SGRAレポートの紹介

  • 2003.02.01

    レポート第15号「中国における行政訴訟」呉東鎬

    SGRAレポート第15号(PDF)   投稿 呉東鎬「中国における行政訴訟―請求と処理状況に対する考察―」   2003.1.31発行   ---要旨-----------------   中国社会は、今、市場経済の導入によって個人の自立と自由が「単位」社会に取って代わり、社会主義計 画経済の下で維持してきた行政・命令・動員による人治社会秩序が次第に崩れつつある。そのために、今ま での人治社会に代わる法治社会の構築が求められるようになってきた。特に注目される出来事は、89 年に制 定された行政訴訟法である。それまで、「政府は人民の利益の代表者」として位置付けられ、「政府は正しい 存在」と考えられ、国民が政府を訴えることはありえないとされてきた中国社会にとっては大きな衝撃であ った。行政訴訟制度の中国での実施は初めてのことであるだけに、この10 年間の実績は正に模索の過程だっ たといえよう。   本稿では、行政訴訟法の施行から10 年の間に行われた人民法院の行政裁判に関するデータに基づいて、行 政訴訟の「請求と処理」状況を考察し、そこに存在する問題点とその原因の解明を試みる。そして、行政訴訟 事件数の推移、行政訴訟事件の種類、裁判所による行政訴訟事件の処理状況に対する、具体的考察と分析を 通じて、以下の見解を示す。   第1 に、この10 年間の行政訴訟事件数の推移から見た場合、中国では、毎年新規受件数の記録を更新して いる。行政に対する訴訟制度のスタートからわずか10 年経ただけで、一年間の新規受件数は9 万件以上にの ぼっている。この状況は、行政訴訟法の実施に伴い、より多くの国民が行政訴訟を通して自分の権利救済を図 っているという状況を反映しているともいえよう。もっとも、人口の割合から見れば、実際の行政訴訟事件 数は、せいぜい100 万人当たり25 件程度に止まっていること、また、全国の各法院が受理する件数は毎年 平均で7~8 件に過ぎないこと、法院の受理している事件総数の中で行政訴訟事件が占めている比率は極めて 低いこと、などから単に数の増加を根拠に行政訴訟の実効性を評価することはできないと考える。特に、行政 処罰と行政上の強制措置が中国社会に大量に存在し、その濫用が深刻である状況から見た場合、今の行政訴 訟請求数は、必ずしも多いとはいえず、国民の権利救済の主な手段としての機能を発揮しているとは結論し にくい。   第2 に、行政事件の内容から見た場合、行政の相手方の重大な権利利益に関わる、しかも一時的性質を有 する公安、土地、都市建設関係の行政訴訟事件に集中していることが分かる。更に、その訴訟対象となる具 体的行政行為は、行政処罰と行政上の強制措置が多く、民主主義において意義を持つ公害、環境などに関する 訴訟は見られない。これは中国の現代型行政訴訟が未発達であることを表しているといえよう。   第3 に、裁判所の行政訴訟事件に対する処理状況から見れば、取り消しし率(被告行政機関の具体的行政行 為を取り消す判決の占める比率)が低迷に陥っているのに対して、取り下げ率が大きく伸びていること、かつ その比率が高いことが最大の特徴である。そして、その「本来取り消しし判決によって処理されるべき行政 訴訟事件が取り下げによって処理されてしまう」という実態からは、実際の行政救済ができなくなってしまう 裁判所の事件処理状況が窺える。   第4 に、中国の裁判所の事件審理期間の統計によれば、表面上、かなり能率的に処理されているように見え るが、事件の内容、特殊性、取り下げ率の高い状況などから総合的に見た場合、額面どおりに受け取ることは できない。もっとも、この統計からは、裁判期限の法定化、裁判組織と人員の専門化などの裁判の効率を図 る工夫が、裁判コストを下げ、行政救済の実効性を高めるのに一定の効果があったことを反映しているとも 考えられる。   -------------------------  
  • 2003.01.31

    レポート第14号「グローバル化の中の新しい東アジア」+宮澤喜元総理大臣をお迎えしてフリーディスカッション

    SGRAレポート第14号(PDF) SGRAレポート第14号 英語版(PDF) 第8回フォーラム講演録 「グローバル化の中の新しい東アジア」 ~宮澤喜一元総理大臣をお迎えしてフリーディスカッション~ 平川均、李鎮奎、ガト・アルヤ・プートゥラ、孟健軍、B.ヴィリエガス 日本語版2003.1.31発行、韓国語版2003.3.31 発行、中国語版2003.5.30発行、英語版2003.3.6発行 ---もくじ---------------------- 【宮澤喜一元総理大臣をお迎えしてフリーディスカッション】 【講演1】「通貨危機は東アジアに何をもたらしたか」 平川 均(名古屋大学大学院経済学研究科附属国際経済動態研究センター教授) 【講演2】「韓国IMF危機以後の企業と銀行の構造改革」 李 鎮奎 (高麗大学校経営大学経営学科教授・(財)未来人力研究センター理事) 【講演3】「経済危機と銀行部門における市場集中と効率性―インドネシアの経験―」 ガト・アルヤ・プートゥラ (インドネシア銀行構造改革庁主席アナリスト) 【講演4】「アジア経済統合の現状と展望」 孟 健軍(中国清華大学公共管理学院、中国科学院―清華大学国情研究中心教授、日本経済産業省経済産業研究所ファカルティフェロー) 【講演5】「中国との競争と協力」バーナード・ヴィレガス (フィリピンアジア太平洋大学経済学部教授) 【自由討論・フロアーからの質疑応答】 【総括】 -------------------------
  • 2002.12.12

    レポート第13号「経済特区:フィリピンの視点から」マキト 

    SGRAレポート第13号(PDF) 投稿 F.マキト「経済特区:フィリピンの視点から」 2002.12.12発行 ---要旨---------------------- 小泉政権の骨太方針の第2弾〔正式には「経済財政運営と構造改革の基本方針2002」〕が、6月25日に発表された。その中に「経済改革特区」の設立が盛り込まれている。周知のように、経済特区というのは、発展途上国において開発手段として利用されてきた。フィリピンもその一国である。基本的な方法としては、日本の経済特区もフィリピンの経済特区と変わらない。指定された地域を対象に特別優遇政策(税金免除、補助金、充実したインフラ設備)によって経済活性化を図る。経済特区の中で活動している企業は、まるで現地の経済と「一国二制度」議論を引き起こすほど違うのである。 しかし、理念的には日本とフィリピンにおける経済特区は異なっている。日本の場合は従来の日本的な方法から脱却するために行うという意味合いが強いが、フィリピンの場合はどちらかというと、日本が経験した「共有された成長」をフィリピンで実現するために行っているのである。 本稿ではフィリピンの特区に焦点を絞り、そこで期待される日本の役割を検証してみたい。これにより、経済特区がどのようなものであるか、日本の皆さんへ、海外とりわけフィリピンからの一つの視点を提供できればと思う。 -------------------------
  • 2002.10.25

    レポート第12号「地球環境診断:地球の砂漠化を考える」建石隆太郎他

    SGRAレポート第12号(PDF) 第7回フォーラム講演録 「地球環境診断:地球の砂漠化を考える」 建石隆太郎、B.ブレンサイン 2002.10.25発行 --もくじ---------------------- 【ゲスト講演】「衛星データから広域の砂漠化を調べる」 建石隆太郎(千葉大学環境リモートセンシング研究センター助教授) 【研究報告】「フィールドワークでみる内モンゴルの沙漠化」 ボルジギン・ブレンサイン(SGRA研究員・早稲田大学モンゴル研究所研究員) 【質疑応答】 ------------------------
  • 2002.07.08

    レポート第11号 「中国はなぜWTOに加盟したのか」金香海

    SGRAレポート第11号(PDF) 投稿 金香海 「中国はなぜWTOに加盟したのか」  2002.7.8発行 ---要旨--------------------- 全体的に見れば、中国のWTO加盟はチャンスと挑戦が同時に存在する「諸刃の剣」である。それにもかかわらず、中国はなぜWTOに加盟したのか。その原因をめぐって、現在いろいろな説があるのはいうまでもない。本レポートでは、そのようなさまざまな原因を1つの分析枠組みによって解明することを試みている。すなわち、中国のWTO加盟の要因を、外からの拘束要因と内からの国内要因がWTO加盟に連動する、いわゆる国際要因と国内要因が連繋する2つのレベルから検討している。この課題を立証するため、相互に関連する6つの問題を取上げている。 ①WTOと何か②中国はなぜWTO加盟を申請したのか③中国のWTO加盟をめぐる米中交渉はなぜ妥結したのか④WTO加盟によって中国社会構造はどう変わるのか⑤中国がWTO加盟を決定した要因は一体何か⑥中国がWTO加盟したあとはどうなるのか。 方法論と実証分析に基づいて主要な要因を分析し、次の2つの結論を考察している。 第1点は、世界経済との相互依存の進化による中国国内経済の変化である。中国経済は、市場を媒介としながら世界経済と相互浸透し、その結果、中国の単一計画経済が分化され、国有企業、民間企業、外資企業、農業といったいろいろな経済セクターが出現した。各経済セクターは自らの政策選好を表出するが、その共通な部分を掬い上げると、市場経済の確立と公平な競争環境の整備による資源配分のメカニズムの導入である。しかし、社会政策選好と中央指導部の政策選択の間には、伝統的な政治構造と地域構造が介在しているため、社会政策選好が必ずしも国家政策に還元されるわけではない。したがって、3大改革を中心とする国内改革の一層の推進による市場経済体制の確立は、中国のWTO加盟におけるカギとなる。 第2点は、WTO加盟は構造的に中国を強く拘束する点である。WTOは、中国の市場開放と国際ルールの遵守、国家の自律性と制度上の改革を要求する。これに対し、中国中央指導部は加盟による便益とコストを合理的に計算し、外圧の効果を利用して社会主義経済体制の構築を目指している。そのため、「3つの代表論」を提起するなど、多元的な価値観を受入れ得る党のイデオロギーを新しく解釈しなければならない。このように、中国のWTO加盟は、経済システムへの適応、国内利益への調整という循環を繰り返す過程でもある。 今後の課題として、中国の世界通商体制の行方に与える影響と、WTOルールの適応による国内制度の変革と社会構造の変動をあげている。 ------------------------
  • 2002.06.15

    レポート第10号「日本とイスラーム:文明間の対話のために」板垣雄三

    SGRAレポート第10号(PDF) 第6回フォーラム講演録「日本とイスラーム:文明間の対話のために」 S.ギュレチ、板垣雄三  2002.6.15発行 --もくじ----------------- 【ゲスト講演】「日本とイスラーム:文明間の対話のために」板垣雄三(東京大学名誉教授) 【特別報告】「イスラームと日本と東京ジャーミイ」セリム・ギュレチ(東京ジャーミイ副代表、SGRA会員) ------------------------
  • 2002.02.28

    レポート第9号「グローバル化と民族主義:対話と共生をキーワードに」ペマ・ギャルポ他

    SGRAレポート第9号(PDF) 第5回フォーラム講演録 「グローバル化と民族主義:対話と共生をキーワードに」 ペマ・ギャルポ、林泉忠 2002.2.28発行 ---もくじ------------------- 【ゲスト講演】「民族アイデンティティと地球人意識」ペマ・ギャルポ(チベット文化研究所所長、岐阜女子大学教授) 【研究報告】北京五輪と『中国人』アイデンティティ:グローバル化と土着化の視点から」林泉忠(SGRA研究員、東京大学法学研究科博士課程) 【質疑応答】 --------------------
  • 2002.01.20

    レポート第8号「IT教育革命:ITは教育をどう変えるか」斎藤信男他

    SGRAレポート第8号(PDF) 第4回フォーラム講演録 「IT教育革命:ITは教育をどう変えるか」 臼井建彦、西野篤夫、V.コストブ、F.マキト、J.スリスマンティオ、蒋恵玲、楊接期、李來賛、斎藤信男 2002.1.20発行 ---もくじ----------------------- 【ゲスト講演1】「ITは教育を変えられるか」斎藤信男(慶応義塾常任理事) 【ゲスト講演2】「e-ラーニングの現状」臼井建彦(NEC eラーニング事業部) 【ゲスト講演3】「マサチューセッツ工科大学のIT教育戦略」西野篤夫(鹿島ITソリューション部・SGRA会員) 【在外研究者報告1】「情報化と政策」李 來賛(韓国通信政策研究院専任研究員) 【在外研究者報告2】「台湾のバーチャル教育都市: Educities -Active Social learning model: theories and applications」楊 接期(SGRA研究員・台湾国立中央大学Assistant Professor) 【事例報告1】「スタンフォード大学とのネットワーク協調機械設計授業の紹介」ブラホ・コストブ(SGRA研究員・都立科学技術大学博士課程) 【事例報告2】「オンライン授業の試み:『デジタル・ディバイド反対』宣言」フェルディナンド・マキト(SGRA研究員・テンプル大学ジャパン客員講師) 【事例報告3】「バンドン工科大学へのオンライン講義」ヨサファット・スリスマンティオ(SGRA研究員・千葉大学博士課程) 【事例報告4】「成人教育の新しい形:上海交通大学遠程教育中心の試み」蒋 恵玲(SGRA研究員・横浜国立大学博士課程) 【パネルディスカッション】 進行 SGRA研究員・東京理科大学助手 施 建明 ----------------------------
  • 2001.10.10

    レポート第7号「共生時代のエネルギーを考える:ライフスタイルからの工夫」木村建一他

    SGRAレポート第7号(PDF) 第3回フォーラム講演録「共生時代のエネルギーを考える:ライフスタイルからの工夫」 木村建一、D.バート、高偉俊 2001.10.10発行 ---もくじ----------------------- 【ゲスト講演】「民家に見る省エネルギーの知恵」木村建一(早稲田大学名誉教授) 【研究報告1】「エムシャー工業地帯再生プロジェクトから学ぶこと」 デワンカー・バート(SGRA研究員・北九州市立大学助教授) 【研究報告2】「都市構造とライフスタイルの変化による省エネルギーの効果」高 偉俊(SGRA研究員・北九州市立大学助教授) 【質疑応答】 ----------------------------
  • 2001.08.30

    レポート第6号 「今日の留学」工藤正司他

    SGRAレポート第6号(PDF) JISSA講演録 工藤正司 「今日の留学」 投稿 今西淳子「はじめの一歩:留学生受入制度の問題点(その1)」 2001.8.30発行 ---要旨----------------------- 工藤正司 「今日の留学」 以前私は、ある団体から依頼を受けて、世界史の中 で生じた「留学」という事象をいろいろ調べる機会 がありました。その断片の幾つかを私の勤めている 協会の機関誌の『月刊アジアの友』に掲載したこと があるのですが、今日は、それをネタにして、幾つか紹介してみたいと思います。一言で留学と言っても、色々と特色があります。それらを幾つか眺めてみて、今日私たちがかかわっている日本の留学生受入れをどう評価したらよいのか、どう改善してゆくべきなのか等、考える上で参考になれば幸いと思い ます。 ところで、本題に入る前に、日本の留学生受入れについて、その歴史をざっとおさらいしてみます。つまり、今日の留学生受入れの前史をみておきましょうということです。 今西「はじめの一歩:留学生受入制度の問題点(その1)」 本稿は、2000年12月22日に開催されたJAFSA(国際教育交流協議会)とJISSA(留学生奨学団体連絡協議会)の合同シンポジウムの時に、参加者に問題意識を共有してもらうために用意したものだが、SGRAレポートとして発行するに当たって、問題を一般化するために一部改訂した。他国に比べて同一性の強い日本が、国家予算を投入して世界各国から留学生を招待し、修学・研究支援をすることは、グローバル化における日本の国際貢献として重要なだけでなく、安全保障にも役立っているとされている。しかしながら、多大な留学生予算を投じているにもかかわらず、支援の効果について疑問を発する声もしばしば聞こえてくる。留学生受入の入口の問題、指導体制や生活支援を中心とした中の問題、学位授与や就職に関する出口の問題と、どの段階にも問題はあるが、ここでは入口の問題を扱う。 -------------------------