SGRAイベントの報告

第13回フォーラム「日本は外国人をどう受け入れるべきか」

2003年11月14日(金)午後6時半より、第13回SGRAフォーラム「日本は外国人をどう受け入れるべきか」が、東京国際フォーラムG棟402号室で開催された。今回のフォーラムは、「人的資源と技術移転」研究チームの研究活動の一環として行われたものでもある。会場には、非会員30名も含む70名近くの方々が集まり、このテーマに関する関心の高さを示した。

SGRA研究会の今西代表による開会挨拶の後、2人の講師による講演が行われた。ゲスト講師として迎えた立教大学社会学部の宮島喬教授は、「移民国日本へ?ヨーロッパとの比較の中で考える」というテーマで講演を行った。宮島先生は、日本を代表する社会学者で、特に文化社会学の領域においては、第一人者的な存在である。かつてヨーロッパで研究生活を送った宮島先生は、ヨーロッパ社会における移民問題に詳しく、近年、ヨーロッパとの比較の視点で、日本の外国人問題の研究も行われ、外国人問題や移民政策に数多くの提言を行われた。宮島先生の講演は、日本における外国人受け入れの文化、意識、社会制度の問題点を浮き彫りにし、そして具体的な提言を含めて、日本が移民国として成立する可能性を検討された大変興味深いものであった。
宮島先生の講演要旨をまとめると以下の通りになる。
・加速する少子高齢化の日本社会は、21世紀の早い時期に、海外から人の受け入れを図らねばならないが、日本社会の制度改革が立ち遅れている。
・日本の人口構造は、すでに事実上の「移民国」に近い。このことを直視し、制度、意識の両面でヨーロッパの移民先進国に学ばなければならない。
・技能実習制度の弊害からみえたように、世界から優れた人材を受け入れるという短期国益中心のロジックは必ず失敗する。
・日本における外国人を受け入れるという意識、施策が極めて貧困である。
・日本は「移民小国」からの脱却を意識し、難民受け入れなどを含めた国際義務も果たすべきである。
・さらに、長期ビザの導入、年金脱退一時金制度の改善、配偶者ビザの永住者ビザへの切り替え、血統主義を改め出生地主義の考え方の導入、帰化手続きの簡素化と透明化、外国人の子供の教育体制の改善、国民への啓発などの外国人受け入れ問題を再検討する必要がある。

SGRA研究員で東京大学工学研究科博士課程のイコ・プラムティオノさんは、「研修生制度の現状と問題点――インドネシア研修生の事例として」と題する報告を行った。イコさんは東大で電子情報工学の研究を進めながら、1999年から、外国研修生ネットワークの一員として研修生問題に取り組み、2000年にインドネシア研修生相談フォーラム(KFTI)を設立し、以降代表としてインドネシア人研修生を中心にアドボカシー活動を従事してきた。イコさんはこうした体験を交えながら、「研修という名のもとにおける単純労働力の導入」という、日本で働く外国人研修生の厳しい現実を紹介してくださり、聴衆にとっては大変刺激的な報告だった。イコさんの講演の前半は、主に日本における外国人研修生制度の経緯と受け入れ状況の紹介で、後半は、研修生制度の問題点を指摘し、いくつかの政策提言を行った。イコさんが指摘した問題点と提言を要約すると主に以下のようになる。
・研修生制度の「建前」は、技術・技能または知識の開発途上国への移転を図り、それらの国などの経済発展を担う人作りに貢献することであるが、「本音」は、日本社会が必要とする単純労働者の導入である。実態としては、中小零細企業など日本人労働者の集まりにくい分野を補完するものである。
・研修生制度は、技術・技能などの移転による国際貢献としても、また、外国人労働者の活用方法としても、きわめて不備な制度であり、かつ多くの人権侵害を伴っている。
・一元的に対応できる政府機関が責任を果たすこと:強制帰国措置の廃止、本来の目的に基づき、労働ビザの支給などを真剣に検討する必要がある。

以上の2人の講演と報告が終わった後、国連組織の勤務経験をもつ財団法人アジア21世紀奨学財団常務理事の角田英一氏が進行役・コーディネーターとして、二人の講師をパネラーに、パネルディスカッションが行われた。予定時間を超過してまで、たくさんの熱気溢れる質問とコメントが行われ、講師と参加者の間には、有益な意見交換が行われた。質問とコメントをすべて紹介できないが、最も印象に残った一つは「外国人の受け入れは政治家がよく口にする日本の“国益”に利するか」である。宮島先生やイコさんのコメントを聞きながら、“国益”を定義するのは難しいが、今の日本における外国人受け入れの制度や意識の遅れこそ、日本の“国益”を損なっているのではないかとの印象をもった。この点、難民受け入れに対しても同様である。現状は決して楽観すべきではないが、宮島先生からは、日本社会における日本人の意識の変化も紹介され希望も見えている。フロアからは、マスメディアが意識的に作り上げた外国人イメージの虚像が指摘され、さらに留学生からは、日本からの人口流出も併せて考えたり、最近の北東アジアにおける激しい人口移動の一環として考えるなど、問題意識を変えれば物事がまったく異なる視点からも捉えるという刺激的な発想法も紹介された。

今回のフォーラムで取り上げられた「日本社会は外国人をどう受け入れるべきか」という問題は、われわれ「人的資源と技術移転」研究チームが取り組んでいる課題に大いに参考になるものであった。グローバル化が進み、国境を越えた人の移動がますます活発化する中で、国益と人権、差別と平等、グローバル化の中における国と人間のあり方、文化の独自性と普遍性、自国文化の保護と他者への関心・思いやりと尊重、そして、日本と東アジア、日本と世界の共栄共存などを考える上で大変大きな示唆を得た。2時間にわたって行われた第13回SGRAフォーラムは、午後8時半に幕を閉じた。
(文責:徐向東)