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2019.03.14
2019年2月2日、東京・六本木の国際文化会館で、第62回SGRAフォーラム・APYLP+SGRAジョイントセッション「再生可能エネルギーが世界を変える時…?-不都合な真実を超えて」が開催された。このフォーラムは、国際文化会館がアジア太平洋地域の若手リーダー達を繋ぐことを目的として組織し、SGRAも参加する、「アジア太平洋ヤングリーダーズ・プログラム(APYLP)」とのジョイントセッションとして開催された。
今回のフォーラムは、2015年のCOP21・パリ協定以降、急速に発展しつつある「再生可能エネルギー」をテーマとして、その急速な拡大の要因や将来の予測を踏まえて「再生可能エネルギー社会実現の可能性」を国際政治・経済、環境・技術(イノベーション)、エネルギーとコミュニティの視点から、多元的に考察することを目的とした。
フォーラムで行われた、研究発表と基調講演を概観してみよう。
午前中のセッションは、120名の会場が満杯となる盛況の中、デール・ソンヤ氏(一橋大学講師)の司会、今西淳子氏(渥美国際交流財団常務理事・SGRA代表)の挨拶で始まった。
第1セッションでは、3名のラクーン(元渥美奨学生)の研究発表が行われた。トップバッターの韓国の朴准儀さん(ジョージ・メイソン大学兼任教授)は、「再生可能エネルギーの貿易戦争:韓国のエネルギーミックスと保護主義」の発表を行い、専門の国際通商政策の視点から文在寅政権の野心的すぎる環境政策、中国の国策の大量生産による市場独占、アメリカの保護主義政策などを分析しながら、韓国の太陽電池生産の衰退を取り上げ、再生可能エネルギービジネスが大きく歪められている現状に警鐘を鳴らし、政策転換の必要性を力説した。
第2の発表は、高偉俊氏(北九州市立大学教授)による「中国の再生可能エネルギー政策と環境」。中国の環境問題を概観した上で、深刻な環境汚染を克服するために「再生可能エネルギーへの転換が必要だ」と訴え、政府主導で中国国内や外国で展開される中国製大規模プロジェクトを紹介したが、一方で、中国は大規模プロジェクトに傾斜せず、きめ細かな環境政策が必要であると強調した。第3の発表は、葉文昌氏(島根大学准教授)の「太陽電池発電コストはどこまで安くなるか?課題は何か?」で、PVの独自のコスト計算を披露しながら、太陽光発電コストを削減するための様々なイノベーションの可能性を示した。その上で、発電と同時に蓄電のイノベーションの必要性を訴えた。
春を思わせる陽光の下、庭園で行われたコーヒーブレイク後の第2セッションでは、原発被害からの復興と地域の自立のために「再生可能エネルギー発電」を新しい地域産業に育てようと試みる福島県飯舘村の事業が紹介された。まず、飯舘村の村会議員佐藤健太氏が、2011年3月11日の福島第一原発事故による被害と昨年まで7年間の避難生活を振り返りながら、飯舘村の再生、新しい地域づくりの核に「再生可能エネルギー発電」を取り上げる意義と将来のヴィジョンを語った。次に登壇した飯舘電力の近藤恵氏は、既に飯舘村内で実施中のコミュニティレベルの小規模太陽光発電プロジェクトなどの取組を紹介すると共に、現在の日本国内の規制、制度の下での地域レベルの発電システム拡大の難しさを語った。
午後のセッションは、2本の基調講演と分科会でのディスカッションが行われた。
1本目の基調講演はルウェリン・ヒューズ氏 (オーストラリア国立大学准教授)の「低炭素エネルギー世界への転換と日本の立ち位置」。この講演の中でヒューズ氏は、低炭素エネルギーへの転換の世界的な流れを概観し、気候変動対策等を重要な政策とかかげ、低炭素エネルギーの振興を語りながらも、明確な指針が定まらない日本のエネルギー政策を多様なデータを用いながら解説した。
これに対して2本目の基調講演者ハンス=ジョセフ・フェル氏(グローバルウォッチグループ代表、元ドイツ緑の党連邦議員)は「ドイツと世界のエネルギー転換とコミュニティ発電」の中で、1994年に世界初の太陽光発電事業者コミュニティを設立し、ドイツ連邦議会の一員として再生可能エネルギー法(EEG)の法案作成に参画、その後世界の再生可能エネルギーの振興に取り組んできた経験を紹介しながら、「Renewable_Energy_100」のスローガンの下に、再生可能エネルギー社会の実現を訴えた。
午前中の5本の発表、午後の2本の基調講演の後、講演者、参加者が「国際政治経済の視点から」、「環境・イノベーションの視点から」、「コミュニティの視点から」の3分科会に別れて、熱い議論が展開された。
今回のフォーラムは、一日で「再生可能エネルギー社会実現のための課題と可能性」を探ろうという試みであり、さまざまな分野の多くのトピックスが取り上げられ、また様々な疑問、問題点も提起された。これらの議論を消化することは、容易ではないことを改めて感じさせられた。
フォーラム全体を通じて私が感じたのは、まず、「世界の脱炭素化、再生可能エネルギー社会に向かう傾向は後戻りできない現実、あるいは必然であろう」という認識が講演者だけでなく会場全体で共有されていたことである。
しかし、すべてが楽観的に進行して行くとは思えないことも、発表の中で明らかになった。また、分科会でも、各国、各分野がさまざまな課題を抱えていることが指摘されたし、このフォーラムで必ずしも疑問点が解消されたと言うこともできない。
例えば、地球温暖化の影響で顕在化する気候変動、資源の枯渇などを考えれば再生可能エネルギー社会(脱炭素エネルギー社会)への転換は、地球社会が避けて通ることができない喫緊の課題である。しかしながら、グローバルなレベルで大資本が参入し、化石燃料エネルギーから自然エネルギーに転換したとしても、地球環境問題は改善されるであろうが、大量消費文明を支える大規模エネルギーの電源が変わるだけで、大量生産大量消費の文明の本質は変わらないのではなかろうか、という疑問に対しての答えは得られなかった。
また、分科会では、巨大化するメガソーラが景観や環境を破壊するとして、日本でもヨーロッパでも反対運動が生まれていること、太陽光パネルの製造過程で排出される環境汚染物質などの問題も提起された。
FIT((売電の)固定価格買い取り制度)がもたらす、買い取り価格の低下による後発参入が不可能となる問題、財政が圧迫する(ドイツの事例による)などの問題点。蓄電システムなど技術的なイノベーションの必要性なども議論された。
当然のことながら、こうした地球社会の未来にもかかわる大きなテーマに簡単な解や道が容易に導き出されるとは思えないし、安易な解答、急いで解答を求める姿勢こそ「要注意」だと思える。
様々な課題や困難があろうが、再生可能エネルギー社会が世界に普及、拡大して行く傾向は、ますます大きな流れとなることは、間違いのない現実だろう。
ここで思い起こされるのが、このフォーラムのサブタイトルである「『不都合な真実』を超えて」というフレーズである。これは、アメリカ元副大統領アル・ゴアが地球環境問題への警鐘として書いた本のタイトルである。
大きな力強い流れがおこっている中では、流れに逆らう「不都合な真実」はともすれば語られず、秘匿される。
「再生可能エネルギー」の議論の中でも、福島第一原発事故においても、さまざまな「不都合な真実」が語られず、秘匿されてきたことが明らかになっている。
再生可能エネルギーの普及に向けた市民のコンセンサスのために、そして科学技術信仰のあやまちを繰り返さないためにも、さまざまな「不都合な真実」を隠すことなく、軽視することなく、オープンにして市民レベルでの議論を繰り返して行くことが求められる。
フォーラムの写真
《角田英一(つのだ・えいいち)TSUNODA Eiichi》
公益財団法人渥美国際交流財団理事・事務局長。INODEP-パリ研修員、国連食料農業機関(バンコク)アクション・フォー・デヴェロプメント、アジア21世紀奨学財団を経て現職
2019年3月14日配信
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2019.02.02
SGRAレポート第89号
第62回SGRAフォーラム
「再生可能エネルギーが 世界を変える時…?
―“An Inconvenient Truth” 不都合な真実を超えて」
2019年11月11日発行
<フォーラムの趣旨>
流れは変わった⁈
19世紀以降の化石燃料によるエネルギー市場が大きく変わろ うとしている。
UAEでは砂漠に300万枚の世界最大の太陽光発電基地を設 置し、原発1基分の発電を行う計画が進行している。その発電 コストは日本の火力発電コストの1/5と言われる。
中国は2017年共産党大会で「エコ文明」のリーダー(環境大国) 宣言し、CO2 社会からの脱却を表明し、巨大な太陽光発電施設 を各地に建設している。
また、トランプ政権はパリ協定を批判し脱退したにもかかわ らず、アメリカではカリフォルニアを始めとする各州・都市、 大企業等2500がパリ協定支持を表明し、国際金融市場でも環 境ビジネスへの投資が急増している。
COP21/パリ協定締結以降、再生可能エネルギー社会への牽引 役として「ビジネス」が躍り出た
こうした国際的な経済、社会のエネルギーをとりまく潮流の 変化は「パリ協定以降、脱炭素社会(再生可能エネルギー社 会)に向ける流れの牽引役が、気候変動に影響される国、環境 NGOから国際ビジネスセクターに移行した」と言われるよう になった。その背景には、気候変動による地球規模の災害への 危機感だけでなく技術革新とコストダウンにより再生可能エネ ルギーへの投資が“Payする”ことが実証されつつある、とい う現実がある。
再生可能エネルギー社会実現に向けた模索、可能性そして課題
一方で「ほんとなのか?」という疑問も拭うことはできない。
地球温暖化の影響で顕在化する気候変動、資源の枯渇などを 考えれば再生可能エネルギー社会(脱炭素社会)への転換は、 地球社会が避けて通ることができない喫緊の課題である。しか しながら、グローバルな大資本が参入し、化石燃料エネルギー から自然エネルギーに転換したとしても、地球環境問題は改善 されるであろうが、大量消費文明を支える大規模エネルギーの 電源が変わるだけで、大量生産大量消費の文明の本質は変わら ないのではないだろうか。
福島県飯舘村の「再生と自立」に向けた試み
こうした中で、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の 教訓から、コミュニティー発電(Community Power)による、 エネルギーの地産地消の試みを、地域の自立と新しいコミュニ ティーの創造に繋げようとする流れも生まれている。日本のコ ミュニティー発電は、ヨーロッパ各国に較べて大きく立ち遅れ、 さまざまな規制や障害が多いが、それを乗り越えてコミュニ ティー発電をコミュニティーの自立と尊厳の回復のシンボルに したいという福島県飯舘村の活動にも注目したい。
<もくじ>
【基調講演1】 《Renewable Energyに関する世界の動向》
「低炭素エネルギーのグローバルな展開と日本の立ち位置」
ルウェリン・ヒューズ(オーストラリア国立大学准教授)
【基調講演2】 《Global experience of Energiewende》
「ドイツと世界のエネルギー転換政策とコミュニティー発電」
ハンス=ヨゼフ・フェル(エネルギー・ウォッチ・グループ代表。元ドイツ緑の党連邦議員)
【プレゼンテーション1】 《国際政治経済からの視点》
「通商紛争の中の再生可能エネルギー ――韓国のエネルギーミックスと保護主義のインパクト」
朴 准儀(ジョージ・メイソン大学(韓国)兼任教授)
【プレゼンテーション2】 《環境技術/中国からの視点》
「中国の再生エネルギー政策と環境改善の行方」
高 偉俊(北九州市立大学教授)
【プレゼンテーション3】 《科学技術/イノベーションからの視点》
「太陽電池発電コストはどこまで安くなるか?課題は何か?」
葉 文昌(島根大学准教授)
【プレゼンテーション4】 《コミュニティーの視点から》
「コミュニティーパワーと飯舘村再生のヴィジョン」
佐藤健太(飯舘村村会議員)
【プレゼンテーション5】 《コミュニティーの視点から》
「飯舘電力の挑戦」
近藤 恵(飯舘電力専務取締役)
- ふりかえり対談 -
飯舘村から考える「再生可能エネルギー ―― 不都合な真実を超えて」
ロヴェ・シンドストラン、角田英一、ソンヤ・デール
〔総合司会 ソンヤ・デール(一橋大学専任講師)〕
あとがき
講師略歴
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2018.12.13
SGRAは本年から国際文化会館の主宰するアジア・パシフィック・ヤング・リーダーズ・プログラム(APYLP)に参画していますが、下記の通り、第62回SGRAフォーラム/ APYLP x SGRAジョイント・セッションを国際文化会館と共催いたしますので、奮ってご参加ください。
今回のフォーラムでは「再生可能エネルギー社会実現の可能性」を、国際政治・経済、環境・科学技術(イノベーション)、そして「エネルギーとコミュニティー」の視点から総合的に考察します。元渥美奨学生に加え、ドイツやオーストラリア、福島県飯舘村からスピーカーが集まり、脱炭素化社会のこれからについて考察します。ドイツの脱原発政策を牽引してきた緑の党の連邦議員を務め、現在エナジー・ウォッチ・グループ代表のハンス=ヨゼフ・フェル氏や、震災で多大な原発被害を受けた飯舘村でエネルギー問題に取り組む若手リーダーの声を直接聞くまたとない機会です。講演の後には、気軽に意見・情報交換ができるワークショップ(各先着20名)も予定しております。締め切りは1月25日(金)ですが満席になり次第締め切ります(先着順)ので、お早目にお申込みください。
【第62回SGRAフォーラム/APYLPxSGRAジョイント・セッション】
◆「再生可能エネルギーが世界を変えるとき・・・?―不都合な真実を越えて」
日時:2019年2月2日(土)10:30 am ~5:30 pm(開場:10:00 am)
会場:国際文化会館 岩崎小彌太記念ホール
言語:日本語/英語(講演は同時通訳つき)
参加費:無料(要予約:定員120名、各ワークショップは先着20名)
※ご希望の方は昼食(500円)を申込時に予約していただけます。
※国際文化会館案内ページ
一般申し込み
ラクーン会員(渥美奨学生)申し込み
◇プログラム(日本語)、プログラム(英語)
◇チラシ
基調講演:
ルウェリン・ヒューズ(オーストラリア国立大学 准教授)
ハンス=ヨゼフ・フェル (エナジー・ウォッチ・グループ 代表)
登壇者:
朴 准儀(ジョージ・メイソン大学(韓国) 兼任教授)
高 偉俊(北九州市立大学 教授)
葉 文昌(島根大学 准教授)
佐藤 健太 (飯舘村議会議員)
近藤 恵 (飯舘電力株式会社 専務取締役)
司会:ソンヤ・デール(一橋大学 専任講師)
ワークショップ・ファシリテーター:
ロヴェ・シンドストラン(シカゴ大学博士課程、上智大学客員研究員)
◇フォーラムの趣旨
今回のフォーラムでは「再生可能エネルギー社会実現の可能性」を、国際政治・経済、環境・科学技術(イノベーション)、そして「エネルギーとコミュニティー」の視点から総合的に考察する。
〇流れは変わった?!
19世紀以降の化石燃料によるエネルギー市場が大きく変わろうとしている。
UAEでは砂漠に300万枚の世界最大の太陽光発電基地を計画を設置し、原発1基分の発電を行う計画が進行している。その発電コストは日本の火力発電コストの1/5と言われる。
中国は2017年共産党大会で「エコ文明」のリーダー(環境大国)宣言し、CO2社会からの脱却を表明し、巨大な太陽光発電施設を各地に建設している。
また、トランプ政権はパリ協定を批判し脱退したにもかかわらず、アメリカではカリフォルニアを始めとする各州・都市、大企業等2500がパリ協定支持を表明し、国際金融市場でも環境ビジネスへの投資が急増している。
〇パリ協定締結以降、再生可能エネルギー社会への牽引役として「ビジネス」が躍り出た
こうした国際的な経済、社会のエネルギーをとりまく潮流の変化は「パリ協定以降、脱炭素社会(再生可能エネルギー社会)に向ける流れの牽引役が、気候変動に影響される国、環境NGOから国際ビジネスセクターに移行した」と言われるようになった。その背景には、気候変動による地球規模の災害への危機感だけでなく技術革新とコストダウンにより再生可能エネルギーへの投資が“Payする”ことが実証されつつある、という現実がある。
〇再生可能エネルギー社会実現に向けた模索、可能性そして課題
一方で「ほんとなのか?」という疑問も拭うことはできない。
地球温暖化の影響で顕在化する気候変動、資源の枯渇などを考えれば再生可能エネルギー社会(脱炭素エネルギー社会)への転換は、地球社会が避けて通ることができない喫緊の課題である。しかしながら、グローバルな大資本が参入し、化石燃料エネルギーから自然エネルギーに転換したとしても、地球環境問題は改善されるであろうが、大量消費文明を支える大規模エネルギーの電源が変るだけで、大量生産大量消費の文明の本質は変わらないのではないだろうか。
〇福島県飯舘村の「再生と自立」に向けた試み
こうした中で、2011年の東日本大震災と福島第一原発事故の教訓から、コミュニティー発電(Community Power)による、エネルギーの地産地消の試みを、地域の自立と新しいコミュニティーの創造に繋げようとする流れも生まれている。日本のコミュニティー発電は、ヨーロッパ各国に較べて大きく立ち遅れ、さまざまな規制や障害が多いが、それを乗り越えてコミュニティー発電をコミュニティーの自立と尊厳の回復のシンボルにしたいという福島県飯舘村の活動にも注目したい。
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2016.11.09
SGRAレポート75号(本文1)
SGRAレポート75号(本文2)
SGRAレポート75号(表紙)
第50回SGRAフォーラムin北九州「青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて-」
2016年6月27日発行
<もくじ>
事例発表1.(日本) 「青空がほしい」運動に学ぶ-現在に問いかけるもの-
神﨑智子(アジア女性交流・研究フォーラム主席研究員)
事例発表2.(中国) 「変わるのか、人々の意識-中国の母親の環境意識の変化と活動-」
斎藤淳子(フリージャーナリスト/北京在住)
事例発表3.(韓国) 「絶え間ない歩み-韓国YWCAの環境活動と女性の社会参加:環境活動家から脱核運動へ-」
李 允淑(イ・ユンスク)(韓国YWCA運動局部長)
オープンフォーラム
モデレーター:田村慶子(北九州市立大学法学部教授・大学院社会システム研究科長)
ミニ報告:「里山を考える会の活動について」
小林直子(NPO法人里山を考える会)
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2015.11.25
第50回SGRAフォーラムin北九州が、第3回アジア未来会議(「環境と共生」をテーマに2016年9月29日~10月3日に開催)のキックオフとして、北九州市立大学で開催された。今回は「青空、水、くらしー環境と女性と未来に向けて」というテーマで、大気汚染や水質汚染など、1950年代に日本の四大工業地帯の一つであった北九州市が直面した環境問題と、その解決に立ちあがった婦人会の活動経験を踏まえて、北九州、中国、韓国などで展開する女性の活動について議論が繰り広げられた。
まず、今西淳子氏(SGRA代表)と近藤倫明氏(北九州市立大学学長)の開会挨拶があり、続いて日本、中国、韓国の事例が発表された。
最初は北九州市の事例で、神﨑智子氏(アジア女性交流・研究フォーラム主席研究員)より「『青空がほしい』運動に学ぶー現在に問いかけるものー」と題して、旧戸畑市の三六地区の煤煙による公害問題に対峙した婦人会の地道で活発な活動が紹介された。特筆すべきは、単なる金銭的な形での解決ではなく、1960年代に当時としては画期的であった工場の除塵装置やガス集合管の設置などの具体的な環境改善にまで至ったことで、それが今日の綺麗な空気や環境につながったとの報告であった。
次に北京在住ライターの斉藤淳子氏より「変わるのか、人々の意識」と題して発表があった。斉藤氏は、中国の大気汚染問題を訴えるために中央テレビ局キャスターの柴静さんが自費制作した番組の内容について紹介し、同国が直面する環境問題の深刻化と政治的・経済的実情とのジレンマを浮き彫りにした。またその反響の大きさから、現在の中国の若い世代の意識変化は外国メディア等の影響を大いに受けて変化していること等について報告した。
最後に李ユンスク氏(韓国YWCA運動局部長)が「絶え間ない歩みー韓国YWCAの環境活動と女性の社会参加―」を発表した。その中で、1922年に創立された韓国YWCAのこれまでの活動について、特に、女性の地位向上に関する活動や、最近活発な環境保護活動と反原発運動についての紹介があった。セッションの終わりに会場との質疑応答があり、「女性の環境活動に対して、夫は何をしていたのか?」という質問も飛び出した。
15分間の休憩をはさんで第2部のオープンフォーラムが始まった。冒頭にゲストの小林直子氏(NPO法人里山を考える会)から活動内容の紹介があった。里山の会では八幡東区東田地区の地産地消の理想のもと、エネルギーの自給自足を実現するために、夏季ダイナミック・プライシング料金を取り入れることでエネルギーのピークシフトを実現したこと、水素化社会を構築していること、まちづくりのために東田まつり、シェアポイントなどを取入れたことなどの紹介があった。
続いて田村慶子氏(北九州市立大学法学部・大学院社会システム研究科長)をモデレーターに、発表者を交えたフリーディスカッションが行われた。太陽電池電源が不安定であること、発展途上国のこれから増えるであろうエネルギー消費など、多くの質問があり、聴講者とパネリストとのディスカッションが行われた。
最後にSGRAメンバーの高偉俊氏(北九州市立大学教授)から閉会挨拶と第3回アジア未来会議について説明があった。17時から交流会が始まり、参加者は講師たちと歓談を楽しんだ。
(文責:葉文昌)
当日の写真
アンケート集計結果
2015年11月26日配信
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2015.09.14
下記のとおり、第50回SGRAフォーラムを開催いたします。
参加ご希望の方は、SGRA事務局(
[email protected] )にご連絡ください。
日時 :2015年11月14日(土)午後1時~5時
会場 :北九州市立大学 北方キャンパス 本館2階 C-202教室
参加費:フォーラム/無料、 フォーラム終了後の交流会/一般1000円、学生500円を予定
お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局宛に事前にお名前、ご所属、連絡先をご連絡の上、参加申込みをしてください。
SGRA事務局(
[email protected] Tel: 03-3943-7612 )
フォーラムの概要:
北九州市は大気汚染や水質汚濁など1950年代、60年代の経済成長に伴ってもたらされた深刻な公害を克服し、今日では国から「環境未来都市」に選定されるなど「世界の環境首都」を目指したまちづくりを行っています。
その礎を築いたのは、当時、子どもの健康を心配した母親たちでした。母親たちは「青空が欲しい」というスローガンを掲げ、「反対運動」や「告発」ではなく、母親たち自らの活動により、企業や行政に改善を求める運動を起こし、それが公害克服と環境再生の原点となったと同時に女性(母親)の社会参加の象徴ともなったのです。
今回のフォーラムは《青空、水、くらし-環境と女性と未来に向けて-》と題して、北九州市のみならず、中国、韓国などの事例をもとに、深刻化する環境問題に直面する女性や母親の意識の変化や社会参加の試みについて議論します。
プログラム:
総合司会:高 偉俊(北九州市立大学国際環境工学部教授/SGRAメンバー)
13:00~14:30【事例発表】
開会の挨拶
今西淳子(渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA代表))
近藤倫明(北九州市立大学学長)
事例発表1.(日本)
「『青空がほしい』運動に学ぶ-現在に問いかけるもの-」
神﨑 智子(アジア女性交流・研究フォーラム主席研究員)
事例発表2.(中国)
「変わるのか、母親の意識-中国の母親の環境意識の変化と活動-」
斉藤 淳子 (北京在住ライター)
事例発表3.(韓国)
「絶え間ない歩み-韓国YWCAの環境活動と女性の社会参加-」
李 ユンスク(韓国YWCA運動局部長)
14:45~17:00 【オープンフォーラム】
モデレーター 田村 慶子 (北九州市立大学法学部・大学院社会システム研究科長)
神﨑 智子 (アジア女性交流・研究フォーラム主席研究員)
斉藤 淳子 (北京在住ライター)
李 ユンスク (韓国YWCA運動局部長)
小林 直子(特定非営利活動法人 里山を考える会)
閉会の挨拶と第3回アジア未来会議に向けた展開
高 偉俊
17:00~18:30 【交流会】
希望者のみ(会費:一般1,000円、学生500円を予定)
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2011.10.05
下記の通り第42 回SGRAフォーラムを開催します。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。SGRAフォーラムはどなたにも参加いただけますので、ご関心をお持ちの皆様にご宣伝いただきますようお願い申し上げます。
◆日時:2011年10月29日(土)9:30~17:30 その後懇親会
◆会場:早稲田大学理工学部55N号館 1階 第二会議室
http://www.waseda.jp/jp/campus/nishiwaseda.html
◆申込み・問合せ:SGRA事務局
電話:03-3943-7612
ファックス:03-3943-1512
Email:
[email protected]
◆参加費:無料
◆言語:基調講演は日本語(英語への通訳付き)。午後は英語のみ。
主催: 北九州市立大学、早稲田大学
共催: 公益法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会
日本建築学会地球環境委員会アジア地域における建築環境とエネルギー消費検討小委員会
助成:日本学術振興会若手研究者交流支援事業
◆趣旨:
地球規模での3E問題である,環境保全(Environmental preservation),経済成長(Economic growth),及びエネルギーセキュリティ(Energy security)を克服して世界の持続可能な発展(Sustainable Development)を達成することは,21世紀最大の課題であろう。国際的な環境の悪化から地球を守ろうということで、環境悪化の元凶といわれるCO² 排除を目指す低炭素化社会の創出が求められてきた。低炭素化社会の建設にとって、環境に多量の負荷を与えるエネルギー政策をどのように選択するかは重要な課題であった。国家エネルギー政策に関わる様々な提言が行われている。本フォーラムは日本学術振興会若手研究者交流支援事業によりアジアの若手研究者を招へいし、各国の都市・建築の省エネルギー現状及び政策について一般市民を対象に講演を行い、本事業の取組みを広く一般に周知させるばかりでなく、中立的立場で開催することにより、省エネルギー事業とアジア地域の習慣・文化を配慮した公平かつ正確な情報を提供する。また、日本の有識者による基調講演を行い、アジアの省エネルギーのあり方について検討する。
◆プログラム
詳細はここをご覧ください
(9:30-9:45)
総合司会:シム・チュンキヤット(SGRA)
開会挨拶: 今西淳子(渥美国際交流財団常務理事)
挨拶: 黒木荘一郎(北九州市立大学建築都市低炭素化技術開発センター長)
挨拶: 張 晴原(建築学会アジア地域における建築環境とエネルギー消費検討小委員会主査)
【基調講演1】(9:45-10:45)
中上英俊((株)住環境計画研究所・代表取締役所長)
「アジアにおける省エネルギー政策の重要性」
【基調講演2】(10:45-11:45)
高口洋人(早稲田大学教授)
カンボジアの建築における成長とエネルギー消費に関する一考察
【発表1】 (13:30-14:00)
Beta Paramita(Universitas Pendidikan Indonesia, Lecturer)
【発表2】 (14:00-14:30)
Stephanie N. Gilles, Josefina S. De Asis, and Juvy A. Balbarona (フィリピン大学)
【発表3】 (14:30-15:00)
Immanuel John Nicholas Iyadurai (Rashtriya Vidyala建築学院)
【発表4】 (15:30-16:00)
Suapphong Kritsanawonghong (タマサート大学)
【発表5】 (16:00-16:30)
Andrew Ireland (The University of New South Wales)
【パネルディスカッション】(16:30-17:20)
進行: フェルディナンド・マキト(SGRA)
パネリスト:上記発表者
閉会挨拶:嶋津忠廣(SGRA)
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2011.01.14
SGRAレポート第55号本文
SGRAレポート第55号表紙
第38回SGRAフォーラムin 蓼科講演録
「Better City, Better Life: 東アジアにおける都市・建築のエネルギー事情とライフスタイル」
2010年12月15日発行
SGRA_Report_55(English)TEXT
SGRA_Report_55(English)COVER
The 38th SGRA Forum
Better City, Better Life: Energy Situation of Cities/Buildings and Lifestyle in East Asia
<もくじ>
【問題提起】 「東アジアにおける都市・建築のエネルギー事情とライフスタイル」
高 偉俊(北九州市立大学)
【基調講演】 「東アジアの都市・建築・住宅におけるエネルギー使用と生活の質」
木村建一(国際人間環境研究所)
【発表1】(インドネシア) 「熱帯地域における都市の持続性とエネルギー研究:持続性と省エネにおける低所得層の為の高層ビル開発の影響」
Mochamad Donny Koerniawan(バンドン大学)
【発表2】(フィリピン) 「メガ都市マニラにおける環境的に持続可能な交通への挑戦」
Max Maquito(フィリピン・アジア太平洋大学)
【発表3】(ベトナム) 「ベトナムの都市における省エネ対策」
Pham Van Quan(ハノイ建築大学)
【発表4】(台湾) 「台湾のエネルギー消費、CO2排出、及び交通事情」
葉 文昌(島根大学)
【発表5】(タイ) 「タイにおけるエネルギーを選択から義務へ」
Supreedee Rittironk(タマサート大学)
【発表6】(韓国) 「エネルギー・環境の視点からみた韓国の都市におけるある1日の日常生活及びその変化」
郭 栄珠(土木研究所)
【発表7】(中国) 「エンジンニアの視点から見る地球温暖化及び都市インフラ建設について」
王 剣宏(日本工営中央研究所)
【パネルディスカッション】
進行は福田展淳(北九州市立大学)、パネリストは上記講演者
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2009.01.23
SGRAレポート第46号
第31回フォーラム講演録
「水田から油田へ:日本のエネルギー供給、食糧安全と地域の活性化」
2009年1月10日発行
<もくじ>
【基調講演】東城 清秀(東京農工大農学部准教授)
「エネルギー、環境、農業の融合を考える:バイオマス利用とエネルギー自給・地域活性化」
【報告】田村 啓二(福岡県築上町産業課資源循環係)
「福岡県築上町の米エタノール化地域モデル:水田を油田にするための事業構想」
【パネルディスカッション】
進行:李 海峰(北九州市立大学国際環境工学部特任准教授、SGRA研究員)
コメンテーター:外岡 豊(埼玉大学経済学部教授、SGRA顧問)
パネリスト:発表者
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2008.02.20
SGRAレポート第40号
第27回SGRAフォーラムin 秋葉原 講演録
「アジアの外来種問題:ひとの生活との関わりを考える」
(2008年5月30日発行)
もくじ
【基調講演】「外来生物とどう付き合うか:アジアの淡水魚を中心に」
多紀 保彦(自然環境研究センター理事長、長尾自然環境財団理事長、東京水産大学名誉教授)
【発表1】「外来生物問題への取り組み:いま日本の水辺で起きていること」
加納 光樹(自然環境研究センター研究員)
【発表2】「インドシナの外来種問題:魚類を中心として、フィールドからの報告」
プラチヤー・ムシカシントーン(カセサート大学水産学部講師、SGRA研究員)
【パネルディスカッション】
「アジアの外来種問題:ひとの生活との関わりを考える」
進行:今西淳子(SGRA代表)