SGRAの活動

  • 2023.03.14

    第37回共有型セミナー@東京「東アジアダイナミクス」へのお誘い

      第37回共有型セミナー@東京をハイブリッド形式で開催いたします。 参加ご希望の方は事前登録をお願いします。   テーマ:「東アジアダイナミクス」 日 時:2023年4月10日(月)午前10時~午後1時 会 場:渥美国際交流財団ホール(東京都文京区) 方 法:会場参加およびオンライン(Zoom Meeting) 会 費:無料 参加申込:こちらよりお申し込みください。 ※登録していただいた方に参加用リンクをお送りします。   主催:公益財団法人渥美国際交流財団(AISF)関口グローバル研究会(SGRA) 共催:フィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)公共政策開発大学院(CPAf) 共催:一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)   問い合せ:SGRA事務局 [email protected]     ◇趣旨   日本を含む東アジア8カ国が実現した高度成長を研究する世界銀行の「東アジアの奇跡レポート」(1993)は、あらゆる意味で論争の的になったが、特記すべきは「成長と公平」というテーマに注目したことだ。このテーマは、トマ・ピケティの「21世紀の資本」(2014)やJ.E.スティグリッツの「世界の99%を貧困にする経済」(2013)であらためて人気を集めている。この議論から刺激を受けた本セミナーシリーズの総合テーマは「共有型成長」(SHARED GROWTH)で、富の分配と経済成長が同時に進むことを目指す。 しかしながら、今回のセミナーでは「東アジアの奇跡レポート」にはカバーされていない側面、国際的な「地域化」(東アジア地域化)と「地方分権化」をとりあげ、東アジアの経済発展ダイナミックスを「共有型成長」の観点からより深く理解することを目的とする。「地域化」の議論では、日本の研究者・赤松愛が1930年に発想するに至った「雁行形態論」の積極的側面に目を向ける。雁行形態論は1980年代に東アジアの目覚ましい経済発展の説明理論として再注目されたが、それから50年たった現在、この地域のさらなる発展を鑑みて赤松理論の意義について再検討を行う。東アジアで1990年代に起こったもう一つの流れが「地方分権化」である。経済成長はそれを支える社会によって支えられる。地方の成長が国の成長を支え、広げるメカニズムとしても考えられる。     ◇プログラム   【第1部】問題提起 ・「東アジアの地域化」 平川均(INAF理事長、渥美財団理事、名古屋大学)   本報告では、広義の意味での東アジア(東南アジアと東北アジア)における地域主義、地域協力、地域統合、その制度化を示す包括的概念として「地域化」を用いる。地域主義は2つの起源があった。ひとつは、北東アジア(主に日本)、もうひとつは東南アジアである。両者を起源とする地域主義はアジア通貨危機以前には併存し、以後はASEAN+3フレームワークの誕生によって、重層的な制度化と経済統合に道を開いた。ただし、今日、主要国の主導権争いを通じた経済統合がその推進力になっており、新たな課題に直面している。本報告では、過去1世紀を超える東アジアの地域化を概観し、今日的課題への教訓をくみ取ることを目指す。     ・「東アジアにおける地方分権化」 マックス・マキト(CPAf/UPLB, SGRA/AISF)   東アジアのダイナミクスを定義する一つの力として「国内の地方分権化」に注目し、地方分権化が「国際の地域化」の代替または補完であるかを議論する。「国内の地方分権化」と「国際の地域化」の2つの力が相互に補完し合うことができる二つの条件がある。最初の条件は、国家の適切な権限付与で、国家は相反する二つの力の渦に巻き込まれながらも、そこに適切な均衡を見つけなければならない。2番目の条件は、相互に影響し合う可能性のある二つの力に共通の原則の存在で、その一つが「共有型成長」である。     【第2部】討論 ・「将来の研究の方向性: 相互構成的な地域化と地方分権化、ASEAN および市民の位置づけ」 ダムセル・コルテス (CPAf/UPLB)   地域化と地方分権は、共有型成長を実現するための有望な道筋を提供しているが、私は地域化と地方分権をさらに理解するために別の視点を提供したい。それは、地域化と地方分権は単に補完的であるだけではなく、相互に構成的であるということです。さらに、ご発表から得られたいくつかの洞察と疑問を提起します。一つは、地域化という言説の中で、共有型成長、ASEANの価値、市民を位置づけることです。もうひとつは、地方分権のニュアンスと複雑な性質に焦点を当てます。     ・「地方自治体やNGOによる地域主義―東北アジア地域の経験―」 李鋼哲(INAF, SGRA/AISF)   冷戦崩壊とともに、1990年代から、社会主義陣営と資本主義陣営が対立していた東北アジア地域で地域主義の動きが活発になる。地方分権のプロセスはさまざまであるが、国境を越えた国際地域開発プロジェクトが立ち上がり、極地経済圏(サブ・リージョン・エコノミック・ゾーン)形成への動きが活発になった。これらの国際地域開発プロジェクトは、極地経済圏の形成とともに地方分権化にある程度進捗が見られ共有型成長に貢献していると思う。     ・「インドネシアの地方分権の事例紹介 」 ジャクファル・イドラス(国士舘大学, SGRA/AISF)   地域主義・地域統合と地方分権化は一見すると相反的な概念に見えるが、本研究は斬新的かつ新しい理論的な枠組みを提供し、両概念は相互的に影響を与えると主張している。共有型成長の仕組みとしての地方分権化については、多面的な問題であるということを明確にする必要があると考える。インドネシアでは、地方分権化は地方レベルの権力、富、資源の集中をもたらしたため、行政と財政の分権化に限らず、その実施の面をみる必要がある。国家のエンパワーメントは確かに重要な要因となるが、共有型の成長を達成するためには地域社会のエンパワーメントも中核的で重要な課題となる。     詳細はプログラムをご覧ください。 日本語版プログラム 英語版プログラム 英語版ウェブサイト
  • 2023.01.16

    第70回SGRAフォーラム「木造建築文化財の修復・保存について考える」へのお誘い

    下記の通り第70回SGRAフォーラム「木造建築文化財の修復・保存について考える」をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。   テーマ:「木造建築文化財の修復・保存について考える」 日 時:2023年2月18 日(土)午後1時~午後4時(日本時間) 方 法: オンライン(Zoom ウェビナーによる) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き   ※参加申込(クリックして登録してください) お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)     ■フォーラムの趣旨 東アジアの諸国は共通した木造建築文化圏に属しており、西洋と異なる文化遺産の形態を持っています。第70回SGRAフォーラムでは、国宝金峯山寺(きんぷせんじ)二王門の保存修理工事を取り上げ、日本の修理技術者から現在進行中の文化財修理現場をライブ中継で紹介していただきます。続いて韓国・中国・ヨーロッパの専門家と市民の代表からコメントを頂いた上で、視聴者からの質問も取り上げながら、専門家と市民の方々との間に文化財の修復と保存について議論の場を設けます。   今回のフォーラムを通じて、木造建築文化財の修復方法と保存実態をありのままお伝えし、専門家と市民の方々との相互理解を推進したいと考えております。   今回のフォーラムを実現することを可能にしてくださった、金峯山寺と奈良県文化財保存事務所に心からお礼を申し上げます。     ■プログラム 総合司会 李 暉(奈良文化財研究所 アソシエイトフェロー/SGRA)   13:00 フォーラムの趣旨、登壇者の紹介 13:10 開会挨拶 五條良知(金峯山寺 管長) 13:15 話題提供 竹口泰生(奈良県文化財保存事務所金峯山寺出張所 主任)   [討論] モデレーター: 金 玟淑(京都大学防災研究所 民間等共同研究員/SGRA) 14:20 韓国専門家によるコメント ――――― 姜 璿慧( 伝統建築修理技術振興財団 企画行政チームリーダー) 14:35 中国専門家によるコメント ――――― 永 昕群(中国文化遺産研究院 研究館員) 14:50 ヨーロッパ専門家によるコメント ――――― アレハンドロ・マルティネス(京都工芸繊維大学 助教) 15:05 市民によるコメント ――――― 塩原フローニ・フリデリケ(BMW GROUP Japan/SGRA) 15:20 視聴者からの質疑応答(Q&A機能を使って)   ※同時通訳: 日本語⇔中国語:丁 莉(北京大学)、宋 剛(北京外国語大学/SGRA) 日本語⇔韓国語:李 ヘリ(韓国外国語大学)、安 ヨンヒ(韓国外国語大学) 中国語⇔韓国語:朴 賢(京都大学)、金 恵蘭(フリーランス)     中国語版ウェブサイト 韓国語版ウェブサイト
  • 2023.01.08

    孫建軍「第16回SGRAチャイナフォーラム『モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―』報告」

    2022年11月19日(土)北京時間午後3時(日本時間午後4時)より第16回SGRAチャイナフォーラム「モダンの衝撃とアジアの百年――異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション」が開催された。コロナが始まってから3度目のオンライン形式だ。2021年に引き続き、京都大学名誉教授の山室信一先生に2度目の登壇を依頼した。2年連続して同一の先生に講演を依頼するのはフォーラムが始まって以来初めてだった。   例年通り、開催にあたり、主催側の渥美財団今西淳子常務理事、後援の北京日本文化センター野田昭彦所長(公務のため、野口裕子副所長が代読)より冒頭の挨拶があった。前年同様、野田所長の挨拶にテーマに沿った問題提起があり、フォーラムのウォーミングアップともなった。   講演は定刻に始まり、山室先生は主に4部に分けて語った。まず議論の前提として「論的転回」と「2つのモダン」について触れ、本題に移行した。第2部は「時間論的転回――生活時間と時計時間そして国家時間」、第3部は「ジェンダー論的転回――服色と性差・性美そしてモダン美・野蛮美」、そして最後は「アメリカニズムとグローバリゼーション」であった。第2部から第4部までが、それぞれさらに3つの項目に細分されて、アジアにおける時間と空間の近代的成立の特徴と影響について分析が行なわれた。現代人として何とも思わない事物や思考などの裏側を解き明かす80分間はあっという間に終わった。   討論は澳門大学の林少陽先生によって進められた。中国で活躍している若手研究者、北京社会科学院の陳言先生と中国社会科学院外国文学研究所の高華鑫先生より講演へのコメントが述べられ、そのコメントや新たな質問に山室先生が答えた。林先生が総括で語られた「アジアの近代化において、空間は時間を変えた」という話は深く考えさせられた。   百年の歴史を80分間で語るのは至難の業。振り返ってみれば、前年のフォーラムが終わった時から準備が始まっていたと言っても過言ではない。より多くの参加者の理解を促すために、中国通の山室先生からは様々な話題提供があった。何回ものメールのやりとり、そしてオンラインでの打ち合わせの結果、今回のタイトルが決まった。先生の知識の幅広さと人間としての謙虚さに心を打たれる連続であった。前年同様、事前に原稿を書き上げ、たくさんの画像を用意してくださった。もし前回は満足のいかない点があったとしても、講演終了時の先生の満面な笑みを見て、今回のフォーラムでやり残されたことはないだろう確信した。宣言通りに時間厳守されたことも心から尊敬してやまない。   厳しいコロナ対策の中でも、前回、前々回と同様、北京大学内で少人数ながら学生を集めた会場を設ける予定だったが、キャンパス内の陽性者発覚に続き、北京市全体の感染拡大を受け一般教員の入校が制限され、北京大側は全員オンライン参加を余儀なくされた。   このリポートを書き始めたころ、中国は「ゼロコロナ」から全面的に「ウィズコロナ」に切り替わった。多くの学生が次々と感染したのを知り、深く心を痛めた。私自身も感染を免れなかった。高熱、咳、全身の痛みとだるさにさいなまれる中、フォーラムのタイトルにある「通底・反転する」の真髄を噛みしめた。   オンラインで参加してくださった370余名の方々にあらためて感謝する。2023年こそ対面で行いたい。 最後に、北京大学の院生から感想文が寄せられたので紹介する。   ◇山室教授は、近代世界史を「近代としてのモダン」と「現代としてのモダン」の2つの段階に創造的に区分し、その過程を時間や空間の感覚、身体の倫理など、私たちに最も関係の深い日常生活の劇的な変化を通して示してくださいました。メディア、アート、服飾などに関する多くの用語を網羅し、山室先生の知識の幅の広さに驚嘆させられました。近代化の過程における「文明国の標準主義」の問題をめぐって、これまでの自分はマクロな視点から理解しようとしていましたが、今回の講演を通じて、身体感覚というミクロの視点から理解することができました。山室教授は日常生活と密接に結びつけながら、欧米に対応する中で東アジア(とりわけ日本と中国)の互いの拮抗や啓発から生じた平準化、同類化、固有化といった壮大な物語をつづりました。その思考の深さには尊敬の念が堪えません。講演の最後に触れた近代化と「アメリカニズム」の問題についても、考え続けていきたいです。(劉釗希、修士課程1年)   ◇前回に続き、「近代」(モダン)というキーワードを見つめ直したご意見を伺うことができ、非常に勉強となりました。特にジェンダーの転換という部分で考えさせられました。その中、「モダンガール」や「新しい女」という言葉が示す視覚的表象に関して、洋装や断髪という現象に関する論述が興味深かったです。女性史・ジェンダー史の考察では、上記の現象を課題として取り上げ、近代の商業広告における女性表象を分析する研究が多く見られます。そのうち洋装と断髪といった女性表象は一種の消費者の理想像であり、商業販売のために作られたという論説があります。象徴としての洋装と断髪は「モダンガール」や「新しい女」という新しい語彙と深く絡み合い、商業社会の進展とともに、視覚・言語による女性像が作られたと考えます。こうしてみれば、あらためてジェンダー視点は「近代」を考察するために不可欠であると考えました。これを糧に今後の研究に励みたく存じます。本当にありがとうございました。(羅婷婷、博士課程3年)   当日の写真   アンケート集計   <孫建軍(そん・けんぐん)SUN Jianjun> 1990年北京国際関係学院卒業、1993年北京日本学研究センター修士課程修了、2003年国際基督教大学にてPh.D.取得。北京語言大学講師、国際日本文化研究センター講師を経て、北京大学外国語学院日本言語文化系副教授。専攻は近代日中語彙交流史。著書『近代日本語の起源―幕末明治初期につくられた新漢語』(早稲田大学出版部)。     2023年1月13日配信
  • 2022.12.19

    ヤン・ユー グロリア「第18回SGRAカフェ『韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯』報告」

    1916年平壌に生まれ、2022年3月1日に105歳で亡くなった金秉騏(キム・ビョンギ)という画家がいる。若い頃を東京で過ごし、1947年以降はソウルで教育者・評論家として活躍、1965年に米国に渡り、そして100歳(2016年)の時に韓国に戻り、絵を描き続けた。   人生とキャリアを、国境を超えて紡いだ異色な作家を美術史ではどのように語ることができるか。2022年10月29日(土)にオンラインで開かれた第18回SGRAカフェ「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」は、その試みの場だった。問題提起・討論・質疑応答の3部から構成された本カフェは、世界各地から76人が視聴し非常に充実した内容となった。   まず問題提起として、コウオジェイ・マグダレナ氏(東洋英和女学院大学国際社会学部国際コミュニケーション学科講師)が金画伯に出会った記憶と彼への取材、作品の受容と評価などを、朝鮮半島・日本・アメリカで過ごした金画伯の人生のエピソードとともに生き生きと紹介した。金画伯の力強く抽象的な絵を満喫した後、発表の後半では、コウオジェイ氏は画伯の生涯と芸術創作がいかに「国史としての美術史(national_art_history)」の枠組みに挑戦をもたらしたかを指摘し、その枠組みでは見落としてしまう難点と限界、そして新たな可能性について、次に登壇する韓国・日本・米国で活躍している3人の美術史学者に投げかけた。   コウオジェイ氏の問いを受け、討論者として朴慧聖氏(韓国国立現代美術館学芸員)、五十殿利治氏(筑波大学名誉教授)、山村みどり氏(ニューヨーク市立大学キングスボロー校准教授)が登壇した。   朴氏は金画伯の回顧展「金秉騏:感覚の分割」(韓国国立現代美術館、2014-2015)を始め、20世紀のダイナミックな韓国美術史を紹介し、その中で様々な証言と口述を提供した金画伯の重要な位置を示した。彼の生涯と芸術創作は、様々な境界の間に位置し、またその境界を超えようと努力したと分析した。   続いて五十殿氏は、金画伯も言及した日本「アヴァン・ガルド洋画研究所」を手かかりに、そのメンバーや機関誌、展覧会などを探り出し、金画伯の東京時代と同時代の日本のモダン美術の動向、そして上野の美術館や銀座・新宿の小画廊が対抗しながらそうした動向の舞台となっていたと紹介した。   最後に山村氏は、米国での出版物や展覧会を通し、米国におけるアジア系アメリカ人の美術史の全貌を説明した。具体的に数名のアーティストとその作品を取り上げ、「アジア系アメリカ人」という枠組みでひとからげに解釈することの制限、「アジア系アメリカ人」の多様性、民族性とアイデンティティーの複雑な絡みを示した。   質疑応答では、あらためて金画伯と韓国・日本・アメリカ美術史の交差点を討論し、「国史」の枠組みを超越する美術史の書き方、東アジア美術史における共通の議論、そして美術史研究の倫理などについて討論を深め、国境を越える美術史の新たな可能性を提示した。質疑応答の後、発表者と討論者は「ミニ・オンライン懇親会」を行い、各国の美術史研究の現場の近況報告や、将来の研究コラボなどで話が盛り上がった。   カフェ当日は晴れだった。実はこのカフェを企画し始めた頃はまだ金画伯がご健在で、ご本人にオンラインでご参加いただこうという案もあった。残念ながら叶わなかったが、今回のカフェは金画伯を偲ぶ会にもなったのではないかと思う。日韓同時通訳付きだったため、韓国からの参加者も多く、ご感想・ご意見もたくさんいただき、こうした形で交流が広がっていけばよいと思う。このような交流の「場」を作り、新たな試みをサポートしてくださった渥美国際交流財団の皆様、企画したコウオジェイ氏、積極的に討論を深めた先生方に、心から感謝を申し上げたい。司会として大変有意義な経験だった。今後、「国史」の枠組みを超えたつながりを重視する美術史(connecting_art_histories)」について新たな試みを続けたい。   当日の写真   アンケート集計   韓国語版はこちら   <ヤン、ユー グロリア Yang Yu Gloria) 2015年度渥美奨学生。2006年北京大学卒業。2018年コロンビア大学美術史博士号取得。東京大学東洋文化研究所訪問研究員を経て、九州大学人文科学研究院広人文学コース講師。近現代日本建築史・美術史を専門。
  • 2022.12.16

    エッセイ726:ボルジギン・フスレ「ウランバートル・レポート2022年秋」

    2022年は日本・モンゴル外交関係樹立50周年だった。半世紀の日モ交流の成果を振り返り、同時に北東アジア各国の国際関係の現状や課題を総括し、ユーラシアの眼差しから日モ両国の関係がどのようなプロセスをへて構築されたか、どのように構築していくべきかなどをめぐって議論を展開することは、大きな意義を持つ。第15回ウランバートル国際シンポジウムはこの課題に応えるものであった。   9月3~4日、日本・モンゴル外交関係樹立50周年記念事業である第15回ウランバートル国際シンポジウム「日本・モンゴル ―ユーラシアからの眼差し」がモンゴル国立大学2号館203室で開催され、160名ほど研究者、学生等が参加した。昭和女子大学国際文化研究所と渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)、モンゴル国立大学科学カレッジ人文科学系アジア研究学科の共同主催で、渥美国際交流財団、昭和女子大学、モンゴルの歴史と文化研究会、「バルガの遺産」協会から後援を、麒麟山酒造株式会社、ユジ・エネルジ有限会社から協賛を頂いた。   モンゴル国立大学科学カレッジ人文科学系アジア研究学科長Sh.エグシグ(Sh.Egshig)氏が開会の辞を述べ、モンゴル国駐箚日本国特命全権大使小林弘之氏(在モンゴル日本国参事官菊間茂氏代読)、モンゴル国立大学学長B.オチルホヤグ(B.Ochirkhuyag)氏、渥美国際交流財団事務局長角田英一氏、モンゴル国立大学科学カレッジ副学院長N.アルタントグス(N.Altantugs)氏が祝辞を述べた。その後、2日間にわたり、前在モンゴル日本大使清水武則氏、モンゴル科学アカデミー会員・前在キューバモンゴル大使Ts.バトバヤル(Ts.Batbayar)氏、一橋大学名誉教授田中克彦氏、ウランバートル大学教授D.ツェデブ(D.Tsedev)氏、東京外国語大学名誉教授二木博史氏、大谷大学教授松川節氏、モンゴル国立大学教授J.オランゴア(J.Urangua)氏などをはじめ、日本、モンゴルの研究者32名(共同発表も含む)により、21本の報告をおこなった。ウランバートル国際シンポジウムに初参加の角田氏はたいへん注目され、歓迎された。   シンポジウムはモンゴルの『ソヨンボ』『オラーン・オドホン』などの新聞により報道された。日本では『日本モンゴル学会紀要』第53号などが紹介する予定である。シンポジウムを終えて、9月5日午後から24日にかけて、私は「“チンギス・ハーンの長城”に関する国際共同研究基盤の創成」と「匈奴帝国の単于庭と龍城に関する国際共同研究」の研究プロジェクトでボルガン県、アルハンガイ県、ウムヌゴビ県、ヘンティ県などに行き、現地調査を実施した。その詳細も別稿にゆずり、ここでは番外編エピソードを紹介したい。   9月4日午後のエクスカーションで、海外からの参加者はトゥブ県のチンギス・ハーン騎馬像テーマパークを見学した。そこで予想もつかぬ「出来事」が起きた。ウランバートルから1時間半ほどの旅を経て、私たちのバスは目的地のテーマパークに着いた。88歳のK先生がバスを降りたとたん、ズボンのベルトをはずし、急いで近くの木に歩いていき、小便をしようとした。 「先生、白昼堂々とこんなところで…やめたほうがいい。罰金取られるよ。(テーマパークの)中にはお手洗いがあるから」と私は阻止しようとした。 しかし、K先生は「モンゴルでは大丈夫。もう我慢できない」と言いながら、木の下で用を足した。するとすぐ管理人らしい中年の男が走って来て、怒って止めようとした。   その後、みんなで記念写真を撮ってから、巨大なチンギス・ハーン騎馬像(建物)に入った。約1時間の見学を終えて、私たちが騎馬像から出ると、中年の女性 ―テーマパークの支配人が待っていた。「あなたたちの代表は誰ですか」と聞かれたので、「何かありましたか」と尋ねた。 「あなたたちのなかの1人がこのテーマパークの芝生で小便をした。罰金です。防犯カメラにちゃんと写っている」と支配人は言う。 「いくらですか」と聞いた。 「10万トゥグリグ(約4000円)」。 私はK先生に「どうしよう。やはり罰金です。10万トゥグリグ」と言った。 「10万トゥグリグ?高いね。ね、あの人に、 僕はそこで半分しかおしっこしなかった。だって、あのおじさんに阻止されたから。だから、半額にしてくれないか”と交渉してみて」と頼まれた。 言われた通り、女性支配人に説明した。 「半額?無理。半分したにしろ、全部したにしろ、おしっこしたことは事実でしょう。どれほどしたかとは関係ない。割引はできないよ」と、戸惑った支配人は厳しく言った。 K先生は「おかしいな。半分しかしなかったのに、なぜ全額を支払うか。納得できないね。半分したから、支払うのも半分にするのは妥当だろう」と、再び私に交渉させた。実はK先生、モンゴル語がうまい。しかし、なぜかずっと私に交渉させる。 支配人は突然何かを理解したようで、「そんなことってあるの。もういいわ。分かった。半額の5万トゥグリグをください」と笑いながら言った。 K先生は、まわりに悠然と歩いている牛や馬、羊などの家畜を指しながら、「彼女(支配人)に聞いて。牛とか、馬、羊とかさ、毎日自由にここでおしっこをしたり、うんこをしたりしている。これってどうやって罰金取るのか。誰が支払うのか。誰に支払うのか。ほら、あの犬おしっこしているよ」と。 支配人は一瞬言葉を失ったようだが、少し考えて、「これ…、これは罰金取らないよ。だって、これは自然のことで大自然には何の悪いことにもならないし、自分の家畜だから」と言いながら、笑いが止まらなかった。 「おかしいよね。だって、僕のも自然なことじゃないか。僕のおしっこで大自然に貢献したじゃないか。僕にお金を支払うべきじゃないか」とK先生も笑いながら5万トゥグリグを払った上で、今度は「ね、領収書をくれないかと聞いて」と私に言った。 「領収書?面白い人ね。ここには領収書はないよ。今日、ウランバートルの本社は休みなので、明日電話して。そこからちゃんともらえる」と支配人は笑いをこらえられず、電話番号まで教えてくれた。   結果を聞いたK先生は、こんな話をし始めた。 「モンゴルは本当に変わったね。昔はどこに小便しても大丈夫だった。今はダメになったか。不思議。領収書ももらえるのか。モンゴルはしっかりしているね」 「あの支配人も、なぜ僕に“おしっこを半分しかしなかったということをどのように証明するか”と聞かなかったのか。人間って、おしっこを半分で止めるのはけっこう難しいよ。ほとんど人はできない。それをどうやって証明し、どうやって検証するのだろう」 「でも僕は嘘ついていないよ。僕はできる。さっき、本当に半分しかしなかった」 「明日、ちゃんと領収書をもらってね。彼らはそこに何を書くかが興味深い。 “罰金10万トゥグリグのところ、おしっこは半分しかしなかったため、その半額の5万トゥグリグ”と書くか。想像もつかない。その領収書をちゃんともらってくださいよ。日本に帰ったら、新聞にこのことを書くよ。面白いね…」   帰りのバスの中では、この出来事が延々と話題になった。   その夜、スフバートル広場近くの日本レストラン「ナゴミ」で懇親会が開かれた。最後に私がK先生に中締めのご挨拶をお願いした。K先生はいくつかのことを振り返ったが、やはりこの出来事が話の中心になり、大いに盛り上がった。   第15回ウランバートル国際シンポジウムの写真   <ボルジギン・フスレ BORJIGIN Husel> 昭和女子大学国際学部教授。北京大学哲学部卒。1998年来日。2006年東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会外国人特別研究員、ケンブリッジ大学モンゴル・内陸アジア研究所招聘研究者、昭和女子大学人間文化学部准教授、教授などをへて、現職。主な著書に『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(1945~49年)――民族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011年)、『モンゴル・ロシア・中国の新史料から読み解くハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2020年)、編著『国際的視野のなかのハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2016年)、『日本人のモンゴル抑留とその背景』(三元社、2017年)、『ユーラシア草原を生きるモンゴル英雄叙事詩』(三元社、2019年)、『国際的視野のなかの溥儀とその時代』(風響社、2021年)、『21世紀のグローバリズムからみたチンギス・ハーン』(風響社、2022年)他。     2022年12月16日配信
  • 2022.12.01

    エッセイ724:デール・ソンヤ「家から参加したアジア未来会議」

    2年に1度開催されるアジア未来会議(AFC)を、いつもとても楽しみにしている。興味深い発表やディスカッションはもちろんだが、それより、世界中の「ラクーン(元渥美奨学生)」との再会や新しい出会いの機会でもある。自分にとってのAFCは、とても賑やかな笑いと笑顔がたっぷりのイベントだ。コロナの影響で1年延長され、ハイブリッド形式で開催されることになったが、私を含めてほとんどの参加者が家からオンラインで参加した。台湾に行けなかったことは残念だが、今回はこのユニークなオンラインAFC体験について書く。   自分が担当したAsian Cultural Dialogues(ACD)の円卓会議の他に、セッションの座長およびクロージングセレモニーの司会として関わった。ACDは角田さん(渥美財団事務局長)の発案により作られたネットワークおよび対談のフォーラムであり、今年は初めて私が担当した。コロナの影響で当初の企画より少し短めのプログラムになった。テーマは、「アジアにおけるメンタルヘルス、トラウマと疲労」にした。その理由は、やはりコロナ時代において感じる日常的なストレスおよび社会的な変化だ。インドネシア、フィリピン、日本からの発表の後には、インド、タイ、ミャンマーにいる、または専門にしているコメンテーターからの意見をいただき、ディスカッションした。   コロナは世界中で共通している経験だが、それぞれの国の対応・状況は異なる。その違いや対策などについて知り、話すことはとても面白かった。フィリピンのMaria Lourdes Rosanna E de Guzman先生の発表で、活動家の長い闘いと成果のおかげで、政府もしっかりとメンタルヘルスの支援をするようになったと聞いて感動した。日本のVickie Skorjiさんの話から、ジェンダー不平等とメンタルヘルスの関係性を改めて考えさせられ、多様な立場にいる人々を想像し、適切に対応する重要性を感じた。また、インドネシアのHari Setyowibowo先生の発表から、「コロナの影響で新しく生まれてくる可能性」という、前向きな視点も与えられた。   コメンテーターは、以前のACD円卓会議に関わってくれたCarine JacquetさんとラクーンのRanjana Mukhopadhyaya先生、ACD円卓会議に参加してくれた方の紹介で新しく関わってくださったKritaya Sreesunpagiさんであった。それぞれのコメントからコロナの深い影響を感じ、コロナの政治的な問題および争いの関係性について学び、考えることができた。コメンテーターの参加により、ACDネットワークの連続性および絆を感じることができて、角田さんおよび最初からずっとACDに参加してくださっている皆さんに敬意を表したい。充実したディスカッション後には、Kritayaさんの指導で10分ぐらいの瞑想があり、すっきりした気持ちでセッションを終えた。世の中に大変な事がたくさんあっても、自分にやるべき事が山ほどあるとしても、ひとまず自分のケアをしっかりする必要性を感じた。参加者の皆さん、本当にありがとうございました!   AFCの魅力は、自分の分野以外の研究者と触れ合うことだ。私が座長をしたパネルは専門と全く関係のない工学関係の発表が多かったが、興味津々で発表を聞くことができた。会場でやるときより視聴者が少なく寂しかったが、それなりに楽しくできたと思う。   クロージングセレモニーではオンラインながらも皆さんの笑顔が見られて、とても楽しい気持ちになった。知っている人に声を出して「元気!?最近どう!?」と、言いたかったけど、司会として真面目にしなくてはいけないね、とがまんした。次のAFCの会場がバンコクと発表され、とても良い盛り上がった雰囲気の中で会議を終えた。   オンラインだけのAFCは、正直少し寂しかったが、何よりこの状況の中で開催できたことは素晴らしかった。皆さんとの再会、本当に楽しみにしている。またバンコクで会おう、乾杯しようね!     英語版はこちら     <デール・ソンヤ DALE Sonja> ウォリック大学哲学部学士、オーフス大学ヨーロッパ・スタディーズ修士を経て上智大学グローバル・スタディーズ研究科にて博士号取得。現在、インディペンデントリサーチャー。専門分野はジェンダー・セクシュアリティ、クィア理論、社会的なマイノリティおよび社会的な排除のプロセス。2012年度渥美国際交流財団奨学生。     2022年12月1日配信
  • 2022.11.28

    レポート第100号「進撃のKカルチャー ――新韓流現象とその影響力」

    SGRAレポート第100号(日韓合冊)     第20 回 日韓アジア未来フォーラム 「進撃のKカルチャー―新韓流現象とその影響力」 2022年11月16日発行     <フォーラムの趣旨> BTS は国籍や人種を超え、一種の地球市民を一つにしたコンテンツとして、グローバルファンダムを形成し、BTS 現象として世界的な注目を集めている。一体BTS の文化力の源泉をなすものは何か。BTS 現象は日韓関係、地域協力、そしてグローバル化にどのようなインプリケーションをもつものなのか。   本フォーラムでは日韓、アジアの関連専門家を招き、これらの問題について幅広い観点から議論するため、日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行った。   <もくじ> 【開会の辞】 今西淳子(渥美国際交流財団常務理事・SGRA代表)    【第1 部】 [報告1] 文化と政治・外交をめぐるモヤモヤする「眺め」 小針 進(静岡県立大学教授)   [報告2] BTSのグローバルな魅力―外的、環境条件と内的、力量の要因― 韓 準(延世大学教授)   【第2 部】 [ミニ報告] ベトナムにおけるKポップ・Jポップ チュ・スワン・ザオ(ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員)   [講演者と討論者の自由討論] 討論者: 金 賢旭(国民大学教授) 平田由紀江(日本女子大学教授)   【第3 部】 [質疑応答] 進 行: 金 崇培(釜慶大学日語日文学部准教授) 金 銀恵(釜山大学社会学科准教授) 回答者: 小針 進(静岡県立大学教授) 韓 準(延世大学教授) 平田由紀江(日本女子大学教授)   【閉会の辞】 徐 載鎭(ソ・ゼジン:未来人力研究院院長)   講師略歴   あとがきにかえて
  • 2022.11.24

    エッセイ723:キン・マウン・トウエ「アジア未来会議参加報告:20年ぶりの学術会議」

    第6回アジア未来会議に円卓会議II「コミュニティとグローバル資本主義:やはり世界は小さいのだ」の発表者として参加しました。学術研究の世界から離れて約20年たちましたが、渥美財団の今西常務理事とマキト先生のお誘いを受けて、学生時代に戻ったようでした。ホテル経営と観光業に力を入れてきたので、テーマは「ミャンマーの現状における観光業とそのコミュニティの発展」です。パンデミックや政権変動の後に立ち上がり始めたミャンマーの観光業の発展に関する報告をしました。   ミャンマーでは、コロナの影響によってお客様が来なくなって営業を止めたホテルがほとんどでしたが、再開し始めています。その際には国連世界観光機関(UNWTO)と世界保健機構(WHO)の基準に基づいて、厚生省と観光省が作成した(Standard Operating Procedure (SOP)規則によって、Health and Safety Protocol (HSP)認定が条件です。ホテル側は様々な準備や従業員へのコロナに関する教育指導、さらには観光業に関連するコミュニティ等への教育指導並びに準備も必要になりました。観光省の認定証は3つのレベル―地域レベル(Regional Level HSP)、国家レベル(National Level HSP)と国際レベル(International Level HSP)―があります。これから再開するホテルは国家レベルHSP認定証がないと営業は難しく、観光客からの信頼と信用を得られないでしょう。私も指導者の1人なので、教育と普及の責任を感じています。   現在、治安が良い観光地には国内観光客が増加しています。政府がオンラインビザ申請を再開したことによって、外国人観光客やビジネスの訪問者も増えていています。ただし、現状の物価急騰や国際的な燃料費の高騰、最も影響が大きい国内通貨の変動など問題は山積みです。このような課題があっても、「アジアのパラダイス」であるミャンマーの自然や歴史など、さまざまな観光資源を上手に開発して、今後の復興のために、観光に携わる人々の協力とそのコミュニティの発展を期待しながら、毎日一生懸命仕事をしていることを報告して発表を終えました。   その後、円卓会議座長のマキト先生の素晴しい進行によって、他の国際的な発表者たちと時間を忘れて楽しい議論をしました。最近、ミャンマーの観光業関係者の会議や打ち合わせが多くありますが、このような学術的な国際会議は約20年ぶりで大変興味深く、若返った気がしました。これからも平和な地球、より良いコミュニティを作るために頑張れるでしょう。   近年、ミャンマーではコロナの問題だけでなく、世界的に注目されている政権の変動によって人々の生活状況が大きく変わりました。ただ、治安の問題については、ミャンマーすべての場所でなく一部で起きていることです。治安が落ち着いている観光地では国内観光客が増加したことによって、経済も立ち直ってきたようです。政府が変わるのは国内の問題であり、毎日の生活のため、国民のひとりひとりが自ら実行できる対策を考えながら行動する必要があります。自由を求めることは、その人の考えに基づくものですし、レベルには差があると思いますが、まずは現状を見ながら生きることが最も重要・大切と思います。ミャンマーに自由がなければ、このようなオンラインの国際会議に私が参加することはできなかったでしょう。     英語版はこちら     <キン・マウン・トウエ Khin Maung Htwe> ミャンマーで「小さな日本人村」と評価されている「ホテル秋籾(AKIMOMI)」の創設者、オーナー。マンダレー大学理学部応用物理学科を卒業後、1988年に日本へ留学、千葉大学工学部画像工学科研究生終了、東京工芸大学大学院工学研究科画像工学専攻修士、早稲田大学大学院理工学研究科物理学および応用物理学専攻博士、順天堂大学医学部眼科学科研究生終了、早稲田大学理工学部物理学および応用物理学科助手、Ocean Resources Production社長を経て「ホテル秋籾」を創設。SGRA会員。   以下のエッセイもご参照ください。   https://www.aisf.or.jp/sgra/combination/sgra/2019/12587/   https://www.aisf.or.jp/sgra/active/network/2022/17933/
  • 2022.11.11

    エッセイ721:マックス・マキト「マニラレポート2022年夏」

    パンデミックのせいで台湾は「近くて遠い国」になってしまった。プレカンファランスをオンラインで開催して1年延期された第6回アジア未来会議であったが、皆の祈りはかなわなかった。アジア未来会議の「現場」に行けなかったのは初めてだ。参加者もいつもより少ない気がした。   しかし、現場から離れていても会議ができるだけ成功するように、この狸(注:渥美財団のロゴに因んで元奨学生を「狸」と呼んでいる)は頑張った。一つの時間帯を除き、最初のセッションから閉会式まで参加し、分科会セッションでは質問をして議論を盛りあげた。国籍や専門分野や社会部門(大学・政府・民間・市民社会)を乗り越えることが狸の使命なのだ。狸はにぎやかな集まりを好んで、状況に合わせて化ける癖がある。他の狸たちも舞台の表裏で頑張っていた。皆と話したかったが、状況が許してくれなかった。   今回の会議でも僕にはさまざまな役割があった。共著論文2本の発表、セッションの座長、そして3時間の円卓会議を主催した。全て僕が日本留学によって学び、取り組み始めた「共有型成長」の研究と関係しており、研究とアドボカシーをさらに一歩進めさせてくれた。   8月28日(日)午前9時(台湾・フィリピン時間)からの分科会セッション「所得・富の地域的な格差」では共著論文を2本発表した。どちらもSGRAフィリピンが主催する持続可能な共有型成長セミナー(おかげさまで既に34回開催!)で取り上げているテーマである。1本目の論文は、地価税が伝統的な所得税などより効率的かつ公平でエコである税金だと主張し、いかにフィリピンで導入できるかを検討した。残念ながら優秀論文には選ばれなかったが、共著者と相談して発表することにした。共同研究者にも経験を積んでもらうため、地方公務員のミニー・アレハンドル(Minnie Alejandro)さんに発表をお願いした。2本目の論文は、地方分権政策が共有型成長の重要な原理の一つだという考えから、コロナ禍のインドネシア、タイ、フィリピンの地方分権政策を比較したものである。優秀論文に選ばれ、フィリピン大学ロスバニョス校の同僚ダムセル・コルテス(Damcelle Cortes)先生と共同で発表した。   29日午後4時からのセッションでは座長を務めた。テーマは「国際的な観点からみた所得・富の格差」で、発表論文は3本しかなかった。1本目はロシアからの研究者で、移民の移民先に対する影響についての研究成果を発表した。2本目は日本の大学を卒業したインドネシアの研究者たちが、金融危機における銀行の機能を巡って日本とアングロ・アメリカとの銀行管理システムを比較した。3本目はフィリピンの大学の研究者の発表で、フィリピンの出稼ぎ労働者からの送金が母国の危機における緩和役を果たした報告である。   自由討論の中で、フィリピン大学オープン大学のセザー・ルナ(Cesar Luna)副学長から1本目の発表に対してとても良い指摘があった。「なぜ移民先(先進国)への影響に注目したか」。まあ、先進国の立場からの研究だから無理もない。   3本目の報告は逆で、出稼ぎ労働者の海外からの送金の母国への影響を調べていたが、僕は「問題意識をもっと深くしたほうがいいではないか」と指摘した。フィリピンの出稼ぎ労働者の英雄的な存在は以前からよく取り上げられているので、今度はフィリピンの社会・経済コストを研究したほうが良いのではないか。頭脳流出もよく指摘されている。今日のニュースでは「パンデミックに対応するフィリピンの病院設備は十分あるが、医療スタッフがすごく足りない(看護婦が全国で12万人ぐらい不足)」と言っていた。社会的なコストも高い。出稼ぎ労働者で一杯の国際空港の出発ロビーは旅行気分で賑やかではなく、むしろ愛する家族・友達としばらく離れる悲しい場所である。そして、政策により出稼ぎ労働者が外貨稼ぎの主な手段として使われているため、政府は他の経済部門(農業や工業)の育成を怠っている。気が付かないうちに、いわゆるオランダ病に落ち込んでいる。このような課題の方をもっと研究するよう発表者にお願いした。   2本目の日米の比較研究は、内容も良く時間も守ってくれたので優秀発表賞に推薦した。僕が研究していた日米経済の根本的な違いを確認してくれたので、僕の研究をシェアして続けるよう奨励した。   僕として一番大事なセッションは、29日午前9時からの円卓会議だった。アジア未来会議では毎回さまざまな円卓会議が開催され協力してきたが、初めて僕が主催者となった。1年以上前から準備を始めたが、その難しさを肌で感じることになった。渥美財団の角田英一事務局長と相談しながら、新しい円卓会議を立ち上げた。この円卓会議はシリーズ化する予定で、総合テーマは「世界をアジアから東南アジアのレンズ(視点)で観る」(Contemplating the World from Asia through Southeast Asian Lens)である。今回はその1回目の円卓会議という位置づけで、テーマは「コミュニティーとグローバル資本主義:やはり世界は小さいのだ」(Community and Global Capitalism: It’s a Small World After All)だった。   元渥美奨学生でインドネシア出身のジャックファル(Jakfar-Idrus Mohammad)先生とミャンマー出身のキン・マウン・トウエ(Khin Maung Htwe)さんが発表を引き受けてくれたので心強かった。ジャックファルさんは村有企業(village-owned enterprise)という面白い試みを取り上げた。キンさんは、観光によっていかにコミュニティーを活性化させるか、彼自身の努力を語った。ベトナムのハ(Quyen-Dinh Ha)先生は、ベトナムではパンデミック危機を抑えるためにコミュニティーがいかに重要だったかを報告した。   円卓会議の基調講演はフィリピン大学ロスバニョス校の同僚ホセフィナ・ディゾン(Josefina Dizon)先生と僕が担当し、このテーマの問題意識を紹介した。社会ネットワーク分析の「小さな世界」という概念を利用して、今の世界経済秩序が同時多発テロのようなパンデミックに対して脆いことを指摘した。そして、もう一つの小さな世界であるコミュニティーがこの打撃に対応する時に重要であると指摘した。それに対して討論してくれたのは、フィリピン大学でコミュニティー研究が専門のアレリ・バワガン(Aleli Bawagan)先生とジャン・ペレズ(John Perez)先生だった。両者ともパンデミックに対応するためにはコミュニティーの役割が大きいことを確認しながら、パンデミックの特殊性に合わせて研究と活動の見直しが必要ではないか、大学のプログラムをどう再編すればいいか等、色々なヒントを与えてくれた。   円卓会議を初めて企画段階から務めた担当者として、円卓会議の概念はそもそも何かということまで考えさせられた。由来は、やはりあのアーサー王の円卓(ラウンドテーブル)であり、目的はアーサー王が騎士らと集まる時にテーブルの上座がない、つまり一番偉い人がいない座り方にして全員が等しく重要であることを強調した。今度の円卓会議の発表者の多くは3~4世代にわたって蓄積したコミュニティー開発の経験があり、実を言うと僕が一番新参者(新世代)だ。しかし、僕は皆が平等であることを目指し、「先生」「博士」ではなく、昔風にサー(SIR)かマダム(MA'AM)と呼び合うようにお願いした。そのほうが皆が率直に話ができる、というのが円卓会議の本質である。こうして我が東南アジアの騎士たちは活発で有益な議論をしてくれた。   日本の茶室の伝統はこの円卓会議と同じ狙いであろう。侍は刀を外に置いて、茶室の低いにじり口をくぐって入り正座する。茶室で集まると、皆平等になる。アーサー王の円卓と違うのは茶人(tea_master)がいることだ。AFCの円卓会議では僕が座長を務めたので「茶室会議」と呼んだほうが良いかもしれない。だって、狸は畳の上に寝転がるのと一期一会の世界が好きだからさ。   追伸:僕のアンケートに協力していただいた狸たちにお礼を申し上げます。これからもよろしくお願いします!   <フェルディナンド・マキト Ferdinand C. MAQUITO> SGRAフィリピン代表。SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学ロスバニョス校准教授。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師、アジア太平洋大学CRC研究顧問を経て現職。     2022年11月11日配信  
  • 2022.11.03

    エッセイ720:李鋼哲「第6回アジア未来会議INAFセッション『台湾をもっと知ろう』レポート」

    今年のアジア未来会議は8月末に台北の中国文化大学で開催予定だったが、コロナ禍の終息が見られずハイブリッド形式で開催、台湾の参加者は会場に集まり、海外からはオンラインで参加した。コロナ禍にも関わらず、世界各地から大勢の参加者が集まり盛況だったと思う。   大会2日目の28日は多くの分科会が設けられたが、その中の2つを一般社団法人・東北亞未来構想研究所(INAF)が主催した。   この企画は、INAF所長である筆者が準備段階から研究所内の皆さんに呼び掛け、東北アジア地域を対象とした研究所としての特徴を生かし、東北アジア諸国と台湾との関係をテーマに設定し、政治や歴史、経済・産業分野を中心にしたユニークなセッションとして注目された。   当初、台湾に旅する機会が少ない皆さんは、視察旅行を兼ねて学術会議に参加を申し込んだが、残念ながらその望みは実現できなかった。   にもかかわらず、発表者の皆さんは忙しい中でも膨大なエネルギーを注いで準備を行った。専門分野ではあるものの、台湾との関係についてはほとんど各自の研究の射程に入っていなかった。台湾の特殊な事情により、日本を始め台湾研究者は非常に限られている。   特殊な事情の一つは、第2次世界大戦後の1949年に同じ国であった中国と台湾が中華人民共和国と中華民国に分断されたこと。次に国際社会の中で中国の存在感が大きく、台湾が小さいこと。最後に国際連合(UN)での代表資格が1945年から1971年10月までは中華民国だったが、その後は国連決議により中華人民共和国にとって替われ、それ以来、世界多数の国は中華人民共和国と国交を締結する際に「一つの中国」しか認めない、という中国政府の条件を受け入れ、中華民国との国交関係を次々と断絶したことなどが挙げられる。   そのような台湾(中華民国)が、今度のINAFセッションによって少しでも脚光を浴びることになったかもしれない。   【Part1】では平川均INAF理事長をモデレーターとし、3名の報告と討論が行われた。   第1報告は、筑波大学大学院博士課程の李安・INAF研究員による「岸信介政権期における政財界の対中「政経分離」認識―新聞報道を中心に―」だった。1950年代に国交がない中で民間貿易がどのように展開されたのかについて、当時のメディアの報道をリサーチした日中両国関係についての研究であるが、発表者は当時の日本と中華民国との関係についてもメスを入れて、日本は如何に国交がない中国との民間貿易に取り組んだのか、その中で中華民国との関係をどのように処理したのか、という大変興味深い内容であった。討論は羽場久美子・INAF副理事長・神奈川大学教授が務めた。   第2報告は、川口智彦・INAF理事の「北朝鮮-台湾関係と国際関係」。北朝鮮(DPRK)は建国後、ソ連や中国など社会主義圏との交流関係が多く中国とは親密な関係を持っていたため、資本主義圏の中華民国(台湾)との交流はほとんど行われず、両者関係は空白と言っても過言ではなかった。そのような厳しい状況であるにも関わらず、発表者は一生懸命に資料を収集し、韓国研究者の論文を見つけ出し、北朝鮮と台湾の関係が形成された時期の台湾外交を「第1期、柔軟な外交(1972~1987)」、「第2期、実用外交(1988~1999)」、そして「定型化(2000~現在)」に分け、両岸関係、中米関係、中韓関係と関連させながら、それぞれの時期にあった当該国間の外交、経済交流の事例に関する研究を紹介した。日本では前例をあまり見ない先駆的な研究であるかもしれない。討論は三村光弘・INAF理事・ERINA研究主任(北朝鮮専門家)が担当した。   第3報告は、アンドレイ・ベロフ・INAF理事・福井県立大学教授の「Economic Relations between Russia and Taiwan」であった。前述と同じ理由で、台湾はソ連やロシアと外交関係がなかったため、相互交流がほとんどなく、それに関する先行研究もほとんど見当たらない状況の中で、経済交流に関する資料を収集し、エネルギーや半導体の貿易が行われていることを明らかにしたので、これも先駆的な研究であるかもしれない。討論は筆者が務めた。   【Part2】のモデレーターは川口智彦理事が務め、2名の報告と討論が行われた。   第4報告は陳柏宇・INAF理事・新潟県立大学准教授の「東アジアにおける帝国構造とサバルタン・ステイト:台湾と韓国を中心に」であった。報告者はINAFセッションの中で唯一台湾出身の学者であり、東アジアの国際関係や国際政治を専門とし、台湾と中国の関係、台湾と日本の関係など多くの研究成果を発表している。本報告では「サバルタン」とは植民地化または他の形態の経済的、社会的、人種的、言語的または文化的支配によってもたらされる従属の状態であることを説明した上で、戦後の韓国と台湾(中華民国)は東アジアのサバルタン・ステイトの代表例だ、という指摘は印象に残った。討論は佐渡友哲・INAF理事が務めた。   最後の報告は筆者で、テーマは「半導体産業におけるグローバル・サプライ・チェーン再編―米中覇権争いと台湾―」にした。筆者は半導体産業の研究が専門ではないが、米中貿易摩擦および覇権争いが激しさを増す中、「半導体を制する者は21世紀を制する」と言われるので、それに関する資料を収集・分析して、半導体の開発・生産・販売を巡る米中台3者の関係を明らかにしようとした。討論は平川均理事長が務めた。   発表と討論の後に総合討論が行われ、白熱した議論が交わされた。台湾で開催されるアジア未来会議であるがために、INAFセッションでは台湾を重点的に取り上げて、興味深い報告や分析が行われていたことで、多数の参加者がオンラインで参加し、有意義な交流の舞台となった。     英語版はこちら     <李鋼哲(り・こうてつ)LI Kotetsu> 1985年北京の中央民族大学業後、大学院を経て北京の大学で教鞭を執る。91年来日、立教大学大学院経済学研究科博士課程単位修得済み中退後、2001年より東京財団、名古屋大学国際経済動態研究所、内閣府傘下総合研究開発機構(NIRA)を経て、06年11月より北陸大学で教鞭を執る。2020年10月1日に一般社団法人・東北亜未来構想研究所(INAF)を有志たちと共に創設し所長を務め、日中韓+朝露蒙など多言語能力を生かして、東北アジア地域に関する研究・交流活動に情熱を燃やしている。SGRA研究員および「構想アジア」チームの代表。近著に『アジア共同体の創成プロセス』、その他書籍・論文や新聞コラム・エッセイが多数ある。     2022年11月3日配信