SGRAイベントの報告

第5回日韓アジア未来フォーラム in ソウル報告

第5回日韓アジア未来フォーラム「東アジアにおける韓流と日流:地域協力におけるソフトパワーになりうるか」が韓国高麗大学仁村記念館にて11月4日(金)に開催された。前回のフォーラムのテーマを広げ、これまでの東アジア国際関係史に見られなかった画期的な出来事である韓流と日流の文化経済的・国際的意義について考えるフォーラムであった。日韓アジア未来フォーラムは、SGRAと韓国未来人力研究院が共同で2001年より進めてきている日韓研究者の交流プログラムで、毎年交互に訪問しフォーラムを開催している。

 

韓国未来人力研究院の院長、高麗大学の李鎮奎(イ・ジンギュ)教授による開会の挨拶に続き、ソウル大学人類学科の全京秀(ジョン・ギョンス)教授が「いわば韓流文化論の可能性と限界」という演題で基調講演を行った。 全教授は韓流文化論の可能性と限界について、文化論は技術-組織-観念の三拍子がうまくかみ合うときに成り立つものであるとしたうえで、韓流文化論においてみられる三拍子間の格差、すなわち文化遅滞(cultural lag)現象は韓流の衰退につながる恐れがあると指摘した。このような認識から韓流と日流をめぐる文化論は窮極的には自分を見出す鏡探しであり、三拍子がうまくかみ合ういい鏡を探すべきであると力説した。

 

基調講演に引き続き韓国中央大学の孫烈(ソン・ヨル)氏の司会で第一セッション「文化交流現象としての韓流と日流」が始まった。最初の発表者である富山大学の林夏生(はやし・なつお)氏は、日韓文化交流政策の政治経済について発表した。韓流と日流が一般にはまるで「最近になって唐突に」出現した現象のように受け止められているが、実は「そうではない」とし、政策的には規制されながらも、海賊版が大量に流通するなど非公式な側面も含む「文化交流現象」が存在したこと、そしてそれへの対応がせまられたこともまた、近年の急激な変化をもたらす重要な要因のひとつであったと指摘した。

 

『韓国を消費する日本』 という著書が韓国で注目されている延世大学社会学科博士課程の平田由紀江(ひらた・ゆきえ)さんは「食の韓流」というテーマで発表を行った。韓国側の代表ということで日本人でありながらも流暢な韓国語で発表した。平田さんは日本国内における韓国食文化の形成が在日韓国・朝鮮人の移動土着化によるものであるとすれば、最近の韓国飲食の象徴的な意味の変化は両国間のいろいろな双方向的な交流によるものであると主張した。そして韓国ドラマ「ジャングム」に触発された韓国「伝統」飲食に対する関心などの社会現象を調べ、人的流れおよびメディアの流れと日本国内の韓国飲食との関係を考察し、日本国内の韓国飲食文化に現れている変形されたナショナリズムとその多層的意味について論じた。

 

「香港のハヤシ」さんである琉球大学法文学部の林泉忠(リム・チュアンティオン)氏は、「哈日」や「韓流」のいずれも、意外に知られていないかもしれないが、中華圏で始まってまた現在も中華圏を中心に、東アジア全体そして東南アジアの一部まで拡大してきている現象であると指摘した。そして「哈日」と「韓流」現象は中華圏のどこから動き始め、如何に中華圏全体に拡大して変遷してきたか、それぞれの特徴と中華圏内外への影響ついて見解を述べた。

 

第一セッションの3人の発表が終わり、「韓国のハヤシ」さんである全北大学東洋語文学部の林慶澤(イム・ギョンテク)氏と延世大学社会学科の韓準(ハン・ジュン)氏はそれぞれ文化人類学、社会学の観点から理論的なコメントを兼ねた討論を行った。

 

休憩を挟んで第二セッションでは国民大学の 李元徳氏の司会で「東アジア地域協力における韓流と日流」というテーマについて議論が行われた。ベトナム社会科学院人間研究所のブ・ティ・ミン・チーさんは、ベトナムにおける日本ブーム・韓国ブームについて、日本ブームと韓国ブームは、日韓両国ともに過去にベトナムに与えた悪い印象を解消し、しだいにいい印象をもたらすようになったと指摘した。そしてこうした文化的交流はソフトパワーとなって、物的・人的交流につながる経済的・社会的インパクトを与えてきたと肯定的に捉えた。

 

NHKエンタープライズの山中宏之(やまなか・ひろゆき)氏は、「東アジアにおけるエンターテインメント相互交流」について、東アジア各国でライブを開催した経験を紹介し、今後の東アジアのエンターテイメント相互交流の展望を探った。また、北京のテレビ局で仕事をしていた時に見た、大金をかけてプロジェクトをする日本対し、草の根から人脈を築いていた韓国のやり方が今の韓流を導いたと語った。

 

最後の発表者として韓国情報文化振興院の趙瑢俊(ジョ・ヨンジュン)氏は、「デジタル韓流のブルーオーシャン」について、時の経過によりレッドオーシャン(既存市場)に変貌しているIT産業の熾烈な競争の中で、韓国がどうすればレッドオーシャンでの優位を保ち、ブルーオーシャンを創出できるか、その解決策を提示した。また、次第に立場が縮小しているように思われる韓流との総合的な比較分析を通じ、「デジタル韓流」が韓流の新たな可能性であることを逆説した。

 

第二セッションの3名による発表が終わり、東京大学の木宮正史氏とグローカル・カルチャー研究所の高煕卓(コウ・ヒタク)氏による討論で第2セッションが幕を閉じた。その後、ディスカッションはフロアーに開放されたが、同時通訳を入れても5時間にも及ぶ長い会議で議論が尽くされたためか、述べ80名にも及ぶ参加者の中からコメントや感想は寄せられなかった。

 

最後にSGRA代表の今西さんによる閉会の挨拶では、日韓アジア未来フォーラムが内容と形式両面において立派なものに一歩前進を見せたことについてのお祝いの言葉があり、拍手で締め括られた。フォーラムの講演録は、日本語版とハングル版でそれぞれ発行される予定である。尚、今西さんから、次回の日韓アジア未来フォーラムについて、「環境」をテーマに東京か軽井沢で開催しましょうという提案があった。(文責:金雄煕)

 

SGRA運営委員の足立さんが撮った写真の
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