SGRAプロジェクト

  • レポート第91号「ポスト・コロナ時代の東アジア」

      SGRAレポート第91号     第13 回 SGRA-V カフェ 「ポスト・コロナ時代の東アジア」 2020年11月20日発行     <カフェの趣旨> 世界を震撼させた 2020 年の新型コロナウイルスが世界システムをかく乱し、「ポスト・コロナ時代」の国際関係の再構築が求められる中、東アジアはコロナの終息を待たずに、すでに激しく動き始めている。 コロナが発生するまで、中国のアメリカと日・韓の分断戦略はある程度の効果をもたらしてきた。しかし、コロナ問題と香港問題によって「米中新冷戦」が一気に進み、今まで米中間のバランスの維持に腐心してきた日本及び韓国に選択が迫られる。とりわけ日中の曖昧な「友好」関係の継続は限界に達し、日本の主体性ある「新アジア外交戦略」が模索され始めている。 中国による「国家安全法」の強制導入で、香港は一気に「中国システム」の外延をめぐる攻防の激戦地になり、米中新冷戦の最前線となった。香港という戦略上の緩衝地帯を喪失する台湾は、「台湾問題を解決する」中国からの圧力が一段と高まり、アメリカとの安全保障上の関係強化を一層求めることなり、台湾海峡は緊迫の時代に回帰する。 「ポスト・コロナ時代」における「米中新冷戦」の深まりはもはや回避できない。     <もくじ> 【開会挨拶】 SGRAカフェのオンライン開催にあたって 今西淳子(渥美国際交流財団常務理事)   【講演】 ポスト・コロナ時代の東アジア 林 泉忠(武漢大学日本研究センター教授・センター長)   【コメント1】 災い転じて福となす――新しい協調関係を 下荒地 修二(元外交官・大使)   【コメント2】 歴史の「本当の」終わり?――韓国の視座から 南 基正(ソウル大学日本研究所教授)   全体討論・懇親会 進行:林 泉忠 発言者(発言順) 高原 明生 (東京大学) 松田 康博 (東京大学東洋文化研究所) 菱田 雅晴 (法政大学) 小笠原 欣幸(東京外国語大学) 沼田 貞昭 (元外交官) 若林 一平 (ふくしま再生の会)   著者略歴   あとがきにかえて1 李 彦銘   あとがきにかえて2 林 泉忠
  • 第14回SGRAチャイナVフォーラム「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」へのお誘い

    下記の通りSGRAチャイナVフォーラムをオンライン(Zoom)で開催いたします。 参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 今回は、聴講者はご自分のカメラもマイクもオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。   テーマ:「東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」 日時:  2020年11月1日(日)午後3時~4時30分(北京時間)/午後4時~5時30分(東京時間) 方 法:  Zoom Webinar による 主 催: 渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 協 力: 清華東亜文化講座、北京大学日本文化研究所 後 援: 国際交流基金北京日本文化センター   ※参加申込(クリックして登録してください) お問い合わせ:SGRA事務局( sgra@aisf.or.jp +81-(0)3-3943-7612)     ■フォーラムの趣旨 江戸時代後期以降、日本には西洋の諸理論が流入し、絵画においても、それまで規範であった中国美術の受容とそれを展開していく過程に西洋理論が影響を及ぼすようになっていった。一方、絵画における東洋的な伝統や理念が西洋の画家たちに影響を与え、さらにそれが日本や中国で再評価されるという動きも起こった。本フォーラムでは、その複雑な影響関係を具体的に明らかにすることで、日本近代美術史を東洋と西洋の思想が交錯する場として捉え直し、東アジアの多様な文化的影響関係を議論したい。日中同時通訳付き。   ■プログラム 総合司会:孫 建軍(北京大学日本文化学部) 開会挨拶:今西淳子(渥美国際交流財団)   【講演】稲賀繁美(国際日本文化研究センター) 「中国古典と西欧絵画との理論的邂合—東西思想の接触圏としての日本近代美術史再考」   【討論】 劉 暁峰(清華大学歴史系) 塚本麿充(東京大学東洋文化研究所) 王 中忱(清華大学中文系)/ 高華鑫(中国社会科学院文学研究所)代読 林 少陽(香港城市大学中文及歴史学科)   【質疑応答】   閉会挨拶:劉 暁峰(清華大学歴史系)   ※プログラムの詳細は、下記URLをご参照ください。 日本語  中国語   ■発表要旨 渡邊崋山から橋本関雪までの画人がいかに中国の美術理論を西洋理論と対峙するなかで咀嚼したかを検討する。とりわけ「気韻生動」の概念がいかに西洋の美学理論に影響を与えたかをホイスラーからアーサ・ダウに至る系譜に確認するとともに、それが大正期の表現主義の流行のなかで、いかに日本近代で再評価され、「感情移入」美学と融合をとげ、更にそれが、豊子愷らによって中国近代に伝播したかを鳥瞰する。この文脈でセザンヌを中国美学に照らして評価する風潮が成長し、またそれと呼応するように、石濤が西欧のキリスト教神秘主義と混線し、東洋研究者のあいだで評価されるに至った経緯も明らかにする。   ※なお、本フォーラムでは講演を契機とした活発な議論が展開されることを期待し、事前に講演内容に関連する以下の論文を紹介する。 ◆「岡倉天心」関係: 稲賀繁美「天心・岡倉覚三と五浦―イギリス・ロマン主義特輯号の余白に―」 稲賀繁美「岡倉天心とインド―越境する近代国民意識と汎アジア・イデオロギーの帰趨」 ◆橋本関雪の周辺: 稲賀繁美「表現主義と気韻生動―北清事変から大正年末に至る橋本関雪の軌跡と京都支那学の周辺―」 ◆近代の南画復興と日中交流: 稲賀繁美著 王振平訳「論豊子愷《中国美術在現代芸術上勝利》与日訳作品在接受西方思想時的媒介作用」 ◆サン・ディエゴでの中日美術交流に関する会議の報告: 稲賀繁美「日本美術と中国美術の<あいだ>(上)石橋財団国際シンポジウム(2018年11月2-4日)に出席して」 稲賀繁美「日本美術と中国美術の<あいだ>(下)石橋財団国際シンポジウム(2018年11月2-4日)に出席して」   [講師略歴] 稲賀繁美(いなが・しげみ) 国際日本文化研究センター 教授。1988年東京大学大学院人文科学研究科比較文学比較文化専攻博士課程単位取得退学、1988年パリ第七大学 (新課程) 博士課程修了。博士(文学)。東京大学教養学部助手、三重大学人文学部助教授を経て、1997年国際日本文化研究センター助教授、2004年より国際日本文化研究センター教授。専門は比較文学比較文化、文化交流史。主な単著書に『絵画の臨界 : 近代東アジア美術史の桎梏と命運』、名古屋大学出版会、2014年1月、『絵画の東方 オリエンタリズムからジャポニスムへ』、名古屋大学出版会、480頁、1999年、『絵画の黄昏:エドゥアール・マネ没後の闘争』、名古屋大学出版会、467頁、1997年、共著書に(編著) 『東洋意識:夢想と現実のあいだ 1894-1953』、ミネルヴァ書房、京都、2012年4月20日、The 38th International Research Symposium: Questioning Oriental Aesthetics and Thinking: Conflicting Visions of “Asia” under the Colonial Empires International Research Symposium Proceedings38, International Research Center for Japanese Studies, Kyoto, 31 March 2011(『東洋美学と東洋的思惟を問う:植民地帝国下の葛藤するアジア像 -- 国際シンポジウム 第38集 --』 国際研究集会報告書 38、国際日本文化研究センター、京都、2011年3月31日)、(編著) 『異文化理解の倫理にむけて』、名古屋大学出版会、名古屋、2000年がある。  
  • エッセイ647:尹在彦「SGRAカフェを終えて:半年間のコロナ対策の教訓と日本モデル」

      米国の調査会社ピュー・リサーチが最近、興味深い調査結果を発表した。14カ国を対象としたこの調査では「感染症の拡散を重大な脅威と認識しているか」が問われた。どの国が最も強く脅威を感じていたのか。1位は89%が「重大で脅威である」と答えた韓国で、2位は88%の日本だった。誤差を考えるとコロナへの両国民の脅威認識はそれほど変わらないと言って良いだろう(調査期間は6~8月)。他に米国78%、英国74%で、最下位はドイツの55%だった。極めて緩い対策を取ったスウェーデンも56%と低かった。   韓国のマスコミの報道ぶりや政府の派手な対応を見ていると高い脅威認識は十分うなずけるものだ。しかし、日本でこれほど脅威認識が高いのは意外だった。マスコミのコロナ報道は抑制的で、政府や自治体の対応も急速に緩くなっていったからだ。ここで浮き彫りになったのは、日本のコロナ対策というのは「非常に高い脅威を感じた個々人の努力で国全体を牽引している」ということだ。強制的措置がなかったにもかかわらず、JR各社が過去最大の赤字に陥るほど人々の移動は急減した。「日本モデル」というものがあるとするならば、それは個々人の行動変容の徹底ぶりだろう(これはたやすく真似できるものでないため、本当に「モデル」と呼べるかには疑問が残るが)。   今回のSGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」で感じたのも、各国のリポーターの報告と日本のケースとの「温度差」だ。ベトナムを除いた5カ国(日本・韓国・台湾・インド・フィリピン)は民主主義体制だが、移動制限や個人情報を基にした追跡技術が用いられている。「コロナ拡散を抑え込むため」という名目で一定程度、人権侵害が許されている。罰金刑を伴う移動制限やマスク義務化、営業制限は欧米諸国でも導入されている。もちろん、韓国や台湾は過去の失敗経験が一種の「社会的予防接種」として効果を発揮した側面も否めない。社会的合意のもとでの規制措置が採用された。数多くの島から成り立っているフィリピンや、膨大な国土と人口を擁するインドも強力な移動制限に踏み切るしかなかった。   日本は強硬路線をとらなかったものの欧米諸国のような「感染爆発」は起きていない。個人的には、コロナ禍の中で注意深く観察しているのが「コロナ・マスク否定論者の集会(反ロックダウンデモ等の反政府集会)」だ。そういった集会への参加者はいわば「反知性主義者」とも言うべき人々だが、それにしても欧米諸国が大切にしてきた価値を反映したものと言えなくもない。   また、少なからぬ日本のマスコミは韓国の感染症対策を「全体主義的」という論調で報じていたが、筆者は「韓国も民主主義国」と信じているため、やりすぎた措置と考えられる時にはいつでも激しい反発が出ると見ていた。それが8月15日の「反政府デモ」として表れる。デモ参加者については極めて愚かな行動だったとは思うが、欧米とは違う形とはいえ韓国も民主主義体制であることを証明したと思う。   それを考えると、日本の場合はやはり「異例」としか言いようがない。強権的な措置もなかったが、世論調査の半数以上が政府の対策に不満を表しつつも市民らの見える形での反発は非常に弱かった。渋谷で「ノーマスクイベント(クラスターフェス)」は開かれたものの、欧米や韓国と比較すると「みすぼらしい」ものだった。「自粛」という形での「自発的移動制限」が実行され、お盆休みにも新幹線の利用は大幅に減少した。これは個人の自由を強調する欧米諸国や権威主義体制の名残のある韓国・台湾にも、権威主義体制の中国・ベトナムにも属さない「日本的特徴」だ。   政府やマスコミとは別に「強く脅威を感じる個々人の対応が日本のコロナ対応を引っ張ってきた」といえるのではないか。否定的にのみ捉えられるいわゆる「自粛警察」もその意味では「日本モデル」を構成する一部分だ。地方のみならず、豊島区役所の職員さえ自粛警察と化した現象(営業中の飲食店を脅した疑いで逮捕)は見逃せない。他国では自粛警察の役割を本物の警察が担っており、ここでも日本の特殊性は鮮明に見えてくる(現代刑法は私的制裁を禁じるため、自粛警察をそのまま助長するわけにはいかないが)。ある意味、金田一耕助が警察より先に事件を解決する文化の継承(?)と言えなくもない(ちなみに筆者は横溝正史のファンだ)。   しかしながら、日本の緩い政策が経済的後退を防げなかった点は必ず考慮しなければならない。筆者の住んでいる国立市や隣の立川市の繁華街では閉店が相次いでいる。老舗の文具店(創業81年)やステーキ店(同30年)等が閉店してしまった。ある程度コロナの脅威を抑え込まない限り、経済の持ち直しは困難になるだろう。   SGRAカフェの報告から明らかになったのも、経済と防疫の両立が容易ではないということだ。   半年間のコロナウイルスとの戦いからの教訓は「感染拡大期に経済と防疫の両立は極めて困難であること」だ。コロナが弱毒化した明確な証拠やワクチンの開発がない間は、これは変わらないだろう。恐らく来年も今年のような「抑制と拡大の繰り返し」が続くのではないか。これまで「希望的観測」が次々と裏切られてきた経験からは、やはりそう考えざるを得ない。最悪を想定した上でのコロナ対策がむしろ最も効果的かもしれない。   当日の写真はこちらよりご覧いただけます。   当日のアンケート集計結果はこちらご覧いただけます。   当日の録画(YouTube)を下記リンクよりご覧いただけます。     英語版はこちらよりご覧いただけます。     <尹在彦(ユン・ジェオン)Jaeun_YUN> 2020年度渥美国際交流財団奨学生、一橋大学大学院博士後期課程。2010年、ソウルの延世大学社会学部を卒業後、毎日経済新聞(韓国)に入社。社会部(司法・事件・事故担当)、証券部(IT産業)記者を経て2015年、一橋大学公共政策大学院に入学(専門職修士)。専攻は日本の政治・外交政策・国際政治理論。共著「株式投資の仕方」(韓国語、2014年)。     2020年10月1日配信  
  • 尹在彦「第14回SGRAカフェ『国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策』報告」

      現在、全世界が様々な形でコロナウイルスと向き合っている。各国政府はもちろん、あらゆる団体や個々人まで何らかの対応を取らざるを得ない状況だ。ウイルスの危険性が完全には判明していないため、気を緩めることも難しい。世界中どこでもこのような認識を前提に、対策がとられている。   2020年9月19日(土)に開かれた今回のSGRAカフェのテーマ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」もまさにここに焦点が当てられていた。渥美財団ホールを会場としてスタッフを含め20人余りが参加し、世界各地からZoomでの参加者も50人に達した。誰もが認識している現実問題のため高い関心が寄せられた。15時にスタートした今回のSGRAカフェは17時に公式イベント(講演・報告・質疑応答)が終了し、後半の「懇親会」(1時間)では自由な雰囲気の中で議論が行われた。   まず、日本、とりわけ東京の対応について最前線で戦っている大曲貴夫先生(国立国際医療研究センター国際感染症センター長)よりお話をいただいた。クルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス号)や第一波への対応の問題点を踏まえ、次第に対応が改善されていった。検査体制が整備され、待機時間は飛躍的に減らされた。まだ特効薬はないものの、治療法が改善された結果7月から始まった第二波では、死亡者や重症者多少減少した(高齢者は依然として油断はできない)。   大曲先生の30分間の講演後、韓国(金雄熙_仁荷大学教授)、台湾(陳姿菁_開南大学副教授)、ベトナム(チュ・スワン・ザオ_ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員)、フィリピン(ブレンダ・テネグラ_アクセンチュアコンサルタント)、インド(ランジャナ・ムコパディヤヤ_デリー大学准教授)の順で元渥美奨学生のみなさんの現地報告(Zoom)が続いた。   韓国からはIT技術を活用した追跡・隔離措置とともに、国内政治の複雑な状況がもたらした感染拡大についての説明があった。コロナ対応が単純に感染症対策にとどまらず、政治問題に飛び火する構図が良くわかる。初期からコロナを抑え込んでいた台湾からも、奏功したIT技術の役割とともに経済との両立問題(国境開放)が述べられた。ベトナムでは国を挙げての対策がとられたが、気のゆるみで第二波の際には苦戦した。現在は厳しい政策の下、落ち着きつつある。宗教的な儀礼としての疫病退散も紹介された。フィリピンとインドでは依然として感染拡大が続いている。フィリピンは数多くの出稼ぎ労働者の帰国という悩ましい問題を抱えながらコロナと戦っている。インドでもIT技術を通じたコロナ対策が導入されているものの人口の多さゆえに対応に苦慮している。   質疑応答(16時半より30分間)は会場とZoom接続の参加者の両方からリアルタイムで行われた。東京の満員電車問題、コロナの後遺症等についての質問が大曲先生に出された。満員電車の場合は、高いマスク着用率を考えると危険性はそれほど高くないが、後遺症については十分注意する必要があるとの説明があった。大曲先生も自らリポーターに積極的に質問を投げかけたのが印象的だった。質疑応答の後、会場+オンラインの「ハイブリッド懇親会」も用意され、比較的自由な雰囲気で各国の状況や教育現場の課題等の話が交わされた。   過去にお世話になったとある奨学財団では、9月にようやく顔合わせ会を開催したと聞く。それを考えると、渥美国際交流財団のスタッフの方々の安全かつ楽しい交流会への取り組みには感謝申し上げたい。今回のSGRAカフェはある意味、新たな試みとして他の交流団体にも十分参考となり得ると思う。司会としても有意義な経験だった。 (文責:尹在彦)   当日の写真はこちらよりご覧いただけます。   当日のアンケート集計結果はこちらご覧いただけます。   当日の録画(YouTube)を下記リンクよりご覧いただけます。   <尹在彦(ユン・ジェオン)Jaeun_YUN> 2020年度渥美国際交流財団奨学生、一橋大学大学院博士後期課程。2010年、ソウルの延世大学社会学部を卒業後、毎日経済新聞(韓国)に入社。社会部(司法・事件・事故担当)、証券部(IT産業)記者を経て2015年、一橋大学公共政策大学院に入学(専門職修士)。専攻は日本の政治・外交政策・国際政治理論。共著「株式投資の仕方」(韓国語、2014年)。   2020年10月1日配信
  • 李彦銘「第13回SGRAカフェ『ポストコロナ時代の東アジア』報告」

    今回のカフェはバーチャルカフェ(以下Vカフェ)という形をとり、延べ100名ちかくの参加が実現でき、SGRAカフェ史上最大規模となったといえよう。この成果は「ポストコロナ時代の東アジア」というタイムリーなテーマ、林泉忠先生をはじめとする講師陣、それからバーチャル形式という新しい実現手段の魅力を語ってくれた。   当日のVカフェは講演と懇親会の2部構成となったが、本レポートは講演内容を中心に報告し、懇親会については林先生のレポートに譲ろう。林先生の講演はまず現在の状況に対する見方、つまりグローバル時代の終焉から始まった。その具体例として、グローバルサプライチェーンの断絶や企業の自国内への回帰、人的交流の一時中断とナショナリズムの高揚、またウイルスに対する初動と「香港国家安全維持法」(国安法)の制定・実施をめぐって世界各国の中国に対する不信感が増長していることが挙げられた。   その後は、米中「新冷戦」が顕在化する状況における東アジア各国の関係性の変化について見解が述べられた。日韓にとっては、米中とどのようにバランスを維持していくのかが最大の問題であるが、中国が日韓と米国を分断させる戦略に乗り出している一方で、日韓の間で軋轢の深刻化が止まらない。日中は最近2年間の「疑似蜜月」関係から「中熱日冷」へと転換したと主張され、またこの日中友好の状態は主に中国主導によるものであったが、現在は日本の対中イメージが悪化する一途であり、習近平主席の国賓訪日もあやふやな状態になったと指摘された。中韓関係もまた、中国が主導しているように見え、韓国外交は主体性を持って臨んでいないと指摘された。   ではコロナが鎮静化したら中国の影響力は一気に強まるのか。まず香港に対し、中国政府は英米などの反発や批判を無視して権威主義体制へ移行させるだろう(1997年より以前の香港は行政主導+半植民地)。一方で台湾に対しては、新型コロナウイルス騒動は予想外の効果、つまり大陸と距離を維持することは悪いとは限らないという見方をもたらした。これは北京の「両岸融合」「恵台31カ条」のような急進的な政策による逆効果ともいえよう。これに加えて「香港統制」は台湾にさらなるプレッシャーをもたらし、また香港という緩衝地帯を失う結果、台湾の対米依存はさらに増すだろうという。   以上の議論を踏まえ、ポストコロナの時代は「新冷戦」時代が到来すると講演を結んだ。香港、台湾はこの新冷戦の激戦地になるだろう。11月の米大統領選の結果も注目しなければならないが、米国内では対中政策の合意がすでに出来上がっており、新冷戦はもはや回避できないと予測される。世界は米中2大ブロックに分割されるのか。今後日本に問われるのは主体性がある行動・リーダーシップである。   コメントとしてまず下荒地修二先生から、コロナの問題は国際社会に予想外のことをたくさんもたらし、相互不信もその一部ではあったが、現在はウイルスという共通敵にどう対処すればいいのかという段階に来ているではないかと指摘された。それから日中関係の改善は望まれる方向で、どちらが主導かということは重要ではなく、肝心なのは国際秩序をどのように建設的な方向へ持っていくのかであり、特に大国の間では議論をしなければならないと提起された。   南基正先生からは、ニューオーダー(new_order)としてポストコロナの国際秩序を考えるときに、国際政治のリアリズム理論の枠を超えなければならないと指摘された。コロナ問題によって各国では、アイデンティティ・ポリティックスから脱皮し、人々の生活を中心とする政治を構築する必要があることが浮き彫りになった。アイデンティティ・ポリティックスにこだわる結果、日韓関係には破綻が起るだろう。しかしコロナなど生活を中心とする政治の観点から見れば、ナショナリズムに訴えても問題は解決できない。アイデンティティやナショナリズムに訴えても票にならないことを、コロナは政治家に悟らせたのではないか。また政治家は政権のレガシーとして何を残すのかを考えるべきであり、特にミドルパワーの国々や日韓に期待したいという。   講演部分はここですでに1時間45分になり、一段落となった。個人的な感想は、まず長い時間をかけてさらに議論したい話題がたくさん出て、研究者として非常に興味深い集まりであった。もう一つは、一人の市民として、今後の国際秩序をどう展望し、そしてどう行動していけばいいのか、という大きな課題を改めて考えさせられたことである。一個人の力は本当に小さいものであり、そして懇親会でも指摘されたように、個人にとってアイデンティティは容易に越えられるものではない。まして政治情勢や情報制限、マイナスの歴史といった「人的操作」を受ければ、恨みや偏見が生まれやすい。しかしそこであきらめていいのか。この半年の間、外出自粛や会合自粛のなか、私も自分自身が閉塞感を感じたり事を悲観的にとらえやすくなったと感じたりしたが、そのバイアスで見落としてきた積極的な要素も現実に存在するのではないか。   英語版はこちら   当日の写真   <李彦銘(リ・イェンミン)LI_Yanming> 専門は国際政治、日中関係。北京大学国際関係学院を卒業してから来日し、慶應義塾大学法学研究科より修士号・博士号を取得。慶應義塾大学東アジア研究所現代中国研究センター研究員を経て、2017年より東京大学教養学部特任講師。       2020年8月20日配信
  • 第14回SGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」

    SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす皆さまに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺い議論をする<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回はオンラインZoomと渥美財団の会場とを繋ぎ、リアルとバーチャルを組み合わせて開催します。皆さまのご参加をお待ちしています。 ◆第14回SGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」 日時:2020年9月19日(土)15時00分~17時00分(日本時間) 参加方法:オンライン(Zoom)または渥美財団へご来訪かを参加登録時にお選びいただけます。 言語:日本語のみ 会費:無料 定員:オンライン:100名/渥美財団へご来訪:15名   (人数に達した時点で申込を締め切らせていただきます)   参加申込:こちらよりお申込みください お問合せ:sgra@aisf.or.jp ◇プログラム 14:45 Zoom接続開始 司会:尹 在彦 15:00 開会挨拶 15:10 講演:大曲 貴夫「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」 15:40 コメント(10分)&各国リポート5ヵ国(1人5分程度) 16:20 質疑応答(会場+オンライン) 17:00 終了 17:00~ご希望の方々によるZoom懇親会(18:00頃終了予定)   趣旨: 新型コロナウイルス(COVID-19)は世界を席巻し、各国は感染拡大防止と社会経済活動の両立を目指して試行錯誤を繰り返しています。日本でも一旦終息に向かうかに思われた感染も再び勢いを増し、先行きの不透明感は深まっています。一方で、新型コロナウイルスについての知見、研究成果も蓄積されつつあります。今回のSGRAカフェでは、国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫先生をお招きして新型コロナウイルスとはなにか、日本の新型コロナウイルス対策の特徴と現状についてのお話を伺うと共にアジア各国からのリポートを交えての対話を行います。更に「感染症とリスクコミュニケーション」、「防疫の国際協力」等の議論も行いたいと思います。   講演要旨:「国際的観点から見る日本の新型コロナウイルス対策」大曲 貴夫 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、新しく発生した感染症としてその診断、治療、感染防止対策が医療上の大きな課題となっている。そればかりでなく、この感染症が社会全般特に経済に及ぼす影響は極めて大きく、COVID-19の影響が今後数年以上継続すると予想されているなかで、この脅威に社会としてどのように対応するかは国際的な大きな課題となっている。日本では1月に患者発生が始まり、3-5月には第一波と呼ばれる多数の重症患者の発生に対応してきた。そして6月以降は軽症患者を中心とした新たな波への対応を迫られている。今回の講演では日本の現状と、今後この感染症にどのように向き合っていくべきかについて、私の意見をお伝えしたい。 ◇略歴 講演:大曲 貴夫(おおまがり のりお) 国立国際医療研究センター国際感染症センター長 理事長特任補佐、DCC科長感染症内科医長併任 聖路加国際病院内科レジデント 国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター長(兼任)   司会:尹 在彦(ユン ジェオン) 一橋大学大学院 国際関係論専攻/元新聞記者(毎日経済新聞・韓国) リスク・コミュニケーションや経済・移動制限政策を中心にコロナ時代における国際社会の変容をウォッチしている。   リポーター: 韓  国:金 雄熙(1996渥美奨学生) 仁荷大学国際通商学科教授。筑波大学 博士(国際政治経済学) 国際通商論を専攻するが国際政治経済、グローバリズムの展開も研究領域としている。   台  湾: 陳 姿菁(2002渥美奨学生) 開南大学副教授。お茶の水女子大学 博士(日本語教育)。日本語教育、中国語教育等の学習評価に焦点を当てている。   ベトナム : チュ スワン ザオ(2006渥美奨学生) ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員。総合研究大学院大学博士(文化人類学)。新型コロナウイルス感染症を背景に疫病と人類の文化・宗教との関わりに注目している。   フィリピン : ブレンダ テネグラ(2005渥美奨学生) アクセンチュアコンサルタント・チームリード。お茶の水女子大学博士(社会学)。 ジェンダー、海外出稼ぎ労働者、送金の複層的政治に関心がある。   イ ン ド:ランジャナ ムコパディヤヤ(2002渥美奨学生) デリー大学准教授。東京大学博士(宗教社会学)。現在、ポストコロナ時代における人間関係と教育問題に焦点を当てている。   プログラム
  • 第13回SGRA-Vカフェ「ポストコロナ時代の東アジア」へのお誘い

    SGRAでは、良き地球市民の実現をめざすみなさんに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺い議論をする<場>として、SGRAカフェを開催しています。今年は初めての試みとして、オンラインZoomによるSGRA-Vカフェを開催します。オンライン参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局宛てお申し込みください。 みなさまのご参加をお待ちしています。   ◆第13回SGRA-Vカフェ「ポストコロナ時代の東アジア」   日時:2020年7月18日(土)15時~16時30分(日本時間) 参加方法:オンライン(Zoom)による 言語:日本語のみ 会費:無料 定員:100名(人数に達した時点で申込を締め切らせていただきます) 参加申込・問合せ:SGRA事務局 <sgra-office@aisf.or.jp> 申込内容:お名前・居住国/都市・ご所属・Zoom接続用メールアドレスをお送りください。 ※事前参加登録していただいた方に、カフェ前日に招待メールをお送りします。 ※ 事前に Zoom 接続テストをご希望の方は、参加申込メールでお知らせください。担当者よりテス ト日について折り返しご連絡差し上げます。接続方法、ミュート機能の ON/OFF の切り替え、 チャットの見方などについてご不安な方はどうぞお気軽にご連絡ください。   ◇プログラム   14:45 Zoom接続開始 司会:李彦銘 15:00 開会挨拶・講師コメンテーター紹介 15:10 講演:林泉忠 15:50 コメント:下荒地修二、南基正 16:05 質疑応答 16:25 まとめ・閉会挨拶 16:30 終了   講演要旨: 世界を震撼させた2020年の新型コロナウイルスが世界システムをかく乱し、「ポストコロナ時代」の国際関係の再構築が求められる中、東アジアはコロナの終息を待たずに、すでに激しく動き始めている。 コロナが発生するまで、中国のアメリカと日・韓の分断戦略はある程度効いていた。しかし、コロナ問題と香港問題によって「米中新冷戦」が一気に進み、今まで米中のバランスの維持に腐心してきた日韓の選択が迫られる。とりわけ日中の曖昧な「友好」関係の継続はいよいよ限界に達し、日本の主体性ある「新アジア外交戦略」が模索され始めている。 中国による「国家安全法」の強制導入で、香港は一気に「中国システム」の外延をめぐる攻防の激戦地になり、米中新冷戦の最前線になる。香港という戦略上の緩衝地帯を喪失する台湾は、「台湾問題を解決する」中国からの圧力が一段と高まり、アメリカとの安全保障上の関係強化を一層求めることなり、台湾海峡は再び緊迫した時代に入る。「ポストコロナ時代」における「米中新冷戦」が深まっていくことはもはや回避できない。   略歴: 林泉忠(りん・せんちゅう Lim Chuan-Tiong) 国際政治学専攻。2002年東京大学より博士号を取得(法学博士)。同年より琉球大学法文学部准教授。2008年よりハーバード大学リサーチ・アソシエイト、2012年より台湾中央研究院近代史研究所副研究員、国立台湾大学兼任副教授、2018年より台湾日本総合研究所研究員、香港アジア太平洋研究センター研究員、中国武漢大学日本研究センター長、香港「明報」(筆陣)主筆、を歴任。 著書に『「辺境東アジア」のアイデンティティ・ポリティクス:沖縄・台湾・香港』(明石書店、2005年)、『日中国力消長と東アジア秩序の再構築』(台湾五南図書、2020年)など。   下荒地 修二(しもこうじ・しゅうじ SHIMOKOJI Shuji) 日本の元外交官、中国、韓国などの勤務を経て、駐パナマ大使や駐ベネズエラ大使を歴任。   南基正(ナム・キジョン NAM Ki-Jeong) 専門は戦後日本政治外交。東京大学で「朝鮮戦争と日本― ‘基地国家’ における戦争と平和」の研究で博士号を取得。東北大学法学研究科助教授・教授、韓国・国民大学国際学部副教授、ソウル大学日本研究所副教授を経て、同研究所教授。   李彦銘(リ・イェンミン LI Yanming) 専門は国際政治、日中関係。北京大学国際関係学院を卒業してから来日し、慶應義塾大学法学研究科より修士号・博士号を取得。慶應義塾大学東アジア研究所現代中国研究センター研究員を経て、2017年より東京大学教養学部特任講師。   プログラム詳細およびレジュメ  
  • エッセイ634:フェルディナンド・マキト「マニラ・レポート2020年春」

      2020年3月12日、フィリピンの大統領はマニラ首都圏の隔離令を発動した。これは僕の人生で初めての経験だった。全てのレベルの学校が休校となり、教員と職員は在宅業務を促された。1月30日にWHO(世界保健機関)が、新型コロナウイルス感染症を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public_Health_Emergency_of_International_Concern, PHEIC)と発表した頃から僕が懸念していた最悪な事態が、この隔離令となった。隔離令が実施されるまでの猶予期間に、僕の大学のあるロスバニョスからマニラの実家に帰る選択肢もあったが、家族が分散するように僕と甥2人はロスバニョスに残ることにした。   幸いな事にインターネットはずっと機能していて、SNSなどから社会のあらゆる声が聞こえてきた。僕の研究テーマである「持続可能な共有型成長」と関連した課題を取り上げ、早速「持続可能な共有型成長ポリシー・ブリーフ(Sustainable_Shared_Growth_Policy_Brief)」を始めた。ここでは第1号の内容を簡単に紹介したい。   感染症はそもそも自然環境から生じたものである。中・米の対立による生物兵器という陰謀説もあるが、今のところこのウイルスは自然に発生したものだと見なされる研究論文が有力のようである。災害論では、脆弱性(vulnerability)と回復力(resiliency)という概念が重要である。時間的に言えば、脆弱性とは災害が起こる前の概念で、災害からいかに被害を受けやすいかを指す。回復力は、災害が起こった後の概念である。そして、多くの災害研究により、脆弱性や回復力を左右するのは、所得分配や経済発展の度合いが重要な要素であることが指摘されている。所得分配が悪くなると、そして経済発展の度合いが低くなると、脆弱性は高まり回復力は低下するという。その故に、フィリピンのような所得・富の分配状況が悪い発展途上国は、今回のパンデミックにおいて深刻な問題を抱えている。   パンデミックの衝撃を和らげるために、フィリピンの政府・民間組織・市民社会は、今に至るまで、あらゆる対策を模索しながら採用している。この激しい戦いから一歩離れて、今回のパンデミックを「持続可能な共有型成長」、つまり環境・公平性・効率という観点から評価してみたい。   さらに整理するために、持続可能な共有型成長を時間・空間・宇宙(universe)という3つの次元に沿って話を進めていく。     ◇持続可能性と時間   環境経済学では、現在の世代と将来の世代の間で自然資源をいかに分配するかが政策の重要なポイントである。この見方は、よく引用される「持続可能な開発」の定義にも見られる―将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満足させるような開発。これは、1987年4月に公表された環境と開発に関する世界委員会の報告書『Our_Common_Future』の中心的な考え方として取り上げられた。多世代間の自然資源の分配は、結局政策立案者の計画期間(短期か中長期か)によって決定する。   綺麗な空気や水などの自然資源のように、病気のない環境というものも自然資源として考えられており、それを多世代に渡って提供するためには、やはり資金が必要である。政策提案として取り上げられるのは、パンデミック対策のための中長期的な資金調達である。これは一種の保険であり、パンデミックが発生する時に、対策の資金として使用できるものである。市場本位の例として挙げられるのが、世界銀行のカタストロフ債である。発動条件が厳しすぎる等の批判を浴びたが投資家から3.2億米ドルを集めたので、実際に有効な概念であることを証明した。このようなファンドは市場本位なので、パンデミックのリスク評価、リスク分散、リスク削減のための投資促進という面でも役に立っている。     ◇共有型成長と時間   開発経済学にクズネッツの逆U字型曲線というものがある。これは、経済発展過程を大きく2段階に分け、第1段階では発展すればするほど格差が広がるが、第2段階では発展すればするほど格差が縮まっていくという仮説である。この説は、フィリピンにおいても妥当するのではないかという研究もある。   上述のように、被災に対する脆弱性や回復力においては発展段階や所得・富の分配が大事なので、クズネッツ曲線の平坦化が不可欠である。言い換えれば、発展途上国で共有型成長ができるだけ早く実現できれば、その分、脆弱性を低くし回復力を高めることができる。     ◇持続可能性と空間   環境問題には国境がない。それはパンデミックにも該当する。そのため対策を練る時に国境を越える協力が必要である。   この場合、やはりWHOのような多国籍の組織が重要である。フィリピンにおいてもWHOに対して批判はあるが、パンデミックに上手く対応するためには、依然として国際的な組織が不可欠であることは変わらない。WHOがこんな状況に陥ったのは、加盟国からの拠出金が減少し自発的な寄付が増加してきたからである。その故に、WHOは本来の使命を果たす余裕をどんどん失ってしまった。確かにWHOは構造改革が必要だが、まずは加盟国による拠出金の復活から始めた方が良い。WHOの西太平洋地域本部がマニラにあるだけに、フィリピンはこのロビー活動に積極的に参加できる良い位置にあると思う。     ◇共有型成長と空間   共有型成長の一つの基本原理は地方分散である。分散することにより、伝統的な成長ハブから成長が拡散して行き、成長が共有されるようになる。   今回のパンデミックは成長ハブを最初に狙い、無力化した。それは今のグローバル化の当然な結果とも言える。各国に成長ハブを発展させて、それらのハブを繋げていく。感染症があっという間に広がり、成長ハブが次々とやられて行く。このような構造をより頑丈にするためには、やはり成長の分散が有効であろう。     ◇持続可能な共有型成長と代替的な宇宙(alternate_universe)   以上で論じたように、社会がより持続可能な共有型成長(環境・公平・効率の調和)という軌道に乗れば、今回新型コロナウイルスの襲来で受けている苦労は軽減されるはずである。私が20年以上訴え続け、今年の1月にマニラとロスバニョスで開催した第5回アジア未来会議でも強調したように、フィリピンにはこのような発展が必要である。そして、今回のパンデミックでも明らかになったように、世界にもそれが必要である。   マニラもロスバニョスも、ようやく6月から隔離令が一部緩和されたが、パンデミックにおける厳しい生活は長引く覚悟が必要である。この難しい時期を乗り越えるためには、(1)何か夢中になって、(2)家族や友達との繋がりを断たないことが大事である。   対策(1)として、SGRAでやり残した持続可能な共有型成長セミナーのレポート3本を渥美財団のウェブページに掲載したので、下記リンクをご参照いただきたい。 SGRA Sustainable Shared Growth Seminar 25 Report SGRA Sustainable Shared Growth Seminar 26 Report SGRA Sustainable Shared Growth Seminar 27 Report   そして、ポリシー・ブリーフのシリーズを始めて、第2号まで発行した。このマニラ・レポートはその第1号のまとめである。次回は第2号について紹介したいと思う。 Sustainable Shared Growth Policy Brief 1 Sustainable Shared Growth Policy Brief 2   対策(2)としては、フェイスブック上での交流に今まで以上に参加している。友達と議論し、笑ったり、共感したりしているが、最近始めたのは、勤務する大学の合唱サークルのオンライン練習である(下記リンク参照)。この合唱サークルのヴィジョンは「多様性の中の調和」であり、これは渥美財団とSGRAのヴィジョンでもある。4つの異なる声(ソプラノ、アルト、テノール、バス)が一つのハーモニを作り出すという意味もあるが、様々な人が、歌う能力と関係なく、楽しんで一緒に歌うという意味もあるので、みなさんも、どうぞご自由に参加ください。   みなさま、安全を第一にしながら、これを機会により良い世界を作り出しましょう。     英語版はこちら     <フェルディナンド・マキト Ferdinand_C._Maquito> SGRAフィリピン代表。SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学ロスバニョス校准教授。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師、アジア太平洋大学CRC研究顧問を経て現職。     2020年6月4日配信
  • 第6回アジア未来会議 論文募集のお知らせ

    新型コロナウイルスによるパンデミックによって、これから世界が大きく変わるでしょうが、問題はどのように変わるか今はわからないことです。第6回アジア未来会議はまだ1年以上先のことですから、できるだけ台湾の状況と台湾への旅行情報を参加者の皆さんと共有しながら準備を進めてまいります。最悪の場合には、関係者の安全のため延期等もありえます。しかしながら、状況が落ち着き、私たちが一堂に会することができれば、この会議はポストコロナのアジアと世界を語り合う絶好の場となるでしょう。1日も早く全世界で新型コロナウイルスが収束することを祈りつつ、アジア未来会議の開催に対する皆さまのご理解とご協力、そしてご参加をお願いいたします。   ◆第6回アジア未来会議 「アジアを創る、未来へ繋ぐ-みんなの問題、みんなで解決」 会期:2021年8月27日(金)~31日(火)(到着日、出発日を含む) 会場:中国文化大学(台北市) 発表要旨の投稿締切: ・奨学金、優秀賞に応募する場合  2020年8月31日(月) ・奨学金、優秀賞に応募しない場合 2021年2月28日(日) 募集要項は下記リンクをご覧ください。 画面上のタブで言語(英語、日本語、中国語)を選んでください。 Call for Papers   ◇総合テーマについて 本会議全体のテーマは「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」です。 アジアの将来には偉大な可能性があり、世界はその発展に注目しています。過去30年に亘り、アジアは目覚ましい発展を遂げ、消費レベルは急速に上昇し、グローバルな貿易、資本、人材、イノベーションの一角を担うに至りました。次の10年の間に、アジア経済はこの地域だけでなく、グローバルな流れを決定するようになるでしょう。インターネットや技術革新から国際貿易まで、アジアは多くの分野で主要な地位を占めるようになりました。今大事なのは、アジアがいかに早く上昇するかではなく、いかに指導的役割を発揮するかです。アジアは言語、人種、宗教が様々で、政治体制も経済システムも異なりますが、歴史的な発展やその背景などを分かち合っています。   2000年にアジアのGDPは世界の1/3以下でしたが、2040年には50%を超え、世界消費の40%を占めると予測されています。経済発展は言うに及ばず、人々の寿命は延び、識字率は向上し、人間開発に役立つ技術とインターネットの普及が成し遂げられるでしょう。しかしながら、その結果起こる資源の過剰消費や健康保険の問題は深刻になると考えられます。 アジアの発展は数億人の人々を最貧困の状態から救い出しましたが、同時に貧富の格差を広げる結果となりました。都市化は経済発展に拍車をかけ、教育や公衆衛生を促進しましたが、貧困やその他の課題は手付かずでした。人口の急速な増加に伴い、多くの都市は十分な住宅の供給、インフラ、関連サービスが整備されていません。アジアの国々、或いは地域は、格差や環境問題の重圧に対処するために、より包括的かつ持続可能な経済発展を達成する必要があります。   さらに、環境や経済の持続性に加え、アジアの国々は、平和な未来を築くために共に努力することが求められています。   第6回アジア未来会議は「アジアを創る、未来へ繋ぐ」ための独創的な提案を募集します。皆様のご応募をお待ちしています。   ◆アジア未来会議について アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心のある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。アジア未来会議は、学際性を核としており、グローバル化に伴う様々な課題を、科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化の課題も視野にいれた多面的な取り組みを奨励します。皆様のご参加をお待ちしています。
  • アキバリ・フーリエ 「第4回東アジア日本研究者協議会パネル『日本における女性ムスリムの現状、留学中に直面する課題と彼女らの挑戦』報告」

    2019年11月2日(土)台北の台湾大学において、「東アジア日本研究者協議会国際第4回学術大会」が開催され、渥美国際交流財団(SGRA)の派遣チームの1つとして「日本における女性ムスリムの現状、留学中に直面する課題と彼女らの挑戦」と題するパネルセッションを行った。当パネルは発表者2名、討論者2名、座長1名で実施された。 セッションの背景には、日本における外国人の人口増加があげられる。しかし、日本社会で知られていた外国人も近年では多様化が進み、様々な人種、宗教背景を持つ人達が目立つようになっている。その外国人コミュ二ティの中のひとつがイスラム教徒を宗教背景にしているコミュ二ティの人々である。 そこで、本セッションでは、中東湾岸諸国の女性の高等教育をめぐる意識と行動をこれまで研究してきた沈雨香(早稲田大学)と日本での外国人コミュニティの現状を研究対象にし、また自身もムスリム女性として日本で留学経験のあるアキバリ・フーリエ(白百合女子大学)が日本の多様性社会に目を向けた。   発表で取り上げられたのは、「在日女性ムスリム」であった。“女性ムスリム”に注目したのは、彼女らが宗教や文化の象徴的な存在として昨今の国際社会におけるディスコースの中心となってきていること、そして、特に可視性が強いと考えられる彼女たちは、外の社会からは「他者」「外国人」として、ムスリムコミュ二ティ内では「期待」「評価」される存在としてプレッシャーをかかえていると考えられたからである。   パネルの流れとしては、最初に座長司会の張桂娥氏(東呉大学)がパネル企画の背景や流れを説明し、その後各発表者、討論者の紹介を行い、次にそれぞれのパネル者により発表が行われ、そして討論者からの意見と質疑応答が行われた。最後には、来場者からの質疑応答により幅広い議論が交わされた。   まずはじめの発表においては、沈雨香が「ムスリム女性の困難―彼女らの可視性から―」についての研究報告を行った。沈は、ムスリム女性が宗教的慣習や文化に基づき日常的にヒジャブを着用していることに着目し、可視性がもたらす影響を明らかにすることを試みた。その中で、ヒジャブはムスリム女性の宗教への信仰を「可視化」していると述べ、その宗教的可視性の故、ムスリムの女性は他から物理的にも意識的にも区別されており、彼女らならではの生活世界を経験していると指摘した。続いて、3か月にわたる5名のムスリム女性への半構造化インタビューに基づき、非イスラム文化圏で暮らすムスリム女性の可視性は、「ムスリムコミュニティ」では信仰心の判断基準や彼女個人の性格や思考、趣味の指標として。「日本社会」ではムスリム、外国人、他者のシンボルとして、彼女らの生活世界を決定づけていることを明らかにした。   続いて、アキバリ・フーリエによる「在日ムスリム女性留学生の内なる葛藤」についての研究報告が発表された。アキバリは、日本という多文化社会において在日ムスリム女性留学生らはどのような葛藤を経験しているのかに焦点を当てた。その背景には、21世紀に入り、急スピードで変化していく時代の中で、控えめで従順なステレオタイプのイメージとは一線を画して、キャリア重視のムスリム女性が増加していることを強調した。その変化は著しく、まだムスリム社会でもその受け入れに戸惑いを隠せない人たちがいることを指摘した。 アキバリも同様に5名のムスリム女性に焦点を当て、彼女らの語りでのキーワードに注目した。その結果、内なる葛藤の要因として、「ムスリム・同国籍者社会」、「家族」、「日本社会」、「自己の信仰」を挙げた。葛藤が起きる仕組みとして、まず「自国のこれまで生きてきた社会から来る“過去のしきたりや習慣を踏襲することへの期待と評価”というプレッシャー」があると分析。一方で新たな受け入れ先の社会からは、「“ムスリム女性として与えられてきた評価が新しい社会でどのように受け取られるかへの不安”、“自分の信仰心に対するムスリムコミュ二ティからの期待”」が大きく葛藤につながることを報告した。   2つの研究発表の後、討論者としてミヤ・ドゥイ・ロスティカ氏(大東文化大学)とショリナ・ダリヤグル氏(明渓日本語学校)が加わり、2つの研究報告についてそれぞれコメント、質問が続いた。討論者の興味深いコメント・質疑から幅広い議論が行われた。最後、来場者の中の一人であった、関西大学多賀太先生からは、「多様性社会の教育現場においては、同化を求める部分に比較的圧力が入っており、特別扱いをすることがよくないとされ、マイノリティである彼らを特別に見ることは差別を伴うため避けるべきとの考えが広がりつつある。マイノリティを尊重する姿勢は重要である。」ととても貴重なご指摘を頂いた。   本セッションは、ムスリム女性は多様性社会のマイノリティメンバーの一つの事例として取り上げたことを強調したい。本研究の考察を通して、彼女らは、“自分自身を受け入れる”、“相手に受け入れてもらう”ためにヒジャブを外すという自己調整をしていることがひとつ明確になった。しかし、「ハーフ」「身体障害者」「LGBT」「日系人」「外国人労働者」等々、自己調整が不可能である彼らはどのように自己そして社会と向き合っていくのかを今後の課題として考えていきたい。   最後に、今回、渥美国際財団関口グローバル研究会(SGRA)の派遣チームとして、多くの日本研究者と共に、本学会に参加できたことに感謝の意を表したい。貴重なコメントを頂き、多くの研究者と意見交換ができたことを大変誇りに思う。今後、日本社会の多様性についてこれを機に、研究を進めていければと思う。ありがとうございました。   当日の写真   < アキバリ、フーリエ  Akbari, Hourieh > 2017年度渥美国際財団奨学生。イラン出身。テヘラン大学日本語教育学科修士課程卒業後、来日。2018年千葉大学人文社会科学研究科にて博士号取得。現在千葉大学人文公共学府特別研究員。白百合女子大学の非常勤講師。研究分野は、グローバル近代社会における社会言語学および日本語教育。研究対象は、主に日本在住のペルシア語母語話者の言語使用問題。
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