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2001.10.01
2001年10月1日(月)午後6時半~8時45分、東京国際フォーラムガラス棟402会議室にて、SGRA第5回研究会「グローバル化と民主主義:対話と共生をキーワードに」が開催されました。46名の参加者は、まず、9月11日にニューヨークとワシントンで起きたテロリストの攻撃の犠牲者とその家族に黙祷をして追悼の意を表しました。
その後、チベット文化研究所のペマ・ギャルポ所長が「民族アイデンティティと地球人意識」というタイトルで、「肌の色や宗教が違っても、人間は同じなんだ。」という、ご自身の体験に基づいた信念を迫力ある語り口でお話しくださいました。文革が終わり、一掃されてしまったチベット語の教師を外国から送り込むことになった時、その人たちを教育して、いつでも蜂起できるようにしよう、という提案に、ダライ・ラマ法皇はとても悲しい顔をされて、「私達が暴力で訴えたら、どうして中国政府を批判することができるだろう」とおっしゃった、というエピソードなどは、仏教の教えに根ざした平和主義の力強さを伝え、聞く者の胸に迫りました。多様な人々が共存していくためには、やはり普遍的な価値を確認しあうことが必要である。幸いにも、基本的人権など、それは国連憲章で定められている。しかしながら、そのような普遍的価値を押し付けるのではなく、相手に悟らせる。誰にも押し付けられなかったのに、文化や宗教が違っても、徐々に、たくさんの人が洋服を着るようになったように。少しずつ説いていけば、チベットのことを海外の人々が応援してくれるようになり、そして今は情報が限られている中国の一般の人たちの中にも応援してくれる人がでてくるようになり、やがて民族同士が対立するのではなく、お互いの文化や宗教を尊敬しあいながら、共存していくことができるようになるだろうと信じている、というお話は、「地球市民の実現」をめざすSGRAにとっても、とても力強い応援歌でありました。
次に、香港から参加した東京大学法学研究科在籍でSGRA研究員の林泉忠さんが、「北京五輪と『中国人』アイデンティティ:グローバル化と土着化の視点から」と題してお話しくださいました。林さんは、まず、中国本土は「強い期待→大喜び」、香港では「まぁいいんじゃない→商機への期待」、台湾では「どうでもいい→台湾への影響を心配」、海外華人はさまざまと分類した後、1980年代半ば以降の「中華世界」アイデンティティの多様化を分析しました。そして、中国本土のナショナリズムの増強と本土以外の土着意識の顕在化から、「大陸」と「非大陸」へ二分化されていることを指摘しました。オリンピックの北京開催によって、大陸では①求心力の強化に一定の効果があり②台湾・香港への姿勢も強まる可能性もあるが、③今後の経済発展の持続と中央統制力の維持ができるかが鍵となるだろう。一方、非大陸では①五輪のみで中華世界の求心力が急速に強まることはなく②大陸の国力の増強が構造的に求心力を強める方向に導くが③キーポイントは大陸への政治帰属意識が増強できるかどうか(つまり大陸の民主化が進むかどうか)ということだという結論を導きました。
その後、SGRA地球市民研究チームの薬会チーフの司会で、フロアーとの質疑応答が為され、第5回研究会も盛会のうちに終わりました。
(文責:今西淳子)
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2001.08.30
SGRAレポート第6号(PDF)
JISSA講演録 工藤正司 「今日の留学」
投稿 今西淳子「はじめの一歩:留学生受入制度の問題点(その1)」
2001.8.30発行
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工藤正司 「今日の留学」
以前私は、ある団体から依頼を受けて、世界史の中 で生じた「留学」という事象をいろいろ調べる機会 がありました。その断片の幾つかを私の勤めている 協会の機関誌の『月刊アジアの友』に掲載したこと があるのですが、今日は、それをネタにして、幾つか紹介してみたいと思います。一言で留学と言っても、色々と特色があります。それらを幾つか眺めてみて、今日私たちがかかわっている日本の留学生受入れをどう評価したらよいのか、どう改善してゆくべきなのか等、考える上で参考になれば幸いと思い ます。 ところで、本題に入る前に、日本の留学生受入れについて、その歴史をざっとおさらいしてみます。つまり、今日の留学生受入れの前史をみておきましょうということです。
今西「はじめの一歩:留学生受入制度の問題点(その1)」
本稿は、2000年12月22日に開催されたJAFSA(国際教育交流協議会)とJISSA(留学生奨学団体連絡協議会)の合同シンポジウムの時に、参加者に問題意識を共有してもらうために用意したものだが、SGRAレポートとして発行するに当たって、問題を一般化するために一部改訂した。他国に比べて同一性の強い日本が、国家予算を投入して世界各国から留学生を招待し、修学・研究支援をすることは、グローバル化における日本の国際貢献として重要なだけでなく、安全保障にも役立っているとされている。しかしながら、多大な留学生予算を投じているにもかかわらず、支援の効果について疑問を発する声もしばしば聞こえてくる。留学生受入の入口の問題、指導体制や生活支援を中心とした中の問題、学位授与や就職に関する出口の問題と、どの段階にも問題はあるが、ここでは入口の問題を扱う。
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2001.07.20
2001年7月20日(金)、東京国際フォーラムガラス棟409会議室にて、SGRA第4回研究会「IT教育革命:ITは教育をどう変えるか」が開催されました。今回は、(財)鹿島学術振興財団と(財)東京国際交流財団から助成をいただき、休日(海の日)の午後を使って、シンポジウム形式で行いました。9名の発表者からITを利用した教育現場の最新動向の紹介があり、80名を越す参加者は、教育におけるITの可能性と問題点を考えました。
最初に、NECのeラーニング事業部の臼井武彦氏が、eラーニングの実例を紹介しながら、「いつでも・どこでも」の利便性、社員全員への一斉教育が可能、コスト削減など、その利点をわかりやすく説明してくださいました。また、eラーニングは、まだ始まったばかりだが、今後急速に発展するだろうと予測されました。
次に、鹿島ITソリューション部の西野篤夫氏より、マサチューセッツ工科大学(MIT)のIT教育戦略についてお話いただきました。時代の先駆者を自認するMITでは、ITが高等教育に及ぼすインパクトに注目、「教育はビジネス」という考え方に基づき、遠隔教育による講義配信、マルチメディアを利用した教材製作、教育支援システムの開発などが、全学プロジェクトとして推進されている様子をご紹介いただきました。
在日のSGRA研究員4名は、自分自身が携わっているITを利用した教育について発表しました。ブラホ・コストブ氏(都立科学技術大学博士課程)は、同学とスタンフォード大学で行っている協調機械設計授業(紙で自転車を作る・縦列駐車の支援システムの開発)の紹介をしました。フェルディナンド・マキト氏(テンプル大学ジャパン講師)は、自分自身が行っているオンライン教育の体験をもとに、1と0の概念を用いながら、私達の身近なデジタル・ディバイドの克服方法をわかりやすく話しました。ヨサファット・スリスマンティオ氏(千葉大学博士課程)は、インドネシアの状況を紹介した後、自分自身が行っているバンドン大学へのオンライン授業の体験から、今後の様々な課題を指摘しました。蒋恵玲さん(横浜国立大学博士課程)は、上海交通大学の遠程教育センターで、どんどん進められている市内アクセスポイントを使ったオンライン教育を紹介しました。
休憩の後、台北から来てくださった台湾国立中央大学の楊接期氏から、国家からの支援を受けて進めているバーチャル教育都市「Educities」の紹介がありました。30個ものサブ・プロジェクトからなり、50名を超える共同研究という大規模な計画ですが、時間が足りなくて全体像をご紹介いただけなかったのが残念でした。ソウルから来てくださった韓国通信政策研究院の李來賛氏は、ブロードバンドとワイヤレス・インターネット(携帯電話など)の発展を分析した後、デジタル・ディバイド克服のために政策が大事だということを説明しました。
最後に、慶應義塾常任理事の斎藤信男教授から、「ITは教育にも変化をもたらす事ができるであろうか」というお話がありました。ITの適用によって①教育の生産性が向上するか②新しい教育方法・活動が実施できるか、ということを考えました。そして、慶應義塾大学がアジアの大学と始めた国際的教育への取り組みを紹介し、今や教育の大競争時代に突入していると結論づけられました。そして、私達はITの可能性を信じ、ITが真に人類にとって有効に働けるように努力していきましょうと宣言されました。
短い休憩の後、施建明さん(東京理科大学助手)の進行で、9名の講師のパネル・ディスカッションを行いました。フロアーからだされた質問に、講師の皆さんは丁寧にお答えいただきました。酷暑の中で、午後1時より開催されたSGRAの初めてのシンポジウムは、午後6時半、予定通り、盛会の内に終了しました。
(文責:今西淳子)
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2001.05.30
2001年5月30日(金)午後6時半~8時45分、東京国際フォーラムガラス棟402会議室にて、SGRA第3回研究会「共生時代のエネルギーを考える:ライフスタイルからの工夫」が開催されました。50名を越す参加者は、講演者の用意したたくさんのスライドを見ながら、ライフスタイルという身近な切り口から環境問題を考えました。
最初に、早稲田大学理工学部の木村建一名誉教授が「民家に見る省エネルギーの知恵」についてお話しくださいました。木村先生は、持続可能な建築を考える上で、民家の環境に適した美しさ<環境美>を強調されました。断熱と気密化で住宅の暖房エネルギーは1/10にすることができるが、問題は夏の住まいだと指摘され、世界各地の民家の美しい写真をたくさん見せてくださいました。そして、民家には蒸発冷却・大気放射冷却・地中の恒温性利用、加湿冷却、天井扇など、「涼房」と名づけることのできる様々な知恵が見られ、機能と調和した美しさを備えた民家には建築の本質があるとされ、民家技術の現代的適用として①形態と気候風土と②社会情勢の変化に適応していること、③材料の再利用、④(自動ではなく)人動制御、⑤設計の態度を改めること、が大事であると提案されました。また、これからの建築は、①化石燃料を使わない②工夫の心をもつ③地域性をいかす④建物は生き物と認識することが大事であり、伝統的民家こそ環境にやさしい建築である、今後の建築はもっと「民家に見る知恵」を学ばなければいけないと主張されました。
次に、北九州大学助教授でSGRA研究員のデワンカー・バート氏は、「ドイツのエムシャー工業地帯の再生プロジェクトから学ぶこと」という演題で、ドイツ人の環境保全の意識について講演しました。デワンカー氏は、まず、緑がいかに大切かを説明し、工業地帯の再開発では、屋上や駐車場の地面にまで緑を生やしてあったり、太陽電池のパネルが並んでいる様子を見せてくださいました。ビートルスの60年代からドイツの若者は環境破壊的な政策に反対運動を続け、石炭の利用は殆どなくなり、原子力発電を停止することが決まった。そして、自然エネルギーの利用として、風力発電が開発されたが、既にドイツの若者は、風車という人工物を作ることに反対を始めている。だから、何が良いかはまだ誰もわからない。でも、こうして自然資本を生かした世界を生み出していく努力が必要であり、そのために「ALL YOU NEED IS LOVE.」であると結論づけました。
最後に、同じく北九州大学の助教授でSGRA研究員の高偉俊氏は、「都市構造とライフスタイルの変化による省エネルギーの効果」という講演の中で、人口の多いアジアの特性と経済の発展をデータで示した後、コミュニティーを重視したライフスタイルへの変化と、都市を高層化して地域化し、緑と水でネットワーク化したクラスター化が必要であるとの提案をしました。「マイホームからマイルームへ」、外食の薦め、コミュニティーセンター活用など、具体的な提案はとても刺激的でした。
その後、短い時間でしたが、いくつかの質疑応答が為され、デワンカー氏の「できることから始めなければいけない」との力強い宣言をもって、第3回研究会も盛会のうちに 終わりました。
(文責 今西)
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2001.05.10
SGRAレポート第5号(PDF)
第2回フォーラム講演録
「グローバル化のなかの新しい東アジア:経済協力をどう考えるべきか」
平川均、F.マキト、李鋼鉄
2001.5.10発行
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【ゲスト講演1】「グローバル化とリージョナリズム」平川 均(名古屋大学国際経済動態研究センター教授)
【ゲスト講演2】「グローバリズム vs リージョナリズム」―ASEAN中堅官僚研修プログラムの経験から―」角田英一(アジア21世紀奨学財団常務理事)
【研究報告1】「グローバル化のなかの日本経済協力理念」フェルディナンド・マキト(SGRA研究員)
【研究報告2】「東アジアのなかの日・中経済協力―ODAを通じてみる日中関係」李 鋼哲(SGRA研究員)
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2001.05.10
SGRAレポート第4号(PDF)
第1回フォーラム講演録「地球市民への皆さんへ」
関啓子、L.ビッヒラー、高熙卓
2001.5.10発行
---もくじ-----------------------
【ゲスト講演1】「地球市民のみなさんへ」関 啓子(一橋大学大学院社会学研究科教授)
【研究報告1】「市民社会? 西洋の論理と中国の現実」Lorenz Bichler(ニューヨーク大学客員教授)
【研究報告2】近代以前の日本と<公共>性」高熙卓(東京大学総合文化研究科博士課程)
【質疑応答】
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2001.03.15
SGRAレポート第3号(PDF)
渥美国際交流奨学財団奨学生の集い講演録 畑村洋太郎「技術の創造」 2001.3.15発行
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今年は、渥美財団選考委員長で東京大学工学部の畑村洋太郎教授に「技術の創造」 というお話をしていただきました。「失敗に学ぶ」ことがいかに大切かということ、 効率や便利さばかり追い求めるために教訓を忘れてしまっていること、効率の低い枝 葉の部分を切り落としてきたために、ひとつのルートがつまると他へ迂回できなくな っていること、作業がマニュアル化され全体がわかっている人が居なくなっているこ と、それゆえ事故があっても適切な判断ができないこと、技術の成長周期は30年な ので、半導体を初めとする多くの産業の最盛期が終わりつつあること、現在次々に起こる事故はこのような状況から説明できること、まだまだ日本では危機感が少なく、今後10年はこのような嫌な事故が起きるだろうということ、などなど「恐ろしい 話」をたっぷり伺いました。その後、「科学の 進歩は人類にとって必要か」(科学は人類を幸せにするものではないが、人間の好奇 心が科学を発展させる)「人間の心は科学的に説明できるのか」(好きになる等の人間の心も、今では物質の移動で説明される)など、参加者からのたくさんの質問にも丁寧にお答えいただきました。
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2001.02.15
SGRAレポート第2号(PDF)
CISV国際シンポジウム講演録
「グローバル化への挑戦:多様性の中に調和を求めて」
今西淳子、高偉俊、F.マキト、金雄熙、李來賛
2001.1.15発行
-------要旨-----------
本稿で、私たちは「多様性の中の調和」という概念に取り組みます。しかし、多様性の中の調 和が必要であるということは認めながらも、発表者からまとまったひとつの方策が提案されてい るわけではありません。各々が自分の専門分野からひきだされた原則に従って論じているのです から、相違は当然のことともいえますが、ここでは、様々なグローバル化の側面を紹介していま す。
グローバル化における様々な地域性(今西)、都市環境問題の様々な解決策としてのクラスタ ー化(高偉俊)、様々なネットワークの構成方法(李來賛)、様々なITの普及方法(金雄熙)、 そして、様々な市場形態(マキト)。今西は、留学生と支援組織が様々なレベルの地域の中で協 力しあうことが大事だと指摘します。高は、都市の中で環境と調和して共生していくために、自 然の力を利用することを提案します。李は、様々なネットワークを繋ぐ上位のネットワークが必 要とされ、現代のネットワークを繋いでいくのは組織にとらわれない自由な目的探索的インター フェースであることを説明します。金は、IT革命におけるデジタル・ディバイドの進行を指摘 し①IT先進国と途上国が共通認識をもつこと②途上国の支援をすること③共同研究を進める ことを提案します。最後に、マキトはグローバル化とグローバル・スタンダード化の違いを明ら かにし、違ったシステムの良いところを認めあうことが大切であると喚起します。
それぞれの側面で、大きな課題が内包されており、発表者は今後さらに研究を続けていく所存 です。私達が本日提案した様々な問題を、激動の世の中でグローバル化に対応していく際の一助 としていただければ幸いです。
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2001.02.09
2001年2月9日(金)午後6時半~9時、東京国際フォーラムのガラス棟402会議室にて、SGRA第2回研究会が開催されました。約40名の参加者は、「グローバル化の中の日本の独自性」研究チームが担当で、ODAを中心に、アジア通貨危機以後の東アジアの経済協力はどうあるべきかということを考えました。最初の講演は、名古屋大学経済学部付属国際経済動態研究センターの平川均教授の「グローバル化とリージョナリズム:東アジアの地域協力は何故必要か」。平川先生は、アジア通貨・経済危機について、その責任はアジアの内的要因に問題がないわけではないが、責任はより大きく、市場の自由化を推奨した米国、IMF、世界銀行などの先進側にあると主張しました。そして、無秩序なグローバル化の制御に向けたひとつの対応策としての地域協力が不可欠であり、リージョナリズムがアジアにおいて急速に展開されていると指摘。今後の目標として、アジアを共生の地とする思想、互いの文化や伝統の尊重、時間の観念を加えた構造転換を提言しました。 次にアジア21世紀奨学財団の角田英一常務理事が、ASEAN中堅官僚研修プログラムを担当している経験に基づき、アジア通貨危機のIMF主導の解決策への反発から、日本型経済発展モデルの研究熱が高まったことを指摘しながらも、汚職・癒着・縁故主義(インドネシア語でKKN)がはびこる限り、経済は歪められ、阻害された国民の無力感、国家への不信感を生み出している。このアジア的風土をどう改革するかが大きな課題であると強調しました。マキトSGRA研究員は、最近の新聞記事のODA削減に関する議論等を引用しながら、「自助努力を支援する」という日本ODAの理念<要請主義・円借款・非干渉主義>について検討し、数の議論に偏らないで、日本ODAの理念がせっかく持っている強いところを生かし、「質」の改善をさらに図るべきだと提言しました。 最後に、李鋼哲SGRA研究員は、日中両国民の相手国に対する意識調査など、たくさんの資料を示しながら、ODA削減議論を中心とした日中経済協力について説明し、中国経済はテイクオフし既に自立発展が可能な段階にあるので、ODA削減は妥当であると結論。さらに日中経済協力の今後の課題として、歴史問題に区切りをつけること、草の根(NGO)・環境協力・貧困扶助を重視すること、経済協力は政府間から民間へシフトすること、日中が両輪となって東アジアの経済発展を進めていくこと等を提言しました。その後、短い時間でしたが、いくつかの質疑応答が為され、第2回研究会も無事、盛会のうちに終わりました。 (文責:今西)
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2001.01.30
SGRAレポート第1号(PDF)
設立記念講演録 船橋洋一「21世紀の日本とアジア」
2001.1.30発行
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関口グローバル研究会(Sekiguchi Global Research Association 略称SGRA)設立記念講演会が、 2000年7月26日、慶應義塾大学三田キャンパス北新館2階ホールにおいて行なわれた。 本稿は、その設立記念講演会において、朝日新聞コラムニスト船橋洋一氏がゲスト講師として「21 世紀の日本とアジア」のテーマで特別講演したものである。
(1)沖縄サミットの本意は中国・インド・インドネシア・韓国の首脳を招いた上でアジアの声を反 映させることにあったが、実際はアジアの問題をあまり取り上げていないし、アジア諸国の声も反映で きなかった。
(2)同サミットにおいて基地問題についての解決の糸口さえも示していないから、日米間の不均衡 な関係は引き続き維持されていく。この問題を解決しない限り、日本の「不沈空母」という役割は終わ らないだろう。
(3)日本は地理的にアジアにあり、上海などに近いが、21世紀には心も近づかなければならない。 そのために「隣交」――近隣諸国との関係の飛躍的発展・強化――という外交を積極的進めるべきであ ると提言する。
(4)以前の日本の大企業家は一国に依拠しながらも世界への発信を構想していたが、情報社会にも かかわらず、現代の日本の起業家は逆に国内ビジネスだけで手一杯で、世界への発信がなかなかできな い。
(5)アジア諸国は目覚しい経済変化と社会進歩を遂げつつある。経済面において日本がリードする アジアはすでに変わり、IT革命の領域においてシンガポール、台湾、香港、韓国等はめざましく発展 しているし、インド・中国の技術者が世界中で活躍している。このような情勢の中で「隣交」外交がい っそう必要となる。 上記のほかに、船橋氏はまたハイテクの進展と戦争の解決問題、国際関係とテロ対策問題、朝鮮半島 の情勢、北朝鮮のテポドン発射と日米安全保障、日韓間歴史問題の区切りなどについても熱く語った。
明治維新以来、多くの日本人の心は欧米にあったが、地理的にはアジアにあり(In Asia)引っ越すこ とはできない。世界の人々にもっとアジアを知ってもらうには日本はアジア諸国と連携して、その一員 として発信しなければならない(Of Asia)。それを実現させるためには、「隣交」――目覚しい経済変化を遂げつつある近隣諸国との協力・発展を積極的に推進しなければならない。日本だけのことを考えて いればよかった、いわば「一国平和主義」の時代はすでに終わった。
設立記念講演に先立って行われた、研究会設立の趣旨、事業計画概要、研究プロジェクトの事例紹介 を併せて掲載させていただく。