SGRAイベントの報告
角田英一「第62回SGRAフォーラム・APYLP+SGRAジョイントセッション「再生可能エネルギーが世界を変える時…?-不都合な真実を超えて」報告」
2019年2月2日、東京・六本木の国際文化会館で、第62回SGRAフォーラム・APYLP+SGRAジョイントセッション「再生可能エネルギーが世界を変える時…?-不都合な真実を超えて」が開催された。このフォーラムは、国際文化会館がアジア太平洋地域の若手リーダー達を繋ぐことを目的として組織し、SGRAも参加する、「アジア太平洋ヤングリーダーズ・プログラム(APYLP)」とのジョイントセッションとして開催された。
今回のフォーラムは、2015年のCOP21・パリ協定以降、急速に発展しつつある「再生可能エネルギー」をテーマとして、その急速な拡大の要因や将来の予測を踏まえて「再生可能エネルギー社会実現の可能性」を国際政治・経済、環境・技術(イノベーション)、エネルギーとコミュニティの視点から、多元的に考察することを目的とした。
フォーラムで行われた、研究発表と基調講演を概観してみよう。
午前中のセッションは、120名の会場が満杯となる盛況の中、デール・ソンヤ氏(一橋大学講師)の司会、今西淳子氏(渥美国際交流財団常務理事・SGRA代表)の挨拶で始まった。
第1セッションでは、3名のラクーン(元渥美奨学生)の研究発表が行われた。トップバッターの韓国の朴准儀さん(ジョージ・メイソン大学兼任教授)は、「再生可能エネルギーの貿易戦争:韓国のエネルギーミックスと保護主義」の発表を行い、専門の国際通商政策の視点から文在寅政権の野心的すぎる環境政策、中国の国策の大量生産による市場独占、アメリカの保護主義政策などを分析しながら、韓国の太陽電池生産の衰退を取り上げ、再生可能エネルギービジネスが大きく歪められている現状に警鐘を鳴らし、政策転換の必要性を力説した。
第2の発表は、高偉俊氏(北九州市立大学教授)による「中国の再生可能エネルギー政策と環境」。中国の環境問題を概観した上で、深刻な環境汚染を克服するために「再生可能エネルギーへの転換が必要だ」と訴え、政府主導で中国国内や外国で展開される中国製大規模プロジェクトを紹介したが、一方で、中国は大規模プロジェクトに傾斜せず、きめ細かな環境政策が必要であると強調した。第3の発表は、葉文昌氏(島根大学准教授)の「太陽電池発電コストはどこまで安くなるか?課題は何か?」で、PVの独自のコスト計算を披露しながら、太陽光発電コストを削減するための様々なイノベーションの可能性を示した。その上で、発電と同時に蓄電のイノベーションの必要性を訴えた。
春を思わせる陽光の下、庭園で行われたコーヒーブレイク後の第2セッションでは、原発被害からの復興と地域の自立のために「再生可能エネルギー発電」を新しい地域産業に育てようと試みる福島県飯舘村の事業が紹介された。まず、飯舘村の村会議員佐藤健太氏が、2011年3月11日の福島第一原発事故による被害と昨年まで7年間の避難生活を振り返りながら、飯舘村の再生、新しい地域づくりの核に「再生可能エネルギー発電」を取り上げる意義と将来のヴィジョンを語った。次に登壇した飯舘電力の近藤恵氏は、既に飯舘村内で実施中のコミュニティレベルの小規模太陽光発電プロジェクトなどの取組を紹介すると共に、現在の日本国内の規制、制度の下での地域レベルの発電システム拡大の難しさを語った。
午後のセッションは、2本の基調講演と分科会でのディスカッションが行われた。
1本目の基調講演はルウェリン・ヒューズ氏 (オーストラリア国立大学准教授)の「低炭素エネルギー世界への転換と日本の立ち位置」。この講演の中でヒューズ氏は、低炭素エネルギーへの転換の世界的な流れを概観し、気候変動対策等を重要な政策とかかげ、低炭素エネルギーの振興を語りながらも、明確な指針が定まらない日本のエネルギー政策を多様なデータを用いながら解説した。
これに対して2本目の基調講演者ハンス=ジョセフ・フェル氏(グローバルウォッチグループ代表、元ドイツ緑の党連邦議員)は「ドイツと世界のエネルギー転換とコミュニティ発電」の中で、1994年に世界初の太陽光発電事業者コミュニティを設立し、ドイツ連邦議会の一員として再生可能エネルギー法(EEG)の法案作成に参画、その後世界の再生可能エネルギーの振興に取り組んできた経験を紹介しながら、「Renewable_Energy_100」のスローガンの下に、再生可能エネルギー社会の実現を訴えた。
午前中の5本の発表、午後の2本の基調講演の後、講演者、参加者が「国際政治経済の視点から」、「環境・イノベーションの視点から」、「コミュニティの視点から」の3分科会に別れて、熱い議論が展開された。
今回のフォーラムは、一日で「再生可能エネルギー社会実現のための課題と可能性」を探ろうという試みであり、さまざまな分野の多くのトピックスが取り上げられ、また様々な疑問、問題点も提起された。これらの議論を消化することは、容易ではないことを改めて感じさせられた。
フォーラム全体を通じて私が感じたのは、まず、「世界の脱炭素化、再生可能エネルギー社会に向かう傾向は後戻りできない現実、あるいは必然であろう」という認識が講演者だけでなく会場全体で共有されていたことである。
しかし、すべてが楽観的に進行して行くとは思えないことも、発表の中で明らかになった。また、分科会でも、各国、各分野がさまざまな課題を抱えていることが指摘されたし、このフォーラムで必ずしも疑問点が解消されたと言うこともできない。
例えば、地球温暖化の影響で顕在化する気候変動、資源の枯渇などを考えれば再生可能エネルギー社会(脱炭素エネルギー社会)への転換は、地球社会が避けて通ることができない喫緊の課題である。しかしながら、グローバルなレベルで大資本が参入し、化石燃料エネルギーから自然エネルギーに転換したとしても、地球環境問題は改善されるであろうが、大量消費文明を支える大規模エネルギーの電源が変わるだけで、大量生産大量消費の文明の本質は変わらないのではなかろうか、という疑問に対しての答えは得られなかった。
また、分科会では、巨大化するメガソーラが景観や環境を破壊するとして、日本でもヨーロッパでも反対運動が生まれていること、太陽光パネルの製造過程で排出される環境汚染物質などの問題も提起された。
FIT((売電の)固定価格買い取り制度)がもたらす、買い取り価格の低下による後発参入が不可能となる問題、財政が圧迫する(ドイツの事例による)などの問題点。蓄電システムなど技術的なイノベーションの必要性なども議論された。
当然のことながら、こうした地球社会の未来にもかかわる大きなテーマに簡単な解や道が容易に導き出されるとは思えないし、安易な解答、急いで解答を求める姿勢こそ「要注意」だと思える。
様々な課題や困難があろうが、再生可能エネルギー社会が世界に普及、拡大して行く傾向は、ますます大きな流れとなることは、間違いのない現実だろう。
ここで思い起こされるのが、このフォーラムのサブタイトルである「『不都合な真実』を超えて」というフレーズである。これは、アメリカ元副大統領アル・ゴアが地球環境問題への警鐘として書いた本のタイトルである。
大きな力強い流れがおこっている中では、流れに逆らう「不都合な真実」はともすれば語られず、秘匿される。
「再生可能エネルギー」の議論の中でも、福島第一原発事故においても、さまざまな「不都合な真実」が語られず、秘匿されてきたことが明らかになっている。
再生可能エネルギーの普及に向けた市民のコンセンサスのために、そして科学技術信仰のあやまちを繰り返さないためにも、さまざまな「不都合な真実」を隠すことなく、軽視することなく、オープンにして市民レベルでの議論を繰り返して行くことが求められる。
《角田英一(つのだ・えいいち)TSUNODA Eiichi》
公益財団法人渥美国際交流財団理事・事務局長。INODEP-パリ研修員、国連食料農業機関(バンコク)アクション・フォー・デヴェロプメント、アジア21世紀奨学財団を経て現職
2019年3月14日配信