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2026.08.06
2026年6月27日(土)、第79回SGRAフォーラム「東アジア文化記憶の再読――響きあう言葉と感性」を、東京科学大学大岡山キャンパスを会場とし、オンラインを併用して開催した。当日は台風7号・8号と梅雨前線の影響で、関東では大雨となった。週末には、学術イベントの中止や開催方法の変更が相次いだが、本フォーラムはハイブリッド形式を生かして予定どおり開催した。参加登録者は181名(会場26名、オンライン155名)で、荒天にもかかわらず会場には約20名が集まり、オンラインの同時接続は最多時120名に達した。
本フォーラムは、私と賈海涛さん、丁乙さんの3名のラクーン(元渥美奨学生)に、中山大学の黄詩琦さんを加えた4名で企画した。社会の不安定化や価値観の揺らぎが進むなか、人文学はいかなる視点と言葉によって過去と現在を結び直すことができるのか。文学、思想、音楽、映像を手がかりに、東アジアの文化記憶が国境や時代、媒体を越えてどのように受け継がれ、読み替えられてきたのかを考えることが、企画の出発点だった。日中関係を取り巻く状況が必ずしも平穏とはいえないなか、東アジアの文化を通して対話の回路を保つことも、本フォーラムの意義の一つだ。
宋晗さんの司会、室田真男先生の開会の辞に続き、私の恩師でもある藤井省三先生が「新美南吉と魯迅そして中国」と題して基調講演を行った。藤井先生は日記やノート、未発表原稿などを丹念に読み解き、新美南吉が『阿Q正伝』をどのように受け止め、戦時下の中国民衆にいかなる共感を寄せていたのかを明らかにした。郷土と童心の作家という従来の南吉像を越え、魯迅―南吉―村上春樹へとつながる可能性を提示した講演は、文学を一国の枠内ではなく、時代を越えて響きあう関係のなかで捉え直すものだ。
第1部「越境と接触」では、丁乙さんが宗白華と方東美の自然観を比較し、西洋思想を受容しながら中国の伝統的資源を組み替えていく、近代中国美学の二つの道筋を示した。黄詩琦さんは1926年のピリニャークの極東旅行をたどり、国際左翼連帯が制度や理念だけではなく、旅の途中で形成される人的なつながり、さらにはその内部のずれや危機を含んでいたことを論じた。
第2部「言語と感情」では、賈海涛さんが林参天『濃煙』において方言が「解説/再現」される過程を分析し、多言語的な南洋社会における語り手の位置と文化的帰属を問い直した。呉天舟さんは巴金の訪日経験とエッセイ集『傾吐不尽的感情』を取り上げ、文化外交、自己弁護、アナキズムの記憶という三つの巴金像を示し、「友好」という言葉の内部に潜む文化政治を明らかにした。
第3部「文化と表象」では、まず私が改革開放後の華語流行音楽における李香蘭の再生を、1980年代の「歌の復活」と1990年代以降の「名の復活」という二つの段階から考察した。八木はるなさんは「生存のためにもがく『野蛮人』たち――曹瑞原監督テレビドラマ『斯卡羅』における台湾人表象」と題し、「文明/野蛮」という固定的な区分を越えて、生き延びようとする多様な人々の姿から台湾の歴史記憶を読み直した。
各発表の対象は、民国期の美学思想から現代の音楽やテレビドラマまで多岐にわたった。しかし、いずれも一方向的な「影響」や「受容」にとどまらず、文化が移動する過程で何が選び取られ、翻訳され、再び記憶されるのかを問うものだ。異なる専門領域が響きあうことで、東アジアを固定された地理ではなく、絶えず生成する文化的な場として考える視点が浮かび上がる。
6つの発表を盛り込んだため、総合討論の時間が短くなってしまったことは、企画者として少し心残りである。それでも、討論者の先生方は限られた時間を生かす工夫をしてくださった。陳言先生は藤井先生の講演に焦点を当て、文学を「読むこと」自体がいかに歴史の一部となるのかを問いかけた。龔艶先生は各発表を、文化記憶が言語、国境、媒体を越えるなかで再構成される過程として横断的に捉え直した。吉川龍生先生は要点を絞ってコメントし、藤井先生には、長堀祐造の論考の副題とも響きあう「もし魯迅が生きていたら」という問いを半ば冗談めかして投げかけた。宋さんも議論を簡潔につなぎ、短いながらも密度の高い意見交換となった。
今西淳子常務理事の閉会の辞をもって、3時間のフォーラムを終えた。私にとって、本フォーラムは初めて企画を担った学術イベントでもあった。理工系を中心とする大岡山キャンパスで、東アジアの人文学をめぐる対話の場を開くことも一つの挑戦だった。司会の宋さんは私と同じ2017年度の渥美奨学生であり、同期でもある。ラクーン同士のつながりが、年月を経て新たな学術交流の場として実を結んだ。
荒天のなか参加してくださった皆様、登壇者、通訳者、運営に携わってくださった方々に、改めて感謝申し上げたい。また、本フォーラムの企画から開催まで支えてくださった渥美国際交流財団にも、心より御礼申し上げたい。
アンケート集計
当日の写真
<楊 冠穹 (よう かんきゅう) YANG Guanqiong>
1984年生まれ。東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得満期退学、博士(文学、東京大学)。専門は近現代中国語圏の文学・カルチャースタディーズ。あ共著に『越境する中国文学:新たな冒険を求めて』(東方書店、2018)、論文に「中國「八〇後」作家の描く同時代靑年像:韓寒『1988〜この世界と話したい』における元記者と低層娼婦娜娜」(『東方学』130、2015)などがある。
2026年8月6日配信
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2026.07.03
下記の通り第10回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性を開催いたします。参加ご希望の方は、必ず事前に参加登録をお願いします。オンラインで参加の場合は、一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。
テーマ:「国史のなかの『感情』―日本・中国・韓国」
日 時:2026年 8 月 26日(水)9:00~12:30、8 月 27日(木)9:00~12:30
会 場: 東北学院大学五橋キャンパス講義棟6階(仙台市)及びオンライン(Zoomウェビナー)
言 語:日中韓3言語同時通訳付き
参加費: 会場参加1,500円、オンライン参加無料
主 催: 渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
共 催:東北学院大学
【参加にあたってのお知らせ】
◆参加には事前登録が必要です。
QR コードまたは URL からお申込みください。 事前登録 URL: https://x.gd/1NNsh
◆会場参加の場合の参加費について
本フォーラムは、第8回アジア未来会議(AFC)内のフォーラムとして開催します。会場参加の場合はAFCオフィスで当日参加券(1,500円)を購入してから会場にお越しください。すでにAFCに参加登録している方は、追加料金は発生しません。
第8回アジア未来会議については、https://www.aisf.or.jp/AFC/2026/をご覧ください。
◆同時通訳をご希望の方へ
会場で同時通訳を利用する場合は、Zoomへの接続が必要となります。
インターネットに接続できる端末とイヤホンをご持参ください。会場のWi-Fiをご利用いただけます。
◆ お問い合わせ SGRA 事務局:
[email protected]
◆開催趣旨◆
「国史たちの対話」の目的は、日中韓それぞれの自国史研究者が対話し交流を深めることにより、知のプラットフォームを構築し、東アジアの国際関係をしばしば紛糾させてきた歴史認識問題を克服するための手掛かりを得ることにある。2016年から対話を重ねてきた「国史たちの対話」は今回で第10回となり、また10周年を迎える。
今回は日中韓の国史における「感情」をテーマに取り上げる。人々の感情は、明らかに歴史を動かす要因となってきた。そして歴史認識もまた、感情という要素を抜きにしては理解できないものである。
日中韓は、歴史をめぐる国民感情レベルでの衝突を何度も経験してきた。グローバル化の進展やインターネットメディアが社会を大きく変えつつある中、今後もそうした事態がなくなるとは考えにくい。そこで、「感情」それ自体を対話の焦点とするのは有効と考えられる。日中韓の国民はお互いにどのような感情を抱いてきたのだろうか。戦争や植民地支配という過去の出来事は、日中韓の国民感情にどのようなインパクトを与えてきたのだろうか。
「感情」はしばしば「理性」と対比されるが、このような捉え方には留保する必要がある。自己を理性的とみなす者は、立場や意見が異なる者の言動や異議申し立てを感情的だと捉えがちである。しかし現実には、感情と理性とを明確に区別することは困難である。
感情というテーマ設定は、2023年の第8回国史対話「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか」の成果を踏まえたものでもある。この対話では、歴史認識がそれぞれの社会で記憶や学校教育、メディアを通じて形成されるものであり、歴史研究とは大きなギャップがあることが改めて確認できた。深刻なテーマにもかかわらず、日中韓の自国史研究者の間には驚くほど深い対話が生まれたが、それだけでは十分でないことも明らかになった。第10回となる今回の国史対話を通じて目指すのは、日中韓の自国史研究者が相手の国の「感情」を知るとともに、自国の「感情」をも知ることである。このような観点から対話をさらに深め、歴史認識問題に向き合う上での大きなヒントが見出されることを期待する。
◆プログラム◆
2026年8月26日(水)
第1セッション 【基調講演】 司会:金 キョンテ KIM Kyongtae(全南大学)
【開会趣旨】劉 傑 LIU Jie(早稲田大学)
【基調講演】「感情・歴史およびアイデンティティ
―北東アジアの歴史叙述における国民偏見をいかに緩和するか」
葛 兆光 GE Zhaoguang(復旦大学)
【フォーラムの趣旨】塩出 浩之 SHIODE Hiroyuki(京都大学)
【基調講演】「義憤の感情体制(emotional regime)――茶山 丁若鏞の『義殺論』」
金 澔 KIM Ho(ソウル大学)
第2セッション 【発表「戦争と感情」】 司会:南 基正 NAM Kijeong(ソウル大学)
【発表1】「軍事暴力と感情の統制」
中村 江里 NAKAMURA Eri(上智大学)
【発表2】「戦争の感情と国家の自己再構築―韓中日における承認闘争の比較研究」
吳 承熺 OH Seung-he(国立外交院)
【発表3】「苦難・抵抗・超克:抗日戦争記憶をめぐる三つの叙事とその省察」
唐 小兵 TANG Xiaobing(華東師範大学)
2026年8月27日(木)
第3セッション 【発表「相互イメージ」】司会:鄭 淳一 CHONG Soonil(高麗大学)
【発表4】「近代日本の対中国感情―『文明/野蛮』『清潔/不潔』という枠組み」
金山 泰志 KANAYAMA Yasuyuki(横浜市立大学)
【発表5】 「現代韓国の中国認識:歴史機関と国政監査、政治の波動」
孫 成旭 SON Sungwook(昌原大学)
第4セッション 【指定討論と自由討論】
モデレーター:彭 浩 PENG Hao(大阪公立大学)、村 和明 MURA Kazuaki(東京大学)
【指定討論1】 朴 三憲 PARK Sam hun(建国大学)
【指定討論2】 宮間純一 MIYAMA Junichi(中央大学)
【指定討論3】 馮 淼 FENG Miao(中国社会科学院)
【自由討論】
【総括】三谷 博 MITANI Hiroshi(東京大学名誉教授)
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
・プログラム
中国語版ウェブサイト
韓国語版ウェブサイト
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2026.05.29
SGRAレポート第116号
第78回SGRAチャイナ・フォーラム
「アジアにおけるジェンダーと暴力の関係性」
2026年6月15日発行
<フォーラムの趣旨>
沖縄はアジア太平洋戦争時に住民の4人に1人が死亡したとされる激しい地上戦を経験している。さらに戦後も日本国内の70%を超える米軍の施設が集中する「基地の島」と化した。女性や子どもを含む非戦闘員が犠牲となった「戦場」の暴力は、現在進行形のグローバルな課題を再考察する上で欠かすことができない題材である。軍事的な対立の際に、私たちはどのように非戦闘員の命を守るための観点を保ちうるだろうか。ジェンダーからの問いが必要な理由がそこにある。
沖縄で開催されるAsian Cultural Dialogues(ACD;アジア文化対話)フォーラムでは、地上戦を経験し、今なお米軍基地に起因する性暴力事件が絶えない沖縄で、ジェンダーという弱者への配慮を前提とする視点から「過去・現在・未来」につなげる普遍的価値を探る。
強調したいのは、ACD は開催地の「学び、感じ、行動する」アクティブな議論の場でありながらも、その地域では見逃している国境を越えた視点や、洞察を開催地に提供する場でもある点である。「アジアにおけるジェンダーと暴力の関係性」は、軍事的な面に限らない。日常における構造的な暴力を紐解いてこそ、より普遍的な議論になりうる。
沖縄と同じく米軍とフィリピンゲリラとの間で激しい地上戦が行われたミンダナオ地域に注目しながらも、その中でより目に見えない「ジェンダー」の問題に焦点を当てたり、ACD が持つ多国籍ネットワークを用いた活動家や文化人の観点も提示する。
本フォーラムはいわゆる「沖縄の問題」を論じるものではない。多国籍の専門家により構成され、その議論の焦点は沖縄という空間で出会う「アジア的視点」と言える。2025 年度は戦後80 年という節目の年であり、いかにアジア太平洋戦争時の傷痕に向き合うかをアジア各地で議論する年でもある。議論の場である沖縄はもちろん、アジアの過去、現在、未来に一貫して忘れてはならない本質的な価値とは何かを国際的かつ学際的に、さらにはアカデミアを超えて皆で考える機会になることを望んでいる。
<もくじ>
【開会挨拶】
今西淳子(SGRA)
山代 寛(沖縄大学学長)
【フォーラムの紹介】
洪 玧伸(沖縄大学)
第1セッション 基調講演
[司会:デール・ソンヤ(SGRA)]
【基調講演】 暴力に抗する「他者」の眼差し
冨山一郎(同志社大学)
[コメント1-1] 宮城晴美(沖縄女性史研究家)
[コメント1-2] ロバート・リケット(和光大学元教授)
[コメント1-3] グオ・リフ(筑波大学)
質疑応答
モデレーター:洪 玧伸(沖縄大学)
回答:冨山一郎(同志社大学)
第2セッション 交差性
[司会:イドジーエヴァ・ジアーナ(東京外国語大学)]
【発表2-1】 交差する差別とジェンダー
高里鈴代(「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」共同代表)
【発表2-2】 継承と掘り起こし:インドネシアにおけるジェンダー化された暴力
インタン・パラマディタ(マッコーリー大学)
[コメント2-1] ミヤ・ドゥイ・ロスティカ(大東文化大学)
[コメント2-2] 梁 絃娥(ソウル大学名誉教授)
質疑応答
司会:イドジーエヴァ・ジアーナ(東京外国語大学)
オンラインQ&A担当:グオ・リフ(筑波大学)
発言者(発言順):
インタン・パラマディタ(マッコーリー大学)
高里鈴代(「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」共同代表)
洪 玧伸(沖縄大学)
第3セッション 戦争とジェンダー
[司会:ミキ・デザキ(ドキュメンタリー監督)]
【発表3-1】 沖縄戦・米軍統治下の福祉と女性
山城紀子(沖縄タイムス元記者・フリージャーナリスト)
【発表3-2】 ジェンダーの最前線:世界最後の休戦における平和への最終段階
ホセ・ジョエル・カヌディー(アテネオ大学)
[コメント3-1] 福永玄弥(東京大学)
[コメント3-2] 増渕あさ子(立命館大学)
質疑応答
司会:ミキ・デザキ(ドキュメンタリー監督)
オンラインQ&A:ミヤ・ドゥイ・ロスティカ(大東文化大学)
発言者(発言順):
山城紀子(沖縄タイムス元記者・フリージャーナリスト)
ホセ・ジョエル・カヌディー(アテネオ大学)
第4セッション これからに向かって
[司会:洪 玧伸(沖縄大学)、デール・ソンヤ(SGRA)]
【発表4-1】 沖縄の基地暴力とジェンダー:CSW 国連女性の地位委員会に性暴力を訴える─沖縄県内の動きを中心に─
松田 明(沖縄キリスト教学院大学卒業生)、徳田 彩(沖縄キリスト教学院大学)
【発表4-2】 タイにおける若者フェミニスト運動の旅路
ニチャカーン・ラクウォンリット/ミミ-(タイの学生活動家)
【発表4- 3】 沖縄戦の記憶を聴く:体験者との交流を通して
中塚静樹(沖縄大学)
[コメント4-1] 親川裕子(沖縄大学、Be the Change Okinawa代表)
[コメント4-2] 上野さやか(沖縄大学、エンパワメント・ラボ・おきなわ共同代表)
[コメント4-3] ボニー・ランバタン(Rainbow Panda代表)
【自由討論】 司会:洪 玧伸(沖縄大学)、デール・ソンヤ(SGRA)
発言者(発言順):
高里鈴代(「基地・軍隊を許さない行動する女たちの会」共同代表)
山城紀子(沖縄タイムス元記者・フリージャーナリスト)
宮城晴美(沖縄女性史研究家)
徳田 彩(沖縄キリスト教学院大学)
ニチャカーン・ラクウォンリット/ミミ-(タイの学生活動家)
中塚静樹(沖縄大学)
《附録1》 「『慰安婦』のための碑 17周年記念シンポジウム」
(於 宮古島市公民館・未来創造センター)
サバルタンの強烈な声:韓国における最近の社会変化と
「日本軍性奴隷(JMSS)」問題への私の関わり 115
梁 絃娥(ソウル大学名誉教授)
あとがきにかえて
洪 玧伸(沖縄大学)
登壇者略歴
《附録2》 沖縄スタディツアー報告
普天間から辺野古・大浦湾へ
イドジーエヴァ・ジアーナ(東京外国語大学)
《附録3》 宮古島スタディツアー活動報告
戦後80 年に咲く花
グオ・リフ(筑波大学)
※所属・肩書は本フォーラム開催時のもの。
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2026.05.29
SGRAレポート第115号(日中合冊)
第77 回SGRAフォーラム
「なぜ、戦後80周年を記念するのか?─ポストトランプ時代の東アジアを考える─」
2026年6月11日発行
<フォーラムの趣旨>
80 年の長きにわたる戦後史のなかで、アジアの国々は1945 年の出来事を各自の歴史認識に基づいて「終戦」「抗戦の勝利」「植民地からの解放」といった表現で語り続けてきた。アジアにおける終戦記念日は、それぞれの国が別々の立場から戦争の歴史を振り返り、戦争と植民地支配がもたらした深い傷と記憶を癒やし、平和を祈願する節目の日であった。一方、この地域の人びとが国境を超えた歴史認識を追い求め、対話を重ねてきたことも特筆すべきである。
2025 年は終戦80 周年を迎える。アメリカにおける政権交替にともなって、アジアをめぐる国際情勢がより複雑さを増している。こうした状況のなか、多様性や文明間の対話を尊重し、相互協力のなかで平和を希求してきた戦後の歴史を本格的に検証する意味は大きい。本フォーラムは日本、中国、韓国、東南アジアの視点から戦後80 年の歳月に光を当て、近隣諸国・地域と日本との和解への道を振り返り、平和を追求するアジアの経験と、今日に残る課題を語り合った。
<もくじ>
総合司会 開催にあたって─李 恩民(桜美林大学)
開会挨拶 今西淳子(渥美国際交流財団、関口グローバル研究会)
歓迎挨拶 鷲津明由(早稲田大学)
【第一部】 基調講演
【講演1】 冷戦、東北アジアの安全保障と中国外交戦略の転換
沈 志華(華東師範大学)
【講演2】 冷戦から冷戦までの間─第2次世界大戦後米中関係の展開と日本─
藤原帰一(順天堂大学、東京大学名誉教授)
【第二部】 オープンフォーラム
【 若手研究者による討論】
【 1】東アジアの地政学的転換と朝鮮半島を考える
権 南希(関西大学)
【 2】 なぜ、戦後80周年を記念するのか
─タイ保守派の陰謀論分析から考える政治的断層線─
ラクスミワタナ モトキ(早稲田大学)
【 3】国 際秩序と知的交流─留学生政策から考える─
野﨑雅子(早稲田大学)
【 4】 民間の歴史認識・信頼構築・協力と和解への道
李 彦銘(南山大学)
【質疑応答】
モデレーター: 林 泉忠(東京大学)
Q&A 担当: 陳 璐(早稲田大学)
発言者: 藤原帰一(順天堂大学、東京大学名誉教授)、沈 志華(華東師範大学)、権 南希(関西大学)、ラクスミワタナ モトキ(早稲田大学)、野﨑雅子(早稲田大学)、李 彦銘(南山大学)
総括・閉会挨拶 劉 傑(早稲田大学)
登壇者略歴
あとがきにかえて 賈 海涛(神奈川大学、一橋大学)
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2026.05.07
下記の通り第79回SGRAフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加をご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。
テ ー マ:「東アジア文化記憶の再読――響きあう言葉と感性」
日 時:2026年6月27日(土)午後2時~5時
会 場:東京科学大学西9号館ディジタル多目的ホール(Zoomウェビナーとのハイブリット開催)
言 語:日本語・中国語(同時通訳付き)
主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
共 催:東京科学大学リベラルアーツ研究教育院
参加申込:こちらよりお申込くださいください(リンクをクリックして登録してください)
(参加方法に関わらず参加用URLが届きます。会場参加の方は当日会場にお越しください。)
【参加にあたってのお知らせ】
・同時通訳をご希望の方へ
会場で同時通訳を利用する場合は、Zoomへの接続が必要となります。
必要な方はインターネットに接続できる端末とイヤホンをご持参ください。会場のWi-Fiをご利用いただけます。
・会場【東京科学大学西9号館ディジタル多目的ホール】
〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1(キャンパスマップ 22番の建物です)
・お問い合わせ
SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
◆フォーラムの趣旨
社会の不安定化や価値観の揺らぎが進む現代において、人文学はいかなる視点と言葉によって過去と現在を結び直しうるのか。本フォーラムは、「東アジア文化記憶の再読」という主題のもと、近現代の文学・思想・音楽・映像を手がかりに、東アジアにおける文化の越境、思想や表現の受容と変容、記憶の継承と再解釈について考えることを目的とする。
本企画の特色は、民国期の美学思想から現代のポピュラー音楽やテレビドラマにいたるまで、約100年にわたる多様な文化事象を横断的にとらえ、作品や言説に刻まれた歴史意識と文化的位相を読み直そうとする点にある。文学者どうしの響き合い、思想の受容と変容、方言をめぐる葛藤、友情の語り、歌われる記憶、映像を通じた共同体像の形成といった諸問題は、それぞれ異なる位相から、文化記憶が国境や時代を越えていかに受け継がれ、編み直されてきたのかを示している。
基調講演と各発表、さらに討論を通じて、本フォーラムは、東アジアにおける文化記憶とは何か、それが文学・思想・芸術の営みのなかでいかに読み継がれ、捉え直されていくのかを、多角的に考える場としたい。
◆プログラム
司会: 宋 晗(フェリス女学院大学)
開会の辞 室田 真男(東京科学大学 リベラルアーツ研究教育院)
【基調講演】新美南吉と魯迅そして中国
藤井 省三(東京大学名誉教授)
魯迅(1881~1936)と日本文学との間には、深い影響関係がある。拙著『魯迅と日本文学』(2015年)で論じたように、1902~1909年の日本留学時代から1920年代、五・四新文学期にかけて、魯迅は夏目漱石(1867~1916)、森鷗外(1862~1922)、芥川龍之介(1892~1927)らから大きな影響を受けており、1930年代以後は魯迅が太宰治(1909~1948)、松本清張(1909-92)、村上春樹(1949~)らに深い影響を与えてきた。
そして新美南吉(1913〜1943)は、郷土愛知県知多半島を舞台に温かな童心を描いた児童文学者として日本で広く親しまれてきた。また近年、中国においても南吉童話は高い人気を誇っており、その受容の広がりは、従来の南吉像に再考を促している。
本講演は、南吉が魯迅文学、とりわけ「阿Q正伝」を深く読み込み、日中戦争期の中国の民衆に鋭い共感を寄せていた事実を日記・ノート・作品分析を通じて明らかにすることで、「郷土の童話作家」という枠を超えた南吉の世界文学的な側面を提示する。また南吉の反戦意識が村上春樹に継承されて、魯迅―南吉―村上春樹という系譜的関係が成立するであろう点についても検討したい。
—————————————— 第1部 【越境と接触】 ——————————————
【発表1】近代中国美学における自然観の構築――西洋思想の影響のもとで
丁 乙(北海道大学)
【発表2】1926年:危機が潜む ピリニャークの極東旅行と国際左翼連帯活動
黄 詩琦(中山大学)
休憩(15分)
—————————————— 第2部 【言語と感情】 ——————————————
【発表3】「解説/再現」される方言:林参天の『濃煙』における言語政治
賈 海涛(一橋大学)
【発表4】友情三調:巴金のエッセイ集『傾吐不尽的感情』における文化政治
呉 天舟(復旦大学)
—————————————— 第3部 【文化と表象】 ——————————————
【発表5】カバーされる記憶:「李香蘭」と改革開放後の中華ポピュラー音楽
楊 冠穹(東京科学大学)
【発表6】テレビドラマ制作からみる「台湾人」表象――曹瑞原作品を中心に
八木 はるな(中央大学)
【総合討論】
モデレーター:宋 晗(フェリス女学院大学)
討論者(アルファベット順):陳 言(首都師範大学)、龔 艶(上海師範大学)、吉川 龍生(慶應義塾大学)
閉会の辞 今西 淳子(渥美国際交流財団)
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
日本語版
中国語版
中国語版ウェブサイト
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2026.02.12
下記の通り第1回日印アジア未来フォーラムを対面のみで開催いたします。参加ご希望の方は事前に参加登録をお願いします。今回はオンラインでの参加はできませんので予めご了承ください。
テ ー マ:「アジアにおける日本研究:学術的ネットワークの構築へ」
日 時: 2026年3月13日(金)午後1時~6時
会 場: Sir Shankar Lal Concert Hall、デリー大学
言 語:英語
共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)・デリー大学東アジア研究科
参 加 申 込 :こちらよりお申込くださいください(リンクをクリックして登録してください)
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
デリー大学東アジア研究所(
[email protected])
◆フォーラムの趣旨
これまでの東アジア研究は主に東アジア地域内あるいは西洋の理論的枠組みの視点から語られてきました。急速に変化する地政学のダイナミクスとアジア域内の連携の重要性の高まりを背景に、今、こうした視点を再構築することが不可欠となっています。本フォーラムでは、インドにおける日本研究の意義に焦点をあて、東アジア研究および東アジアにおけるインド研究の重要性を明らかにします。
南アジアにおける初の試みとなる本フォーラムでは、東アジアおよび南アジア研究に携わる研究者や研究機関の間で、強固な学術ネットワークの構築を促進することを目的とします。そのために地域研究の現代における意義、他のアジアの研究者によるアジア社会研究への多様な方法論、最新の学術動向、そして学生の研究関心について、批判的な議論を行う場を提供します。
学際的な対話と交流を通じて、アジア研究における共通の関心と各地で特色のある発展を遂げた軌跡の双方を明らかにし、重要な課題や将来の協力関係構築の可能性を浮き彫りにすることで、アジア全域における持続可能かつ相互に有益な学術的パートナーシップの基盤を築くことを目標とします。
◆プログラム
9:30 AM 受付
10:00 – 11:30 AM
開会式
総合司会:デリー大学東アジア研究科
開会挨拶 Prof. Ranjana Mukhopadhyaya(デリー大学東アジア研究科)
開会挨拶 今西淳子(SGRA代表)
歓迎挨拶
11:30 – 12:00 PM 休憩・交流
12:00 – 1:00 PM
招待講師の発表(韓国・台湾・インドからの日本研究専門家)
発表1:Dr Nidhi Maini (デリー大学東アジア研究科)
「インドにおける日本研究:成長、機会、文化交流」
発表2:Prof. Nam Ki-jeong 南基正 (ソウル大学日本研究所)
「韓国における日本研究の開発と将来:ソウル大学の先駆けと「脱地域学」への転換」
発表3:Prof. Chen Tzu-ching 陳姿菁 (開南大学応用日本語学科)
「台湾における日本研究と教育の現状と傾向:日本・台湾・インドの学術的ネットワークの構築へ」
発表4:Mr. Hoshina Teruyuki 保科輝之 (国際交流基金ニューデリー日本文化センター)
「国際交流基金と南アジアにおける学術的なネットワーク構築」
1:00 – 2:00 PM 休憩
2:00 – 3:00 PM
パネルディスカッション
モデレーター: Dr. Amlan Dutta(デリー大学東アジア研究科日本研究専攻)
パネリスト:招待講演者と学内講師・日本研究の研究者
討論者:
Dr. Sweety Gupta(デリー大学東アジア研究科)
Arpan Banerjee(デリー大学東アジア研究科)
質疑応答
3:00 – 3:15 PM 休憩
3:15 – 4:30 PM デリー大学東アジア研究科の若手研究者による発表
座長: Dr Alok Chandan
発表1:Dr Shashank Patel (Researcher)
「インド・日本のテクノロジーと戦略の融合:半導体産業の技術外交の事例」
発表2:Ahmad Shadaan(Ph.D. Scholar)
「インドにある日本アニメと漫画:その受容と最近の拡大」
発表3:Shreya Mamgain(Ph.D. Scholar)
「日本社会と文学にいる女性:「新しいオンナ」と「モダンギャル」の事例」
発表4:Rashi Chaudhury(Ph.D. Scholar)
「アーユルヴェーダと和食の出会い:インドの伝統的な健康知識と現代の日本食事生活
招待講演者と参加者との質疑応答
4:30 閉会式と文化プログラム
閉会挨拶
デリー大学の日本語学生による文化プログラム
謝辞
6:00 PM ハイティ(軽食)とネットワーキング
※詳細は下記リンクをご参照ください。
英語版プログラム
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2025.11.26
はじめに:戦後80周年という時間軸への「違和」
戦後80周年の2025年は、皮肉にも現在進行中の戦争報道に最も頻繁に接した年となった。この「時間軸」への「違和」がまさに、SGRA主催の第5回アジア文化対話が沖縄で開かれた第一の理由であろう。沖縄大学との共催で、「アジアにおけるジェンダーと暴力の関係性」をメインテーマとし、専門家や活動家のパネリストで構成された4つのセッションが設けられた。会場には沖縄市民を含む100人以上、Zoomでは200人余りが参加した。
問いの始まりとしてー基調講演「暴力に抗する『他者』の眼差し」
基調講演は『戦場の記憶』(2006年)で著名な冨山一郎(同志社大学教授)によるものであった。冨山は沖縄で繰り返される性暴力問題に抗して活動する高里鈴代が「何度東京に来て同じ話をすればいいのか」というつぶやきに出会った時を振り返る。3人の米兵による少女レイプ事件(1995年)に対する怒りで8万5千人の県民大会が行われた沖縄からの声を、高里は「東京」に届けようと奮闘していた。冨山が述べる「戦場」が、高里の「何度言えばいいのか」というつぶやきや、語っても、語っても言葉が届かない状況から始まることは大切である。
「何を言っても無駄」という状況にかかわる「暴力」そのものへの富山の洞察は「毎日の陳腐な営み」から「往復運動」として戦場を発見する眼差し、つまり平時/戦場、戦中/戦後、の二分法を超える眼差しであり、自身の身体感覚から始まっている。二分法を超えるためには、他者との関係の中に設定されている「実践」の領域が前提に置かれているのは言うまでもない。
交差する差別とジェンダー
第2セッションでは、沖縄とインドネシアからの活動家や研究者が戦争、紛争下の暴力「後」にどのような差別が温存され、それに抗する言葉を探るために女性たちはどのような「実践」連帯や活動を展開できるのかを議論した。
まず、高里によって沖縄戦や戦後の米軍基地化の現状、復帰後も続く基地拡散の状況が、いかに女性の生き方に影響していたのかが語られた。「近代への道」の中で「琉球人」から「沖縄人」にならなければならず、差別を温存したまま進めた沖縄の歩みが、沖縄戦を経て、さらに「日米政府」による27年間の占領期にどのように構造的な差別へ繋がっていったのか。特に、「日本人」対「琉球人」の潜在する対立を利用しようと、米軍が作成した「民事ハンドブック」や、繰り返し行われていた米兵による性犯罪やそれを可視化できなかった歴史を語った。
復帰以前の沖縄では、ベトナム戦争や冷戦構造の激化を背後に、土地の強制接収や性犯罪、人権蹂躙が繰り返された。同時期、インドネシアでは約50万人から300万人とされる民間人が警察や国家暴力の犠牲となった。1965年以降続いた「赤狩り」を掲げた大量虐殺には、多くの女性と子どもが含まれている。2人目の発表者、作家のIntan Paramaditha(マッコーリー大学)は組織的に標的とされ、強制的に解散された「Gerwani(ゲルワニ)インドネシア女性運動」以降、どのように女性たちが、歴史から抹消・排除された女性たちの存在を記憶し、継承していこうとしているのかを報告した。興味深いのは、インドネシア群島の横断的なフェミニスト集団「女性思想学校」が、男性中心、家父長制中心の言葉概念を転覆して再定義し、「ワリス(相続)」は、家父長制的な財産移転の概念から、植民地主義と資本主義の相続論理に異議を唱える言葉となった。
本セッションでは、人種に基づく「他者化」や、それを利用した植民地主義・帝国主義・軍事主義の暴力構図の連鎖を、沖縄やインドネシアの歴史的文脈によって語り、それに立ち向かう言葉をどのように模索してきたのかを検討した。それは具体的な「活動の現場」の声をも含んだものだった。
戦争とジェンダー
第3セッションを一言でいうならば、「無化された存在」から問う「戦争とジェンダー」といえる。山城紀子(フリージャーナリスト)は「沖縄戦・米軍統治下の福祉と女性」と題して、沖縄戦後日本と分類され米軍占領下の沖縄で行われた福祉政策の影を語った後、Jose Jowel Canuday(アテネオ大学)が「平和の最後の数マイル:ミンダナオ島ザンサモロ地域のジェンダー化された最前線における長期戦争の後に何が起こるのか」という発表を行った。
山城が注目したのは、圧倒的な「恐怖」によって身内を殺してしまった痛みを「語る」ことの苦しみである。「我が子」を助けることが出来なかった「母親」たちの体験を含む沖縄戦の語りが公式の場に浮上したのは、沖縄で死者が神様になると言われる33回忌、つまり1977年以降だった。「法」によって守られない人々も「福祉」の面においては「本土並み」を掲げられるようになり、無国籍児男性のように、何処にも属さずにブラックボックスの中で生きているような人々を生み出す。こうした「戦争」の足跡は、依然として現在進行形であることが示された。
Canudayは、ミンダナオ島で半世紀も続く「戦争」状況における「ジェンダー化」された日常に焦点を当てる。銃後を支える役割を女性に任された村社会は、避難や紛争により自然災害に備えることが出来ず、洪水や干ばつ被害を余儀なくされる。農業中心の生産構図を保つ事が出来ず、子どもの栄養失調の高さに影響を及ぼす。1970年代には、バンサナモ地域は分離主義勢力の拠点および東南アジアで活動するテログループの潜伏地と報告され、アメリカのグローバルな対テロ戦争の警戒地域に設定された。
本セッションのポイントは、「戦争とジェンダー」が2025年現在、私たちのすぐ近くに存在している点である。無国籍児にしてもバンサナモの状況にしても、目に見えない形となっている人々への暴力は現在進行形で、特定の人々の移動する権利を奪い、教育を受け、就職し、住まいを構える当たり前の「日常」を制限している。
多様性からなる提言、一枚岩ではないアクションを探って
最後のセッションは活動と未来に焦点を当てたパネルで、20代の大学生、活動家が中心となって議論する場として設定された。沖縄で繰り返される米軍による性犯罪、その基地暴力の問題を国連の女性の地位委員会に訴えた沖縄キリスト教学院大学の在学生(徳田彩)・卒業生(松田明)が経験から学んだものを中心に報告した。沖縄大学の在学生(中塚静樹)は、沖縄戦体験者とのかかわりの中で学んだもの、沖縄に住む大学生として日々の学びのなかで感じた問題認識を発表した。さらに、同年代のタイの学生活動家Memee Nitchakarnが、軍事クーデターや戒厳令が繰り返し行われ、民主化運動のさなかにあるタイの状況を報告した。
若者たちの発表の後、第1、第2セッションで発表した沖縄の活動家たちから、30年前に国際の現場で沖縄戦から米軍基地に連なる暴力の現状を訴えた経験などのコメントが相次いだ。登壇者の大学生たちからは「戦争の記憶が薄れていく中で、若者たちへ寄せられる『頑張ってね』という言葉は時には励みではなく重荷に感じる」との本音が発せられた。この涙ぐんだ若い大学生のつぶやきが、まさに、「暴力に抗する他者の眼差し」と題した基調講演での冨山の問題提起に戻り、私たちへ省察を促したような気がする。私たちが語っている言葉が、実は暴力にさらされている人々を黙らせ、「言葉が後方に退き暴力がせりあがってくる状況」を容認しているかも知れない。
今回のシンポジウム自体が、時間軸では取り上げられない<戦後>という提起、それをジェンダー視点で議論していくという多少無謀に近い挑戦であったが、沖縄という<場の力>によって一つの言霊ははっきり共有されていったのではないか。登壇者が提起する「暴力」から、身の回りに起きている様々な状況に思いをめぐらし、「暴力」が表れる際の類似性に驚きながら、一定の緊張感を保ちながら聞いて、感じて、考えさせられる場となった。
当日の写真
報告文のフルバージョン
洪玧伸「沖縄から『アジアのジェンダーと暴力』につながる可能性を探るということ」
<洪玧伸 (ほん ゆんしん) HONG Yun-shin>
韓国ソウル生まれ。早稲田大学で博士号(国際関係学)を取得。現在、沖縄大学人文学部国際コミュニケーション学准教授。著書に、『沖縄戦場の記憶と「慰安所」』(インパクト出版会、改訂版2022年)Comfort Stations as Remembered by Okinawans during World War II (Brill、2020)、共著に『戦後・暴力・ジェンダーⅠ:戦後思想のポリティクス』大越愛子・井桁碧編(青弓社、2005年)『戦後・暴力・ジェンダーⅢ:現代フェミニズムのエシックス』大越愛子・井桁碧編(青弓社、2010年)『現代沖縄の歴史経験』森宣雄・冨山一郎編(青弓社、2010年)編著に『戦場の宮古島と「慰安所」-12のことばが刻む「女たちへ」』(なんよう文庫、2009年)、などがある。沖縄の歴史とジェンダー、日本軍「慰安婦」問題、戦時性暴力などを専門とし、多角的な視点から研究を進めている。
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2025.11.19
SGRAレポート第114号
第76 回SGRA フォーラム
「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」
2025年11月21日発行
<フォーラムの趣旨>
中近東や東南アジアでアニメ・マンガなど日本のポップカルチャーへの関心が急上昇している。日本語学習のきっかけとなることも多い。トルコ語に翻訳された日本のアニメや漫画が飛躍的に増えているように、日本ポップカルチャーはブームだ。日本研究においても、これらの地域でなぜ日本文化の受容が広がっているのか、なぜ若者が日本語に特別な関心を持つようになったのかをもっと議論すべきであろう。
一方、日本には中近東や東南アジアの国々から来た多くのイスラム教の移住者がいるが、日本語や文化、教育の環境に順応しようとしながら生活する中で、さまざまな困難に直面している。まずは言語の壁や文化的な違いによる摩擦が大きな課題だ。また、日本で生まれ育った子どもたちにとっては、自らのルーツに基づくアイデンティティーや宗教教育に関する問題も浮上している。
フォーラムでは、こうした課題に焦点を当て、第1部では中近東の日本語教育と日本研究を考える。第2部では、日本文化の受容と日本語教育を内側から議論をするために日本社会と共生する外国人コミュニティー、特に、イスラム文化圏から来た移民が直面する問題を深く掘り下げ、具体的な努力や解決策を模索する場とした。
中近東や東南アジア地域における日本文化の需要を外側と内側からとらえることにより、今日の世界における日本のソフトパワーの位置づけが可能になるだろう。
<もくじ>
開会挨拶
角田英一(渥美国際交流財団)
トルガ・オズシェン(COMU)
ムザッフェル・オズレミル(COMU)
【第1部】 中近東の若者にとっての日本語学習と日本文化
[発表1] トルコに於ける日本語教育と学習者の最初の混乱:カタカナ
レベント・トクソズ( テキルダー・ナムク・ケマル大学(NKU))
[発表2] トルコの若者のアニメとマンガ関心:現実逃避、別世界とアイデンティティー
チェリッキ・メレキ(COMU)
[発表3] イランの若者と日本語・日本文化:メディア、教育、就職、そして未来展望
アヤット・ホセイニ(テヘラン大学)
[討 論] 中近東の日本語・日本文化イメージを再考察する
司会:岩田和馬(東京外国語大学)
オンラインQ&A:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学)
指定討論者:
孫 建軍(北京大学)
市村美雪(COMU)
ショリナ ダリヤグル(筑波大学)
討論者:
レベント・トクソズ(NKU)
チェリッキ・メレキ(COMU)
アヤット・ホセイニ(テヘラン大学)
【第2部】 日本におけるイスラムコミュニティーの日本文化受容と日本語教育
[発表4] 在日の中東出身者における日本語習得過程の変容と影響要因に関する考察
アキバリ・フーリエ(神田外国語大学)
[発表5] 在日インドネシアコミュニティーと多文化共生:イスラム教育を中心に
ミヤ・ドゥイ・ロスティカ(大東文化大学)
[討論・質疑応答] 日本の国際化の中の外国人コミュニティーを再考察する
司会:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学)
オンラインQ&A:岩田和馬(東京外国語大学)
指定討論者:
ゲンチェル・バルオール・ゼイネップ(パムッカレ大学(PAU))
チャクル・ムラット(関西外国語大学)
討論者:
レベント・トクソズ(NKU)
チェリッキ・メレキ(COMU)
アヤット・ホセイニ(テヘラン大学)
アキバリ・フーリエ(神田外国語大学)
ミヤ・ドゥイ・ロスティカ(大東文化大学)
登壇者略歴
あとがきにかえて
チェリッキ・メレキ(COMU)
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2025.11.19
SGRAレポート第113号
第75 回SGRAフォーラム/第45 回持続的な共有型成長セミナー
「東アジア地域市民の対話
国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」
2025年11月19日発行
<フォーラムの趣旨>
地理学的にいえば、「東アジア」は、北東アジア(日本、中国、韓国)と東南アジア(ASEAN 加盟国)の双方から構成され、「多様性の中の調和」原則の現出ともいえる「東アジア統合」というASEAN+3 のビジョンを共有している。東アジアはこのビジョンに向けて大きな前進を遂げたが、近年中国が関わる出来事がこのビジョンに向けた地域の進歩を頓挫させていることも否定できない。
国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(Local-to-Local Across Border Schemes、以下LLABS)は、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)とフィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)経営開発学部(CPAf )のさまざまなコラボレーションとして、フェルディナンド C. マキト博士が主導する「持続可能な共有成長セミナー」を通じて生まれた。UPLB チームは、フィリピン内務省の地方政府アカデミーと地方自治省のために LLABS 研究プロジェクトを実施した。
本フォーラムでは、桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群とSGRA の協力によって、従来主にフィリピンで検討されてきた LLABS構想について、北東アジアの研究者と一緒に議論し、その実現の可能性について探ることを目的とした。
会場とオンラインのハイブリッド形式で開催し、共催のフィリピン大学オープンユニバーシティを通じて広くオンライン参加者を募った。
<もくじ>
【開会挨拶】 李 恩民(桜美林大学)
【基調講演】 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の概要と意義
フェルディナンド C. マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ)
【討論1】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性コミュニティ連携
─成長のトライアングルと移民(中華街・カレー移民)に見る教訓─
佐藤考一(桜美林大学)
【討論2】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性
東北アジア地域における越境開発協力および地域自治体協力枠組み─中国を事例に─
李 鋼哲(東北亞未来構想研究所(INAF))
【討論3】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性
国際レジーム形成における韓国地方政府の取り組み─日中韓地方政府交流会議を事例として─
南 基正(ソウル大学日本研究所)
【討論4】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性
政治的制約を超える台湾と東南アジア「非政府間」の強い結びつき
林 泉忠(東京大学東洋文化研究所)
【市民の意見】
フィリピン市民の意見─LLABSとフィリピンの視点─
ジョアン V. セラノ(フィリピン大学オープンユニバーシティ)
インドネシア市民の意見─LLABSとインドネシアの視点─
ジャクファル・イドルス(国士舘大学)
タイ市民の意見─LLABSとタイの視点─
モトキ・ラクスミワタナ(早稲田大学)
【自由討論】
総合司会: ブレンダ・テネグラ(アクセンチュア)
進 行: フェルディナンド C. マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ)
発 言 者:(発言順):
南 基正(ソウル大学日本研究所)
林 泉忠(東京大学東洋文化研究所)
佐藤考一(桜美林大学)
李 鋼哲(東北亞未来構想研究所(INAF))
ジョアン V. セラノ(フィリピン大学オープンユニバーシティ)
ジャクファル・イドルス(国士舘大学)
モトキ・ラクスミワタナ(早稲田大学)
【総括にかえて】 平川 均(名古屋大学名誉教授)
【閉会挨拶】 今西淳子(渥美国際交流財団)
登壇者略歴
あとがきにかえて
─フェルディナンド C. マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ)
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2025.10.10
第78回SGRAフォーラムの一環として実施されたスタディツアー「普天間から辺野古・大浦湾へ」に参加した。沖縄が抱える歴史的背景と米軍基地問題、そして環境や人権をめぐる課題を実地に学ぶことを目的として企画されたものである。限られた日程ではあったが、現地での視察と講義を通じて、沖縄の人々が直面する現実を多角的に観察し、理解する機会となった。
15世紀に成立した琉球王国は、中国や日本との間で外交と貿易を展開し、独自の文化を育んできた。しかし1609年の薩摩侵攻以降、二重支配の下で苦難の歴史を歩み、明治期には琉球処分により日本へ併合された。その後、言語や風俗の抑圧、土地の国有化、軍事化が進められたことは、現在の沖縄が抱える負担の原点でもある。
第二次世界大戦末期の沖縄戦は、県民約22万人が犠牲となった苛烈な地上戦であり、民間人の犠牲の大きさは他に例を見ない。戦後は米軍による接収が進み、住民の土地は銃剣とブルドーザーで奪われ、冷戦構造の中で沖縄は巨大な軍事拠点と化した。1972年の本土復帰以降も、在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中し、過重な負担が続いている。
私たちは宜野湾市に位置する嘉数高台公園を訪れ、そこから米海兵隊普天間飛行場を視察した。市街地の真ん中に位置するこの飛行場は学校や住宅に隣接し、騒音・落下物・環境汚染など、多くの危険を地域社会にもたらしている。最近では有機フッ素化合物(PFAS)などの有害物質による地下水汚染が健康被害への懸念を強めている。加えて、航空機事故や米兵による事件や事故は住民の不安を高めていることを実感した。
1995年の米兵による12歳の少女暴行事件を機に、普天間飛行場の返還が日米間で合意された。しかし危険性除去の代替策として浮上したのが、名護市辺野古への移設計画である。
続いて訪れた辺野古は現在、新たな滑走路と港湾機能を備えた基地建設が進行している。辺野古や大浦湾の152ヘクタールが埋め立て対象となり、世界的にも稀少な生態系が破壊の危機にさらされているという。特にジュゴンやアオサンゴなど絶滅危惧種262種を含む約5,300種の生物が生息するこの海域は、国際的NGO「ミッション・ブルー」により日本初の「Hope Spot」に認定されている。にもかかわらず、政府は環境影響評価を軽視し、建設を進めている実態を知り、深い憂慮を覚えた。
2014年の着工後に建設予定地の海底は軟弱地盤であることが判明し、71,000本の杭打ちによる補強が必要とされる。巨額の費用と長期化が予想され、米国からも実効性への疑念が投げかけられている。完成時期は早くとも2037年以降とされ、現時点では普天間返還の見通しすら曖昧なままである。
こうした状況に対し、沖縄の市民は長年にわたり粘り強く抗議活動を続けてきた。辺野古の浜辺やゲート前での座り込み、カヌーによる海上抗議、署名や住民投票、さらには国際自然保護連合(IUCN)との協力など、多様な手段が展開されている。2003年に提訴された「沖縄ジュゴン訴訟」は、米国の国家歴史保存法を適用させた画期的な事例であり、沖縄の声を国際的に可視化する機会となった。
近年では国連人種差別撤廃委員会へ働きかけ、同委員会が日本政府に対し、辺野古建設が琉球・沖縄の先住民族の権利を侵害していないか説明を求めるなど、国連を巻き込んだ動きも生まれている。現地で出会った人々の言葉には、生活を守り、未来世代に豊かな自然を残したいという切実な願いが込められていた。
今回痛感したのは、沖縄の基地問題が単なる地方の課題ではなく、日本の安全保障政策や環境保護、人権、そして暴力からの開放に直結する問題だという点である。辺野古を「唯一の選択肢」と繰り返してきた日米両政府の姿勢は、市民参加や自治の尊重を欠き、対話の不在を浮き彫りにした。さらに、軟弱地盤問題や環境破壊のリスクを前にしても計画を見直さないかたくなさは、政策決定の硬直性を象徴している。
求められるのは、沖縄の人々の声に耳を傾けるとともに、この問題を自分ごととして捉える視点である。環境、人権、平和という普遍的な価値のために、何ができるのかを考え、社会的対話を広げていくことが必要だろう。
ツアーで得た経験は、沖縄の歴史と現在を直視する重要な機会となった。普天間と辺野古の現実を前に、私たち一人一人が問われているのは、どのような未来を選び取るのかという根源的な問いである。沖縄が背負わされてきた過重な負担を減じ、豊かな自然と文化を守り抜くために学び続け、行動することの必要性を強く心に刻んだ。
当日の写真
<イドジーエヴァ・ジアーナ IDZIEVA Diana>
ダゲスタン共和国出身。2024年度渥美財団奨学生。東京外国語大学大学院総合国際学研究科より2021年修士号(文学)、2025年9月博士号(学術)を取得。主に日本の現代文学の研究を行っており、博士論文のテーマは今村夏子の作品における暴力性。現在、東京外国語大学、慶應義塾大学、津田塾大学で非常勤講師。