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2023.02.22
第72 回SGRAフォーラム
第8回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性
「20世紀の戦争・植民地支配と和解はどのように語られてきたのか
――教育・メディア・研究」
第72届SGRA论坛
第8届日本・中国・韩国国史对话的可能性
「20世纪的战争・殖民统治与和解的历史叙述―教育・媒介・研究」
제72회 SGRA 포럼
제8회 한국·일본·중국 간 국사들의 대화 가능성
「20세기의 전쟁·식민지 지배와 화해는 어떻게 이야기되어 왔는가: 교육·미디어·연구」
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List of Presentation Titles / Ptogram:
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【Session2 Subthem:教育】
金 泰雄 KIM Taewoong (ソウル大学)
「解放後における韓国人知識人層の脱植民地への議論と歴史叙述の構成の変化」
《解放后韩国知识界的去殖民话语及历史叙事架构的变化》
“해방 후 한국인 식자층의 탈식민 담론과 역사서사 구성의 변화 ”
Abstract 日本語 中文 한국어
Paper 日本語 中文 한국어
唐 小兵 TANG Xiaobing (華東師範大学)
「歴史をめぐる記憶の戦争と著述の倫理
——20世紀半ばの中国に関する『歴史の戦い』」
《历史记忆的战争与历史书写的伦理
——有关20世纪中期中国的“历史之战”》
“역사 기억 전쟁과 역사 글쓰기 윤리—20세기 중반 중국의 역사전쟁”
Abstract 日本語 中文 한국어
Paper 日本語 中文 한국어
塩出浩之 SHIODE Hiroyuki (京都大学)
「日本の歴史教育は戦争と植民地支配をどう伝えてきたか――教科書と教育現場から考える」
《日本的历史教育如何讲述战争与殖民统治——基于教科书与教育现场的思考――》
“일본의 역사교육은 전쟁과 식민지 지배를 어떻게 전해왔는가: 교과서와 교육 현장에서 생각하다”
Abstract 日本語 中文 한국어
Paper 日本語 中文 한국어
【Session3 Subthem:メディア(Media)】
江 沛 JIANG Pei (南開大学)
「保身、愛国と屈服:ある偽 満州国の『協力者』の心理状態に対する考察」
《自保、爱国与屈从:一个伪满“合作者”的心态探微》
“자기 보호, 애국 및 굴종: 위만(偽満, ‘만주국’) '협력자'의 심리 탐색”
Abstract 日本語 中文 한국어
Paper 日本語 中文 한국어
福間良明 FUKUMA Yoshiaki (立命館大学)
「戦後日本のメディア文化と『戦争の語り』の変容」
《战后日本的媒体文化与“战争叙事”之变迁》
“전후 일본의 미디어 문화와 ‘전쟁 이야기’의 변용”
Abstract 日本語 中文 한국어
Paper 日本語 中文 한국어
李 基勳 LEE Kihoon (延世大学)
「現代韓国メディアの植民地、戦争経験の形象化とその影響-映画、ドラマを中心に」
《现代韩国媒体的殖民地,战争经验形象化及其影响——以电影、电视剧为中心》
“현대 한국 미디어의 식민지, 전쟁 경험 형상화와 그 영향 – 영화, 드라마를 중심으로”
Abstract 日本語 中文 한국어
Paper 日本語 中文 한국어
【Session4 Subthem:研究】
安岡健一 YASUOKA Kenichi (大阪大学)
「『わたし』の歴史、『わたしたち』の歴史―色川大吉の『自分史』論を手がかりに」
《“我”的历史,“我们”的历史——以色川大吉的“本人史”论为线索》
“‘나’의 역사, ‘우리들’의 역사: 이로카와 다이키치의 ‘자기역사(自分史)’론을 단서로”
Abstract 日本語 中文 한국어
Paper 日本語 中文 한국어
梁 知恵 YANG Jihye (東北亜歴史財団 )
「『発展』を越える、新しい歴史叙述の可能性:韓国における植民地期経済史研究の行方」
《在“发展”之外,书写新的历史的可能性:韩国殖民地时期经济史研究的方向》
“‘발전’ 너머, 새로운 역사쓰기의 가능성: 한국의 식민지기 경제사 연구의 향방”
Abstract 日本語 中文 한국어
Paper 日本語 中文 한국어
陳 紅民 CHEN Hongmin (浙江大学)
「民国期の中国人は『日本軍閥』という概念をどのように認識したか」
《民国时期中国人对“日本军阀”的认知》
“중화민국기 중국인은 “일본 군벌”이라는 개념을 어떻게 인식했을까”
Abstract 日本語 中文 한국어
Paper 日本語 中文 한국어
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Info Pack(Web Version):
日本語 (招待参加者用。閲覧にはパスワードが必要です。)
中文 (供受邀与会者使用。 需要密码才能查看。)
한국어 (초대된 참가자용입니다. 열람하려면 비밀번호가 필요합니다.)
Info Pack(PDF Version):
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中文 (供受邀与会者使用。 需要密码才能查看。)
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横浜視察参考資料
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2022.09.15
「第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話」は、2022年8月6日にオンラインで開催された。テーマは「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」だった。歴史大衆化と「パブリック・ヒストリー」は国籍や専攻分野を飛び越えて対話のできるテーマであり、実際に時間が不足するほど熱を帯びた議論が交わされた。
第1セッションは李恩民先生(桜美林大学)の司会で進められた。彭浩先生(大阪公立大学)による開催の趣旨に続き、韓成敏先生(高麗大学)の問題提起があった。2019年にフィリピンで開かれた「第4回国史たちの対話」以来、情熱的に参加し鋭いご意見を頂いている韓先生の問題提起は時宜を得たものだった。その題目は「『歴史の大衆化』について話しましょう」。韓先生は普段から同僚の学者たちと共に同テーマについて深く考えており、今回の問題提起はそういった議論をまとめたものでもあった。
韓国の事例を歴史学の危機と歴史学者の危機、そして現実的問題(歴史学科の存続と卒業生の就職)といった三つの部分に分けて紹介した。要するに、時代の変化に応じて歴史学も変わり対応すべきということだった。歴史学者による歴史への独占の時代が終わったことを認め、変化しなければならないということだ。
韓先生はその対応策の一つとして「パブリック・ヒストリー」を紹介した。この概念や手法はまだ日中韓の3カ国で理論として定着しているわけではないが、その取り組みは早ければ早いほど良いという。「歴史学が自らの存在意義を証明すべき時期」という提言も同時になされた。
これに対し、指定討論者の日中韓の研究者である中国の鄭潔西先生(温州大学)、日本の村和明先生(東京大学)、韓国の沈哲基先生(延世大学)たちは、慎重ながらも積極的に意見を提示した。各者から似てはいるが、それぞれ異なる考えを示していただいた点は興味深かった。国ごとに、例えば歴史家が譲ってはいけないことなどの「歴史学界の権威」や、これからの役割などについてある程度違いも見られた。特に中国の場合、大衆の歴史議論への参加が活発で、これを肯定的に捉える観点があるように思った。にもかかわらず、ニューメディアと共に非専門的な歴史家たちが大衆の求めるところに便乗する場面と、歴史学が職業として安定性を失っている現状(就職の困難さ)は共通しているようだった。これは世界的な問題なのか。「パブリック・ヒストリー」というオルタナティブを認め、そのためのスペースが用意されるべきという意見もあった。また、3カ国で共通して「パブリック・ヒストリー」の範囲を定め、概念を定義する必要性も呼びかけられた。
第2セッションは南基正先生(ソウル大学)の司会。まず劉傑先生(早稲田大学)の論点整理があった。歴史が政治と関わって、道具になってしまう場合に注意しなければならない点、一般の歴史家が克服すべき問題、歴史家が対応しきれていない問題について触れられた。
自由討論では次のような議論があった。歴史的経験から始まる活発な「大衆の歴史」の様子、メディアと急激に変化する世界という現状を指摘した毛立坤先生(南開大学)。国家が管理してきた歴史に対する挑戦は常にあったから、歴史の大衆化は必然的と指摘、人々皆が自ら歴史家になりたいというのがパブリック・ヒストリーの核心であり、むしろ、機会であり多様性を認め包容力を持つ態度が重要である。しかし、もちろん、度が過ぎた商業化、政治的介入、歴史修正主義などの「耐えられないこと」は拒否すべきであるという金ホ先生(ソウル大学)。また、塩出浩之先生(京都大学)や佐藤雄基先生(立教大学)は、前向きに大衆の歴史を受け止め、機会と捉えるべきで、大衆の歴史の効果性もあると指摘した。
比較的楽観的もしくは歴史学者の積極的な変化を促すこうした見解以外にも様々な意見があった。平山昇先生(神奈川大学)は、この現象が近代日本において歴史的に存在していた事実を思い出すべきということを強調した。村先生は危機と機会の両立には賛成だが、歴史専門家が専門家以外の人々と話を進められるかについては懐疑的な見解を示した。いわゆる疑似歴史学の最も大きな危険性は社会を分断させることで、例えば、「敵を作り出すこと」という指摘は重要だ。二つの食い違った議論ではなく、実際には歴史学者として似たような悩みを抱えつつ、やや違うオルタナティブを考えているように感じた。歴史大衆化は歴史学者の皆が考え抜く問題であり、はねのけて勝利するような種類の問題ではないと考える。
第3セッションは再び李恩民先生の司会で、三谷博先生(東京大学名誉教授)の総括及び趙珖先生(高麗大学名誉教授)の閉会挨拶で幕を閉じた。両先生ともに「若き」研究者たちの悩みに理解を示し、ねぎらいの言葉も頂いた。
今回の「対話」は肩の荷を少し下ろして、自由に話をしようというのがねらいの一つだっただろう。しかし、対話をしてみたら、同じ悩みを抱えている研究者らの話を伺って、嬉しい気持ちになる一方で、重荷を担わされた気がした。これからの歴史学者の役割はどうなるか。今回の対話で我々は「大衆」という用語を用いたが、大衆もひとくくりにして捉えてはいけないだろう。大衆の中には善悪が明確に分けられた感動的な歴史物語が好きな人、特定分野に関して専門の研究者よりマニアックな興味関心を持っている人、暗記中心の歴史教育により興味を失った人もいるだろう。もしくは自分が知っていた歴史は全て偽物だと、いわゆる歴史修正主義に傾く人もいるかもしれない。一人の歴史研究者が全ての大衆を満足させることはできないだろうが、このように多様な大衆の前で歴史専門家として果たすべき役割は確かにあると思う。
筆者は大衆向けの講演と学術会議の中間に位置付けられるような催し・イベントにたまに足を運ぶ。しかし、そうした催しが、面白くなく、感動的でもないという話を聞くことがある。歴史ドラマのような感動的な講演を求めていた方々だったのだ。最初は納得できないところもあったが、今はそうは思わないようにしている。時にそれらの方々の興味に合わせ面白い話をいくつか用意することもある。
最近は一つの職業にも多様な役割が求められているように感じる。これからは歴史研究者も良い学術論文を書く基本的な任務以外に、大衆が少なくとも間違った歴史に引き込まれないように方向を案内する役割を担わなければならないと思う。もちろん大衆が受け入れられる言語と形式で。面白くても間違った話であればそれを直すべきだろうし、歴史マニアが看過しがちな歴史的な洞察力を提示すべきだ。大衆向けの書籍や外国の良い書籍を翻訳する作業、多様なメディアを用い、正確な歴史を教えること等が具体的な方法になるだろう。そういった仕事を学者の役割ではないとして無視してはならないし、ひるんでもならないと思う。現代社会で大衆とのつながりは歴史研究者の義務だと思う。できること、すべきことは、しなければならない。化石のような学問に満足すると、そのような役割しか担うことができないだろう。
当日の写真
アンケート集計結果
■ 金キョンテ(キム・キョンテ)KIM_Kyongtae
韓国浦項市生まれ。韓国史専攻。高麗大学韓国史学科博士課程中の2010年~2011年、東京大学大学院日本文化研究専攻(日本史学)外国人研究生。2014年高麗大学韓国史学科で博士号取得。韓国学中央研究院研究員、高麗大学人文力量強化事業団研究教授を経て、全南大学歴史敎育科助教授。戦争の破壊的な本性と戦争が荒らした土地にも必ず生まれ育つ平和の歴史に関心を持っている。主な著作:壬辰戦争期講和交渉研究(博士論文)、虚勢と妥協-壬辰倭乱をめぐる三国の協商-(東北亜歴史財団、2019)
(原文は韓国語、翻訳:尹在彦)
2022年9月15日配信
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2022.07.21
第69回SGRAフォーラム
第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性
「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」
第69届SGRA论坛
第7届日本・中国・韩国国史对话的可能性
「“历史大众化”与东亚历史学」
제69회 SGRA 포럼
제7회 한국・일본・중국 간 국사들의 대화 가능성
「‘역사 대중화’와 동아시아의 역사학」
日 時:2022年8月6 日(土)午後2時~午後5時(日本、韓国時間)午後1時~午後4時(中国時間)
主 催: 渥美国際交流財団関口GLOBAL研究会(SGRA)
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概要Project Plan : 日本語 中国語 韓国語
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【Session 1】
◆問題提起
韓 成敏(世宗大学)
「『歴史大衆化』について話しましょう」
「一起聊聊 “历史大众化”」
「“역사의 대중화”에 대해 함께 생각해 봅시다」
要旨: 日本語 中国語 韓国語(原文)
PPT: 日本語 中国語 韓国語(原文)
◆指定討論
鄭 潔西(温州大学)
要旨: 日本語 中国語(原文) 韓国語
村 和明(東京大学)
要旨: 日本語(原文) 中国語 韓国語
沈 哲基(延世大学)
要旨: 日本語 中国語 韓国語(原文)
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2022.05.17
下記の通り第7回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。
テーマ:「『歴史大衆化』と東アジアの歴史学」
日 時:2022年8月6 日(土)午後2時~午後5時(日本時間)
方 法: オンライン(Zoom ウェビナーによる)
言 語:日中韓3言語同時通訳付き
主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
助 成:(公財)鹿島学術振興財団
※参加申込(クリックして登録してください)
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■開催趣旨
新型コロナ感染症蔓延が続くなか、「国史たちの対話」ではオンラインでのシンポジウムを開催し、一定の成功を収めてきたと考える。イベントを開催する環境にはなお大きな改善が期待しづらいことを踏まえ、引き続き従来参加してきた人々のなかでの対話を深めることを重視した企画を立てた。
大きな狙いは、各国の歴史学の現状をめぐって国史研究者たちが抱えている悩みを語り合い、各国の現状についての理解を共有し、今後の対話に活かしてゆきたい、ということである。こうした悩みは多岐にわたる。今回はその中から、各国の社会情勢の変貌、さまざまなメディア、特にインターネットの急速な発達のもとで、新たな需要に応えて歴史に関係する語りが多様な形で増殖しているが、国史の専門家たちの声が歴史に関心を持つ多くの人々に届いておらず、かつ既存の歴史学がそれに対応し切れていない、という危機意識を、具体的な論題として設定したい。
共通の背景はありつつも、各国における社会の変貌のあり方により、具体的な事情は多種多様であると考えられるので、ひとまずこうした現状認識を「歴史大衆化」という言葉でくくってみた上で、各国の現状を報告して頂き、それぞれの研究者が抱えている悩みや打開策を率直に語り合う場としたい。
なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。フォーラム終了後は講演録(SGRAレポート)を作成し、参加者によるエッセイ等をメールマガジン等で広く社会に発信する。
■問題提起
韓 成敏(高麗大学)
「『歴史大衆化』について話しましょう」
■プログラム
第1セッション(14:00-15:20) 総合司会: 李 恩民(桜美林大学)
【開会の趣旨】彭浩(大阪公立大学)
【問題提起】韓 成敏(高麗大学) 「『歴史大衆化』について話しましょう」
【指定討論】
中国:鄭 潔西(温州大学)
日本:村 和明(東京大学)
韓国:沈 哲基(延世大学)
第2セッション(15:30-16:45) 司会: 南 基正(ソウル大学)
【論点整理】劉 傑(早稲田大学)
【自由討論】パネリスト(国史対話プロジェクト参加者)
平山 昇(神奈川大学)、毛 立坤(南開大学)、金 澔(ソウル大学)、佐藤雄基(立教大学)、宋 志勇(南開大学)、塩出浩之(京都大学)、金キョンテ(全南大学)、鄭 淳一(高麗大学)
第3セッション(16:45-17:00) 総合司会: 李 恩民(桜美林大学)
【総括】三谷 博(東京大学名誉教授)
【閉会挨拶】趙 珖(高麗大学名誉教授)
※同時通訳
日本語⇔中国語:丁 莉(北京大学)、宋 剛(北京外国語大学)
日本語⇔韓国語:李 ヘリ(韓国外国語大学)、安 ヨンヒ(韓国外国語大学)
中国語⇔韓国語:金 丹実(フリーランス)、朴 賢(京都大学)
※プログラム・資料の詳細は、下記リンクをご参照ください。
・プロジェクト概要
・プロジェクト資料
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2022.01.13
SGRAレポート第96号 中国語版 韓国語版
第66回SGRAフォーラム講演録
第6回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性
「人の移動と境界・権力・民族」
2022年6月9日発行
<フォーラムの趣旨>
「国史たちの対話」企画は、自国の歴史を専門とする各国の研究者たちの対話・交流を目的として2016 年に始まり、これまで全5 回を開催した。国境を越えて多くの参加者が集い、各国の国史の現状と課題や、個別の実証研究をめぐって、議論と交流を深めてきた。第5 回
は新型コロナ流行下でも対話を継続すべく、初のオンライン開催を試み、多くの参加者から興味深い発言が得られたが、討論時間が短く、やや消化不良の印象を残した。今回はやや実験的に、自由な討論に十分な時間を割くことを主眼に、思い切った大きなテーマを掲げた。
問題提起と若干のコメントを皮切りに、国や地域、時代を超えて議論を豊かに展開し、これまで広がってきた参加者の輪の連帯を一層深めたい。
<もくじ>
第1セッション [総合司会:李 恩民(桜美林大学)]
【開会趣旨】 はじめに
村 和明(東京大学)
【問題提起】 人の移動からみる近代日本:国境・国籍・民族
塩出浩之(京都大学)
【指定討論1】 13~14世紀のモンゴル帝国期における人の移動
韓国:趙 阮(釜山大学)
【指定討論2】 中国の歴史における大規模な人口移動
中国:張 佳(復旦大学)
【指定討論3】 古代および中世日本の出入国管理
日本:榎本 渉(国際日本文化研究センター)
第2セッション 指定討論 [司会:南 基正(ソウル大学)]
【指定討論4】 近代における韓国人の移動
韓国:韓 成敏(世宗大学)
【指定討論5】 中心から辺地へ―「ゾミア」という概念―
中国:秦 方(首都師範大学)
【指定討論6】 帝国・人権・南洋―政治思想の視座から―
日本:大久保健晴(慶應義塾大学)
指定討論者への応答
塩出浩之(京都大学)
自由討論1
講師と指定討論者
第3セッション 自由討論2 [司会:彭 浩(大阪市立大学)]
論点整理:劉 傑(早稲田大学)
パネリスト(国史対話プロジェクト参加者):
市川智生(沖縄国際大学)、大川 真(中央大学)、佐藤雄基(立教大学)、
平山 昇(神奈川大学)、浅野豊美(早稲田大学)、沈 哲基(延世大学)、
南 基玄(韓国独立記念館)、金キョンテ(全南大学)、王 耀振(天津外国語大学)、
孫 継強(蘇州大学)
第4セッション 自由討論3 [司会:鄭 淳一(高麗大学)]
パネリスト(国史対話プロジェクト参加者):
市川智生(沖縄国際大学)、大川 真(中央大学)、佐藤雄基(立教大学)、
平山 昇(神奈川大学)、浅野豊美(早稲田大学)、沈 哲基(延世大学)、
南 基玄(韓国独立記念館)、金キョンテ(全南大学)、王 耀振(天津外国語大学)、
孫 継強(蘇州大学)
総括 宋 志勇(南開大学)、三谷 博(東京大学名誉教授)
閉会挨拶 趙 珖(高麗大学名誉教授)
講師略歴
あとがきにかえて
金キョンテ、三谷博
参加者リスト
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2021.10.14
(第6回「国史たちの対話」会議に参加した翌日にFacebookアカウントに投稿された文章です)
昨日、第6回目の「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」の研究集会がオンラインで開かれた。これは渥美国際交流財団の支援の下、2016年から東アジアの自国史研究者の間に対話の道を開くために開催してきたものである。国際関係や隣国史を研究している人たちは留学をきっかけに隣国人と日常的に対話してきたが、「国史」の研究者はそうした経験を持たない。20世紀から尾を引く東アジアの歴史摩擦を解消するためには、まず閉鎖環境で暮らしてきた「国史」学者たちに直接に対話してもらうことが必要である。早稲田大学の劉傑さんの首唱により、渥美財団のご理解を得て日・中・韓の歴史家たちが、ほぼ隔年に対話集会を繰り返してきた。
今回のテーマは「人の移動と境界・権力・民族」で、塩出浩之氏による基調報告の後、日中韓三国からそれぞれ二人が指定討論に立ち、その後、10人のパネリストたちによる自由討論を約3時間半にわたって展開した。以前と異なって発表はただ一人で、後はその場の展開に任せるという冒険的な試みだったが、実行委員会の村和明、李恩民、南基正、彭浩、鄭淳一氏らの周到な準備とチームワークのおかげで、充実した討論とその連鎖が実現された。今回の主力となった三国の中堅と若手の歴史家たちは、着実な史料研究を基礎として専門分野と所属国を越える対話に積極的に踏み込み、学術討論を立派に成し遂げた。年配者としてうれしいことである。
この国史対話は、元来は東アジア三国、とくに日本と隣国との間にわだかまる歴史摩擦を解消し、国際関係への負担を軽くするために始められた。今世紀初頭、「歴史認識」問題が争点化したとき、私と同世代の歴史家たちは何度も対話を重ね、少なくとも歴史の専門家の間では、相手側が異なる解釈を見せた時、なぜ相手がそう考えるかを理解しようとするまでにはなった。しかし、その後、東アジアの諸政府は領土その他生々しい問題を敢えて争点化し、それによって歴史問題は後景に退くことになった。いま、20世紀前半の厳しい歴史について議論できる場は失われている。
しかしながら、今世紀初頭の東アジア歴史家たちの成果は見捨てるに忍びない。一歩退いて、せめて学術レヴェルだけでも次世代の歴史家たちに日常的な交流と連携の場を用意しておきたい。学問的にも各国の歴史家たちが自国の学界に閉じこもるより遙かに生産的となるだろう。国史対話はこの度、当初と違った方向に舵を切ったわけであるが、それは同時に世代交代の機会ともなった。昨年1月にフィリピンでの集会に加わった学者たちが渥美財団の元奨学生たちと協力し、新たな問題設定の下に動き始めたのである。今年1月には、コロナ禍を意識しながら「19世紀東アジアにおける感染症の流行と社会的対応」を取り上げ、その際、内容はともかく討議が十分に行えなかったとの反省に基づいて、若手自らが「人の移動と境界・権力・民族」を問題として設定し、学校教科書の「国史」を超えた歴史ナラティブを探り始めたのである。
無論、取り上げられた諸テーマが十分に討議しつくされたわけではない。しかし、中には「国境通過証明書」のように、古代から近世に至る議論が続いたセッションもあって、これらはいずれ共同論文集を編む可能性も見て取れた。
いま東アジア3国の国際関係は最悪であり、各国の世論の相互敵対関係は今世紀初頭には予想もされなかったほどである。しかしながら、今回の研究集会はそれと全く異なる潮流が存在し、若手がその担い手であることを世に示した。世は政治ばかりに規定されるのではない。学術を通じた絆が太く強靱なものに育ち、コロナ禍は無論、国家間の敵対関係を超えて、世に公益をもたらしてくれることを願う。今回の会議はその期待を大きく膨らませるものであった。
<三谷博(みたに・ひろし)MITANI_Hiroshi>
1978年東京大学大学院人文科学研究科国史学専門課程博士課程を単位取得退学。東京大学文学部助手、学習院女子短期大学専任講師・助教授を経て、1988年東京大学教養学部助教授、その後東京大学大学院総合文化研究科教授、跡見学園女子大学教授などを歴任。東京大学名誉教授。文学博士(東京大学)。専門分野は19世紀日本の政治外交史、東アジア地域史、ナショナリズム・民主化・革命の比較史、歴史学方法論。主な著作:『明治維新とナショナリズム-幕末の外交と政治変動』(山川出版社、1997年)、『明治維新を考える』(岩波書店、2012年)、『愛国・革命・民主』(筑摩書房、2013年)など。共著に『国境を越える歴史認識-日中対話の試み』(東京大学出版会、2006年)(劉傑・楊大慶と)など多数。
参照:金キョンテ「第6回国史たちの対話『人の移動と境界・権力・民族』レポート」
英語版はこちら
2021年10月14日配信
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2021.10.12
SGRAレポート第94号 中国語版 韓国語版
第65回SGRA-Vフォーラム講演録
第5回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性
「19 世紀東アジアにおける感染症の流行と社会的対応」
日本語版:2021年10月8日発行
中国語版・韓国語版:2021年12月15日発行
<フォーラムの趣旨>
東アジア地域で持続的に続く交流の歴史の中で、感染症の発生と流行が日中韓3国に及ぼした影響と社会的対応の様相を検討する。感染症はただ一国にとどまらず、頻繁に往来した商人たちや使節などに因って拡散され、大きな人的被害を招いた。感染症が流行する中、その被害を減らすために、各国なりに様々な対処方法を模索した。これを通じて感染症に対する治療方法のような医学知識の共有や防疫のための取り締まり規則の制定などが行われた。この問題について各国がどのように認識し、如何に対応策を用意したかを検証し、さらに各国の相互協力とその限界について考える。
<もくじ>
第1セッション [座長:村 和明(東京大学)]
【歓迎挨拶】 はじめに
今西淳子(渥美国際交流財団)
【開会挨拶】 第5回 円卓会議開催にあたって
趙 珖(韓国国史編纂委員会)
【発表論文1】 開港期朝鮮におけるコレラ流行と開港場検疫
朴 漢珉(東北亜歴史財団)
【発表論文2】 19 世紀後半日本における感染症対策と開港場
市川智生(沖縄国際大学)
【発表論文3】 中国衛生防疫メカニズムの近代的発展と性格
余 新忠(南開大学)
【指定討論】
[指定討論1]発表者へのコメント 金 賢善(明知大学)
[指定討論2]発表者へのコメント 塩出浩之(京都大学)
[指定討論3]発表者へのコメント 秦 方(首都師範大学)
第2 セッション [座長:南 基正(ソウル大学)]
自由討論
論点整理:劉 傑(早稲田大学)
自由討論:パネリスト(国史対話プロジェクト参加者)
総 括:宋 志勇(南開大学)
コメント:明石 康(元国連事務次長)
閉会挨拶:三谷 博(跡見学園女子大学)
事前コメント
あとがきにかえて
金キョンテ、金 賢善、平山 昇
著者略歴
参加者リスト
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2021.09.28
今回の第6回「国史たちの対話」は、2021年1月に続き7ヶ月ぶりだった。近くになった距離はそう遠くならない。しかし、より頻繁に会えば会うほど親密さが増すことは言うまでもない。今回は皆が見慣れた顔であいさつを交わすことができた。
今回は一つの共通のテーマに対して一人の発表者が問題提起をし、複数の人がそれに対して討論をする方式だった。テーマは皆が話せる「人の移動」。これは一般的な意味でも学術的な意味でも議論が燃えるテーマだ。
円滑なオンライン会議の進行のために尽力してくださった事務局と通訳の皆さんに「ご苦労様でした」と、真っ先にお礼を申し上げたい。9月11日午前10時ちょうど、李恩民先生の開会挨拶から「対話」が始まった。村和明先生は6回目を迎える会議の経緯と趣旨を説明した。討論の時間が足りず、毎回心残りがあった経験から、今回は討論に重点を置く方式を選んだという。ただ、この実験的な試みがうまくできるかどうかは参加者にかかっているとの懸念があった。結果的に実験は成功だったと思う。
塩出浩之先生の問題提起は「人の移動から見る近代日本:国境・国籍・民族」というタイトルだった。歴史の研究は長い間、国と民族の影響を受けてきた。その枠から抜け出そうとする試みは多かったが、歴史研究の主流になるのは難しい。多くの見解を包容する方法論が必要な時だ。塩出先生が多様な角度から紹介してくれた事例は、これまで思いもよらなかったことを想起させた。
移動の自由というのは一体何か、何が人の移動を規定するか。先生は「大日本帝国」時代の朝鮮人と沖縄人の移動事例を挙げた。また、人の移動が何をもたらすか、何を作るかに主眼を置き、ハワイにおける中国、日本の移民者間の関係も紹介した。要するに、国が人の移動に及ぼす強い影響力についての悩みを投げかける発表であり、中国や韓国の研究者に、国史の中で人の移動をどのように扱っているのかを問う問題提起でもあった。生々しい写真を通じて蘇った人々の人生で一つの映画を見ているような感じだった。
これに対して、韓中日各国から2人ずつの指定討論者がコメントした。趙阮先生は経済的、政治的要因によるモンゴル帝国時代の移動を紹介。人々の移動が活発になる中で、帝国の中で異文化圏から来た人々の競争もあったということ、そしてこれらの移動がその後の歴史に与えた影響を指摘した。
張佳先生も同様に、中国史の移動を例に挙げた。戦争がもたらした移動とともに、政府主導の強制移動と政府が介入しない経済的移動との比較を行った。そして人々が様々な規制にもかかわらず、自発的に移動を続け、暮らしを続けた姿を見せてくれた。
榎本渉先生は古代と中世日本の具体的な事例を紹介した。古代日本は出入りの管理を厳密に行っていたのに比べ中世は国家の管理がなく、このため移動しようとする人が直接パスポートの役割を果たす文書を準備したという。国家が人の移動に介入しようとする試みの時間的・空間的多様性をうかがわせた討論だった。今のパンデミックの状況の中で見ると、移動の停止がオンラインでより活発な接触を引き出したような気もする。
韓成敏先生は近代韓国人の移動を3つに分けた。第1に生計のための半自発的な移動、第2に国家政策的移民、第3に植民地化以後の強制動員だ。さらに、弱者に対する愛情を盛り込んだ「トランスナショナル」観点の導入を提案し、移住先に住まなければならなかったディアスポラ(民族離散)の問題を勘案すると、移住者集団間の競争は特殊なものかも知れないという意見を提示した。
秦方先生はジェームズ・スコットの「ゾミア」(日本語訳では「脱国家の世界史」)を紹介しながら、中心と辺境、辺境と境界外のバランス、そしてその間を行き交った人々に対する関心の必要性を提起した。移動に対する国の管理とともにその裏面の姿も同時に見なければならないだろう。先生は自分のフィールド研究を簡単に紹介し、パンデミック以後変化したり、あるいは変化していなかったりする境界にいる人々の話を聞かせてくれた。
大久保健晴先生は、人の移動を別の視点から眺めた。近代化を推進していた国に雇用された外国人、南洋群島に行った日本人の原住民認識の事例だった。人々の移動であるだけに、様々な事例、反対の例を調べることがとても重要だろう。主権国家から離れていく難民はどう見えるかも重要な問題であることを確認した。一方、東アジアを越えて他の地域に対する見解も共有しようという意見を提起された。
以上の指定討論を通じて異なる時代、異なる地域で人の移動がもたらされる政治、経済的理由を探ることができた。歴史において国家の管理方式と理由、それでもそれを越えようとする人々の躍動的な姿。短い時間だったが視野が広がった。同一のテーマについて、自分の専攻分野と関連して短くて簡明に問題意識を語る形式は、効用性があると思った。
指定討論者が参加する自由討論では南基正先生が司会を務めた。ここでは移動の「自発性と非自発性」の区分が議論の中心で、塩出先生は、「個人が様々な目的で移動することを見せるのが、今回の問題提起だった」と述べた。しかし、その移動を左右するものの一つが国家であるという点を忘れてはならないという立場だ。国家と個人は一方的ではなく緊張関係であることを改めて確認することができた。移動と移住を分けるかどうかの問題についても議論があり、民族とはネーションかエスニック・グループか、エスニック・グループも歴史の中で作られたのではないか、などの議論が続いた。
3、4セッションはパネリストが参加した自由討論で、議論の幅がより広がった。まず、劉傑先生が論点を整理した。ポイントは何が移動を規定するか、移動は何をもたらすか、各国の国史教育が移動の問題をどのように扱っているか、今、人の移動を考えることの意味など。これによって自由討論に先立って考え方を整理することができた。
多様で細かい専攻分野を持つ研究者たちの質問と論点提起は、対話をさらに深めた。「人の移動を考える時、人類に普遍的に影響を与えた宗教に焦点を当ててはどうだろうか。忘れられた移動にも関心を持つべきであり、一般の人々と問題意識を共有する必要がある」(平山昇)。「自発と非自発は大差ないかも知れない。『中動態』という概念、すなわち自発的ではないが環境的にそうせざるを得ない状況がある」(大川真)。「人の移動を基軸としてグローバルヒストリーを描くということは重要な試みである。今回のテーマにより、古代~近代国家社会というものをより客観的に見ることができるようになった」(浅野豊美)。
「移動した移住民が現地との関係で生じる問題、移住2世代たちのアイデンティティ問題」(南基玄)。「移動と労働力の密接な関係」(佐藤雄基)。「人の移動に密接に関わる感染症が現代社会において自国民保護と矛盾をなす場面で感じた不思議」(市川智生)などの指摘が記憶に残った。また、本セッションの司会者であった鄭淳一、彭浩先生は専攻分野である日本と中国の旅券、戸籍の事例を詳しく紹介し、時代の理解に大きく役に立った。韓国の事例が十分に紹介されなかったのは残念だが、これは韓国史専攻者である筆者の責任でもある。
討論の後、宋志勇、三谷博先生の総括、趙珖先生の閉会挨拶が続いた。討論をもっと展開したいという発言が聞かれるとともに、この会議が充実していたことには皆が同意した。三谷先生は、多くの参加者が年長の世代が思いもよらなかった研究や発表もしているという点で明るい東アジアの未来を感じたと語り、こうして出会った仲の良い友達と一緒にこれからもこの対話を導いてほしいという希望を述べた。
今回の対話で、多様な時代と分類史を研究する研究者たちが集まり、共通のテーマを語るということのすごさに気づいた。問題提起は議論の幅を広げ、知的刺激は新たな疑問を引き出した。点から線へ、線から面へと広がることになるだろう。討論は終わらないものだ。9月11日の討論時間は終わったが、3国間の対話は終わっていないに違いない。国史たちの対話が続く一方で、研究者たちが自分の所属する場所で「対話の場」を広げることもできるだろう。
当日の写真
アンケート集計
■ 金キョンテ(キム・キョンテ)Kim Kyongtae
韓国浦項市生まれ。韓国史専攻。高麗大学韓国史学科博士課程中の2010年~2011年、東京大学大学院日本文化研究専攻(日本史学)外国人研究生。2014年高麗大学韓国史学科で博士号取得。韓国学中央研究院研究員、高麗大学人文力量強化事業団研究教授を経て、全南大学歴史敎育科助教授。戦争の破壊的な本性と戦争が荒らした土地にも必ず生まれ育つ平和の歴史に関心を持っている。主な著作:壬辰戦争期講和交渉研究(博士論文)
参照:
中国語版レポート
韓国語版レポート
三谷博「コロナ禍下に国史対話は続く 国境と世代を越えて」
2021年10月14日配信
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2021.08.05
下記の通り第6回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性をオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。一般聴講者はカメラもマイクもオフのWebinar形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。
テーマ:「人の移動と境界・権力・民族」
日 時:2021年9月11 日(土)午前10時~午後4時20分(日本時間)
方 法: Zoom ウェビナーによる
言 語:日中韓3言語同時通訳付き
主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
※参加申込(クリックして登録してください)
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■開催の趣旨
本「国史たちの対話」企画は、自国の歴史を専門とする各国の研究者たちの対話・交流を目的として2016年に始まり、これまで全5回を開催した。国境を越えて多くの参加者が集い、各国の国史の現状と課題や、個別の実証研究をめぐって、議論と交流を深めてきた。第5回は新型コロナ流行下でも対話を継続すべく、初のオンライン開催を試み、多くの参加者から興味深い発言が得られたが、討論時間が短く、やや消化不良の印象を残した。今回はやや実験的に、自由な討論に十分な時間を割くことを主眼に、思い切った大きなテーマを掲げた。問題提起と若干のコメントを皮切りに、国や地域、時代を超えて議論を豊かに展開し、これまで広がってきた参加者の輪の連帯を一層深めたい。
なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。フォーラム終了後は講演録(SGRAレポート)を作成し、参加者によるエッセイ等をメールマガジン等で広く社会に発信する。
■問題提起
塩出浩之(京都大学)
「人の移動からみる近代日本:国境・国籍・民族」
国や地域をまたいで移動する人々は、過去から今日まで普遍的に存在してきた。しかし歴史が国家を単位とし、かつ国民の歴史として書かれるとき、彼らの経験は歴史から抜け落ちる。逆にいえば、歴史をめぐる対話において、人の移動はもっとも好適な話題の一つになりうるといえよう。
「人の移動と境界・権力・民族」というテーマについて、この問題提起では近代日本の経験を素材として論点を提示する。まず導入として、アメリカ合衆国の沖縄系コミュニティに関する報告者のフィールドワークをもとに、現代世界における民族集団(ethnic group)について概観する。
第一の問題提起として、近現代における人の移動を左右してきた国境と国籍に焦点をあて、具体的な事例として、20世紀前半における日本統治下の沖縄・朝鮮や、戦後アメリカ統治下の沖縄からの移民について紹介する。国境や国籍が、近現代の主権国家体制や国際政治構造(帝国主義や冷戦)と密接に関わることを指摘したい。
第二の問題提起として、人の移動が政治・社会秩序にあたえたインパクトとして、国家や地域をまたぐ民族集団の形成、そして国家間関係とは異なる民族間関係の形成に焦点をあてる。具体的な事例としては、20世紀前半のハワイにおける日系住民と中国系住民の複雑な関係についてとりあげる。
以上を踏まえて、近現代における人の移動は前近代とどのような異同があり、また国を単位として比較した場合には何がいえるのか、議論を喚起したい。
■プログラム
第1セッション(10:00-11:25) 総合司会: 李 恩民(桜美林大学)
【開会の趣旨】村 和明(東京大学)
【問題提起】
塩出浩之(京都大学) 「人の移動からみる近代日本:国境・国籍・民族」
【指定討論】
韓国:趙 阮(釜山大学)
中国:張 佳(復旦大学)
日本:榎本 渉(国際日本文化研究センター)
第2セッション(11:30-12:45) 司会: 南 基正(ソウル大学 )
【指定討論】
韓国:韓 成敏(世宗大学)
中国:秦 方(首都師範大学)
日本:大久保健晴(慶應義塾大学)
【コメント】塩出浩之(京都大学)
【自由討論】講師と指定討論者
第3セッション(13:30-14:45) 司会: 彭 浩(大阪市立大学)、鄭 淳一(高麗大学)
【論点整理】劉 傑(早稲田大学)
【自由討論】パネリスト(国史対話プロジェクト参加者)
市川智生(沖縄国際大学)、大川 真(中央大学)、佐藤雄基(立教大学)、平山 昇(神奈川大学)、浅野豊美(早稲田大学)、沈 哲基(延世大学)、南 基玄(韓国独立記念館)、金キョンテ(全南大学)、王 耀振(天津外国語大学)、孫 継強(蘇州大学)
第4セッション(14:50-16:20) 司会: 彭 浩(大阪市立大学)、鄭 淳一(高麗大学)
【自由討論】パネリスト(国史対話プロジェクト参加者)
市川智生(沖縄国際大学)、大川 真(中央大学)、佐藤雄基(立教大学)、平山 昇(神奈川大学)、浅野豊美(早稲田大学)、沈 哲基(延世大学)、南 基玄(韓国独立記念館)、金キョンテ(全南大学)、王 耀振(天津外国語大学)、孫 継強(蘇州大学)
【総括】宋 志勇(南開大学)、三谷 博(東京大学名誉教授)
【閉会挨拶】趙 珖(高麗大学名誉教授)
※同時通訳
韓国語⇔日本語:李 ヘリ(韓国外国語大学)、安 ヨンヒ(韓国外国語大学)
日本語⇔中国語:丁 莉(北京大学)、宋 剛(北京外国語大学)
中国語⇔韓国語:金 丹実(フリーランス)、朴 賢(京都大学)
※プログラム・会議資料の詳細は、下記リンクをご参照ください。
・プロジェクト概要
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2021.02.18
「第5回⽇本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」が2021年1月9日に開催された。今回のテーマは「19世紀東アジアにおける感染症の流⾏と社会的対応」だった。前年2020年1月にフィリピンで開かれた「第4回国史たちの対話」の際に、いやCOVID-19の感染が広がってからでも、この危機が今年まで続くとは予想できなかった。第4回の対話で三⾕博先生が、19世紀の東アジアの感染症に関するテーマに言及されたが、先見の明を示されたと思う。この時代にふさわしい議論のテーマだった。
対話はオンラインで行われた。技術の発展によって私たちは今のような危機の中でも対話できる方法を見出したのだ。しかし、この便利さの裏には、新しい方法を皆が円滑に使えるように準備した事務局方々がいたことを忘れてはならないだろう。事前に数多くのリハーサルがあり、当日も午前から準備が行われていた。
これまでは、多くの発表者と討論者を招待して、2日から3日間の会議の形で対話を実施してきた。しかし今回は、各国から招く発表者と討論者を1人ずつにすることで、効率的に参加者が集中できる環境を作り出すことができた。時間により変化したが、参加者は発表者・討論者(パネリスト)が38名、一般参加者が93名、同時通訳を含むサポートが20名で計151名だった。
対話は2つのセッションに分けて行われた。第1セッションでは村和明先生の司会で3つの発表と指定討論があり、第2セッションでは南基正先生の司会で自由討論が行われた。すべてのセッションの後に、発表者やパネリストが自由に会話できる懇親会も行われた。
第1セッションでは今西淳子渥美財団常務理事の歓迎挨拶と、趙珖韓国国史編纂委員会委員長の開会挨拶があった。趙珖委員長は、19世紀的なパンデミックに関する問題の研究は21世紀の今日、Post-COVID19で展開されている新しい「インターナショナル」な問題解決の一つの規範を与えるとして、国史たちの対話の意義が継続されることを望むと述べた。
最初の発表は朴漢珉先生(東北亜歴史財団)の「開港期朝鮮におけるコレラ流⾏と開港場検疫」だった。朝鮮初期の開港地である釜山、仁川、元山では典型的な感染症であるコレラの流行で検疫問題に悩まされた。3ヵ所の港では、いずれも各国の自国民保護と経済的な利害関係が相反する様相を見せた。朝鮮政府は経験を蓄積し、1887年に朝鮮政府検疫章を制定し、それは1893年まで続いた。
2番目の市川智⽣先生(沖縄国際大学)の発表は「19世紀後半⽇本における感染症対策と開港場」だった。市川先生は、朴先生の発表と似た主題および問題意識を持って研究を進めていたことに驚いたと述べ、互いに研究に役立てることに期待を表明した。今回の発表では、日本の開港場である横浜、長崎、神戸を対象とし、日本人社会と外国人社会の関係に注目した。混乱した時代を経て、1890年代以降日本政府の感染症対策の一元化が行われていった。
3番目は余新忠先生(南開大学)の「中国衛⽣防疫メカニズムの近代的発展と性格」だった。前二者と異なり、中国で衛生が持つ意味と実態、そして近代以降の変化を巨視的な眼目から見た研究だった。また、現在の状況との比較を通じて、国や地域、個人の役割についても共に考えるテーマを提示した。
続いて、3つの発表に対する指定討論が行われた。指定討論者も3国の研究者で構成された。(金賢善先生:明知大学、塩出浩之先生:京都大学、秦方先生:首都師範大学)。指定討論では討論の対象となる発表を「指定」せず、全テーマを対象にする討論を要請、より幅広い議論が展開された。伝統的な衛生防疫の意味、近代以降の国家が防疫を主導するようになる過程、感染症がもたらした近代化に伴って出現した「区分」の無形化とともに、衛生と防疫をどの国家が主導するかをめぐる競争もあったことが指摘された。一方、植民地での衛生や防疫問題、国家より下位の単位、国家と底辺をつなぐ共同体への関心も必要だという提言もあった。
第2セッションは自由討論だった。自由討論に先立ち、 劉傑先生(早稲田大学)による論点整理があった。発表の内容とともに、事前に提出されたパネリストからの質問で共通に提起された問題についても整理をした。国境を越える人々によって広がる感染症に対応するための優先的な方法は国家の国境封鎖であり、これは主権の問題であったこと、しかし、情報の共有と国境を越えた対応が重要な課題として浮上したこと、予防と治療には国家-地域-個人ネットワーク、コミュニティの役割が重要であること、それに内包される共存性と対立性をどのように理解するかについて、アプローチする余地があるだろうなどと指摘された。
続いてパネリストによるコメントと質問。直接発言だけでなく、チャット機能を利用して質問してくださった方もいた。感染症は昔から権力者に対する不信感を呼び起こし、したがって近代以降も感染症は国民の政治意識およびその変化と密接な関連を持つようになったこと、主権と感染症の間の力関係、各国の民衆意識および民族主義の高揚との関係、感染症流行時の3国の情報共有と共同対応の様相などについての質問が寄せられた。これに対しては、発表者から丁寧な回答があり、指定討論者とパネリストの補足コメントが相次ぎ、時間が足りないほどであった。
自由討論の名残惜しさを残し、宋志勇先生(南開大学)の総括、明石康先生のコメントが続いた。歴史の1ページに残すに値する時期に適切なテーマの「対話」であり、グローバル化の中での各国の社会的責任、発信すべき社会的メッセージを考えさせる時間であった。各国がより自由に互いに学ぶ立場でグローバルな解決策を模索することができるので、互いの視点を比較して分析することがこの集まりの問題意識であるということは、未来的かつ地球的に重要だと思う、という言葉を残した。
三⾕博先生(跡見学園女子大学)は閉会挨拶で、①パンデミックという事態によって再び分断が生じたり拡大したりしてはいけないという事実が明らかになった②この会議が国家-民衆-学者間の協力関係を開いていく重要な契機になると期待する③「国史たちの対話」の趣旨は国家間の葛藤をどのように克服するかにあり、オンラインの限界にかかわらず、重要なことを成し遂げた④歴史学が持つ限界を乗り越えるのに今回の対話が出発点になれば嬉しい、と語った。最後に翻訳と同時通訳をしてくれた方々、そして渥美財団の元奨学生たちに感謝の言葉を述べた。また、今日集まった方々が個人的にもこれからもずっと交流してほしいという希望を述べた。
会議が終了してから、非公式の、自由な「対話」が懇親会という形で行われた。フィリピンで開催された「第4回国史たちの対話」で会った方々は、1年ぶりの「再会」で和気あいあいと会話を交わした。「 第5回対話」に初めて参加した方々もすぐに親しくなった。たまに硬くない共通テーマで、飲み物とおつまみを用意してこんな風にオンラインで会うのも良いのではないかと思う。紙幅の制限により参加された方々の発言内容を十分に紹介できなかったことを残念に思う。
当日の写真
アンケート結果
中国語報告
韓国語報告
■ 金キョンテ(キム・キョンテ)Kim Kyongtae
韓国浦項市生まれ。韓国史専攻。高麗大学韓国史学科博士課程中の2010年~2011年、東京大学大学院日本文化研究専攻(日本史学)外国人研究生。2014年高麗大学韓国史学科で博士号取得。韓国学中央研究院研究員、高麗大学人文力量強化事業団研究教授を経て、全南大学歴史敎育科助教授。戦争の破壊的な本性と戦争が荒らした土地にも必ず生まれ育つ平和の歴史に関心を持っている。主な著作:壬辰戦争期講和交渉研究(博士論文)