SGRAイベントの報告

第14回フォーラム「国境を越えるE-learning」報告

2004年2月7日(土)午後1時半から6時半まで、東京お台場の国際研究大学村東京国際交流館・プラザ平成3階メディアホールにて、第14回SGRAフォーラム「国境を越えるE-learning」が開催されました。今回のフォーラムは「ITと教育」研究チームの研究活動の一環として行われたものでした。会場には、非会員37名を含む60名の方々が、遠くは大阪や仙台からお集まりくださり、特に大学関係者の間でのこのテーマへの関心の高さが示されました。

 

まず、SGRA「ITと教育」研究チーム顧問の斎藤信男教授(慶應義塾常任理事)に、基調講演「Asia E-learning Networkと大学の国際戦略」をしていただきました。【要旨】アジア地域への日本の連携活動は、政府レベルでも大きな課題になっている。これからの政治、経済の中心はアジア地域になっていくことを考えると、今後ますます文化、社会、医療、教育などさまざまな分野での連携が重要になっていく。人材育成、基礎研究を担う日本の大学でもこのような国際情勢に合わせた将来構想とそれに基づく個々の活動の戦略が必須の課題として迫られている。現在、経済産業省が主導しているアジア諸国とのE-Learning Networkは、2年目を迎え、基盤、共通技術の開発に重点を置いて活動をしている。また、関連する連携活動は個々の大学などの努力により進められている。このような諸活動が真に有効なもの、有益なものに統合化されていき、大学の国際戦略の一つとして活かされていかなければならない。

 

SGRA会員の福田収一教授(都立科学技術大学工学部学部長)からは、先駆的な事例として、「ネットワークを介したGlobal Project Based Learning ―都立科学技術大学とスタンフォード大学の協調授業を事例として―」をご紹介いただきました。【要旨】東京都立科学技術大学は1998年からStanford大学の大学院の設計授業ME310にネットワークを介して参加している。この授業は、Project Based Learning方式で、企業が提供する現実の課題を学生が主導で解決し、実際に試作を行って案の妥当性を実証する。通常の講義形式のe-Learningとは異なり、日米の学生がチームを構成して、現実の課題に取り組む。そのため、最近話題の技術経営教育の実践に他ならず、単なる工学的な知識の応用だけではなく、法律、経済など幅広く問題を考え、文化の壁を乗り越える努力が必要となる。本活動は、国際的な活動であるとともに、きわめて効果的な産学連携でもある。

 

渡辺吉鎔教授(慶応大学総合政策学部)からは、やはり先駆的な事例として、「日中韓3大学のリアルタイム共同授業の可能性と課題 ―慶応・復旦・延世大学の国際化戦略とオンライン共同授業―」をご紹介いただきました。渡辺先生の「国際交流は技術を手段とした人間同士の情の交流である」という信念は参加者に強い共感を与えました。【要旨】慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)は2002年度より中国の復旦大学、韓国の延世大学と一緒に「三者間リアルタイム共同授業」を推進してきた。具体的には大学院の2科目、学部・院共通の1科目を共同で提供・担当しながらその中で学生たちが日中韓の共通課題について共同研究を行うという仕組みが取られている。さらにこの三者間共同授業は、単なるリアルタイムのネット授業にとどまらず、学期の半ばでの「Pilgrim Workshop」の共同主催・共同参加、学期後の「グローバル・ガバナンス国際シンポジウム」という対面式の共同研究発表の場を提供し、教育・研究の国際化を推進するようにつとめてきた。

 

30分間の休憩の後、SGRA研究員からの報告として、 Ferdinand Maquito氏(フィリピンアジア太平洋大学研究助教授・SGRA研究員)は、「オンライン授業の可能性と課題~私の場合~―フィリピンアジア太平洋大学(UAP)-名古屋大学、及びテンプル大学ジャパン(TUJ)でのオンライン授業を事例として―」というタイトルで、この数年間、自分なりに実施したことを参考にしながら、オンライン授業についての考え方を整理して、これからの方向を検討しました。発表では、まず欧米を中心としたオンライン授業の現状を概観し、アメリカでの市場としての失敗とヨーロッパのEU市民の育成を目標としたE-learning計画を参考に、今後の日本とフィリピンの大学間のオンライン授業戦略を考えました。

 

最後に、金雄熙氏(韓国仁荷大学助教授・SGRA研究員)は、「韓国の大学における国際的E-learningの現状と課題」というタイトルで、政府主導の成長政策と先進国に比べても決して劣らない情報通信インフラなどのおかげで韓国のE-learningが急速な量的成長を成し遂げていることを発表しました。しかしながら、その総体的な発展が果たして望ましい方向に向かっているかについてはまだ疑問が残っているとして、韓国の大学におけるE-learning課題を指摘しました。また、国境を越える事例として、世界銀行のGDLN (Global Distance Learning Network)のアジアセンターの役割を担っている韓国開発院(KDI)大学院大学のE-learning(Blended Learning)を紹介しました。

 

その後、王溪氏(東京大学新領域創成科学研究科研究助手・SGRA研究員)の進行で進められたパネルディスカッションでは、サイバー教育の是非について活発な議論が行われました。回答者によって「E-learningが全てできるわけではない」ということが強調されましたが、同時に「講義を公開せざるを得ないことによって、現在あまり高くない講義の質を向上させることもできるのではないか」という消極的肯定論もありました。しかしながら、インターネットは手段にすぎず、人の交流が基本でなければならないという点では、全員の意見が一致しました。また、東アジア市民の育成のための国境を越えたLearningが英語で為されることについての質問がありましたが、3国間の授業では英語を共通語とするが、参加者に相互の言語を第一外国語として勉強することを義務づけたり、2国間授業では当事者の言語を使ったりするなど、様々な工夫がされていることが紹介されました。

 

土曜日の午後1時半から長時間にわたって開催された第14回フォーラムは、盛会の内、午後6時半に幕を閉じました。

 

(文責:J.スリスマンティオ、編集:今西淳子)