SGRAレポートの紹介

  • 2025.11.19

    レポート第114号「中近東・東南アジアからみる 日本と暮らす日本: それぞれの視点で考える」

    SGRAレポート第114号   第76 回SGRA フォーラム 「中近東・東南アジアからみる日本と暮らす日本:それぞれの視点で考える」 2025年11月21日発行   <フォーラムの趣旨> 中近東や東南アジアでアニメ・マンガなど日本のポップカルチャーへの関心が急上昇している。日本語学習のきっかけとなることも多い。トルコ語に翻訳された日本のアニメや漫画が飛躍的に増えているように、日本ポップカルチャーはブームだ。日本研究においても、これらの地域でなぜ日本文化の受容が広がっているのか、なぜ若者が日本語に特別な関心を持つようになったのかをもっと議論すべきであろう。   一方、日本には中近東や東南アジアの国々から来た多くのイスラム教の移住者がいるが、日本語や文化、教育の環境に順応しようとしながら生活する中で、さまざまな困難に直面している。まずは言語の壁や文化的な違いによる摩擦が大きな課題だ。また、日本で生まれ育った子どもたちにとっては、自らのルーツに基づくアイデンティティーや宗教教育に関する問題も浮上している。   フォーラムでは、こうした課題に焦点を当て、第1部では中近東の日本語教育と日本研究を考える。第2部では、日本文化の受容と日本語教育を内側から議論をするために日本社会と共生する外国人コミュニティー、特に、イスラム文化圏から来た移民が直面する問題を深く掘り下げ、具体的な努力や解決策を模索する場とした。   中近東や東南アジア地域における日本文化の需要を外側と内側からとらえることにより、今日の世界における日本のソフトパワーの位置づけが可能になるだろう。     <もくじ> 開会挨拶 角田英一(渥美国際交流財団) トルガ・オズシェン(COMU) ムザッフェル・オズレミル(COMU)     【第1部】 中近東の若者にとっての日本語学習と日本文化 [発表1] トルコに於ける日本語教育と学習者の最初の混乱:カタカナ  レベント・トクソズ( テキルダー・ナムク・ケマル大学(NKU))   [発表2] トルコの若者のアニメとマンガ関心:現実逃避、別世界とアイデンティティー  チェリッキ・メレキ(COMU)   [発表3] イランの若者と日本語・日本文化:メディア、教育、就職、そして未来展望  アヤット・ホセイニ(テヘラン大学)   [討 論] 中近東の日本語・日本文化イメージを再考察する 司会:岩田和馬(東京外国語大学) オンラインQ&A:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) 指定討論者: 孫 建軍(北京大学) 市村美雪(COMU) ショリナ ダリヤグル(筑波大学) 討論者: レベント・トクソズ(NKU) チェリッキ・メレキ(COMU) アヤット・ホセイニ(テヘラン大学)   【第2部】 日本におけるイスラムコミュニティーの日本文化受容と日本語教育 [発表4] 在日の中東出身者における日本語習得過程の変容と影響要因に関する考察 アキバリ・フーリエ(神田外国語大学)   [発表5] 在日インドネシアコミュニティーと多文化共生:イスラム教育を中心に ミヤ・ドゥイ・ロスティカ(大東文化大学)   [討論・質疑応答] 日本の国際化の中の外国人コミュニティーを再考察する  司会:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) オンラインQ&A:岩田和馬(東京外国語大学) 指定討論者: ゲンチェル・バルオール・ゼイネップ(パムッカレ大学(PAU)) チャクル・ムラット(関西外国語大学) 討論者: レベント・トクソズ(NKU) チェリッキ・メレキ(COMU) アヤット・ホセイニ(テヘラン大学) アキバリ・フーリエ(神田外国語大学) ミヤ・ドゥイ・ロスティカ(大東文化大学)   登壇者略歴    あとがきにかえて チェリッキ・メレキ(COMU)
  • 2025.11.19

    レポート第113号「東アジア地域市民の対話 国境を超える地方自治体・ 地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」

    SGRAレポート第113号   第75 回SGRAフォーラム/第45 回持続的な共有型成長セミナー 「東アジア地域市民の対話 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の可能性を探る」 2025年11月19日発行     <フォーラムの趣旨> 地理学的にいえば、「東アジア」は、北東アジア(日本、中国、韓国)と東南アジア(ASEAN 加盟国)の双方から構成され、「多様性の中の調和」原則の現出ともいえる「東アジア統合」というASEAN+3 のビジョンを共有している。東アジアはこのビジョンに向けて大きな前進を遂げたが、近年中国が関わる出来事がこのビジョンに向けた地域の進歩を頓挫させていることも否定できない。 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(Local-to-Local Across Border Schemes、以下LLABS)は、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)とフィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)経営開発学部(CPAf )のさまざまなコラボレーションとして、フェルディナンド C. マキト博士が主導する「持続可能な共有成長セミナー」を通じて生まれた。UPLB チームは、フィリピン内務省の地方政府アカデミーと地方自治省のために LLABS 研究プロジェクトを実施した。 本フォーラムでは、桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群とSGRA の協力によって、従来主にフィリピンで検討されてきた LLABS構想について、北東アジアの研究者と一緒に議論し、その実現の可能性について探ることを目的とした。 会場とオンラインのハイブリッド形式で開催し、共催のフィリピン大学オープンユニバーシティを通じて広くオンライン参加者を募った。   <もくじ> 【開会挨拶】 李 恩民(桜美林大学)   【基調講演】 国境を超える地方自治体・地域コミュニティ連携構想(LLABS)の概要と意義  フェルディナンド C. マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ)   【討論1】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性コミュニティ連携 ─成長のトライアングルと移民(中華街・カレー移民)に見る教訓─ 佐藤考一(桜美林大学)   【討論2】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性 東北アジア地域における越境開発協力および地域自治体協力枠組み─中国を事例に─  李 鋼哲(東北亞未来構想研究所(INAF))   【討論3】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性 国際レジーム形成における韓国地方政府の取り組み─日中韓地方政府交流会議を事例として─  南 基正(ソウル大学日本研究所)   【討論4】 ASEAN+3と日本。LLABSの可能性 政治的制約を超える台湾と東南アジア「非政府間」の強い結びつき 林 泉忠(東京大学東洋文化研究所)   【市民の意見】 フィリピン市民の意見─LLABSとフィリピンの視点─ ジョアン V. セラノ(フィリピン大学オープンユニバーシティ)   インドネシア市民の意見─LLABSとインドネシアの視点─  ジャクファル・イドルス(国士舘大学)   タイ市民の意見─LLABSとタイの視点─  モトキ・ラクスミワタナ(早稲田大学)   【自由討論】 総合司会: ブレンダ・テネグラ(アクセンチュア) 進  行: フェルディナンド C. マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ) 発  言  者:(発言順): 南 基正(ソウル大学日本研究所) 林 泉忠(東京大学東洋文化研究所) 佐藤考一(桜美林大学) 李 鋼哲(東北亞未来構想研究所(INAF)) ジョアン V. セラノ(フィリピン大学オープンユニバーシティ) ジャクファル・イドルス(国士舘大学) モトキ・ラクスミワタナ(早稲田大学)    【総括にかえて】 平川 均(名古屋大学名誉教授)   【閉会挨拶】 今西淳子(渥美国際交流財団)   登壇者略歴    あとがきにかえて ─フェルディナンド C. マキト(フィリピン大学オープンユニバーシティ)
  • 2025.11.16

    レポート第112号「アジア近代美術における〈西洋〉の受容」

    SGRAレポート第112号(日中合冊)   第18回SGRAチャイナ・フォーラム 「アジア近代美術における〈西洋〉の受容」 2025年11月16日発行     <フォーラムの趣旨> 2023年に開催した「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」では、日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)を講師に迎え、いまだ東北アジア地域では紹介されることが少ない東南アジアにおける近代美術誕生の多様な様相について学んだ。その続編として今回は、初期の東南アジアの美術家にとって重要な存在であったゴーギャンを取り上げ、東南アジア近代美術において〈西洋〉がどのように受容され、そこにどのような課題が反映していたのかを考察した。   <もくじ> 【開会挨拶】 周 異夫(北京外国語大学日本語学院/日本学研究センター) 野田昭彦(国際交流基金北京日本文化センター)  【 講 演 】 アジア近代美術における〈西洋〉の受容 ─東南アジアのゴーギャニズム8後小路雅弘(北九州市立美術館) 【 指定討論1】 王 嘉(北京外国語大学)20世紀初期ベトナム近代美術教育について  【 指定討論 2】 二村淳子(関西学院大学)ゴーギャンにおけるベトナム、ベトナムにおけるゴーギャン  【自由討論】 モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 発 言者: 後小路雅弘(北九州市立美術館) 王 嘉( 北 京 外 国 語 大 学 )、二村淳子(関西学院大学) 【閉会挨拶】 王 中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科)     講師略歴 あとがきにかえて  李 趙雪(南京大学芸術学院)
  • 2025.06.20

    レポート第111号「疫病と東アジアの医学知識-知の連鎖と比較」

      SGRAレポート第111号     第11 回 日台アジア未来フォーラム 「疫病と東アジアの医学知識-知の連鎖と比較」 2025年6月20日発行   <フォーラムの趣旨> 2019年12月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が中国の武漢市から流行し、多くの死者が出て全世界的なパンデミックを引き起こした。人と物の流れが遮断され、世界経済も甚大な打撃を受けた。この出来事によって、私たちは東アジアの歴史における疫病の流行と対処の仕方、また治療、予防の医学知識はどのように構築されていたか、さらに東アジアという地域の中で、どのように知の連鎖を引き起こして共有されたかということに、大きな関心を持つようになった。会議では中国、台湾、日本、韓国における疫病の歴史とその予防対策、またそれに関わる知識の構築と伝播を巡って議論を行った。   <もくじ> 【第1部】 [報告1] 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)から疫病史を再考する ──比較史研究の可能性について  李 尚仁(中央研究院歴史語言研究所)   [報告2] 清日戦争以前の朝鮮開港場の検疫規則  朴 漢珉(東北亜歴史財団)   [報告3] 幕末から明治初期の種痘について  松村 紀明(帝京平成大学)   [報告4] 流行性感染症と東アジア伝統医学  町 泉寿郎(二松学舎大学)   【第2部】 [指定討論1] 「報告1 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)から疫病史を再考する ──比較史研究の可能性について」へのコメント  市川 智生(沖縄国際大学)   [指定討論2] 「報告2 清日戦争以前の朝鮮開港場の検疫規則」へのコメント 巫 毓荃(中央研究院歴史語言研究所)   [指定討論3] 「報告3 幕末から明治初期の種痘について」へのコメント  祝 平一(中央研究院歴史語言研究所)   [指定討論4] 「報告4 流行性感染症と東アジア伝統医学」へのコメント  小曽戸 洋(前北里大学東洋医学総合研究所教授)   【第3部】 自由討論  モデレーター:藍 弘岳(中央研究院歴史語言研究所) 発言者(発言順): 李 尚仁(中央研究院歴史語言研究所) 朴 漢珉(東北亜歴史財団) 松村 紀明(帝京平成大学) 町 泉寿郎(二松学舎大学)   講師略歴  あとがきにかえて 藍 弘岳(中央研究院歴史語言研究所)
  • 2025.06.19

    レポート第110号「パレスチナを知ろう」

    SGRAレポート第110号     第20 回SGRA カフェ/第73 回SGRA フォーラム/第22 回SGRA カフェ連続3回シリーズ 「パレスチナを知ろう」 2025年6月20日発行   <各シリーズ開催の趣旨> シリーズ1:第20回SGRAカフェ 「パレスチナについて知ろう:歴史、メディア、現在の問題を理解するために」 パレスチナは中東の重要な地域であり、イスラエルとの紛争や国際社会との関係が注目されています。しかし、多くの人はパレスチナの実情や人々の声を知らないまま、偏った情報や先入観に基づいて判断してしまうことがあります。シリーズ1では、パレスチナの歴史的背景やメディアの表現方法を分析し、現在の問題に対する多様な視点や意見を紹介しました。パレスチナについて知ることで、平和的な解決に向けた理解と共感を深めることを目的としています。大切なのは、同じ地球市民の一員として、この問題がこのままでいいのか、どうあるべきなのかを考えること、そしてそれに基づいて、何ができるか考え、実際に行動することではないでしょうか。シリーズ1はその出発点となるように、パレスチナ問題の歴史や現状、メディアとの向き合い方などについて、皆さんと一緒に考えました。   シリーズ2:第73回SGRAフォーラム 「パレスチナの壁:「わたし」との関係は?」 シリーズ2では専門家、パレスチナ出身者、パレスチナ支持の活動を行っている学生の声を取り上げ、なぜこの問題が全ての人にとって重要なのか、そしてその問題を取り上げようとするときに直面する壁について話し合いました。 「壁」という言葉には複数の意味が込められています。一つは、パレスチナ問題について公然と話すことを阻む見えない壁であり、タブーと言論の自由への抑圧を象徴しています。もう一つは、パレスチナ領土での継続的なアパルトヘイト(人種隔離)と植民地化の結果として存在する物理的な分離の壁です。世界中での学生の抗議活動は、これらの見えない壁を取り壊す試みであり、パレスチナ問題に対する公開討論を促進する力となっています。これはパレスチナ問題に対する新たな視点を提供すると同時に、世代間の意識の違いとその変化を示唆しています。   このフォーラムを通じて、参加者がパレスチナ問題に対する多面的な理解を深め、グローバルおよびローカル、マクロとミクロな視点からアプローチする機会になることを期待しています。   シリーズ3:第22回SGRAカフェ 「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」 これまでは国際政治やパレスチナ問題の現状に焦点を当ててきたことを踏まえ、シリーズ3では文化、文学、芸術にスポットライトを当てました。   パレスチナに関するニュースは戦争や紛争に偏りがちですが、パレスチナ人には逆境の中で形成された独自で多様な文化的アイデンティティがあります。パレスチナの文学や芸術は民族が国家を奪われ、自決権を認められず、土地や文化の喪失を経験してきた中で、「故郷」をどのように捉えているかを映し出しています。   パレスチナの芸術や文学がいかにして平和的な抵抗の手段となり、抑圧や占領に対抗する一つの形となっているのかについても探求しました。メディアでは語られることのないパレスチナの別の側面をご紹介し、このシリーズがポジティブな視点で終わることを目指しました。   <もくじ> シリーズ1 第20 回SGRAカフェ 「パレスチナについて知ろう:歴史、メディア、現在の問題を理解するために」 [講 演] パレスチナ問題の基礎知識:歴史と政治的構図の要点を抑える ハディ ハーニ(明治大学) ※シリーズ1・2共通   [ 質疑応答・ディスカッション] パレスチナについて知ろう:歴史、メディア、現在の問題を理解するために  司会:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) オンラインQ&A担当:徳永 佳晃(東京大学) 発言者:ハディ ハーニ(明治大学)   シリーズ1 あとがきにかえて  シェッダーディ アキル(慶應義塾大学)   シリーズ2 第73回SGRAフォーラム 「パレスチナの壁:『わたし』との関係は?」 [発表①] パレスチナ問題の基礎知識:歴史と政治的構図の要点を抑える ハディ ハーニ(明治大学) ※シリーズ1・2共通 [発表②] 建築の支配:植民地主義の武器としての建造環境 ウィアム・ヌマン(東京工業大学) [発表③] 立ち上がる学生、クィア、環境活動家たち:2023 年10月以降の東京のパレスチナ解放運動 溝川 貴己(早稲田大学)   [ 質疑応答・ディスカッション] パレスチナの壁:「わたし」との関係は? モデレーター:徳永 佳晃(日本学術振興会) オンラインQ&A担当:郭 立夫(筑波大学) 発言者(発言順): ハディ ハーニ(明治大学) ウィアム・ヌマン(東京工業大学) 溝川 貴己(早稲田大学)   シリーズ2 あとがきにかえて  郭 立夫(筑波大学)   シリーズ3 第22回SGRAカフェ 「逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ」   [講 演] 逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ 山本 薫(慶應義塾大学)   [ 質疑応答・ディスカッション] 逆境を超えて:パレスチナの文化的アイデンティティ 司会:シェッダーディ アキル(慶應義塾大学) オンラインQ&A担当:銭 海英(明治大学) 発言者:山本 薫(慶應義塾大学)   シリーズ3 あとがきにかえて  銭 海英(明治大学)   登壇者略歴   おわりに
  • 2025.06.18

    レポート第109号「第9回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性 東アジアの「国史」と東南アジア」

      SGRAレポート第109日本語版 中国語版  韓国語版      第74回SGRAフォーラム講演録 第9回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性  「東アジアの「国史」と東南アジア」 2025年6月20日発行   <フォーラムの趣旨> 「国史たちの対話」企画は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、3カ国間に存在する歴史認識問題の克服に知恵を提供することを目的に対話を重ねてきた。第1回で日中韓各国の国史研究と歴史教育の状況を確認することからスタートし、その後13 世紀から時代を下りながらテーマを設け、対話を深めてきた。新型コロナ下でもオンラインでの対話を実施し、その特性を考慮して、歴史学を取り巻くタイムリーなテーマを取り上げてきた。   2023 年は対面型での再開が可能となったことを受け、「国史たちの対話」企画当時から構想されていた、20 世紀の戦争と植民地支配をめぐる国民の歴史認識をテーマに掲げた。多様な切り口から豊かな対話がなされ、「国史たちの対話」企画の目標の一つが達成された。今後はこれまでの対話で培った日中韓の国史研究者のネットワークをいかに発展させていくか、またそのためにどのような方針で対話を継続していくかが課題となるだろう。   こうした新たな段階を迎えて、第9回となる今回は、開催地にちなみ、「東南アジア」と各国の国史の関係をテーマとして掲げた。日本・中国・韓国における国史研究は、過去から現在に至るまで、なぜ、どのように、東南アジアに注目してきたのだろうか。過去の様々な段階で、様々な政治、経済、文化における交流や「進出」があった。それらは政府間の関係であったり、それにとどまらない人やモノの移動であったりもした。こうした諸関係や、それらへの関心のあり方は、各国ではかなり事情が異なってきた。こうした直接・間接の関係の解明に加え、比較的条件の近い事例として、自国の歩みとの比較も行われてきた。そもそも「東南アジア」という枠組み自体も、国民国家や「東アジア」といった枠組みと同様、世界の激動のなかで生み出されたものであり、歴史学の考察対象となってきた。   本シンポジウムでは、各国の気鋭の論者により、過去の研究動向と最先端の成果が紹介された。これらの研究は、どのような社会的・歴史的な背景のもとで進められてきたのか。こうした手法・視座を用いることで、自国史にいかなる影響があり、また今後はどのような展望が描かれるのか。議論と対話を通じて3カ国の国史の対話を、より多元的な文脈のうちに位置づけ、さらに開いたものとし、発展の方向性をも考える機会としたい。   <もくじ> 第1セッション [司会:劉 傑(早稲田大学)] 【はじめに】 劉 傑(早稲田大学)   【開会挨拶】 三谷 博(東京大学名誉教授)   【基調講演】 ポストコロニアル時代における「ナショナリズム」衝突の原因 —毛沢東時代とポスト毛沢東時代における中国の対日政策の変化を手掛かりに 楊 奎松(北京大学・華東師範大学) 質疑応答  発言(発言順): 平山 昇(神奈川大学) 楊 奎松(北京大学・華東師範大学) タンシンマンコン・パッタジット(東京大学)   第2セッション [司会:南 基正(ソウル大学)] 【発表1(タイ)】 「竹の外交論」における大国関係と小国意識  タンシンマンコン・パッタジット(東京大学)   【発表2(日本)】 日本近代史と東南アジア ―1930 年代の評価をめぐって―  吉田ますみ(三井文庫)   【発表3(韓国)】 韓国における東南アジア史研究 ―回顧と展望―  尹 大栄(ソウル大学)   【発表4(中国)】 華僑問題と外交 —1959 年のインドネシア華人排斥に対する中国政府の対応—  高 艷傑(厦門大学)   第3セッション [司会:彭 浩(大阪公立大学)] 指定討論  指定討論者: 【中国】鄭 成(兵庫県立大学)、鄭 潔西(温州大学) 【韓国】鄭 栽賢(木浦大学)、韓 成敏(高麗大学) 【日本】佐藤雄基(立教大学)、平山 昇(神奈川大学)   第4セッション [司会:鄭 淳一(高麗大学)] 自由討論  討論者(発言順): 楊 奎松(北京大学・華東師範大学)、タンシンマンコン・パッタジット(東京大学)、 吉田ますみ(三井文庫)、尹 大栄(ソウル大学)、高 艷傑(厦門大学)、 三谷 博(東京大学名誉教授)、塩出浩之(京都大学)、平山 昇(神奈川大学)、 宋 志勇(南開大学)、鄭 栽賢(木浦大学)、韓 成敏(高麗大学)   討論まとめ: 劉 傑(早稲田大学)   【閉会挨拶】 宋 志勇(南開大学)   著者略歴  あとがきにかえて 金キョンテ(全南大学) 参加者リスト 
  • 2024.11.13

    レポート第108号「ジェットコースターの 日韓関係 ――何が正常で何が蜃気楼なのか」

    SGRAレポート第108号(日韓合冊)   第22 回 日韓アジア未来フォーラム 「ジェットコースターの日韓関係―何が正常で何が蜃気楼なのか」 2024年11月14日発行   <フォーラムの趣旨> 21 世紀の新しい日韓パートナーシップ共同宣言後、雪解け期を迎えた日韓関係は、その後浮き沈みを繰り返しながら最悪の日韓関係と言われる「失われた10 年」を経験した。徴用工問題に対する第三者支援解決法を契機に、2023 年の7回にわたる首脳会談を経て日韓関係は一挙に正常化軌道に乗った。一体、日韓関係において何が正常で、何が蜃気楼なのか? 徴用工問題解決の1年後の成果と課題、そして日韓協力の望ましい方向について考える。   <もくじ> 開会の辞 李 鎮奎(未来人力研究院) 南 基正(ソウル大学日本研究所)   【 第1部 報告と指定討論】日韓関係の復元、その一年の評価と課題 はじめに 座長:李 元徳(国民大学)  [報告1] 日韓関係の復元、その一年の評価と課題 政治・安保 西野純也(慶應義塾大学) [報告2] 日韓関係の復元、その一年の評価と課題 経済・通商  李 昌玟(韓国外国語大学) [報告3] 日韓関係の復元、その一年の評価と課題 社会・文化 小針 進(静岡県立大学) [討論1] 西野純也先生の報告を受けて 金 崇培(釜慶大学) [討論2] 李昌玟先生の報告を受けて 安倍 誠(アジア経済研究所) [討論3] 小針進先生の報告を受けて 鄭 美愛(ソウル大学日本研究所) [質疑応答]   【 第2部 パネル討論】 日韓協力の未来ビジョンと協力方向 座 長: 南 基正(ソウル大学日本研究所) パネリスト: 西野純也(慶應義塾大学) 小針 進(静岡県立大学) 安倍 誠(アジア経済研究所) 崔 喜植(国民大学) 李 政桓(ソウル大学) 鄭 知喜(ソウル大学日本研究所) 趙 胤修(東北アジア歴史財団)   開会の辞 今西淳子(渥美国際交流財団・SGRA) 金 雄煕(現代日本学会)   講師略歴    あとがきにかえて  ※所属は本フォーラム開催時のもの。
  • 2024.06.13

    レポート第107号「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」

    SGRAレポート第107号(日中合冊)   第17回SGRAチャイナ・フォーラム 「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 2024年6月13日発行     <フォーラムの趣旨> 今回は視野を東南アジアに広げた。日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)を講師に迎え、いまだ東北アジア地域では紹介されることが少ない東南アジアにおける近代美術誕生の多様な様相について学んだ。東南アジアの初期近代美術運動を通じて東北アジアとの関係や相互の影響について考えた。   <もくじ> 【挨拶】 野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター)   【講演】 東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生 後小路雅弘(北九州市立美術館館長/九州大学名誉教授)   【指定討論1】 熊 燃(北京大学外国語学院) 【指定討論2】 堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【 指定討論への回答】 後小路雅弘(北九州市立美術館館長/九州大学名誉教授)   【自由討論】 モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/ SGRA /清華東亜文化講座)   【閉会挨拶】 趙 京華(清華東亜文化講座/北京第二外国語学院)   講師略歴  あとがきにかえて ─孫 建軍(北京大学日本言語文化学部/ SGRA)    〇同時通訳(日本語⇔中国語):丁 莉(北京大学)、宋 剛(北京外国語大学/ SGRA)   ※所属・肩書は本フォーラム開催時のもの
  • 2024.04.19

    レポート第106号「第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性 20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか ─教育・メディア・研究─」

    SGRAレポート第106日本語版 中国語版  韓国語版      第72回SGRAフォーラム講演録 第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性  「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか ─教育・メディア・研究─」 2024年4月12日発行   <フォーラムの趣旨> 2016 年から始まった「国史たちの対話」の目的は、日中韓「国史」研究者の交流を深めることによって、知のプラットフォームを構築し、3カ国間に横たわっている歴史認識問題の克服に知恵を提供することである。   東アジア歴史問題の起因は、20 世紀の戦争と植民地支配をめぐる認識の違いと指摘されることが多い。しかし、公表された日韓、日中の歴史共同研究の報告書が示しているように、個別の歴史事実の解釈をめぐる違いはあるものの、20 世紀東アジア歴史の大筋についての認識には大きな齟齬は存在しない。それでも東アジアの国際関係がしばしば歴史問題で紛糾している理由の一つに、相手の「歴史認識」への認識が不十分ということを挙げることができる。   戦後の東アジアは冷戦、和解、日本主導の経済協力、中国の台頭など複数の局面と複雑な変動を経験した。各国は各自の政治、社会的環境のなかで、自国史のコンテクストに基づいて歴史観を形成し、国民に広げてきた。戦後各国の歴史観はなかば閉鎖的な歴史環境のなかで形成されたものである。各国の歴史認識の形成過程、内在する論理、政治との関係、国民に広がるプロセスなどについての情報は、東アジアの歴史家に共有されていない。歴史認識をめぐる対立は、このような情報の欠如と深く関わっているのである。   20 世紀の戦争と植民地支配をめぐる国民の歴史認識は、国家の歴史観、家庭教育、学校教育、歴史家の研究と発信、メディア、文化・芸術などが複雑に作用し合いながら形成されたものである。歴史家の研究は国家の歴史観との緊張関係を保ちながらも、学校教育に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。今回の対話のテーマの一つは、歴史家が戦後どのように歴史を研究してきたのか、である。戦後東アジア各国では激しい政治変動が発生し、歴史家の歴史研究と歴史認識も激しく揺れ動いた。歴史家の研究と発信の軌跡を跡づけることは、各国の歴史認識の形成過程を確認する有効な手段であろう。   映画・テレビなどのメディアも国民の歴史認識の形成に重要な役割を担っている。戦後、各国は各自の歴史観に立って、戦争と植民地に関係する作品を多数創作した。このような作品が国民の歴史認識に与えた影響は無視できない。また、メディア交流が展開されるなかで、多数の映画やテレビドラマが共同で制作された。国民同士はこれらの作品を鑑賞することで、間接的に歴史対話を行ってきた。各国の文化、社会環境が歴史認識にどう影響したのか、確認したい問題の一つである。   歴史認識をめぐる国家間の対立が発生すると、相手の歴史解釈と歴史認識の問題点を指摘することが多い。しかし、自国内に発生した政治、社会変動に誘発される歴史認識の対立の方がむしろ多い。相手の歴史認識を認識する過程は、自分の歴史認識を問い直す機会でもあろう。このような観点から、第8回の国史対話は、今までの対話をさらに深めることを目指した。   <もくじ> 第1セッション [司会:村 和明(東京大学)] 【開会挨拶】 劉 傑(早稲田大学) 【趣旨説明】 三谷 博(東京大学名誉教授)   第2 セッション サブテーマ:教育 [司会:南 基正(ソウル大学)] 【発表1(韓国)】 解放後における韓国人知識人層の脱植民地議論と歴史叙事構成の変化 金 泰雄(ソウル大学) 【発表2(中国)】 歴史をめぐる記憶の戦争と著述の倫理—20 世紀半ばの中国に関する「歴史の戦い」— 唐 小兵(華東師範大学) 【発表3(日本)】 日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか—教科書と教育現場から考える—  塩出浩之(京都大学) 【討論・質疑応答】 パネリスト同士の討論・参加者との質疑応答   第3セッション  サブテーマ:メディア [司会:李 恩民(桜美林大学)] 【発表4(中国)】 保身、愛国と屈服—ある偽満州国の「協力者」の心理状態に対する考察— 江 沛(南開大学) 【発表5(日本)】 戦後日本のメディア文化と「戦争の語り」の変容 福間良明(立命館大学) 【発表6(韓国)】 現代韓国メディアの植民地、戦争経験の形象化とその影響—映画、ドラマを中心に— 李 基勳(延世大学) 【討論・質疑応答】 パネリスト同士の討論・参加者との質疑応答   第4 セッション  サブテーマ:研究 [司会:宋 志勇(南開大学)] 【発表7(日本)】 「 わたし」の歴史、「わたしたち」の歴史—色川大吉の「自分史」論を手がかりに— 安岡健一(大阪大学) 【発表8(韓国)】 「発展」を越える、新しい歴史叙述の可能性—韓国における植民地期経済史研究の行方— 梁 知恵(東北亜歴史財団) 【発表9(中国)】 民国期の中国人は「日本軍閥」という概念をどのように認識したか 陳 紅民(浙江大学)   【討論・質疑応答】 パネリスト同士の討論・参加者との質疑応答) 論点整理 劉 傑(早稲田大学)   第5 セッション 指定討論/全体討議 [司会:鄭 淳一(高麗大学)] 議論を始めるに当たって:三谷 博(東京大学名誉教授) 指定討論者(発言順): 金 憲柱(国立ハンバット大学)、袁 慶豊(中国伝媒大学)、吉井文美(国立歴史民俗博物館)、史 博公(中国伝媒大学)   第6セッション 指定討論/全体討議[ 司会:彭 浩(大阪公立大学)]  指定討論者(発言順): 張 暁剛(長春師範大学)、金 澔(ソウル大学)、平山 昇(神奈川大学)   講師略歴    あとがきにかえて 金キョンテ   参加者リスト  
  • 2023.11.07

    レポート第105号「20世紀前半、北東アジアに現れた 『緑のウクライナ』という特別な空間」

    SGRAレポート第105号   第71 回SGRA フォーラム 「20世紀前半、北東アジアに現れた『緑のウクライナ』という特別な空間」 2023年10月30日発行     <フォーラムの趣旨> ロシア帝国は中国とのネルチンスク条約、アイグン条約、北京条約によって極東の大きな領土を手に入れることができた。その極東の国境沿いの領土はあまりにも人口が少なかったため、定住者を増やすことが政治地理的な大きな課題となった。   ほぼ同時期の1861 年に農奴解放令が発布され、当時ロシア帝国に付属していたウクライナの農奴はやっと農地を手に入れたものの、配給された土地は非常に小さく不満を抱く人が多かった。そこでロシア帝国政府は「帝国の南側から極東に家族ごと移住すれば、かなり大きな農地をもらえる」と宣伝し、1870 年からロシア革命までに大勢のウクライナ人が極東に移り住んだ。   1918 年1月にキーウで独立共和国の宣言が行われた時、極東のウクライナ人は「緑のウクライナ」という国を作ろうとしていた。1922 年にソ連政権が極東に定着した時、その政権から逃れた100 万人のウクライナ人がハルビンなどに移り住み1945 年まで留まっていた。   本フォーラムでは、いろいろな民族が住み、さまざまな文化が存在し、新たなアイデアもたくさん生まれていた、20 世紀前半の極東アジアに存在した特別な空間について話し合った。   <もくじ> 【開会挨拶】 マグダレナ・コウオジェイ(東洋英和女学院大学)   【講演1】 『緑のウクライナ』という特別な空間  オリガ・ホメンコ(オックスフォード大学日産研究所所属英国アカデミー研究員) 【講演2】 マンチュリア(満洲)における民族の交錯 塚瀬 進(長野大学環境ツーリズム学部学部長)   【話題提供1】 中国東北地域における近代的な空間の形成: 東北蒙旗師範学校を事例に ナヒヤ(内蒙古大学蒙古学学院歴史系副教授) 【話題提供2】 『マンチュリア』に行こう! グロリア・ヤン ユー(九州大学人文科学研究院広人文学コース講師)   自由討論 司会/モデレーター: マグダレナ・コウオジェイ(東洋英和女学院大学准教授) 討論者: オリガ・ホメンコ(オックスフォード大学日産研究所所属英国アカデミー研究員) 塚瀬 進(長野大学環境ツーリズム学部学部長) ナヒヤ(内蒙古大学蒙古学学院歴史系副教授) グロリア・ヤン ユー(九州大学人文科学研究院広人文学コース講師)   講師略歴 あとがきにかえて