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レポート第19号「海軍の誕生と近代日本」

SGRAレポート第19号(PDF)

 

投稿レポート

朴栄濬「海軍の誕生と近代日本:幕末海軍建設の再検討と『海軍革命』の仮説」

2003.12.4発行

 

—-「はじめに」から————–

 

 19世紀の国際秩序において、海軍は先端の近代性を象徴する存在であった。海軍を構成している艦船・海軍士官と兵士・造船と修理施設・海軍組織などは、発達した科学技術や近代国家制度のバック・アップを必要とするものであった。また海軍は、米国の海軍戦略家であったアルフレッド・マーハン(Alfred Mahan)が言及しているように、制海権の掌握如何によって対外的に自国の目的を他国に強要し、場合によっては地域及び国際秩序の覇権を握ることのできる手段としての側面も持っていた。このような近代科学技術の集約と対外政策の強力な軍事的手段を意味する近代海軍が、何時から「海国」日本に形成され始めたのであろうか。そして海軍の建設は、日本の近代化や対外政策の変遷に何をもたらしたのだろうか。

 

(略)

 

 そうした関心から本研究は、幕末期において幕府と諸藩が積極的に推進した海軍建設政策とその成果に光を当てて、幕末期の海軍建設の様相を明らかにすることを第一の目的とする。ただ本研究は近代日本海軍史の研究空白を埋めるだけに止まらず、幕末期に建設された海軍が日本の近代国家への変容や対外政策の転換に与えた影響を、近代日本政治外交史の文脈から検討しようとするものである。

 

 欧米の軍事史学や歴史社会学、そして国際政治学は、近世以後の西欧世界では数多くの政治単位体が互いの戦争遂行やそれに備えるための軍隊建設を通して、官僚及び財政制度を整備し、人的・物的資源を動員できる近代国家の形成を成し遂げており、そうした近代国家体制に基づいてヨーロッパの世界拡張が可能となったとする見解を提示している 。そうであるとすれば、日本における近代海軍建設の試みは、明治国家の形成及びその対外関係の転換にどのような影響を及ぼしたのか。こうした疑問を海軍建設と関連付けて検討する必要があるだろう。つまり本研究は、幕末期における海軍建設の様相を再検討することによって、海軍史の研究空白を埋める傍ら、近代海軍建設が日本の近代国家への変容とその対外政策の転換にもたらした影響を検討し、日本の近代化に関する説明を補いたい。

 

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