東アジアの人材育成

国際化・情報化の時代において、アジア各国が繰り出す人材育成戦略および国境を超えた人的移動に伴う技術移転、文化摩擦、教育格差などの課題とその背景についての研究に取り組んでいます。
  • 2023.12.08

    せん亜訓「第7回東アジア日本研究者協議会パネル『帝国という言説空間の越境・連帯・抵抗―アナーキズムと現代詩、フリージャズ』報告」

    2023年11月の「東アジア日本研究者協議会 第7回国際学術大会」(会場は東京外国語大学)に向け、6月には私を含む台湾と韓国、日本出身の7名の若手研究者がパネル企画の検討を開始した。   同協議会が提示したテーマを基に私たちは「帝国という言説空間の越境・連帯・抵抗―アナーキズムと現代詩、フリージャズ」を提案した。パネリストの専門分野は多岐にわたっているが、東アジアの歴史認識と政治的イデオロギーの齟齬、トランスナショナルな連帯の問題について関心を共有している。共通課題は帝国と社会の周縁を生きてきた運動家、文学者、音楽家の立場から越境する連帯と抵抗のダイナミズムを描き出すことが挙げられる。東アジアの内部でありながら互いの外部にもなる台韓日の間に生まれてくる議論の底力を、パネルの形で発信することが本企画の特徴と考えた。   大会の3日間は、初日から晴れていて暖かかった。私達のパネルは最終日朝のセッションで、寺岡知紀氏(中京大学)のオープニングから始まり、「帝国に抗するアナーキズムを再考する―大杉栄の所有と連帯の論理を手がかりに」(せん亜訓:放送大学)、「戦中・戦後の台湾における石川啄木の受容―文学サークル銀鈴会メンバーを中心に」(劉怡臻:慶應SFC中高部)、「谷川雁の〈工作者〉における力学とフリージャズ」(羅皓名:台湾中央研究院)の3つの報告と、それに対する蔭木達也氏(慶應義塾大学)、閔東曄氏(東北学院大学)、趙沼振氏(淑明女子大学)のコメントを経て、フロアからの質問と総合討議が行われた。   私の報告は1920年に自由連合の主張にたどり着いた大杉栄思想を、第一次世界大戦後の社会問題熱にともなう帝国問題に対する省察と捉えた。そのなかで、自由連合の構想を支えた「労働者の自己獲得」と「蓋然的ソリダリテ」の論理は、脱植民地化への共鳴としての主体の創出と、ポスト大逆事件の社会状況の両方への応答として検討された。この二つの論理は、経済決定の克服を試みた草の根の民衆的創造であり、脱植民地化の広がりを意識してその内面化を試みた越境する連帯のきっかけともいえようと結論付けた。   劉氏は、戦前から戦後まで文芸活動を続けた銀鈴会の朱実と錦連の詩作における啄木文学の受容について発表した。そのなかで、第二次世界大戦中の台湾における伝統的な詩の形式から距離を置いた啄木調の再生産と、戦時中の心理の屈折を意識して正直に記録するという啄木の短歌観への共鳴が示唆された。戦後の2・28事件及び白色テロによる弾圧を受けつつも、啄木文学を自らの抵抗と結びつけた面は、戦後の権威主義体制へのポストコロニアルな応答として捉えた。そして、銀鈴会の「民衆の中へ」のスタンスは、左翼文学史の文脈にとどまらず、台湾の郷土文学との継承関係を示したと論じられた。   羅氏は1960年代の平岡正明と相倉久人の「ジャズ革命論」を取り上げた。谷川の「工作者」の論理が媒介した60年安保の革命思想と前衛芸術、下層労働者のあいだに生まれた「反定型」と相互破壊的な関係性、辺境的マイノリティといった概念をジャズ演奏の歴史映像を通じて説明された。具体的には、異質な他者の間の破壊的な弁証と、自己消滅により継起するノートを呼び起こすという永久革命の企てを持つジャズの結合を論じた。その上で「ジャズ革命論」の意義に関しては、美学と政治の批判的実践のみならず、第三世界論と新左翼運動のパラダイム転換、マイノリティへの眼差しから解釈した。   3つの報告について、3名の討論者が各自の専門から出発し、東アジアの歴史を振り返りつつコメントし、パネル全体との接点を作って質問した。(1)蔭木氏からは、煩悶青年の文脈および自己と国家、社会の関係性から生まれた大杉の「社会的所有」の意味合いと「蓋然的ソリダリテ」の発想に及ぼす根拠、(2)閔氏からは、戦時期植民地知識人の抵抗と戦争擁護の絡み合いから啄木文学の受容の再検討と、戦中から戦後への啄木調の植民地的展開の再認識、(3)趙氏からは、ジャズの即興演奏を他者との出会いとして捉える理解とその妥当性、マイノリティや下層民衆の枠に収まらない社会的矛盾と植民地支配の位置づけ、といった質問があった。   参加者からは文脈の補足や議論のさらなる展開を求められたが、90分の時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。総合討議では抵抗の日常性と民衆性につながった「社会」と連帯の構想を接点に、帝国と植民地、支配と抵抗の間)の思想的連続と緊張関係が、同時に思想と文学、芸術に反映されたと語られた。同時に、異質なるものが構造的支配に回収され、暴力の装置に右旋回してしまうおそれへの問題関心は、東アジアの歴史認識と政治的イデオロギーのあつれきに関係し、看過できない課題だと、パネリスト同士で共感した。時間内に収まらない議論は、昼食後の雑談まで続いたが、帰らないといけない時間になった。台湾と韓国、日本の各地から集まってきた私たちは、今回のパネルの成果を養分として蓄え、次回の企画に力を注いで行きたい。   当日の写真   <詹亜訓(せん・あくん)CHAN Ya-hsun> 台湾国立交通大学社会と文化研究科修士。東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻修士、博士。現在日本学術振興会外国人特別研究員として早稲田大学政治学研究科に在籍している。専門は、東アジア政治・社会思想史。
  • 2021.11.25

    エッセイ688:元笑予「日本と中国のいじめ問題―これからの研究課題」

    近年、日本では子どもの間のいじめでパソコンや携帯電話等が使われることは珍しくない。「ネット上のいじめ」とは、携帯電話やパソコンを通じてインターネット上のウェブサイトの掲示版などに特定の子どもの悪口や誹謗・中傷を書き込んだり、メールを送ったりするなどの方法により、いじめを行うものを意味する。一方、いじめを受けた子どもがツイッターやLINE上でつぶやいたSOSが「放置」され、自殺という最悪の事態に至ってしまうこともあった。   さらに、子どものいじめや自殺などの相談にSNSのLINEを使ったところ、電話よりも相談件数が増えることが分かった。「SNSは若者にとっていちばん身近なので、相談に活用できるよう対応することが必要だ」と言う意見も強い。いじめの防止につなげようと、千葉市の市立中学校は2016年度から子どもたちが毎日持ち歩く生徒手帳に、いじめに遭ったり目撃したりしたときの対応やネット上の相談窓口を記載する取り組みを始めたという。ネットいじめを低減する重要な要因、解消のために必要な要因は何であると考えられるのだろうか。教育者にとって、この点を明らかにすることが喫緊の研究課題である。   中国では2017年に国家教育部が初めて「いじめ」の定義を明確に示したが、その後の対策はまだはっきりとしていない。中国でいじめ問題に人々が関心を寄せるようになったのは、ごく最近のことにすぎない。長い間、多くの中国人は子どもの間のいじめは免れられないことであると考えていた。一学年に250名くらいの児童・生徒が在籍しているとの報告があり、生徒数が多いことが影響していると考えられる。   いじめが起こる場面では傍観者が最も多い。傍観者の多くは、いじめをする人が悪いと思い、いじめられている人はかわいそうな人であると思っているが、どうしたら良いか分からないという状態にある。中国では、多くの児童・生徒は学校側からいじめについて認識を尋ねられた場合に、知りうるすべての真実を学校側に伝えると答えている。いじめを傍観している児童・生徒は、いじめを解決する上で鍵となる人物といえる。いじめが先進国ほど表面化していない中国においては、学級づくりでは多くの傍観者を取り込んで、良い雰囲気を構築することが極めて重要なことであり、いじめを減らす有効な方法になると考えられている。   良い雰囲気の学級を作ることはいじめの予防教育につながる。日本でも、いじめの早期発見と早期対応を促す教師のあり方として、教師が子どもに信頼されることと共に、教師の意識を変えることが必要であると指摘されている。いじめがないことを前提に児童・生徒たちに接するのではなく、いじめが存在する可能性を前提として子供に接することで、早期に的確な対応を取ることが可能となる。これからの研究課題は、教師がいじめをどのように把握するか、教室全体がいじめ防止・抑止に結び付く雰囲気をどのようにつくり出すかという点になるといえる。     英語版はこちら     <元笑予(げん・しょうよ)YUAN Xiaoyu> 2008年来日、中国南開大学の日本語学科を卒業して、埼玉大学教育学部の研究生、修士を経て、東京学芸大学大学院で2020年9月に教育学博士号を取得。専門は教育心理学。現在、玉川大学教育学部非常勤講師として勤務しながら、東京学芸大学個人研究員として研究を進めている。     2021年11月25日配信
  • 2018.11.15

    沈雨香「第61回SGRAフォーラム『日本の高等教育のグローバル化!?』報告」

    今日の日本では「留学」と英語教育をキーワードに積極的なグローバル人材育成が推し進められている。10月13日開催された第61回SGRAフォーラムでは、「日本の高等教育のグローバル化!?」をテーマに、留学と英語教育を柱とするグローバル人材育成の現状を今一度振り返り、今後の在り方について建設的な討論が行われた。産学官民の関心が高い話題だけあって、休日にも関わらず、フォーラム会場は大学教員、日本人大学生、外国人留学生、企業関係者等、70人を超える参加者で賑わった。     司会を務めた張建・東京電機大学特任教授と今西淳子・渥美財団常務理事のあいさつでフォーラムはその幕を開けた。最初に、沈雨香・早稲田大学助手による、送り出し/受け入れ留学を通した大学のグローバル化とグローバル人材育成への問題提起があった。沈は留学をグローバル人材育成の柱とし、国を挙げた金銭的援助が精力的に行われてはいるものの、短期留学のみが急速に増加している現象を指摘した。そのうえで早稲田大学の学部生を対象に行われたアンケート調査結果をもとに、グローバル人材育成における短期留学の効用とキャンパス内国際交流の有効活用について疑問を投げかけた。   その後、吉田文・早稲田大学教授により「日本の高等教育のグローバル化、その現状と今後の方向について」を題材に日本におけるグローバル人材育成の背景と現状、またその課題についての基調講演があった。吉田教授は現代の日本におけるグローバル人材育成の主体が、会社から社会へ、社会から国家へ、そして大学へといかに変遷してきたか、さらに、その中でグローバル人材像がいかに変容してきたのか、その内容を詳しく述べた。その後、伸び悩んでいる長期海外留学と拡大する短期留学(海外研修)の現状を提示し、外国人との共生という社会の問題と日本企業のグローバル人材に対する矛盾ともいえる採用態勢を今後の課題とした。   一方、隣の国の韓国では海外留学が活発に行われている。そこで、本フォーラムでは韓国のシン・ジョンチョル・国立ソウル大学教授を招き、「韓国人大学生の海外留学の現状とその原因の分析」について講演をお願いした。その中でシン先生は、韓国人大学生の海外留学が1990年代から増加し、今は一定水準を維持していることや、その海外渡航目的が年々多様化していることを挙げ、その原因についての考察と、日本と韓国の現状比較を話された。過剰な留学ブームが続く韓国と留学の減少が懸念されている日本。両国の社会・経済状況を踏まえた、留学だけに依存しない、グローバル人材育成の在り方について提案する形で先生の発表は終了した。   問題提起と2つの基調講演を終えた後は、昭和女子大学のシム・チュン キャット准教授の進行の下、複数の日本の大学による事例報告と参加者を交えたパネルディスカッションが行われた。まず、関沢和泉・東日本国際大学准教授により、地方の小規模私立大学における留学プログラムの実践とその成果についての報告があった。関沢准教授は短期のプログラムがその後の留学への呼び水となったケースなどを紹介しながら、地方大学生の場合は金銭的問題が留学への主な阻害要因であると、さらなる留学推進への課題を提示した。次に、関西外国語大学のムラット・チャックル講師より、関西外国語大学におけるグローバル人材育成のためのカリキュラムの紹介と実践と成果の報告があった。英語授業と外国人留学生との交流を活用し、留学に行かずにしてグローバル人材育成を行っているプログラムを紹介した上で、学生の就職意識調査の結果から大学における就職ガイダンスの在り方を課題として提示した。最後に、金範洙・東京学芸大学特命教授からはご自身の民間機関が実施する教育コンソーシアムの概要と実際の韓国短期留学プログラムの実践事業例を題材に国際的な教育協力の試みについての報告が発表された。国境を越えて行われる政府間共同事業を紹介し、今後のグローバル人材育成の体制や方法について示唆を与えた。   続いて行われたフリーディスカッションでは、参加者と登壇者の間で積極的な意見交換が行われた。留学を経験した日本人学生からは自らの経験を踏まえた留学に対する意見や韓国の事例に対する質問があった。人材マネジメント業界で勤める社会人参加者からは今後の企業の努力や姿勢についての質問があり、さらに、留学生参加者からは実際の留学経験から感じた日本人学生との交流の難しさや解決方法についての話があるなど、フォーラムの終了時刻を延長せざるを得ないほどたくさんの質問や意見が会場を飛び交っていた。これらの白熱した議論は、グローバル人材の定義、さらなるグローバル化が進む現代社会の在り方、さらに、その社会での生き方について真剣に考えなければならないとの問題意識を喚起させるものであったといえよう。   フォーラムの写真   当日のアンケート集計結果   英訳版はこちら   <沈雨香(シン・ウヒャン)Sim_Woohyang> 2017年度渥美奨学生。早稲田大学教育学部卒業後、同大学教育学研究科で修士課程修了。現在は博士課程に在籍し博士論文を執筆しながら、早稲田大学教育・総合科学学術院の助手。専門は教育社会学。中東の湾岸諸国における高等教育の研究を主に、近年の日本社会における大学のグローバル化とグローバル人材に関する研究など、高等教育をテーマにした研究をしている。
  • 2018.10.13

    レポート第87号「日本の高等教育のグローバル化!?」

    SGRAレポート第87号   SGRAレポート第87号(表紙)   第61回SGRAフォーラム講演録 「日本の高等教育のグローバル化!?」 2019年3月26日発行   <フォーラムの趣旨>   2012年に日本再生戦略の中で若者の海外留学の促進とグローバル人材育成が謳われ、5年が経過した。現在の諸政策は外国語能力の向上と異文化理解の体得を推進するに留まっている。例えば、TOEFL・TOEICを利用した英語習得及び評価や英語での授業展開を中心としたものや、海外留学の推奨など日本から海外に出る方向に集中していることが挙げられる。また、その対象が日本人に限られている点など、現時点におけるグローバル人材育成の方針は一方面かつローカルな視点から進められているようにとれる。 一方、教育の受け手であり、育成される対象である若者がこのような現状をどのように受け止め行動しているのかはあまり議論されず取り残されたままである。そこで本フォーラムでは、高等教育のグローバル化をめぐる大学と学生の実態を明らかにし、同様の施策をとる他国との比較を通して同政策の意義を再検討する。     <もくじ> 【問題提起】 「スーパーグローバル大学(SGU)の現状と若者の受け止め方:早稲田大学を例として」 沈 雨香(Sim Woohyang)早稲田大学助手   【講演1】 「日本の高等教育のグローバル化、その現状と今後の方向について」 吉田 文(Aya Yoshida)早稲田大学教授   【講演2】 「韓国人大学生の海外留学の現状とその原因の分析」 シン・ジョンチョル (SHIN Jung Cheol) ソウル大学教授   【事例報告1】 「内向き志向なのか――地方小規模私立大学における《留学》」 関沢 和泉 (Izumi Sekizawa) 東日本国際大学准教授   【事例報告2】 「関西外国語大学におけるグローバル人材育成の現状」 ムラット・チャクル(Murat Cakir)関西外国語大学講師   【事例報告3】 「関西外国語大学におけるグローバル人材育成の現状」 金 範洙(Kim Bumsu)東京学芸大学特命教授   【フリーディスカッション】 -討論者を交えたディスカッションとフロアとの質疑応答- 総合司会:張 建(Zhang Jian)東京電機大学特別専任教授 モデレーター:シム・チュンキャット(Sim Choon Kiat)昭和女子大学准教授  
  • 2018.09.13

    第61回SGRAフォーラム「日本の高等教育のグローバル化!?」へのお誘い

    下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。   ◆「日本の高等教育のグローバル化!?」 ~グローバル人材育成とはなんだろうか~   日時:2018年10月13日(土)午後1時30分~4時30分 その後懇親会 会場:早稲田大学国際会議場第一会議室 参加費:フォーラム・懇親会ともに無料 お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected], 03-3943-7612)   ◇ポスター   ◇フォーラムの趣旨   2012年に日本再生戦略の中で若者の海外留学の促進とグローバル人材育成が謳われ、5年が経過した。グローバル人材の育成には、多方面かつグローバルな観点での議論と政策が不可欠であるが、現在の諸政策は外国語能力の向上と異文化理解の体得を推進するに留まっている。例えば、TOEFL・TOEICを利用した英語習得及び評価や英語での授業展開を中心としたものや、海外留学の推奨など日本から海外に出る方向に集中していることが挙げられる。また、その対象が日本人に限られている点など、現時点におけるグローバル人材育成の方針は一方面かつローカルな視点から進められているようにとれる。   一方、教育の受け手であり、育成される対象である若者がこのような現状をどのように受け止め行動しているのかはあまり議論されず取り残されたままである。今後スーパーグローバル大学(SGU)から全国の大学にグローバル人材育成教育の政策がさらに促進・拡大されることを踏まえると、今一度現状を振り返る必要がある。   そこで本フォーラムでは、高等教育のグローバル化をめぐる大学と学生の実態を明らかにし、同様の施策をとる他国との比較を通して同政策の意義を再検討する。さらに日本に住み教鞭を執る外国人研究者が中心となって発表することで本テーマに新たな視点をもたらすことが期待される。   ◇プログラム   総合司会:張建(東京電機大学特任教授)   【問題提起】 沈雨香(早稲田大学助手) 「スーパーグローバル大学(SGU)の現状と若者の受け止め方:早稲田大学を例として」   【講演1】 吉田文(早稲田大学教授) 「日本の高等教育のグローバル化、その現状と今後の方向について」   【講演2】 シン・ジョンチョル(ソウル大学) *逐次通訳付 「韓国人大学生の海外留学の現状とその原因の分析」   【事例報告】 ・関沢和泉(東日本国際大学准教授)「内向き志向なのか――地方小規模私立大学における《留学》」 ・ムラット・チャクル(関西外国語大学講師)「関西外国語大学におけるグローバル人材育成の現状」 ・金範洙(東京学芸大学特命教授)「日本の高等教育のグローバル展開を支えるサブプログラム事例」   【フリーディスカッション】「日本の高等教育のグローバル化!?」 -討論者を交えたディスカッションとフロアとの質疑応答-   モデレーター:シム・チュンキャット(昭和女子大学准教授)  
  • 2015.05.25

    レポート第70号「インクルーシブ教育:子どもの多様なニーズにどう応えるか」

    SGRAレポート70号(本文) SGRAレポート70号(表紙)   第46回SGRAフォーラム 「インクルーシブ教育:子どもの多様なニーズにどう応えるか」講演録 2015年4月20日発行   <もくじ> 【基調講演】 「インクルーシブ教育の実現に向けて」 荒川 智(あらかわ・さとし)茨城大学教育学部教授   【報告1】 「障碍ある子どもへの支援」 上原芳枝(うえはら・よしえ)特定非営利活動法人リソースセンターone代表理事   【指定討論】 ヴィラーグ ヴィクトル 日本社会事業大学大学院社会福祉学研究科博士課程   【報告2】 「学校教育からはみ出た外国につながりを持つ子どもたちに寄り添って」 中村ノーマン(なかむら・ノーマン)多文化活動連絡協議会代表   【指定討論】 崔 佳英(チェ・カヨン) 東京大学大学院総合文化研究科博士課程   オープンフォーラム 進行:権 明愛 討論者:上記発表者
  • 2014.03.05

    権 明愛「第46回SGRAフォーラム『インクルーシブ教育:子どもの多様なニーズにどう応えるか』報告」

    2014年1月25日(土)午後、東京国際フォーラムにおいて「インクルーシブ教育:子どもの多様なニーズにどう応えるか」をテーマに第46回SGRAフォーラムが開催されました。   今回のフォーラムの開催に当たって、最初は障害のある子どもの教育についての話から始まりましたが、企画を進めていく中、インクルーシブ教育をテーマにしたフォーラムへと広がりました。インクルーシブ教育という言葉は、元々障害のある子どもへの教育を考える過程で生まれた概念ですが、ユネスコでは、「学習、文化、コミュニティへの参加を促進し、教育における、そして教育からの排除をなくしていくことを通して、すべての学習者のニーズの多様性に着目し対応するプロセスとして見なされる」と定義しています。このインクルーシブ教育の定義に沿って日本の教育問題を考えると、障害のある子どもの教育問題の他に、外国籍労働者の子どもたち、家庭や経済的な事情により学業に困難を伴う子ども等、色々なニーズを持つ子どもへの対応が求められることが分かります。「学習等への参加、排除をなくす」「多様性への着目と対応」がインクルーシブ教育のキーワードなのですが、上述の多様なニーズを持つ子どもの教育の問題は、教育の周辺課題として扱われてきた印象を受けます。「インクルーシブ教育」という言葉そのものの認知もあまり進んでおらず、インクルーシブ教育を実現していくのにはまだまだ多くの課題があると思われます。   今回のフォーラムでは、インクルーシブ教育の実現に向けて、障害のある子どもや外国籍の子どもへの支援の実際を踏まえながら、日本の教育がこれからの子どもの差異と多様性をどう捉え、権利の保障、多様性の尊重、学習活動への参加の保障にどのように向き合うべきかについて議論の場を提供することを目的としました。   茨城大学教育学部の荒川智教授は、基調講演「インクルーシブ教育の実現に向けて」において、障害者権利条約と教育条項に触れながら、インクルーシブ教育を、教育システムやその他の学習環境を学習者の多様性に対応するため如何に変えるかを追求するアプローチとし、それを実現するには通常教育そのものの改革が不可欠であると指摘し、学習者の多様なニーズに対応できる通常教育の改革のあり方について丁寧にお話しされました。   続いて、特定非営利活動法人リソースセンターoneの代表理事である上原芳枝さんからは「障碍ある子どもへの支援について」、川崎市多文化活動連絡協議会の代表である中村ノーマンさんからは「外国につながりを持つ子どもへの支援について」をテーマに、実践の場の現状とその取り組みについてお話をしていただきました。上原さんと中村さんの講演内容を受けて、SGRA会員で日本社会事業大学社会福祉学研究科博士課程のヴィラーグ ヴィクトルさんと東京大学総合文化研究科博士課程の崔佳英さんが指定討論としてそれぞれ問題提起をしました。   3人の講演を終えた後は、休憩をはさみ、フォーラムの第2部であるパネルディスカッションに移り、第1部での問題提起とフロアからの質問をめぐって熱い議論が展開されました。   会場からは、「教育現場において、インクルーシブ教育を推進していくに当たって、具体的にどのような取り組みが実際に必要か」「インクルーシブ教育の推進には社会の意識改革が大事だが、まず親や地域が多様なニーズを持つ子どもの、教育に対する意識改革をするのにはどうしたら良いか」等、子育てを終えたお母さんとお婆さんからの質問がありました。また、「子どもの多様性に応えるためには、国の教育政策も大事だが、より現場の実用に合わせて現場から提案し、柔軟に対応していくことが大事ではないか」「子どもの多様なニーズを尊重するためには既存の学校教育の枠組みを崩し、子ども一人ひとりのニーズにあった学びをすれば良いのではないか」等の質問をめぐっての議論も絶えませんでした。   会場からのこれらの質問に対し、3名の講師の方からは、「国が多様なニーズを持つ子どもをどのように育てて行きたいのかを考えていく必要がある」、「多様性に応える教育が目指す先にはどのような社会を目指すかの問題があり、子どもの多様なニーズに応えるのには財政的な負担がかかると思われがちだが、合理的な配慮という視点からそのような偏見を見直し、教育財政の正義論の構築も必要である」、「障害児が教育を受ける権利を享受するには長い道のりが必要であった経験から、既存の学校教育の枠組みの中で多様なニーズを持つ子どもへの対応を求めていくことは、子どもの教育を受ける権利の保障に繋がることである」、「学校現場で多様なニーズを持つ子どもを支えていくためには、具体的に教員が子ども同士の関係調整の役割を果たしながら、子ども一人ひとりと丁寧に向き合う眼差しやクラス運営についての工夫が必要である」等の提言がありました。   パネルディスカッションでは、予定の時間を大幅に超えて熱気溢れる議論が行われましたが、その後の夜の懇談会では、さらに3人の講師を囲んで、美味しい中華料理をいただきながら教育の話を続けました。   フォーラムの企画の段階でも予想がついていましたが、会場の60数名の聴講者の半数以上がインクルーシブ教育という言葉を聞いたことがないと答えていました。このように、インクルーシブ教育を実現していく道のりはまだまだ長いですが、今回のような場を設け、議論を重ねていくことが大切なのではないかと思います。ご講演いただいた3名の講師の方と、インクルーシブ教育に興味関心を寄せてご出席された参加者のみなさまと、このような議論の場を設けてくださったSGRAの皆さまにお礼を申し上げます。   (注:「障害」に関する表記には、他に「障碍」「障がい」等があります。本文においては「障害」を使用し、上原さんについての記述箇所はご本人の発表資料の表記に従い「障碍」としました。)   当日の写真   --------------------------- <権 明愛(けん・みんあい)☆ Quan Mingai> 十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科専任講師。中国で大学を卒業して来日し、埼玉大学教育学研究科で教育学修士、日本社会事業大学社会福祉学研究科で福祉学の博士を取得。障害者支援施設での実践アドバイザー及び保育園での発達相談等の活動をしながら障害児者の教育、福祉に関する実践研究を行っている。主著に『自閉症を見つめる-中国本土における家庭調査研究と海外の経験』(中国語、共著)、『成人知的障害者及び家庭の福祉政策』などがある。 ---------------------------     2014年3月5日配信
  • 2013.02.20

    レポート第65号「21世紀型学力を育むフューチャースクールの戦略と課題」

    レポート65号本文 レポート65号表紙   第44回SGRAフォーラムin蓼科 「21世紀型学力を育むフューチャースクールの戦略と課題」講演録 2013年2月1日発行   <もくじ> 【   基調講演1】次世代を担う人づくりとは       赤堀 侃司(白鴎大学教育学部長)   【基調講演2】日本のICT教育の現状と今後       影戸 誠(日本福祉大学教授)   【発表1】韓国のフューチャースクール構想       曺 圭福(韓国教育学術情報院研究員)   【発表2】シンガポールの教育におけるICT活用の動向と課題について       シム チュンキャット(日本大学非常勤講師)   【発表3】日本のフューチャースクールの現場から ICT機器を利活用した学習活動           ~「フューチャースクール推進事業」「学びのイノベーション事業」~       石澤紀雄(山形県寒河江市立高松小学校)   【パネルディスカッション】
  • 2012.07.25

    シム・チュンキャット「第44回SGRAフォーラムin蓼科「21世紀型学力を育むフューチャースクールの戦略と課題」報告」

    SGRA「人材育成」チームのチーフとして、今年企画提案させていただいた2012年蓼科フォーラムのテーマは「21世紀型学力を育むフューチャースクールの戦略と課題」でした。今回の企画のスタートは、実は1年以上も前に僕がシンガポールでの調査を終え、日本に戻ってきて渥美国際交流財団の今西淳子常務理事にお会いした時に「いま学校現場ですごいことが起きていますよ」という話をしたことに遡ります。その結果、「21世紀型学力を育むフューチャースクール」実行委員会主催、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)共催で、鹿島学術振興財団の助成、東京商工会議所の協力をいただき、このフォーラムが実現しました。周知の通り、日進月歩に進化しつづけているインターネットや携帯電話などの情報通信手段がわれわれの世界を席巻しています。この流れの良し悪しや個人の好き嫌いはさておき、たったの10年前と比べても人間社会が大きく変化してきた事実を僕達はまず受け止めなければならないのでしょう。そして社会的に見ても人間発達の観点から考えても、この情報革命による影響を最も強く受けてしまうのが、判断力が十分に育っていないうちからあらゆる情報に晒されている子ども達であろうことは想像に難くありません。だからこそ、その子ども達を教育する学校が、この変化の波を正しく捉え上手に活用することを通して、若い世代をより望ましい方向へと導くことが重要なのではないかと考えられましょう。未来に目を据えた学校づくり、即ち未来型学校フューチャースクールのあり方についての模索が近年各国で活発になっているのもこのような背景を踏まえたものです。   そこで今回のフォーラムでは、より多くの視点からフューチャースクールの現状と今後について議論する場を提供するために、まず白鴎大学の理事・教育部長、日本教育工学振興会会長でもいらっしゃる赤堀侃司教授、および日本福祉大学国際福祉開発学部学部長、日本教育メディア学会理事でもあられる影戸誠教授のお二方に基調講演をしていただき、次に韓国教育学術情報院研究員の曺圭福先生と筆者がそれぞれ韓国とシンガポールにおけるフューチャースクール戦略について話し、最後に学校現場の声を伺うべく日本のフューチャースクール推進事業の実証校に認定されている山形県寒河江市高松小学校の石澤紀雄教諭にも発表していただくというプログラムを組みました。   最初の講演者の赤堀先生からは「次世代を担う人づくりとは」というタイトルで、学校で行われる具体的な事例を交えながら、ICT(Info-Communication Technology、情報通信技術)を活用して教科の学習を促進するとともに、情報を正しく扱う能力と自分で考える力を育てることによって、学力だけでなく人間力をも持った人間の育成の重要性と方向性についての発表をしていただきました。続いて、影戸先生には現在日本で取り組まれている「学びのイノベーション」などのプロジェクト、および海外の事例と世界の動きに関してのお話を伺いました。そして昼食を挟んで午後からは、曺圭福先生と筆者がそれぞれ、国を挙げてフューチャースクール構想を強力に推進している韓国とシンガポールの国家戦略、計画目標および学校での実践例とその課題について報告し、最後に高松小学校の石澤先生が学校での取り組みや教師と生徒達の反応についてさらに詳しく現場の声を届けてくださいました。   5名の講演者による講演が終了し、フォーラムはいよいよクライマックスのパネルディスカッションの時間となりました。慶応義塾大学名誉教授の斎藤信男先生によるコメントをいただいた後は、フロアからの挙手と質問が絶えることがないほど熱い議論が続きました。ICTに頼りすぎて児童生徒の五感を刺激し触発することが損なわれてしまうのではないか、歴史、芸術や文化などICTだけでは決して伝えきれない科目の学習が疎かになりはしないか、さらにICTの多用によって人間同士の生のコミュニケーションが希薄になってしまわないか、といった疑問に多くの関心が寄せられました。それらの質疑に対して、ICTの活用が両刃の剣であることを認識しつつ、革新な技術の導入とそれがもたらす変化を恐れずに、フューチャー学校でも「ネイチャー」と「カルチャー」について教える方法を創造的に模索し、また単方向の教授法を改めて学習権を学習者に渡す勇気を持って未来型学校のあり方を考えることが重要なのではないか、などのレスポンスと意見が講師の先生方からありました。(詳しくは近い未来に発行されるフォーラムの正式レポートをご参照いただければと思います。)   熱気溢れるパネルディスカッションの次はさらなる熱い夜の懇親会がありました。蓼科の豊かなネイチャーに囲まれ、おいしいお酒と美味なお料理を堪能しながら未来型学校について討論、談笑する皆様の楽しいお姿と笑顔は、学校の未来だけでなく渥美国際交流財団とSGRAの明るいフューチャーを想像させていだだけるものでした。   (SGRA「東アジアの人材育成」研究チーム・チーフ)   フォーラムの写真は下記URLをご覧ください。   ホー ヴァン ゴック撮影   尹飛龍撮影     2012年7月25日配信
  • 2010.05.10

    レポート第54号「エリート教育は国に『希望』をもたらすか:東アジアのエリート教育の現状と課題」

    SGRAレポート54号本文 表紙 第37回SGRAフォーラム講演録 「エリート教育は国に『希望』をもたらすか:東アジアのエリート教育の現状と課題」 2010年5月10日発行 <もくじ> 【発表1】日本とシンガポールにおけるエリート教育の現状と課題 シム チュンキャット(東京大学教育学研究科研究員・日本学術振興会外国人特別研究員・SGRA研究員) 【発表2】韓国のエリート高校教育の現場を行く:グローバル時代のエリート教育を考える 金 範洙(東京学芸大学特任教授・韓国国立公州大学校客員教授・SGRA研究員) 【発表3】市場化のなかの中国のエリート教育 張 建(東京大学大学院教育学研究科博士課程・SGRA研究員) 【パネルディスカッション】エリート教育は国に「希望」をもたらすか 進行:羅 仁淑(国士舘大学政経学部非常勤講師、SGRA会員) ゲスト:玄田有史(東京大学社会科学研究所教授) パネリスト:上記講師