さんにはタイ日系企業への募金とVIPサポートをしていただきました。
主催・協力・賛助者リスト
運営にあたっては、渥美フェローを中心に実行委員会、学術委員会が組織され、フォーラムの企画からホームページの維持管理、優秀賞の選考、撮影まであらゆる業務を担当しました。特にタイ出身の渥美フェローが企画の最初から最後まで大活躍でした。
400名の参加者の皆さん、開催のためにご支援くださった皆さん、さまざまな面でボランティアとしてご協力くださった皆さんのおかげで、第7回アジア未来会議を和やかかつ賑やかに、成功裡に実施することができましたことを、心より感謝申し上げます。
アジア未来会議は国際的かつ学際的なアプローチを基本として、グローバル化に伴う様々な問題を科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化など、社会のあらゆる次元において多面的に検討する場を提供することを目指しています。SGRA会員だけでなく、日本に留学し現在世界各地の大学等で教鞭をとっている研究者、その学生、そして日本に興味のある若手・中堅の研究者が一堂に集まり、知識・情報・意見・文化等の交流・発表の場を提供するために、趣旨に賛同してくださる諸機関のご支援とご協力を得て開催するものです。
第8回アジア未来会議「空間と距離:こえる、縮める、つくる」は、2026年8月25日(火)から29日(土)まで、東北学院大学と共催で仙台市で開催します。皆様のご支援、ご協力、そして何よりもご参加をお待ちしています。
第7回アジア未来会議の写真(ハイライト)
第7回アジア未来会議のフィードバック集計
第7回アジア未来会議報告(写真入り)日本語
The 7th Asia Future Conference Report (English)
第8回アジア未来会議(日本、仙台市)案内
(文責:SGRA代表・アジア未来会議実行委員長 今西淳子)
2024年8月22日配信
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2024.06.13
SGRAレポート第107号(日中合冊)
第17回SGRAチャイナ・フォーラム
「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」
2024年6月13日発行
<フォーラムの趣旨>
今回は視野を東南アジアに広げた。日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)を講師に迎え、いまだ東北アジア地域では紹介されることが少ない東南アジアにおける近代美術誕生の多様な様相について学んだ。東南アジアの初期近代美術運動を通じて東北アジアとの関係や相互の影響について考えた。
<もくじ>
【挨拶】 野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター)
【講演】 東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生
後小路雅弘(北九州市立美術館館長/九州大学名誉教授)
【指定討論1】 熊 燃(北京大学外国語学院)
【指定討論2】 堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール)
【 指定討論への回答】 後小路雅弘(北九州市立美術館館長/九州大学名誉教授)
【自由討論】 モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/ SGRA /清華東亜文化講座)
【閉会挨拶】 趙 京華(清華東亜文化講座/北京第二外国語学院)
講師略歴
あとがきにかえて ─孫 建軍(北京大学日本言語文化学部/ SGRA)
〇同時通訳(日本語⇔中国語):丁 莉(北京大学)、宋 剛(北京外国語大学/ SGRA)
※所属・肩書は本フォーラム開催時のもの
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2024.06.05
下記の通り第9回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性を開催いたします。参加ご希望の方は、必ず事前に参加登録をお願いします。オンラインで参加の場合は、一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。
テーマ:「東アジアの『国史』と東南アジア」
日 時:2024年 8 月 10 日(土)9:00~12:30(タイ時間)11:00~14:30(日本時間)
8 月 11日(日)9:00~15:30(タイ時間)11:00~17:30(日本時間)
会 場: チュラーロンコーン大学(タイ国バンコク市)及びオンライン(Zoomウェビナー)
言 語:日中韓3言語同時通訳付き
主催: 日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性実行委員会
共催: 渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
助成:東京倶楽部
※参加申込(クリックして登録してください)(参加費:無料)
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■開催趣旨
「国史たちの対話」企画は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、三国間に存在する歴史認識問題の克服に知恵を提供することを目的に対話を重ねてきた。第 1 回で日中韓各国の国史研究と歴史教育の状況を確認することからスタートし、その後 13 世紀から時代を下りながらテーマを設け、対話を深めてきた。新型コロナ下でもオンラインでの対話を実施し、その特性を考慮して、歴史学を取り巻くタイムリーなテーマを取り上げてきた。
昨年は対面型での再開が可能となったことを受け、「国史たちの対話」企画当時から構想されていた、20 世紀の戦争と植民地支配をめぐる国民の歴史認識をテーマに掲げた。多様な切り口から豊かな対話がなされ、「国史たちの対話」企画の目標の一つが達成された。今後はこれまでの対話で培った日中韓の国史研究者のネットワークをいかに発展させていくか、またそのためにどのような方針で対話を継続していくかが課題となるだろう。
こうした新たな段階を迎えて、第 9 回となる今回は、開催地にちなみ、「東南アジア」と各国の国史の関係をテーマとして掲げた。日本・中国・韓国における国史研究は、過去から現在に至るまで、なぜ、どのように、東南アジアに注目してきたのだろうか。過去の様々な段階で、様々な政治、経済、文化における交流や「進出」があった。それらは政府間の関係であったり、それにとどまらない人やモノの移動であったりもした。こうした諸関係や、それらへの関心のあり方は、各国ではかなり事情が異なってきた。こうした直接・間接の関係の解明に加え、比較的条件の近い事例として、自国の歩みとの比較も行われてきた。そもそも「東南アジア」という枠組み自体も、国民国家や「東アジア」といった枠組みと同様、世界の激動のなかで生み出されたものであり、歴史学の考察対象となってきた。
本シンポジウムでは、各国の気鋭の論者により、過去の研究動向と最先端の成果が紹介される。これらの研究は、どのような社会的・歴史的な背景のもとで進められてきたのか。こうした手法・視座を用いることで、自国史にいかなる影響があり、また今後はどのような展望が描かれるのか。議論と対話を通じて3カ国の国史の対話を、より多元的な文脈のうちに位置づけ、さらに開いたものとし、発展の方向性をも考える機会としたい。
■プログラム
8月10日(土)9:00~12:30(タイ時間)、11:00~14:30(日本時間)
【第1セッション(9:00-10:30) 司会:劉傑(早稲田大学)】
開会挨拶:三谷 博(東京大学名誉教授)
基調講演:楊 奎松(北京大学・華東師範大学)
ポストコロニアル時代における「ナショナリズム」衝突の原因
―毛沢東時代の領土紛争に関する戦略の変化を手掛かりに
【第2セッション(11:00-12:30) 司会:南基正(ソウル大学)】
発表:
タンシンマンコン・パッタジット(東京大学)
「竹の外交論」における大国関係と小国意識
吉田ますみ(三井文庫)
日本近代史と東南アジア―1930年代の評価をめぐって―
尹 大栄(ソウル大学)
韓国における東南アジア史研究
高 艷傑(厦門大学)
華僑問題と外交:1959年のインドネシア華人排斥に対する中国政府の対応
8月11日(日)9:00~15:30(タイ時間)、11:00~17:30(日本時間)
【第3セッション(9:00-10:30) 司会:彭浩(大阪公立大学)】
指定討論と自由討論
討論者:
【韓国】鄭 栽賢(木浦大学)、韓 成敏(高麗大学)
【日本】佐藤雄基(立教大学)、平山 昇(神奈川大学)
【中国】鄭 潔西(温州大学)、鄭 成(兵庫県立大学)
【第4セッション(11:00-12:30) 司会:鄭淳一(高麗大学)】
自由討論
討論まとめ:劉傑(早稲田大学)
【第5セッション(14:00-15:30) 司会:塩出浩之(京都大学)】
国史対話のこれから
閉会挨拶:宋 志勇
※同時通訳
日本語⇔中国語:丁 莉(北京大学)、宋 剛(北京外国語大学)
日本語⇔韓国語:李 ヘリ(韓国外国語大学)、安 ヨンヒ(韓国外国語大学)
中国語⇔韓国語:金 丹実(フリーランス)、朴 賢(京都大学)
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
・プロジェクト概要
中国語版ウェブサイト
韓国語版ウェブサイト
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2024.05.30
木々の青葉が美しく、吹く風も爽やかな2024年5月18日(土)の午後、ソウル大学国際大学院の会議室に日韓両国の研究者50名以上が集い、オンラインも組み合わせた第22回日韓アジア未来フォーラム「ジェットコースターの日韓関係-何が正常で何が蜃気楼なのか」が開催された。
2023年3月の徴用工問題の第三者支援解決法を契機に、7回にわたる首脳会談を経て日韓関係は一挙に正常化軌道に乗った。この1年間の成果と課題、日韓協力の望ましい方向について、政治・安保、経済・通商、社会・文化の3分野から検討した。
最初に未来人力研究院(未来財団)の李鎮奎(イ・ジンギュ)理事長から「渥美財団と未来財団は日韓両国がジェットコースターのようなアップ・ダウンの関係にある時も、ずっと友好関係を深めており、平坦な道を走るローラースケートのようである。両財団が30周年を迎えるが、この先40周年、50周年と手を携えて共同事業を続けて行けることを祈っている」とあいさつした。
ソウル大学日本研究所の南基正(ナム・キジョン)所長は「長崎県・対馬に行く船に乗った時に『日韓関係』を感じた。外の景色を見たくて窓際に座ったら波が荒くてひどく船酔いをしたが、真ん中で均衡を取りながら座った人は平気な顔をしていた。もうろうとする中で陸地に見えた蜃気楼は高い波だった。その時、早く陸に上がりたいなどと考えず、諦めも大事だと感じた。和解は単独で存在するものではない。日韓関係は複雑で難しく『あなたが思っていることが全てではない』ことを考える機会にしたい」と話した。
第1部「日韓関係の復元、その一年の評価と課題」では、まず、西野純也・慶應義塾大学教授が政治・安保分野の成果として、尹大統領と岸田首相による両国が協力パートナーであることの再確認、指導者間の信頼関係の構築、政府間の対話・協議チャンネルの復元と新設、政治家同士のネットワーク活性化などを挙げ、課題として、協力パートナーとしての国民的理解やコンセンサスの醸成、それに資する制度的措置の実施として欧州連合(EU)の歴史経験、国内政治からの悪影響の管理・低減、相互の政策・戦略への理解などを挙げ、残りの任期3年に尹政権が国民の支持をどう得ることができるかが重要であると述べた。
次に李昌ミン(イ・チャンミン)韓国外国語大学教授が、日本が方針表明後4カ月という短期間で韓国を安全保障上問題がない国として輸出手続きを簡略化する「グループA(旧ホワイト国)」へ再指定したことは、これまでの日本の行政手続きではなかったことと評価。2023年を起点に日韓関係は新たなステージに入った。経済安保は「大きな政府の時代」の到来を意味するが、日韓ともに企業のモチベーションやインセンティブを考慮しないと政策的連帯が滞る可能性があり、総選挙後の韓国の「与小野大」の状況、日本のリーダーシップの状況、米大統領選でのトランプ氏の帰還の可能性などを総合的に考慮した協力のシナリオが必要と展望した。
最後に小針進・静岡県立大学教授が、この5年間の音楽動向をまとめた「オリコンランキング」で韓国のBTSが日本で一番売れたこと、日本の輸入化粧品第1位は韓国であり、日本の女性がファッションの参考にしている国も韓国が1位であると指摘した上で、社会・文化の全ての動向がこの1年間で「復元」した訳ではないが、政治・外交関係の「復元」が日韓間の人の往来を増幅し、人的交流や文化交流にプラスに作用したことは間違いないと評価。良好な関係維持に新しい日韓共同宣言は必要なのか、新しいビジョン(ジェンダー、少子高齢化、環境、災害、国際協力、対北朝鮮・・・)とは何か、そもそも宣言を発出できる政治環境なのかと問いかけた。
3人の発表に対して3人の討論者からのコメントがあった。金崇培(キム・スンべ)釜慶大学准教授は、西野教授の報告(関係修復に向けた動き、1年の成果、課題)に対してひとつひとつ丁寧に論評した。安倍誠・アジア経済研究所上席主任調査研究員は、李教授の「2023年に日韓関係が新たなステージに入る中で、新たに協力と競争の重層的関係を構築する空間が広がるだろうが、日韓協力のあり方を議論する際には政治状況を考慮する必要がある」という主張に同意し、補足的なコメントを行った。鄭美愛(ジョン・ミエ)ソウル大学日本研究所客員研究員は、小針教授の観点については全面的に共感するが、討論を引き受けた立場でと前置きした上、「宣言を発出できる政治環境」について質問した。
休憩の後の第2部「日韓協力の未来ビジョンと協力方向」ではパネル討論が行われた。国民大学の崔喜植(チェ・ヒシク)先生、ソウル大学の李政桓(イ・ジョンファン)先生、ソウル大学日本研究所の鄭知喜(チョン・チヒ)先生、東北アジア歴史財団の趙胤修(チョ・ユンス)先生、西野教授、小針教授、安倍研究員の7名が順次発言した。小針教授の「日韓それぞれが相手国をどう見ているのかという面で不安になった。今後、政権が変わったらどうなるのか?2019年当時、韓国に対する日本の見方は慰安婦、徴用工などを蒸し返す国という認識があった。一方、韓国側の持っている不安も理解できる。日本に対する不満もあると思う。不安と不満はあっても不信を招かないようにするにはどうするかが大事である。メディアには正確な報道をお願いしたい。糾弾する報道は『不信』を招く」とのコメントが印象的だった。
閉会にあたり、渥美国際交流財団の今西淳子常務理事が「今回のフォーラムは未来人力研究院だけでなく、韓国の現代日本学会、ソウル大学日本研究所との共同主催ということで、韓国で開催した日韓アジア未来フォーラムでは最大規模となった。渥美財団は日本の大学院で博士論文を執筆中の若手研究者を支援する奨学財団で、現代日本学会の金雄熙会長、ソウル大学日本研究所の南基正所長は1996年度に支援させていただいたご縁で、その後30年間途切れることなく交流を続けている。こういうことは滅多になく、本日は本当に奨学財団冥利に尽きると感じている」と感謝を述べた。
最後に日韓アジア未来フォーラム存続の立役者の金雄熙仁荷大学教授が「日韓関係は激しく上へ行ったり下へ行ったりジェットコースターのようだ。一定の動力があればジェットコースターは軌道から脱線しない。日韓関係にはその動力が働くだけに『山あり谷あり』を楽しめるようになりたい」と挨拶した。
フォーラム終了後、参加者はソウル大学の近くの学生街でサムギョプサルと「爆弾酒」を楽しんだ。
当日の写真
<原田健(はらだ・けん)HARADA Ken>
渥美国際交流財団事務局長。鹿島建設(株)、(一社)日本建設業連合会を経て、2023年より渥美財団で勤務。
2024年6月30日配信
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2024.05.21
下記の通り第73回SGRAフォーラムを会場及びオンラインのハイブリット方式開催いたします。参加をご希望の方は、会場、オンラインの参加方法に関わらず事前に参加登録をお願いします。
テーマ:「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」
日 時: 2024年6月25日(火)17:30~19:00(その後、懇親会を開催します*)
方 法: 会場及びZoomウェビナー
会 場:昭和女子大学学園本部館3F中会議室(アクセスについてはこちらをご覧ください。)
言 語: 日本語・英語(同時通訳**)
申 込: こちらよりお申し込みください
* フォーラム後、パレスチナ料理の懇親会にもぜひご参加ください!(参加費無料)
** 同時通訳はZoomで行うため、会場にて同時通訳を利用する方は、端末(スマートフォン、ノートパソコン等)およびイヤホンをご持参ください。
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected])
■ フォーラムの趣旨
パレスチナ問題は「複雑すぎる」と言われます。しかし、客観的な事実や人道的な観点から考えると、この問題はすべての人に関わっています。フォーラムでは専門家、パレスチナ出身者、パレスチナ支持の活動を行っている学生の声を取り上げ、なぜこの問題が全ての人にとって重要なのか、そしてその問題を取り上げようとするときに直面する壁について話し合います。
「壁」という言葉には複数の意味が込められています。一つは、パレスチナ問題について公然と話すことを阻む見えない壁であり、タブーと言論の自由への抑圧を象徴しています。もう一つは、パレスチナ領土での継続的なアパルトヘイト(人種隔離)と植民地化の結果として存在する物理的な分離の壁です。世界中での学生の抗議活動は、これらの見えない壁を取り壊す試みであり、パレスチナ問題に対する公開討論を促進する力となっています。これはパレスチナ問題に対する新たな視点を提供すると同時に、世代間の意識の違いとその変化を示唆しています。
フォーラムを通じて、参加者がパレスチナ問題に対する多面的な理解を深め、グローバルおよびローカル、マクロとミクロな視点からのアプローチを考察する機会になると期待しています。
■ プログラム
17:30
開始(司会:シェッダーディ・アキル、慶応大学訪問講師)
挨拶(今西淳子、渥美財団SGRA代表)
17:35
発表① ハディ ハーニ(明治大学特任講師)
「パレスチナ問題の基礎知識:改めて、歴史と政治的構図の要点を抑える」(日本語)
18:05
発表② ウィアム・ヌマン(東京工業大学大学院生)
「建築の支配:植民地主義の武器としての建造環境」(英語)
18:20
発表③ 溝川貴己(早稲田大学学部生)
「立ち上がる学生、クィア、環境活動家たち:2023年10月以降の東京のパレスチナ解放運動」(日本語)
18:35
質疑応答・ディスカッション(日本語・英語)
モデレーター:徳永佳晃(日本学術振興会特別研究員PD 日本大学)
オンラインQ&A担当:郭立夫(筑波大学助教)
19:00
閉会・懇親会開始
【発表概要】
発表① 「パレスチナ問題の基礎知識:改めて、歴史と政治的構図の要点を抑える」
(ハディ ハーニ、明治大学特任講師)
現在、世界中でパレスチナ人と連帯する運動が巻き起こっており、日本社会にも多くの参加者がいます。ただし「停戦」のみならず、その先に正義を実現するためには、構造的かつ本質的な変化へとつながる長期的な視野を持つことも重要です。そのために第一に重要なことは、シンパシーだけではなく、知識と論理に裏打ちされた正しさに則って行動することだと考えられます。このため今回のイベントでは、最新情勢や新事実の解説というよりは、パレスチナ問題の長く複雑な歴史や、現状の政治的構図を理解するうえで重要かつ基本的なポイントを解説し、全ての人が共有すべき基礎を確認することを目的としています。
発表② 「建築の支配:植民主義の武器としての建造環境」
(ウィアム・ヌマン、東京工業大学大学院生)
建築は政治を具現する。設計者の世界観を表すものであると同時に、政治的コントロールのための装置として使われることもある。このことは、ヨルダン川西岸やガザの植民地建築にはっきりと表れているが、東京や世界中のパレスチナ支援デモの場所として選ばれている公共空間にも、目に見えない形で表れている。本発表では、パレスチナ人に対する日常的な抑圧と統制に寄与している建築装置と、世界中の公共空間におけるそれに匹敵する、しかし控えめな建築的統制装置との類似性を描き出そうと試みる。
発表③ 「立ち上がる学生、クィア、環境活動家たち:2023年10月以降の東京のパレスチナ解放運動」
(溝川貴己、早稲田大学学部生)
2023年10月以降、在日パレスチナ人だけでなく、学生、クィアコミュニティ、環境活動家といった様々な人々のコミュニティが、即時停戦とパレスチナ解放を訴えて、デモやイベントを行っていた。ここでは、この人々がパレスチナ/イスラエルにどのように向き合い、この7か月間どのような試みを行ってきたか、東京での事例を紹介する。
※プログラムの詳細は、下記リンクからご参照ください。
SGRAForum73Program
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2024.04.26
2023年11月25日(土)北京時間午後3時(日本時間午後4時)より第17回SGRAチャイナフォーラム「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」が開催された。コロナが収束して4年ぶりに対面形式で行う予定だったが、スケジュールを決める9月の時点で2012年秋の事態を思わせる空気が漂い始め、オンライン方式を続けることに決めた。
テーマの通り、今回は美術史の返り咲きとなった。しかもこれまで焦点が置かれていた「東アジア」から初めて「東南アジア」に視点を向けたため、事前の準備はこれまでと異なり、チャイナフォーラムの歴史の中でかつてない国際的な展開となっていた。講師は北九州市立美術館館長の後小路雅弘先生、指定討論者は北京大学東南アジア学科准教授の熊燃先生、ナショナル・ギャラリー・シンガポール学芸員でコレクション部門ディレクターの堀川理沙先生のお二方をお迎えした。東京、北九州、北京、シンガポール、マカオと事前準備の連絡は広範囲にわたった。日本語だけでなく、英語によるメールの連絡もこれまでにないレベルで、渥美財団のスタッフ一同の国際色の高さに脱帽した。
例年通り、開催にあたり、主催者側から今西淳子・渥美財団常務理事、後援の野田昭彦・北京日本文化センター所長より冒頭の挨拶があった。野田所長の挨拶は前年同様にテーマに沿った問題提起があり、フォーラムのウォーミングアップともなった。
日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生の講演は、ご自身の東南アジアの実体験から始まった。東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは1930年代に見られると指摘した。地域や国同士の相互の連動は見られなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性から、ほぼ同じ時期に見られるようになったと、数多くの絵画の紹介を通じて語った。そして19世紀末から20世紀前半にわたって、東南アジアの近代美術運動を担うパイオニアたちが直面する課題、目指す目標、各国における共通性や相違を読み解いた。
自由討論はモデレーターの名手、澳門大学の林少陽先生によって進められた。美術作品を通して、その背後にあるより微妙で生き生きとした植民地支配に対する抵抗や民族解放を求める東南アジアの歴史の詳細を見ることができるという熊燃先生のご見解や、後小路先生のご研究の原点は東南アジアだけでなく、東アジア全体にあるのではないかという堀川理沙先生のご指摘が印象的だった。その後、会場およびオンライン参加者の質問に対し、後小路先生が丁寧に回答した。
最後に清華東亜文化講座を代表して、北京第二外国語大学趙京華先生より閉会の挨拶があった。趙先生は後小路先生のご講演により、美術史を専門としない人も美術界の新たな風潮を通じて、東南アジアの20世紀の複雑な歴史的プロセス、そして民族、言語、宗教、文化の多様性について初歩的な理解を得ることができたと指摘した上で、「どのような覇権も、世界を統一することも、差異を排除することもできない。私たちは各民族国家の多様性を尊重することでしか、文明の相互理解と平和共存の理想を実現することができない」と強く訴えた。
東京会場、北京会場、そしてオンライン参加を含め、合わせて150名の参加を得た。参加者からは「東南アジアにおける近代美術が生まれた背景や、その代表的な人物に関する基本知識を得ることができた。今後もこの研究領域に関するフォーラムを開催してほしい」などの感想が寄せられた。
フォーラム開催当日は趙先生の誕生日で、北京会場でささやかなお祝いをした。4年ぶりの会食も実現した。そして次回の第18回も引き続き後小路先生に依頼し、対面形式で北京で行うことが早々に決まった。
かつてのおなじみのチャイナフォーラムが確実に戻ってくる。
当日の写真
アンケート集計結果
<孫建軍(そん・けんぐん)SUN Jianjun>
1990年北京国際関係学院卒業、1993年北京日本学研究センター修士課程修了、2003年国際基督教大学にてPh.D.取得。北京語言大学講師、国際日本文化研究センター講師を経て、北京大学外国語学院日本言語文化系副教授。専攻は近代日中語彙交流史。著書『近代日本語の起源―幕末明治初期につくられた新漢語』(早稲田大学出版部)。
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2024.04.19
SGRAレポート第106日本語版 中国語版 韓国語版
第72回SGRAフォーラム講演録
第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性
「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか
─教育・メディア・研究─」
2024年4月12日発行
<フォーラムの趣旨>
2016 年から始まった「国史たちの対話」の目的は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、3カ国間に横たわっている歴史認識問題の克服に知恵を提供することである。
東アジア歴史問題の起因は、20 世紀の戦争と植民地支配をめぐる認識の違いと指摘されることが多い。しかし、公表された日韓、日中の歴史共同研究の報告書が示しているように、個別の歴史事実の解釈をめぐる違いはあるものの、20 世紀東アジア歴史の大筋についての認識には大きな齟齬は存在しない。それでも東アジアの国際関係がしばしば歴史問題で紛糾している理由の一つに、相手の「歴史認識」への認識が不十分ということを挙げることができる。
戦後の東アジアは冷戦、和解、日本主導の経済協力、中国の台頭など複数の局面と複雑な変動を経験した。各国は各自の政治、社会的環境のなかで、自国史のコンテクストに基づいて歴史観を形成し、国民に広げてきた。戦後各国の歴史観はなかば閉鎖的な歴史環境のなかで形成されたものである。各国の歴史認識の形成過程、内在する論理、政治との関係、国民に広がるプロセスなどについての情報は、東アジアの歴史家に共有されていない。歴史認識をめぐる対立は、このような情報の欠如と深く関わっているのである。
20 世紀の戦争と植民地支配をめぐる国民の歴史認識は、国家の歴史観、家庭教育、学校教育、歴史家の研究と発信、メディア、文化・芸術などが複雑に作用し合いながら形成されたものである。歴史家の研究は国家の歴史観との緊張関係を保ちながらも、学校教育に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。今回の対話のテーマの一つは、歴史家が戦後どのように歴史を研究してきたのか、である。戦後東アジア各国では激しい政治変動が発生し、歴史家の歴史研究と歴史認識も激しく揺れ動いた。歴史家の研究と発信の軌跡を跡づけることは、各国の歴史認識の形成過程を確認する有効な手段であろう。
映画・テレビなどのメディアも国民の歴史認識の形成に重要な役割を担っている。戦後、各国は各自の歴史観に立って、戦争と植民地に関係する作品を多数創作した。このような作品が国民の歴史認識に与えた影響は無視できない。また、メディア交流が展開されるなかで、多数の映画やテレビドラマが共同で制作された。国民同士はこれらの作品を鑑賞することで、間接的に歴史対話を行ってきた。各国の文化、社会環境が歴史認識にどう影響したのか、確認したい問題の一つである。
歴史認識をめぐる国家間の対立が発生すると、相手の歴史解釈と歴史認識の問題点を指摘することが多い。しかし、自国内に発生した政治、社会変動に誘発される歴史認識の対立の方がむしろ多い。相手の歴史認識を認識する過程は、自分の歴史認識を問い直す機会でもあろう。このような観点から、第8回の国史対話は、今までの対話をさらに深めることを目指した。
<もくじ>
第1セッション [司会:村 和明(東京大学)]
【開会挨拶】 劉 傑(早稲田大学)
【趣旨説明】 三谷 博(東京大学名誉教授)
第2 セッション サブテーマ:教育 [司会:南 基正(ソウル大学)]
【発表1(韓国)】
解放後における韓国人知識人層の脱植民地議論と歴史叙事構成の変化
金 泰雄(ソウル大学)
【発表2(中国)】
歴史をめぐる記憶の戦争と著述の倫理—20 世紀半ばの中国に関する「歴史の戦い」—
唐 小兵(華東師範大学)
【発表3(日本)】
日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか—教科書と教育現場から考える—
塩出浩之(京都大学)
【討論・質疑応答】
パネリスト同士の討論・参加者との質疑応答
第3セッション サブテーマ:メディア [司会:李 恩民(桜美林大学)]
【発表4(中国)】
保身、愛国と屈服—ある偽満州国の「協力者」の心理状態に対する考察—
江 沛(南開大学)
【発表5(日本)】
戦後日本のメディア文化と「戦争の語り」の変容
福間良明(立命館大学)
【発表6(韓国)】
現代韓国メディアの植民地、戦争経験の形象化とその影響—映画、ドラマを中心に—
李 基勳(延世大学)
【討論・質疑応答】 パネリスト同士の討論・参加者との質疑応答
第4 セッション サブテーマ:研究 [司会:宋 志勇(南開大学)]
【発表7(日本)】
「 わたし」の歴史、「わたしたち」の歴史—色川大吉の「自分史」論を手がかりに—
安岡健一(大阪大学)
【発表8(韓国)】
「発展」を越える、新しい歴史叙述の可能性—韓国における植民地期経済史研究の行方—
梁 知恵(東北亜歴史財団)
【発表9(中国)】
民国期の中国人は「日本軍閥」という概念をどのように認識したか
陳 紅民(浙江大学)
【討論・質疑応答】
パネリスト同士の討論・参加者との質疑応答)
論点整理 劉 傑(早稲田大学)
第5 セッション 指定討論/全体討議 [司会:鄭 淳一(高麗大学)]
議論を始めるに当たって:三谷 博(東京大学名誉教授)
指定討論者(発言順):
金 憲柱(国立ハンバット大学)、袁 慶豊(中国伝媒大学)、吉井文美(国立歴史民俗博物館)、史 博公(中国伝媒大学)
第6セッション 指定討論/全体討議[ 司会:彭 浩(大阪公立大学)]
指定討論者(発言順):
張 暁剛(長春師範大学)、金 澔(ソウル大学)、平山 昇(神奈川大学)
講師略歴
あとがきにかえて
金キョンテ
参加者リスト