SGRAフォーラム

  • 2026.05.29

    レポート第115号「なぜ、戦後80周年を記念するのか?─ポストトランプ時代の東アジアを考える─」

    SGRAレポート第115号(日中合冊)   第77 回SGRAフォーラム 「なぜ、戦後80周年を記念するのか?─ポストトランプ時代の東アジアを考える─」 2026年6月11日発行     <フォーラムの趣旨> 80 年の長きにわたる戦後史のなかで、アジアの国々は1945 年の出来事を各自の歴史認識に基づいて「終戦」「抗戦の勝利」「植民地からの解放」といった表現で語り続けてきた。アジアにおける終戦記念日は、それぞれの国が別々の立場から戦争の歴史を振り返り、戦争と植民地支配がもたらした深い傷と記憶を癒やし、平和を祈願する節目の日であった。一方、この地域の人びとが国境を超えた歴史認識を追い求め、対話を重ねてきたことも特筆すべきである。   2025 年は終戦80 周年を迎える。アメリカにおける政権交替にともなって、アジアをめぐる国際情勢がより複雑さを増している。こうした状況のなか、多様性や文明間の対話を尊重し、相互協力のなかで平和を希求してきた戦後の歴史を本格的に検証する意味は大きい。本フォーラムは日本、中国、韓国、東南アジアの視点から戦後80 年の歳月に光を当て、近隣諸国・地域と日本との和解への道を振り返り、平和を追求するアジアの経験と、今日に残る課題を語り合った。   <もくじ> 総合司会 開催にあたって─李 恩民(桜美林大学) 開会挨拶 今西淳子(渥美国際交流財団、関口グローバル研究会) 歓迎挨拶 鷲津明由(早稲田大学)   【第一部】 基調講演 【講演1】 冷戦、東北アジアの安全保障と中国外交戦略の転換 沈 志華(華東師範大学) 【講演2】 冷戦から冷戦までの間─第2次世界大戦後米中関係の展開と日本─  藤原帰一(順天堂大学、東京大学名誉教授)   【第二部】 オープンフォーラム 【 若手研究者による討論】 【 1】東アジアの地政学的転換と朝鮮半島を考える 権 南希(関西大学) 【 2】 なぜ、戦後80周年を記念するのか ─タイ保守派の陰謀論分析から考える政治的断層線─ ラクスミワタナ モトキ(早稲田大学) 【 3】国 際秩序と知的交流─留学生政策から考える─ 野﨑雅子(早稲田大学) 【 4】 民間の歴史認識・信頼構築・協力と和解への道 李 彦銘(南山大学)   【質疑応答】 モデレーター: 林 泉忠(東京大学) Q&A 担当: 陳 璐(早稲田大学) 発言者: 藤原帰一(順天堂大学、東京大学名誉教授)、沈 志華(華東師範大学)、権 南希(関西大学)、ラクスミワタナ モトキ(早稲田大学)、野﨑雅子(早稲田大学)、李 彦銘(南山大学)   総括・閉会挨拶 劉 傑(早稲田大学) 登壇者略歴 あとがきにかえて 賈 海涛(神奈川大学、一橋大学)
  • 2026.05.07

    第79回SGRAフォーラム 「東アジア文化記憶の再読――響きあう言葉と感性」へのお誘い

    下記の通り第79回SGRAフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加をご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。   テ ー マ:「東アジア文化記憶の再読――響きあう言葉と感性」 日   時:2026年6月27日(土)午後2時~5時 会   場:東京科学大学西9号館ディジタル多目的ホール(Zoomウェビナーとのハイブリット開催) 言   語:日本語・中国語(同時通訳付き) 主   催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共   催:東京科学大学リベラルアーツ研究教育院     参加申込:こちらよりお申込くださいください(リンクをクリックして登録してください) (参加方法に関わらず参加用URLが届きます。会場参加の方は当日会場にお越しください。)     【参加にあたってのお知らせ】 ・同時通訳をご希望の方へ 会場で同時通訳を利用する場合は、Zoomへの接続が必要となります。 必要な方はインターネットに接続できる端末とイヤホンをご持参ください。会場のWi-Fiをご利用いただけます。 ・会場【東京科学大学西9号館ディジタル多目的ホール】 〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1(キャンパスマップ 22番の建物です) ・お問い合わせ SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)     ◆フォーラムの趣旨 社会の不安定化や価値観の揺らぎが進む現代において、人文学はいかなる視点と言葉によって過去と現在を結び直しうるのか。本フォーラムは、「東アジア文化記憶の再読」という主題のもと、近現代の文学・思想・音楽・映像を手がかりに、東アジアにおける文化の越境、思想や表現の受容と変容、記憶の継承と再解釈について考えることを目的とする。   本企画の特色は、民国期の美学思想から現代のポピュラー音楽やテレビドラマにいたるまで、約100年にわたる多様な文化事象を横断的にとらえ、作品や言説に刻まれた歴史意識と文化的位相を読み直そうとする点にある。文学者どうしの響き合い、思想の受容と変容、方言をめぐる葛藤、友情の語り、歌われる記憶、映像を通じた共同体像の形成といった諸問題は、それぞれ異なる位相から、文化記憶が国境や時代を越えていかに受け継がれ、編み直されてきたのかを示している。   基調講演と各発表、さらに討論を通じて、本フォーラムは、東アジアにおける文化記憶とは何か、それが文学・思想・芸術の営みのなかでいかに読み継がれ、捉え直されていくのかを、多角的に考える場としたい。     ◆プログラム 司会: 宋 晗(フェリス女学院大学) 開会の辞    室田 真男(東京科学大学 リベラルアーツ研究教育院)   【基調講演】新美南吉と魯迅そして中国 藤井 省三(東京大学名誉教授)   魯迅(1881~1936)と日本文学との間には、深い影響関係がある。拙著『魯迅と日本文学』(2015年)で論じたように、1902~1909年の日本留学時代から1920年代、五・四新文学期にかけて、魯迅は夏目漱石(1867~1916)、森鷗外(1862~1922)、芥川龍之介(1892~1927)らから大きな影響を受けており、1930年代以後は魯迅が太宰治(1909~1948)、松本清張(1909-92)、村上春樹(1949~)らに深い影響を与えてきた。   そして新美南吉(1913〜1943)は、郷土愛知県知多半島を舞台に温かな童心を描いた児童文学者として日本で広く親しまれてきた。また近年、中国においても南吉童話は高い人気を誇っており、その受容の広がりは、従来の南吉像に再考を促している。   本講演は、南吉が魯迅文学、とりわけ「阿Q正伝」を深く読み込み、日中戦争期の中国の民衆に鋭い共感を寄せていた事実を日記・ノート・作品分析を通じて明らかにすることで、「郷土の童話作家」という枠を超えた南吉の世界文学的な側面を提示する。また南吉の反戦意識が村上春樹に継承されて、魯迅―南吉―村上春樹という系譜的関係が成立するであろう点についても検討したい。   —————————————— 第1部 【越境と接触】 —————————————— 【発表1】近代中国美学における自然観の構築――西洋思想の影響のもとで 丁 乙(北海道大学)   【発表2】1926年:危機が潜む ピリニャークの極東旅行と国際左翼連帯活動 黄 詩琦(中山大学)   休憩(15分)   —————————————— 第2部 【言語と感情】 —————————————— 【発表3】「解説/再現」される方言:林参天の『濃煙』における言語政治 賈 海涛(一橋大学)   【発表4】友情三調:巴金のエッセイ集『傾吐不尽的感情』における文化政治 呉 天舟(復旦大学)   —————————————— 第3部 【文化と表象】 —————————————— 【発表5】カバーされる記憶:「李香蘭」と改革開放後の中華ポピュラー音楽 楊 冠穹(東京科学大学)   【発表6】テレビドラマ制作からみる「台湾人」表象――曹瑞原作品を中心に 八木 はるな(中央大学)     【総合討論】 モデレーター:宋 晗(フェリス女学院大学) 討論者(アルファベット順):陳 言(首都師範大学)、龔 艶(上海師範大学)、吉川 龍生(慶應義塾大学)    閉会の辞 今西 淳子(渥美国際交流財団)   ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 中国語版   中国語版ウェブサイト  
  • 2026.02.12

    第1回日印アジア未来フォーラム「アジアにおける日本研究:学術的ネットワークの構築へ」へのお誘い

    下記の通り第1回日印アジア未来フォーラムを対面のみで開催いたします。参加ご希望の方は事前に参加登録をお願いします。今回はオンラインでの参加はできませんので予めご了承ください。   テ  ー  マ:「アジアにおける日本研究:学術的ネットワークの構築へ」 日  時: 2026年3月13日(金)午後1時~6時 会  場: Sir Shankar Lal Concert Hall、デリー大学 言  語:英語 共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)・デリー大学東アジア研究科   参 加 申 込 :こちらよりお申込くださいください(リンクをクリックして登録してください) お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)          デリー大学東アジア研究所([email protected])     ◆フォーラムの趣旨 これまでの東アジア研究は主に東アジア地域内あるいは西洋の理論的枠組みの視点から語られてきました。急速に変化する地政学のダイナミクスとアジア域内の連携の重要性の高まりを背景に、今、こうした視点を再構築することが不可欠となっています。本フォーラムでは、インドにおける日本研究の意義に焦点をあて、東アジア研究および東アジアにおけるインド研究の重要性を明らかにします。   南アジアにおける初の試みとなる本フォーラムでは、東アジアおよび南アジア研究に携わる研究者や研究機関の間で、強固な学術ネットワークの構築を促進することを目的とします。そのために地域研究の現代における意義、他のアジアの研究者によるアジア社会研究への多様な方法論、最新の学術動向、そして学生の研究関心について、批判的な議論を行う場を提供します。   学際的な対話と交流を通じて、アジア研究における共通の関心と各地で特色のある発展を遂げた軌跡の双方を明らかにし、重要な課題や将来の協力関係構築の可能性を浮き彫りにすることで、アジア全域における持続可能かつ相互に有益な学術的パートナーシップの基盤を築くことを目標とします。     ◆プログラム 9:30 AM 受付 10:00 – 11:30 AM   開会式 総合司会:デリー大学東アジア研究科 開会挨拶 Prof. Ranjana Mukhopadhyaya(デリー大学東アジア研究科) 開会挨拶 今西淳子(SGRA代表) 歓迎挨拶   11:30 – 12:00 PM   休憩・交流   12:00 – 1:00 PM 招待講師の発表(韓国・台湾・インドからの日本研究専門家)   発表1:Dr Nidhi Maini (デリー大学東アジア研究科) 「インドにおける日本研究:成長、機会、文化交流」   発表2:Prof. Nam Ki-jeong 南基正  (ソウル大学日本研究所) 「韓国における日本研究の開発と将来:ソウル大学の先駆けと「脱地域学」への転換」   発表3:Prof. Chen Tzu-ching 陳姿菁 (開南大学応用日本語学科) 「台湾における日本研究と教育の現状と傾向:日本・台湾・インドの学術的ネットワークの構築へ」   発表4:Mr. Hoshina Teruyuki 保科輝之  (国際交流基金ニューデリー日本文化センター) 「国際交流基金と南アジアにおける学術的なネットワーク構築」   1:00 – 2:00 PM   休憩   2:00 – 3:00 PM    パネルディスカッション モデレーター: Dr. Amlan Dutta(デリー大学東アジア研究科日本研究専攻) パネリスト:招待講演者と学内講師・日本研究の研究者   討論者: Dr. Sweety Gupta(デリー大学東アジア研究科) Arpan Banerjee(デリー大学東アジア研究科)   質疑応答   3:00 – 3:15 PM    休憩   3:15 – 4:30 PM  デリー大学東アジア研究科の若手研究者による発表 座長: Dr Alok Chandan   発表1:Dr Shashank Patel (Researcher) 「インド・日本のテクノロジーと戦略の融合:半導体産業の技術外交の事例」   発表2:Ahmad Shadaan(Ph.D. Scholar) 「インドにある日本アニメと漫画:その受容と最近の拡大」   発表3:Shreya Mamgain(Ph.D. Scholar) 「日本社会と文学にいる女性:「新しいオンナ」と「モダンギャル」の事例」   発表4:Rashi Chaudhury(Ph.D. Scholar) 「アーユルヴェーダと和食の出会い:インドの伝統的な健康知識と現代の日本食事生活 招待講演者と参加者との質疑応答       4:30 閉会式と文化プログラム 閉会挨拶  デリー大学の日本語学生による文化プログラム 謝辞     6:00 PM ハイティ(軽食)とネットワーキング     ※詳細は下記リンクをご参照ください。 英語版プログラム  
  • 2025.11.26

    洪玧伸「第78回SGRAフォーラム『沖縄から<アジアのジェンダーと暴力>につながる可能性を探るということ―戦前、戦後の時間軸では問えない日常から問いかけを中心に-』報告」

      はじめに:戦後80周年という時間軸への「違和」   戦後80周年の2025年は、皮肉にも現在進行中の戦争報道に最も頻繁に接した年となった。この「時間軸」への「違和」がまさに、SGRA主催の第5回アジア文化対話が沖縄で開かれた第一の理由であろう。沖縄大学との共催で、「アジアにおけるジェンダーと暴力の関係性」をメインテーマとし、専門家や活動家のパネリストで構成された4つのセッションが設けられた。会場には沖縄市民を含む100人以上、Zoomでは200人余りが参加した。   問いの始まりとしてー基調講演「暴力に抗する『他者』の眼差し」   基調講演は『戦場の記憶』(2006年)で著名な冨山一郎(同志社大学教授)によるものであった。冨山は沖縄で繰り返される性暴力問題に抗して活動する高里鈴代が「何度東京に来て同じ話をすればいいのか」というつぶやきに出会った時を振り返る。3人の米兵による少女レイプ事件(1995年)に対する怒りで8万5千人の県民大会が行われた沖縄からの声を、高里は「東京」に届けようと奮闘していた。冨山が述べる「戦場」が、高里の「何度言えばいいのか」というつぶやきや、語っても、語っても言葉が届かない状況から始まることは大切である。   「何を言っても無駄」という状況にかかわる「暴力」そのものへの富山の洞察は「毎日の陳腐な営み」から「往復運動」として戦場を発見する眼差し、つまり平時/戦場、戦中/戦後、の二分法を超える眼差しであり、自身の身体感覚から始まっている。二分法を超えるためには、他者との関係の中に設定されている「実践」の領域が前提に置かれているのは言うまでもない。   交差する差別とジェンダー   第2セッションでは、沖縄とインドネシアからの活動家や研究者が戦争、紛争下の暴力「後」にどのような差別が温存され、それに抗する言葉を探るために女性たちはどのような「実践」連帯や活動を展開できるのかを議論した。   まず、高里によって沖縄戦や戦後の米軍基地化の現状、復帰後も続く基地拡散の状況が、いかに女性の生き方に影響していたのかが語られた。「近代への道」の中で「琉球人」から「沖縄人」にならなければならず、差別を温存したまま進めた沖縄の歩みが、沖縄戦を経て、さらに「日米政府」による27年間の占領期にどのように構造的な差別へ繋がっていったのか。特に、「日本人」対「琉球人」の潜在する対立を利用しようと、米軍が作成した「民事ハンドブック」や、繰り返し行われていた米兵による性犯罪やそれを可視化できなかった歴史を語った。   復帰以前の沖縄では、ベトナム戦争や冷戦構造の激化を背後に、土地の強制接収や性犯罪、人権蹂躙が繰り返された。同時期、インドネシアでは約50万人から300万人とされる民間人が警察や国家暴力の犠牲となった。1965年以降続いた「赤狩り」を掲げた大量虐殺には、多くの女性と子どもが含まれている。2人目の発表者、作家のIntan Paramaditha(マッコーリー大学)は組織的に標的とされ、強制的に解散された「Gerwani(ゲルワニ)インドネシア女性運動」以降、どのように女性たちが、歴史から抹消・排除された女性たちの存在を記憶し、継承していこうとしているのかを報告した。興味深いのは、インドネシア群島の横断的なフェミニスト集団「女性思想学校」が、男性中心、家父長制中心の言葉概念を転覆して再定義し、「ワリス(相続)」は、家父長制的な財産移転の概念から、植民地主義と資本主義の相続論理に異議を唱える言葉となった。   本セッションでは、人種に基づく「他者化」や、それを利用した植民地主義・帝国主義・軍事主義の暴力構図の連鎖を、沖縄やインドネシアの歴史的文脈によって語り、それに立ち向かう言葉をどのように模索してきたのかを検討した。それは具体的な「活動の現場」の声をも含んだものだった。   戦争とジェンダー   第3セッションを一言でいうならば、「無化された存在」から問う「戦争とジェンダー」といえる。山城紀子(フリージャーナリスト)は「沖縄戦・米軍統治下の福祉と女性」と題して、沖縄戦後日本と分類され米軍占領下の沖縄で行われた福祉政策の影を語った後、Jose Jowel Canuday(アテネオ大学)が「平和の最後の数マイル:ミンダナオ島ザンサモロ地域のジェンダー化された最前線における長期戦争の後に何が起こるのか」という発表を行った。   山城が注目したのは、圧倒的な「恐怖」によって身内を殺してしまった痛みを「語る」ことの苦しみである。「我が子」を助けることが出来なかった「母親」たちの体験を含む沖縄戦の語りが公式の場に浮上したのは、沖縄で死者が神様になると言われる33回忌、つまり1977年以降だった。「法」によって守られない人々も「福祉」の面においては「本土並み」を掲げられるようになり、無国籍児男性のように、何処にも属さずにブラックボックスの中で生きているような人々を生み出す。こうした「戦争」の足跡は、依然として現在進行形であることが示された。   Canudayは、ミンダナオ島で半世紀も続く「戦争」状況における「ジェンダー化」された日常に焦点を当てる。銃後を支える役割を女性に任された村社会は、避難や紛争により自然災害に備えることが出来ず、洪水や干ばつ被害を余儀なくされる。農業中心の生産構図を保つ事が出来ず、子どもの栄養失調の高さに影響を及ぼす。1970年代には、バンサナモ地域は分離主義勢力の拠点および東南アジアで活動するテログループの潜伏地と報告され、アメリカのグローバルな対テロ戦争の警戒地域に設定された。   本セッションのポイントは、「戦争とジェンダー」が2025年現在、私たちのすぐ近くに存在している点である。無国籍児にしてもバンサナモの状況にしても、目に見えない形となっている人々への暴力は現在進行形で、特定の人々の移動する権利を奪い、教育を受け、就職し、住まいを構える当たり前の「日常」を制限している。   多様性からなる提言、一枚岩ではないアクションを探って   最後のセッションは活動と未来に焦点を当てたパネルで、20代の大学生、活動家が中心となって議論する場として設定された。沖縄で繰り返される米軍による性犯罪、その基地暴力の問題を国連の女性の地位委員会に訴えた沖縄キリスト教学院大学の在学生(徳田彩)・卒業生(松田明)が経験から学んだものを中心に報告した。沖縄大学の在学生(中塚静樹)は、沖縄戦体験者とのかかわりの中で学んだもの、沖縄に住む大学生として日々の学びのなかで感じた問題認識を発表した。さらに、同年代のタイの学生活動家Memee Nitchakarnが、軍事クーデターや戒厳令が繰り返し行われ、民主化運動のさなかにあるタイの状況を報告した。   若者たちの発表の後、第1、第2セッションで発表した沖縄の活動家たちから、30年前に国際の現場で沖縄戦から米軍基地に連なる暴力の現状を訴えた経験などのコメントが相次いだ。登壇者の大学生たちからは「戦争の記憶が薄れていく中で、若者たちへ寄せられる『頑張ってね』という言葉は時には励みではなく重荷に感じる」との本音が発せられた。この涙ぐんだ若い大学生のつぶやきが、まさに、「暴力に抗する他者の眼差し」と題した基調講演での冨山の問題提起に戻り、私たちへ省察を促したような気がする。私たちが語っている言葉が、実は暴力にさらされている人々を黙らせ、「言葉が後方に退き暴力がせりあがってくる状況」を容認しているかも知れない。   今回のシンポジウム自体が、時間軸では取り上げられない<戦後>という提起、それをジェンダー視点で議論していくという多少無謀に近い挑戦であったが、沖縄という<場の力>によって一つの言霊ははっきり共有されていったのではないか。登壇者が提起する「暴力」から、身の回りに起きている様々な状況に思いをめぐらし、「暴力」が表れる際の類似性に驚きながら、一定の緊張感を保ちながら聞いて、感じて、考えさせられる場となった。   当日の写真   報告文のフルバージョン 洪玧伸「沖縄から『アジアのジェンダーと暴力』につながる可能性を探るということ」   <洪玧伸 (ほん ゆんしん) HONG Yun-shin> 韓国ソウル生まれ。早稲田大学で博士号(国際関係学)を取得。現在、沖縄大学人文学部国際コミュニケーション学准教授。著書に、『沖縄戦場の記憶と「慰安所」』(インパクト出版会、改訂版2022年)Comfort Stations as Remembered by Okinawans during World War II (Brill、2020)、共著に『戦後・暴力・ジェンダーⅠ:戦後思想のポリティクス』大越愛子・井桁碧編(青弓社、2005年)『戦後・暴力・ジェンダーⅢ:現代フェミニズムのエシックス』大越愛子・井桁碧編(青弓社、2010年)『現代沖縄の歴史経験』森宣雄・冨山一郎編(青弓社、2010年)編著に『戦場の宮古島と「慰安所」-12のことばが刻む「女たちへ」』(なんよう文庫、2009年)、などがある。沖縄の歴史とジェンダー、日本軍「慰安婦」問題、戦時性暴力などを専門とし、多角的な視点から研究を進めている。
  • 2025.11.19

    レポート第114号「中近東・東南アジアからみる 日本と暮らす日本: それぞれの視点で考える」

    SGRAレポート第114号   第76 回SGRA フォーラム 「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」 2025年11月21日発行   <フォーラムの趣旨> 中近東や東南アジアでアニメ・マンガなど日本のポップカルチャーへの関心が急上昇している。日本語学習のきっかけとなることも多い。トルコ語に翻訳された日本のアニメや漫画が飛躍的に増えているように、日本ポップカルチャーはブームだ。日本研究においても、これらの地域でなぜ日本文化の受容が広がっているのか、なぜ若者が日本語に特別な関心を持つようになったのかをもっと議論すべきであろう。   一方、日本には中近東や東南アジアの国々から来た多くのイスラム教の移住者がいるが、日本語や文化、教育の環境に順応しようとしながら生活する中で、さまざまな困難に直面している。まずは言語の壁や文化的な違いによる摩擦が大きな課題だ。また、日本で生まれ育った子どもたちにとっては、自らのルーツに基づくアイデンティティーや宗教教育に関する問題も浮上している。   フォーラムでは、こうした課題に焦点を当て、第1部では中近東の日本語教育と日本研究を考える。第2部では、日本文化の受容と日本語教育を内側から議論をするために日本社会と共生する外国人コミュニティー、特に、イスラム文化圏から来た移民が直面する問題を深く掘り下げ、具体的な努力や解決策を模索する場とした。   中近東や東南アジア地域における日本文化の需要を外側と内側からとらえることにより、今日の世界における日本のソフトパワーの位置づけが可能になるだろう。     <もくじ> 開会挨拶 角田英一(渥美国際交流財団) トルガ・オズシェン(COMU) ムザッフェル・オズレミル(COMU)     【第1部】 中近東の若者にとっての日本語学習と日本文化 [発表1] トルコに於ける日本語教育と学習者の最初の混乱:カタカナ  レベント・トクソズ( テキルダー・ナムク・ケマル大学(NKU))   [発表2] トルコの若者のアニメとマンガ関心:現実逃避、別世界とアイデンティティー  チェリッキ・メレキ(COMU)   [発表3] イランの若者と日本語・日本文化:メディア、教育、就職、そして未来展望  アヤット・ホセイニ(テヘラン大学)   [討 論] 中近東の日本語・日本文化イメージを再考察する 司会:岩田和馬(東京外国語大学) オンラインQ&A:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) 指定討論者: 孫 建軍(北京大学) 市村美雪(COMU) ショリナ ダリヤグル(筑波大学) 討論者: レベント・トクソズ(NKU) チェリッキ・メレキ(COMU) アヤット・ホセイニ(テヘラン大学)   【第2部】 日本におけるイスラムコミュニティーの日本文化受容と日本語教育 [発表4] 在日の中東出身者における日本語習得過程の変容と影響要因に関する考察 アキバリ・フーリエ(神田外国語大学)   [発表5] 在日インドネシアコミュニティーと多文化共生:イスラム教育を中心に ミヤ・ドゥイ・ロスティカ(大東文化大学)   [討論・質疑応答] 日本の国際化の中の外国人コミュニティーを再考察する  司会:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) オンラインQ&A:岩田和馬(東京外国語大学) 指定討論者: ゲンチェル・バルオール・ゼイネップ(パムッカレ大学(PAU)) チャクル・ムラット(関西外国語大学) 討論者: レベント・トクソズ(NKU) チェリッキ・メレキ(COMU) アヤット・ホセイニ(テヘラン大学) アキバリ・フーリエ(神田外国語大学) ミヤ・ドゥイ・ロスティカ(大東文化大学)   登壇者略歴    あとがきにかえて チェリッキ・メレキ(COMU)
  • 2025.11.19

    レポート第113号「東アジア地域市民の対話 国境を超える地方自治体・ 地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」

    SGRAレポート第113号   第75 回SGRAフォーラム/第45 回持続的な共有型成長セミナー 「東アジア地域市民の対話 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」 2025年11月19日発行     <フォーラムの趣旨> 地理学的にいえば、「東アジア」は、北東アジア(日本、中国、韓国)と東南アジア(ASEAN 加盟国)の双方から構成され、「多様性の中の調和」原則の現出ともいえる「東アジア統合」というASEAN+3 のビジョンを共有している。東アジアはこのビジョンに向けて大きな前進を遂げたが、近年中国が関わる出来事がこのビジョンに向けた地域の進歩を頓挫させていることも否定できない。 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(Local-to-Local Across Border Schemes、以下LLABS)は、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)とフィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)経営開発学部(CPAf )のさまざまなコラボレーションとして、フェルディナンド C. マキト博士が主導する「持続可能な共有成長セミナー」を通じて生まれた。UPLB チームは、フィリピン内務省の地方政府アカデミーと地方自治省のために LLABS 研究プロジェクトを実施した。 本フォーラムでは、桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群とSGRA の協力によって、従来主にフィリピンで検討されてきた LLABS構想について、北東アジアの研究者と一緒に議論し、その実現の可能性について探ることを目的とした。 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催し、共催のフィリピン大学オープンユニバーシティを通じて広くオンライン参加者を募った。   <もくじ> 【開会挨拶】 李 恩民(桜美林大学)   【基調講演】 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の概要と意義  フェルディナンド C. マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ)   【討論1】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性コミュニティ連携 ─成長のトライアングルと移民(中華街・カレー移民)に見る教訓─ 佐藤考一(桜美林大学)   【討論2】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性 東北アジア地域における越境開発協力および地域自治体協力枠組み─中国を事例に─  李 鋼哲(東北亞未来構想研究所(INAF))   【討論3】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性 国際レジーム形成における韓国地方政府の取り組み─日中韓地方政府交流会議を事例として─  南 基正(ソウル大学日本研究所)   【討論4】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性 政治的制約を超える台湾と東南アジア「非政府間」の強い結びつき 林 泉忠(東京大学東洋文化研究所)   【市民の意見】 フィリピン市民の意見─LLABSとフィリピンの視点─ ジョアン V. セラノ(フィリピン大学オープンユニバーシティ)   インドネシア市民の意見─LLABSとインドネシアの視点─  ジャクファル・イドルス(国士舘大学)   タイ市民の意見─LLABSとタイの視点─  モトキ・ラクスミワタナ(早稲田大学)   【自由討論】 総合司会: ブレンダ・テネグラ(アクセンチュア) 進  行: フェルディナンド C. マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ) 発  言  者:(発言順): 南 基正(ソウル大学日本研究所) 林 泉忠(東京大学東洋文化研究所) 佐藤考一(桜美林大学) 李 鋼哲(東北亞未来構想研究所(INAF)) ジョアン V. セラノ(フィリピン大学オープンユニバーシティ) ジャクファル・イドルス(国士舘大学) モトキ・ラクスミワタナ(早稲田大学)    【総括にかえて】 平川 均(名古屋大学名誉教授)   【閉会挨拶】 今西淳子(渥美国際交流財団)   登壇者略歴    あとがきにかえて ─フェルディナンド C. マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ)
  • 2025.10.10

    イドジーエヴァ「沖縄スタディツアー報告―普天間から辺野古・大浦湾へ―」

    第78回SGRAフォーラムの一環として実施されたスタディツアー「普天間から辺野古・大浦湾へ」に参加した。沖縄が抱える歴史的背景と米軍基地問題、そして環境や人権をめぐる課題を実地に学ぶことを目的として企画されたものである。限られた日程ではあったが、現地での視察と講義を通じて、沖縄の人々が直面する現実を多角的に観察し、理解する機会となった。     15世紀に成立した琉球王国は、中国や日本との間で外交と貿易を展開し、独自の文化を育んできた。しかし1609年の薩摩侵攻以降、二重支配の下で苦難の歴史を歩み、明治期には琉球処分により日本へ併合された。その後、言語や風俗の抑圧、土地の国有化、軍事化が進められたことは、現在の沖縄が抱える負担の原点でもある。   第二次世界大戦末期の沖縄戦は、県民約22万人が犠牲となった苛烈な地上戦であり、民間人の犠牲の大きさは他に例を見ない。戦後は米軍による接収が進み、住民の土地は銃剣とブルドーザーで奪われ、冷戦構造の中で沖縄は巨大な軍事拠点と化した。1972年の本土復帰以降も、在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中し、過重な負担が続いている。   私たちは宜野湾市に位置する嘉数高台公園を訪れ、そこから米海兵隊普天間飛行場を視察した。市街地の真ん中に位置するこの飛行場は学校や住宅に隣接し、騒音・落下物・環境汚染など、多くの危険を地域社会にもたらしている。最近では有機フッ素化合物(PFAS)などの有害物質による地下水汚染が健康被害への懸念を強めている。加えて、航空機事故や米兵による事件や事故は住民の不安を高めていることを実感した。   1995年の米兵による12歳の少女暴行事件を機に、普天間飛行場の返還が日米間で合意された。しかし危険性除去の代替策として浮上したのが、名護市辺野古への移設計画である。   続いて訪れた辺野古は現在、新たな滑走路と港湾機能を備えた基地建設が進行している。辺野古や大浦湾の152ヘクタールが埋め立て対象となり、世界的にも稀少な生態系が破壊の危機にさらされているという。特にジュゴンやアオサンゴなど絶滅危惧種262種を含む約5,300種の生物が生息するこの海域は、国際的NGO「ミッション・ブルー」により日本初の「Hope Spot」に認定されている。にもかかわらず、政府は環境影響評価を軽視し、建設を進めている実態を知り、深い憂慮を覚えた。   2014年の着工後に建設予定地の海底は軟弱地盤であることが判明し、71,000本の杭打ちによる補強が必要とされる。巨額の費用と長期化が予想され、米国からも実効性への疑念が投げかけられている。完成時期は早くとも2037年以降とされ、現時点では普天間返還の見通しすら曖昧なままである。   こうした状況に対し、沖縄の市民は長年にわたり粘り強く抗議活動を続けてきた。辺野古の浜辺やゲート前での座り込み、カヌーによる海上抗議、署名や住民投票、さらには国際自然保護連合(IUCN)との協力など、多様な手段が展開されている。2003年に提訴された「沖縄ジュゴン訴訟」は、米国の国家歴史保存法を適用させた画期的な事例であり、沖縄の声を国際的に可視化する機会となった。   近年では国連人種差別撤廃委員会へ働きかけ、同委員会が日本政府に対し、辺野古建設が琉球・沖縄の先住民族の権利を侵害していないか説明を求めるなど、国連を巻き込んだ動きも生まれている。現地で出会った人々の言葉には、生活を守り、未来世代に豊かな自然を残したいという切実な願いが込められていた。   今回痛感したのは、沖縄の基地問題が単なる地方の課題ではなく、日本の安全保障政策や環境保護、人権、そして暴力からの開放に直結する問題だという点である。辺野古を「唯一の選択肢」と繰り返してきた日米両政府の姿勢は、市民参加や自治の尊重を欠き、対話の不在を浮き彫りにした。さらに、軟弱地盤問題や環境破壊のリスクを前にしても計画を見直さないかたくなさは、政策決定の硬直性を象徴している。   求められるのは、沖縄の人々の声に耳を傾けるとともに、この問題を自分ごととして捉える視点である。環境、人権、平和という普遍的な価値のために、何ができるのかを考え、社会的対話を広げていくことが必要だろう。   ツアーで得た経験は、沖縄の歴史と現在を直視する重要な機会となった。普天間と辺野古の現実を前に、私たち一人一人が問われているのは、どのような未来を選び取るのかという根源的な問いである。沖縄が背負わされてきた過重な負担を減じ、豊かな自然と文化を守り抜くために学び続け、行動することの必要性を強く心に刻んだ。   当日の写真   <イドジーエヴァ・ジアーナ IDZIEVA Diana> ダゲスタン共和国出身。2024年度渥美財団奨学生。東京外国語大学大学院総合国際学研究科より2021年修士号(文学)、2025年9月博士号(学術)を取得。主に日本の現代文学の研究を行っており、博士論文のテーマは今村夏子の作品における暴力性。現在、東京外国語大学、慶應義塾大学、津田塾大学で非常勤講師。
  • 2025.09.11

    賈海涛「第77回SGRAフォーラム『なぜ、戦後80周年を記念するのか? ~ポストトランプ時代の東アジアを考える~』報告」

      2025年7月26日(土)、第77回SGRAフォーラムが渥美国際交流財団関口グローバル研究会および早稲田大学先端社会科学研究所・東アジア国際関係研究所との共催のもと、早稲田大学大隈記念講堂小講堂でハイブリッド形式により開催された。米国の政権交代がもたらした国際秩序の変動を念頭に置きつつ、多様性と相互協力を基盤とした平和構築の経験を改めて検証することが求められている。今回は「なぜ、戦後80周年を記念するのか?~ポストトランプ時代の東アジアを考える~」をテーマに、東・東南アジアの研究者が一堂に会し、戦後80年の歩みを振り返りつつ、東アジアの和解と平和の展望について議論が交わされた。   最初の講演では沈志華氏(華東師範大学)が「冷戦、東北アジアの安全保障と中国外交戦略の転換」と題し、冷戦期における中国の外交戦略が「革命外交」から「実務重視の外交」へと大きく転換した過程を三つの段階に分けて分析した。第1段階(1949-1969)はソ連と連携して米国に対抗した「向ソ一辺倒」の時代であり、東北アジアでは南北の二つの三角同盟が鋭く対立した。第2段階(1970-1984)では、中ソ対立を背景に米国と連携してソ連に対抗する「向米一辺倒」へと転換し、地域の緊張緩和に繋がった。そして第3段階(1985-1991)では、改革開放と共に非同盟の全方位外交へと移行し、中米ソの「大三角」構造の中で地域の対立構造が解消され、和平交渉のプロセスが始まったと解説。この歴史的変遷を踏まえ、今後の中国外交は「鄧小平が確立した実務重視の非同盟政策を堅持し、特に日韓両国との関係発展を地域の平和と安定の基盤とすべきだ」と提言した。   次に藤原帰一氏(順天堂大学・東京大学)が、「冷戦から冷戦までの間 第2次世界大戦後米中関係の展開と日本」をテーマに講演を行った。藤原氏は、かつての米ソ冷戦の終結後、再び米中間の緊張が「新冷戦」と呼べるほどの国際政治の分断を生み出している現状を指摘。第2次大戦後の日本の民主化が米ソ冷戦の開始と共に米国の対アジア戦略の拠点として組み込まれ、米中接近まで緊張が続いた歴史を振り返った。その上で、2008年以降に再び顕著になった米中間の新たな緊張関係がなぜ生まれたのか、その要因を権力移行論の観点から分析した。さらに、日本の対中政策が米国の影響を強く受けてきたことは事実としつつも、福田赳夫政権や現在の石破茂政権の動向を例に挙げ、日本独自の判断や米国との政策の「ズレ」も存在することを指摘し、日本の自主的な外交の役割について考察の視点を提供した。   フォーラムの後半は林泉忠氏(東京大学)をモデレーターに、若手研究者による多角的な討論が展開された。   権南希氏(関西大学)は、北朝鮮の核開発やロ朝の軍事接近、米中ロの対立激化により、東アジアの安全保障体制が構造的な不安定性を深めていると分析。北朝鮮が韓国を「主敵」と規定する一方、韓国社会では統一を段階的信頼構築の「過程」として捉える傾向が強まっているとし、法治主義に基づく統合体制の構築と社会文化的な接触を通じた信頼醸成の重要性を論じた。   ラクスミワタナ・モトキ氏(早稲田大学)は、タイ保守派の陰謀論を分析することを通じて、冷戦が途上国の国内政治に与え、今日まで続く権力構造を形成した影響を考察した。これにより、「国」を単位とした分析だけでは見えてこない、現代にまで続く冷戦の断層線を明らかにする視点の可能性を提示した。   野崎雅子氏(早稲田大学)は、日米中の留学生政策の変化に着目し、国際秩序と知的交流の関係を検討。かつては信頼関係構築の基盤であった知的交流が、国家間の緊張の高まりと共に分断の危機に瀕している現状を指摘し、その克服の可能性について議論を提起した。   李彦銘氏(南山大学)は、日中関係における和解の道のりに焦点を当てた。政府レベルでの一定の和解は達成されたとしつつも、2010年代以降の民間レベルでの歴史認識には依然として課題が残ると分析。一方で、非政府組織(NGO)における信頼構築の事例を挙げ、民間交流が持つ和解の可能性を展望し、今後に向けての提言を行った。   総合討論と質疑応答では、戦後80年という節目を迎え、世界各地で局地的な紛争が多発し、東アジアの緊張も高まっているものの、本格的な武力衝突(いわゆる「熱い戦争」)には至っていない、という現状認識が示された。その上で、悪化する米中関係を背景とした新たな「冷戦」への懸念や、厳しさを増す中国と周辺地域との関係に対し、今後いかに対応すべきかが議論された。また、こうした国際情勢と連動する日本の国内情勢も注目された。7月の参議院選挙において、経済や景気といった課題よりも「日本人ファースト」という排外的・保守的なスローガンに注目が集まったことは、その一例といえる。このような動向が日本の将来に与える影響は大きく、不安視する声が少なくなかった。   本フォーラムは、戦後80年という歴史を、大国間のマクロな視点から、各地域の固有の文脈、さらには民間交流というミクロな視点まで、重層的に捉え直す貴重な機会となった。登壇者の議論は、歴史認識の違いを乗り越え、対話を通じて相互理解を深めることの重要性を改めて浮き彫りにした。複雑化する国際情勢の中で、過去を真摯に検証し、未来志向の平和な関係をいかに構築していくか。そのための知的基盤を提供する、有意義な議論の場となった。   当日の写真   アンケート集計   <賈海涛(か・かいとう)JIA Haitao> 一橋大学言語社会研究科博士課程修了。博士(学術)。2023年度渥美奨学生。神奈川大学外国語学部中国語学科外国人特任助教、一橋大学非常勤講師。人文系ポッドキャストの運営者。研究分野は華語圏文学、文学言語。主要業績に、単著『流動と混在の上海文学――都市文化と方言における新たな「地域性」』(ひつじ書房、2025)ほか。       2025年9月11日配信    
  • 2025.07.31

    第78回SGRAフォーラム/第5回アジア文化対話(Asian Cultural Dialogues)/第611回沖縄大学土曜教養講座第611回沖縄大学土曜教養講座「アジアにおけるジェンダーと暴力の関係性」へのお誘い

    下記の通り第78回SGRAフォーラム ・第5回アジア文化対話(Asian Cultural Dialogues)・第611回沖縄大学土曜教養講座「アジアにおけるジェンダーと暴力の関係性」を対面とオンラインのハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。   テーマ:「アジアにおけるジェンダーと暴力の関係性」 日 時:2025年9月13日(土)9:30~17:30 会 場:沖縄大学3号館101教室 およびオンライン(Zoomウェビナー) 言 語:日本語・英語(同時通訳) 参 加:無料/こちらから。 共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会・沖縄大学地域研究所   ※会場参加の方もオンライン参加の方も必ず参加登録をお願いします。 お問い合わせ:SGRA事務局([email protected])     ◇フォーラムの趣旨 沖縄はアジア太平洋戦争時に住民の4人に1人が死亡したとされる激しい地上戦を経験している。さらに戦後も日本国内の70%を超える米軍の施設が集中する「基地の島」と化した。女性や子どもを含む非戦闘員が犠牲となった「戦場」の暴力は、現在進行形のグローバルな課題を再考察する上で欠かすことができない題材である。軍事的な対立の際に、私たちはどのように非戦闘員の命を守るための観点を保ちうるだろうか。ジェンダーからの問いが必要な理由がそこにある。   沖縄で開催されるAsian Cultural Dialogues(ACD;アジア文化対話)フォーラムでは、地上戦を経験し、今なお米軍基地による性暴力事件が絶えない沖縄で、ジェンダーという弱者への配慮を前提とする視点から「過去・現在・未来」につなげる普遍的価値を探る。本フォーラムは「沖縄の問題」を論じるものではない。多国籍の専門家により構成され、その議論の焦点は沖縄という空間で出会う「アジア的視点」と言える。2025年度は戦後80周年という節目の年であり、いかにアジア太平洋戦争時の傷痕に向き合うかをアジア各地で議論する年でもある。議論の場である沖縄はもちろん、アジアの過去、現在、未来に一貫して忘れてはならない本質的な価値とは何かを国際的かつ学際的に、さらにはアカデミアを超えて皆で考える機会になることを望んでいる。   ◇プログラム 9:30 イベント開始 ご挨拶 今西淳子(SGRA)、山代 寛(沖縄大学学長) フォーラムの紹介 洪 玧伸(沖縄大学)   セッション① 基調講演 司会:デール ソンヤ(SGRA)、モデレーター:洪 玧伸   基調講演:冨山一郎(同志社大学)「暴力に抗する「他者」の眼差し」 45分(日本語)   コメンテーター:宮城晴美(沖縄女性史研究家)、ロバート・リケット(和光大学元教授)、グオ・リフ(筑波大学)     11:00 休憩     11:30 セッション② 交差性・各発表:30分 司会:イドジーエヴァ・ジアーナ(東京外国語大学)   発表1 高里鈴代(「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」共同代表)「交差する差別とジェンダー」(日本語) 発表2 Intan Paramaditha(マッコーリー大学)、「インドネシアのフェミニズム運動」(英語)   コメンテーター:ミヤ・ドゥイ・ロスティカ(大東文化大学)、梁絃娥(ソウル大学)     13:00 昼食・休憩   14:00 セッション③ 戦争とジェンダー・各発表:30分 司会:ミキ・デザキ(ドキュメンタリー監督)   発表1 山城紀子(沖縄タイムス元記者・フリージャーナリスト)「沖縄戦・米軍統治下の福祉と女性」(日本語) 発表2 Jose Jowel Canuday(アテネオ大学)「平和の最後の数マイル:ミンダナオ島バンサモロ地域のジェンダー化された最前線における長期戦争の後に何が起こるのか」(英語)   コメンテーター:福永 玄弥(東京大学)、増渕あさ子(立命館大学)     15:30 休憩     16:00 セッション④ これからに向かって・各発表:20分 司会:洪 玧伸、デール ソンヤ   発表1 徳田彩(沖縄キリスト教学院大学在学生)、松田明(沖縄キリスト教学院大学卒業生) 「沖縄の基地暴力とジェンダー:CSW国連女性の地位委員会に性暴力を訴えるー沖縄県内の動きを中心にー」(日本語) 発表2 Memee Nitchakarn (タイの学生活動家))「タイの若いフェミニスト運動の流れ」(英語) 発表3 中塚静樹(沖縄大学在学生)「沖縄戦の記憶を聴く若者たち:証言者との交流で学ぶ記憶の継承」(日本語)   コメンテーター:親川裕子(沖縄大学・Be the Change Okinawa代表)、上野さやか(沖縄大学・エンパワメント・ラボ・おきなわ共同代表 )、Bonni Rambatan (Rainbow Panda代表)     17:30 フォーラム閉会     ※詳細は、下記リンクをご参照ください。 プログラム 英語版のプログラム   皆さまのご参加をお待ちしております。
  • 2025.06.19

    レポート第110号「パレスチナを知ろう」

    SGRAレポート第110号     第20 回SGRA カフェ/第73 回SGRA フォーラム/第22 回SGRA カフェ連続3回シリーズ 「パレスチナを知ろう」 2025年6月20日発行   <各シリーズ開催の趣旨> シリーズ1:第20回SGRAカフェ 「パレスチナについて知ろう:歴史、メディア、現在の問題を理解するために」 パレスチナは中東の重要な地域であり、イスラエルとの紛争や国際社会との関係が注目されています。しかし、多くの人はパレスチナの実情や人々の声を知らないまま、偏った情報や先入観に基づいて判断してしまうことがあります。シリーズ1では、パレスチナの歴史的背景やメディアの表現方法を分析し、現在の問題に対する多様な視点や意見を紹介しました。パレスチナについて知ることで、平和的な解決に向けた理解と共感を深めることを目的としています。大切なのは、同じ地球市民の一員として、この問題がこのままでいいのか、どうあるべきなのかを考えること、そしてそれに基づいて、何ができるか考え、実際に行動することではないでしょうか。シリーズ1はその出発点となるように、パレスチナ問題の歴史や現状、メディアとの向き合い方などについて、皆さんと一緒に考えました。   シリーズ2:第73回SGRAフォーラム 「パレスチナの壁:「わたし」との関係は?」 シリーズ2では専門家、パレスチナ出身者、パレスチナ支持の活動を行っている学生の声を取り上げ、なぜこの問題が全ての人にとって重要なのか、そしてその問題を取り上げようとするときに直面する壁について話し合いました。 「壁」という言葉には複数の意味が込められています。一つは、パレスチナ問題について公然と話すことを阻む見えない壁であり、タブーと言論の自由への抑圧を象徴しています。もう一つは、パレスチナ領土での継続的なアパルトヘイト(人種隔離)と植民地化の結果として存在する物理的な分離の壁です。世界中での学生の抗議活動は、これらの見えない壁を取り壊す試みであり、パレスチナ問題に対する公開討論を促進する力となっています。これはパレスチナ問題に対する新たな視点を提供すると同時に、世代間の意識の違いとその変化を示唆しています。   このフォーラムを通じて、参加者がパレスチナ問題に対する多面的な理解を深め、グローバルおよびローカル、マクロとミクロな視点からアプローチする機会になることを期待しています。   シリーズ3:第22回SGRAカフェ 「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」 これまでは国際政治やパレスチナ問題の現状に焦点を当ててきたことを踏まえ、シリーズ3では文化、文学、芸術にスポットライトを当てました。   パレスチナに関するニュースは戦争や紛争に偏りがちですが、パレスチナ人には逆境の中で形成された独自で多様な文化的アイデンティティがあります。パレスチナの文学や芸術は民族が国家を奪われ、自決権を認められず、土地や文化の喪失を経験してきた中で、「故郷」をどのように捉えているかを映し出しています。   パレスチナの芸術や文学がいかにして平和的な抵抗の手段となり、抑圧や占領に対抗する一つの形となっているのかについても探求しました。メディアでは語られることのないパレスチナの別の側面をご紹介し、このシリーズがポジティブな視点で終わることを目指しました。   <もくじ> シリーズ1 第20 回SGRAカフェ 「パレスチナについて知ろう:歴史、メディア、現在の問題を理解するために」 [講 演] パレスチナ問題の基礎知識:歴史と政治的構図の要点を抑える ハディ ハーニ(明治大学) ※シリーズ1・2共通   [ 質疑応答・ディスカッション] パレスチナについて知ろう:歴史、メディア、現在の問題を理解するために  司会:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) オンラインQ&A担当:徳永 佳晃(東京大学) 発言者:ハディ ハーニ(明治大学)   シリーズ1 あとがきにかえて  シェッダーディ アキル(慶應義塾大学)   シリーズ2 第73回SGRAフォーラム 「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」 [発表①] パレスチナ問題の基礎知識:歴史と政治的構図の要点を抑える ハディ ハーニ(明治大学) ※シリーズ1・2共通 [発表②] 建築の支配:植民地主義の武器としての建造環境 ウィアム・ヌマン(東京工業大学) [発表③] 立ち上がる学生、クィア、環境活動家たち:2023 年10月以降の東京のパレスチナ解放運動 溝川 貴己(早稲田大学)   [ 質疑応答・ディスカッション] パレスチナの壁:「わたし」との関係は? モデレーター:徳永 佳晃(日本学術振興会) オンラインQ&A担当:郭 立夫(筑波大学) 発言者(発言順): ハディ ハーニ(明治大学) ウィアム・ヌマン(東京工業大学) 溝川 貴己(早稲田大学)   シリーズ2 あとがきにかえて  郭 立夫(筑波大学)   シリーズ3 第22回SGRAカフェ 「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」   [講 演] 逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ 山本 薫(慶應義塾大学)   [ 質疑応答・ディスカッション] 逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ 司会:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) オンラインQ&A担当:銭 海英(明治大学) 発言者:山本 薫(慶應義塾大学)   シリーズ3 あとがきにかえて  銭 海英(明治大学)   登壇者略歴   おわりに