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2023.06.25
日台アジア未来フォーラムは、台湾出身のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施しています。コロナ禍で3年の空白期間がありましたが、今年は例外的に日本の島根県で開催することになりました。皆さんのご参加をお待ちしています。諸準備のため、ご希望の方は早めにお申し込みいただけますと幸いです。
テーマ:「日台の酒造りと文化:日本酒と紹興酒」
日 時:2023年10月21日(土)14時~17時10分
会 場:JR松江駅前ビル・テルサ4階大会議室
(島根県松江市朝日町478―18)
言 語:日本語・中国語(同時通訳)
※参加申込(クリックして登録してください)
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■フォーラムの趣旨
東アジアの主食である米を発酵させた醸造酒は、各地でそれぞれ歴史を経て洗練されたが、原料が同じなだけに共通点も多い。代表的な醸造酒に日本では清酒(日本酒)、中国では黄酒(紹興酒)がある。島根は日本酒発祥の地とされ、日本最古の歴史書「古事記」にも登場する。一方、台湾では第二次世界大戦後に中国から来た紹興酒職人が、それまで清酒が作られていた埔里酒廠で紹興酒を開発し量産に成功した。台湾で酒の輸入が自由化されるまでは、国内でもっとも飲まれる醸造酒であった。中国の諺に「異中求同」(異なるものに共通点を見出す)があるが、今回は醸造酒をテーマに相互理解を深めたい。フォーラムでは島根の酒にまつわる漢詩を紹介していただいた後、日本と台湾の専門家からそれぞれの醸造技術と酒文化について、分かりやすく解説していただく。日中同時通訳付き。
■プログラム
【講演1】14:10~14:40「近代山陰の酒と漢詩」 要木純一(島根大学法文学部教授)
【講演2】14:40~15:20「島根県の日本酒について」 土佐典照(島根県産業技術センター)
【講演3】15:50~16:30「台湾紹興酒のお話」 江銘峻(臺灣菸酒股份有限公司)
【質疑応答】16:30~17:00
【懇親会】17:30~20:00 会議室でケータリング、日本酒と紹興酒の試飲。
(参加費 3000円:フォーラム受付時にお支払いいただきます)
■発表要旨と講師略歴
【講演1】「近代山陰の酒と漢詩」 要木純一(島根大学法文学部教授)
要旨:江戸時代から、山陰特に松江は漢詩創作が盛んな土地であった。また、米も水もよいので、日本酒もおいしく、酒に強い人が多いところである。かくして、明治時代より、遠来の人士を招いて、詩と酒を楽しむ、詩会がしばしば催された。その様子が詳しく記された資料があるので紹介したい。松江出身で、二度首相になった若槻礼次郎も、激務の合間に酒と漢詩を楽しむ文人政治家であった。詩会などを通じて故郷の人との交流を楽しんだ。楽しみと言うだけでなく、地方における政治・選挙活動につなげていくという面もあった。詩も多数残っており、飲酒・宴会の楽しみを詠った作品とその背景について考察する。
【講演2】「島根県の日本酒について」 土佐典照(島根県産業技術センター)
要旨:まず日本酒の製造方法について、次に島根県の日本酒造りの環境条件(気候、水、米)と酒質の特性を説明する。水は、日本酒の成分で約80%を占めることから原料として、また洗米などの原料処理や機器の洗浄など製造工程でも重要な要素である。古来、適度な成分を含む灘の宮水のように、銘醸地には名水が存在する。島根県の酒造りを行う会社では複数の井水(地下水)や水道水、他の地区の湧水などさまざまな水を利用している場合が多いが、「軟水」が多く、宮水のような「軽度の硬水」はまれである。島根県の酒造りの特徴は、昔から原料である「酒米」の使用が多いことが挙げられる。「酒米」は「さばけ(蒸米の状態がベトベト引っ付かず、バラバラになること)」が良いので麹作りに適していて、消化性も良いので資化率が高く、酒質は濃醇傾向となる。ここでは、島根県における酒米の品種や使用量の変遷など、歴史的な経緯について述べる。最後に島根の日本酒の酒質の特徴と時代の変化を述べ、食事、特に魚食との関係について触れる。酒質は全国平均と比較して、昭和には濃醇傾向だったのが、最近は淡麗になっている。また食事(魚食)はブリ、アジ、サバの消費が多く、郷土料理である大田の「へかやき」など、基本的に醤油味が多い傾向がある。今後、島根県の郷土料理・産物と日本酒のおいしさが世界に発信されることが期待される。
【講演3】「台湾紹興酒のお話」 江銘峻(臺灣菸酒股份有限公司)
要旨:本講演では、まず台湾紹興酒の起承転結について、台湾紹興酒の生産起源、転換、そして現在について紹介します。続いて台湾紹興酒の特徴について、醸造方法から台湾の紹興酒、中国大陸の紹興酒、日本酒、の同じ所と違う所を説明します。最後に台湾紹興酒の飲食文化について、その栄養価値、台湾での飲み方、食事での使い方について紹介します。
略歴:国立成功大学化学工程系卒業。2009年より台湾菸酒股份有限公司埔里酒廠勤務、埔里酒廠製造課課長。埔里紹興酒生産工場で十年以上の経験を有し、紹興酒の生産と品質管理と紹興酒再生産立上げで生産試験プロセスに携わる。台湾菸酒股份有限公司埔里酒廠在職中は内部教育研修講師として、社員への清酒と紹興酒の醸造プロセスを教える。
2023年7月6日配信
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2023.06.21
SGRAレポート第102号(日中合冊)
第16回SGRAチャイナフォーラム
「モダンの衝撃とアジアの百年
―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」
2023年6月14日発行
<フォーラムの趣旨>
山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想史脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年。徐静波・訳『亚洲的思想史脉——空间思想学的尝试』上海交通大学出版社・近刊予定)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりに行った2021年のフォーラム「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?」の続編として、前回に提起した空間論・時間論・ジェンダー論における論的転回の具体的現れについて考える。そして、それらが生活世界にどのような衝撃を与え、現在の私たちの時空感覚や身体的感性や倫理規範などにいかに通底しているのかを検討する。
<もくじ>
【挨拶】 野田昭彦(国際交流基金北京日本文化センター)
【講演】 モダンの衝撃とアジアの百年
―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―
山室信一(京都大学名誉教授)
【コメント1】 今日における山室信一理論の意義
陳 言(北京市社会科学院)
【コメント2】 山室教授講演へのコメント
高 華鑫(中国社会科学院外国文学研究所)
【応答】 コメントを受けて
山室信一(京都大学名誉教授)
【自由討論】
モデレーター
林 少陽(澳門大学歴史学科/ SGRA /清華東亜文化講座)
討論者
陳 言(北京市社会科学院)
高 華鑫(中国社会科学院外国文学研究所)
山室信一(京都大学名誉教授)
【閉会挨拶】 劉 暁峰(清華東亜文化講座/清華大学歴史系)
講師略歴
あとがきにかえて
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2023.06.15
下記の通り第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性を開催いたします。参加ご希望の方は、必ず事前に参加登録をお願いします。オンラインで参加の場合は、一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。
テーマ:「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか ――教育・メディア・研究」
日 時:2023 年 8 月 8 日(火)9:00~17:50
8 月 9 日(水)9:00~12:50(日本時間)
会 場: 早稲田大学 14 号館 8 階 及びオンライン(Zoom ウェビナー)
言 語:日中韓3言語同時通訳付き
主 催: 日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性実行委員会
共 催: 渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
共 催:早稲田大学先端社会科学研究所・東アジア国際関係研究所
助 成:高橋産業経済研究財団
※参加申込(クリックして登録してください)(参加費:無料)
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■開催趣旨
2016 年から始まった「国史たちの対話」の目的は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、三国間に横たわっている歴史認識問題の克服に知恵を提供することである。
東アジア歴史問題の起因は、20 世紀の戦争と植民地支配をめぐる認識の違いと指摘されることが多い。しかし、公表された日韓、日中の歴史共同研究の報告書が示しているように、個別の歴史事実の解釈をめぐる違いはあるものの、20 世紀東アジア歴史の大筋についての認識には大きな齟齬が存在ない。それでも東アジアの国際関係がしばしば歴史問題で紛糾している理由の一つに、相手の「歴史認識」への認識が不十分ということを挙げることができる。
戦後の東アジアは冷戦、和解、日本主導の経済協力、中国の台頭など複数の局面と複雑な変動を経験した。各国は各自の政治、社会的環境のなかで、自国史のコンテクストに基づいて歴史観を形成し、国民に広げてきた。戦後各国の歴史観はなかば閉鎖的な歴史環境のなかで形成されたものである。各国の歴史認識の形成過程、内在する論理、政治との関係、国民に広がるプロセスなどについての情報は、東アジアの歴史家に共有されていない。歴史認識をめぐる対立は、このような情報の欠如と深く関わっているのである。
20 世紀の戦争と植民地支配をめぐる国民の歴史認識は、国家の歴史観、家庭教育、学校教育、歴史家の研究と発信、メディア、文化・芸術などが複雑に作用し合いながら形成されたものである。歴史家の研究は国家の歴史観との緊張関係を保ちながらも、学校教育に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。今回の対話のテーマの一つは、歴史家が戦後どのように歴史を研究してきたのか、である。戦後東アジア各国では激しい政治変動が発生し、歴史家の歴史研究と歴史認識も激しく揺れ動いた。歴史家の研究と発信の軌跡を跡づけることは、各国の歴史認識の形成過程を確認する有効な手段であろう。
映画・テレビなどのメディアも国民の歴史認識の形成に重要な役割を担っている。戦後、各国は各自の歴史観に立って、戦争と植民地に関係する作品を多数創作した。このような作品が国民の歴史認識に与えた影響は無視できない。また、メディア交流が展開されるなかで、多数の映画やテレビドラマが共同で制作された。国民同士はこれらの作品を鑑賞することで、間接的に歴史対話を行ってきた。各国の文化、社会環境が歴史認識にどう影響したのか。確認したい問題の一つである。
歴史認識をめぐる国家間の対立が発生すると、相手の歴史解釈と歴史認識の問題点を指摘することが多い。しかし、自国内に発生した政治、社会変動に誘発される歴史認識の対立の方がむしろ多い。相手の歴史認識を認識する過程は、自分の歴史認識を問い直す機会でもあろう。このような観点から、第 8 回の国史対話は、今まで
の対話をさらに深めることが期待される。
■プログラム
8月8日(火)
【第1セッション 司会:村 和明】
開会挨拶:劉 傑(早稲田大学)
趣旨説明:三谷 博(東京大学名誉教授)
【第2セッション サブテーマ:教育 司会:南 基正】
発表:
金 泰雄(ソウル大学)
解放後における韓国人知識人層の脱植民地への議論と歴史叙述の構成の変化
唐 小兵(華東師範大学)
歴史をめぐる記憶の戦争と著述の倫理——20 世紀半ばの中国に関する「歴史の戦い」
塩出浩之(京都大学)
日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか——教科書と教育現場から考える——
【第3セッション サブテーマ:メディア 司会:李 恩民】
発表:
江 沛(南開大学)
保身、愛国と屈服:ある偽 満州国の「協力者」の心理状態に対する考察
福間良明(立命館大学)
戦後日本のメディア文化と「戦争の語り」の変容
李 基勳(延世大学)
現代韓国メディアの植民地、戦争経験の形象化とその影響-映画、ドラマを中心に
【第4セッションン サブテーマ:研究 司会:宋 志勇】
発表:
安岡健一(大阪大学)
「わたし」の歴史、「わたしたち」の歴史―色川大吉の「自分史」論を手がかりに
梁 知恵(東北亜歴史財団)
「発展」を越える、新しい歴史叙述の可能性:韓国における植民地期経済史研究の行方
陳 紅民(浙江大学)
民国期の中国人は「日本軍閥」という概念をどのように認識したか
論点整理:
劉 傑(早稲田大学)
8月9日(水)
【第5、6セッション:全体討議(指定討論)司会:彭 浩、鄭 淳一】
議論を始めるに当たって:三谷 博(東京大学名誉教授)
全体討議:
指定討論者(アルファベット順)
平山 昇(神奈川大学、日本)
金 澔(ソウル大学、韓国)
金 憲柱(国立ハンバット大学、韓国)
史博公(中国伝媒大学、中国)
吉井文美(国立歴史民俗博物館、日本)
袁 慶豊(中国伝媒大学、中国)
張 暁剛(長春師範大学、中国)
閉会挨拶:趙 珖(高麗大学名誉教授)
※同時通訳
日本語⇔中国語:丁 莉(北京大学)、宋 剛(北京外国語大学)
日本語⇔韓国語:李 ヘリ(韓国外国語大学)、安 ヨンヒ(韓国外国語大学)
中国語⇔韓国語:金 丹実(フリーランス)、朴 賢(京都大学)
※プログラム・資料の詳細は、下記リンクをご参照ください。
・プロジェクト概要
・プロジェクト資料
中国語版ウェブサイト
韓国語版ウェブサイト
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2023.05.25
長く続いたコロナ禍もようやく落ち着きはじめた2023年4月22日(土)、第21回日韓アジア未来フォーラムが渥美財団ホールにてハイブリッド・ウェビナー方式で開催された。2019年3月23日にソウルで第18回フォーラムが開催されて以来2回続けてオンライン開催だったが、今回は4年ぶりに日韓両国の研究者が顔を向き合わせて開催できるようになり、感無量の思いだ。
今回のテーマは「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)―これからの政策への挑戦―」。多岐にわたり複雑に絡み合う新しい安全保障のパラダイムを的確に捉えるためには、より精緻で包括的な分析やアプローチが必要であるという問題意識から、韓国における「エマージングセキュリティ「新興安全保障」」研究と日本における「経済安全保障」研究を事例として取り上げ、今日の安全保障論と政策開発の新たな争点と課題について考察した。
テーマ設定に際して以下のいきさつがある。渥美国際交流財団・SGRAはアジアの主要都市を巡回してアジア未来会議を開催しており、昨年は第6回を台湾で開催した。そこでコロナパンデミックに代表される安全保障への新しい脅威と新たな国際協力について、ソウル大学の金湘培(キム・サンベ)教授(韓国国際政治学会会長=当時)が非常に挑戦的で印象的な講演を行った。それが契機となり、さらに議論を深めるために今回のフォーラムを開催する運びとなった。
「エマージングセキュリティ」は新たな安全保障及びその創発メカニズムを指す新しい概念であり、韓国の学界や政界の一部では「新興安全保障」と呼んでいる。一般に新しい概念は受容と変形、または外部の衝撃とそれに伴う内部の対応から生まれるものだろうが、それにはさらに複雑な事情が介入してくる。新しい概念は、切迫した必要性がない限り導入されない。こうしたためか今回のテーマ名を決める際にも「新興安全保障」概念をめぐって相当の議論を重ね、最終的には「エマージングセキュリティ」にした。
フォーラムでは、韓国未来人力研究院の徐載鎭(ソ・ジェジン)院長による開会の挨拶に続き、韓国と日本から2名の専門家による基調講演が行われた。金湘培教授は「エマージングセキュリティ」創発の条件、そのメカニズムとプロセス、そして複合地政学との連携性、エマージング平和構想の必要性についての問題提起を中心に基調報告を行った。東京大学の鈴木一人教授は新たな安全保障の最前線に位置する経済安保について、地経学的観点から昨今の経済安保脅威の本質と日本の先導的対応について講演した。お二人の講演は問題認識が非常に似ていながらも、一方は理論的アプローチ、もう一方は具体的かつ政策的議論という違いがあったが、韓国と日本のそれぞれの現実に立脚した興味深い議論を展開した。
基調講演に続き、4人の討論者からコメントがあった。まず「エマージングセキュリティ」論や経済安保論の観点から見て、韓日関係の現在をどう評価できるのか、また韓日関係の未来ビジョンはどのように設計すべきかについて国民大学の李元徳(イ・ウォンドク)教授のコメントがあった。次に複合地政学への対応としての日韓協力とその可能性について慶應義塾大学の西野純也教授がオンラインでコメントした。公州大学の林恩廷(イム・ウンジョン)副教授は、韓国と日本の共通した挑戦とエマージング平和に向けた日韓協力の可能性の観点から興味深い議論を展開した。最後に釜慶大学の金崇培(キム・スンベ)助教授は複雑化する「安保」概念について、国内および国際関係におけるリベラリズム的思考と実践が持つ意味、そして韓日が協力可能な「安保」とは何かについて問題提起を行った。
振り返ってみると、鈴木一人教授を基調講演者として招待し、日本の経済安全保障に向けた政策的対応について具体的な話を聞くことができたことは、フォーラムをより豊かで有意義にする決め手の一つだった。鈴木教授を招待するのにご尽力くださった渥美財団の渥美直紀理事長、船橋洋一評議員に深く感謝したい。そして当日に台湾から会場に直行する厳しい日程を快く受諾し、万が一に備えてオンライン講演のための30分の録画まで準備してくださった鈴木教授にも感謝の言葉を申し上げざるを得ない。
素晴らしい総括を務めてくださった平川均先生、会議のために苦労を惜しまなかった渥美国際交流財団スタッフの皆さん、同時通訳のイ・ヘリさん、アン・ヨンヒさん、発表資料の翻訳を担当してくださった尹在彦(ユン・ジェオン)さん、Q&Aを翻訳してくださったノ・ジュウンさん、そして最後にコロナ禍の中でもフォーラムが持続できるように後援を惜しまなかった今西淳子常務理事と李鎮奎(リ・ジンギュ)教授に心より感謝申し上げたい。
忘れてはいけないことがもう一つ。帰国日の日曜朝、一人のパスポートがないことに気づき、大騒ぎとなった。フォーラム終了後に銀座の飲食店で落としたのではないかと思われるが、探す時間も方法もなく、韓国大使館領事部に緊急連絡し、臨時パスポートを作っていただき、予定通りの帰国便に乗ることができた。一時はパニックになったが、スリル満点だった。遺失物届け出で日本の交番にも大変お世話になった。この場を借りて感謝申し上げたい。
写真アルバム
アンケート集計結果
<金雄熙(キム・ウンヒ)KIM_Woonghee>
仁荷大学国際通商学部教授、副学長。ソウル大学外交学科卒業。筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、博士号取得。仁荷大学国際通商学部専任講師、副教授、教授を経て2022年9月より副学長。最近は国際開発協力、地域貿易協定に興味をもっており、東アジアにおける地域協力と統合をめぐる日・米と中国の競争と協力について研究を進めている。1996年度渥美国際交流財団奨学生。
2023年5月25日配信
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2023.05.18
第7回アジア未来会議(AFC#7)は、論文、小論文の提案(発表要旨)を下記の通り募集します。
会期:2024年8月9日(金)~13日(火)(到着日、出発日を含む)
会場:チュラロンコーン大学(タイ国バンコク市)
発表要旨の投稿締切:
・奨学金・優秀賞に応募する場合 2023年8月31日(木)
・奨学金・優秀賞に応募しない場合 2024年2月29日(木)
募集要項は下記リンクをご覧ください。
画面上のタブで言語(英語、日本語)を選んでください。
http://www.aisf.or.jp/AFC/2024/call-for-papers/
◆総合テーマについて
本会議全体のテーマは「再生と再会」です。
新型コロナウィルスのパンデミック後、アジアと世界は大きな変革期を迎えています。このような社会、経済、文化、教育などの多様な変化に、私たちはどのように向き合い、乗り越えていけばよいのでしょうか。アジアのみならず世界の活性化を、多様な視点から検証することが求められています。専門分野を超えて、世界中の学者・研究者が「再会」し、議論を交わすこと自体が、アジアと世界の「再生」の源となり、共に解決策を見出すことができればと願っています。
◆アジア未来会議について
アジア未来会議は、日本で学んだ人や日本に関心のある人が集い、アジアの未来について語る<場>を提供します。アジア未来会議は、学際性を核としており、グローバル化に伴う様々な課題を、科学技術の開発や経営分析だけでなく、環境、政治、教育、芸術、文化の課題も視野にいれた多面的な取り組みを奨励します。皆様のご参加をお待ちしています。
2023年5月10日
第7回アジア未来会議実行委員会
2023年5月18日配信
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2023.05.09
下記の通り第71回SGRAフォーラム「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」を対面とオンラインのハイブリットで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。オンライン参加の方はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。
テーマ:「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」
日 時:2023年6月10 日(土)午後2時~午後5時(日本時間)
方 法: 会場参加(先着20名)とオンライン参加(Zoom ウェビナーによる)のハイブリット開催
会 場:渥美国際交流財団ホール(プログラム参照)
言 語:日本語
申 込:参加申込(参加には事前登録が必要です)
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■フォーラムの趣旨
ロシア帝国は中国とのネルチンスク条約、アイグン条約、北京条約によって極東の大きな領土を手に入れることができた。その極東の国境沿いの領土にはあまりにも人口が少なかったため、定住者を増やすことが政治地理的な大きな課題となった。ほぼ同時期の1861年に農奴解放令が発布され、当時ロシア帝国に付属していたウクライナの農奴はやっと農地を手に入れたものの、配給された土地は非常に小さく不満を抱く人が多かった。そこでロシア帝国政府は「帝国の南側から極東に家族ごと移住すれば、かなり大きな農地をもらえる」と宣伝し1870年からロシア革命までに大勢のウクライナ人が極東に移り住んだ。1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922年にソ連政権が極東に定着した時、その政権から逃れた100万人のウクライナ人がハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていた。
本フォーラムでは、いろいろな民族が住み、さまざまな文化が存在し、新たなアイデアもたくさん生まれていた、20世紀前半の極東アジアに存在した特別な空間について話し合いたい。
■プログラム
講演1 『緑のウクライナ』という特別な空間
オリガ・ホメンコ(オックスフォード大学日産研究所)
1918年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「グリーンウェッジ」(森が多いので緑、ウェッジは農業ができるところ)と呼ばれていた地域に「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。
1922年にソ連政権が極東にやっと定着した時、その政権の下に住みたくない100万人のウクライナの人はハルビンなどに移り住み1945年まで留まっていたが、「緑のウクライナ」の夢を捨てられなかった。ロシア帝国でマイノリティ―だったウクライナ人は、極東に開拓民として移動し、初めていろいろな民族に対してマジョリティ―になり、初めて多くの今まで知らなった民族や文化に触れ合うことになった。新たなアイデアもたくさん生まれ、ウクライナのアイデンティティーを実感し、自分の国を作ろうとした。極東開発のプロセスで農民以外に、知識人の技師や鉄道関係者もウクライナからやってきた。第一次世界大戦と共に軍人の数も増えた。活発なボランティア活動のおかげで極東満州では20以上のウクライナ語のプリントメディアが出版された。
本フォーラムでは、そのメディアを起こした人達を紹介し、そこで想像されていた「緑のウクライナ」という特別な空間について考えたい。長らく忘れられていた人々―多民族国家の夢を見て「極東のウクライナ人」という新聞を自費出版していた技師のドミトロー・ボロウィックや「満州通信」の編集者だったイワン・スウィットの姿を見ながら「緑のウクライナ」について検討する。
講演2 マンチュリア(満洲)における民族の交錯
塚瀬 進(長野大学環境ツーリズム学部)
マンチュリア(満洲)の範囲は時代によって一定ではなく可変的であった。また、そこに住む人々の移動も激しく、日本のように単一的な人々が長く暮らした時期は少なかった。領域の範囲が変動したこと、住民の移動が激しかった地域の歴史は、民族自決による国民国家の形成という過程を主軸に理解することは難しい。
通説的な理解は、マンチュリアはもともと人口稀薄な場所(「無主の地」とも称された)であったが、中国人の移住が20世紀以降増加し、中華人民共和国の東北三省となり現在に至っているというものである。かかる中華人民共和国の一地域へと収斂されていく方向性、言い換えるならば最終的にマンチュリアは中国に統合され、中国人の地になるという理解は、マンチュリアの多様性を取捨している。中国への統合という側面だけではなく、マンチュリアを主体にした歴史理解を本報告は追究している。こうした議論の方向性は、現在世界各国で生じている多くの紛争の基底にある、同質的な国民国家を形成することが難しい地域の歴史的要因の認識につながる。
話題提供1 中国東北地域における近代的な空間の形成:東北蒙旗師範学校を事例に
ナヒヤ(内蒙古大学蒙古歴史学系)
ハルビン、長春、瀋陽を中心都市とした20世紀前半における中国の東北地域でモンゴル族は文化、教育、出版をはじめとする様々な活動を行なってきた。しかし、自力では強力な活動を展開するのが難しく、各地方政権と取引を行わざるを得なかった。張学良を理事長、メルセを校長とする東北蒙旗師範学校はその典型的な例である。
話題提供2 『マンチュリア』に行こう!
グロリア・ヤン ユー(九州大学人文科学研究院)
20世紀前半のマンチュリア(満洲)には、ロシア・「極東」・モンゴリア、中国(特に華北地方)・朝鮮半島・日本から、さまざまな人々が移住してきた。また、鉄道の発展によって国境を越える旅も盛んに行なった。本コメントは、視覚資料、小説、紀行文などを取り上げ、「マンチュリア」の日常生活空間の多様性を描き出す試みである。また、この「越境する現場」の多様的な空間の視覚表象は、日本帝国の拡張(のちに満洲国の成立)によって取捨され、そして単一化されつつあったことを明らかにしたい。
自由討論 司会/モデレーター: マグダレナ・コウオジェイ(東洋英和女学院大学)
※詳細は、下記リンクをご参照ください。
・プログラム
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2023.04.26
2023年4月10日(父の91歳の誕生日)、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(AISF・SGRA)、フィリピン大学ロスバニョス校公共政策・開発大学院(UPLB・CPAf)、東北亞未来構想研究所(INAF)の共催で第37回持続可能な共有型成長セミナーが、初めて「ダブルハイブリッド方式」で開催されました。対面式⇔オンラインおよび英語⇔日本語(同時通訳なし)のハイブリッドです。この方式を試した目的は、従来は英語圏の参加者しかいなかったこのセミナーに、英語圏と日本語圏の参加者が一緒に参加する機会を増やせないか、ということでした。
今回のテーマは「東アジアダイナミックス」で、東北アジアと東南アジアの2つを合わせた地域を「東アジア」と定義しています。発表者や討論者は、両東アジア地域の出身者で構成されています。
この「東アジア」の定義は、世界銀行が1993年に発表した報告書『東アジアの奇跡』でも使われています。今回のメインテーマである「共有型成長」という言葉も、この報告書にちなんでいます。共有型成長とは、効率性と公平性のバランスが取れた開発のことです。ピケティの『21世紀の資本主義』、スティグリッツの『不平等の代償』、そして国連の持続可能な開発目標(SDGs)と、最近盛んになってきた公平性の議論に数十年先んじたという点で、この報告書は重要です。
『東アジアの奇跡』は、東アジアのダイナミクスを分析する上で重要な意味を持つ一方、それが出版される頃にちょうど出現しつつあった、重要な2つのダイナミックスを含んでいません。それが「国際的な地域化」と「地方分権化」の試みで、今回のテーマです。平川均先生(名古屋大学名誉教授)が前者を、私が後者を発表しました。平川先生は地域化を「地域主義、地域協力、制度化、経済統合を組み合わせた総合的な概念」と定義し、私は、地方分権化を「国家が政治的権限や財政的自治を委譲することによって、実質的にサブナショナル(自治体)に権限を与える国家内の現象」と定義して、報告しました。
平川先生は、東アジアの地域化について、日本的な視点がふんだんに盛り込まれた興味深い見解を示しています。東アジアの地域化の最初の試みは大東亜共栄圏であったが、結局、日本の敗戦によって失敗。赤松要の「雁行形態発展論」は日本の近代化をその歴史の中で捉えるもので、同時に国際化の視点がありました。そのため、戦時中の日本帝国のプロパガンダの一部とみなされたのですが、1980年代には、東アジア経済の統合を説明する戦略的に首尾一貫した装置として再評価され、ASEAN+3(東南アジア諸国連合+日本・中国・韓国)といった広域統合のテンプレートとさえ言えるようになりました。しかし、こうした地域統合の仕組みが機能するためには、ASEANの地域協力の発展が同時に重要であり、東アジアの発展は両者の試みが融合することで達成されたとの見解を示しました。そして、今日の東アジアで進められている地域統合を成功させるためには、「制度としてASEANの中心性が重要な役割を果たす」と、ASEANの重要性を強調しました。
次に私が、東アジアにおける1990年代以降の地方分権化の傾向について、世界銀行が2005年に発表した報告書を引用しました。地域化と地方分権化は国家が適切に権限を与え(弱すぎず強すぎず)、地域レベルと地方レベルの両方に有効性をもつ共通の原則が存在する場合、つまり、代替ではなく相互補完的関係になる時、社会の発展が達成されます。さらに、地方分権化は発展途上地域への日本の関与が共有型成長志向の下にODA-FDI-EXIM(援助・海外直接投資・輸出入)の三位一体という形で行われる時に有効性を発揮するとの経験的メカニズムを導き出しました。これは、伝統的な成長センターの外に成長ポールを新たに作ろうとする地方分権化の推進を補完する提案となります。
国際的な地域化が失敗する可能性についても考えました。私の所属するフィリピン大学ロスバニョス校で、ASEAN+3のアジェンダを推進する上で地方自治体が果たすべき重要な役割について、最近の研究を引用しました。その研究では、ASEANスマートシティネットワークのパイロット都市をエンジンとし、隣接する都市を同化させる中核主導型アプローチと、サブリージョン都市をそのエンジンとする周辺主導型アプローチを提案しています。また、第6回アジア未来会議で開催した円卓会議「東南アジアの視点から世界を考える」でも、関連する研究が発表されました。航空路線に代表される地域や国際的なネットワークの特徴は、共有型成長の原則に基づくものではなく、COVID-19のパンデミックで明らかになったように、ハブがウイルスの攻撃によって打撃を受けると全体が機能しなくなるという脆弱性を持っているというものです。
3人の討論者からは、非常に興味深い指摘があり、私たちの考えをさらに進めるために大変役立ちました。討論者がとりあげたのは地方分権化がもたらした自治体間の格差の拡大でした。地方分権化は、自治体の効率性を高める手段であり、その結果、能力の異なる自治体間の格差を拡大するからです。このような負の側面はありますが、むしろ地方分権化を積極的に進めて緊張関係の中で効率性を高めつつ、格差の拡大を緩和する政策的措置を追加していくことが望ましい政策の在り方ではないでしょうか。
参加者からも貴重なコメントを頂きました。日本語圏の参加者は期待したほどには集まらず残念でしたが、日本のコミュニティー活性化の活動をしている方が、静かにセミナーを最後まで聞いてくださったことが後で分かりました。日本語圏の人々にも発言していただくためには、もう少し工夫が必要かもしれませんが、せっかくですから匿名のコメントをそのままの形で共有させていただきます。セミナーのテーマと一致していますし、私も全く同感です。
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大変なご努力のセミナーですね。現在の世界の緊急で核心的な課題だと思います。マキトさんの狙いが、私に分からなかったので、各スピーカーの思考のコンセプトを理解することに集中していました。最後にその中の考えの違いやズレも、だいたい理解できました。全部聞いていたのです。私も発言しようと思いましたが、会議の狙いもあるでしょうから、混乱させてはいけないと自制しました。私は南アジアと米日韓を加えた諸国の共同を言う人たちは、軍事的な安全思考であって、自国のことしか考えていないと思っています。私は、世界は核戦争で自滅の危機にあると思っています。それは近代国家を良しとするこの200-300年の時代の終焉だと思います。科学技術振興と経済成長、グローバリズムという近代が終わったと思います。21世紀は、20世紀までの思考と構造を破棄して、新しい思考と社会構造を創らなければ、破滅するでしょう。それは近代国家を支えて来たがおとしめられてきた地方/地域を主役に、中央集権体制を打破すること、新しいコミュニティーが自立し、国境を超えてネットワークを創ること、核武装国支配の国際的枠組みを変革することだと思います。近代国家と称する国々の指導者は、自分たちの利害/安全のために離合集散し、最後は核戦争も辞さないでしょう。私はこう言う考えの持ち主ですから、発言すると混乱を招く恐れがあったわけです。ご理解ください。
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今回のセミナーは、関口グローバル研究会(SGRA)と渥美財団のルーツを思い起こす機会でした。SGRAは、渥美財団の本拠地である東京都文京区「関口」と世界を結ぶというビジョンを持って結成されました。北東アジアの平川先生や李先生、東南アジアのコルテス先生やイドラス先生の親切で積極的なご協力は、その活動の努力と発展を証明しています。私たちは、究極的には2つの東アジアではなく、1つの東アジアなのです。
SGRAは「多様性の中の調和」という原則に基づき、「良き地球市民の促進」に貢献することをモットーとしています。今回のセミナーのダブルハイブリッド方式は、この方向への良い動きだと、私は心から思っています。私たちは異なる場所にいても、選んだ言語(今回は、英語または日本語)で自由に話しても、なおかつ良い友人でいられる関係を構築することができると思います。
当日のプログラム
当日の写真
アンケート集計
<フェルディナンド・マキト Ferdinand C. MAQUITO>
SGRAフィリピン代表。SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学ロスバニョス校准教授。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師、アジア太平洋大学CRC研究顧問を経て現職。
2023年4月27日配信
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2023.04.19
2023年2月18日(土)午後1時より第70回SGRAフォーラム「木造建築文化財の修復・保存について考える」を奈良県吉野郡吉野町の金峯山寺(きんぷせんじ)で開催した。国宝・金峯山寺二王門の保存修理工事現場をライブ中継で発信し、世界中のSGRA会員を始め市民も含めて議論の場を設けるというプロジェクトだ。SGRAと日本学術振興会科学研究費基盤研究(C)J190107009「日本と中国における大工道具の比較による東アジア木造建築技術史の基盤構築」(研究代表者:李暉、2014年渥美奨学生)の共催で、ライブ中継はSGRAでは初の試みだった。
金峰山修験本宗総本山金峯山寺の五條良知管長猊下のご挨拶でフォーラムの幕が開けた。小雨の中だったが、寺の沿革の説明や聖地でのフォーラム開催の意義を愛情込めて伝えていただいた。その後、奈良県文化財保存事務所の竹口泰生先生が二王門の保存修理現場を案内しながら、フォーラム後半で各国の先生方が討論するための話題を提供された。
ライブ中継は奈良県文化財保存事務所・金峯山寺出張所の方々にご協力いただき、二王門北の参道から始まった。外観を見た後で中へ入るというルートを取り、できる限り視聴者が臨場感を味わえるよう工夫した。竹口先生は事業全体の説明から始まり、解体修理に至った原因である地盤沈下の現状を紹介。保存修理にあたっての調査については、特に大工道具による加工痕跡について、初重の軒下にある組物を用いて詳細に説明された。中継の最後は素屋根の3階まで巡り、伐採した木材をいかだ穴付きのままで利用した部材を披露し、往時の建築造営と製材の関係を示す興味深い内容だった。1時間の現場案内は、あっという間に終わったが、普段にない近距離での観察で、多くの視聴者の好奇心を刺激したことだろう。貴重な現場の情報についてメモを取られた方々もたくさんいらしたようだ。
後半の討論は京都大学防災研究所の金玟淑氏(2007年渥美奨学生)の司会で進行した。韓国伝統建築修理技術振興財団の姜璿慧先生、中国文化遺産研究院の永昕群先生、京都工芸繊維大学のアレハンドロ・マルティネス先生が研究成果や経験に基づき、各国の伝統建築の保存修理事情を紹介し、二王門の保存修理を始めとする日本との相異についてコメントを頂いた。また、塩原フローニ・フリデリケ氏(BMW Japan、2008年渥美奨学生)からは市民を代表して文化財保存への理解を述べていただき、保存修理に携わっている専門家も多くのことを考えさせられた。
最後に視聴者の皆さんからの質問も受け、先生方にご回答いただいた。時間が限られており、すべてに回答することはできなかったが、視聴者と交流を図ることができたと思う。
3時間という長時間のフォーラムであったが、先生方は木造建築文化財保存への情熱があふれており、スクリーンを通して誠実で熱い討論が交わされた。その心は視聴者へも伝わったであろう。
常に工程に追われる保存修理現場にもかかわらず、多くの要望に応えていただいた竹口先生を始め、研究や調査業務で多忙な先生方へ心より感謝を申し上げたい。最後まで支援していただいたSGRAの存在の意義を改めて実感した。フォーラムには250余名が参加してくださった。皆さまに感謝するとともに少しでもお役立つことができたらと願うばかりである。木造建築文化財の修復・保存に限らず、専門家と市民のギャップはどの業界にもある。今回の試みを機に、多くの方がそのギャップを理解し、少しでも埋めていく意識を高めることができれば幸いである。
当日の写真
アンケート集計
<李暉(り・ほい)LI Hui>
2014年度渥美奨学生。2015年東京大学大学院博士(工学)取得。2014~2018年、奈良県文化財保存事務所仕様調査員として、薬師寺東塔(国宝・奈良県)の保存修理事業に携わった。2018年、奈良文化財研究所アソシエイトフェローとして、平城宮第一次大極殿院復原研究に従事。2023年、奈良女子大学 大和・紀伊半島学研究所古代学・聖地学研究センター協力研究員。専門は中国建築史。著書に、『建築の歴史・様式・社会』(共著、中央公論美術出版、2018)、『中国の建築装飾』(共訳、科学出版社東京、2021)、『中国古典庭園 園冶図解』(監訳、科学出版社東京、2023)など。
2023年4月20日配信
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2023.03.20
SGRAレポート第101日本語版 中国語版 韓国語版
第69回SGRAフォーラム講演録
第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性
「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」
2023年3月22日発行
<フォーラムの趣旨>
新型コロナ感染症蔓延が続くなか、「国史たちの対話」ではオンラインでのシンポジウムを開催し、一定の成功を収めてきたと考える。イベントを開催する環境にはなお大きな改善が期待しづらいことを踏まえ、引き続き従来参加してきた人々のなかでの対話を深めることを重視した企画を立てた。
大きな狙いは、各国の歴史学の現状をめぐって国史研究者たちが抱えている悩みを語り合い、各国の現状についての理解を共有し、今後の対話に活かしてゆきたい、ということである。こうした悩みは多岐にわたる。今回はその中から、各国の社会情勢の変貌、さまざまなメディア、特にインターネットの急速な発達のもとで、新たな需要に応えて歴史に関係する語りが多様な形で増殖しているが、国史の専門家たちの声が歴史に関心を持つ多くの人々に届いておらず、かつ既存の歴史学がそれに対応し切れていない、という危機意識を、具体的な論題として設定した。
共通の背景はありつつも、各国における社会の変貌のあり方により、具体的な事情は多種多様であると考えられるので、ひとまずこうした現状認識を「歴史大衆化」という言葉でくくってみた上で、各国の現状を報告していただき、それぞれの研究者が抱えている悩みや打開策を率直に語り合う場とした。
<もくじ>
第1セッション [総合司会:李 恩民(桜美林大学)]
はじめに 李 恩民(桜美林大学)
開会の趣旨 彭 浩(大阪公立大学)
【問題提起】 「 歴史大衆化」について一緒に考えてみましょう
韓 成敏(高麗大学)
【指定討論1(中国)】 私が接触したパブリック・ヒストリー
鄭 潔西(温州大学)
【指定討論2(日本)】 日本で起こっていること─「歴史学」専門家の立ち位置と境界─
村 和明(東京大学)
【指定討論3(韓国)】 韓国における「公共歴史学」の現況と課題
沈 哲基(延世大学)
【コメント】 指定討論を受けて
韓 成敏(高麗大学)
第2 セッション [モデレーター:南 基正(ソウル大学)]
自由討論
論点整理:劉 傑(早稲田大学)
パネリスト:問題提起者、討論者、国史対話プロジェクト参加者
第3セッション [総合司会:李 恩民(桜美林大学)]
総括
三谷 博(東京大学名誉教授)
閉会挨拶
趙 珖(高麗大学名誉教授)
講師略歴
あとがきにかえて
金キョンテ
参加者リスト
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2023.03.15
下記の通り第21回日韓アジア未来フォーラム「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)-これからの政策への挑戦-」をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。
テーマ:「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)-これからの政策への挑戦-」
日 時: 2023年4月22日(土)14:00~17:00
方 法: 渥美財団ホールおよびZoomウェビナー
言 語: 日本語・韓国語(同時通訳)
主 催:第21回日韓アジア未来フォーラム実行委員会
共 催:公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会/財団法人未来人力研究院(韓国)
参加費:無料
申 込: こちらよりお申し込みください
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■フォーラムの趣旨
冷戦後の国際関係において非軍事的要素の重要性を背景にグローバルな経済対立、貧富格差の拡大、そして気候変動、先端技術の侵害、サイバー攻撃、パンデミックなどが新しい安全保障の範疇に含まれるようになってきた。伝統的な安全保障問題が地理的に近接した国家間で発生する事案抑止を前提とするのに対して、新たな安全保障上のリスクは突発的に発生し、急速に拡大し、さらにグローバルネットワークを通じて国境を超える。多岐にわたり複雑に絡み合う新しい安全保障のパラダイムを的確に捉えるためには、より精緻で包括的な分析やアプローチが必要なのではないだろうか。
フォーラムでは、韓国における「エマージング・セキュリティー(新たな安全保障)」研究と日本における「経済安全保障」研究を事例として取り上げ、今日の安全保障論と政策開発の新たな争点と課題について考察する。
■プログラム
総合司会 金雄熙(韓国仁荷大学教授)
第1セッション(14:00 - 15:05)
開会挨拶 徐 載鎭(財団法人未来人力研究院院長)
基調講演1 金 湘培(ソウル大学政治外交学部教授) 30分
「エマージング・セキュリティー、新たな安全保障パラダイムの浮上」
現代ではパンデミック、気候変動、大規模自然災害、サイバーセキュリティー、新技術、人口・移民・難民の危機などのこれまでとは質的に異なるグローバルな課題が安全保障上の脅威として拡大している。本講演では、こうした脅威に対応する方策としての「エマージング・セキュリティー(emerging security、新たな安全保障)」をテーマとする。これまでも脱冷戦(Post-Cold War)を背景に新しい安全保障のパラダイムを理論化しようとする試みがなかったわけではない。9・11 同時多発テロ以降の脱近代(post-modern)安保秩序への変換と、2020 年代の人間中心の安保秩序からコンピューターが人類の知性を超えるポスト・ヒューマン(post-human)秩序への変換を視野に入れてきたが、現代の安全保障問題を扱うには不十分な点が多い。パンデミックやサイバー攻撃のような脅威が突発的に発生し、急速に拡大してマクロリスクとして現れ、そして、グローバル化・ネットワーク化を通じて国境を超えるのがエマージング・セキュリティーの特徴である。こうしたエマージング・セキュリティー研究は、既存の「非伝統的安全保障(non-traditional security)」または「新安全保障(new security)」などの概念を超えるより積極的で新しい安全保障パラダイムの浮上として捉えることができ、国家単位で政治・軍事的安全保障を強調した従来の伝統的安全保障パラダイムを越えようとする概念的な試みなのである。
基調講演2 鈴木 一人 (東京大学公共政策大学院教授)30分
「日本における経済安全保障をめぐる議論」
第二次大戦後の世界秩序の基本には、政治と経済が分離し、政治は経済に介入しないという自由市場経済、自由貿易があった。こうした自由貿易の原則は資源の乏しい日本においてその経済成長を可能にする重要な役割を果たしたが、近年はその状況が変わっている。米中対立による政治的目的の手段としての経済、武器としての相互依存が一般化する中で、経済を使った国家間対立と、経済的強制が新たな脅威となっている。こうした脅威を管理するために、国際競争力、経済的・技術的優位性の確保が最優先課題となり、一方では研究開発を促進し、他方では技術管理、輸出管理の強化が進んでいる。日本におけるその現状を報告する。
(休 憩 10分)
第2セッション(15:15 - 15:55)各10分
コメント 李 元徳(国民大学校社会科学大学教授)
コメント 西野純也 (慶應義塾大学法学部政治学科教授・オンライン)
コメント 林 恩廷 (公州大学国際学部副教授)
コメント 金 崇培 (国立釜慶大学人文社会科学部助教授)
第3セッション(15:55 - 16:45)
自由討論/質疑応答(モデレータ: 金雄熙)
総括・閉会(16:45~17:00)
平川 均
(名古屋大学名誉教授/渥美国際交流財団 理事/第21回日韓アジア未来フォーラム実行委員長)
[ 同時通訳 ]
日本語⇔韓国語:李 ヘリ(韓国外国語大学)、安 ヨンヒ(韓国外国語大学)
[ プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください ]
プロジェクト概要
韓国語版ウェブサイト