SGRAの活動

  • 2023.04.19

    李暉「第70回SGRAフォーラム『木造建築文化財の修復・保存について考える』報告」

    2023年2月18日(土)午後1時より第70回SGRAフォーラム「木造建築文化財の修復・保存について考える」を奈良県吉野郡吉野町の金峯山寺(きんぷせんじ)で開催した。国宝・金峯山寺二王門の保存修理工事現場をライブ中継で発信し、世界中のSGRA会員を始め市民も含めて議論の場を設けるというプロジェクトだ。SGRAと日本学術振興会科学研究費基盤研究(C)J190107009「日本と中国における大工道具の比較による東アジア木造建築技術史の基盤構築」(研究代表者:李暉、2014年渥美奨学生)の共催で、ライブ中継はSGRAでは初の試みだった。   金峰山修験本宗総本山金峯山寺の五條良知管長猊下のご挨拶でフォーラムの幕が開けた。小雨の中だったが、寺の沿革の説明や聖地でのフォーラム開催の意義を愛情込めて伝えていただいた。その後、奈良県文化財保存事務所の竹口泰生先生が二王門の保存修理現場を案内しながら、フォーラム後半で各国の先生方が討論するための話題を提供された。   ライブ中継は奈良県文化財保存事務所・金峯山寺出張所の方々にご協力いただき、二王門北の参道から始まった。外観を見た後で中へ入るというルートを取り、できる限り視聴者が臨場感を味わえるよう工夫した。竹口先生は事業全体の説明から始まり、解体修理に至った原因である地盤沈下の現状を紹介。保存修理にあたっての調査については、特に大工道具による加工痕跡について、初重の軒下にある組物を用いて詳細に説明された。中継の最後は素屋根の3階まで巡り、伐採した木材をいかだ穴付きのままで利用した部材を披露し、往時の建築造営と製材の関係を示す興味深い内容だった。1時間の現場案内は、あっという間に終わったが、普段にない近距離での観察で、多くの視聴者の好奇心を刺激したことだろう。貴重な現場の情報についてメモを取られた方々もたくさんいらしたようだ。   後半の討論は京都大学防災研究所の金玟淑氏(2007年渥美奨学生)の司会で進行した。韓国伝統建築修理技術振興財団の姜璿慧先生、中国文化遺産研究院の永昕群先生、京都工芸繊維大学のアレハンドロ・マルティネス先生が研究成果や経験に基づき、各国の伝統建築の保存修理事情を紹介し、二王門の保存修理を始めとする日本との相異についてコメントを頂いた。また、塩原フローニ・フリデリケ氏(BMW Japan、2008年渥美奨学生)からは市民を代表して文化財保存への理解を述べていただき、保存修理に携わっている専門家も多くのことを考えさせられた。   最後に視聴者の皆さんからの質問も受け、先生方にご回答いただいた。時間が限られており、すべてに回答することはできなかったが、視聴者と交流を図ることができたと思う。   3時間という長時間のフォーラムであったが、先生方は木造建築文化財保存への情熱があふれており、スクリーンを通して誠実で熱い討論が交わされた。その心は視聴者へも伝わったであろう。   常に工程に追われる保存修理現場にもかかわらず、多くの要望に応えていただいた竹口先生を始め、研究や調査業務で多忙な先生方へ心より感謝を申し上げたい。最後まで支援していただいたSGRAの存在の意義を改めて実感した。フォーラムには250余名が参加してくださった。皆さまに感謝するとともに少しでもお役立つことができたらと願うばかりである。木造建築文化財の修復・保存に限らず、専門家と市民のギャップはどの業界にもある。今回の試みを機に、多くの方がそのギャップを理解し、少しでも埋めていく意識を高めることができれば幸いである。   当日の写真   アンケート集計   <李暉(り・ほい)LI Hui> 2014年度渥美奨学生。2015年東京大学大学院博士(工学)取得。2014~2018年、奈良県文化財保存事務所仕様調査員として、薬師寺東塔(国宝・奈良県)の保存修理事業に携わった。2018年、奈良文化財研究所アソシエイトフェローとして、平城宮第一次大極殿院復原研究に従事。2023年、奈良女子大学 大和・紀伊半島学研究所古代学・聖地学研究センター協力研究員。専門は中国建築史。著書に、『建築の歴史・様式・社会』(共著、中央公論美術出版、2018)、『中国の建築装飾』(共訳、科学出版社東京、2021)、『中国古典庭園 園冶図解』(監訳、科学出版社東京、2023)など。     2023年4月20日配信  
  • 2023.03.20

    レポート第101号「第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性 ―『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」

    SGRAレポート第101日本語版 中国語版 韓国語版   第69回SGRAフォーラム講演録 第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性  「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」 2023年3月22日発行   <フォーラムの趣旨> 新型コロナ感染症蔓延が続くなか、「国史たちの対話」ではオンラインでのシンポジウムを開催し、一定の成功を収めてきたと考える。イベントを開催する環境にはなお大きな改善が期待しづらいことを踏まえ、引き続き従来参加してきた人々のなかでの対話を深めることを重視した企画を立てた。 大きな狙いは、各国の歴史学の現状をめぐって国史研究者たちが抱えている悩みを語り合い、各国の現状についての理解を共有し、今後の対話に活かしてゆきたい、ということである。こうした悩みは多岐にわたる。今回はその中から、各国の社会情勢の変貌、さまざまなメディア、特にインターネットの急速な発達のもとで、新たな需要に応えて歴史に関係する語りが多様な形で増殖しているが、国史の専門家たちの声が歴史に関心を持つ多くの人々に届いておらず、かつ既存の歴史学がそれに対応し切れていない、という危機意識を、具体的な論題として設定した。 共通の背景はありつつも、各国における社会の変貌のあり方により、具体的な事情は多種多様であると考えられるので、ひとまずこうした現状認識を「歴史大衆化」という言葉でくくってみた上で、各国の現状を報告していただき、それぞれの研究者が抱えている悩みや打開策を率直に語り合う場とした。   <もくじ> 第1セッション [総合司会:李 恩民(桜美林大学)] はじめに 李 恩民(桜美林大学) 開会の趣旨 彭 浩(大阪公立大学) 【問題提起】 「 歴史大衆化」について一緒に考えてみましょう  韓 成敏(高麗大学) 【指定討論1(中国)】 私が接触したパブリック・ヒストリー  鄭 潔西(温州大学) 【指定討論2(日本)】 日本で起こっていること─「歴史学」専門家の立ち位置と境界─  村 和明(東京大学) 【指定討論3(韓国)】 韓国における「公共歴史学」の現況と課題  沈 哲基(延世大学) 【コメント】 指定討論を受けて 韓 成敏(高麗大学)   第2 セッション [モデレーター:南 基正(ソウル大学)] 自由討論 論点整理:劉 傑(早稲田大学) パネリスト:問題提起者、討論者、国史対話プロジェクト参加者   第3セッション [総合司会:李 恩民(桜美林大学)] 総括 三谷 博(東京大学名誉教授) 閉会挨拶 趙 珖(高麗大学名誉教授)   講師略歴    あとがきにかえて 金キョンテ   参加者リスト  
  • 2023.03.15

    第21回日韓アジア未来フォーラム「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)-これからの政策への挑戦-」へのお誘い

    下記の通り第21回日韓アジア未来フォーラム「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)-これからの政策への挑戦-」をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。   テーマ:「新たな脅威(エマージングリスク)・新たな安全保障(エマージングセキュリティ)-これからの政策への挑戦-」 日 時: 2023年4月22日(土)14:00~17:00 方 法: 渥美財団ホールおよびZoomウェビナー 言 語: 日本語・韓国語(同時通訳) 主 催:第21回日韓アジア未来フォーラム実行委員会 共 催:公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会/財団法人未来人力研究院(韓国) 参加費:無料 申 込: こちらよりお申し込みください お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)       ■フォーラムの趣旨 冷戦後の国際関係において非軍事的要素の重要性を背景にグローバルな経済対立、貧富格差の拡大、そして気候変動、先端技術の侵害、サイバー攻撃、パンデミックなどが新しい安全保障の範疇に含まれるようになってきた。伝統的な安全保障問題が地理的に近接した国家間で発生する事案抑止を前提とするのに対して、新たな安全保障上のリスクは突発的に発生し、急速に拡大し、さらにグローバルネットワークを通じて国境を超える。多岐にわたり複雑に絡み合う新しい安全保障のパラダイムを的確に捉えるためには、より精緻で包括的な分析やアプローチが必要なのではないだろうか。 フォーラムでは、韓国における「エマージング・セキュリティー(新たな安全保障)」研究と日本における「経済安全保障」研究を事例として取り上げ、今日の安全保障論と政策開発の新たな争点と課題について考察する。     ■プログラム 総合司会 金雄熙(韓国仁荷大学教授)     第1セッション(14:00 - 15:05) 開会挨拶 徐 載鎭(財団法人未来人力研究院院長)     基調講演1  金 湘培(ソウル大学政治外交学部教授) 30分   「エマージング・セキュリティー、新たな安全保障パラダイムの浮上」 現代ではパンデミック、気候変動、大規模自然災害、サイバーセキュリティー、新技術、人口・移民・難民の危機などのこれまでとは質的に異なるグローバルな課題が安全保障上の脅威として拡大している。本講演では、こうした脅威に対応する方策としての「エマージング・セキュリティー(emerging security、新たな安全保障)」をテーマとする。これまでも脱冷戦(Post-Cold War)を背景に新しい安全保障のパラダイムを理論化しようとする試みがなかったわけではない。9・11 同時多発テロ以降の脱近代(post-modern)安保秩序への変換と、2020 年代の人間中心の安保秩序からコンピューターが人類の知性を超えるポスト・ヒューマン(post-human)秩序への変換を視野に入れてきたが、現代の安全保障問題を扱うには不十分な点が多い。パンデミックやサイバー攻撃のような脅威が突発的に発生し、急速に拡大してマクロリスクとして現れ、そして、グローバル化・ネットワーク化を通じて国境を超えるのがエマージング・セキュリティーの特徴である。こうしたエマージング・セキュリティー研究は、既存の「非伝統的安全保障(non-traditional security)」または「新安全保障(new security)」などの概念を超えるより積極的で新しい安全保障パラダイムの浮上として捉えることができ、国家単位で政治・軍事的安全保障を強調した従来の伝統的安全保障パラダイムを越えようとする概念的な試みなのである。     基調講演2  鈴木 一人 (東京大学公共政策大学院教授)30分   「日本における経済安全保障をめぐる議論」 第二次大戦後の世界秩序の基本には、政治と経済が分離し、政治は経済に介入しないという自由市場経済、自由貿易があった。こうした自由貿易の原則は資源の乏しい日本においてその経済成長を可能にする重要な役割を果たしたが、近年はその状況が変わっている。米中対立による政治的目的の手段としての経済、武器としての相互依存が一般化する中で、経済を使った国家間対立と、経済的強制が新たな脅威となっている。こうした脅威を管理するために、国際競争力、経済的・技術的優位性の確保が最優先課題となり、一方では研究開発を促進し、他方では技術管理、輸出管理の強化が進んでいる。日本におけるその現状を報告する。     (休  憩  10分)     第2セッション(15:15 - 15:55)各10分 コメント 李 元徳(国民大学校社会科学大学教授) コメント 西野純也 (慶應義塾大学法学部政治学科教授・オンライン) コメント 林 恩廷 (公州大学国際学部副教授) コメント 金 崇培 (国立釜慶大学人文社会科学部助教授)     第3セッション(15:55 - 16:45) 自由討論/質疑応答(モデレータ: 金雄熙)     総括・閉会(16:45~17:00) 平川 均 (名古屋大学名誉教授/渥美国際交流財団 理事/第21回日韓アジア未来フォーラム実行委員長)     [ 同時通訳 ] 日本語⇔韓国語:李 ヘリ(韓国外国語大学)、安 ヨンヒ(韓国外国語大学)   [ プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください ] プロジェクト概要 韓国語版ウェブサイト  
  • 2023.03.14

    第37回共有型セミナー@東京「東アジアダイナミクス」へのお誘い

      第37回共有型セミナー@東京をハイブリッド形式で開催いたします。 参加ご希望の方は事前登録をお願いします。   テーマ:「東アジアダイナミクス」 日 時:2023年4月10日(月)午前10時~午後1時 会 場:渥美国際交流財団ホール(東京都文京区) 方 法:会場参加およびオンライン(Zoom Meeting) 会 費:無料 参加申込:こちらよりお申し込みください。 ※登録していただいた方に参加用リンクをお送りします。   主催:公益財団法人渥美国際交流財団(AISF)関口グローバル研究会(SGRA) 共催:フィリピン大学ロスバニョス校(UPLB)公共政策開発大学院(CPAf) 共催:一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)   問い合せ:SGRA事務局 [email protected]     ◇趣旨   日本を含む東アジア8カ国が実現した高度成長を研究する世界銀行の「東アジアの奇跡レポート」(1993)は、あらゆる意味で論争の的になったが、特記すべきは「成長と公平」というテーマに注目したことだ。このテーマは、トマ・ピケティの「21世紀の資本」(2014)やJ.E.スティグリッツの「世界の99%を貧困にする経済」(2013)であらためて人気を集めている。この議論から刺激を受けた本セミナーシリーズの総合テーマは「共有型成長」(SHARED GROWTH)で、富の分配と経済成長が同時に進むことを目指す。 しかしながら、今回のセミナーでは「東アジアの奇跡レポート」にはカバーされていない側面、国際的な「地域化」(東アジア地域化)と「地方分権化」をとりあげ、東アジアの経済発展ダイナミックスを「共有型成長」の観点からより深く理解することを目的とする。「地域化」の議論では、日本の研究者・赤松愛が1930年に発想するに至った「雁行形態論」の積極的側面に目を向ける。雁行形態論は1980年代に東アジアの目覚ましい経済発展の説明理論として再注目されたが、それから50年たった現在、この地域のさらなる発展を鑑みて赤松理論の意義について再検討を行う。東アジアで1990年代に起こったもう一つの流れが「地方分権化」である。経済成長はそれを支える社会によって支えられる。地方の成長が国の成長を支え、広げるメカニズムとしても考えられる。     ◇プログラム   【第1部】問題提起 ・「東アジアの地域化」 平川均(INAF理事長、渥美財団理事、名古屋大学)   本報告では、広義の意味での東アジア(東南アジアと東北アジア)における地域主義、地域協力、地域統合、その制度化を示す包括的概念として「地域化」を用いる。地域主義は2つの起源があった。ひとつは、北東アジア(主に日本)、もうひとつは東南アジアである。両者を起源とする地域主義はアジア通貨危機以前には併存し、以後はASEAN+3フレームワークの誕生によって、重層的な制度化と経済統合に道を開いた。ただし、今日、主要国の主導権争いを通じた経済統合がその推進力になっており、新たな課題に直面している。本報告では、過去1世紀を超える東アジアの地域化を概観し、今日的課題への教訓をくみ取ることを目指す。     ・「東アジアにおける地方分権化」 マックス・マキト(CPAf/UPLB, SGRA/AISF)   東アジアのダイナミクスを定義する一つの力として「国内の地方分権化」に注目し、地方分権化が「国際の地域化」の代替または補完であるかを議論する。「国内の地方分権化」と「国際の地域化」の2つの力が相互に補完し合うことができる二つの条件がある。最初の条件は、国家の適切な権限付与で、国家は相反する二つの力の渦に巻き込まれながらも、そこに適切な均衡を見つけなければならない。2番目の条件は、相互に影響し合う可能性のある二つの力に共通の原則の存在で、その一つが「共有型成長」である。     【第2部】討論 ・「将来の研究の方向性: 相互構成的な地域化と地方分権化、ASEAN および市民の位置づけ」 ダムセル・コルテス (CPAf/UPLB)   地域化と地方分権は、共有型成長を実現するための有望な道筋を提供しているが、私は地域化と地方分権をさらに理解するために別の視点を提供したい。それは、地域化と地方分権は単に補完的であるだけではなく、相互に構成的であるということです。さらに、ご発表から得られたいくつかの洞察と疑問を提起します。一つは、地域化という言説の中で、共有型成長、ASEANの価値、市民を位置づけることです。もうひとつは、地方分権のニュアンスと複雑な性質に焦点を当てます。     ・「地方自治体やNGOによる地域主義―東北アジア地域の経験―」 李鋼哲(INAF, SGRA/AISF)   冷戦崩壊とともに、1990年代から、社会主義陣営と資本主義陣営が対立していた東北アジア地域で地域主義の動きが活発になる。地方分権のプロセスはさまざまであるが、国境を越えた国際地域開発プロジェクトが立ち上がり、極地経済圏(サブ・リージョン・エコノミック・ゾーン)形成への動きが活発になった。これらの国際地域開発プロジェクトは、極地経済圏の形成とともに地方分権化にある程度進捗が見られ共有型成長に貢献していると思う。     ・「インドネシアの地方分権の事例紹介 」 ジャクファル・イドラス(国士舘大学, SGRA/AISF)   地域主義・地域統合と地方分権化は一見すると相反的な概念に見えるが、本研究は斬新的かつ新しい理論的な枠組みを提供し、両概念は相互的に影響を与えると主張している。共有型成長の仕組みとしての地方分権化については、多面的な問題であるということを明確にする必要があると考える。インドネシアでは、地方分権化は地方レベルの権力、富、資源の集中をもたらしたため、行政と財政の分権化に限らず、その実施の面をみる必要がある。国家のエンパワーメントは確かに重要な要因となるが、共有型の成長を達成するためには地域社会のエンパワーメントも中核的で重要な課題となる。     詳細はプログラムをご覧ください。 日本語版プログラム 英語版プログラム 英語版ウェブサイト
  • 2023.01.16

    第70回SGRAフォーラム「木造建築文化財の修復・保存について考える」へのお誘い

    下記の通り第70回SGRAフォーラム「木造建築文化財の修復・保存について考える」をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。   テーマ:「木造建築文化財の修復・保存について考える」 日 時:2023年2月18 日(土)午後1時~午後4時(日本時間) 方 法: オンライン(Zoom ウェビナーによる) 言 語:日中韓3言語同時通訳付き   ※参加申込(クリックして登録してください) お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)     ■フォーラムの趣旨 東アジアの諸国は共通した木造建築文化圏に属しており、西洋と異なる文化遺産の形態を持っています。第70回SGRAフォーラムでは、国宝金峯山寺(きんぷせんじ)二王門の保存修理工事を取り上げ、日本の修理技術者から現在進行中の文化財修理現場をライブ中継で紹介していただきます。続いて韓国・中国・ヨーロッパの専門家と市民の代表からコメントを頂いた上で、視聴者からの質問も取り上げながら、専門家と市民の方々との間に文化財の修復と保存について議論の場を設けます。   今回のフォーラムを通じて、木造建築文化財の修復方法と保存実態をありのままお伝えし、専門家と市民の方々との相互理解を推進したいと考えております。   今回のフォーラムを実現することを可能にしてくださった、金峯山寺と奈良県文化財保存事務所に心からお礼を申し上げます。     ■プログラム 総合司会 李 暉(奈良文化財研究所 アソシエイトフェロー/SGRA)   13:00 フォーラムの趣旨、登壇者の紹介 13:10 開会挨拶 五條良知(金峯山寺 管長) 13:15 話題提供 竹口泰生(奈良県文化財保存事務所金峯山寺出張所 主任)   [討論] モデレーター: 金 玟淑(京都大学防災研究所 民間等共同研究員/SGRA) 14:20 韓国専門家によるコメント ――――― 姜 璿慧( 伝統建築修理技術振興財団 企画行政チームリーダー) 14:35 中国専門家によるコメント ――――― 永 昕群(中国文化遺産研究院 研究館員) 14:50 ヨーロッパ専門家によるコメント ――――― アレハンドロ・マルティネス(京都工芸繊維大学 助教) 15:05 市民によるコメント ――――― 塩原フローニ・フリデリケ(BMW GROUP Japan/SGRA) 15:20 視聴者からの質疑応答(Q&A機能を使って)   ※同時通訳: 日本語⇔中国語:丁 莉(北京大学)、宋 剛(北京外国語大学/SGRA) 日本語⇔韓国語:李 ヘリ(韓国外国語大学)、安 ヨンヒ(韓国外国語大学) 中国語⇔韓国語:朴 賢(京都大学)、金 恵蘭(フリーランス)     中国語版ウェブサイト 韓国語版ウェブサイト
  • 2023.01.08

    孫建軍「第16回SGRAチャイナフォーラム『モダンの衝撃とアジアの百年―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―』報告」

    2022年11月19日(土)北京時間午後3時(日本時間午後4時)より第16回SGRAチャイナフォーラム「モダンの衝撃とアジアの百年――異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション」が開催された。コロナが始まってから3度目のオンライン形式だ。2021年に引き続き、京都大学名誉教授の山室信一先生に2度目の登壇を依頼した。2年連続して同一の先生に講演を依頼するのはフォーラムが始まって以来初めてだった。   例年通り、開催にあたり、主催側の渥美財団今西淳子常務理事、後援の北京日本文化センター野田昭彦所長(公務のため、野口裕子副所長が代読)より冒頭の挨拶があった。前年同様、野田所長の挨拶にテーマに沿った問題提起があり、フォーラムのウォーミングアップともなった。   講演は定刻に始まり、山室先生は主に4部に分けて語った。まず議論の前提として「論的転回」と「2つのモダン」について触れ、本題に移行した。第2部は「時間論的転回――生活時間と時計時間そして国家時間」、第3部は「ジェンダー論的転回――服色と性差・性美そしてモダン美・野蛮美」、そして最後は「アメリカニズムとグローバリゼーション」であった。第2部から第4部までが、それぞれさらに3つの項目に細分されて、アジアにおける時間と空間の近代的成立の特徴と影響について分析が行なわれた。現代人として何とも思わない事物や思考などの裏側を解き明かす80分間はあっという間に終わった。   討論は澳門大学の林少陽先生によって進められた。中国で活躍している若手研究者、北京社会科学院の陳言先生と中国社会科学院外国文学研究所の高華鑫先生より講演へのコメントが述べられ、そのコメントや新たな質問に山室先生が答えた。林先生が総括で語られた「アジアの近代化において、空間は時間を変えた」という話は深く考えさせられた。   百年の歴史を80分間で語るのは至難の業。振り返ってみれば、前年のフォーラムが終わった時から準備が始まっていたと言っても過言ではない。より多くの参加者の理解を促すために、中国通の山室先生からは様々な話題提供があった。何回ものメールのやりとり、そしてオンラインでの打ち合わせの結果、今回のタイトルが決まった。先生の知識の幅広さと人間としての謙虚さに心を打たれる連続であった。前年同様、事前に原稿を書き上げ、たくさんの画像を用意してくださった。もし前回は満足のいかない点があったとしても、講演終了時の先生の満面な笑みを見て、今回のフォーラムでやり残されたことはないだろう確信した。宣言通りに時間厳守されたことも心から尊敬してやまない。   厳しいコロナ対策の中でも、前回、前々回と同様、北京大学内で少人数ながら学生を集めた会場を設ける予定だったが、キャンパス内の陽性者発覚に続き、北京市全体の感染拡大を受け一般教員の入校が制限され、北京大側は全員オンライン参加を余儀なくされた。   このリポートを書き始めたころ、中国は「ゼロコロナ」から全面的に「ウィズコロナ」に切り替わった。多くの学生が次々と感染したのを知り、深く心を痛めた。私自身も感染を免れなかった。高熱、咳、全身の痛みとだるさにさいなまれる中、フォーラムのタイトルにある「通底・反転する」の真髄を噛みしめた。   オンラインで参加してくださった370余名の方々にあらためて感謝する。2023年こそ対面で行いたい。 最後に、北京大学の院生から感想文が寄せられたので紹介する。   ◇山室教授は、近代世界史を「近代としてのモダン」と「現代としてのモダン」の2つの段階に創造的に区分し、その過程を時間や空間の感覚、身体の倫理など、私たちに最も関係の深い日常生活の劇的な変化を通して示してくださいました。メディア、アート、服飾などに関する多くの用語を網羅し、山室先生の知識の幅の広さに驚嘆させられました。近代化の過程における「文明国の標準主義」の問題をめぐって、これまでの自分はマクロな視点から理解しようとしていましたが、今回の講演を通じて、身体感覚というミクロの視点から理解することができました。山室教授は日常生活と密接に結びつけながら、欧米に対応する中で東アジア(とりわけ日本と中国)の互いの拮抗や啓発から生じた平準化、同類化、固有化といった壮大な物語をつづりました。その思考の深さには尊敬の念が堪えません。講演の最後に触れた近代化と「アメリカニズム」の問題についても、考え続けていきたいです。(劉釗希、修士課程1年)   ◇前回に続き、「近代」(モダン)というキーワードを見つめ直したご意見を伺うことができ、非常に勉強となりました。特にジェンダーの転換という部分で考えさせられました。その中、「モダンガール」や「新しい女」という言葉が示す視覚的表象に関して、洋装や断髪という現象に関する論述が興味深かったです。女性史・ジェンダー史の考察では、上記の現象を課題として取り上げ、近代の商業広告における女性表象を分析する研究が多く見られます。そのうち洋装と断髪といった女性表象は一種の消費者の理想像であり、商業販売のために作られたという論説があります。象徴としての洋装と断髪は「モダンガール」や「新しい女」という新しい語彙と深く絡み合い、商業社会の進展とともに、視覚・言語による女性像が作られたと考えます。こうしてみれば、あらためてジェンダー視点は「近代」を考察するために不可欠であると考えました。これを糧に今後の研究に励みたく存じます。本当にありがとうございました。(羅婷婷、博士課程3年)   当日の写真   アンケート集計   <孫建軍(そん・けんぐん)SUN Jianjun> 1990年北京国際関係学院卒業、1993年北京日本学研究センター修士課程修了、2003年国際基督教大学にてPh.D.取得。北京語言大学講師、国際日本文化研究センター講師を経て、北京大学外国語学院日本言語文化系副教授。専攻は近代日中語彙交流史。著書『近代日本語の起源―幕末明治初期につくられた新漢語』(早稲田大学出版部)。     2023年1月13日配信
  • 2022.12.19

    ヤン・ユー グロリア「第18回SGRAカフェ『韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯』報告」

    1916年平壌に生まれ、2022年3月1日に105歳で亡くなった金秉騏(キム・ビョンギ)という画家がいる。若い頃を東京で過ごし、1947年以降はソウルで教育者・評論家として活躍、1965年に米国に渡り、そして100歳(2016年)の時に韓国に戻り、絵を描き続けた。   人生とキャリアを、国境を超えて紡いだ異色な作家を美術史ではどのように語ることができるか。2022年10月29日(土)にオンラインで開かれた第18回SGRAカフェ「韓日米の美術史を繋ぐ金秉騏画伯」は、その試みの場だった。問題提起・討論・質疑応答の3部から構成された本カフェは、世界各地から76人が視聴し非常に充実した内容となった。   まず問題提起として、コウオジェイ・マグダレナ氏(東洋英和女学院大学国際社会学部国際コミュニケーション学科講師)が金画伯に出会った記憶と彼への取材、作品の受容と評価などを、朝鮮半島・日本・アメリカで過ごした金画伯の人生のエピソードとともに生き生きと紹介した。金画伯の力強く抽象的な絵を満喫した後、発表の後半では、コウオジェイ氏は画伯の生涯と芸術創作がいかに「国史としての美術史(national_art_history)」の枠組みに挑戦をもたらしたかを指摘し、その枠組みでは見落としてしまう難点と限界、そして新たな可能性について、次に登壇する韓国・日本・米国で活躍している3人の美術史学者に投げかけた。   コウオジェイ氏の問いを受け、討論者として朴慧聖氏(韓国国立現代美術館学芸員)、五十殿利治氏(筑波大学名誉教授)、山村みどり氏(ニューヨーク市立大学キングスボロー校准教授)が登壇した。   朴氏は金画伯の回顧展「金秉騏:感覚の分割」(韓国国立現代美術館、2014-2015)を始め、20世紀のダイナミックな韓国美術史を紹介し、その中で様々な証言と口述を提供した金画伯の重要な位置を示した。彼の生涯と芸術創作は、様々な境界の間に位置し、またその境界を超えようと努力したと分析した。   続いて五十殿氏は、金画伯も言及した日本「アヴァン・ガルド洋画研究所」を手かかりに、そのメンバーや機関誌、展覧会などを探り出し、金画伯の東京時代と同時代の日本のモダン美術の動向、そして上野の美術館や銀座・新宿の小画廊が対抗しながらそうした動向の舞台となっていたと紹介した。   最後に山村氏は、米国での出版物や展覧会を通し、米国におけるアジア系アメリカ人の美術史の全貌を説明した。具体的に数名のアーティストとその作品を取り上げ、「アジア系アメリカ人」という枠組みでひとからげに解釈することの制限、「アジア系アメリカ人」の多様性、民族性とアイデンティティーの複雑な絡みを示した。   質疑応答では、あらためて金画伯と韓国・日本・アメリカ美術史の交差点を討論し、「国史」の枠組みを超越する美術史の書き方、東アジア美術史における共通の議論、そして美術史研究の倫理などについて討論を深め、国境を越える美術史の新たな可能性を提示した。質疑応答の後、発表者と討論者は「ミニ・オンライン懇親会」を行い、各国の美術史研究の現場の近況報告や、将来の研究コラボなどで話が盛り上がった。   カフェ当日は晴れだった。実はこのカフェを企画し始めた頃はまだ金画伯がご健在で、ご本人にオンラインでご参加いただこうという案もあった。残念ながら叶わなかったが、今回のカフェは金画伯を偲ぶ会にもなったのではないかと思う。日韓同時通訳付きだったため、韓国からの参加者も多く、ご感想・ご意見もたくさんいただき、こうした形で交流が広がっていけばよいと思う。このような交流の「場」を作り、新たな試みをサポートしてくださった渥美国際交流財団の皆様、企画したコウオジェイ氏、積極的に討論を深めた先生方に、心から感謝を申し上げたい。司会として大変有意義な経験だった。今後、「国史」の枠組みを超えたつながりを重視する美術史(connecting_art_histories)」について新たな試みを続けたい。   当日の写真   アンケート集計   韓国語版はこちら   <ヤン、ユー グロリア Yang Yu Gloria) 2015年度渥美奨学生。2006年北京大学卒業。2018年コロンビア大学美術史博士号取得。東京大学東洋文化研究所訪問研究員を経て、九州大学人文科学研究院広人文学コース講師。近現代日本建築史・美術史を専門。
  • 2022.12.16

    エッセイ726:ボルジギン・フスレ「ウランバートル・レポート2022年秋」

    2022年は日本・モンゴル外交関係樹立50周年だった。半世紀の日モ交流の成果を振り返り、同時に北東アジア各国の国際関係の現状や課題を総括し、ユーラシアの眼差しから日モ両国の関係がどのようなプロセスをへて構築されたか、どのように構築していくべきかなどをめぐって議論を展開することは、大きな意義を持つ。第15回ウランバートル国際シンポジウムはこの課題に応えるものであった。   9月3~4日、日本・モンゴル外交関係樹立50周年記念事業である第15回ウランバートル国際シンポジウム「日本・モンゴル ―ユーラシアからの眼差し」がモンゴル国立大学2号館203室で開催され、160名ほど研究者、学生等が参加した。昭和女子大学国際文化研究所と渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)、モンゴル国立大学科学カレッジ人文科学系アジア研究学科の共同主催で、渥美国際交流財団、昭和女子大学、モンゴルの歴史と文化研究会、「バルガの遺産」協会から後援を、麒麟山酒造株式会社、ユジ・エネルジ有限会社から協賛を頂いた。   モンゴル国立大学科学カレッジ人文科学系アジア研究学科長Sh.エグシグ(Sh.Egshig)氏が開会の辞を述べ、モンゴル国駐箚日本国特命全権大使小林弘之氏(在モンゴル日本国参事官菊間茂氏代読)、モンゴル国立大学学長B.オチルホヤグ(B.Ochirkhuyag)氏、渥美国際交流財団事務局長角田英一氏、モンゴル国立大学科学カレッジ副学院長N.アルタントグス(N.Altantugs)氏が祝辞を述べた。その後、2日間にわたり、前在モンゴル日本大使清水武則氏、モンゴル科学アカデミー会員・前在キューバモンゴル大使Ts.バトバヤル(Ts.Batbayar)氏、一橋大学名誉教授田中克彦氏、ウランバートル大学教授D.ツェデブ(D.Tsedev)氏、東京外国語大学名誉教授二木博史氏、大谷大学教授松川節氏、モンゴル国立大学教授J.オランゴア(J.Urangua)氏などをはじめ、日本、モンゴルの研究者32名(共同発表も含む)により、21本の報告をおこなった。ウランバートル国際シンポジウムに初参加の角田氏はたいへん注目され、歓迎された。   シンポジウムはモンゴルの『ソヨンボ』『オラーン・オドホン』などの新聞により報道された。日本では『日本モンゴル学会紀要』第53号などが紹介する予定である。シンポジウムを終えて、9月5日午後から24日にかけて、私は「“チンギス・ハーンの長城”に関する国際共同研究基盤の創成」と「匈奴帝国の単于庭と龍城に関する国際共同研究」の研究プロジェクトでボルガン県、アルハンガイ県、ウムヌゴビ県、ヘンティ県などに行き、現地調査を実施した。その詳細も別稿にゆずり、ここでは番外編エピソードを紹介したい。   9月4日午後のエクスカーションで、海外からの参加者はトゥブ県のチンギス・ハーン騎馬像テーマパークを見学した。そこで予想もつかぬ「出来事」が起きた。ウランバートルから1時間半ほどの旅を経て、私たちのバスは目的地のテーマパークに着いた。88歳のK先生がバスを降りたとたん、ズボンのベルトをはずし、急いで近くの木に歩いていき、小便をしようとした。 「先生、白昼堂々とこんなところで…やめたほうがいい。罰金取られるよ。(テーマパークの)中にはお手洗いがあるから」と私は阻止しようとした。 しかし、K先生は「モンゴルでは大丈夫。もう我慢できない」と言いながら、木の下で用を足した。するとすぐ管理人らしい中年の男が走って来て、怒って止めようとした。   その後、みんなで記念写真を撮ってから、巨大なチンギス・ハーン騎馬像(建物)に入った。約1時間の見学を終えて、私たちが騎馬像から出ると、中年の女性 ―テーマパークの支配人が待っていた。「あなたたちの代表は誰ですか」と聞かれたので、「何かありましたか」と尋ねた。 「あなたたちのなかの1人がこのテーマパークの芝生で小便をした。罰金です。防犯カメラにちゃんと写っている」と支配人は言う。 「いくらですか」と聞いた。 「10万トゥグリグ(約4000円)」。 私はK先生に「どうしよう。やはり罰金です。10万トゥグリグ」と言った。 「10万トゥグリグ?高いね。ね、あの人に、 僕はそこで半分しかおしっこしなかった。だって、あのおじさんに阻止されたから。だから、半額にしてくれないか”と交渉してみて」と頼まれた。 言われた通り、女性支配人に説明した。 「半額?無理。半分したにしろ、全部したにしろ、おしっこしたことは事実でしょう。どれほどしたかとは関係ない。割引はできないよ」と、戸惑った支配人は厳しく言った。 K先生は「おかしいな。半分しかしなかったのに、なぜ全額を支払うか。納得できないね。半分したから、支払うのも半分にするのは妥当だろう」と、再び私に交渉させた。実はK先生、モンゴル語がうまい。しかし、なぜかずっと私に交渉させる。 支配人は突然何かを理解したようで、「そんなことってあるの。もういいわ。分かった。半額の5万トゥグリグをください」と笑いながら言った。 K先生は、まわりに悠然と歩いている牛や馬、羊などの家畜を指しながら、「彼女(支配人)に聞いて。牛とか、馬、羊とかさ、毎日自由にここでおしっこをしたり、うんこをしたりしている。これってどうやって罰金取るのか。誰が支払うのか。誰に支払うのか。ほら、あの犬おしっこしているよ」と。 支配人は一瞬言葉を失ったようだが、少し考えて、「これ…、これは罰金取らないよ。だって、これは自然のことで大自然には何の悪いことにもならないし、自分の家畜だから」と言いながら、笑いが止まらなかった。 「おかしいよね。だって、僕のも自然なことじゃないか。僕のおしっこで大自然に貢献したじゃないか。僕にお金を支払うべきじゃないか」とK先生も笑いながら5万トゥグリグを払った上で、今度は「ね、領収書をくれないかと聞いて」と私に言った。 「領収書?面白い人ね。ここには領収書はないよ。今日、ウランバートルの本社は休みなので、明日電話して。そこからちゃんともらえる」と支配人は笑いをこらえられず、電話番号まで教えてくれた。   結果を聞いたK先生は、こんな話をし始めた。 「モンゴルは本当に変わったね。昔はどこに小便しても大丈夫だった。今はダメになったか。不思議。領収書ももらえるのか。モンゴルはしっかりしているね」 「あの支配人も、なぜ僕に“おしっこを半分しかしなかったということをどのように証明するか”と聞かなかったのか。人間って、おしっこを半分で止めるのはけっこう難しいよ。ほとんど人はできない。それをどうやって証明し、どうやって検証するのだろう」 「でも僕は嘘ついていないよ。僕はできる。さっき、本当に半分しかしなかった」 「明日、ちゃんと領収書をもらってね。彼らはそこに何を書くかが興味深い。 “罰金10万トゥグリグのところ、おしっこは半分しかしなかったため、その半額の5万トゥグリグ”と書くか。想像もつかない。その領収書をちゃんともらってくださいよ。日本に帰ったら、新聞にこのことを書くよ。面白いね…」   帰りのバスの中では、この出来事が延々と話題になった。   その夜、スフバートル広場近くの日本レストラン「ナゴミ」で懇親会が開かれた。最後に私がK先生に中締めのご挨拶をお願いした。K先生はいくつかのことを振り返ったが、やはりこの出来事が話の中心になり、大いに盛り上がった。   第15回ウランバートル国際シンポジウムの写真   <ボルジギン・フスレ BORJIGIN Husel> 昭和女子大学国際学部教授。北京大学哲学部卒。1998年来日。2006年東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会外国人特別研究員、ケンブリッジ大学モンゴル・内陸アジア研究所招聘研究者、昭和女子大学人間文化学部准教授、教授などをへて、現職。主な著書に『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(1945~49年)――民族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011年)、『モンゴル・ロシア・中国の新史料から読み解くハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2020年)、編著『国際的視野のなかのハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2016年)、『日本人のモンゴル抑留とその背景』(三元社、2017年)、『ユーラシア草原を生きるモンゴル英雄叙事詩』(三元社、2019年)、『国際的視野のなかの溥儀とその時代』(風響社、2021年)、『21世紀のグローバリズムからみたチンギス・ハーン』(風響社、2022年)他。     2022年12月16日配信
  • 2022.12.01

    エッセイ724:デール・ソンヤ「家から参加したアジア未来会議」

    2年に1度開催されるアジア未来会議(AFC)を、いつもとても楽しみにしている。興味深い発表やディスカッションはもちろんだが、それより、世界中の「ラクーン(元渥美奨学生)」との再会や新しい出会いの機会でもある。自分にとってのAFCは、とても賑やかな笑いと笑顔がたっぷりのイベントだ。コロナの影響で1年延長され、ハイブリッド形式で開催されることになったが、私を含めてほとんどの参加者が家からオンラインで参加した。台湾に行けなかったことは残念だが、今回はこのユニークなオンラインAFC体験について書く。   自分が担当したAsian Cultural Dialogues(ACD)の円卓会議の他に、セッションの座長およびクロージングセレモニーの司会として関わった。ACDは角田さん(渥美財団事務局長)の発案により作られたネットワークおよび対談のフォーラムであり、今年は初めて私が担当した。コロナの影響で当初の企画より少し短めのプログラムになった。テーマは、「アジアにおけるメンタルヘルス、トラウマと疲労」にした。その理由は、やはりコロナ時代において感じる日常的なストレスおよび社会的な変化だ。インドネシア、フィリピン、日本からの発表の後には、インド、タイ、ミャンマーにいる、または専門にしているコメンテーターからの意見をいただき、ディスカッションした。   コロナは世界中で共通している経験だが、それぞれの国の対応・状況は異なる。その違いや対策などについて知り、話すことはとても面白かった。フィリピンのMaria Lourdes Rosanna E de Guzman先生の発表で、活動家の長い闘いと成果のおかげで、政府もしっかりとメンタルヘルスの支援をするようになったと聞いて感動した。日本のVickie Skorjiさんの話から、ジェンダー不平等とメンタルヘルスの関係性を改めて考えさせられ、多様な立場にいる人々を想像し、適切に対応する重要性を感じた。また、インドネシアのHari Setyowibowo先生の発表から、「コロナの影響で新しく生まれてくる可能性」という、前向きな視点も与えられた。   コメンテーターは、以前のACD円卓会議に関わってくれたCarine JacquetさんとラクーンのRanjana Mukhopadhyaya先生、ACD円卓会議に参加してくれた方の紹介で新しく関わってくださったKritaya Sreesunpagiさんであった。それぞれのコメントからコロナの深い影響を感じ、コロナの政治的な問題および争いの関係性について学び、考えることができた。コメンテーターの参加により、ACDネットワークの連続性および絆を感じることができて、角田さんおよび最初からずっとACDに参加してくださっている皆さんに敬意を表したい。充実したディスカッション後には、Kritayaさんの指導で10分ぐらいの瞑想があり、すっきりした気持ちでセッションを終えた。世の中に大変な事がたくさんあっても、自分にやるべき事が山ほどあるとしても、ひとまず自分のケアをしっかりする必要性を感じた。参加者の皆さん、本当にありがとうございました!   AFCの魅力は、自分の分野以外の研究者と触れ合うことだ。私が座長をしたパネルは専門と全く関係のない工学関係の発表が多かったが、興味津々で発表を聞くことができた。会場でやるときより視聴者が少なく寂しかったが、それなりに楽しくできたと思う。   クロージングセレモニーではオンラインながらも皆さんの笑顔が見られて、とても楽しい気持ちになった。知っている人に声を出して「元気!?最近どう!?」と、言いたかったけど、司会として真面目にしなくてはいけないね、とがまんした。次のAFCの会場がバンコクと発表され、とても良い盛り上がった雰囲気の中で会議を終えた。   オンラインだけのAFCは、正直少し寂しかったが、何よりこの状況の中で開催できたことは素晴らしかった。皆さんとの再会、本当に楽しみにしている。またバンコクで会おう、乾杯しようね!     英語版はこちら     <デール・ソンヤ DALE Sonja> ウォリック大学哲学部学士、オーフス大学ヨーロッパ・スタディーズ修士を経て上智大学グローバル・スタディーズ研究科にて博士号取得。現在、インディペンデントリサーチャー。専門分野はジェンダー・セクシュアリティ、クィア理論、社会的なマイノリティおよび社会的な排除のプロセス。2012年度渥美国際交流財団奨学生。     2022年12月1日配信
  • 2022.11.28

    レポート第100号「進撃のKカルチャー ――新韓流現象とその影響力」

    SGRAレポート第100号(日韓合冊)     第20 回 日韓アジア未来フォーラム 「進撃のKカルチャー―新韓流現象とその影響力」 2022年11月16日発行     <フォーラムの趣旨> BTS は国籍や人種を超え、一種の地球市民を一つにしたコンテンツとして、グローバルファンダムを形成し、BTS 現象として世界的な注目を集めている。一体BTS の文化力の源泉をなすものは何か。BTS 現象は日韓関係、地域協力、そしてグローバル化にどのようなインプリケーションをもつものなのか。   本フォーラムでは日韓、アジアの関連専門家を招き、これらの問題について幅広い観点から議論するため、日韓の基調報告をベースに討論と質疑応答を行った。   <もくじ> 【開会の辞】 今西淳子(渥美国際交流財団常務理事・SGRA代表)    【第1 部】 [報告1] 文化と政治・外交をめぐるモヤモヤする「眺め」 小針 進(静岡県立大学教授)   [報告2] BTSのグローバルな魅力―外的、環境条件と内的、力量の要因― 韓 準(延世大学教授)   【第2 部】 [ミニ報告] ベトナムにおけるKポップ・Jポップ チュ・スワン・ザオ(ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員)   [講演者と討論者の自由討論] 討論者: 金 賢旭(国民大学教授) 平田由紀江(日本女子大学教授)   【第3 部】 [質疑応答] 進 行: 金 崇培(釜慶大学日語日文学部准教授) 金 銀恵(釜山大学社会学科准教授) 回答者: 小針 進(静岡県立大学教授) 韓 準(延世大学教授) 平田由紀江(日本女子大学教授)   【閉会の辞】 徐 載鎭(ソ・ゼジン:未来人力研究院院長)   講師略歴   あとがきにかえて