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2025.12.18
2025年11月22日(土)午後3時(日本時間4時)より第19回SGRAチャイナ・フォーラム「琳派の創造」が北京大学外国語学院(日本文化研究所)で開催された。突然緊張が高まった日中関係のなか、参加者の温かい支えを受け、会場・オンラインのハイブリッド形式で日中両国の視聴者に同時配信した。
暖かく穏やかな天候に恵まれ、北京大学構内の未名湖や博雅塔周辺は観光客で賑わい、活気に満ちていた。キャンパスで記念写真を撮影した後、フォーラムは始まった。孫建軍先生(北京大学外国語学院)が司会を務め、主催者代表の李淑静書記(北京大学外国語学院)、今西淳子常務理事(渥美国際交流財団)、後援の野田昭彦所長(北京日本文化センター)が挨拶した。講師として日本近代美術史の研究者・古田亮先生(東京藝術大学大学美術館)、討論者には戦曉梅先生(国際日本文化研究センター)、中村麗子先生(東京国立近代美術館)、董麗慧先生(北京大学芸術学院)をお迎えした。
講演では、日本美術史において「琳派を一つの流派」と捉える言説が近代にどのように構築されたかが議論された。琳派は1615年に起源を持ち、400年の歴史があるとされている。しかし、流派の開祖である俵屋宗達や本阿弥光悦、さらには継承者とされる尾形光琳や酒井抱一は、自らを「琳派」画家と称することはなく、狩野派のような伝承関係も存在しない。明治時代の19世紀後半、海外におけるジャポニスムの中で尾形光琳が最初に注目された。その後、大正時代には個性を重視するモダンニズムの中で俵屋宗達が評価された。昭和時代の20世紀中期には、美術史学の展開や江戸絵画の再評価の中で酒井抱一の文学性が評価された。近代の異なる背景や文脈の積み重ねで「琳派」が成立した。今回の講演内容は美術史だけでなく、古田先生がこれまでに企画した琳派展の紹介も含まれており、近年では「琳派」が中国で初めて詳細に紹介されるイベントになった。
日中近代美術史・比較文学の研究者である戦曉梅先生は、日中がまだ国交を結んでいない1958年に中国で開催された尾形光琳展について紹介した。「琳派」に対する異なる視点が生み出すさまざまな評価の可能性を提起し、「琳派」がつくられた歴史の中で、「イメージの背後にある文学的想像力」が無視されている理由は、近代日本美術史の選択によるものであると指摘した。かつて古田先生の琳派展覧会を手伝った中村麗子先生は、近代の日本画家の光琳についての言説を分析し、明治中期の日本画の制作過程において、日本画家が自らの制作に正統性を求める中で、光琳が「日本」を象徴する存在となったことを指摘した。近年、若手研究者として大活躍する董麗慧先生は過去の「歴史記述」、時空を越える対話としての「芸術的伝承」、今日の「文化的生成」という3つの内容から古田先生の講演の意義について述べた。
自由討論は前回と同様にモデレーターの名手、澳門大学の林少陽先生によって進められた。林先生は E・ホブズボウムと T・レンジャー編集の英語論文集『The Invention of Tradition』(和訳:創られた伝統)を想起し、近代における一連の「創られた伝統」がナショナリズムの下で、想像上の共同体の結束力を高めるために行われたことを述べた。琳派も例外ではない。フォーラムの日本語の題名は「『琳派』の創造」であるが、それが「琳派的発明」と中国語に翻訳される理由は、The Invention of Traditionの中国語翻訳が「伝統的発明」とされるためである。その後、戦先生は「裝飾性」をはじめとする美術用語の使用、董先生は琳派の海外伝播の問題について問いかけた。中村先生は近代の美術学校が設立された後、流派が解体された状況において、画家たちが前近代の画家に私淑した問題について言及。古田先生はそれぞれの質問に丁寧に回答し、内容を深めた。
最後に清華東亜文化講座を代表して、王中忱先生より閉会の挨拶があった。王先生は自身の琳派に対する理解を述べ、グローバル化が進む今日において、芸術の流動性が実際に創造性に満ちていること、琳派の流転の中で中国に影響を与えた可能性について議論した。王先生は、毎年チャイナ・フォーラムが新しいテーマを提起することは非常に意義深いと考えており、企画・支援してきた渥美国際交流財団関口グローバル研究会に感謝の意を表し、次回への期待を寄せた。
本フォーラムは、「ラクーン(元渥美奨学生)」や陳言教授をはじめとする過去の参加者たちの熱心な呼びかけにより、参加申請者は200名を超えた。同じ日に多くのシンポジウムが開催される中、会場とオンラインで約150名の参加者が集まった。テーマの選定や質疑応答については、特に若い世代からのアンケートでも多くの好評を得た。フォーラム終了後、参加者たちは国際交流基金北京日本文化センターの野田昭彦所長や中国在住の「ラクーン」の方々と共に、大学近くのレストランで懇親会に集まった。穏やかな雰囲気の中で交流が進み、孫建軍先生の提案を受けて、皆が最近の活動や過去の興味深いエピソードを共有した。
当日の写真
<李 趙雪(り・ちょうせつ)LI_Zhao-xue>
中央美術学院人文学院美術史専攻(中国・北京)学士、京都市立芸術大学美術研究科芸術学専攻修士、東京藝術大学美術研究科日本・東洋美術史研究室博士。現在南京大学芸術学院の副研究員。専門は日中近代美術史・中国美術史学史。
2025 年12月18日配信
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2025.11.16
SGRAレポート第112号(日中合冊)
第18回SGRAチャイナ・フォーラム
「アジア近代美術における〈西洋〉の受容」
2025年11月16日発行
<フォーラムの趣旨>
2023年に開催した「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」では、日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)を講師に迎え、いまだ東北アジア地域では紹介されることが少ない東南アジアにおける近代美術誕生の多様な様相について学んだ。その続編として今回は、初期の東南アジアの美術家にとって重要な存在であったゴーギャンを取り上げ、東南アジア近代美術において〈西洋〉がどのように受容され、そこにどのような課題が反映していたのかを考察した。
<もくじ>
【開会挨拶】
周 異夫(北京外国語大学日本語学院/日本学研究センター)
野田昭彦(国際交流基金北京日本文化センター)
【 講 演 】 アジア近代美術における〈西洋〉の受容 ─東南アジアのゴーギャニズム8後小路雅弘(北九州市立美術館)
【 指定討論1】 王 嘉(北京外国語大学)20世紀初期ベトナム近代美術教育について
【 指定討論 2】 二村淳子(関西学院大学)ゴーギャンにおけるベトナム、ベトナムにおけるゴーギャン
【自由討論】
モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座)
発 言者: 後小路雅弘(北九州市立美術館) 王 嘉( 北 京 外 国 語 大 学 )、二村淳子(関西学院大学)
【閉会挨拶】 王 中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科)
講師略歴
あとがきにかえて 李 趙雪(南京大学芸術学院)
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2025.10.22
下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。
テ ー マ:「『琳派』の創造」
日 時:2025年11月22日(土)午後3時~5時20分(北京時間)/午後4時~6時20分(東京時間)
会 場:北京大学外国語学院新楼501(オンラインとのハイブリット開催)
言 語:日中同時通訳
共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
北京大学日本文化研究所
清華東亜文化講座
後 援:国際交流基金北京日本文化センター
協 賛:鹿島建設(中国)有限公司
※参加申込(リンクをクリックして登録してください)
★会場参加者の事前申請は締め切りました★
(参加方法に関わらず参加用URLが届きます。会場参加の方は当日会場にお越しください。)
(会場参加を希望する方で北京大学関係者以外の方は、事前に北京大学への入校申請が必要となりますので、フォーラム参加登録時に必要事項の入力をお願いします。登録いただいた情報をもとに事務局でまとめて申請します。なお、事前入校申請受付は11月18日(火)で締め切ります。(締め切りを過ぎた場合はオンラインでご参加ください。)当日は、北京大学のキャンパスに入校する際に身分証明書(中国籍の方はID、外国籍の方はパスポート)の提示が必要です。忘れずにお持ちください。)
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
◆フォーラムの趣旨
公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)は、2007年から毎年、北京を中心とした中国各地の大学等で、日本の民間公益団体の主宰者を招いてSGRAチャイナ・フォーラムを開催してきた。2014年からは趣向を変え、清華東亜文化講座のご協力をいただき、中国在住の日本文学や文化の研究者を対象として、東北アジア地域の近現代史を「文化と越境」をキーワードに議論を重ねている。本年も、これまでの成果を踏まえながら、「東アジアにおける広域文化史」の可能性を探る。国立近代美術館の学芸員を長く務められた古田亮先生(東京芸術大学 大学美術館教授)をお迎えし、「琳派の創造」をテーマに、西洋の影響を受けて近代に創られた美術史の言説について考察する。日中同時通訳付き。
◆プログラム
総合司会:孫 建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA)
開会挨拶:野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター所長)
講演:古田 亮(東京芸術大学 大学美術館)「『琳派』の創造」
指定討論
討論者:戦 暁梅(国際日本文化研究センター)
中村麗子(東京国立近代美術館)
董 麗慧(北京大学芸術学院)
自由討論
モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座)
閉会挨拶:王 中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科)(予定)
◆講演内容
古田 亮(東京芸術大学 大学美術館)「『琳派』の創造」
「琳派」は、一般に日本美術史上に現れた流派の一つととらえられている。江戸時代初期に活躍した俵屋宗達や本阿弥光悦らによってつくられ、尾形光琳や酒井抱一によって受け継がれて近代に至ると説明されることが多い。しかし、実際には二つの点で間違っている。一つは、その間に「琳派」と名乗った画家は一人もいないこと。つまり、尾形光琳の「琳」に由来するこの用語は光琳以前に存在しなかっただけでなく、光琳自身も使わず、抱一の時代にもなかった。「琳派」という用語は近代に創造されたのである。もう一点は、江戸時代の宗達、光琳、抱一には直接の師弟関係も、狩野派のような流派としての家のつながりもない。光琳は時代を超えて宗達を発見し、抱一もまた時代を超えて光琳を発見した。その関係は私淑というべきものであった。
一方、「琳派」が近代に創造されたと言うとき、それは学術研究の結果ではなかった。歴史に沿って宗達、光琳、抱一という流れが初めから認識されていたのではない。まず、明治時代後半(19世紀末)、ジャポニスムに端を発してヨーロッパから〈日本らしい装飾芸術〉として光琳が注目された。ついで大正時代に、個性主義という20世紀初めの芸術観のもとに宗達の芸術が再評価された。本発表では美術史家よりもむしろ近代美術の同時代のムーブメントのなかで「琳派」という伝統がつくりあげられていったことを明らかにする。
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
日本語版
中国語版
中国語版ウェブサイト
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2025.01.09
2024年11月23日(土)午後3時(日本時間4時)より第18回SGRAチャイナ・フォーラム「アジア近代美術の〈西洋〉受容」が北京外国語大学日本学研究センターで開催された。新型コロナウイルスのパンデミックが終息した後、フォーラムは5年ぶりに北京に戻り、対面とオンライン参加のハイブリッド形式で日中両国の視聴者に同時配信した。
11月の北京はすでに冬に入っているが、当日は暖かく穏やかな天気だった。孫建軍先生(北京大学日本言語文化学部)が司会を務め、主催者代表の周異夫院長(北京外国語大学日本語学院日本学研究センター)と後援の野田昭彦所長(北京日本文化センター)が挨拶した。前回の第17回SGRAチャイナ・フォーラム「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」を引き継ぎ、今回は「アジア近代美術の〈西洋〉受容」をテーマとした。講師として日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)、指定討論者として王嘉先生(北京外国語大学アジア学院教授)と二村淳子先生(関西学院大学教授)をお迎えした。
長い間注目されていなかった分野である東南アジア美術史は、近年の中国では重要な研究課題と見なされ、関心の高いテーマである。後小路先生の講演は、初期の東南アジアの美術家にとって重要な存在であったゴーギャンを取り上げ、東南アジア近代美術において「西洋」がどのように受容され、そこにどのような課題が反映していたのかを問題提起した。「ゴーギャンの受容」は画家自身を文明の側におき、対象を野蛮な他者とする図式が見られる。その背景には植民地体制を脱し新たな多民族多文化による国民国家の建設を目指す中で、ナショナル・アイデンティティーの形成、あるいは国民文化の創造という国家的な要請もあった。異国趣味的な女性像を乗り越えるため、ゴーギャンの造形性は参照すべき格好のモードであり、規範でもあった。国民国家の形成過程における「国民」の発見と重なり合い、いわば他者の発見と自己の探求が分かちがたく結びあっているところに、東南アジア近代美術に固有の問題と表現を見出すことができると指摘した。
自由討論は前回と同様にモデレーターの名手、澳門大学の林少陽先生によって進められた。ベトナム研究の専門家・王嘉先生は、20世紀初期のベトナム美術教育とベトナム近現代美術をテーマに補足・報告した。二村淳子先生は『ベトナム近代美術史――フランス支配下の半世紀』(原書房、2021年)の著書で東京大学而立賞(東京大学学術成果刊行助成)を受賞したフランス語圏美術史の研究者である。ゴーギャンとベトナム人画家との関係、特にレ・フー(黎譜)をはじめ、ベトナムの近代画家らも東南アジアの画家らと同様にゴーギャンの影響を受けたことを指摘した。ただし、ゴーギャンがベトナムから見出した「失われた楽園」は地理的な遠方であるのに対し、レ・フーらが見出したのは時間的な遠方、すなわちベトナムの歴史や過去だったと指摘した。
その後、会場から北京外国語大学の学生らや上海大学、九州大学、中国芸術研究院の美術史研究者から多くの質問を受けた。「なぜ野蛮を描いたゴーギャンが東南アジアの近代画家のモデルとなったか」、「陳進の作品から野蛮ではない印象を受けたが、それについてご説明をいただきたい」、「レ・フーの『幸福時代』にゴーギャン以外の要素もあるか」などの質問に対し、後小路先生、二村先生、王先生は丁寧に回答して今回の講演をまとめた。近代国家の成立やアイデンティティーを模索する過程で、ゴーギャンの作品をモデルにする東南アジアの画家たちや台湾の原住民を「高貴」の目線で表現する陳進、ゴーギャン以外のフランス画家からも影響を受けたレ・フォーの諸問題は自由討論で語り切れなかったが、色鮮やかな東南アジア美術についての議論はこれからも続くだろう。
最後に清華東亜文化講座を代表して、王中忱先生(清華大学中国文学科)より閉会の挨拶があった。王先生は後小路先生の講演が植民地主義研究における従来の方法を超え、「他者を認識することは自己を認識・構築することでもある」という示唆的な視点を評価し、国家主義の台頭、均質のグローバル化が進む今日では東南アジアなどの多視点的な討論はきわめて貴重であると述べた。王先生は長年にわたりチャイナ・フォーラムを企画・支援してきた渥美国際交流財団関口グローバル研究会に対して謝意を伝えた。
北京会場、そしてオンラインを含め110名を超える参加があった。講演主題の選択と質疑応答の構成に対してアンケートからも多くの好評を受けた。フォーラム終了後、北京外国語大学の近くにあるレストランで渥美国際交流財団30周年祝賀夕食会が開催された。SGRAを長らく支援してくださっている宋志勇・南開大学教授、北京日本文化センターや清華大学東亜文化講座の先生方、そして中国在住のラクーン(元渥美奨学生)たち、総勢50名の参加者が一堂に会し、大盛況だった。
当日の写真
アンケート集計
<李 趙雪(り・ちょうせつ)LI_Zhao-xue>
中央美術学院人文学院美術史専攻(中国・北京)学士、京都市立芸術大学美術研究科芸術学専攻修士、東京藝術大学美術研究科日本・東洋美術史研究室博士。現在南京大学芸術学院の副研究員。専門は日中近代美術史・中国美術史学史。
2025年1月9日配信
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2024.11.07
下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。
テ ー マ:「アジア近代美術における〈西洋〉の受容」
日 時:2024年11月23日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間)
会 場:北京外国語大学北京日本学研究センター多目的室とオンライン(Zoom)
※北京外国語大学会場で参加する場合は、入校の際に身分証のスキャンが必要となります。
言 語:日中同時通訳
共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
北京外国語大学北京日本学研究センター
清華東亜文化講座
後 援:国際交流基金北京日本文化センター
協 賛:鹿島建設(中国)有限公司
※参加申込(リンクをクリックして登録してください)
(参加方法に関わらず参加用URLが届きます。会場参加の方は当日会場にお越しください。)
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■フォーラムの趣旨
昨年開催した「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」では、日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)を講師に迎え、いまだ東北アジア地域では紹介されることが少ない東南アジアにおける近代美術誕生の多様な様相について学んだ。その続編として今回は、初期の東南アジアの美術家にとって重要な存在であったゴーギャンを取り上げ、東南アジア近代美術おいて〈西洋〉がどのように受容され、そこにどのような課題が反映していたのかを考察する。
■ プログラム
総合司会 孫 建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA)
【開会挨拶】
周 異夫(北京外国語大学日本語学院長兼日本学研究センター長)
野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター所長)
【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)
「アジア近代美術における〈西洋〉の受容─東南アジアのゴーギャニズム」
【指定討論】
討論者:
王 嘉(北京外国語大学)
二村淳子(関西学院大学)
【自由討論】
モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座)
【閉会挨拶】
王 中忱(清華東亜文化講座/清華大学中国文学科)
■講演内容
【講演】後小路雅弘「東南アジア近代美術における〈西洋〉の受容─東南アジアのゴーギャニズム」
[講演要旨]
前回の本フォーラムでは、「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」というテーマのもと、欧米列強による植民地統治下の1930年代に見られた近代美術誕生の萌芽的な動きを国ごとに紹介し、その共通性と固有性について考察した。その背景には、19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な動向があったが、激動のアジア近代史の奔流の中で、近代美術運動のパイオニアたちは何を目指したのかを読み解いた。
今回は、東南アジアを中心に、他のアジア地域の作例も含め、アジア近代美術の、とりわけ初期の段階において、〈西洋〉の受容がどのようなかたちで行われたのか、またそこにはアジアの近代美術のどのような課題が反映していたのかについて考察する。
アジアの近代美術は、西欧の近代美術の大きな影響を受けながら誕生し、展開していったことは間違いない。しかし、ここでは、その影響を受け容れた側(アジアの近代美術)の主体性、主体的な創造性に注目する。アジアの近代美術のパイオニアたちは、〈西洋〉をどのように「主体的に」受け容れ、そこにどのような問題意識を持ち、どのように内発的な創造性を展開したのだろうか。
東南アジアの美術家たちにとって、とりわけ重要な存在はポスト印象派のポール・ゴーギャンであった。ゴーギャンは、成熟した西欧文明に倦んで、野生の荒々しい生命力を求めて南太平洋へ移住し、そこで新境地を開いた。東南アジアの美術家たちは、ゴーギャンの南太平洋での作品を参照し、自らの作品に取り込みながら、自身の課題に取り組んでいく。そこには、新たな国家建設の夢や、まだ見ぬ〈故郷〉の姿が反映していた。
アジアの初期近代美術家たちはゴーギャンに何を見ていたのか─東南アジアを中心にそれ以外の地域も含め、いくつかの作品を取り上げ、その分析を通して、アジアの近代美術が何を求め、何を生み出したのかについて具体的に考えたい。
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
日本語版
中国語版
中国語版ウェブサイト
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2024.06.13
SGRAレポート第107号(日中合冊)
第17回SGRAチャイナ・フォーラム
「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」
2024年6月13日発行
<フォーラムの趣旨>
今回は視野を東南アジアに広げた。日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)を講師に迎え、いまだ東北アジア地域では紹介されることが少ない東南アジアにおける近代美術誕生の多様な様相について学んだ。東南アジアの初期近代美術運動を通じて東北アジアとの関係や相互の影響について考えた。
<もくじ>
【挨拶】 野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター)
【講演】 東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生
後小路雅弘(北九州市立美術館館長/九州大学名誉教授)
【指定討論1】 熊 燃(北京大学外国語学院)
【指定討論2】 堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール)
【 指定討論への回答】 後小路雅弘(北九州市立美術館館長/九州大学名誉教授)
【自由討論】 モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/ SGRA /清華東亜文化講座)
【閉会挨拶】 趙 京華(清華東亜文化講座/北京第二外国語学院)
講師略歴
あとがきにかえて ─孫 建軍(北京大学日本言語文化学部/ SGRA)
〇同時通訳(日本語⇔中国語):丁 莉(北京大学)、宋 剛(北京外国語大学/ SGRA)
※所属・肩書は本フォーラム開催時のもの
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2024.04.26
2023年11月25日(土)北京時間午後3時(日本時間午後4時)より第17回SGRAチャイナフォーラム「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」が開催された。コロナが収束して4年ぶりに対面形式で行う予定だったが、スケジュールを決める9月の時点で2012年秋の事態を思わせる空気が漂い始め、オンライン方式を続けることに決めた。
テーマの通り、今回は美術史の返り咲きとなった。しかもこれまで焦点が置かれていた「東アジア」から初めて「東南アジア」に視点を向けたため、事前の準備はこれまでと異なり、チャイナフォーラムの歴史の中でかつてない国際的な展開となっていた。講師は北九州市立美術館館長の後小路雅弘先生、指定討論者は北京大学東南アジア学科准教授の熊燃先生、ナショナル・ギャラリー・シンガポール学芸員でコレクション部門ディレクターの堀川理沙先生のお二方をお迎えした。東京、北九州、北京、シンガポール、マカオと事前準備の連絡は広範囲にわたった。日本語だけでなく、英語によるメールの連絡もこれまでにないレベルで、渥美財団のスタッフ一同の国際色の高さに脱帽した。
例年通り、開催にあたり、主催者側から今西淳子・渥美財団常務理事、後援の野田昭彦・北京日本文化センター所長より冒頭の挨拶があった。野田所長の挨拶は前年同様にテーマに沿った問題提起があり、フォーラムのウォーミングアップともなった。
日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生の講演は、ご自身の東南アジアの実体験から始まった。東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは1930年代に見られると指摘した。地域や国同士の相互の連動は見られなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性から、ほぼ同じ時期に見られるようになったと、数多くの絵画の紹介を通じて語った。そして19世紀末から20世紀前半にわたって、東南アジアの近代美術運動を担うパイオニアたちが直面する課題、目指す目標、各国における共通性や相違を読み解いた。
自由討論はモデレーターの名手、澳門大学の林少陽先生によって進められた。美術作品を通して、その背後にあるより微妙で生き生きとした植民地支配に対する抵抗や民族解放を求める東南アジアの歴史の詳細を見ることができるという熊燃先生のご見解や、後小路先生のご研究の原点は東南アジアだけでなく、東アジア全体にあるのではないかという堀川理沙先生のご指摘が印象的だった。その後、会場およびオンライン参加者の質問に対し、後小路先生が丁寧に回答した。
最後に清華東亜文化講座を代表して、北京第二外国語大学趙京華先生より閉会の挨拶があった。趙先生は後小路先生のご講演により、美術史を専門としない人も美術界の新たな風潮を通じて、東南アジアの20世紀の複雑な歴史的プロセス、そして民族、言語、宗教、文化の多様性について初歩的な理解を得ることができたと指摘した上で、「どのような覇権も、世界を統一することも、差異を排除することもできない。私たちは各民族国家の多様性を尊重することでしか、文明の相互理解と平和共存の理想を実現することができない」と強く訴えた。
東京会場、北京会場、そしてオンライン参加を含め、合わせて150名の参加を得た。参加者からは「東南アジアにおける近代美術が生まれた背景や、その代表的な人物に関する基本知識を得ることができた。今後もこの研究領域に関するフォーラムを開催してほしい」などの感想が寄せられた。
フォーラム開催当日は趙先生の誕生日で、北京会場でささやかなお祝いをした。4年ぶりの会食も実現した。そして次回の第18回も引き続き後小路先生に依頼し、対面形式で北京で行うことが早々に決まった。
かつてのおなじみのチャイナフォーラムが確実に戻ってくる。
当日の写真
アンケート集計結果
<孫建軍(そん・けんぐん)SUN Jianjun>
1990年北京国際関係学院卒業、1993年北京日本学研究センター修士課程修了、2003年国際基督教大学にてPh.D.取得。北京語言大学講師、国際日本文化研究センター講師を経て、北京大学外国語学院日本言語文化系副教授。専攻は近代日中語彙交流史。著書『近代日本語の起源―幕末明治初期につくられた新漢語』(早稲田大学出版部)。
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2023.10.24
下記の通りSGRAチャイナフォーラムをハイブリッド形式で開催いたします。会場でもオンラインでも参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。
テーマ:「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」
日時:2023年11月25日(土)午後3時~5時(北京時間)/午後4時~6時(東京時間)
会場:渥美財団ホール、北京大学会場、オンライン(Zoom Webinar)のハイブリッド形式
※渥美財団ホール https://www.aisf.or.jp/jp/map.php
※北京大学会場は北京大学学生に限定
言語:日中同時通訳
共同主催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
北京大学日本文化研究所
清華東亜文化講座
後援:国際交流基金北京日本文化センター
協 賛:鹿島建設(中国)有限公司
※参加申込(リンクをクリックして登録してください)
(参加方法に関わらず参加用URLが届きます。会場参加の方は当日会場にお越しください。)
お問い合わせ:SGRA事務局(
[email protected] +81-(0)3-3943-7612)
■フォーラムの趣旨
今回は視野を東南アジアに広げる。日本における東南アジア美術史の第一人者である後小路雅弘先生(北九州市立美術館館長)を講師に迎え、いまだ東北アジア地域では紹介されることが少ない東南アジアにおける近代美術誕生の多様な様相について学ぶ。東南アジアの初期近代美術運動を通じて東北アジアとの関係や相互の影響について考える。
■プログラム
総合司会 孫 建軍(北京大学日本言語文化学部/SGRA)
【開会挨拶】今西淳子(渥美国際交流財団/SGRA)
【挨拶】野田昭彦(国際交流基金北京日本研究センター)
【講演】後小路雅弘(北九州市立美術館館長)
「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」
【指定討論】
討論者:熊 燃(北京大学外国語学院)
堀川理沙(ナショナル・ギャラリー・シンガポール)
【自由討論】
モデレーター:林 少陽(澳門大学歴史学科/SGRA/清華東亜文化講座)
【閉会挨拶】趙 京華(清華東亜文化講座/北京第二外国語学院)
■講演内容
【講演】後小路雅弘「東南アジアにおける近代〈美術〉の誕生」
[講演要旨]
東南アジアにおける近代美術の萌芽的な動きは、そのほとんどの地域が欧米列強の植民地であった1930年代に見られる。その運動は、相互に連動したものではなかったが、植民地において19世紀末から盛んになったナショナリズムや民族自決の高まりといった国際的な共通性を背景に、ほぼ同じ時期に見られるようになった。
フィリピンでは、アメリカ留学から帰国したエダデスを中心に結成された「13人の現代人たち」が、オランダ領東インドではスジョヨノとプルサギ(インドネシア画家組合)がその主な担い手であった。シンガポールではフランス留学からの帰国者たちが華人美術研究会を結成、華僑子弟の教育のために設立された南洋美術専科学校とともに、近代美術運動を推進した。独立国であったタイでは、「お雇い外国人」のイタリア人彫刻家フェローチが国立美術学校を設立し、仏領インドシナでは、フランス人画家タルデューが美術学校を設立して美術教育に取り組んだ。両校の初期の卒業生たちがそれぞれの近代美術の担い手となった。
こうした萌芽的な運動は、1940年代の旧日本軍の侵攻と占領によって頓挫し、本格的な開花は各国が独立を果たす1950年代以降を待つことになる。
この初期の近代美術運動の担い手であったパイオニアたちは何を目指し、何を課題としたのか。20世紀前半、激動のアジア近代史の奔流の中で、彼らは何と戦ったのか、そしてその思いは─各国における共通性と相違に目を向けながら読み解く。
※プログラムの詳細は、下記リンクをご参照ください。
日本語版
中国語版
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2023.06.21
SGRAレポート第102号(日中合冊)
第16回SGRAチャイナフォーラム
「モダンの衝撃とアジアの百年
―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―」
2023年6月14日発行
<フォーラムの趣旨>
山室信一先生(京都大学名誉教授)の『アジアの思想史脈―空間思想学の試み』(人文書院、2017年。徐静波・訳『亚洲的思想史脉——空间思想学的尝试』上海交通大学出版社・近刊予定)と『モダン語の世界へ:流行語で探る近現代』(岩波新書、2021年)などを手がかりに行った2021年のフォーラム「アジアはいかに作られ、モダンはいかなる変化を生んだのか?」の続編として、前回に提起した空間論・時間論・ジェンダー論における論的転回の具体的現れについて考える。そして、それらが生活世界にどのような衝撃を与え、現在の私たちの時空感覚や身体的感性や倫理規範などにいかに通底しているのかを検討する。
<もくじ>
【挨拶】 野田昭彦(国際交流基金北京日本文化センター)
【講演】 モダンの衝撃とアジアの百年
―異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション―
山室信一(京都大学名誉教授)
【コメント1】 今日における山室信一理論の意義
陳 言(北京市社会科学院)
【コメント2】 山室教授講演へのコメント
高 華鑫(中国社会科学院外国文学研究所)
【応答】 コメントを受けて
山室信一(京都大学名誉教授)
【自由討論】
モデレーター
林 少陽(澳門大学歴史学科/ SGRA /清華東亜文化講座)
討論者
陳 言(北京市社会科学院)
高 華鑫(中国社会科学院外国文学研究所)
山室信一(京都大学名誉教授)
【閉会挨拶】 劉 暁峰(清華東亜文化講座/清華大学歴史系)
講師略歴
あとがきにかえて
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2023.01.08
2022年11月19日(土)北京時間午後3時(日本時間午後4時)より第16回SGRAチャイナフォーラム「モダンの衝撃とアジアの百年――異中同あり、通底・反転するグローバリゼーション」が開催された。コロナが始まってから3度目のオンライン形式だ。2021年に引き続き、京都大学名誉教授の山室信一先生に2度目の登壇を依頼した。2年連続して同一の先生に講演を依頼するのはフォーラムが始まって以来初めてだった。
例年通り、開催にあたり、主催側の渥美財団今西淳子常務理事、後援の北京日本文化センター野田昭彦所長(公務のため、野口裕子副所長が代読)より冒頭の挨拶があった。前年同様、野田所長の挨拶にテーマに沿った問題提起があり、フォーラムのウォーミングアップともなった。
講演は定刻に始まり、山室先生は主に4部に分けて語った。まず議論の前提として「論的転回」と「2つのモダン」について触れ、本題に移行した。第2部は「時間論的転回――生活時間と時計時間そして国家時間」、第3部は「ジェンダー論的転回――服色と性差・性美そしてモダン美・野蛮美」、そして最後は「アメリカニズムとグローバリゼーション」であった。第2部から第4部までが、それぞれさらに3つの項目に細分されて、アジアにおける時間と空間の近代的成立の特徴と影響について分析が行なわれた。現代人として何とも思わない事物や思考などの裏側を解き明かす80分間はあっという間に終わった。
討論は澳門大学の林少陽先生によって進められた。中国で活躍している若手研究者、北京社会科学院の陳言先生と中国社会科学院外国文学研究所の高華鑫先生より講演へのコメントが述べられ、そのコメントや新たな質問に山室先生が答えた。林先生が総括で語られた「アジアの近代化において、空間は時間を変えた」という話は深く考えさせられた。
百年の歴史を80分間で語るのは至難の業。振り返ってみれば、前年のフォーラムが終わった時から準備が始まっていたと言っても過言ではない。より多くの参加者の理解を促すために、中国通の山室先生からは様々な話題提供があった。何回ものメールのやりとり、そしてオンラインでの打ち合わせの結果、今回のタイトルが決まった。先生の知識の幅広さと人間としての謙虚さに心を打たれる連続であった。前年同様、事前に原稿を書き上げ、たくさんの画像を用意してくださった。もし前回は満足のいかない点があったとしても、講演終了時の先生の満面な笑みを見て、今回のフォーラムでやり残されたことはないだろう確信した。宣言通りに時間厳守されたことも心から尊敬してやまない。
厳しいコロナ対策の中でも、前回、前々回と同様、北京大学内で少人数ながら学生を集めた会場を設ける予定だったが、キャンパス内の陽性者発覚に続き、北京市全体の感染拡大を受け一般教員の入校が制限され、北京大側は全員オンライン参加を余儀なくされた。
このリポートを書き始めたころ、中国は「ゼロコロナ」から全面的に「ウィズコロナ」に切り替わった。多くの学生が次々と感染したのを知り、深く心を痛めた。私自身も感染を免れなかった。高熱、咳、全身の痛みとだるさにさいなまれる中、フォーラムのタイトルにある「通底・反転する」の真髄を噛みしめた。
オンラインで参加してくださった370余名の方々にあらためて感謝する。2023年こそ対面で行いたい。
最後に、北京大学の院生から感想文が寄せられたので紹介する。
◇山室教授は、近代世界史を「近代としてのモダン」と「現代としてのモダン」の2つの段階に創造的に区分し、その過程を時間や空間の感覚、身体の倫理など、私たちに最も関係の深い日常生活の劇的な変化を通して示してくださいました。メディア、アート、服飾などに関する多くの用語を網羅し、山室先生の知識の幅の広さに驚嘆させられました。近代化の過程における「文明国の標準主義」の問題をめぐって、これまでの自分はマクロな視点から理解しようとしていましたが、今回の講演を通じて、身体感覚というミクロの視点から理解することができました。山室教授は日常生活と密接に結びつけながら、欧米に対応する中で東アジア(とりわけ日本と中国)の互いの拮抗や啓発から生じた平準化、同類化、固有化といった壮大な物語をつづりました。その思考の深さには尊敬の念が堪えません。講演の最後に触れた近代化と「アメリカニズム」の問題についても、考え続けていきたいです。(劉釗希、修士課程1年)
◇前回に続き、「近代」(モダン)というキーワードを見つめ直したご意見を伺うことができ、非常に勉強となりました。特にジェンダーの転換という部分で考えさせられました。その中、「モダンガール」や「新しい女」という言葉が示す視覚的表象に関して、洋装や断髪という現象に関する論述が興味深かったです。女性史・ジェンダー史の考察では、上記の現象を課題として取り上げ、近代の商業広告における女性表象を分析する研究が多く見られます。そのうち洋装と断髪といった女性表象は一種の消費者の理想像であり、商業販売のために作られたという論説があります。象徴としての洋装と断髪は「モダンガール」や「新しい女」という新しい語彙と深く絡み合い、商業社会の進展とともに、視覚・言語による女性像が作られたと考えます。こうしてみれば、あらためてジェンダー視点は「近代」を考察するために不可欠であると考えました。これを糧に今後の研究に励みたく存じます。本当にありがとうございました。(羅婷婷、博士課程3年)
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<孫建軍(そん・けんぐん)SUN Jianjun>
1990年北京国際関係学院卒業、1993年北京日本学研究センター修士課程修了、2003年国際基督教大学にてPh.D.取得。北京語言大学講師、国際日本文化研究センター講師を経て、北京大学外国語学院日本言語文化系副教授。専攻は近代日中語彙交流史。著書『近代日本語の起源―幕末明治初期につくられた新漢語』(早稲田大学出版部)。
2023年1月13日配信