SGRAイベントの報告

第40回SGRAフォーラム「東アジアの少子高齢化問題と福祉」報告

2011年3月6日(日)午後、東京国際フォーラムガラス棟会議室で標記フォーラムが開催された。担当は「日本の独自性」研究から発展したSGRAの新しい研究チーム「構想アジア」だった。

2010年夏、蓼科で開催された第38回フォーラム「Better City, Better Life」において、「人間の幸せとはなにか」を巡って白熱した議論が交わされた。引き続きそのテーマを探りたいと思い、北東アジア諸国間の少子高齢化問題と福祉制度の比較を通じて、人間の幸せを実現するための社会的な仕組みを探求することを、本フォーラムの主旨とした。

周知のように、昨年夏に日本では、生存しない100歳を優に超える高齢者の問題が発覚し、現在の福祉制度の限界を露出することになった。東アジアでは伝統的に家族・親族による養老が中心であったが、西欧的な近代化の波に乗って福祉制度が構築され、社会が一歩「進歩」したかのように見えた。しかし現在の福祉制度だけでは急速に進む少子高齢化問題や日本で言われている「孤独死」、「無縁社会」などの問題に対応できないのが現状である。日本だけではなく、韓国や中国でも同じような問題に直面しつつある。その実態はどうなっているのか、どのようにそれらの諸問題に対応すべきか。

まず本フォーラムの基調講演として、日本での福祉制度研究の第一人者である田多英範・流通経済大学経済学部教授が「日本における少子・高齢化問題」を題に、そもそも少子高齢化はなにゆえに起こったのか、あるいは現代社会にとって、より具体的にいえば福祉国家資本主義にとってそれはいかなる問題なのかについて、日本の戦後の歴史を踏まえて分かりやすく説明した。

続いて、東京大学人文社会系研究科の李蓮花客員研究員が「誰がケアするのか:東アジアにおけるケア・レジームと中国」を題に報告した。少子高齢化が急速に進行している北東アジア諸国における高齢者や子どもの「ケア」問題を取り上げ、ケアをめぐる政府-市場-家族の相互関係、すなわち「ケア・レジーム」のあり方について検討し、ケアという最も生活に近い問題を通して、北東アジア諸国の人々の「生の暮らし」を検討した。

第3報告は、本研究チームの新メンバーである羅仁淑・早稲田大学教育学部講師が「韓国における社会的企業政策は少子高齢化政策として充分といえるか?」を題に、福祉国家は貧困問題の解決に焦点を合わせていたが、少子高齢化という新しいファクターが登場し、従来の制度では十分に対応できず、福祉国家が機能不全状態に陥った。それを解決する方法論として、韓国では民間非営利セクターにも公的セクターにも属さない「社会的企業」が政府の失敗を補完する道として注目されていることを紹介した。
 
以上の報告を踏まえて休憩を挟んでパネル・ディスカッションが行われ、本研究チームの顧問である名古屋大学経済学研究科平川均教授が司会を担当した。

討論の前に、東南アジアにおける少子高齢化問題について二つの事例報告が行われた。一つは、「シンガポールの『結婚せよ産めよ増やせよ』政策について」というテーマで、SGRAの論客の1人であるシム チュン キャット日本大学講師が、シンガポールにおける少子高齢化問題に対する独裁政権の独特な対応について自分の体験を踏まえながら皮肉った表現で発表し、聴衆の爆笑を引き起こした。

もう一つの事例報告は、「まだ『人』が『口』でないフィリピン」という題で、F.マキト・フィリピン・アジア太平洋大学研究顧問が発表した。東北アジアの諸国とは状況が若干違って、フィリピンでは「少子高齢化」の問題が今現在では発生していない。無縁社会もない。しかし、フィリピンで問題になっているのは数多い出稼ぎ労働者が海外で働き、その収入に頼る経済になっていることであり、必要なのは国内の産業基盤の確立と雇用確保の問題であると指摘した。

その後会場との質疑応答が行われた。限られた時間であったが多くの質問が寄せられて、参加者の少子高齢化問題や福祉問題に関する関心の高さを示した。

本フォーラムは日曜日に開催と言うこともあって、参加者が少ないことを心配していたが、40名以上も参加してくれて良かったと思う。フォーラム終了後は恒例によりキャフェテリアで懇親会が開催され、報告者の諸先生を囲んで熱い議論が交わされた。

当日の写真を下記よりご覧ください。

馮凱撮影      全振煥撮影

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<李 鋼哲(り・こうてつ)☆ Li Kotetsu>
「構想アジア」研究チーム・チーフ。1985年中央民族学院(中国)哲学科卒業。91年来日、立教大学経済学部博士課程修了。東北アジア地域経済を専門に政策研究に従事し、東京財団、名古屋大学などで研究、総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、現在、北陸大学教授。日中韓3カ国を舞台に国際的な研究交流活動の架け橋の役割を果たしている。SGRA研究員。著書に『東アジア共同体に向けて―新しいアジア人意識の確立』(2005日本講演)、その他論文やコラム多数。
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2011年4月20日配信