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2003.08.30
SGRAレポート第18号(PDF)
第11回フォーラム講演録
「地球市民研究:国境を越える取り組み」
高橋 甫、貫戸朋子
日本語版
2003.8.30
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開会挨拶 今西淳子(SGRA代表)
【ゲスト講演1】「市民とEU」
高橋 甫(駐日欧州委員会代表部調査役)
【ゲスト講演2】「国境なき医師団的発想とは」
貫戸朋子(国境なき医師団日本プログラムマネジメント担当)
【講演者と参加者による自由討論】
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2003.07.19
SGRA環境とエネルギー研究チームチーフ 高 偉俊
2003年7月19日(土)、第12回SGRAフォーラムin軽井沢「環境問題と国際協力:COP3の目標は実現可能か」が開催された。渥美財団の渥美伊都子理事長、韓国高麗大学の李鎮奎教授、留学生ら40名が参加した。開会にあたり、SGRA今西淳子代表から、地球市民を目指す当研究会が地球温暖化問題の理解を深め、地球温暖化防止にどのような役割を果せるか、そのスタートとして本フォーラムへの期待が寄せられた。
フォーラムでは先ず外岡豊埼玉大学経済学部社会環境設計学科教授に「地球温暖化防止のための国際協力」と題した基調講演をしていただいた。外岡教授は地球温暖化問題の本質、温暖化がもたらす気候変動の危機的状況を説明し、参加者の共感を促した。さらに問題を解決するための国際協力について、地球と人類の500万年の歴史を踏まえること(20世紀は異常!)、USA型自由競争社会でなくEU型共存社会をめざすべきこと、そして、南北問題と同様に地球温暖化防止ための国際協力は簡単ではないことを説明した。国際協力を成功させるためには、相互信頼・相互理解の推進ともに、目的意識を共有しなければならない。排出取引、共同実施、CDM(クリーン・デベロップメント・メカニズム)や吸収源評価等には多くの抜け道があるものの、京都会議(COP3)の目標を実現するためには、スタートすることが重要で、共同作業による経験の蓄積から始める以外に道はないと指摘した。そして、このように各国からの留学生が集まって地球環境問題を討議するこのフォーラムの意義を強調した。
SGRA研究報告では、先ずSGRA運営委員で独立行政法人建築研究所の李海峰博士から「ビジュアルに見る東京ヒートアイランド」の報告があり、地球環境温暖化の縮影として、巨大都市温暖化の深刻さをビジュアルに参加者に見せながら、ヒートアイランドが都市の居住性を損なっていることを警告した。
SGRA研究員で鳥取環境大学専任講師の鄭成春博士は「カリフォルニアにおけるRECLAIM制度の最近動向報告」と題し、アメリカ・カリフォルニア州の事例を通して大気汚染物の排出権取引制度の事例を紹介し、その成果及び問題点を報告した。鄭氏はその制度をある程度は評価したものの、制度自体が様々な抜け道をたくさん用意したことを批判し、企業が排出量の削減への努力よりも安い排出権を買い自助努力を怠った事実を指摘した。そして、排出取引権が長期的な見通しのないまま、市場万能主義にはしる発想は非常に危険であると結論づけた。
SGRA環境とエネルギー研究チームのチーフで、北九州市立大学の高偉俊助教授は「(中国だけではなく)途上国からみたCOP3目標の実施」と題し、途上国の視点から京都メカニズム(排出権取引、共同実施、クリーン開発メカニズム)を検証した。排出権取引等は先進国が自助努力を放棄し、安易に途上国等から排出権を買う危険性があることを指摘し、温暖化という地球環境問題を解決するための京都議定書が、逆に環境を破壊し南北問題を拡大するかもしれないと警告した。また、植林によるCO2削減効果の計測方法は科学的にまだ立証されていないので、吸収源として認めるのは合理的でない。排出権取引の利益を排出削減に寄与する財源として用いる場合のみ、排出権を認める国際的な監視体制が必要であると主張した。
引き続き、アジア各国の地球温暖化防止への取り組み状況の調査報告があった。ベトナム人間科学研究所のブ・ティ・ミン・チィ博士は、現在ベトナムではまだ地球温暖化への関心が薄く、今後貧困問題の解決を含めて、環境教育の重視が必要だと指摘した。一橋大学のマンダフ・アリウンサイハン氏は、モンゴルが地球温暖化など気候変動により大きな影響を受けている実態を報告し、地球温暖化を阻止することはモンゴルの国益にとって重要な課題の一つであると主張した。韓国の取り組みに関しては、鄭成春博士(前出)が報告を行った。未だ先進国グループから免れている韓国は、地球温暖化防止に関する認識はあるものの、実施に関しては、産業に対する影響を考え、できれば次の次のCOPまで削減義務を課せられない立場でいたいと思っていること、それまでは、拘束力のない枠組みのもとで自発的な削減に努力するという方針が政府の立場となっていることが報告された。テンプル大学ジャパンのF.マキト博士は、地球温暖化防止に関しては、フィリピン政府は早い段階で調印したものの、いまだに批准していないが、温暖化による水温の上昇によって、世界遺産のTubbatahaサンゴ・パークが危なく、水面上昇による影響も大きいことから、早い時期に批准されるだろうと予測した。
最後のパネルディスカッションでは、地球温暖化防止実現ための排出権取引に焦点を当てさらに議論を交えた。排出権に関しては、色々な抜け道があり、不完全なものではあるが、環境は無料ではないこと、また現時点では国際協力で得られた重要な成果であること、今後の運営方法によっては大きな成果を挙げる可能性があること等が話し合われた。実現のためには、発展途上国の視点からの議論が必要であり、安易に排出取引権を利用するのは危険であり、このための国際的な監視体制が必要であるという共通認識をもたらしたと、司会の李海峰博士が締めくくった。
閉会挨拶として、SGRAの担当研究チームの顧問で、国際人間環境研究所代表・早稲田大学名誉教授の木村建一博士よりフォーラムの総括をいただいた。地球益を重視し、国際交流や相互理解のもとで問題の解決を試みるSGRAの努力を評価し、更なる活動を期待すると励ましの言葉を頂いた。
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2003.07.18
2003年7月18日(金)及び19日(土)、鹿島建設軽井沢研修センター会議室で、第12回SGRAフォーラムが開催された。今回のフォーラムにおいては、18日午後8時から10時までの分科会で、ベトナム・タンロン大学のフィン・ムイ先生からベトナムの廃棄物問題を含めた様々なベトナムの事情についての報告がなされた。また、19日午後2時から6時までの本会議では、「環境問題と国際協力:COP3の目標は実現可能か」というテーマについて、基調講演と研究報告さらにアジア各国の状況調査報告があり、その後有益な議論とディスカッションが行われた。以下は、その概略である。
「ベトナムからの報告」 by フィン・ムイ
ベトナムの環境問題に長年携わってこられたムイ先生から、最近のベトナムの廃棄物問題について、先生の個人的な経験を中心に報告があった。ベトナムはまだ発展途上国であり、日本のような先進国が直面している廃棄物問題とは違う性質の廃棄物問題、一言で言えば、「衛生問題としての廃棄物問題」に直面している。この問題を解決するために、ムイ先生は、適切な廃棄物の処理施設を整備することが重要だと主張し、自ら地方政府を説得して、衛生的な処理施設を建設した経験を紹介してくださった。
一方、途上国の直面するもう一つの重大な問題は「貧困と環境破壊の悪循環」という問題である。ムイ先生は、ベトナムの少数民族の事例を取り上げて、貧困がもたらした環境破壊の実態、すなわち、従来の農法によって進行する砂漠化、砂漠化によって深刻化する生活の厳しさについて、詳しい報告がなされた。と同時に、このような悪循環を断ち切るための住民自らの試み、すなわち、我慢強い植林活動についての紹介もあった。また、このような悪循環を断ち切るためには教育が重要であると強調された。
「環境問題と国際協力:COP3の目標は実現可能か」 by SGRA環境・エネルギー研究チーム
地球温暖化を防止するための国際協力をテーマにした今回のフォーラムにおいては、埼玉大学の外岡豊教授をゲストに迎え、「地球温暖化防止のための国際協力」というタイトルで基調講演をしていただいた。地球温暖化は20世紀後半のビジネス社会が招いた人類最大の問題であることを強調しながら、この問題を解決するためには、それぞれの考え方や慣習を持つ国々が互いに理解を深め、協同作業を積み重ねるしか方法はないと熱く語られた。
ゲスト講演の後、SGRA環境・エネルギー研究チームの3人の研究員からの研究報告がなされた。まず、李海峰研究員は、東京におけるヒートアイランド現象の深刻さについて、具体的なデータや図を見せながら、地球温暖化とヒートアイランドによって大都市の住居性が著しく損なわれる可能性が高いと警告した。鄭成春研究員は、排出権取引制度の事例として「カリフォルニア州のRECLAIMプログラム」を取り上げ、排出権取引制度が成功するためにはきめ細かい制度設計が必要である点を強調した。高偉俊研究員は、中国抜きでは地球温暖化問題の解決はできないと主張しながら、中国における温室効果ガスの排出及び対策についての報告を行った。最後に、ベトナム、韓国、モンゴル、フィリピンにおける各国の地球温暖化対策の現状についての報告があった。
以上の基調講演、研究報告を踏まえながら、約1時間にわたるパネル・ディスカッションが行われた。そこでの結論は、今できることを一つ一つ実践しながら、その実績を積み重ねていくことが最も大事である、という点であった。今回のフォーラムは、この面から見ると、各国の研究者たちが集まり、地球温暖化問題についての議論を重ね、互いに理解を深める貴重な場としての意義を持つと思われる。
(文責:鄭成春)
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2003.05.26
2003年5月26日(月)午後6時半より、東京国際フォーラム・ガラス棟G602会議室にて、第11回SGRAフォーラム「地球市民研究:国境を越える取り組み」が開催されました。今回は、SGRA研究会「地球市民」研究チームが主催する4回目のフォーラムですが、駐日欧州委員会代表部調査役・高橋甫氏と国境な医師団日本でプログラムマネージメントを担当されている貫戸朋子氏をゲスト講師として迎えての開催で、SGRA会員をはじめ、約50名が参加しました。
高橋甫氏からは「市民とEU」のテーマで以下の諸点についてお話し頂きました。
・欧州統合は二度にわたる世界大戦への反省がその原点にある。
・武力衝突のきっかけになった石炭や鉄鋼に対する共同管理ため、まず6カ国でこの石炭や鉄鋼に限られた分野での主権委譲を伴った統合(石炭鉄鋼共同体)に着手。
・統合の深化と拡大の半世紀(欧州経済共同体、欧州共同体)を経て、現在(欧州連合)に至る。
・その特質として、連邦国家でもなく、また伝統的な国際機構でもない。加盟国から主権の委譲を伴う「共同体システム」(経済)と主権委譲が伴わない「政府間協力制度」(外交・安全保障)の二重構造をもつ存在。
・そのプロセスにおける現実的漸進主義や言語・宗教などの文化的多様性を承認しながらの推進。
・欧州における国境を越えた「他者との連帯」、またその統合の主体は、単に政府ではなく、欧州市民であるという理想・信念。
・「市民のための欧州」を目指して、欧州市民のアイデンティティ確立(共通のパスポート、EUの旗・歌)、欧州市民権・欧州基本権憲章、欧州議会・欧州憲法。
・EUの構造的特質、経過、理念などへの分かりやすい説明。とくに「市民のため」「市民による」連帯や協働の重要性を他地域との比較で説明。
貫戸朋子氏は「国境なき医師団的発想とは」という演題で、自分の体験を交えながら、国境なき医師団の結成経緯・性格・活動などを紹介してくれました。写真による現場の生々しい光景は、過度に日常平穏に過ごしている私達にとって良い刺激になりました。氏の講演の要旨は以下の通りです。
・3人のフランス人医師の決意から生まれた。
・既存の国際的医療組織が政治によって強く左右されている現状をふまえたうえで、医療援助がもっとも切実なのに、国際社会において看過・無視されている地域の人々を優先的な対象として医療行為を行なう。
・政治的中立・公平、人道主義的普遍倫理にもとづきながら、自らの奉仕・犠牲によって成り立つ。
・それを支えるものとして、弱者の救済・それへの献身というヨーロッパの一種の精神的貴族主義。
・自らの権力化を防ぐため、組織状態を自発的結社として、運動的存在として定位。
質疑の時間において、質疑者から「EUの統合は一つの巨大国家の出現にすぎないのではないか」や「欧州統合における宗教問題への対処」、「国境なき医師団にはどうして日本の参加者が少ないか」や「現地人とのコミュニケーションの取り方」などの質問がありました。
今回のフォーラムで取り上げられたEU市民社会や「国境なき医師団」のことは、「地球市民」研究チームが取り組んでいる「地球市民とはなにか」の課題に大いに参考になるものでした。欧州統合における強い意志と信念・確固たる実践、多様性への配慮や長期的な枠組みの中での漸進的プロセス、しかも共有部分のシステム化などの経験は、最近活発化した東アジアでの国際協力において大きな参考材料になることでしょう。さらに、国境を越えた連帯と協働、国境を越えた他者への関心・思いやり、自己犠牲による奉仕・献身などは地球市民の形成における徳性の問題とも深くかかわる気がしました。とくに東アジアの将来を考える上で大変大きな示唆になると思われました。
(文責:薬会、高煕卓)
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2003.03.30
SGRAレポート第17号(PDF)
SGRAレポート第17号 英語版(PDF)
第10回フォーラム講演録
「21世紀の世界安全保障と東アジア」
白石隆、南基正、李恩民、村田晃嗣
日本語版2003.3.30発行、英語版2003.6.6発行
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開会挨拶 今西淳子(SGRA代表)
【基調講演】「日本とアジア」
白石 隆(京都大学東南アジア研究センター教授)
【講演1】「朝鮮半島の平和構築と日本の役割」
南 基正(SGRA世界平和研究チーフ、東北大学大学院法学研究科助教授)
【講演2】「中国の東アジア戦略を解く」
李 恩民(SGRA歴史問題研究チーフ、宇都宮大学国際学部外国人教師)
【講演3】「ブッシュ政権の東アジア戦略」
村田晃嗣(同志社大学法学部助教授)
【講演者と参加者による自由討論】
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2003.02.08
2003年2月8日(土曜日)午後2時、第10回SGRAフォーラム「21世紀の世界安全保障と東アジア」が、お台場の東京国際交流館で開かれた。今回のフォーラムは、SGRA研究会「世界平和と安全保障」研究チームが企画及び準備段階から関わったものであった。「世界平和」研究チームは、元渥美国際奨学生を中心とした留学生同士が、世界平和と安全保障のための議論を一緒にしようという目的をもって、昨年作られたばかりの研究チームである。今回のフォーラムはその最初の仕事であり、チームの南基正チーフが発表者の一人として、そして幹事の筆者が司会者として役割を分担した。こうした留学生による試みに対して日本国際教育協会と東京国際交流館、中島記念国際交流財団、朝日新聞アジアネットワーク、渥美国際奨学財団が、協賛・支援して下さった。記して謝意を表したい。
フォーラムが開かれた国際交流館のプラザ平成メディアホールでは、SGRA会員25名を含むと80名の方々が駆け付けた。日本人のみならず、交流館に住んでいる留学生の姿も少なくなかった。国際交流館が開館した2年前に最初に入館した筆者の記憶から、これぐらいの人数が集まったのは、昨年のワールドカップ共同応援以来初めてではなかったろうか。改めて、我々が作った「世界平和」研究チームが立ち上げた目的に、顔の知らなかった世界各国からの留学生が、国籍と専門分野の壁を越えて共感してくれるのだと感じた。
研究チームの設立とフォーラム開催に至るまで、すべての仕事を担ったSGRA研究会の今西代表による開会挨拶の後、四人の発表者による講演が行われた。
京都大学東南アジア研究センターの白石隆教授は、「日本とアジア」というタイトルで基調講演をしていただいた。白石先生は、東アジアという概念を政治経済的システムとして捉え、こうしたシステムがどのような歴史的な過程の中で形成され始めているのかを説明しつつ、1980年代の後半から東アジアの範囲で地域秩序形成の動きが活発になっている背景として、日本と韓国による直接投資の要因が働いていると分析した。しかしこうした東アジアにおける地域秩序形成の過程を、ヨーロッパにおける地域秩序の現実と比較してみると、ナショナリズムの過剰や、共同体に向けた政治意識の欠如、共通規範の不在、政治経済体制の差異などの、地域秩序の形成を妨害する要因が少なくない。従って、東アジアにおける共同体に向けては、諸国家共同の利益と規範の共有、特に強大な力を持つアメリカの関与如何が重要な鍵を握っていると展望した。白石先生の基調講演は、大変幅広い歴史的且つ比較政治的アプローチに基づいて、東アジアにおける地域共同体成立の可能性とその現実的な条件を検討して下さった、興味深いものであった。
最初の講演は、東北大学法学部の助教授であり、「世界平和」研究チームのチーフでもある南基正先生に「朝鮮半島の平和構築と日本の役割」というテーマでお話し頂いた。南先生は、2002年9月17日に行われた日本と北朝鮮の首脳会談とその後の情勢を分析しつつ、日米関係が日朝交渉に臨んでいる日本の外交を拘束しているのか、或は米朝関係が日本の存在なしに機能しているのかに関する仮説を各々検討した。結論として南先生は、日米関係が北朝鮮に対する日本の外交従属性を意味するものではない、そして米朝関係は日朝交渉の制約要因であると同時に促進要因でもあると述べつつ、東アジア地域の安全保障のためにも日本政府が日朝交渉により積極的に取り組むことを提案した。
二番目の講演は、「中国の台湾戦略を解く」というタイトルで、宇都宮大学国際学部の外国人教師であり、SGRA研究会「歴史問題」研究チームのチーフである李恩民さんに発表して頂いた。李先生は台湾に対する中国の基本政策を、江沢民時代の「平和統一」や「一国二制度」政策を中心として説明した後、現在展開されている両岸の動きを軍事・経済・政治などの分野に関する具体的なデータに基づいて紹介した。そして今後の提案として、台湾が中国との平和統一を通して中国の全体的な民主化を促してくれること、中国側からも「一国二制度」に拘らず、平和統一への意思を徹底することを打ち出した。
三番目の講演は、「ブッシュ政権の東アジア戦略」というタイトルで、同志社大学法学部助教授の村田晃嗣先生にお話しして頂いた。村田先生は冷戦後のアメリカが軍事的な側面から断然他国を圧倒しうる超大国になっていることを説明しつつ、現在のブッシュ政権が、イメージとは異なって、レトリックと実際の行動を異にしていると分析した。そうしたアメリカ認識に基づいて同盟国として日本が何をすべきかという問いに対して、村田先生は、只の反米感情は、反中や反ロの感情と同様、日本にとって、望ましい選択肢にはなれないと強調した。先生は、今こそ更なる日米同盟の再定義と国際協調が求められていると結論づけられた。
四人の先生による熱い講演の後、第二部では参加者による質問が続けた。お台場に住んでいる日本人RAの富川英生さん(東京大学経済学研究科)と金子光さん(東京大学経済学研究科博士課程)、留学生の和愛軍さん(中国出身、東京大学農学生命科学研究科博士課程)及び李明賛さん(韓国出身、慶応大学法学研究科博士課程)が各々発表者に対して質問を投げかけた。その他、インドネシア、台湾、中国などから来た留学生や研究者が予定した時間を遥かに過ぎてまで、熱気溢れる質問を問いかけた。長々4時間にわたって行われた第10回SGRAフォーラムは、午後6時半、嶋津忠廣SGRA運営委員長の閉会挨拶を最後に、盛会の幕を閉じた。
日本に来た留学生同士が、SGRAのお陰でこの「世界平和」研究チームを作ったきっかけは、20世紀の東アジアに対する反省からであった。20世紀のアジアは、日ロ戦争、第一次世界大戦、満州事変、日中戦争、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、中国-ベトナム戦争など、戦争の絶えない時代であった。21世紀を迎えた今も、これら戦争の傷は、講演にも触れられたように、朝鮮半島や中国-台湾の間でまだ残っている。そうした戦争の連続で、加害者も被害者も、戦争の犠牲者になった。戦争の責任を問うこと、どちらが悪かったかを問うことは、勿論大事な問いである。しかし21世紀を生きている我々は、20世紀を生きていた先輩の世代が避けられなかった戦争の時代を超えて、何とかして、協力と平和の時代を切り開けなければならないと思う。
武器を溶かして平和の材料を作る作業は、一国の国境を越えて、各国が協力しなければならない。特に各国の若い世代同士が共に力と知恵を合わせなければできない。そうした意味で、SGRA研究会の「世界平和」研究チームが、各国の留学生が一緒に住んでいるお台場の東京国際交流館で試みた本フォーラムは、まさに東アジアの平和と協力に向けた小さな一歩であろう。元々お台場は、150年前の幕府時代に海を渡って来た西欧の黒船を防ぐために作られた砲台であった。世界に「閉じられた鎖国」のシンボルでもあったお台場で、150年の時間が過ぎて各国の研究者と留学生が集まって、「21世紀の世界安全保障と東アジア」というテーマのもとで共に議論する場を設けたことは、その意義が少なくなかったと思われる。
文責:朴栄濬(「世界平和と安全保障」研究チーム幹事)
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2003.02.01
SGRAレポート第15号(PDF)
投稿 呉東鎬「中国における行政訴訟―請求と処理状況に対する考察―」
2003.1.31発行
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中国社会は、今、市場経済の導入によって個人の自立と自由が「単位」社会に取って代わり、社会主義計 画経済の下で維持してきた行政・命令・動員による人治社会秩序が次第に崩れつつある。そのために、今ま での人治社会に代わる法治社会の構築が求められるようになってきた。特に注目される出来事は、89 年に制 定された行政訴訟法である。それまで、「政府は人民の利益の代表者」として位置付けられ、「政府は正しい 存在」と考えられ、国民が政府を訴えることはありえないとされてきた中国社会にとっては大きな衝撃であ った。行政訴訟制度の中国での実施は初めてのことであるだけに、この10 年間の実績は正に模索の過程だっ たといえよう。
本稿では、行政訴訟法の施行から10 年の間に行われた人民法院の行政裁判に関するデータに基づいて、行 政訴訟の「請求と処理」状況を考察し、そこに存在する問題点とその原因の解明を試みる。そして、行政訴訟 事件数の推移、行政訴訟事件の種類、裁判所による行政訴訟事件の処理状況に対する、具体的考察と分析を 通じて、以下の見解を示す。
第1 に、この10 年間の行政訴訟事件数の推移から見た場合、中国では、毎年新規受件数の記録を更新して いる。行政に対する訴訟制度のスタートからわずか10 年経ただけで、一年間の新規受件数は9 万件以上にの ぼっている。この状況は、行政訴訟法の実施に伴い、より多くの国民が行政訴訟を通して自分の権利救済を図 っているという状況を反映しているともいえよう。もっとも、人口の割合から見れば、実際の行政訴訟事件 数は、せいぜい100 万人当たり25 件程度に止まっていること、また、全国の各法院が受理する件数は毎年 平均で7~8 件に過ぎないこと、法院の受理している事件総数の中で行政訴訟事件が占めている比率は極めて 低いこと、などから単に数の増加を根拠に行政訴訟の実効性を評価することはできないと考える。特に、行政 処罰と行政上の強制措置が中国社会に大量に存在し、その濫用が深刻である状況から見た場合、今の行政訴 訟請求数は、必ずしも多いとはいえず、国民の権利救済の主な手段としての機能を発揮しているとは結論し にくい。
第2 に、行政事件の内容から見た場合、行政の相手方の重大な権利利益に関わる、しかも一時的性質を有 する公安、土地、都市建設関係の行政訴訟事件に集中していることが分かる。更に、その訴訟対象となる具 体的行政行為は、行政処罰と行政上の強制措置が多く、民主主義において意義を持つ公害、環境などに関する 訴訟は見られない。これは中国の現代型行政訴訟が未発達であることを表しているといえよう。
第3 に、裁判所の行政訴訟事件に対する処理状況から見れば、取り消しし率(被告行政機関の具体的行政行 為を取り消す判決の占める比率)が低迷に陥っているのに対して、取り下げ率が大きく伸びていること、かつ その比率が高いことが最大の特徴である。そして、その「本来取り消しし判決によって処理されるべき行政 訴訟事件が取り下げによって処理されてしまう」という実態からは、実際の行政救済ができなくなってしまう 裁判所の事件処理状況が窺える。
第4 に、中国の裁判所の事件審理期間の統計によれば、表面上、かなり能率的に処理されているように見え るが、事件の内容、特殊性、取り下げ率の高い状況などから総合的に見た場合、額面どおりに受け取ることは できない。もっとも、この統計からは、裁判期限の法定化、裁判組織と人員の専門化などの裁判の効率を図 る工夫が、裁判コストを下げ、行政救済の実効性を高めるのに一定の効果があったことを反映しているとも 考えられる。
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2003.01.31
SGRAレポート第14号(PDF)
SGRAレポート第14号 英語版(PDF)
第8回フォーラム講演録
「グローバル化の中の新しい東アジア」
~宮澤喜一元総理大臣をお迎えしてフリーディスカッション~
平川均、李鎮奎、ガト・アルヤ・プートゥラ、孟健軍、B.ヴィリエガス
日本語版2003.1.31発行、韓国語版2003.3.31 発行、中国語版2003.5.30発行、英語版2003.3.6発行
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【宮澤喜一元総理大臣をお迎えしてフリーディスカッション】
【講演1】「通貨危機は東アジアに何をもたらしたか」
平川 均(名古屋大学大学院経済学研究科附属国際経済動態研究センター教授)
【講演2】「韓国IMF危機以後の企業と銀行の構造改革」
李 鎮奎 (高麗大学校経営大学経営学科教授・(財)未来人力研究センター理事)
【講演3】「経済危機と銀行部門における市場集中と効率性―インドネシアの経験―」
ガト・アルヤ・プートゥラ (インドネシア銀行構造改革庁主席アナリスト)
【講演4】「アジア経済統合の現状と展望」
孟 健軍(中国清華大学公共管理学院、中国科学院―清華大学国情研究中心教授、日本経済産業省経済産業研究所ファカルティフェロー)
【講演5】「中国との競争と協力」バーナード・ヴィレガス (フィリピンアジア太平洋大学経済学部教授)
【自由討論・フロアーからの質疑応答】
【総括】
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2002.12.12
SGRAレポート第13号(PDF)
投稿
F.マキト「経済特区:フィリピンの視点から」
2002.12.12発行
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小泉政権の骨太方針の第2弾〔正式には「経済財政運営と構造改革の基本方針2002」〕が、6月25日に発表された。その中に「経済改革特区」の設立が盛り込まれている。周知のように、経済特区というのは、発展途上国において開発手段として利用されてきた。フィリピンもその一国である。基本的な方法としては、日本の経済特区もフィリピンの経済特区と変わらない。指定された地域を対象に特別優遇政策(税金免除、補助金、充実したインフラ設備)によって経済活性化を図る。経済特区の中で活動している企業は、まるで現地の経済と「一国二制度」議論を引き起こすほど違うのである。 しかし、理念的には日本とフィリピンにおける経済特区は異なっている。日本の場合は従来の日本的な方法から脱却するために行うという意味合いが強いが、フィリピンの場合はどちらかというと、日本が経験した「共有された成長」をフィリピンで実現するために行っているのである。 本稿ではフィリピンの特区に焦点を絞り、そこで期待される日本の役割を検証してみたい。これにより、経済特区がどのようなものであるか、日本の皆さんへ、海外とりわけフィリピンからの一つの視点を提供できればと思う。
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2002.11.29
11月29日(金)、東京国際フォーラムガラス棟G610号室にて、SGRA活動の拡大路線が承認された総会の後、第9回SGRAフォーラム「情報化と教育」が開催されました。主な課題はいわゆる「デジタル・ディバイド」現象で、日本の政府機関と民間研究所の関係者の視点から、豊富なデータと国際的な事例に基づきお話ししていただきました。
日本の文部科学省メディア教育開発センターの苑復傑助教授は、e-JAPAN政策について分かりやすく説明してくださいました。2005年までに「IT最先端国となる日本」を目標とするこの政策は、世界比較における日本のITの遅れを克服するための対策のようです。まだまだ、課題も多いようですが一応進展していると評価できます。
NECの国際社会経済研究所の遊間和子専任研究員は、デジタル・ディバイドの構造を説明した後、ディバイドを克服するためのIT人材育成に各国がどのように取り組んでいるかを、写真を使って紹介してくださいました。米国の低所得層のコミュニティーにおけるNPOの取り組み、韓国政府による少年院の取り組み、中国の専門学校の事例において、社会のあらゆる層の人々がIT能力を向上できるようにする試みに感心しました。
お二人の発表の後、「ITと教育」研究チームのチーフ、J.スマンティオ博士の司会で、場から質問を受け付けました。二人の質問者とも、デジタル・ディバイドをもっと広い次元から、即ち、長期的そして発展途上国も含む全世界的な観点から見るべきだと訴えたと理解できるでしょう。フォーラムのあとの懇親会で今西代表が述べた「日本で考えているデジタル・ディバイドというのは、『勝ち組み』の中の競争に、いかに負けないようにするかという話ですね」という言葉が印象的でした。
(原文:マキト 編集:今西)