SGRAイベントの報告

  • 2005.02.20

    第4回日韓アジア未来フォーラム・第18回SGRAフォーラム「韓流・日流:東アジア地域協力におけるソフトパワー」報告

    第4回日韓アジア未来フォーラム・第18回SGRAフォーラム「韓流・日流:東アジア地域協力におけるソフトパワー」が東京国際フォーラムで2月20日(日)に開催された。これまでの日韓交流史に見られない画期的なできごとである韓流の意義について考えるフォーラムであった。日韓アジア未来フォーラムは、2001年より始めた韓国未来人力研究院と共同で進めている日韓研究者の交流プログラムで、毎年交互に訪問しフォーラムを開催している。    SGRAを代表して今西淳子さんによる開会の挨拶に続き、韓国未来人力研究院の院長、韓国高麗大学の李鎮奎(イ・ジンギュ)教授(自称、ジン様)が「韓流の虚と実」という演題で基調講演を行った。日本における韓流ブームを時代別の事例と日本と韓国双方の分析を用いて検証し、日本での韓流ブームの原因をドラマ・中心層・日本人の意識的変化という観点から説明した。また、韓国ではなぜ日流ブームは起こらないのかという疑問点を歴史的認識と日本側の市場開拓戦略という面から説明した。さらに韓流ブームにおける危険性として韓流による韓国での文化経済主義的な視点、文化民族主義的視点への警戒を述べた。    基調発表に引き続き日本富山大学の林夏生(はやし・なつお)氏は、日韓文化交流政策の政治経済について発表した。韓流・日流が一般にはまるで「最近になって唐突に」出現した現象のように受け止められているが、実は「そうではない」とし、政策的には規制されながらも、海賊版が大量に流通するなど非公式な側面も含む「文化交流現象」が存在したこと、そしてそれへの対応がせまられたこともまた、近年の急激な変化をもたらす重要な要因のひとつであったと指摘した。    自由に生きていきたいと叫ぶ韓国の新世代文化評論家の金智龍(キム・ジリョン)氏は「 冬ソナで友だちになれるのか」とやや刺激的な演題で発表した。自分の言いたいことは前の講演で言われてしまったとし、アドリブで30分ほどの発表をこなした。多年間にわたる日本での文化体験に基づきながら、今の韓流ブームは一方的な文化流入に對する反感を和らげる役割を十分に果たしているし、韓國の若者たちが日本文化を楽しむことに対するいかなる批判も根據や理屈を失うことになるとした。日本文化であれ、韓國文化であれ、文化を共有することはお互いの理解を深めるになり、韓流ブームをきっかけとし、日韓両国の人がもっと親しみを感じて友だちになることにつながると言い切った。    休憩を挟んで発表者を含めて5人のパネリストによるパネルディスカッションが行われた。内閣府参事官(元在韓国日本大使館参事官)の道上尚史(みちがみ・ひさし)氏は、政府の見解ではないという前提で、「文化、ソフトパワーと新日韓関係」について討論し、「こぐのをやめると自転車は倒れる」、「はやりすたれに任せるには、日韓関係は重要すぎる」という含みのあるメッセージを伝えた。   韓国国民大学(東京大学客員教授)の李元徳(イ・ウォンドク)氏は「韓流と日韓関係」について、韓流・日流は明るい将来の日韓関係を示すシンボルであるとしながら、早急な楽観論は警戒すべきと指摘した。    最後に東京大学の木宮正史(きみや・ただし)氏は日韓関係の構造的変容のなかで韓流現象を捉え、韓流は単なるブームだけではなく、日韓関係の緊密化という構造変容によって支えられているものであると指摘した。    その後、ディスカッションはフロアーに開放され、70名にも及ぶ参加者の中からコメントや感想が寄せられた。ジャーナリストの櫻井よしこ氏からは李元徳氏と木宮正史氏に対北朝鮮政策や歴史教科書問題について「攻撃的」質問もあり、一瞬「戦雲」が場内をおおう場面もあった。予定より25分遅れてフォーラムは終了し、フォーラムの最後に韓国未来人力研究院の宋復(ソン・ボク)理事長による閉会の挨拶が行われた。「ジュン様(姫?)」と「ジン様」のご協力で立派なフォーラムができたことについてのお祝いの言葉と拍手で締め括られた。    尚、今西さんから、次回の日韓アジア未来フォーラムは今回のフォーラムの成果を踏まえ、日本における韓流、韓国における日流 、そしてアジアにける韓流と日流をアジアの視点から幅広く論じる形で2005年10月韓国で開催しようと呼びかけがあった。(文責:金雄煕)   当日、SGRA運営委員の許雷さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください。 
  • 2004.10.23

    第17回フォーラム「地球市民の義務教育」報告

    日本は外国人をどう受け入れるべきか ―地球市民の義務教育―   2004年10月23日(土)午後1時半より、東京国際フォーラムG棟610号室にて、SGRA「人的資源と技術移転」研究チームが担当する第17回SGRAフォーラム「日本は外国人をどう受け入れるべきか―地球市民の義務教育」が開催された。昨年11月に開催した同テーマのフォーラムでは、実質的に移民受け入れ大国となっている日本の実態と、研修生制度について考えたが、今回は、日本の小中学校における外国人児童生徒の不就学問題を紹介し、「全ての子どもたちが教育を受ける権利」について考え、日本の公立学校は彼等彼女等にどのような教育を提供すべきかを議論した。今回も昨年11月と同様に、大勢の聴衆が集まり、子供の教育を受ける権利について、活発な議論がなされた。   SGRA研究会の今西代表による開会挨拶が行われた後に、日本や欧州社会における外国人問題に造詣の深い立教大学社会学部教授・宮島喬氏が、「学校に行けない子どもたち:外国人児童生徒の不就学問題」と題するゲスト講演を行った。氏は、今から十数年前、イラン人の12歳の少年ユセフ・ベン・ベグロ君が栃木県のある古紙問屋で働いていて、機械に巻き込まれて死亡した事件から話を切り出し、「なぜそんな出来事が起こるのか、学齢期の子どもが学校に通うのは、当然ではないか」という問題意識を踏まえて、近年における日本の義務教育における外国人児童生徒の教育問題を取り上げた。ドイツなど欧米の国々の多くは、保護者が学齢期の子どもを学校に通わせることを在留条件としている。しかし日本ではそうではない。このため、教育委員会や学校は、外国人の子どもを就学させるための真剣な努力を行っていない。一方、日本の公立小・中学校で行う義務教育は「日本国民のための教育」という性格を濃厚に帯び、外国人を排除しかねないものである。日本の学校に馴染めない子どもたちは、ブラジル人学校等の民族学校に通うことになるが、はたしてそれは結果的に永住することになる彼らに意味のある将来を保障してくれるだろうか。「国際人権規約」(日本は1978年に批准している)では、「初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする」と定めている。日本の学校教育をどう変えるべきだろうか。宮島氏は、具体的に、母語教育の公認、英語中心主義からの脱却、「日本語」という科目の設置、漢字・漢語・歴史文化語の見直し、社会科・歴史教育の国際化、スクール・ソーシャル・ワーカーの配置、学習支援のボランティア、外国人学校の改善と認可等々を提案した。   続いて、外国人児童の教育問題をめぐって3名の方による研究報告が行われた。   SGRA研究員で、一橋大学社会学研究科博士課程で研究をしているヤマグチ・アナ・エリーザ氏は、フィールドワークを通じて得た膨大な現場の情報を踏まえて、「在日ブラジル人青少年の労働者家族が置かれている状況と問題点:集住地域と分散地域の比較研究」と題する発表を行った。日系ブラジル人労働者が来日するようになって15年以上になるにも関わらず、多くの問題が発生したまま時間がただ経過していく現状が紹介された。家族呼び寄せが始まり、子どもたちが日本に暮らすようになった結果、さらに問題は複雑化している。その中、最も深刻なのは子どもの不就学問題と非行問題である。そのような「問題」になる前の段階及び環境の中で、彼らが属している家族が直面している問題、家族の置かれている状況が、実は、青少年に大きな影響を与えている。個別訪問による調査により、日本にいる外国人労働者の子供たちの教育問題の深刻さがいっそう浮き彫りになった。   東京学芸大学連合大学院博士課程の朴校煕氏は、「在日朝鮮初級学校の『国語』教育に関する考察:国民作りの教育から民族的アイデンティティ自覚の教育へ」と題する報告を行った。在日朝鮮学校の朝鮮語教育は、当初、民族語を知らない児童・生徒の識字率を上げる運動からスタートしたが、北朝鮮政府と総連の組織が成立すると、北朝鮮の海外公民として帰国を前提とした「国語」教育政策に変容した。しかし、このような「国語」教育政策には、日本社会を生活の舞台とする現実的な側面が看過されていたため、教育需要者である、多くの在日韓国・朝鮮人の支持基盤を失う原因となった。1970年代の後半から、総連は、このような実態を省み、在日外国人としての現実により着目し、生徒たちの母国語駆使能力と民族的情緒の両方面を育てることに、大路線転換を図った。現行の在日朝鮮学校における民族語教育のあり方と北朝鮮の「国語」教育について、テキストの内容の比較を通じて、興味深い分析が示された。在日朝鮮学校における民族的アイデンティティ自覚の教育への転換の試みは、今後の日本における外国人の子どもの教育問題に対して多くの示唆が含まれていると感じた。   慶應義塾大学大学院法学研究科に所属し、静岡文化芸術大学非常勤講師も勤めている小林宏美は、「カリフォルニア州における二言語教育の現状と課題:ロサンゼルスの3つの小学校の事例から」という報告を行った。1998年からアメリカのカリフォルニア州において二言語教育を原則として廃止する住民提案227が可決され、州内の各学区の教育プログラムは多大な影響を受けた。ヒスパニック系移民子弟が生徒の多数を占めるロサンゼルス統合学区でも、「英語能力が不十分な生徒」に対して、原則として英語で授業を行うイングリッシュ・イマージョンプログラムの比重が高まった。カリフォルニア州は二言語教育の長い歴史があり、提案227可決はしばしば米国社会における保守化の現れと捉えられているが、改変による教育効果も現れている。現場調査を踏まえ、教育の現場の写真などを示しながら、ロサンゼルス統合学区における3つの小学校の事例が紹介された。   *************************   4人の講演と報告が終わった後、アジア21世紀奨学財団常務理事でSGRA顧問の角田英一氏が進行役を務め、パネルディスカッションが行われた。   まず、フロアからの質問に答える形で、ヤマグチ・アナ・エリーザ氏は、いままでの若年層の外国人が年をとっていくうちに、彼らの保障をどうすれば良いかという問題がまた生まれるという課題を示した。朴校煕氏は朝鮮学校を例に、組織化が母語維持の重要な場を形成するのに大きな役割を果たしているとの見解を示したが、ヤマグチ氏は在日ブラジル人学校の組織化はまだ難しいという現状認識を示した。小林宏美氏は、第2言語の習得は、第1言語がどの程度に発達しているかによって決められるという学界の定説を紹介しながら、母語教育の重要性をあらためて提示した。   宮島氏は、講演で話した「ソーシャルワーカー」という言葉は一種のメタファーで、要は、外国人生徒を適切に指導できる学校職員を配置すべきだと説明した。重要なのは外国人の子どもの就学であり、学校に行くように働きかけることからはじめるべきである。これは、単に教育の問題だけではなく、実は、外国人出稼ぎ労働者の移動の仕方、子どもの権利の見地から、日本のこれまでの政策の反省を促している。そして、外国人労働者とその子どもたちを受け入れない、あるいは、受け入れを困難にしている日本社会が問われている。それは、外国人やその子どもへのいじめや無理解という態度にも現れている。教育の国際化とは、従来日本でいわれている「国民のための教育」から「市民のための教育」に変えていくことであると強調した。   パネラーたちのディスカッションに触発されて、フロアからの質問やコメントは、今回の講演や報告で触れられなかったインドネシアなどのアジア諸国からきた外国人研修生の問題や、中国人など他の在日外国人の子ども教育問題まで広がった。宮島教授は、これらの話を踏まえて、再び、「日本はすでに実質的に移民国家になっており、移民国家であるという自覚が必要だ」と力を込めて日本社会の自覚を訴えた。   パネルディスカッションに誘われ、会場から次々とコメントや質問が出た。予定時間を大幅にオーバーして、フォーラムは熱気に包まれる中で終了した。今回のフォーラムは、外国人の子どもの教育問題を取り上げたが、実は、人権の普遍理念や国のあり方など、非常に大きなテーマについても深く考えさせられる内容であった。グローバル化が進むなかで、出稼ぎ労働者を含めて、人の移動が盛んになっている。アジアでは、日本を先頭に、新興工業国やアセアン、さらに中国と、次々と急ピッチで近代化社会に邁進している。しかし、人間は、物の豊かさだけを追求しても幸せを得られない。お互いに理解し、尊敬しあい、共生共存を図っていくことこそ、心の豊かさが生まれ、真の幸せを実現できるのだ。今回のフォーラムを聞いて、久々に有意義で充実した週末を過ごしたと思ったのは、私だけではないだろう。   (文責:SGRA「人的資源と技術移転」研究チームチーフ 徐 向東)
  • 2004.03.26

    第1回マニラセミナー「共有された成長を目指せ:フィリピン経済特区日系企業を通して効率性と平等性の向上を探る」報告

    昨年のフィリピン・アジア太平洋大学(UA&P)とSGRAの共同研究(日比自由貿易協定の準備調査-フィリピン政府宛の内部報告)に続いて、最初の一般公開の共同事業となった経済セミナーが、2004年3月26日(金)午後1時半から5時まで、マニラ中心部にあるUA&PのPLDT会議室で開催された。テーマは「共有された成長を目指せ:フィリピン経済特区日系企業を通して効率性と平等性の向上を探る」。SGRA側は今西淳子代表とF.マキト研究員とSGRAフィリピンのボランティアスタッフが5名参加した。   開会挨拶で今西代表がSGRAやマキト研究員や渥美財団を紹介してから、在日フィリピン人についてのデータを紹介した。日本にはフィリピン人が大勢居るのに留学生は少ない。英語ができるしアメリカ文化にも親しみをもっているので留学先がほとんど英米になるであろう。セミナーの前、UA&Pのラウンジでのランチで「日本への留学したいフィリピンの若者はいるが、どうやっていけばいいかわからない」という指摘があったが、それが十分な理由かどうか、いまだに疑問に思う。   その後、4名のエコノミストが30分間ずつ発表した。最初に、SGRAとの調整役を果たしてくれた、UA&P産業研究科のディレクター、ピーター・ユー博士がフィリピンの電子産業と自動車産業について発表した。電子産業より自動車産業のほうが待遇的政策の対象になっているにもかかわらず、電子産業のほうが輸出によって外貨を多く稼いでいるという問題提起をした。   次に、マキト博士がセミナーのテーマ中心でもあるフィリピン経済特区について発表した。特区はフィリピンの二つのダイナミックスが収斂していると指摘してから22ヶ所の特区を比較した。予備調査によれば、トヨタに任せている特区は一番効率的であることが判明したという。最後に、富の配分の平等化がフィリピンの地方に広がっていることがわかるが、これは成長とともに自動的に発生したものではないことを指摘した。   その次に、UA&Pの副総長のベルナルド・ビリエガス博士はフィリピンの今後の5年間の展望について語った。今年の5月の大統領選挙で誰が大統領になっても、いつものようにフィリピンの政治は無視すれば良い、という楽観的な見方を明らかにした。企業がリスク管理をきちんと行えば、自分の強みと弱みを認識して置かれた環境の脅威と機会に巧みに対応できるはずだ。(フィリピンの難しい環境でも、トヨタは効率的なビジネスができることが比較分析でわかったように。)将来性のあるフィリピン産業を取り上げながら、  ASEANと中国の経済関係が今後さらに強くなることを予想した。   15分間の休憩の後、UA&Pのビック・アボラ教授が中国ファクターについて発表した。ビリエガス博士同様、中国はフィリピンにとって脅威よりは機会であることを強調した。対中国のフィリピンの輸出と対フィリピンの中国の輸出の品目を詳細に分析した結果、フィリピンと中国とが競争する品目があまりないことが判明した。この品目データの時系列的な変化をみても、同じ結果が得られるという。 最後に、オープン・フォーラムでセミナーの参加者との質疑応答があった。経済特区に入っている日系企業の日本人とフィリピン人から、それぞれの見方を分かち合ってもらって、今後の研究への貴重な示唆をいただいた。フィリピンの経済特区管理局からの参加者(政策企画部)には、引き続きご協力いただくよう呼びかけてもらった。   参加者からのアンケートによると、セミナーについての好意的な反応が多く、次回のセミナーにも招いてもらいたいという回答が圧倒的に多かった。セミナーでの発表は英語で行われたが、それと同時に日本語のスライドと配布資料を使った。これが自分か自分の組織の日本人にとって役に立つという回答が得られた。この方法とこのテーマでUA&P-SGRA共同セミナーをまた開催しようという励みになった。   (文責:F.マキト)
  • 2004.02.07

    第14回フォーラム「国境を越えるE-learning」報告

    2004年2月7日(土)午後1時半から6時半まで、東京お台場の国際研究大学村東京国際交流館・プラザ平成3階メディアホールにて、第14回SGRAフォーラム「国境を越えるE-learning」が開催されました。今回のフォーラムは「ITと教育」研究チームの研究活動の一環として行われたものでした。会場には、非会員37名を含む60名の方々が、遠くは大阪や仙台からお集まりくださり、特に大学関係者の間でのこのテーマへの関心の高さが示されました。   まず、SGRA「ITと教育」研究チーム顧問の斎藤信男教授(慶應義塾常任理事)に、基調講演「Asia E-learning Networkと大学の国際戦略」をしていただきました。【要旨】アジア地域への日本の連携活動は、政府レベルでも大きな課題になっている。これからの政治、経済の中心はアジア地域になっていくことを考えると、今後ますます文化、社会、医療、教育などさまざまな分野での連携が重要になっていく。人材育成、基礎研究を担う日本の大学でもこのような国際情勢に合わせた将来構想とそれに基づく個々の活動の戦略が必須の課題として迫られている。現在、経済産業省が主導しているアジア諸国とのE-Learning Networkは、2年目を迎え、基盤、共通技術の開発に重点を置いて活動をしている。また、関連する連携活動は個々の大学などの努力により進められている。このような諸活動が真に有効なもの、有益なものに統合化されていき、大学の国際戦略の一つとして活かされていかなければならない。   SGRA会員の福田収一教授(都立科学技術大学工学部学部長)からは、先駆的な事例として、「ネットワークを介したGlobal Project Based Learning ―都立科学技術大学とスタンフォード大学の協調授業を事例として―」をご紹介いただきました。【要旨】東京都立科学技術大学は1998年からStanford大学の大学院の設計授業ME310にネットワークを介して参加している。この授業は、Project Based Learning方式で、企業が提供する現実の課題を学生が主導で解決し、実際に試作を行って案の妥当性を実証する。通常の講義形式のe-Learningとは異なり、日米の学生がチームを構成して、現実の課題に取り組む。そのため、最近話題の技術経営教育の実践に他ならず、単なる工学的な知識の応用だけではなく、法律、経済など幅広く問題を考え、文化の壁を乗り越える努力が必要となる。本活動は、国際的な活動であるとともに、きわめて効果的な産学連携でもある。   渡辺吉鎔教授(慶応大学総合政策学部)からは、やはり先駆的な事例として、「日中韓3大学のリアルタイム共同授業の可能性と課題 ―慶応・復旦・延世大学の国際化戦略とオンライン共同授業―」をご紹介いただきました。渡辺先生の「国際交流は技術を手段とした人間同士の情の交流である」という信念は参加者に強い共感を与えました。【要旨】慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)は2002年度より中国の復旦大学、韓国の延世大学と一緒に「三者間リアルタイム共同授業」を推進してきた。具体的には大学院の2科目、学部・院共通の1科目を共同で提供・担当しながらその中で学生たちが日中韓の共通課題について共同研究を行うという仕組みが取られている。さらにこの三者間共同授業は、単なるリアルタイムのネット授業にとどまらず、学期の半ばでの「Pilgrim Workshop」の共同主催・共同参加、学期後の「グローバル・ガバナンス国際シンポジウム」という対面式の共同研究発表の場を提供し、教育・研究の国際化を推進するようにつとめてきた。   30分間の休憩の後、SGRA研究員からの報告として、 Ferdinand Maquito氏(フィリピンアジア太平洋大学研究助教授・SGRA研究員)は、「オンライン授業の可能性と課題~私の場合~―フィリピンアジア太平洋大学(UAP)-名古屋大学、及びテンプル大学ジャパン(TUJ)でのオンライン授業を事例として―」というタイトルで、この数年間、自分なりに実施したことを参考にしながら、オンライン授業についての考え方を整理して、これからの方向を検討しました。発表では、まず欧米を中心としたオンライン授業の現状を概観し、アメリカでの市場としての失敗とヨーロッパのEU市民の育成を目標としたE-learning計画を参考に、今後の日本とフィリピンの大学間のオンライン授業戦略を考えました。   最後に、金雄熙氏(韓国仁荷大学助教授・SGRA研究員)は、「韓国の大学における国際的E-learningの現状と課題」というタイトルで、政府主導の成長政策と先進国に比べても決して劣らない情報通信インフラなどのおかげで韓国のE-learningが急速な量的成長を成し遂げていることを発表しました。しかしながら、その総体的な発展が果たして望ましい方向に向かっているかについてはまだ疑問が残っているとして、韓国の大学におけるE-learning課題を指摘しました。また、国境を越える事例として、世界銀行のGDLN (Global Distance Learning Network)のアジアセンターの役割を担っている韓国開発院(KDI)大学院大学のE-learning(Blended Learning)を紹介しました。   その後、王溪氏(東京大学新領域創成科学研究科研究助手・SGRA研究員)の進行で進められたパネルディスカッションでは、サイバー教育の是非について活発な議論が行われました。回答者によって「E-learningが全てできるわけではない」ということが強調されましたが、同時に「講義を公開せざるを得ないことによって、現在あまり高くない講義の質を向上させることもできるのではないか」という消極的肯定論もありました。しかしながら、インターネットは手段にすぎず、人の交流が基本でなければならないという点では、全員の意見が一致しました。また、東アジア市民の育成のための国境を越えたLearningが英語で為されることについての質問がありましたが、3国間の授業では英語を共通語とするが、参加者に相互の言語を第一外国語として勉強することを義務づけたり、2国間授業では当事者の言語を使ったりするなど、様々な工夫がされていることが紹介されました。   土曜日の午後1時半から長時間にわたって開催された第14回フォーラムは、盛会の内、午後6時半に幕を閉じました。   (文責:J.スリスマンティオ、編集:今西淳子) 
  • 2003.11.14

    第13回フォーラム「日本は外国人をどう受け入れるべきか」

    2003年11月14日(金)午後6時半より、第13回SGRAフォーラム「日本は外国人をどう受け入れるべきか」が、東京国際フォーラムG棟402号室で開催された。今回のフォーラムは、「人的資源と技術移転」研究チームの研究活動の一環として行われたものでもある。会場には、非会員30名も含む70名近くの方々が集まり、このテーマに関する関心の高さを示した。 SGRA研究会の今西代表による開会挨拶の後、2人の講師による講演が行われた。ゲスト講師として迎えた立教大学社会学部の宮島喬教授は、「移民国日本へ?ヨーロッパとの比較の中で考える」というテーマで講演を行った。宮島先生は、日本を代表する社会学者で、特に文化社会学の領域においては、第一人者的な存在である。かつてヨーロッパで研究生活を送った宮島先生は、ヨーロッパ社会における移民問題に詳しく、近年、ヨーロッパとの比較の視点で、日本の外国人問題の研究も行われ、外国人問題や移民政策に数多くの提言を行われた。宮島先生の講演は、日本における外国人受け入れの文化、意識、社会制度の問題点を浮き彫りにし、そして具体的な提言を含めて、日本が移民国として成立する可能性を検討された大変興味深いものであった。 宮島先生の講演要旨をまとめると以下の通りになる。 ・加速する少子高齢化の日本社会は、21世紀の早い時期に、海外から人の受け入れを図らねばならないが、日本社会の制度改革が立ち遅れている。 ・日本の人口構造は、すでに事実上の「移民国」に近い。このことを直視し、制度、意識の両面でヨーロッパの移民先進国に学ばなければならない。 ・技能実習制度の弊害からみえたように、世界から優れた人材を受け入れるという短期国益中心のロジックは必ず失敗する。 ・日本における外国人を受け入れるという意識、施策が極めて貧困である。 ・日本は「移民小国」からの脱却を意識し、難民受け入れなどを含めた国際義務も果たすべきである。 ・さらに、長期ビザの導入、年金脱退一時金制度の改善、配偶者ビザの永住者ビザへの切り替え、血統主義を改め出生地主義の考え方の導入、帰化手続きの簡素化と透明化、外国人の子供の教育体制の改善、国民への啓発などの外国人受け入れ問題を再検討する必要がある。 SGRA研究員で東京大学工学研究科博士課程のイコ・プラムティオノさんは、「研修生制度の現状と問題点――インドネシア研修生の事例として」と題する報告を行った。イコさんは東大で電子情報工学の研究を進めながら、1999年から、外国研修生ネットワークの一員として研修生問題に取り組み、2000年にインドネシア研修生相談フォーラム(KFTI)を設立し、以降代表としてインドネシア人研修生を中心にアドボカシー活動を従事してきた。イコさんはこうした体験を交えながら、「研修という名のもとにおける単純労働力の導入」という、日本で働く外国人研修生の厳しい現実を紹介してくださり、聴衆にとっては大変刺激的な報告だった。イコさんの講演の前半は、主に日本における外国人研修生制度の経緯と受け入れ状況の紹介で、後半は、研修生制度の問題点を指摘し、いくつかの政策提言を行った。イコさんが指摘した問題点と提言を要約すると主に以下のようになる。 ・研修生制度の「建前」は、技術・技能または知識の開発途上国への移転を図り、それらの国などの経済発展を担う人作りに貢献することであるが、「本音」は、日本社会が必要とする単純労働者の導入である。実態としては、中小零細企業など日本人労働者の集まりにくい分野を補完するものである。 ・研修生制度は、技術・技能などの移転による国際貢献としても、また、外国人労働者の活用方法としても、きわめて不備な制度であり、かつ多くの人権侵害を伴っている。 ・一元的に対応できる政府機関が責任を果たすこと:強制帰国措置の廃止、本来の目的に基づき、労働ビザの支給などを真剣に検討する必要がある。 以上の2人の講演と報告が終わった後、国連組織の勤務経験をもつ財団法人アジア21世紀奨学財団常務理事の角田英一氏が進行役・コーディネーターとして、二人の講師をパネラーに、パネルディスカッションが行われた。予定時間を超過してまで、たくさんの熱気溢れる質問とコメントが行われ、講師と参加者の間には、有益な意見交換が行われた。質問とコメントをすべて紹介できないが、最も印象に残った一つは「外国人の受け入れは政治家がよく口にする日本の“国益”に利するか」である。宮島先生やイコさんのコメントを聞きながら、“国益”を定義するのは難しいが、今の日本における外国人受け入れの制度や意識の遅れこそ、日本の“国益”を損なっているのではないかとの印象をもった。この点、難民受け入れに対しても同様である。現状は決して楽観すべきではないが、宮島先生からは、日本社会における日本人の意識の変化も紹介され希望も見えている。フロアからは、マスメディアが意識的に作り上げた外国人イメージの虚像が指摘され、さらに留学生からは、日本からの人口流出も併せて考えたり、最近の北東アジアにおける激しい人口移動の一環として考えるなど、問題意識を変えれば物事がまったく異なる視点からも捉えるという刺激的な発想法も紹介された。 今回のフォーラムで取り上げられた「日本社会は外国人をどう受け入れるべきか」という問題は、われわれ「人的資源と技術移転」研究チームが取り組んでいる課題に大いに参考になるものであった。グローバル化が進み、国境を越えた人の移動がますます活発化する中で、国益と人権、差別と平等、グローバル化の中における国と人間のあり方、文化の独自性と普遍性、自国文化の保護と他者への関心・思いやりと尊重、そして、日本と東アジア、日本と世界の共栄共存などを考える上で大変大きな示唆を得た。2時間にわたって行われた第13回SGRAフォーラムは、午後8時半に幕を閉じた。 (文責:徐向東)
  • 2003.11.14

    第13回フォーラム「日本は外国人をどう受け入れるべきか」報告

     2003年11月14日(金)午後6時半より、第13回SGRAフォーラム「日本は外国人をどう受け入れるべきか」が、東京国際フォーラムG棟402号室で開催された。今回のフォーラムは、「人的資源と技術移転」研究チームの研究活動の一環として行われたものでもある。会場には、非会員30名も含む70名近くの方々が集まり、このテーマに関する関心の高さを示した。    SGRA研究会の今西代表による開会挨拶の後、2人の講師による講演が行われた。ゲスト講師として迎えた立教大学社会学部の宮島喬教授は、「移民国日本へ?ヨーロッパとの比較の中で考える」というテーマで講演を行った。宮島先生は、日本を代表する社会学者で、特に文化社会学の領域においては、第一人者的な存在である。かつてヨーロッパで研究生活を送った宮島先生は、ヨーロッパ社会における移民問題に詳しく、近年、ヨーロッパとの比較の視点で、日本の外国人問題の研究も行われ、外国人問題や移民政策に数多くの提言を行われた。宮島先生の講演は、日本における外国人受け入れの文化、意識、社会制度の問題点を浮き彫りにし、そして具体的な提言を含めて、日本が移民国として成立する可能性を検討された大変興味深いものであった。    宮島先生の講演要旨をまとめると以下の通りになる。   ・加速する少子高齢化の日本社会は、21世紀の早い時期に、海外から人の受け入れを図らねばならないが、日本社会の制度改革が立ち遅れている。 ・日本の人口構造は、すでに事実上の「移民国」に近い。このことを直視し、制度、意識の両面でヨーロッパの移民先進国に学ばなければならない。 ・技能実習制度の弊害からみえたように、世界から優れた人材を受け入れるという短期国益中心のロジックは必ず失敗する。 ・日本における外国人を受け入れるという意識、施策が極めて貧困である。 ・日本は「移民小国」からの脱却を意識し、難民受け入れなどを含めた国際義務も果たすべきである。 ・さらに、長期ビザの導入、年金脱退一時金制度の改善、配偶者ビザの永住者ビザへの切り替え、血統主義を改め出生地主義の考え方の導入、帰化手続きの簡素化と透明化、外国人の子供の教育体制の改善、国民への啓発などの外国人受け入れ問題を再検討する必要がある。    SGRA研究員で東京大学工学研究科博士課程のイコ・プラムティオノさんは、「研修生制度の現状と問題点――インドネシア研修生の事例として」と題する報告を行った。イコさんは東大で電子情報工学の研究を進めながら、1999年から、外国研修生ネットワークの一員として研修生問題に取り組み、2000年にインドネシア研修生相談フォーラム(KFTI)を設立し、以降代表としてインドネシア人研修生を中心にアドボカシー活動を従事してきた。イコさんはこうした体験を交えながら、「研修という名のもとにおける単純労働力の導入」という、日本で働く外国人研修生の厳しい現実を紹介してくださり、聴衆にとっては大変刺激的な報告だった。イコさんの講演の前半は、主に日本における外国人研修生制度の経緯と受け入れ状況の紹介で、後半は、研修生制度の問題点を指摘し、いくつかの政策提言を行った。イコさんが指摘した問題点と提言を要約すると主に以下のようになる。   ・研修生制度の「建前」は、技術・技能または知識の開発途上国への移転を図り、それらの国などの経済発展を担う人作りに貢献することであるが、「本音」は、日本社会が必要とする単純労働者の導入である。実態としては、中小零細企業など日本人労働者の集まりにくい分野を補完するものである。 ・研修生制度は、技術・技能などの移転による国際貢献としても、また、外国人労働者の活用方法としても、きわめて不備な制度であり、かつ多くの人権侵害を伴っている。 ・一元的に対応できる政府機関が責任を果たすこと:強制帰国措置の廃止、本来の目的に基づき、労働ビザの支給などを真剣に検討する必要がある。    以上の2人の講演と報告が終わった後、国連組織の勤務経験をもつ財団法人アジア21世紀奨学財団常務理事の角田英一氏が進行役・コーディネーターとして、二人の講師をパネラーに、パネルディスカッションが行われた。予定時間を超過してまで、たくさんの熱気溢れる質問とコメントが行われ、講師と参加者の間には、有益な意見交換が行われた。質問とコメントをすべて紹介できないが、最も印象に残った一つは「外国人の受け入れは政治家がよく口にする日本の“国益”に利するか」である。宮島先生やイコさんのコメントを聞きながら、“国益”を定義するのは難しいが、今の日本における外国人受け入れの制度や意識の遅れこそ、日本の“国益”を損なっているのではないかとの印象をもった。この点、難民受け入れに対しても同様である。現状は決して楽観すべきではないが、宮島先生からは、日本社会における日本人の意識の変化も紹介され希望も見えている。    フロアからは、マスメディアが意識的に作り上げた外国人イメージの虚像が指摘され、さらに留学生からは、日本からの人口流出も併せて考えたり、最近の北東アジアにおける激しい人口移動の一環として考えるなど、問題意識を変えれば物事がまったく異なる視点からも捉えるという刺激的な発想法も紹介された。 今回のフォーラムで取り上げられた「日本社会は外国人をどう受け入れるべきか」という問題は、われわれ「人的資源と技術移転」研究チームが取り組んでいる課題に大いに参考になるものであった。グローバル化が進み、国境を越えた人の移動がますます活発化する中で、国益と人権、差別と平等、グローバル化の中における国と人間のあり方、文化の独自性と普遍性、自国文化の保護と他者への関心・思いやりと尊重、そして、日本と東アジア、日本と世界の共栄共存などを考える上で大変大きな示唆を得た。2時間にわたって行われた第13回SGRAフォーラムは、午後8時半に幕を閉じた。   (文責:徐向東)
  • 2003.11.14

    第13回フォーラム「日本は外国人をどう受け入れるべきか」

    2003年11月14日(金)午後6時半より、第13回SGRAフォーラム「日本は外国人をどう受け入れるべきか」が、東京国際フォーラムG棟402号室で開催された。今回のフォーラムは、「人的資源と技術移転」研究チームの研究活動の一環として行われたものでもある。会場には、非会員30名も含む70名近くの方々が集まり、このテーマに関する関心の高さを示した。   SGRA研究会の今西代表による開会挨拶の後、2人の講師による講演が行われた。ゲスト講師として迎えた立教大学社会学部の宮島喬教授は、「移民国日本へ?ヨーロッパとの比較の中で考える」というテーマで講演を行った。宮島先生は、日本を代表する社会学者で、特に文化社会学の領域においては、第一人者的な存在である。かつてヨーロッパで研究生活を送った宮島先生は、ヨーロッパ社会における移民問題に詳しく、近年、ヨーロッパとの比較の視点で、日本の外国人問題の研究も行われ、外国人問題や移民政策に数多くの提言を行われた。宮島先生の講演は、日本における外国人受け入れの文化、意識、社会制度の問題点を浮き彫りにし、そして具体的な提言を含めて、日本が移民国として成立する可能性を検討された大変興味深いものであった。 宮島先生の講演要旨をまとめると以下の通りになる。 ・加速する少子高齢化の日本社会は、21世紀の早い時期に、海外から人の受け入れを図らねばならないが、日本社会の制度改革が立ち遅れている。 ・日本の人口構造は、すでに事実上の「移民国」に近い。このことを直視し、制度、意識の両面でヨーロッパの移民先進国に学ばなければならない。 ・技能実習制度の弊害からみえたように、世界から優れた人材を受け入れるという短期国益中心のロジックは必ず失敗する。 ・日本における外国人を受け入れるという意識、施策が極めて貧困である。 ・日本は「移民小国」からの脱却を意識し、難民受け入れなどを含めた国際義務も果たすべきである。 ・さらに、長期ビザの導入、年金脱退一時金制度の改善、配偶者ビザの永住者ビザへの切り替え、血統主義を改め出生地主義の考え方の導入、帰化手続きの簡素化と透明化、外国人の子供の教育体制の改善、国民への啓発などの外国人受け入れ問題を再検討する必要がある。   SGRA研究員で東京大学工学研究科博士課程のイコ・プラムティオノさんは、「研修生制度の現状と問題点――インドネシア研修生の事例として」と題する報告を行った。イコさんは東大で電子情報工学の研究を進めながら、1999年から、外国研修生ネットワークの一員として研修生問題に取り組み、2000年にインドネシア研修生相談フォーラム(KFTI)を設立し、以降代表としてインドネシア人研修生を中心にアドボカシー活動を従事してきた。イコさんはこうした体験を交えながら、「研修という名のもとにおける単純労働力の導入」という、日本で働く外国人研修生の厳しい現実を紹介してくださり、聴衆にとっては大変刺激的な報告だった。イコさんの講演の前半は、主に日本における外国人研修生制度の経緯と受け入れ状況の紹介で、後半は、研修生制度の問題点を指摘し、いくつかの政策提言を行った。イコさんが指摘した問題点と提言を要約すると主に以下のようになる。 ・研修生制度の「建前」は、技術・技能または知識の開発途上国への移転を図り、それらの国などの経済発展を担う人作りに貢献することであるが、「本音」は、日本社会が必要とする単純労働者の導入である。実態としては、中小零細企業など日本人労働者の集まりにくい分野を補完するものである。 ・研修生制度は、技術・技能などの移転による国際貢献としても、また、外国人労働者の活用方法としても、きわめて不備な制度であり、かつ多くの人権侵害を伴っている。 ・一元的に対応できる政府機関が責任を果たすこと:強制帰国措置の廃止、本来の目的に基づき、労働ビザの支給などを真剣に検討する必要がある。   以上の2人の講演と報告が終わった後、国連組織の勤務経験をもつ財団法人アジア21世紀奨学財団常務理事の角田英一氏が進行役・コーディネーターとして、二人の講師をパネラーに、パネルディスカッションが行われた。予定時間を超過してまで、たくさんの熱気溢れる質問とコメントが行われ、講師と参加者の間には、有益な意見交換が行われた。質問とコメントをすべて紹介できないが、最も印象に残った一つは「外国人の受け入れは政治家がよく口にする日本の“国益”に利するか」である。宮島先生やイコさんのコメントを聞きながら、“国益”を定義するのは難しいが、今の日本における外国人受け入れの制度や意識の遅れこそ、日本の“国益”を損なっているのではないかとの印象をもった。この点、難民受け入れに対しても同様である。現状は決して楽観すべきではないが、宮島先生からは、日本社会における日本人の意識の変化も紹介され希望も見えている。フロアからは、マスメディアが意識的に作り上げた外国人イメージの虚像が指摘され、さらに留学生からは、日本からの人口流出も併せて考えたり、最近の北東アジアにおける激しい人口移動の一環として考えるなど、問題意識を変えれば物事がまったく異なる視点からも捉えるという刺激的な発想法も紹介された。   今回のフォーラムで取り上げられた「日本社会は外国人をどう受け入れるべきか」という問題は、われわれ「人的資源と技術移転」研究チームが取り組んでいる課題に大いに参考になるものであった。グローバル化が進み、国境を越えた人の移動がますます活発化する中で、国益と人権、差別と平等、グローバル化の中における国と人間のあり方、文化の独自性と普遍性、自国文化の保護と他者への関心・思いやりと尊重、そして、日本と東アジア、日本と世界の共栄共存などを考える上で大変大きな示唆を得た。2時間にわたって行われた第13回SGRAフォーラムは、午後8時半に幕を閉じた。 (文責:徐向東) 
  • 2003.10.21

    第3回日韓アジア未来フォーラム「アジア共同体構築に向けての日本および韓国の役割について」

    第3回日韓アジア未来フォーラム「アジア共同体構築に向けての日本および韓国の役割について」がソウル市から車で約2時間の陽平(ヤンピョン)で10月21日と22日に開催された。このフォーラムは、韓国未来人力研究院/21世紀日本研究グループと、渥美財団/SGRAの共同事業で、毎年相互に訪問し、フォーラムを開催している。陽平は、日本でいえば軽井沢のような町で、その山奥に今回のホストの未来人力研究院の研修館があり、雨あがりで霧に覆われた山を眺めながらフォーラムの前半が始まった。   今回のフォーラムのSGRA側の担当「グローバル化のなかの日本の独自性」研究チームの顧問、名古屋大学の平川均教授が東アジア全体の観点からフォーラムのテーマについて基調講演を行った。北東アジアの課題から東アジア(北東アジア+ASEAN)の課題の時代への移行は可能であるかどうか、東アジアのアイデンティティについて検討し、日本に対しては、大東亜共栄圏論を越える東アジア概念の構築とその実践という課題を、韓国に対してはASEANとの関係強化と東アジア共同体論の推進者という役割を指摘した。   韓国中央大学の孫洌氏は「東アジア・東北アジア経済共同体構想と韓国」について発表した。韓国が「東北アジア経済中心」を目指していくうえで、もっとも重要なのは、韓国が考えている空間的な枠組みに日本と中国をどうやって組み入れるかということだと指摘した。SGRA研究員で仁荷大学の金雄熙氏は「日・中・韓IT協力の政治経済」について発表した。東北アジアにおいてITの分野で韓国が推進的な役割を果たし、世界のITリーダーである米国に国際標準が取られないように、東北アジア3カ国間の協力体制の構築を訴えた。SGRA研究員で名古屋大学客員研究員のF.マキト氏は、フォーラムで初めての東南アジアからの参加者として「アジア開発銀行の独自性研究:その概観」について発表した。東アジアで多様性を維持する日本の役割・責任を、アジア開発銀行を事例として取り上げた。   ここで第1日目のフォーラムは終了したが、その後も、陽平の寒い夜にもかかわらず、韓国の焼肉バーベキューとSPIRITで体を温めながら、日本からの留学生を含む学生達も一緒に、遅くまで議論がはずんだ。   翌朝は、韓国風の朝食の後、今回のゲスト講師の東京大学の木宮正史氏が「韓国外交のダイナミスムと日韓関係:公共材としての日韓関係の構築に向けて」について発表した。東北アジアが共有する様々な分野において市場を超えるような問題に対応できる日韓協力の必要性と難点を指摘した。最後に、21世紀日本研究グループの代表で、韓国国民大学の李元徳氏が「北東アジア共同体の構築と北朝鮮問題」について発表した。この地域の安全保障において最重要課題である北朝鮮、それに対する6カ国協議を評価し、これからの展開について検証した。その後、参加者からコメントや感想が寄せられ、フォーラムは午前11時半に終了した。   来年の日韓アジア未来フォーラムは、「東アジアの安全保障と世界平和」研究チームが担当し、来年の7月に軽井沢で開催する予定である。   (文責:F.マキト)  
  • 2003.07.19

    第12回フォーラム報告②「地球益を考慮した国際理解と行動こそ、地球温暖化を解決する唯一の道」

    SGRA環境とエネルギー研究チームチーフ 高 偉俊   2003年7月19日(土)、第12回SGRAフォーラムin軽井沢「環境問題と国際協力:COP3の目標は実現可能か」が開催された。渥美財団の渥美伊都子理事長、韓国高麗大学の李鎮奎教授、留学生ら40名が参加した。開会にあたり、SGRA今西淳子代表から、地球市民を目指す当研究会が地球温暖化問題の理解を深め、地球温暖化防止にどのような役割を果せるか、そのスタートとして本フォーラムへの期待が寄せられた。   フォーラムでは先ず外岡豊埼玉大学経済学部社会環境設計学科教授に「地球温暖化防止のための国際協力」と題した基調講演をしていただいた。外岡教授は地球温暖化問題の本質、温暖化がもたらす気候変動の危機的状況を説明し、参加者の共感を促した。さらに問題を解決するための国際協力について、地球と人類の500万年の歴史を踏まえること(20世紀は異常!)、USA型自由競争社会でなくEU型共存社会をめざすべきこと、そして、南北問題と同様に地球温暖化防止ための国際協力は簡単ではないことを説明した。国際協力を成功させるためには、相互信頼・相互理解の推進ともに、目的意識を共有しなければならない。排出取引、共同実施、CDM(クリーン・デベロップメント・メカニズム)や吸収源評価等には多くの抜け道があるものの、京都会議(COP3)の目標を実現するためには、スタートすることが重要で、共同作業による経験の蓄積から始める以外に道はないと指摘した。そして、このように各国からの留学生が集まって地球環境問題を討議するこのフォーラムの意義を強調した。   SGRA研究報告では、先ずSGRA運営委員で独立行政法人建築研究所の李海峰博士から「ビジュアルに見る東京ヒートアイランド」の報告があり、地球環境温暖化の縮影として、巨大都市温暖化の深刻さをビジュアルに参加者に見せながら、ヒートアイランドが都市の居住性を損なっていることを警告した。   SGRA研究員で鳥取環境大学専任講師の鄭成春博士は「カリフォルニアにおけるRECLAIM制度の最近動向報告」と題し、アメリカ・カリフォルニア州の事例を通して大気汚染物の排出権取引制度の事例を紹介し、その成果及び問題点を報告した。鄭氏はその制度をある程度は評価したものの、制度自体が様々な抜け道をたくさん用意したことを批判し、企業が排出量の削減への努力よりも安い排出権を買い自助努力を怠った事実を指摘した。そして、排出取引権が長期的な見通しのないまま、市場万能主義にはしる発想は非常に危険であると結論づけた。   SGRA環境とエネルギー研究チームのチーフで、北九州市立大学の高偉俊助教授は「(中国だけではなく)途上国からみたCOP3目標の実施」と題し、途上国の視点から京都メカニズム(排出権取引、共同実施、クリーン開発メカニズム)を検証した。排出権取引等は先進国が自助努力を放棄し、安易に途上国等から排出権を買う危険性があることを指摘し、温暖化という地球環境問題を解決するための京都議定書が、逆に環境を破壊し南北問題を拡大するかもしれないと警告した。また、植林によるCO2削減効果の計測方法は科学的にまだ立証されていないので、吸収源として認めるのは合理的でない。排出権取引の利益を排出削減に寄与する財源として用いる場合のみ、排出権を認める国際的な監視体制が必要であると主張した。   引き続き、アジア各国の地球温暖化防止への取り組み状況の調査報告があった。ベトナム人間科学研究所のブ・ティ・ミン・チィ博士は、現在ベトナムではまだ地球温暖化への関心が薄く、今後貧困問題の解決を含めて、環境教育の重視が必要だと指摘した。一橋大学のマンダフ・アリウンサイハン氏は、モンゴルが地球温暖化など気候変動により大きな影響を受けている実態を報告し、地球温暖化を阻止することはモンゴルの国益にとって重要な課題の一つであると主張した。韓国の取り組みに関しては、鄭成春博士(前出)が報告を行った。未だ先進国グループから免れている韓国は、地球温暖化防止に関する認識はあるものの、実施に関しては、産業に対する影響を考え、できれば次の次のCOPまで削減義務を課せられない立場でいたいと思っていること、それまでは、拘束力のない枠組みのもとで自発的な削減に努力するという方針が政府の立場となっていることが報告された。テンプル大学ジャパンのF.マキト博士は、地球温暖化防止に関しては、フィリピン政府は早い段階で調印したものの、いまだに批准していないが、温暖化による水温の上昇によって、世界遺産のTubbatahaサンゴ・パークが危なく、水面上昇による影響も大きいことから、早い時期に批准されるだろうと予測した。   最後のパネルディスカッションでは、地球温暖化防止実現ための排出権取引に焦点を当てさらに議論を交えた。排出権に関しては、色々な抜け道があり、不完全なものではあるが、環境は無料ではないこと、また現時点では国際協力で得られた重要な成果であること、今後の運営方法によっては大きな成果を挙げる可能性があること等が話し合われた。実現のためには、発展途上国の視点からの議論が必要であり、安易に排出取引権を利用するのは危険であり、このための国際的な監視体制が必要であるという共通認識をもたらしたと、司会の李海峰博士が締めくくった。   閉会挨拶として、SGRAの担当研究チームの顧問で、国際人間環境研究所代表・早稲田大学名誉教授の木村建一博士よりフォーラムの総括をいただいた。地球益を重視し、国際交流や相互理解のもとで問題の解決を試みるSGRAの努力を評価し、更なる活動を期待すると励ましの言葉を頂いた。 
  • 2003.07.18

    第12回フォーラム「環境問題と国際協力:COP3の目標は実現可能か」報告

    2003年7月18日(金)及び19日(土)、鹿島建設軽井沢研修センター会議室で、第12回SGRAフォーラムが開催された。今回のフォーラムにおいては、18日午後8時から10時までの分科会で、ベトナム・タンロン大学のフィン・ムイ先生からベトナムの廃棄物問題を含めた様々なベトナムの事情についての報告がなされた。また、19日午後2時から6時までの本会議では、「環境問題と国際協力:COP3の目標は実現可能か」というテーマについて、基調講演と研究報告さらにアジア各国の状況調査報告があり、その後有益な議論とディスカッションが行われた。以下は、その概略である。   「ベトナムからの報告」 by フィン・ムイ   ベトナムの環境問題に長年携わってこられたムイ先生から、最近のベトナムの廃棄物問題について、先生の個人的な経験を中心に報告があった。ベトナムはまだ発展途上国であり、日本のような先進国が直面している廃棄物問題とは違う性質の廃棄物問題、一言で言えば、「衛生問題としての廃棄物問題」に直面している。この問題を解決するために、ムイ先生は、適切な廃棄物の処理施設を整備することが重要だと主張し、自ら地方政府を説得して、衛生的な処理施設を建設した経験を紹介してくださった。   一方、途上国の直面するもう一つの重大な問題は「貧困と環境破壊の悪循環」という問題である。ムイ先生は、ベトナムの少数民族の事例を取り上げて、貧困がもたらした環境破壊の実態、すなわち、従来の農法によって進行する砂漠化、砂漠化によって深刻化する生活の厳しさについて、詳しい報告がなされた。と同時に、このような悪循環を断ち切るための住民自らの試み、すなわち、我慢強い植林活動についての紹介もあった。また、このような悪循環を断ち切るためには教育が重要であると強調された。   「環境問題と国際協力:COP3の目標は実現可能か」 by SGRA環境・エネルギー研究チーム   地球温暖化を防止するための国際協力をテーマにした今回のフォーラムにおいては、埼玉大学の外岡豊教授をゲストに迎え、「地球温暖化防止のための国際協力」というタイトルで基調講演をしていただいた。地球温暖化は20世紀後半のビジネス社会が招いた人類最大の問題であることを強調しながら、この問題を解決するためには、それぞれの考え方や慣習を持つ国々が互いに理解を深め、協同作業を積み重ねるしか方法はないと熱く語られた。   ゲスト講演の後、SGRA環境・エネルギー研究チームの3人の研究員からの研究報告がなされた。まず、李海峰研究員は、東京におけるヒートアイランド現象の深刻さについて、具体的なデータや図を見せながら、地球温暖化とヒートアイランドによって大都市の住居性が著しく損なわれる可能性が高いと警告した。鄭成春研究員は、排出権取引制度の事例として「カリフォルニア州のRECLAIMプログラム」を取り上げ、排出権取引制度が成功するためにはきめ細かい制度設計が必要である点を強調した。高偉俊研究員は、中国抜きでは地球温暖化問題の解決はできないと主張しながら、中国における温室効果ガスの排出及び対策についての報告を行った。最後に、ベトナム、韓国、モンゴル、フィリピンにおける各国の地球温暖化対策の現状についての報告があった。   以上の基調講演、研究報告を踏まえながら、約1時間にわたるパネル・ディスカッションが行われた。そこでの結論は、今できることを一つ一つ実践しながら、その実績を積み重ねていくことが最も大事である、という点であった。今回のフォーラムは、この面から見ると、各国の研究者たちが集まり、地球温暖化問題についての議論を重ね、互いに理解を深める貴重な場としての意義を持つと思われる。   (文責:鄭成春)