SGRAの活動

  • 2005.07.23

    第20回SGRAフォーラムin 軽井沢「東アジアの経済統合:雁はまだ飛んでいるか」報告

    F.マキト SGRA「日本の独自性」研究チームチーフ フィリピン・アジア太平洋大学研究助教授   渡り鳥の飛ぶ季節にはまだ早いけれども、「東アジアの経済統合:雁はまだ飛んでいるか」というテーマで、20回目のSGRAフォーラムが、2005年7月23日に、鹿島建設軽井沢研修センター会議室で開催されました。   まず、開催の趣旨説明のなかで、私は、日本で生み出された開発経済学の「雁行形態ダイナミックス」理論を、SGRAの担当研究チームが取り組んでいる研究課題「日本の独自性」に関連する経済学として位置づけました。そして、雁行形態論の理念・実行手段・結果を参考とする日本独自の開発経済学についての共同研究を、フォーラムの参加者に提案しました。   さらに、経済学者赤松要氏が提唱した雁行形態ダイナミックス理論の3つのパターンを簡単に説明しました。第1パターンは基本形態であり、ある産業が輸入→輸入代替(現地生産)→輸出→逆輸入というように発展します。第2パターンは副次形態1であり、ある国の産業の高度化が図れます。第3パターンは副次形態2であり、先発国の産業の一部の産業が後発国へ進出します。   趣旨説明の後半では、名古屋大学の平川均教授(SGRA顧問)が、「今あえて『雁はまだ飛んでいるか』を議論する意義」について語られました。東アジアを囲む環境は劇的な変化を遂げつつありますが、特に次の4要素が強調されました。すなわち、(1)中国を「磁場」とする統合化の進展、(2)金融協力の進展、(3)FTAを通じた経済統合の深化、(4)地域協力から「東アジア共同体」への議論の転換です。環境の変化に応じる体制が不十分という懸念を抱きながらも、雁行形態によるデ・ファクト(事実上)の統合は既に進んでおり、今後、このダイナミックスが継続するのか、ポスト雁行形態か新雁行形態の時代が到来するのか、あるいは到来すべき なのかを、この変革の時代において議論すべきであると提案されました。   基調講演をお引き受けくださった拓殖大学の渡辺利夫学長は、東アジアのデ・ファクトの経済統合についての興味深い最近の動きを取り上げられました。貿易の面において、日本を含む東アジアの世界経済に占める存在は高まりつつあります。渡辺教授ご自身が命名された「中国のアジア化―”Asianizing” China」でも象徴されるように、東アジアの域内貿易や海外直接投資の依存度が急増しています。EUとNAFTAに匹敵する勢いです。しかし、北東アジアには、政治的な難題があるため、「地域共同体」までの発展の可能性は低いと主張されました。   一方、早稲田大学のトラン・ヴァン・トウ教授は、 22ページにも及ぶフル・ペーパーで、東アジアを意識するベトナムの視点から、雁行形態ダイナミックスを中心に検証されました。東アジア地域では、雁行形態の工業化が続いているが、国の資本・労働などの資源の状況が似てきており、分業の中身が従来と異なってきています。中国経済の台頭にいかに対応するかということが、ベトナムにとって大きな挑戦となっています。そのために、貿易や海外投資の面においても雁行形態ダイナミックスを利用するべきだという分析を発表されました。   上海財経大学の範建亭さん(SGRA研究員)は、雁行形態ダイナミックスの分析手法によって、中国の家電産業を分析しました。その結果は、渡辺教授が指摘された、中国の産業の海外直接投資への高い依存度の具体的な事例として考えることができます。韓国産業研究院(KIET)の白寅秀さん(SGRA研究員)も雁行形態ダイナミックスの手法で、韓国の化学産業をとりあげ、中国や日本と関連させる分析を行いましたが、日本・韓国・中国の三カ国が絡む雁行形態戦略が綺麗に描かれていました。環日本海経済研究所(ERINA)のエンクバヤル・シャグダルさんは、東北アジアの三カ国へのモンゴルの依存度が高まりつつあると指摘しました。特に、1990年から始めた市場経済への平和的移行で、貿易、海外投資、観光においてモンゴルと東北アジアとの経済関係が深まっています。最後に、私が、フィリピンの経済特区に雁行形態ダイナミックスを適用することによって、フィリピン全体に共有型成長を達成するための分析枠組みを説明しました。   後半のパネル・ディスカッションでは、総合研究開発機構(NIRA)の李鋼哲さん(SGRA研究員)が進行役を務め、東アジア経済統合と雁行形態ダイナミックスについて、パネリストから追加意見を伺ったあと、会場からの質問や発言を受け付けました。とくに印象的だったのは、北東アジアにおいて雁行形態型開発があまり知られていないという指摘に対して、トラン教授が「ベトナムでは皆知っている」という堂々とした反応があったことでした。あとでトラン夫人からお聞きしたのは、トラン教授ご自身が雁行形態理論の発信源だったそうです。トラン教授まではとても及ばないが、私も、フィリピンにおいて同じ存在になれればと思うようになりました。パネル・ディスカッションの議論は面白い反面、もう少し整理が必要だという印象も受けました。とてもここで纏められるものではないので、詳細はSGRAレポートに譲りたいと思います。   代わりに、主催者の不手際で当日に実現できなかったことを2点お伝えします。まず、パネル・ディスカッションでトラン教授から2つの鋭いご指摘がありましたが、その2つ目は私に向けたものだったのに、ちゃんと答える時間がありませんでした。トラン教授は、私の「共有型成長」の分析が、「成長」に偏っており、「共有型」の方があまり強調されていないと指摘されました。真に先生のおっしゃる通りです。研究はまだ進行中なので、後日、先生にちゃんとした答えを報告できるように頑張ります。      もう一つ大変残念だったのは、アンケート結果の報告ができなかったことです。食事前に提出していただいたアンケートを食事中に集計して、食後のセッションでお見せする予定でした。SGRAのチームメートのナポレオンさん(ヤマタケ研究所)がプログラムを作って、私と一緒に、夕食をとらずにがんばって集計したのですが、その後の手違いがあって、時間切れでお披露目できませんでした。そこで、この場を借りてご報告したいと思います。   回答者の国別プロフィールは中国(36%)、日本(32%)、韓国(13%)、その他(19%)になりました。雁行形態の役割についての5番目の質問に対する回答は「凄く重要」・「やや重要」が大半でした。実は、アンケートの設計時、この質問に対する答えが前の2、3、4番目の質問と一致(あるいは矛盾)しているかどうかチェックできる仕組みにしました。結果をみると「一致している」という結論になると思います。2番目の質問「日本が発展途上国からの安い物を輸入することの是非」に対する回答は「やや賛成」や「凄く賛成」というのが大半でした。3番目の質問「日本の空洞化の是非」に対する回答も同様でした。4番目の質問「日本の次世代産業への転換の是非」に対する回答は「凄く遅い」や「やや遅い」というのが大半でした。   アンケート集計の詳細は下記URLここをご覧ください。   最後に、軽井沢で休暇中だった王毅駐日中国大使が、フォーラムの途中に立ち寄ってくださり、「日本という雁も、中国という雁も、一緒に飛んでいきましょう」というご挨拶をしてくださるというビッグ・サプライズがあり、参加者全員の大きな励みとなったことを付け加えさせていただきます。   尚、SGRA運営委員の全振煥さん(鹿島建設技術研究所)が撮った写真を集めたアルバムを、ここからご覧いただけます。  
  • 2005.07.23

    第20回SGRAフォーラムin 軽井沢「東アジアの経済統合:雁はまだ飛んでいるか」報告

    F.マキト SGRA「日本の独自性」研究チームチーフ フィリピン・アジア太平洋大学研究助教授   渡り鳥の飛ぶ季節にはまだ早いけれども、「東アジアの経済統合:雁はまだ飛んでいるか」というテーマで、20回目のSGRAフォーラムが、2005年7月23日に、鹿島建設軽井沢研修センター会議室で開催されました。   まず、開催の趣旨説明のなかで、私は、日本で生み出された開発経済学の「雁行形態ダイナミックス」理論を、SGRAの担当研究チームが取り組んでいる研究課題「日本の独自性」に関連する経済学として位置づけました。そして、雁行形態論の理念・実行手段・結果を参考とする日本独自の開発経済学についての共同研究を、フォーラムの参加者に提案しました。   さらに、経済学者赤松要氏が提唱した雁行形態ダイナミックス理論の3つのパターンを簡単に説明しました。第1パターンは基本形態であり、ある産業が輸入→輸入代替(現地生産)→輸出→逆輸入というように発展します。第2パターンは副次形態1であり、ある国の産業の高度化が図れます。第3パターンは副次形態2であり、先発国の産業の一部の産業が後発国へ進出します。   趣旨説明の後半では、名古屋大学の平川均教授(SGRA顧問)が、「今あえて『雁はまだ飛んでいるか』を議論する意義」について語られました。東アジアを囲む環境は劇的な変化を遂げつつありますが、特に次の4要素が強調されました。すなわち、(1)中国を「磁場」とする統合化の進展、(2)金融協力の進展、(3)FTAを通じた経済統合の深化、(4)地域協力から「東アジア共同体」への議論の転換です。環境の変化に応じる体制が不十分という懸念を抱きながらも、雁行形態によるデ・ファクト(事実上)の統合は既に進んでおり、今後、このダイナミックスが継続するのか、ポスト雁行形態か新雁行形態の時代が到来するのか、あるいは到来すべき なのかを、この変革の時代において議論すべきであると提案されました。   基調講演をお引き受けくださった拓殖大学の渡辺利夫学長は、東アジアのデ・ファクトの経済統合についての興味深い最近の動きを取り上げられました。貿易の面において、日本を含む東アジアの世界経済に占める存在は高まりつつあります。渡辺教授ご自身が命名された「中国のアジア化―”Asianizing” China」でも象徴されるように、東アジアの域内貿易や海外直接投資の依存度が急増しています。EUとNAFTAに匹敵する勢いです。しかし、北東アジアには、政治的な難題があるため、「地域共同体」までの発展の可能性は低いと主張されました。   一方、早稲田大学のトラン・ヴァン・トウ教授は、 22ページにも及ぶフル・ペーパーで、東アジアを意識するベトナムの視点から、雁行形態ダイナミックスを中心に検証されました。東アジア地域では、雁行形態の工業化が続いているが、国の資本・労働などの資源の状況が似てきており、分業の中身が従来と異なってきています。中国経済の台頭にいかに対応するかということが、ベトナムにとって大きな挑戦となっています。そのために、貿易や海外投資の面においても雁行形態ダイナミックスを利用するべきだという分析を発表されました。   上海財経大学の範建亭さん(SGRA研究員)は、雁行形態ダイナミックスの分析手法によって、中国の家電産業を分析しました。その結果は、渡辺教授が指摘された、中国の産業の海外直接投資への高い依存度の具体的な事例として考えることができます。韓国産業研究院(KIET)の白寅秀さん(SGRA研究員)も雁行形態ダイナミックスの手法で、韓国の化学産業をとりあげ、中国や日本と関連させる分析を行いましたが、日本・韓国・中国の三カ国が絡む雁行形態戦略が綺麗に描かれていました。環日本海経済研究所(ERINA)のエンクバヤル・シャグダルさんは、東北アジアの三カ国へのモンゴルの依存度が高まりつつあると指摘しました。特に、1990年から始めた市場経済への平和的移行で、貿易、海外投資、観光においてモンゴルと東北アジアとの経済関係が深まっています。最後に、私が、フィリピンの経済特区に雁行形態ダイナミックスを適用することによって、フィリピン全体に共有型成長を達成するための分析枠組みを説明しました。   後半のパネル・ディスカッションでは、総合研究開発機構(NIRA)の李鋼哲さん(SGRA研究員)が進行役を務め、東アジア経済統合と雁行形態ダイナミックスについて、パネリストから追加意見を伺ったあと、会場からの質問や発言を受け付けました。とくに印象的だったのは、北東アジアにおいて雁行形態型開発があまり知られていないという指摘に対して、トラン教授が「ベトナムでは皆知っている」という堂々とした反応があったことでした。あとでトラン夫人からお聞きしたのは、トラン教授ご自身が雁行形態理論の発信源だったそうです。トラン教授まではとても及ばないが、私も、フィリピンにおいて同じ存在になれればと思うようになりました。パネル・ディスカッションの議論は面白い反面、もう少し整理が必要だという印象も受けました。とてもここで纏められるものではないので、詳細はSGRAレポートに譲りたいと思います。   代わりに、主催者の不手際で当日に実現できなかったことを2点お伝えします。まず、パネル・ディスカッションでトラン教授から2つの鋭いご指摘がありましたが、その2つ目は私に向けたものだったのに、ちゃんと答える時間がありませんでした。トラン教授は、私の「共有型成長」の分析が、「成長」に偏っており、「共有型」の方があまり強調されていないと指摘されました。真に先生のおっしゃる通りです。研究はまだ進行中なので、後日、先生にちゃんとした答えを報告できるように頑張ります。      もう一つ大変残念だったのは、アンケート結果の報告ができなかったことです。食事前に提出していただいたアンケートを食事中に集計して、食後のセッションでお見せする予定でした。SGRAのチームメートのナポレオンさん(ヤマタケ研究所)がプログラムを作って、私と一緒に、夕食をとらずにがんばって集計したのですが、その後の手違いがあって、時間切れでお披露目できませんでした。そこで、この場を借りてご報告したいと思います。   回答者の国別プロフィールは中国(36%)、日本(32%)、韓国(13%)、その他(19%)になりました。雁行形態の役割についての5番目の質問に対する回答は「凄く重要」・「やや重要」が大半でした。実は、アンケートの設計時、この質問に対する答えが前の2、3、4番目の質問と一致(あるいは矛盾)しているかどうかチェックできる仕組みにしました。結果をみると「一致している」という結論になると思います。2番目の質問「日本が発展途上国からの安い物を輸入することの是非」に対する回答は「やや賛成」や「凄く賛成」というのが大半でした。3番目の質問「日本の空洞化の是非」に対する回答も同様でした。4番目の質問「日本の次世代産業への転換の是非」に対する回答は「凄く遅い」や「やや遅い」というのが大半でした。   アンケート集計の詳細は下記URLここをご覧ください。   最後に、軽井沢で休暇中だった王毅駐日中国大使が、フォーラムの途中に立ち寄ってくださり、「日本という雁も、中国という雁も、一緒に飛んでいきましょう」というご挨拶をしてくださるというビッグ・サプライズがあり、参加者全員の大きな励みとなったことを付け加えさせていただきます。   尚、SGRA運営委員の全振煥さん(鹿島建設技術研究所)が撮った写真を集めたアルバムを、ここからご覧いただけます。  
  • 2005.05.17

    第19回SGRAフォーラム「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」

    下記の通りSGRA第19回フォーラムを開催いたしますので、万障お繰り合わせの上ご出席いただきますようご案内申し上げます。参加ご希望の方は、ファックス(03-3943-1512)またはemail([email protected])で5月16日(月)までに事務局宛てご返送ください。よろしければ最後の申し込み欄をお使いください。また、SGRAフォーラムはどなたにも無料でご参加いただけますので、ご宣伝いただきますようお願い申し上げます。   ■日 時:2005年5月17日(火)午後6時半より8時半まで、終了後懇親会   ■場 所:東京国際フォーラム ガラス棟G602会議室 http://www.t-i-forum.co.jp/ (JR東京駅より徒歩5分、JRおよびメトロ有楽町駅より徒歩1分)   ■会 費:フォーラムは無料。懇親会は会費1000円。   ■フォーラムの趣旨: SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームが担当する5回めのフォーラム。 「自由と民主主義」が軍事介入まで許容する「正義」とされる世相の中で、東アジアにおいて千年以上追究されてきた自由や市民社会を考え、それが現代においてどのような社会的意味と意義をもつかを探りたい。現在、学問の分野では、特に日本の歴史研究において、東アジア文化圏全体を見渡し、かつてそれが存在したようにとらえようとする試みが始まっている。私たちが忘れてしまった、あるいは忘れさせられてしまった、高い精神性を有した当時の中華文明を求心力とした東アジア文化圏を、かつてあったように把握し、それによってよりよく自分自身を認識した上で、この地域のさらなる発展の可能性を検討することは、経済分野において加速する東アジア地域協力を進める上にも欠かせない作業であると考える。   ■プログラム: 司会: 林 少陽 (SGRA「地球市民研究」サブチーフ、東京大学大学院総合文化研究科助手) 開会挨拶: 今西淳子 (SGRA代表)   ◇ゲスト講演(1): 宮崎法子 (実践女子大学文学部教授) 『中国山水画の住人たち-「隠逸」と「自由」の形』 日本を含む東アジア文化圏は、かつて中国を中心に形成されてきた。宋代(10世紀)から、清時代(20世紀初頭まで)の長きにわたり、中国の社会や文化をリードした知識人(士大夫)層の価値観は、東アジア全体の精神世界や趣味世界に大きな影響を与えた。宋代に成立し、その後大きく発展した水墨山水画は、そのような東アジアの知識人たちの理想世界を表わしており、単に自然美だけを描くものではなかった。そこには、儒教的枠組みのなかに生きざるをえない人々が、一方で常に抱き続けた精神的自由への希求や隠逸への思いが反映している。山水画とはまさにそのような思いを反映した造形世界であり、そこに繰り返し描かれた漁父などの点景人物は、隠逸の思いを託された精神的自由の象徴であった。今回は、そのような山水世界の住人について、そこに映された中国の人々の価値観を具体的に作品に即して読み解き紹介したい。   ◇ゲスト講演(2): 東島 誠 (聖学院大学人文学部助教授)  『東アジアにおける市民社会の歴史的可能性』 第一の論者は、東アジアには西欧型の市民社会など育つ余地が無かったと言い、第二の論者は、東アジアのなかに西欧型市民社会を発見しようとした。これに対して第三の論者は、西欧世界の普遍性に破産宣告を下し、アジア固有の論理の中に市民社会の可能性を探求しようとした。しかし第四の論者は、その第三の論者をも、東アジアの固有性が西欧世界と対になる形で形象化されているとして、これをナショナリズムの言説と批判した。このように、「東アジアにおける市民社会の歴史的可能性」という所与の課題には、いくつかの危ういトラップが仕掛けられている。このトラップを潜り抜けながら、いったい何が論じられるだろうか?この問題を考える上での素材提供ができれば幸いである。   ◇ フロアーとの質疑応答 進行: 高 熙卓 (SGRA「地球市民研究」チーフ、世界文化総合研究所副所長) 閉会挨拶: 嶋津忠廣 (SGRA運営委員長)   ■講師略歴: ◇ 宮崎法子(みやざき・のりこ) 1979年東京大学大学院人文科学研究科、美術史学専攻修士課程修了。その後京都大学人文科学研究所助手、三重大学人文学部助教授を経て、1995年から実践女子大学文学部美学美術史学科教授、現在に至る。その間に、中央美術学院(北京)留学、ハーバード大学イエンチン研究所・台 北故宮博物院博物院などの客員研究員。 専門分野:美術史 中国絵画史 著書: 『故宮博物院5 清の絵画』(編書、日本放送協会、1999年)、『世界美術大全集 東洋編8 明』(責任編集・著、小学館、1999年)、『花鳥・山水画を読み解く―中国絵画の意味―』(角川叢書、2003年、サントリー学芸賞受賞)ほか 論文: 「中国花鳥画の意味」上・下(『美術研究』363-364号、國華賞受賞) ほか   ◇ 東島 誠(ひがしじま・まこと) 1999年 東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了、博士(文学)。現在:聖学院大学人文学部助教授 著書:『公共圏の歴史的創造─江湖の思想へ』(東京大学出版会、2000年) 論文:「交通の自由、思想の運輸」(『東京大学日本史学研究室紀要』第5号、2001年)、「近代的読書公衆と女性-『君子』から『読者』へ」(三谷博編『東アジアの公論形成』東京大学出会、2004年)ほか  
  • 2005.05.17

    第19回フォーラム「東アジア文化再考」報告

    第19回SGRAフォーラム報告 「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」   2005年5月17日(火)午後6時半から9時まで、東京国際フォーラムG棟にて、SGRA「地球市民」研究チームが担当する第19http://www.aisf.or.jp/mt-static/images/formatting-icons/bold.gif回SGRAフォーラム「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」が開催された。SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームが担当する5回目のフォーラムである。今回は63名もの参加者が集まり、大盛況なフォーラムとなった。参加者はSGRA会員と非会員がそれぞれ半分ずつという構成であった。   SGRA研究会の今西代表による開会挨拶が行われた後、講師の宮崎法子氏(実践女子大学文学部教授)が「中国山水画の住人達―「隠逸」と「自由」の形」という題でゲスト講演を行った。宮崎氏は中国絵画史に深い造詣のある方で、一つ一つの絵の事例で簡潔でありがなら感性的な形で山水画の歴史を紹介してくれた。いわば4世紀から19世紀まで1500年以上もの山水画の歴史をわずか45分間で紹介したわけで講演方法もかなり洗練された印象を受けた。普通の絵画史の紹介とは違い、氏の講演は、絵画のモチーフを社会的思想的な文脈において解釈したことが特徴である。なかでも「漁夫」、「旅人」などのイメージから「自由」な境遇、「自由」な境界を求める結晶としての山水画を例に、東アジアの「自由」というものを実例で以っていきいきと紹介してくれた。   続いて、東島誠氏(聖学院大学人文学部助教授)が「東アジアにおける市民社会の歴史的可能性」いう題でゲスト講演を行った。東島氏は歴史研究者の視点から、近代のliberty, freedom翻訳語としての「自由」、そして「公共性」という社会学のキー・ワードを念頭に、江戸時代にあった災害事件後のボランティア活動を例に、江戸時代の江戸の災害救済現場という前近代の公共的空間のあり方を紹介した。そして「自由」というキー・ワードとの関連で、中世日本のある禅僧の逡巡を例に、公的秩序にある「公方」との対照にある「江湖」という思想を説明した。二つの例を通して氏は、前近代の「公共性」なるものとそれと関連している「自由」、「江湖」なるものを紹介した。「市民社会」というキーワードをめぐって西洋中心/東アジア伝統中心という二項対立的な考えがあるが、そのような構造から脱出するために、アジアであれ、ヨーロッパであれ、それを特権化しない形でそれぞれを完成形として見ずに新しい社会を目指すこと自体が重要であるということを、氏は講演の冒頭部と結語の部分において繰り返し説明した。   2人のゲスト講演が終わった後、SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームのチーフである高煕卓氏(韓国グローカル文化研究所首席研究員)が進行役を務め、パネルディスカッションが行われた。時間があまり残っていないため、4名しか質疑できなかったが、講演者が非常に上手く纏めるような形で答えてくれた。「意なお尽くさず」のためか、フォーラム終了後に沢山の参加者が地下一階の懇親会にも参加し、ディスカッションの場をレストランに移したような感じであった。   二つの講演が、「自由」「東アジア」「前近代」などのキーワードで、お互いに高い関連性があったことが印象的であった。この講演会が、現在一つのネーション内部にだけ「自由」、「民主」、「人権」が認められ、それ以外の範囲の人々に対しては普遍的であるはずの「自由」、「民主」、「人権」そのものが戦争まで許容するという世界的な背景で行われたことも改めて注意していただきたい。今はこのような重い課題を東アジアの歴史の深部から考える機会かもしれない。ここからも「地球市民」なる理念を考えることが、多少理想的な面があるとはいえ、如何に重要な意味を持つか垣間見られよう。今日はなにはともあれ、63名もの方々が参加してくれたことで司会者・進行役のわれわれが多大に励まされた。今後のフォーラムもこのような新しい「江湖」でありつければと願っているばかりである。 (文責:林少陽)   当日、SGRA運営委員のマキトさんと全振煥さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください第19回SGRAフォーラム報告 「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」   2005年5月17日(火)午後6時半から9時まで、東京国際フォーラムG棟にて、SGRA「地球市民」研究チームが担当する第19http://www.aisf.or.jp/mt-static/images/formatting-icons/bold.gif回SGRAフォーラム「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」が開催された。SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームが担当する5回目のフォーラムである。今回は63名もの参加者が集まり、大盛況なフォーラムとなった。参加者はSGRA会員と非会員がそれぞれ半分ずつという構成であった。   SGRA研究会の今西代表による開会挨拶が行われた後、講師の宮崎法子氏(実践女子大学文学部教授)が「中国山水画の住人達―「隠逸」と「自由」の形」という題でゲスト講演を行った。宮崎氏は中国絵画史に深い造詣のある方で、一つ一つの絵の事例で簡潔でありがなら感性的な形で山水画の歴史を紹介してくれた。いわば4世紀から19世紀まで1500年以上もの山水画の歴史をわずか45分間で紹介したわけで講演方法もかなり洗練された印象を受けた。普通の絵画史の紹介とは違い、氏の講演は、絵画のモチーフを社会的思想的な文脈において解釈したことが特徴である。なかでも「漁夫」、「旅人」などのイメージから「自由」な境遇、「自由」な境界を求める結晶としての山水画を例に、東アジアの「自由」というものを実例で以っていきいきと紹介してくれた。   続いて、東島誠氏(聖学院大学人文学部助教授)が「東アジアにおける市民社会の歴史的可能性」いう題でゲスト講演を行った。東島氏は歴史研究者の視点から、近代のliberty, freedom翻訳語としての「自由」、そして「公共性」という社会学のキー・ワードを念頭に、江戸時代にあった災害事件後のボランティア活動を例に、江戸時代の江戸の災害救済現場という前近代の公共的空間のあり方を紹介した。そして「自由」というキー・ワードとの関連で、中世日本のある禅僧の逡巡を例に、公的秩序にある「公方」との対照にある「江湖」という思想を説明した。二つの例を通して氏は、前近代の「公共性」なるものとそれと関連している「自由」、「江湖」なるものを紹介した。「市民社会」というキーワードをめぐって西洋中心/東アジア伝統中心という二項対立的な考えがあるが、そのような構造から脱出するために、アジアであれ、ヨーロッパであれ、それを特権化しない形でそれぞれを完成形として見ずに新しい社会を目指すこと自体が重要であるということを、氏は講演の冒頭部と結語の部分において繰り返し説明した。   2人のゲスト講演が終わった後、SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームのチーフである高煕卓氏(韓国グローカル文化研究所首席研究員)が進行役を務め、パネルディスカッションが行われた。時間があまり残っていないため、4名しか質疑できなかったが、講演者が非常に上手く纏めるような形で答えてくれた。「意なお尽くさず」のためか、フォーラム終了後に沢山の参加者が地下一階の懇親会にも参加し、ディスカッションの場をレストランに移したような感じであった。   二つの講演が、「自由」「東アジア」「前近代」などのキーワードで、お互いに高い関連性があったことが印象的であった。この講演会が、現在一つのネーション内部にだけ「自由」、「民主」、「人権」が認められ、それ以外の範囲の人々に対しては普遍的であるはずの「自由」、「民主」、「人権」そのものが戦争まで許容するという世界的な背景で行われたことも改めて注意していただきたい。今はこのような重い課題を東アジアの歴史の深部から考える機会かもしれない。ここからも「地球市民」なる理念を考えることが、多少理想的な面があるとはいえ、如何に重要な意味を持つか垣間見られよう。今日はなにはともあれ、63名もの方々が参加してくれたことで司会者・進行役のわれわれが多大に励まされた。今後のフォーラムもこのような新しい「江湖」でありつければと願っているばかりである。 (文責:林少陽)   当日、SGRA運営委員のマキトさんと全振煥さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください第19回SGRAフォーラム報告 「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」   2005年5月17日(火)午後6時半から9時まで、東京国際フォーラムG棟にて、SGRA「地球市民」研究チームが担当する第19http://www.aisf.or.jp/mt-static/images/formatting-icons/bold.gif回SGRAフォーラム「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」が開催された。SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームが担当する5回目のフォーラムである。今回は63名もの参加者が集まり、大盛況なフォーラムとなった。参加者はSGRA会員と非会員がそれぞれ半分ずつという構成であった。   SGRA研究会の今西代表による開会挨拶が行われた後、講師の宮崎法子氏(実践女子大学文学部教授)が「中国山水画の住人達―「隠逸」と「自由」の形」という題でゲスト講演を行った。宮崎氏は中国絵画史に深い造詣のある方で、一つ一つの絵の事例で簡潔でありがなら感性的な形で山水画の歴史を紹介してくれた。いわば4世紀から19世紀まで1500年以上もの山水画の歴史をわずか45分間で紹介したわけで講演方法もかなり洗練された印象を受けた。普通の絵画史の紹介とは違い、氏の講演は、絵画のモチーフを社会的思想的な文脈において解釈したことが特徴である。なかでも「漁夫」、「旅人」などのイメージから「自由」な境遇、「自由」な境界を求める結晶としての山水画を例に、東アジアの「自由」というものを実例で以っていきいきと紹介してくれた。   続いて、東島誠氏(聖学院大学人文学部助教授)が「東アジアにおける市民社会の歴史的可能性」いう題でゲスト講演を行った。東島氏は歴史研究者の視点から、近代のliberty, freedom翻訳語としての「自由」、そして「公共性」という社会学のキー・ワードを念頭に、江戸時代にあった災害事件後のボランティア活動を例に、江戸時代の江戸の災害救済現場という前近代の公共的空間のあり方を紹介した。そして「自由」というキー・ワードとの関連で、中世日本のある禅僧の逡巡を例に、公的秩序にある「公方」との対照にある「江湖」という思想を説明した。二つの例を通して氏は、前近代の「公共性」なるものとそれと関連している「自由」、「江湖」なるものを紹介した。「市民社会」というキーワードをめぐって西洋中心/東アジア伝統中心という二項対立的な考えがあるが、そのような構造から脱出するために、アジアであれ、ヨーロッパであれ、それを特権化しない形でそれぞれを完成形として見ずに新しい社会を目指すこと自体が重要であるということを、氏は講演の冒頭部と結語の部分において繰り返し説明した。   2人のゲスト講演が終わった後、SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームのチーフである高煕卓氏(韓国グローカル文化研究所首席研究員)が進行役を務め、パネルディスカッションが行われた。時間があまり残っていないため、4名しか質疑できなかったが、講演者が非常に上手く纏めるような形で答えてくれた。「意なお尽くさず」のためか、フォーラム終了後に沢山の参加者が地下一階の懇親会にも参加し、ディスカッションの場をレストランに移したような感じであった。   二つの講演が、「自由」「東アジア」「前近代」などのキーワードで、お互いに高い関連性があったことが印象的であった。この講演会が、現在一つのネーション内部にだけ「自由」、「民主」、「人権」が認められ、それ以外の範囲の人々に対しては普遍的であるはずの「自由」、「民主」、「人権」そのものが戦争まで許容するという世界的な背景で行われたことも改めて注意していただきたい。今はこのような重い課題を東アジアの歴史の深部から考える機会かもしれない。ここからも「地球市民」なる理念を考えることが、多少理想的な面があるとはいえ、如何に重要な意味を持つか垣間見られよう。今日はなにはともあれ、63名もの方々が参加してくれたことで司会者・進行役のわれわれが多大に励まされた。今後のフォーラムもこのような新しい「江湖」でありつければと願っているばかりである。 (文責:林少陽)   当日、SGRA運営委員のマキトさんと全振煥さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください   
  • 2005.05.13

    第15回SGRAフォーラム「この夏、東京の電気は大丈夫?」

    2004年5月13日(木)午後6時半~8時半、日本プレスセンターの日本記者クラブ10階ホールにて、第15回SGRAフォーラム「この夏、東京の電気は大丈夫?」が開催された。このフォーラムの目的は、電力自由化の是非を含む、正しい電力供給のあり方を市民レベルで考えることであり、また、上海を中心とした中国の電力事情が豊富なデータによって紹介された。司会は全振煥氏(鹿島建設技術研究所研究員/SGRA運営委員)であった。   まず、ゲストの住環境計画研究所所長中上英俊氏が「この夏、東京の電気は大丈夫?」を題として講演を行った。中上氏は日本の電力政策、電力の供給並びに電力の利用状況について、豊富なデータを用いて説明を行った。また、電力自由化等の規制緩和による市民生活への影響を分かり易く説明した。日本の電力構造、国民の省エネルギー意識の向上等により安全な電力供給ができるようになったが、京都会議のCO2削減目標を達成するために、なお国民全体の努力が必要だと指摘した。「東京の電気は大丈夫?」の問いに対しては、日本の経済事情及び省エネ努力の結果から「大丈夫!」と結論付けた。    次に北九州市立大学国際環境工学部助教授・SGRA「環境とエネルギー」研究チームチーフの高偉俊氏が「この夏、上海の電気は大丈夫?」と題とし、上海の電力事情を紹介した。昨年の夏、上海は記録的な猛暑に見舞われた。昨今のめざましい経済発展と市民生活の向上とによって電力消費の伸びは中国政府の予想を越え、限定的な地域停電を行わざるをえない状況となった。その原因としては家庭用空調機の普及により民生用エネルギーが急増したことが指摘された。但し、この問題の解決に関しては、単に電力設備容量等の増強だけでは解決できない。中国の行政手段により一時的なピーク回避も評価したいという意見を述べた。「上海の電気は大丈夫?」の問いに対しては、「中国の技(わざ)」ありなので「大丈夫!(上海では昨年夏のニューヨークのような大停電はおこらない)」と結論付けた。     その後、限られた時間だが、SGRA「環境とエネルギー」研究チームの李海峰サブチーフ(独立行政法人建築研究所客員研究員/SGRA運営委員)の司会により、中上英俊氏と高偉俊氏のおふたりに対して、質疑応答を行った。日本の将来のエネルギー開発のあり方に関する質問に関して、中上氏から、新エネルギー利用(燃料電池等)がインフラの整備等(水素ステーション)により一定の発展を見せているが、当面はエネルギーを上手に使う工夫等が重要である。自然エネルギー利用にしても、従来型システム(例えば太陽熱温水器)等のほうが効率が高いとの指摘があった。   47名(内会員25名)の参加者は、お二人の講師の豊富なデータに基づきながらも、ユーモアたっぷりの講演を楽しんだ。   (文責:高偉俊)  
  • 2005.04.24

    レポート第26号「この夏、東京の電気は大丈夫?」

    SGRAレポート第26号   第15回フォーラム講演録 「この夏、東京の電気は大丈夫?」 中上英俊、高偉俊 日本語版 2005年1月24日   ---もくじ-----------------   【ゲスト講演】「この夏、東京の電気は大丈夫?」                                 中上英俊(住環境計画研究所長)   【研究報告】「この夏、上海の電気は大丈夫?」                             高 偉俊(北九州市立大学国際環境工学部助教授、SGRA研究チーフ)   【パネルディスカッション】                             進行:李 海峰(建築研究所客員研究員、SGRA運営委員)  
  • 2005.04.20

    第3回マニラセミナー「カビテ経済得区:共有された成長の観点からの分析」ご案内

    テーマ:カビテ経済得区:共有された成長の観点からの分析 セミナー案内書(2005年1月26日現在)   日時:2005年4月20日(水)午後1時半から5時まで   会場:フィリピン、カビテ州ロサリオCEZIAクラブハウス   協賛,フィリピン側:Asia United Bank 協賛、日本側:三橋正明(P.IMES社長);藤井伸夫(SAN TECHNOLOGY社長);今西淳子(SGRA代表)   プログラムの概要 1. 開会挨拶  藤井伸夫(SAN TECHNOLOGY 社長)  トマス・アキノ博士 (フィリピン通産副大臣) 2. 経済特区レベルの分析: 「CEZ ベンチマークを利用する自己評価」 by フェルディナンド・C・マキト(UA&P 研究助教授; SGRA 研究員; 東京大学経済博士) 3. 産業・地域レベルの分析: 「電子産業における企業環境分析」 by ピター・リー・ユウ (UA&P 産業経済プログラム ディ レクター; パデュー大学経済学博士) 4. ネットワークのオンライサービス紹介 5. フィードバック・アンケート等   参加費: 3,000 ペソ 英語と日本語のスライドや配布資料を用意いたします   問い合わせ Max Maquito (マックス・マキト): [email protected] (英語・日本語)  
  • 2005.03.31

    レポート第25号「国境を越えるE-learning」

    SGRAレポート第25号   第14回フォーラム講演録 「国境を越えるE-Learning」 斎藤信男、福田収一、渡辺吉鎔、F.マキト、金雄熙 日本語版 2005年3月31日発行   ---もくじ-----------------   【基調講演】「Asia E-Learning Networkと大学の国際戦略」                            斎藤信男(慶応義塾大学常任理事)   【ゲスト講演1】「ネットワークを介したGlobal Project Based Learning―都立科学技術大学とスタンフォード大学の協調授業を事例として―」                                    福田収一(都立科学技術大学工学部長、教授、SGRA会員)   【ゲスト講演2】「日中韓3大学リアルタイム共同授業の可能性と課題―慶応・復旦・遠世大学の国際化戦略とオンライン共同授業―」                                    渡辺吉鎔(慶応大学総合政策学部教授)   【研究報告1】「オンライン授業の可能性と課題~私の場合~                                   -フィリピンアジア太平洋大学(UAP)-名古屋大学、及びテンプル大学ジャパン(TUJ)でのオンライン授業を事例として-」                                F.マキト(フィリピンアジア太平洋大学研究助教授、SGRA研究員)   【研究報告2】「韓国の大学における国際的E-Learningの現状と課題」                                 金雄煕(韓国仁荷大学校国際通商学部助教授・SGRA研究員)   【パネルディスカッション】                                 進行:王溪 Wang Xi(東京大学新領域創成科学研究科研究助手・SGRA研究員)                                 パネラー:斎藤信男、福田収一、渡辺吉鎔、F.マキト、金雄熙    
  • 2005.02.20

    第4回日韓アジア未来フォーラム・第18回SGRAフォーラム「韓流・日流:東アジア地域協力におけるソフトパワー」報告

    第4回日韓アジア未来フォーラム・第18回SGRAフォーラム「韓流・日流:東アジア地域協力におけるソフトパワー」が東京国際フォーラムで2月20日(日)に開催された。これまでの日韓交流史に見られない画期的なできごとである韓流の意義について考えるフォーラムであった。日韓アジア未来フォーラムは、2001年より始めた韓国未来人力研究院と共同で進めている日韓研究者の交流プログラムで、毎年交互に訪問しフォーラムを開催している。    SGRAを代表して今西淳子さんによる開会の挨拶に続き、韓国未来人力研究院の院長、韓国高麗大学の李鎮奎(イ・ジンギュ)教授(自称、ジン様)が「韓流の虚と実」という演題で基調講演を行った。日本における韓流ブームを時代別の事例と日本と韓国双方の分析を用いて検証し、日本での韓流ブームの原因をドラマ・中心層・日本人の意識的変化という観点から説明した。また、韓国ではなぜ日流ブームは起こらないのかという疑問点を歴史的認識と日本側の市場開拓戦略という面から説明した。さらに韓流ブームにおける危険性として韓流による韓国での文化経済主義的な視点、文化民族主義的視点への警戒を述べた。    基調発表に引き続き日本富山大学の林夏生(はやし・なつお)氏は、日韓文化交流政策の政治経済について発表した。韓流・日流が一般にはまるで「最近になって唐突に」出現した現象のように受け止められているが、実は「そうではない」とし、政策的には規制されながらも、海賊版が大量に流通するなど非公式な側面も含む「文化交流現象」が存在したこと、そしてそれへの対応がせまられたこともまた、近年の急激な変化をもたらす重要な要因のひとつであったと指摘した。    自由に生きていきたいと叫ぶ韓国の新世代文化評論家の金智龍(キム・ジリョン)氏は「 冬ソナで友だちになれるのか」とやや刺激的な演題で発表した。自分の言いたいことは前の講演で言われてしまったとし、アドリブで30分ほどの発表をこなした。多年間にわたる日本での文化体験に基づきながら、今の韓流ブームは一方的な文化流入に對する反感を和らげる役割を十分に果たしているし、韓國の若者たちが日本文化を楽しむことに対するいかなる批判も根據や理屈を失うことになるとした。日本文化であれ、韓國文化であれ、文化を共有することはお互いの理解を深めるになり、韓流ブームをきっかけとし、日韓両国の人がもっと親しみを感じて友だちになることにつながると言い切った。    休憩を挟んで発表者を含めて5人のパネリストによるパネルディスカッションが行われた。内閣府参事官(元在韓国日本大使館参事官)の道上尚史(みちがみ・ひさし)氏は、政府の見解ではないという前提で、「文化、ソフトパワーと新日韓関係」について討論し、「こぐのをやめると自転車は倒れる」、「はやりすたれに任せるには、日韓関係は重要すぎる」という含みのあるメッセージを伝えた。   韓国国民大学(東京大学客員教授)の李元徳(イ・ウォンドク)氏は「韓流と日韓関係」について、韓流・日流は明るい将来の日韓関係を示すシンボルであるとしながら、早急な楽観論は警戒すべきと指摘した。    最後に東京大学の木宮正史(きみや・ただし)氏は日韓関係の構造的変容のなかで韓流現象を捉え、韓流は単なるブームだけではなく、日韓関係の緊密化という構造変容によって支えられているものであると指摘した。    その後、ディスカッションはフロアーに開放され、70名にも及ぶ参加者の中からコメントや感想が寄せられた。ジャーナリストの櫻井よしこ氏からは李元徳氏と木宮正史氏に対北朝鮮政策や歴史教科書問題について「攻撃的」質問もあり、一瞬「戦雲」が場内をおおう場面もあった。予定より25分遅れてフォーラムは終了し、フォーラムの最後に韓国未来人力研究院の宋復(ソン・ボク)理事長による閉会の挨拶が行われた。「ジュン様(姫?)」と「ジン様」のご協力で立派なフォーラムができたことについてのお祝いの言葉と拍手で締め括られた。    尚、今西さんから、次回の日韓アジア未来フォーラムは今回のフォーラムの成果を踏まえ、日本における韓流、韓国における日流 、そしてアジアにける韓流と日流をアジアの視点から幅広く論じる形で2005年10月韓国で開催しようと呼びかけがあった。(文責:金雄煕)   当日、SGRA運営委員の許雷さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください。 
  • 2005.02.20

    第4回日韓アジア未来フォーラム・第18回SGRAフォーラム「韓流・日流:東アジア地域協力におけるソフトパワー」報告

    第4回日韓アジア未来フォーラム・第18回SGRAフォーラム「韓流・日流:東アジア地域協力におけるソフトパワー」が東京国際フォーラムで2月20日(日)に開催された。これまでの日韓交流史に見られない画期的なできごとである韓流の意義について考えるフォーラムであった。日韓アジア未来フォーラムは、2001年より始めた韓国未来人力研究院と共同で進めている日韓研究者の交流プログラムで、毎年交互に訪問しフォーラムを開催している。    SGRAを代表して今西淳子さんによる開会の挨拶に続き、韓国未来人力研究院の院長、韓国高麗大学の李鎮奎(イ・ジンギュ)教授(自称、ジン様)が「韓流の虚と実」という演題で基調講演を行った。日本における韓流ブームを時代別の事例と日本と韓国双方の分析を用いて検証し、日本での韓流ブームの原因をドラマ・中心層・日本人の意識的変化という観点から説明した。また、韓国ではなぜ日流ブームは起こらないのかという疑問点を歴史的認識と日本側の市場開拓戦略という面から説明した。さらに韓流ブームにおける危険性として韓流による韓国での文化経済主義的な視点、文化民族主義的視点への警戒を述べた。    基調発表に引き続き日本富山大学の林夏生(はやし・なつお)氏は、日韓文化交流政策の政治経済について発表した。韓流・日流が一般にはまるで「最近になって唐突に」出現した現象のように受け止められているが、実は「そうではない」とし、政策的には規制されながらも、海賊版が大量に流通するなど非公式な側面も含む「文化交流現象」が存在したこと、そしてそれへの対応がせまられたこともまた、近年の急激な変化をもたらす重要な要因のひとつであったと指摘した。    自由に生きていきたいと叫ぶ韓国の新世代文化評論家の金智龍(キム・ジリョン)氏は「 冬ソナで友だちになれるのか」とやや刺激的な演題で発表した。自分の言いたいことは前の講演で言われてしまったとし、アドリブで30分ほどの発表をこなした。多年間にわたる日本での文化体験に基づきながら、今の韓流ブームは一方的な文化流入に對する反感を和らげる役割を十分に果たしているし、韓國の若者たちが日本文化を楽しむことに対するいかなる批判も根據や理屈を失うことになるとした。日本文化であれ、韓國文化であれ、文化を共有することはお互いの理解を深めるになり、韓流ブームをきっかけとし、日韓両国の人がもっと親しみを感じて友だちになることにつながると言い切った。    休憩を挟んで発表者を含めて5人のパネリストによるパネルディスカッションが行われた。内閣府参事官(元在韓国日本大使館参事官)の道上尚史(みちがみ・ひさし)氏は、政府の見解ではないという前提で、「文化、ソフトパワーと新日韓関係」について討論し、「こぐのをやめると自転車は倒れる」、「はやりすたれに任せるには、日韓関係は重要すぎる」という含みのあるメッセージを伝えた。   韓国国民大学(東京大学客員教授)の李元徳(イ・ウォンドク)氏は「韓流と日韓関係」について、韓流・日流は明るい将来の日韓関係を示すシンボルであるとしながら、早急な楽観論は警戒すべきと指摘した。    最後に東京大学の木宮正史(きみや・ただし)氏は日韓関係の構造的変容のなかで韓流現象を捉え、韓流は単なるブームだけではなく、日韓関係の緊密化という構造変容によって支えられているものであると指摘した。    その後、ディスカッションはフロアーに開放され、70名にも及ぶ参加者の中からコメントや感想が寄せられた。ジャーナリストの櫻井よしこ氏からは李元徳氏と木宮正史氏に対北朝鮮政策や歴史教科書問題について「攻撃的」質問もあり、一瞬「戦雲」が場内をおおう場面もあった。予定より25分遅れてフォーラムは終了し、フォーラムの最後に韓国未来人力研究院の宋復(ソン・ボク)理事長による閉会の挨拶が行われた。「ジュン様(姫?)」と「ジン様」のご協力で立派なフォーラムができたことについてのお祝いの言葉と拍手で締め括られた。    尚、今西さんから、次回の日韓アジア未来フォーラムは今回のフォーラムの成果を踏まえ、日本における韓流、韓国における日流 、そしてアジアにける韓流と日流をアジアの視点から幅広く論じる形で2005年10月韓国で開催しようと呼びかけがあった。(文責:金雄煕)   当日、SGRA運営委員の許雷さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください。