SGRAの活動

  • 2011.07.13

    第4回ウランバートル日モ国際シンポジウム「20世紀におけるモンゴル諸族の歴史と文化」ご案内

    下記の通りモンゴル国ウランバートル市にてシンポジウムを開催いたします。オブザーバーとして参加ご希望の方は、SGRA事務局へご連絡ください。 【開催趣旨】 20世紀、さまざまな挑戦を受けながら、モンゴル諸族の政治、経済、社会、文化は、おおきな犠牲をはらいながらも、長足の発展をとげてきました。一方で、近現代のモンゴルは、日本、ロシア、中国と、緊密で、複雑な関係を持っており、こんにちのモンゴル世界は、まさに、極東地域をめぐる国際勢力の再編のなかで形成されたものです。 本シンポジウムは、中央アジア、北東アジア社会の複雑な歴史状況を視野に入れながら、新たに発見された文献資料や、記録されたオーラル・ヒストリーなどに基づいて、国境をまたぐモンゴル諸族はどのようなプロセスを経て現在の状況にいたったのか、近代化への道をあゆんだモンゴル人は何を模索し、どのように激動の時代を乗り越えてきたのか、モンゴルを通じて何がみえるかを検討し、その経験や教訓、遺産に、広い視野から、とりわけ歴史と文化の両面からアプローチし、特色ある議論を展開することを目的としています。皆さまのご参加を、心からお待ちしております。 実行委員会委員長 今西淳子(関口グローバル研究会代表) D. シュルフー(モンゴル科学アカデミー国際研究所副所長、博士) 【日程】 2011 年8月16(火)~18日(木) 参加登録:8月15日(月)16:30~17:00 開会式・基調報告:8月16日(火)9:00~12:00 会議:8月16日(火)14:00~18:00 17日(水)9:00~18:10 草原への旅行:8月18日(木) 【会場】 モンゴル・日本人材開発センター 多目的室、セミナー室(モンゴル国ウランバートル市)       詳細は下記案内状をご覧ください。 案内状(日本語) Invitation in English
  • 2011.05.18

    第41回SGRAフォーラム in 蓼科「東アジア共同体の現状と展望」へのお誘い

    下記の通り長野県蓼科にて第41回SGRAフォーラムを開催します。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。SGRAフォーラムはどなたにも参加いただけますので、ご関心をお持ちの皆様にご宣伝いただきますようお願い申し上げます。 日時:2011年7月2日(土)10:00~17:30 その後懇親会 会場:東京商工会議所蓼科フォーラム研修室A    〒391-0213 長野県茅野市豊平チェルトの森    電話 0266-71-6600 申込み・問合せ:SGRA事務局    電話:03-3943-7612    ファックス:03-3943-1512    Email:[email protected] 参加費:無料 【フォーラムの趣旨】 SGRA「東アジアの安全保障と世界平和」研究チームが担当するフォーラム。 日本において民主党政権が誕生し、鳩山首相が東アジア共同体構想を提唱したことによって、この構想をめぐる論議が活発化した。すでに、ヨーロッパでは経済と社会文化、ひいては政治と安全保障の面において個別の国民国家の枠を超えた共同体作りの実験が成果をあげている。日本も2002年に当時の小泉首相が東アジア・コミュニティー構想を打ち出したが、中国との思惑の差が露呈するなど、この地域で日本が主導する東アジア共同体作りの流れが定着しているとはいえない状況である。 しかし、中国がその方向に向け強力なドライブをかけようとしている中、日本としても共同体構想が単発で終わってしまう選択肢ではないことも確かなように思われる。その意味で、東アジアの範囲で共同体を構築しようとする試みは、その現実的可能性如何に係わらず、政権交代後における日本の外交政策の展開や東アジア国際関係の流れを把握する上で、もっとも注目すべきものである。しかし、東アジア共同体の実現のためには、この地域に存在する個別国家の現実と相互協力の制度化のレベルなど、克服すべき障壁も多々である。 本フォーラムにおいては、この地域の諸国が提唱している様々な東アジア共同体論を引き出し、その共通項をまとめ、そのような構想が政策や制度として定着するためにはどのような課題に取り組むべきかについて、日本、東南アジア、韓国、中国、香港、台湾、モンゴル、そして北朝鮮の視点から点検してみたい。 【プログラム】 詳細はここをご覧ください。 総合司会:李 恩民(桜美林大学リベラルアーツ学群教授) 【基調講演1】 恒川惠市(政策研究大学院大学副学長) 東アジア共同体形成における「非伝統的安全保障」 【基調講演2】黒柳米司(大東文化大学法学部教授) 「ASEANと東アジア共同体」 【発表1】朴 栄濬(韓国国防大学校安全保障大学院副教授) 韓国と東アジア共同体 【発表2】劉 傑(早稲田大学社会科学部教授) 中国の外交戦略と「東アジア共同体」 【発表3】林 泉忠(琉球大学法文学部准教授) 台湾・香港抜きの「東アジア共同体」は成立するのか?  ~脱「中心」主義で安定した共同体を~ 【発表4 】ブレンサイン(滋賀県立大学人間文化学部准教授) モンゴルと東アジア共同体~資源開発とモンゴルの安全保障~ 【発表5】李 成日(韓国東西大学校国際学部助教授) 北朝鮮と東アジア共同体~北朝鮮とどのように付き合うのか~ 【パネルディスカッション】 進行:南 基正(ソウル大学日本研究所HK教授) パネリスト:上記講演者
  • 2011.04.21

    第1回日台アジア未来フォーラム「国際日本学研究の最前線に向けて」へのお誘い

    SGRAの5番目の海外拠点である台湾で初めてのフォーラムを下記の通り開催いたします。参加ご希望の方はSGRA事務局宛ご連絡ください。SGRAフォーラムはどなたにも参加いただけますので、ご関心をお持ちの皆様にご宣伝いただきますようお願い申し上げます。 ◆第1回日台アジア未来フォーラム 「国際日本学研究の最前線(フロンティア)に向けて:流行(トレンド)・言葉・物語(ストーリー)の力」 共同主催:渥美国際交流財団 関口グローバル研究会(SGRA)       国立台湾大学文学院       国立台湾大学日本語文学系・台湾大学日本語文学研究所 助  成:国際交流基金 協  賛:中鹿営造(股)有限公司 他 日程:2011年5月27日(金)午前9時~午後5時 会場: 台湾大学文学院演講庁 ◇開催趣旨: 21 世紀になって急速に進んだグローバル化及び中国の台頭により、世界における日本の相対的なプレゼンスが低下しているのではないかと懸念されている。韓国やアメリカでは日本語学習者数が減少し、日本研究者が日本だけでなく中国やアジア全域に研究対象地域を広げなければならなくなったということも報告されている。 しかしながら、このような状況においても、全体的には日本語学習者数は増加しており、それは中国語を母語とする国においては顕著であること、ポップカルチャーの影響が強いと考えられることが指摘されている。特に、台湾においては、哈日族(ハーリーズゥ) に代表されるように、世界に先駆けて、若者が日本の現代の大衆文化を享受し、その勢いは全く衰えていない。 日本文化の受容者が年々増える台湾をはじめ、漢字を共有する長い文化交流の歴史を持つ北東アジア各国には、日本語教育と日本研究にも長い歴史があり、研究者も多く、研究レベルも高い事実はいうまでもない。近年では、世界に浸透した「日本の漫画・アニメ」に代表される大衆文化の分野にかかわる研究動向は特に注目されている。 早くも21 世紀の最初の十年が過ぎ、アジアの政治情勢に激しい地殻変動が起こりつつある中、海外における日本学とは何なのか、海外の若者たちを日本へ引きつけるものを研究できる学問とは何なのか、そして、台湾・香港で哈日族を誕生させたポップカルチャー、あるいは欧米諸国の若者を魅了するクールジャパンなど、現代日本のソフトパワーに関する研究は、どのように伝統ある日本文化研究の中に位置づけられるのか。また、そのような現代的な文化現象の研究と、伝統文化の研究はどのように融合できるのか。 SGRA が初めて台湾において台湾大学文学院と台湾大学日本語文学系・日本語文学研究所と共同主催する本フォーラムでは、台湾、日本、中国、韓国、米国、イタリアから日本文化の中堅・若手研究者を迎え、従来の正統的な日本学――日本語研究(言葉) や文芸作品研究(物語・ストーリー) ――をめぐる斬新な方法論の実践状況を視野に入れながら、新たに注目された流行文化にも焦点をあてて、21世紀にふさわしい国際日本学研究の最前線にむけて、特色ある議論を展開することを目的とする。 このような議論を通して、グローバルに研究領域を広げた国際日本学研究の土台を固めるだけでなく、まだ学問として成り立っていない日本のサブカルチャーの受容研究においても、多角的な視野を提供できればと願う。 ◇プログラム: 【基調講演】09:00~10:20 ①宮本大人(日本、明治大学国際日本学部准教授) 「偽物の倫理:「鉄腕アトム」をめぐって」 ②太田 登(台湾、台湾大学日本語学科教授) 「表徴としての〈かもめ〉の文学的意味:杜甫から中島みゆきへ」 【パネル1】トレンドの力: マンガ、アニメとクールジャパン(10:40~12:40) (座長) 蔡 增家(台湾、政治大学国際関係研究センター研究員兼第二研究所所長) ①Matthew McKelway (米国、コロンビア大学美術史学部准教授) 「若冲現象: 18 世紀の絵画と現代日本のポップカルチャー」 ②金 孝眞(韓国、ソウル大学日本研究所HK 研究教授) 「韓国の「オドック(五徳)」と日本のポップカルチャー」 ③游 珮芸(台湾、台東大学児童文学研究科(大学院) 副教授) 「宮崎駿のアニメにおける妖怪たち:日本伝統文化の化け方」 ④陳 仲偉(台湾、逢甲大学通識教育中心兼任助理教授) 「日本動漫畫的文化全球在地化實踐:詮釋學之「視域融合」的觀點」 (グローバル化した世界における日本動画・ アニメ文化のローカリゼーションの実践 ―解釈学<融合された視覚域>の視点から―) 【パネル2】言葉の力: 言葉の日中往来(13:30~15:30) (座長) 頼 錦雀(台湾、東呉大学日本語学科教授兼外語学院院長) ①謝豊地正枝(台湾、台湾大学日本語学科教授) 「アニメ等の視覚資料に用いられる日本語の日本語教育に与える影響について」 ②林 立萍(台湾、台湾大学日本語学科副教授) 「アニメに見られる日本昔話の語彙」 ③孫 建軍(中国、北京大学日本語学部准教授) 「西洋人宣教師と中日における欧米諸国の漢字表記の成立」 ④方美麗(日本、お茶の水女子大学外国語教員) 「表現教授法:効果的な外国語教授法」 【パネル3】ストーリーの力: 夏目漱石から村上春樹まで(13:30~15:30) (座長)朱 秋而(台湾、台湾大学日本語学科副教授) ① 范 淑文(台湾、台湾大学日本語学科副教授) 「漱石の初期小説にみる「トレンディな女性」像:彼女らの運命を追いながら」 ②横路明夫(台湾、輔仁大学日本語学科副教授) 「内面としての物語:夏目漱石、村上春樹、そして「ONE PIECE」―」 ③蕭 幸君(台湾、東海大学日本語学科助理教授) 「悪女物語の行方:漱石と谷崎の場合」 ④孫 軍悦(日本、東京大学教養学部講師) 「世界是你們的, 也是我們的: 村上春樹文學在中國大陸的接受過程」 (世界は君たちのもの、そして、私たちのものでもある:中国における村上春樹文学の受容プロセス) 【オープンフォーラム】15:50~17:00 (座長) 徐 興慶(台湾、台湾大学日本語学科教授兼主任) 報告 Maria Elena Tisi (イタリア、ボローニャ大学、ペルージャ外国人大学契約教授) 「イタリアにおける日本文化: 日本学のトレンドと日常生活にみる日本文化」 ( 日本文化在義大利:探討義大利的日本學研究趨勢與日常生活中的日本文化) 総括①:宮本大人(日本、明治大学国際日本学部准教授)  総括②:賴錦雀(台湾、東呉大学日文系教授兼外語学院院長) 総括②:孫 軍悦(日本、東京大学教養学部講師) Q&Aーフロアとの質疑応答&意見交換 要旨集
  • 2011.04.20

    第40回SGRAフォーラム「東アジアの少子高齢化問題と福祉」報告

    2011年3月6日(日)午後、東京国際フォーラムガラス棟会議室で標記フォーラムが開催された。担当は「日本の独自性」研究から発展したSGRAの新しい研究チーム「構想アジア」だった。 2010年夏、蓼科で開催された第38回フォーラム「Better City, Better Life」において、「人間の幸せとはなにか」を巡って白熱した議論が交わされた。引き続きそのテーマを探りたいと思い、北東アジア諸国間の少子高齢化問題と福祉制度の比較を通じて、人間の幸せを実現するための社会的な仕組みを探求することを、本フォーラムの主旨とした。 周知のように、昨年夏に日本では、生存しない100歳を優に超える高齢者の問題が発覚し、現在の福祉制度の限界を露出することになった。東アジアでは伝統的に家族・親族による養老が中心であったが、西欧的な近代化の波に乗って福祉制度が構築され、社会が一歩「進歩」したかのように見えた。しかし現在の福祉制度だけでは急速に進む少子高齢化問題や日本で言われている「孤独死」、「無縁社会」などの問題に対応できないのが現状である。日本だけではなく、韓国や中国でも同じような問題に直面しつつある。その実態はどうなっているのか、どのようにそれらの諸問題に対応すべきか。 まず本フォーラムの基調講演として、日本での福祉制度研究の第一人者である田多英範・流通経済大学経済学部教授が「日本における少子・高齢化問題」を題に、そもそも少子高齢化はなにゆえに起こったのか、あるいは現代社会にとって、より具体的にいえば福祉国家資本主義にとってそれはいかなる問題なのかについて、日本の戦後の歴史を踏まえて分かりやすく説明した。 続いて、東京大学人文社会系研究科の李蓮花客員研究員が「誰がケアするのか:東アジアにおけるケア・レジームと中国」を題に報告した。少子高齢化が急速に進行している北東アジア諸国における高齢者や子どもの「ケア」問題を取り上げ、ケアをめぐる政府-市場-家族の相互関係、すなわち「ケア・レジーム」のあり方について検討し、ケアという最も生活に近い問題を通して、北東アジア諸国の人々の「生の暮らし」を検討した。 第3報告は、本研究チームの新メンバーである羅仁淑・早稲田大学教育学部講師が「韓国における社会的企業政策は少子高齢化政策として充分といえるか?」を題に、福祉国家は貧困問題の解決に焦点を合わせていたが、少子高齢化という新しいファクターが登場し、従来の制度では十分に対応できず、福祉国家が機能不全状態に陥った。それを解決する方法論として、韓国では民間非営利セクターにも公的セクターにも属さない「社会的企業」が政府の失敗を補完する道として注目されていることを紹介した。   以上の報告を踏まえて休憩を挟んでパネル・ディスカッションが行われ、本研究チームの顧問である名古屋大学経済学研究科平川均教授が司会を担当した。 討論の前に、東南アジアにおける少子高齢化問題について二つの事例報告が行われた。一つは、「シンガポールの『結婚せよ産めよ増やせよ』政策について」というテーマで、SGRAの論客の1人であるシム チュン キャット日本大学講師が、シンガポールにおける少子高齢化問題に対する独裁政権の独特な対応について自分の体験を踏まえながら皮肉った表現で発表し、聴衆の爆笑を引き起こした。 もう一つの事例報告は、「まだ『人』が『口』でないフィリピン」という題で、F.マキト・フィリピン・アジア太平洋大学研究顧問が発表した。東北アジアの諸国とは状況が若干違って、フィリピンでは「少子高齢化」の問題が今現在では発生していない。無縁社会もない。しかし、フィリピンで問題になっているのは数多い出稼ぎ労働者が海外で働き、その収入に頼る経済になっていることであり、必要なのは国内の産業基盤の確立と雇用確保の問題であると指摘した。 その後会場との質疑応答が行われた。限られた時間であったが多くの質問が寄せられて、参加者の少子高齢化問題や福祉問題に関する関心の高さを示した。 本フォーラムは日曜日に開催と言うこともあって、参加者が少ないことを心配していたが、40名以上も参加してくれて良かったと思う。フォーラム終了後は恒例によりキャフェテリアで懇親会が開催され、報告者の諸先生を囲んで熱い議論が交わされた。 当日の写真を下記よりご覧ください。 馮凱撮影      全振煥撮影 --------------------------------- <李 鋼哲(り・こうてつ)☆ Li Kotetsu> 「構想アジア」研究チーム・チーフ。1985年中央民族学院(中国)哲学科卒業。91年来日、立教大学経済学部博士課程修了。東北アジア地域経済を専門に政策研究に従事し、東京財団、名古屋大学などで研究、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、現在、北陸大学教授。日中韓3カ国を舞台に国際的な研究交流活動の架け橋の役割を果たしている。SGRA研究員。著書に『東アジア共同体に向けて―新しいアジア人意識の確立』(2005日本講演)、その他論文やコラム多数。 --------------------------------- 2011年4月20日配信
  • 2011.03.09

    エッセイ282:金 雄煕「1300年前の東アジア地域交流とエスノセントリズム」

    (第10回日韓アジア未来フォーラム報告) 一年ほど前の2010年2月9日、韓国の慶州で「東アジアにおける公演文化の発生と現在:その普遍性と独自性」というテーマで第9回日韓アジア未来フォーラムが開催された。今年の2月は、その続編として日本の慶州とも言うべき奈良で奈良時代の仏教文化の日中韓三国流伝について検討する運びとなった。第10回フォーラムの正式なタイトルは「1300年前の東アジア地域交流」であった。 昨年度の慶州フォーラムで奈良から空輸してきた一升瓶の「春鹿」が目の前で消えてしまう大事件があったのは記憶に新しい。今回のフォーラムは、武蔵野美術大学の陸戴和さんのご案内で興福寺及び国宝館を見学することから始まったが、目玉は今西酒造「春鹿」の酒蔵見学及び利き酒だったのかもしれない。これできっと遺恨を散ずることに成功したのではないかと思う。もちろん、三日連続の日本の素晴らしい仏教文化や世界遺産の見学も貴重な経験だったが(個人的には三日でこんなにたくさんの仏さんに出会ったのはこれまでもなかったし、これからもないだろうと思う。)、「春鹿」でちゃんとけじめをつけることができたのもよかった。 フォーラム当日、私の予想からしては「満員御礼」に近いレベルの聴衆に驚いたし、講演内容の整合性にも感動を覚えた。いま考えてみると、本当に形式、内容、そして番外の三拍子が揃った素晴らしいフォーラムが出来たと思う。今回のフォーラムで、私はとりわけ文化交流やその解釈においてはエスノセントリズム(ethnocentrism、自民族中心主義、自文化中心主義)が付きまとうものなのかという問題について考えてみた。 奈良という地名の由来については朝鮮半島起源説があり、韓国人の間では結構受けがいいようだ。韓国語で「なら」と発音される言葉は日本語の「国」を意味する。韓国語の「なら」が日本に渡って当て字され、奈良となったというわけだ。百済(くだら)の日本語読みについても同様の文脈で説明することができる。大きいという意味の韓国語である「クン」が「なら」の前に付くと大きい国を意味するが、「くんなら」から「くだら」へと自然に読み方が変わったというのだ。当時の日本にとって百済は大きい国であったわけだ。この類のものは決して少なくない。 韓国で地域によっては奈良漬(ならづけ)という言葉が今でも通じる。日本とまったく同じことを指しているのだが、日本帝国時代の名残といって言葉の使用には慎重さを要する。日韓交流の歴史的な経緯を考えると、「なら」という言葉に込められている二重の含意はそれほど驚きに値しないものなのかもしれない。 昨年奈良を中心に開催された一連の平城京遷都1300年の祝賀イベントからも覗えるように、奈良時代には唐の都長安を中心とした東アジア文化圏が形成されていた。名古屋大学の胡潔さんの発表によると、仏教・律令・漢字などがこの文化交流圏の共通基盤をなしており、国家間の外交を担う「遣隋使」、「遣唐使」、「渤海使」、「新羅使」などの使者、唐の文化を学ぶために派遣された学生・学問僧達が中国、朝鮮半島、日本の間を行き来し、外交や文化の伝播の役割を果たしていた。既に1300年前からこの地域には素晴らしい文化交流があったのだ。 このあたりで韓国伝統文化学校の金尚泰さんによる仏教文化に関する興味深い発表を紹介しよう。古代東アジア地域における双搭式伽藍配置の背景としては護国伽藍や密教関連の伽藍が挙げられるが、このような空間構成の原理は日本の双搭伽藍においてもその関連性を見出すことができるという内容である。7世紀から8世紀の東アジア地域では仏教が盛行し、寺院では、二つの塔を金堂の前に配置する「双搭式伽藍配置」が流行したという。しかし、中国では、このような形式の伽藍配置として現存している事例はまだ確認されていない。韓国の場合は、多くの寺院がこのような配置を継承しており、奈良(西の京)の薬師寺の伽藍配置のモデルとなったという。 統一新羅時代の朝鮮半島で花を咲かせた双搭伽藍が中国とは別の独自なルートで日本に影響を及ぼしたということが指摘されているわけだ。ややもすれば1300年前の仏教をめぐる素晴らしい交流文化がエスノセントリズムに染められかねないところでもあった。金尚泰さんは最後まで中庸を守りきったと思われるが、エスノセントリズムの甘い誘惑から自由にいられる韓国人はどのぐらいいるだろうか。 以上の話は、仏教文化には門外漢である一韓国人として、あくまでも韓国を愛し、真の日韓交流を求める立場からの自己批判でもある。ところが、いうまでもなく、エスノセントリズムは韓国人の専有物ではあるまい。異文化交流には常に自文化中心主義の落とし穴が隠されている。日韓アジア未来フォーラムは、これまでそうだったように、これからもエスノセントリズムという共通の敵と戦いながら東アジア地域交流を積極的に進めていく場になってほしい。 -------------------------- <金 雄熙(キム・ウンヒ)☆ Kim Woonghee> ソウル大学外交学科卒業。筑波大学大学院国際政治経済学研究科より修士・博士。論文は「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。韓国電子通信研究院を経て、現在、仁荷大学国際通商学部副教授。未来人力研究院とSGRA双方の研究員として日韓アジア未来フォーラムを推進している。 ------------------------- フォーラムのプログラム等はここからご覧ください。 フォーラムの写真は下記よりご覧ください。  金ミンスク撮影  金 香海撮影  葉 文昌撮影 2011年3月9日配信
  • 2011.02.15

    レポート第58号 「鹿島守之助とパン・アジア論への一試論」

    SGRAレポート58号本文 SGRAレポート58号表紙   投稿論文(日本語・英語合冊版) 平川 均 「鹿島守之助とパン・アジア論への一試論」 Dr. Morinosuke Kajima and Pan-Asianism 2011年2月15日発行   <はじめに> 今日、鹿島守之助は、鹿島建設元社長として昭和期を代表する卓越した実業家であると同時に政治家、学者でもあった人物として知られている。彼の経歴は極めて多彩であり、経営者であると同時に戦後18年間にわたり自民党の国会議員であった。また、外交研究者でもありほぼ生涯にわたって執筆を続け、大戦後は自らの著作を含めて日本外交に直接間接に関わる膨大な出版活動を行った。彼は日本外交の公的研究機関である国際問題研究所の開設で主要な役割を果たし、自らも平和研究のための鹿島平和研究所を創設して、戦後における日本外交と外交研究に多大な足跡を残した。   しかし、彼が1920年代後半以降生涯を通じて、独特なアジア主義者として「アジア連盟」あるいは「アジア共同体」の理想を追求した人物であったことを知る人は少ない。彼が73年に、フランスの元首相エドワード・エリオ(Edouard Herriot)による25年1月の議会演説に準えて、かつての生家・永富家の一角に「わが最大の希願は、いつの日にかパンアジアの実現を見ることである」と刻んだ碑を建立していたことを知れば、意外に思う人がほとんどであろう。実際、彼の国際政治や外交に関する膨大な著作や政治活動の軌跡を辿るならば、彼は確かに「汎アジア」「パン・アジア」を悲願としており、大戦後の多彩な社会活動も彼の思想と深く関っている。 こうしてそのことは、われわれに多くの関心を呼び起こす。   彼のアジア主義はどのような思想であり、彼をその思想に駆り立てたものは何か、彼の思想が「大東亜共栄圏」によって象徴される日本のアジア侵略の試練とどう関り、その試練をどう潜り抜けてきたか、彼の構想が戦後むしろ省みられないできたのは何故か、などである。 東アジア共同体への関心が21世紀に入って急速に高まっている現在、鹿島守之助のパン・アジア論に光を当てることによって、今日の東アジア共同体に資する何かを発見できるのではないか。以下ではほぼ時代に沿って鹿島のパン・アジア論の生成と変遷をみた後、その論理の特徴を確認したい。そのことによって上述の疑問の幾つかに回答を試みたい。
  • 2011.02.01

    レポート第57号「ポスト社会主義時代における宗教の復興」

      SGRAレポート57号本文 SGRAレポート57号表紙   第39 回SGRAフォーラム講演録 「ポスト社会主義時代における宗教の復興」 2011年12月30日発行   <もくじ> 【発表1】問題提起と背景説明:社会主義体制下の宗教政策とポスト社会主義の世界 エリック・シッケタンツ(東京大学大学院人文社会研究科特任研究員)   【発表2】ロシア連邦におけるキリスト教の興隆:ポスト社会主義ロシアにおける「宗教復興」 井上まどか(清泉女子大学キリスト教文化研究所客員研究員)   【発表3】中央アジアにおけるイスラームの復活 ティムール・ダダバエフ(筑波大学大学院人文科学研究科准教授)   【発表4】中国のキリスト教:土着化の諸段階とキリスト教の社会的機能 ミラ・ゾンターク(立教大学文学部キリスト教学科准教授)   【パネルディスカッション】ポスト社会主義時代における宗教の復興 進行:島薗進(東京大学文学部宗教学科教授) パネリスト:陳継東(武蔵野大学人間関係学部准教授)および上記講演者  
  • 2011.01.26

    第40回SGRAフォーラム「東アジアの少子高齢化問題と福祉」へのお誘い

    下記の通り第40回SGRAフォーラムを開催します。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。当日参加も受付けますが、準備の都合上、できるだけ事前にお知らせくださいますようお願いします。SGRAフォーラムはどなたにも参加いただけますので、ご関心をお持ちの皆様にご宣伝いただきますようお願い申し上げます。 日時:2011年3月6日(日)  午後2時30分~5時30分 その後懇親会 会場:東京国際フォーラムガラス棟G409会議室 申込み・問合せ:SGRA事務局  電話:03-3943-7612  ファックス:03-3943-1512  Email:[email protected] 参加費: 無料(フォーラム後の懇親会は、賛助会員・特別会員1000円・非会員2000円) 【フォーラムの趣旨】 SGRAの新しい研究チーム「構想アジア」が初めて担当するフォーラム。 2010年夏、日本で生存しない100歳を優に超える高齢者の問題が発覚し、現在の福祉制度の限界を露出することになった。東アジアでは伝統的に家族・親族による養老が中心であったが、西欧的な近代化の波に乗って福祉制度が構築され、社会が一歩「進歩」したかのように見えた。しかしながら、そのような日本を先頭に少子高齢化が急速に進んでいる。韓国や中国はこれから日本以上に深刻な問題に直面するだろう。国家が国民福祉の全てを担うことは既に限界に達し、福祉を社会で支えていこうという動きが始まっている。日本はまだ消極的だが、韓国では既に社会的企業育成法を制定し、国が積極的に育成を始めている。東南アジアも同じような傾向が起こるだろう。このような状況のなかで、東アジア的文化・思想を、近代化思想や制度と結合しながら、東アジア諸国の国情に相応しい高齢福祉社会の在り方を検討したい。 【プログラム】 詳細はここをご覧ください。 総合司会:李 鋼哲(北陸大学未来創造学部教授) 【基調講演】田多英範(流通経済大学経済学部教授) 「日本における少子・高齢化問題」 【報告1】李 蓮花(東京大学人文社会系研究科客員研究員) 「誰がケアするのか:東アジアにおけるケア・レジームと中国」 【報告2】羅 仁淑(国士舘大学政経学部非常勤講師) 「韓国における社会的企業政策は少子高齢化政策として充分といえるか? 」 【パネルディスカッション】 進行:平川 均(名古屋大学経済学研究科教授) 討論1:「シンガポールの『結婚せよ産めよ増やせよ』政策について」 シム チュン キャット(日本大学・日本女子大学非常勤講師) 討論2:「まだ『人』が『口』でないフィリピン」 F.マキト(フィリピン・アジア太平洋大学研究顧問) 質疑応答
  • 2011.01.25

    レポート第56 号「中国の環境問題と日中民間協力」

    レポート56号本文 レポート56号表紙   中国語版レポート56号本文 中国語版レポート56号表紙   第5回チャイナフォーラム講演録 「中国の環境問題と日中民間協力」 第一部(北京):北京の水問題を中心に 第二部(フフホト):地下資源開発を中心に 2011年5月10日発行   <もくじ> 【基調講演】「得ることと失うことと」 高見邦雄(緑の地球ネットワーク事務局長)   【発表1】「水:北京の未来発展への影響と制約」 汪 敏(苗東連合規画設計顧問有限公司高級工程師)   【発表2】「水を節約するために私たちができること」 張 昌玉(中国人民大学外国語学部副教授)   質疑応答(北京)   【発表3】「鉱工業開発と内モンゴル草原の環境問題に関する現状分析」 オンドロナ(内モンゴル大学民族学社会学学院副教授)   【発表4】「アルタン・オナガー(黄金の仔馬)は何処へ飛んでいったのか:資源開発と少数民族の生存について」 ブレンサイン(滋賀県立大学人間文化学部准教授)   質疑応答(フフホト)  
  • 2011.01.14

    レポート第55号「Better City, Better Life: 東アジアにおける都市・建築のエネルギー事情とライフスタイル」

    SGRAレポート第55号本文 SGRAレポート第55号表紙   第38回SGRAフォーラムin 蓼科講演録 「Better City, Better Life: 東アジアにおける都市・建築のエネルギー事情とライフスタイル」 2010年12月15日発行   SGRA_Report_55(English)TEXT SGRA_Report_55(English)COVER   The 38th SGRA Forum Better City, Better Life: Energy Situation of Cities/Buildings and Lifestyle in East Asia   <もくじ> 【問題提起】 「東アジアにおける都市・建築のエネルギー事情とライフスタイル」        高 偉俊(北九州市立大学)   【基調講演】 「東アジアの都市・建築・住宅におけるエネルギー使用と生活の質」        木村建一(国際人間環境研究所)   【発表1】(インドネシア) 「熱帯地域における都市の持続性とエネルギー研究:持続性と省エネにおける低所得層の為の高層ビル開発の影響」        Mochamad Donny Koerniawan(バンドン大学)   【発表2】(フィリピン) 「メガ都市マニラにおける環境的に持続可能な交通への挑戦」        Max Maquito(フィリピン・アジア太平洋大学)   【発表3】(ベトナム) 「ベトナムの都市における省エネ対策」        Pham Van Quan(ハノイ建築大学)   【発表4】(台湾) 「台湾のエネルギー消費、CO2排出、及び交通事情」        葉 文昌(島根大学)   【発表5】(タイ) 「タイにおけるエネルギーを選択から義務へ」        Supreedee Rittironk(タマサート大学)   【発表6】(韓国) 「エネルギー・環境の視点からみた韓国の都市におけるある1日の日常生活及びその変化」        郭 栄珠(土木研究所)   【発表7】(中国) 「エンジンニアの視点から見る地球温暖化及び都市インフラ建設について」        王 剣宏(日本工営中央研究所)   【パネルディスカッション】        進行は福田展淳(北九州市立大学)、パネリストは上記講演者