越境する文化芸術

  • 2026.05.29

    レポート第117号「『琳派』の創造」

    SGRAレポート第117号(日中合冊)   第19回SGRAチャイナ・フォーラム 「『琳派』の創造」 2026年6月18日発行     <フォーラムの趣旨> 公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)は、2007 年から毎年、北京を中心とした中国各地の大学等で、日本の民間公益団体の主宰者を招いてSGRA チャイナ・フォーラムを開催してきた。2014 年からは趣向を変え、清華東亜文化講座のご協力をいただき、中国在住の日本文学や文化の研究者を対象として、東北アジア地域の近現代史を「文化と越境」をキーワードに議論を重ねている。本年も、これまでの成果を踏まえながら、「東アジアにおける広域文化史」の可能性を探る。国立近代美術館の学芸員を長く務められた古田亮先生(東京芸術大学 大学美術館教授)をお迎えし、「琳派の創造」をテーマに、西洋の影響を受けて近代に創られた美術史の言説について考察した。 日中同時通訳付き。   <もくじ> 総合司会 はじめに─孫 建軍(北京大学日本言語文化学部/ SGRA) 開会挨拶 李 淑静(北京大学外国語学院 党書記) 開会挨拶 今西淳子(渥美国際交流財団/ SGRA) 開会挨拶 野田昭彦(国際交流基金北京日本文化センター)   【講演】 「 琳派」の創造 古田 亮(東京芸術大学大学美術館) 【指定討論1】 「 『琳派』の創造」へのコメント 戦 暁梅(国際日本文化研究センター) 【指定討論2】 講演を受けて─作品制作現場の眼差し─ 中村麗子(東京国立近代美術館) 【指定討論3】 叙述・対話・生成─近代的構築としての「琳派」からの示唆─ 董 麗慧(北京大学芸術学院)     【自由討論】 モデレーター: 林 少陽(澳門大学歴史学科/ SGRA /清華東亜文化講座) 発言者: 古田 亮(東京芸術大学大学美術館)、戦 暁梅(国際日本文化研究センター)、中村麗子(東京国立近代美術館)、董 麗慧(北京大学芸術学院)   閉会挨拶 王 中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科)   登壇者略歴 あとがきにかえて ─李 趙雪(南京大学芸術学院)
  • 2026.05.07

    第79回SGRAフォーラム 「東アジア文化記憶の再読――響きあう言葉と感性」へのお誘い

    下記の通り第79回SGRAフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加をご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。   テ ー マ:「東アジア文化記憶の再読――響きあう言葉と感性」 日   時:2026年6月27日(土)午後2時~5時 会   場:東京科学大学西9号館ディジタル多目的ホール(Zoomウェビナーとのハイブリット開催) 言   語:日本語・中国語(同時通訳付き) 主   催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 共   催:東京科学大学リベラルアーツ研究教育院     参加申込:こちらよりお申込くださいください(リンクをクリックして登録してください) (参加方法に関わらず参加用URLが届きます。会場参加の方は当日会場にお越しください。)     【参加にあたってのお知らせ】 ・同時通訳をご希望の方へ 会場で同時通訳を利用する場合は、Zoomへの接続が必要となります。 必要な方はインターネットに接続できる端末とイヤホンをご持参ください。会場のWi-Fiをご利用いただけます。 ・会場【東京科学大学西9号館ディジタル多目的ホール】 〒152-8550 東京都目黒区大岡山2-12-1(キャンパスマップ 22番の建物です) ・お問い合わせ SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)     ◆フォーラムの趣旨 社会の不安定化や価値観の揺らぎが進む現代において、人文学はいかなる視点と言葉によって過去と現在を結び直しうるのか。本フォーラムは、「東アジア文化記憶の再読」という主題のもと、近現代の文学・思想・音楽・映像を手がかりに、東アジアにおける文化の越境、思想や表現の受容と変容、記憶の継承と再解釈について考えることを目的とする。   本企画の特色は、民国期の美学思想から現代のポピュラー音楽やテレビドラマにいたるまで、約100年にわたる多様な文化事象を横断的にとらえ、作品や言説に刻まれた歴史意識と文化的位相を読み直そうとする点にある。文学者どうしの響き合い、思想の受容と変容、方言をめぐる葛藤、友情の語り、歌われる記憶、映像を通じた共同体像の形成といった諸問題は、それぞれ異なる位相から、文化記憶が国境や時代を越えていかに受け継がれ、編み直されてきたのかを示している。   基調講演と各発表、さらに討論を通じて、本フォーラムは、東アジアにおける文化記憶とは何か、それが文学・思想・芸術の営みのなかでいかに読み継がれ、捉え直されていくのかを、多角的に考える場としたい。     ◆プログラム 司会: 宋 晗(フェリス女学院大学) 開会の辞    室田 真男(東京科学大学 リベラルアーツ研究教育院)   【基調講演】新美南吉と魯迅そして中国 藤井 省三(東京大学名誉教授)   魯迅(1881~1936)と日本文学との間には、深い影響関係がある。拙著『魯迅と日本文学』(2015年)で論じたように、1902~1909年の日本留学時代から1920年代、五・四新文学期にかけて、魯迅は夏目漱石(1867~1916)、森鷗外(1862~1922)、芥川龍之介(1892~1927)らから大きな影響を受けており、1930年代以後は魯迅が太宰治(1909~1948)、松本清張(1909-92)、村上春樹(1949~)らに深い影響を与えてきた。   そして新美南吉(1913〜1943)は、郷土愛知県知多半島を舞台に温かな童心を描いた児童文学者として日本で広く親しまれてきた。また近年、中国においても南吉童話は高い人気を誇っており、その受容の広がりは、従来の南吉像に再考を促している。   本講演は、南吉が魯迅文学、とりわけ「阿Q正伝」を深く読み込み、日中戦争期の中国の民衆に鋭い共感を寄せていた事実を日記・ノート・作品分析を通じて明らかにすることで、「郷土の童話作家」という枠を超えた南吉の世界文学的な側面を提示する。また南吉の反戦意識が村上春樹に継承されて、魯迅―南吉―村上春樹という系譜的関係が成立するであろう点についても検討したい。   —————————————— 第1部 【越境と接触】 —————————————— 【発表1】近代中国美学における自然観の構築――西洋思想の影響のもとで 丁 乙(北海道大学)   【発表2】1926年:危機が潜む ピリニャークの極東旅行と国際左翼連帯活動 黄 詩琦(中山大学)   休憩(15分)   —————————————— 第2部 【言語と感情】 —————————————— 【発表3】「解説/再現」される方言:林参天の『濃煙』における言語政治 賈 海涛(一橋大学)   【発表4】友情三調:巴金のエッセイ集『傾吐不尽的感情』における文化政治 呉 天舟(復旦大学)   —————————————— 第3部 【文化と表象】 —————————————— 【発表5】カバーされる記憶:「李香蘭」と改革開放後の中華ポピュラー音楽 楊 冠穹(東京科学大学)   【発表6】テレビドラマ制作からみる「台湾人」表象――曹瑞原作品を中心に 八木 はるな(中央大学)     【総合討論】 モデレーター:宋 晗(フェリス女学院大学) 討論者(アルファベット順):陳 言(首都師範大学)、龔 艶(上海師範大学)、吉川 龍生(慶應義塾大学)    閉会の辞 今西 淳子(渥美国際交流財団)   ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 中国語版   中国語版ウェブサイト  
  • 2025.12.25

    張桂娥「第9回東アジア日本研究者協議会パネル『現代児童文学に見る戦争の記憶と継承』報告」

      2025年10月31日から11月2日に韓国・翰林大学で開催された「第9回東アジア日本研究者協議会国際学術大会(EACJS9)」において、SGRA企画パネル「現代児童文学に見る戦争の記憶と継承」を行った。未来の子どもたちに過去の戦争体験をどのように伝承していくべきか、児童文学ができることを東アジアおよび国際的視点から再考することを目的として実施された。   第1部では、日本・中国・台湾における戦争児童文学の歴史的変遷と特徴が分析された。成實朋子氏は、前川康男『ヤン』と中国の薛濤『満山打鬼子』の日中比較を通じて日本の戦争児童文学が十五年戦争に限定されがちであること、戦地・中国を舞台にした作品が海外での受容に困難を伴う構造的な課題を指摘し、日中それぞれの受け止め方の違いを論じた。齋木喜美子氏は、沖縄戦を題材とした児童文学を取り上げ、沖縄という地で物語化が遅延した歴史的経緯を踏まえつつ、1960年代半ば以降の作品が「命(ヌチ)どぅ宝」の精神に基づき、愛国美談ではない真実の語りを追求する使命感を担ってきたことを強調し、戦後80年を迎える中での今後の語り継ぎの方向性を提示した。張桂娥氏は、陳玉金の『夢想中的陀螺』と楊雲萍の詩絵本『冷不防』の2作品を取り上げて、台湾における戦争児童文学の語りが、歴史的記録から個人的・情緒的な共感を重視する潮流へと変化していることを指摘し、子どもの想像力を通じて未来世代へ提供される価値を探求した。   第2部では、イタリア、コロンビア、ウクライナの児童文学を対象に、暴力や戦争、災害の記憶がどのように語られているかが検討された。マリアエレナ・ティシ氏は、朽木祥『パンに書かれた言葉』と、福島や広島の原爆をテーマとしたイタリア人作家の作品との比較を通じて、東日本大震災後の日本の児童文学が、第2次世界大戦の記憶を物語に組み込むことで共感を喚起する手法に着目した。フリアナ・ブリティカ・アルサテ氏は、コロンビアの武力衝突を背景とする絵本を通して、子どものトラウマの視点が「語られざる戦争」であると捉え平和教育の重要性を論じた。オリガ・ホメンコ氏は、ウクライナにおける児童文学において、ソビエト時代の英雄的な物語から、2014年および2022年の侵攻後に「身近な現実」としての戦争を描く文学が急増した経緯を説明。近年の作品は、戦争が「日常」として認識される中で、子どもの心理的な苦痛に寄り添い、現在を生き抜くための支えとなる機能を果たしている点を強調した。   戦争児童文学は過去の事実を伝えるだけでなく、感情への共鳴を通じてレジリエンス(回復力)を育む「生きたナラティブ」として機能していることを再認識できたことが今回の最大の成果である。また、児童文学研究が平和学、トラウマ理論、教育学といった学際領域と深く結びつく可能性を示せたことも今後の研究の広がりに寄与すると考える。登壇者からは、戦争を「現在進行形の問題」として子どもたちに語り継ぐ責任、被害者の視点に寄り添う平和教育の重要性、そして児童文学が持つ希望の力への確信が語られた。   登壇者およびコメンテーターの先生方から、セッションを終えての深い洞察と貴重なメッセージを頂戴したので一部ご紹介し、最後の総括とする。   成實先生:今回のパネルでは、普段聞くことのできないような話をたくさん聞くことが出来、いずれの話も大変興味深く、自分としても大変勉強になった。戦争が過去のものではなく、現在進行形で進んでいるという不幸な状況の下、児童文学の形で子どもたちに語り継がねばならないということを各地域の大人が痛感し活動していることが実感できた。   齋木先生:悲惨であればあるほど戦争の話は遠ざけてしまいがちだが、戦争を遠い過去にせず「私たちの問題」として次代の子どもたちに語り続けねばならないと痛感した。各国の作品事例から、戦争の物語が現在進行する戦争にも歴史的想像力を喚起させうることを学んだ。また抑圧や差別がいずれ大きな戦争につながることについても考えさせられた。沖縄は歴史的に「周縁」として取り扱われてきた地域だが、今後も周縁にこだわり、「どうして戦争が起きるのか」「私たちに何ができるのか」、児童文学を通して問い続けていきたい。   マリアエレナ先生:私はいっとき自分の仕事の意義、そして戦争と児童文学の関係を考察することの有用性に疑問を抱いた。しかし、私たちの研究を共有してくださった方々からのフィードバック、異なる文化圏の児童文学作品にも共通点があるのだという確信、そして何よりもオリガ先生の実体験を伺ったことによって、児童文学を研究する価値への信頼を取り戻し、今回の発表で紹介した小説の主人公たちのように、私の中にも希望が再生した。これからも、特に児童文学の価値をまだ知らない人たちに、その重要性を伝え続けていきたいと思っている。   張桂娥:今回のパネルを通じて、戦争における加害と被害の歴史を学ぶ上で、加害者側の国民が主体的に平和について学び続ける機会を確保することの重要性を改めて認識した。また同時に、被害を受けた人々が抱えてきた苦しみや経験を、児童文学という媒体を通じて国際社会へ継続的に伝えていくことの意義を強く実感した。   本パネルの実現のために世界各地からお集まりいただき、たくさんのお力添えをいただいた登壇者の先生方に、御礼申し上げます。ありがとうございました。   張桂娥報告完全版:   当日の写真:   <張 桂娥(ちょう・けいが)CHANG, Kuei-E> 台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本語教育、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科副教授。授業と研究の傍ら、日台児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。       2025年12月25日配信    
  • 2025.11.16

    レポート第112号「アジア近代美術における〈西洋〉の受容」

    SGRAレポート第112号(日中合冊)   第18回SGRAチャイナ・フォーラム 「アジア近代美術における〈西洋〉の受容」 2025年11月16日発行     <フォーラムの趣旨> 2023年に開催した「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」では、日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)を講師に迎え、いまだ東北アジア地域では紹介されることが少ない東南アジアにおける近代美術誕生の多様な様相について学んだ。その続編として今回は、初期の東南アジアの美術家にとって重要な存在であったゴーギャンを取り上げ、東南アジア近代美術において〈西洋〉がどのように受容され、そこにどのような課題が反映していたのかを考察した。   <もくじ> 【開会挨拶】 周 異夫(北京外国語大学日本語学院/日本学研究センター) 野田昭彦(国際交流基金北京日本文化センター)  【 講 演 】 アジア近代美術における〈西洋〉の受容 ─東南アジアのゴーギャニズム8後小路雅弘(北九州市立美術館) 【 指定討論1】 王 嘉(北京外国語大学)20世紀初期ベトナム近代美術教育について  【 指定討論 2】 二村淳子(関西学院大学)ゴーギャンにおけるベトナム、ベトナムにおけるゴーギャン  【自由討論】 モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 発 言者: 後小路雅弘(北九州市立美術館) 王 嘉( 北 京 外 国 語 大 学 )、二村淳子(関西学院大学) 【閉会挨拶】 王 中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科)     講師略歴 あとがきにかえて  李 趙雪(南京大学芸術学院)
  • 2025.10.22

    第19回SGRAチャイナフォーラム「『琳派』の創造」へのお誘い

    下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。   テ  ー  マ:「『琳派』の創造」 日   時:2025年11月22日(土)午後3時~5時20分(北京時間)/午後4時~6時20分(東京時間) 会   場:北京大学外国語学院新楼501(オンラインとのハイブリット開催) 言   語:日中同時通訳 共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)            北京大学日本文化研究所            清華東亜文化講座 後   援:国際交流基金北京日本文化センター 協   賛:鹿島建設(中国)有限公司     ※参加申込(リンクをクリックして登録してください)   ★会場参加者の事前申請は締め切りました★ (参加方法に関わらず参加用URLが届きます。会場参加の方は当日会場にお越しください。) (会場参加を希望する方で北京大学関係者以外の方は、事前に北京大学への入校申請が必要となりますので、フォーラム参加登録時に必要事項の入力をお願いします。登録いただいた情報をもとに事務局でまとめて申請します。なお、事前入校申請受付は11月18日(火)で締め切ります。(締め切りを過ぎた場合はオンラインでご参加ください。)当日は、北京大学のキャンパスに入校する際に身分証明書(中国籍の方はID、外国籍の方はパスポート)の提示が必要です。忘れずにお持ちください。)   お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)     ◆フォーラムの趣旨 公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)は、2007年から毎年、北京を中心とした中国各地の大学等で、日本の民間公益団体の主宰者を招いてSGRAチャイナ・フォーラムを開催してきた。2014年からは趣向を変え、清華東亜文化講座のご協力をいただき、中国在住の日本文学や文化の研究者を対象として、東北アジア地域の近現代史を「文化と越境」をキーワードに議論を重ねている。本年も、これまでの成果を踏まえながら、「東アジアにおける広域文化史」の可能性を探る。国立近代美術館の学芸員を長く務められた古田亮先生(東京芸術大学 大学美術館教授)をお迎えし、「琳派の創造」をテーマに、西洋の影響を受けて近代に創られた美術史の言説について考察する。日中同時通訳付き。   ◆プログラム 総合司会:孫 建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 開会挨拶:野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター所長) 講演:古田 亮(東京芸術大学 大学美術館)「『琳派』の創造」 指定討論 討論者:戦 暁梅(国際日本文化研究センター) 中村麗子(東京国立近代美術館) 董 麗慧(北京大学芸術学院) 自由討論 モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 閉会挨拶:王 中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科)(予定)   ◆講演内容 古田 亮(東京芸術大学 大学美術館)「『琳派』の創造」 「琳派」は、一般に日本美術史上に現れた流派の一つととらえられている。江戸時代初期に活躍した俵屋宗達や本阿弥光悦らによってつくられ、尾形光琳や酒井抱一によって受け継がれて近代に至ると説明されることが多い。しかし、実際には二つの点で間違っている。一つは、その間に「琳派」と名乗った画家は一人もいないこと。つまり、尾形光琳の「琳」に由来するこの用語は光琳以前に存在しなかっただけでなく、光琳自身も使わず、抱一の時代にもなかった。「琳派」という用語は近代に創造されたのである。もう一点は、江戸時代の宗達、光琳、抱一には直接の師弟関係も、狩野派のような流派としての家のつながりもない。光琳は時代を超えて宗達を発見し、抱一もまた時代を超えて光琳を発見した。その関係は私淑というべきものであった。   一方、「琳派」が近代に創造されたと言うとき、それは学術研究の結果ではなかった。歴史に沿って宗達、光琳、抱一という流れが初めから認識されていたのではない。まず、明治時代後半(19世紀末)、ジャポニスムに端を発してヨーロッパから〈日本らしい装飾芸術〉として光琳が注目された。ついで大正時代に、個性主義という20世紀初めの芸術観のもとに宗達の芸術が再評価された。本発表では美術史家よりもむしろ近代美術の同時代のムーブメントのなかで「琳派」という伝統がつくりあげられていったことを明らかにする。   ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 中国語版   中国語版ウェブサイト
  • 2025.08.03

    陳藝婕「国際和解学会パネル『美術と美術史による和解』」報告

    2025年7月14日から18日にかけて、国際和解学会が韓国ソウル大学において開催された。私が企画したパネルセッション『美術と美術史による和解』には、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)の派遣チームとして参加した。   本パネルの開催趣旨は、国際和解を促進し戦争の傷を癒す上で、美術と美術史が果たした独特の役割を探ることだった。発表はすべて英語で、研究テーマに関連する時代順に行われた。司会は元渥美奨学生の陳エン氏(京都精華大学准教授)。   最初の発表は私、陳藝婕(元渥美奨学生、上海大学講師)の論文「1958年に日本で開催された敦煌展:文化による和解の始まり」。戦後初期かつ最大規模の中国美術展の一つである「中国敦煌芸術展」を中心に、冷戦期における日中民間文化交流の歴史的意義を分析した。国交が未回復だった日中両国において、日本中国文化交流協会や毎日新聞社などの民間主導で実現したこの展覧会は、約10万人の来場者を集める大成功を収めた。特に敦煌美術が共有する仏教文化的基盤(飛鳥・奈良時代の日中芸術交流)が共感を呼び、井上靖の小説『敦煌』(1959年)やNHKドキュメンタリー「シルクロード」(1980年)など、戦後日本における「敦煌ブーム」を生み出した点が強調された。政治的に困難な時代にも、文化外交が相互理解を促進し、学術・文学・映像メディアにわたる持続的影響力を発揮した事例として評価されている。展示された敦煌美術の文化的価値が、政治的な対立を超えた共感を呼び起こしたと言えるだろう。   エフィ・イン氏(Effie Yin、Ringling College of Art and Design講師)の「写実か近代か?1950年代の雪舟展と日中芸術交流」は、1956年に日本と中国で開催された雪舟の作品展とその背景にある日中の文化的・政治的課題についての考察だった。雪舟は室町時代の禅僧画家で、1956年は没後450年にあたり、世界平和評議会によって「世界の十大文化人の一人」に推挙された。東京と北京で展覧会が開かれ、展示の文脈や意図が異なっていたにも関わらず、国交正常化前の文化交流における画期的な瞬間だったと指摘した。特に中国にとって、この展覧会は日中間の友好的な文化交流を促進し、関係正常化に貢献する一助となった。中国は当時、ソビエト連邦への過度な依存から脱却し、「百花斉放、百家争鳴」を提唱し始めていたが、雪舟の芸術は中国絵画伝統との関連から受け入れられ、中国発祥の芸術的リアリズムの推進にも寄与した。両国の展覧会は文化的・政治的課題を反映していたが、日中の文化交流の架け橋となり、外交関係の修復と正常化への重要な一歩となった。   張帆影氏(中国美術学院講師)の報告は、20世紀初頭にベルンソンやシーレン、矢代幸雄が初期ルネサンス研究で確立した形態や様式を重視する形式主義的分析手法を活用し、東洋美術の西洋における受容の過程を分析した。この結果、東洋美術の西洋認知が進む一方、作品の文化的・歴史的文脈が軽視され、普遍化される傾向が生じた。このアプローチは東洋美術の認知度向上にも寄与した半面、文化的・歴史的文脈を犠牲にし伝統を形式化・普遍化する傾向をもたらした。画期的な異文化研究手法でありながら、形式主義的視点はオリエンタリズム的傾向とも密接に結びついていた。張氏はグローバル美術史における形式主義的方法論の限界を考察し、これらの制約を乗り越えるために、より広範な文化的・歴史的次元の統合を提唱する。   3人の報告を終えた後、王怡然氏(浙江外国語学院講師)が討論者としてそれぞれコメントし、議論が行われた。会場の参加者からも複数の質問があり、美術や美術史の「和解」に対する作用を検討した。美術展や学術研究を通じて、紛争下にある国家間の文化的対話を提唱し、非合理な憎悪と誤解が徐々に解消されることを願った。   当日の写真   <陳藝婕 CHEN Yijie> 2022年度渥美国際財団奨学生。中国浙江省出身。2023年、総合研究大学院大学国際日本研究博士号取得。現在は中国上海大学講師を務めている。研究分野は、日中絵画の交流や受容。論文には「旭日江山:傅抱石の絵画における赤い太陽の図像と中日韓古代絵画の関係について」(『美術観察』2024年第4号)、「高島北海『写山要訣』の中国受容:傅抱石の翻訳・紹介を中心に」(『日本研究』64集,2022年3月)、「記美術史家鈴木敬」(『美術観察』2018年5月号)など、著作は『黄秋園 巨擘伝世・近現代中国画大家』(中国北京高等教育出版社、 2018 年)などがある。
  • 2025.01.09

    李趙雪「第18回SGRAチャイナ・フォーラム報告『アジア近代美術の〈西洋〉受容~色鮮やかな東南アジア美術の議論はこれからも続く~』」

    2024年11月23日(土)午後3時(日本時間4時)より第18回SGRAチャイナ・フォーラム「アジア近代美術の〈西洋〉受容」が北京外国語大学日本学研究センターで開催された。新型コロナウイルスのパンデミックが終息した後、フォーラムは5年ぶりに北京に戻り、対面とオンライン参加のハイブリッド形式で日中両国の視聴者に同時配信した。   11月の北京はすでに冬に入っているが、当日は暖かく穏やかな天気だった。孫建軍先生(北京大学日本言語文化学部)が司会を務め、主催者代表の周異夫院長(北京外国語大学日本語学院日本学研究センター)と後援の野田昭彦所長(北京日本文化センター)が挨拶した。前回の第17回SGRAチャイナ・フォーラム「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」を引き継ぎ、今回は「アジア近代美術の〈西洋〉受容」をテーマとした。講師として日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)、指定討論者として王嘉先生(北京外国語大学アジア学院教授)と二村淳子先生(関西学院大学教授)をお迎えした。   長い間注目されていなかった分野である東南アジア美術史は、近年の中国では重要な研究課題と見なされ、関心の高いテーマである。後小路先生の講演は、初期の東南アジアの美術家にとって重要な存在であったゴーギャンを取り上げ、東南アジア近代美術において「西洋」がどのように受容され、そこにどのような課題が反映していたのかを問題提起した。「ゴーギャンの受容」は画家自身を文明の側におき、対象を野蛮な他者とする図式が見られる。その背景には植民地体制を脱し新たな多民族多文化による国民国家の建設を目指す中で、ナショナル・アイデンティティーの形成、あるいは国民文化の創造という国家的な要請もあった。異国趣味的な女性像を乗り越えるため、ゴーギャンの造形性は参照すべき格好のモードであり、規範でもあった。国民国家の形成過程における「国民」の発見と重なり合い、いわば他者の発見と自己の探求が分かちがたく結びあっているところに、東南アジア近代美術に固有の問題と表現を見出すことができると指摘した。   自由討論は前回と同様にモデレーターの名手、澳門大学の林少陽先生によって進められた。ベトナム研究の専門家・王嘉先生は、20世紀初期のベトナム美術教育とベトナム近現代美術をテーマに補足・報告した。二村淳子先生は『ベトナム近代美術史――フランス支配下の半世紀』(原書房、2021年)の著書で東京大学而立賞(東京大学学術成果刊行助成)を受賞したフランス語圏美術史の研究者である。ゴーギャンとベトナム人画家との関係、特にレ・フー(黎譜)をはじめ、ベトナムの近代画家らも東南アジアの画家らと同様にゴーギャンの影響を受けたことを指摘した。ただし、ゴーギャンがベトナムから見出した「失われた楽園」は地理的な遠方であるのに対し、レ・フーらが見出したのは時間的な遠方、すなわちベトナムの歴史や過去だったと指摘した。   その後、会場から北京外国語大学の学生らや上海大学、九州大学、中国芸術研究院の美術史研究者から多くの質問を受けた。「なぜ野蛮を描いたゴーギャンが東南アジアの近代画家のモデルとなったか」、「陳進の作品から野蛮ではない印象を受けたが、それについてご説明をいただきたい」、「レ・フーの『幸福時代』にゴーギャン以外の要素もあるか」などの質問に対し、後小路先生、二村先生、王先生は丁寧に回答して今回の講演をまとめた。近代国家の成立やアイデンティティーを模索する過程で、ゴーギャンの作品をモデルにする東南アジアの画家たちや台湾の原住民を「高貴」の目線で表現する陳進、ゴーギャン以外のフランス画家からも影響を受けたレ・フォーの諸問題は自由討論で語り切れなかったが、色鮮やかな東南アジア美術についての議論はこれからも続くだろう。   最後に清華東亜文化講座を代表して、王中忱先生(清華大学中国文学科)より閉会の挨拶があった。王先生は後小路先生の講演が植民地主義研究における従来の方法を超え、「他者を認識することは自己を認識・構築することでもある」という示唆的な視点を評価し、国家主義の台頭、均質のグローバル化が進む今日では東南アジアなどの多視点的な討論はきわめて貴重であると述べた。王先生は長年にわたりチャイナ・フォーラムを企画・支援してきた渥美国際交流財団関口グローバル研究会に対して謝意を伝えた。   北京会場、そしてオンラインを含め110名を超える参加があった。講演主題の選択と質疑応答の構成に対してアンケートからも多くの好評を受けた。フォーラム終了後、北京外国語大学の近くにあるレストランで渥美国際交流財団30周年祝賀夕食会が開催された。SGRAを長らく支援してくださっている宋志勇・南開大学教授、北京日本文化センターや清華大学東亜文化講座の先生方、そして中国在住のラクーン(元渥美奨学生)たち、総勢50名の参加者が一堂に会し、大盛況だった。   当日の写真   アンケート集計   <李 趙雪(り・ちょうせつ)LI_Zhao-xue> 中央美術学院人文学院美術史専攻(中国・北京)学士、京都市立芸術大学美術研究科芸術学専攻修士、東京藝術大学美術研究科日本・東洋美術史研究室博士。現在南京大学芸術学院の副研究員。専門は日中近代美術史・中国美術史学史。       2025年1月9日配信    
  • 2024.11.07

    第18回SGRAチャイナフォーラム「アジア近代美術における〈西洋〉の受容」へのお誘い

    下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。   テ  ー  マ:「アジア近代美術における〈西洋〉の受容」 日   時:2024年11月23日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間) 会   場:北京外国語大学北京日本学研究センター多目的室とオンライン(Zoom) ※北京外国語大学会場で参加する場合は、入校の際に身分証のスキャンが必要となります。 言   語:日中同時通訳 共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)            北京外国語大学北京日本学研究センター            清華東亜文化講座 後   援:国際交流基金北京日本文化センター 協   賛:鹿島建設(中国)有限公司   ※参加申込(リンクをクリックして登録してください) (参加方法に関わらず参加用URLが届きます。会場参加の方は当日会場にお越しください。) お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)     ■フォーラムの趣旨 昨年開催した「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」では、日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)を講師に迎え、いまだ東北アジア地域では紹介されることが少ない東南アジアにおける近代美術誕生の多様な様相について学んだ。その続編として今回は、初期の東南アジアの美術家にとって重要な存在であったゴーギャンを取り上げ、東南アジア近代美術おいて〈西洋〉がどのように受容され、そこにどのような課題が反映していたのかを考察する。   ■ プログラム 総合司会 孫 建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA) 【開会挨拶】 周 異夫(北京外国語大学日本語学院長兼日本学研究センター長) 野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター所長)   【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長) 「アジア近代美術における〈西洋〉の受容─東南アジアのゴーギャニズム」   【指定討論】 討論者: 王 嘉(北京外国語大学) 二村淳子(関西学院大学) 【自由討論】 モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座) 【閉会挨拶】 王 中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科)   ■講演内容 【講演】後小路雅弘「東南アジア近代美術における〈西洋〉の受容─東南アジアのゴーギャニズム」 [講演要旨] 前回の本フォーラムでは、「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」というテーマのもと、欧米列強による植民地統治下の1930年代に見られた近代美術誕生の萌芽的な動きを国ごとに紹介し、その共通性と固有性について考察した。その背景には、19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な動向があったが、激動のアジア近代史の奔流の中で、近代美術運動のパイオニアたちは何を目指したのかを読み解いた。 今回は、東南アジアを中心に、他のアジア地域の作例も含め、アジア近代美術の、とりわけ初期の段階において、〈西洋〉の受容がどのようなかたちで行われたのか、またそこにはアジアの近代美術のどのような課題が反映していたのかについて考察する。 アジアの近代美術は、西欧の近代美術の大きな影響を受けながら誕生し、展開していったことは間違いない。しかし、ここでは、その影響を受け容れた側(アジアの近代美術)の主体性、主体的な創造性に注目する。アジアの近代美術のパイオニアたちは、〈西洋〉をどのように「主体的に」受け容れ、そこにどのような問題意識を持ち、どのように内発的な創造性を展開したのだろうか。 東南アジアの美術家たちにとって、とりわけ重要な存在はポスト印象派のポール・ゴーギャンであった。ゴーギャンは、成熟した西欧文明に倦んで、野生の荒々しい生命力を求めて南太平洋へ移住し、そこで新境地を開いた。東南アジアの美術家たちは、ゴーギャンの南太平洋での作品を参照し、自らの作品に取り込みながら、自身の課題に取り組んでいく。そこには、新たな国家建設の夢や、まだ見ぬ〈故郷〉の姿が反映していた。 アジアの初期近代美術家たちはゴーギャンに何を見ていたのか─東南アジアを中心にそれ以外の地域も含め、いくつかの作品を取り上げ、その分析を通して、アジアの近代美術が何を求め、何を生み出したのかについて具体的に考えたい。   ※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。 日本語版 中国語版   中国語版ウェブサイト
  • 2024.06.13

    レポート第107号「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」

    SGRAレポート第107号(日中合冊)   第17回SGRAチャイナ・フォーラム 「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」 2024年6月13日発行     <フォーラムの趣旨> 今回は視野を東南アジアに広げた。日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)を講師に迎え、いまだ東北アジア地域では紹介されることが少ない東南アジアにおける近代美術誕生の多様な様相について学んだ。東南アジアの初期近代美術運動を通じて東北アジアとの関係や相互の影響について考えた。   <もくじ> 【挨拶】 野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター)   【講演】 東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生 後小路雅弘(北九州市立美術館館長/九州大学名誉教授)   【指定討論1】 熊 燃(北京大学外国語学院) 【指定討論2】 堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール) 【 指定討論への回答】 後小路雅弘(北九州市立美術館館長/九州大学名誉教授)   【自由討論】 モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/ SGRA /清華東亜文化講座)   【閉会挨拶】 趙 京華(清華東亜文化講座/北京第二外国語学院)   講師略歴  あとがきにかえて ─孫 建軍(北京大学日本言語文化学部/ SGRA)    〇同時通訳(日本語⇔中国語):丁 莉(北京大学)、宋 剛(北京外国語大学/ SGRA)   ※所属・肩書は本フォーラム開催時のもの
  • 2024.04.26

    孫建軍「第17回SGRAチャイナフォーラム『東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生』報告」

    2023年11月25日(土)北京時間午後3時(日本時間午後4時)より第17回SGRAチャイナフォーラム「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」が開催された。コロナが収束して4年ぶりに対面形式で行う予定だったが、スケジュールを決める9月の時点で2012年秋の事態を思わせる空気が漂い始め、オンライン方式を続けることに決めた。   テーマの通り、今回は美術史の返り咲きとなった。しかもこれまで焦点が置かれていた「東アジア」から初めて「東南アジア」に視点を向けたため、事前の準備はこれまでと異なり、チャイナフォーラムの歴史の中でかつてない国際的な展開となっていた。講師は北九州市立美術館館長の後小路雅弘先生、指定討論者は北京大学東南アジア学科准教授の熊燃先生、ナショナル・ギャラリー・シンガポール学芸員でコレクション部門ディレクターの堀川理沙先生のお二方をお迎えした。東京、北九州、北京、シンガポール、マカオと事前準備の連絡は広範囲にわたった。日本語だけでなく、英語によるメールの連絡もこれまでにないレベルで、渥美財団のスタッフ一同の国際色の高さに脱帽した。   例年通り、開催にあたり、主催者側から今西淳子・渥美財団常務理事、後援の野田昭彦・北京日本文化センター所長より冒頭の挨拶があった。野田所長の挨拶は前年同様にテーマに沿った問題提起があり、フォーラムのウォーミングアップともなった。   日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生の講演は、ご自身の東南アジアの実体験から始まった。東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは1930年代に見られると指摘した。地域や国同士の相互の連動は見られなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性から、ほぼ同じ時期に見られるようになったと、数多くの絵画の紹介を通じて語った。そして19世紀末から20世紀前半にわたって、東南アジアの近代美術運動を担うパイオニアたちが直面する課題、目指す目標、各国における共通性や相違を読み解いた。   自由討論はモデレーターの名手、澳門大学の林少陽先生によって進められた。美術作品を通して、その背後にあるより微妙で生き生きとした植民地支配に対する抵抗や民族解放を求める東南アジアの歴史の詳細を見ることができるという熊燃先生のご見解や、後小路先生のご研究の原点は東南アジアだけでなく、東アジア全体にあるのではないかという堀川理沙先生のご指摘が印象的だった。その後、会場およびオンライン参加者の質問に対し、後小路先生が丁寧に回答した。   最後に清華東亜文化講座を代表して、北京第二外国語大学趙京華先生より閉会の挨拶があった。趙先生は後小路先生のご講演により、美術史を専門としない人も美術界の新たな風潮を通じて、東南アジアの20世紀の複雑な歴史的プロセス、そして民族、言語、宗教、文化の多様性について初歩的な理解を得ることができたと指摘した上で、「どのような覇権も、世界を統一することも、差異を排除することもできない。私たちは各民族国家の多様性を尊重することでしか、文明の相互理解と平和共存の理想を実現することができない」と強く訴えた。   東京会場、北京会場、そしてオンライン参加を含め、合わせて150名の参加を得た。参加者からは「東南アジアにおける近代美術が生まれた背景や、その代表的な人物に関する基本知識を得ることができた。今後もこの研究領域に関するフォーラムを開催してほしい」などの感想が寄せられた。   フォーラム開催当日は趙先生の誕生日で、北京会場でささやかなお祝いをした。4年ぶりの会食も実現した。そして次回の第18回も引き続き後小路先生に依頼し、対面形式で北京で行うことが早々に決まった。 かつてのおなじみのチャイナフォーラムが確実に戻ってくる。   当日の写真 アンケート集計結果   <孫建軍(そん・けんぐん)SUN Jianjun> 1990年北京国際関係学院卒業、1993年北京日本学研究センター修士課程修了、2003年国際基督教大学にてPh.D.取得。北京語言大学講師、国際日本文化研究センター講師を経て、北京大学外国語学院日本言語文化系副教授。専攻は近代日中語彙交流史。著書『近代日本語の起源―幕末明治初期につくられた新漢語』(早稲田大学出版部)。