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2017.07.19
関口グローバル研究会(SGRA)では昨年に引き続き、福島県飯舘(いいたて)村スタディツアーを下記の通り行います。 参加ご希望の方は、SGRA事務局へご連絡ください。
SGRAでは2012年から毎年、福島第一原発事故の被災地である福島県飯舘村でのスタディツアーを行ってきました。
そのスタディツアーでの体験や考察をもとにしてSGRAワークショップ、SGRAフォーラム、SGRAカフェなど、さまざまな催しを展開してきました。今年も第6回目の「SGRAふくしまスタディツアー」を行います。ぜひ、ご参加ください。
日 程: 2017年9月15日(金)、16日(土)、17日(日)
人 数: 10人程度
宿 泊: 「ふくしま再生の会-霊山(りょうぜん)センター」
参加費: 一般参加者は新幹線往復費用+1万2千円
(ラクーン会会員には補助が出ます)
申込み締切: 8月31日(木)
申込み・問合せ: SGRA事務局 角田
E-mail:
[email protected] Tel: 03-3943-7612
プログラム・詳細
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2017.07.06
下記の通りSGRAフォーラムを北九州市で開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。
テーマ:第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性
「蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」
会 期: 2017 年 8 月 7 日(月)~9 日(水)
8月7日(月)16:00~17:00 基調講演
8月8日(火)9:00~12:40 14:00~18:00 論文発表
8月9日(水)9:00~12:00 全体討議・総括
会 場: 北九州国際会議場国際会議室
主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
助 成:(公財)鹿島学術振興財団
協 賛:北九州市/(公財)北九州観光コンベンション協会
参加費:無料(一般参加者の食事と宿泊は自己手配)
使用言語:日・中・韓同時通訳付き
お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局(
[email protected], Tel:03-3943-7612)
◇フォーラムの趣旨
東アジアにおいては「歴史和解」の問題は依然大きな課題として残されている。講和条約や共同声明によって国家間の和解が法的に成立しても、国民レベルの和解が進まないため、真の国家間の和解は覚束ない。歴史家は歴史和解にどのような貢献ができるのだろうか。
渥美国際交流財団は2015 年7月に第 49 回 SGRA(関口グローバル研究会)フォーラムを開催し、「東アジアの公共財」及び「東アジア市民社会」の可能性について議論した。そのなかで、先ず東アジアに「知の共有空間」あるいは「知のプラットフォーム」を構築し、そこから和解につながる智恵を東アジアに供給することの意義を確認した。このプラットフォームに「国史たちの対話」のコーナーを設置したのは2016年9月のアジア未来会議の機会に開催された第1回「国史たちの対話」であった。いままで3カ国の研究者の間ではさまざまな対話が行われてきたが、各国の歴史認識を左右する「国史研究者」同士の対話はまだ深められていない、という意識から、先ず東アジアにおける歴史対話を可能にする条件を探った。具体的には、三谷博先生(東京大学名誉教授)、葛兆光先生(復旦大学教授)、趙珖先生(高麗大学名誉教授)の講演により、3カ国のそれぞれの「国史」の中でアジアの出来事がどのように扱われているかを検討した。
第2回対話は自国史と他国史との関係をより構造的に理解するために、「蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」というテーマを設定した。13世紀前半の「蒙古襲来」を各国の「国史」の中で議論する場合、日本では日本文化の独立の視点が強調され、中国では蒙古(元朝)を「自国史」と見なしながら、蒙古襲来は、蒙古と日本と高麗という中国の外部で起こった出来事として扱われる。しかし、東アジア全体の視野で見れば、蒙元の高麗・日本の侵略は、文化的には各国の自我意識を喚起し、政治的には中国中心の華夷秩序の変調を象徴する出来事であった。「国史」と東アジア国際関係史の接点に今まで意識されてこなかった新たな歴史像があるのではないかと期待される。
もちろん、本会議は立場によってさまざまな歴史があることを確認することが目的であり、「対話」によって何等かの合意を得ることが目的ではない。
なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。円卓会議の講演録は、SGRAレポートして3カ国語で発行する。
◇プログラム
〇8月7日(月)16:00~17:00 開会と基調講演
【趣旨説明】三谷博(跡見大学)
【基調講演】葛兆光(復旦大学)「『ポストモンゴル時代』?―14~15世紀の東アジア史を見直す」
〇8月8日(火)全日円卓会議(9:00~12:40 14:00~18:00)
【問題提起】劉傑(早稲田大学)
【研究発表】
(1)四日市康博(昭和女子大学)「モンゴル・インパクトの一環としての『モンゴル襲来』」
(2)チョグト(内蒙古大学)「アミルアルホンと彼がホラーサーンなどの地域において行った2回の戸籍調査について」
(3)橋本雄(北海道大学)「蒙古襲来絵詞を読みとく」
(4)エルデニバートル(内蒙古大学)「モンゴル帝国時代のモンゴル人の命名習慣に関する一考察」
(5)向正樹(同志社大学)「モンゴル帝国と火薬兵器」
(6)孫衛国(南開大学)「朝鮮王朝が編纂した高麗史書にみえる元の日本侵攻に関する叙述」
(7)金甫桄(嘉泉大学)「日本遠征をめぐる高麗忠烈王の政治的狙い」
(8)李命美(ソウル大学)「対蒙戦争-講和の過程と高麗の政権をめぐる環境の変化」
(9)チェリンドルジ(モンゴル社会科学院歴史研究所)「北元と高麗との関係に対する考察―禑王時代の関係を中心に」
(10)趙阮(漢陽大学)「14世紀におけるモンゴル帝国の食文化の高麗への流入と変化」
(11)張佳(復旦大学)「『深簷胡帽』考:蒙元とその後の時代における女真族帽子の盛衰史」
〇8月9日(水) 午前:総合セッション(総括と自由討論)
司会進行:劉傑(早稲田大学)
【論点整理】趙珖(韓国国史編纂委員会)
【討論】(日中韓モから各1名が発問、その後自由討論)
【総括】三谷博(跡見大学)
関係資料はここからご覧いただけます。
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2017.06.29
SGRAレポート第79号 中国語版 韓国語版
SGRAレポート第79号(表紙) 中国語版 韓国語版
第52回SGRAフォーラム
「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」
2017年6月9日刊行
<もくじ>
<第一部>
【問題提起】「なぜ『国史たちの対話』が必要なのか-『国史』と『歴史』の間-」
劉 傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
【報 告1】「韓国の国史(研究/教科書)において語られる東アジア」
趙 珖(ソウル特別市歴史編纂委員会委員長/高麗大学校名誉教授)
【報 告2】「中国の国史(研究/教科書)において語られる東アジア-13世紀以降東アジアにおける三つの歴史事件を例に」
葛 兆光(復旦大学文史研究院教授)
【報 告3】「日本の国史(研究/教科書)におけて語られる東アジア」
三谷 博 (跡見学園女子大学教授)
<第二部>
討 論
【討 論1】「国民国家と近代東アジア」
八百啓介 (北九州市立大学教授)
【討 論2】「歴史認識と個別実証の関係-『蕃国接詔図」を例に-」
橋本 雄 (北海道大学大学院文学研究科准教授)
【討 論3】「中国の教科書に書かれた日本-教育の『革命史観』から『文明史観』への転換-」
松田麻美子 (早稲田大学)
【討 論4】「東アジアの歴史を正しく認識するために」
徐 静波 (復旦大学教授)
【討 論4】「『国史たちの対話』の進展のための提言」
鄭 淳一 (高麗大学助教授)
【討 論4】「国史における用語統一と目標設定」
金 キョンテ (高麗大学校人文力量強化事業団研究教授)
円卓会議・ディスカッション
モデレーター:南 基正(ソウル大学日本研究所副教授)、討論者:上記発表者ほか
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2017.06.15
2017年5月20日、第7回日台アジア未来フォーラムが、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)と国立台北大学法律学院との共同主催で開催されました。今回は、「日本・韓国・台湾における重要法制度の比較―憲法と民法を中心に」をテーマとし、憲法上の国会制度、および民商二法分立・統一に焦点を当て、日本、韓国、台湾の専門家を招いて、各国の現行制度の説明と、今後の課題について検討しました。
開会式では、渥美国際交流財団の渥美伊都子理事長の開幕のご挨拶の後、日本台湾交流協会の塩澤雅代室長と台湾日本人会台日交流部の安東徳幸部会長よりご祝辞をいただきました。そして最後に、国立台北大学法律学院の林超駿院長より歓迎の挨拶と共同主催者と賛助団体への謝辞をいただきました。
続いて、アメリカハーバード大学のコーヤン・タン教授より、立憲主義、すなわち憲法の精神について、日本、韓国、台湾の憲法の歴史と現在までの発展について、全般的な比較を行う基調講演がありました。これら3国の憲法は、全て第二次世界大戦後に生まれたもので、また、どの国も日本の統治を受けていたにもかかわらず、相当程度の相違点が存在するという点でとても興味深いものでした。
タン教授はご報告の中で、主権、教育およびジェンダーについて3国の比較をした上で、3国ともに主権は国民にあり、また教育水準は一流であるが、ジェンダーについては日本と韓国は保守的であると指摘しました。40分という短い時間でしたが、日本、台湾、韓国の立憲の精神がわかりやすくまとめられ、さらに、各国が直面している国際問題、領土問題、高齢化問題など、私達が考えなければならない問題が提示され、とても内容の濃いご報告でした。
午前の部【憲法】では「日本、韓国、台湾における国会制度」が取り上げられ、タン教授のご報告に続いて、各国の立憲制度に対する私達の理解をより掘り下げるものとなりました。
まず、日本の東北大学の佐々木弘通教授より、日本国憲法上の国会の現状と課題についてご報告をいただきました。日本の国会の選挙制度の成り立ちから今日に至るまでの法改正の歴史、現在の選挙制度においては内閣の解散権が大きなものとなってしまっている問題、そして今後の調整についての考え方などをお話しいただきました。
つぎに、韓国慶星大学の孫亨燮教授より、韓国で法改正論が出ている下での国会の変化の概要をご報告いただきました。韓国においては大統領の権力が大きすぎて濫用のおそれがあること、憲法改正により一部の権限を国会と国務大臣に移譲する方法があることなどをお話しいただきました。
最後に、台北大学林超駿教授より、アメリカ法を参考とした台湾の国会議員の定数についてご報告をいただきました。台湾における国会議員定数の移り変わりが、民意の反映、議会運営などに対してどのような影響を与えたのかなど、台湾の法制度について一歩踏み込んだ観点からお話しいただきました。
続いて、石世豪教授(国立東華大学財経法律研究所)、林明昕教授(国立台湾大学法律学院)および陳愛娥准教授(国立台湾大学法律学院)の3名のコメンテーターより、それぞれ異なる角度から、国会、民意、および立憲制度の関係についてコメントをいただきました。
昼食後、まず台湾司法院前院長の賴英照教授よりご報告をいただき、判決中に外国法を引用する際に、理を説くのか、詭弁をなすのか、両者の間でどのようなバランスをとれば、判決に法律上の根拠があるとされ、また判決が社会の変化に対応したものとなるのかについての考え方をお話しいただきました。
午後の部【民法】では「民商二法分立・統一」が取り上げられました。まず、韓国成均館大学の権澈准教授より、韓国の立法制度の流れ、および、民商二法分立・統一に関する議論が日本や台湾ほどに注目されていない現実が報告されました。現代社会において、商人の場合の特殊性を過度に注視する必要はなく、民法を主体として調整を行うことができるが、この問題は討論するに値すると指摘されました。
ドイツ法の影響のもと、民商二法統一に近い考えを持つ日本と台湾については、日本東北大学の中原太郎准教授と、台北大学向明恩准教授より、制度の紹介をしていただきました。両教授ともに、商法学者と民法学者はもっと話合いの場を持つべきだとの見解を提示されました。
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その後、民法学者である陳自強教授(国立台湾大学法律学院)、商法学者である廖大穎教授(国立中興大学法律学系)と張心悌教授(国立台北大学法律学院)よりコメントをいただき、異なる観点から、興味深い問題点を提供していただきました。
予定時間が大分オーバーしましたが、最後に、渥美国際交流財団の角田英一事務局長より、参加されたすべての専門家に対して謝辞が述べられ、参加者全員が今回のフォーラムに参加したことで、3国の異なる法制度の現状と今後の発展についての理解を深めることができたことを今後の研究に活かしたいとし、フォーラムは無事に閉会しました。
当日の写真
<蔡英欣(さい・えいきん)TSAI Ying-hsin>
2004年度渥美奨学生。2006年3月に東京大学で博士号を取得し、現在は国立台湾大学法律学院副教授。専門は商法。
2017年6月15日配信
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2017.06.15
SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす(首都圏在住の)みなさんに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺う<場>として、SGRAカフェを開催しています。
いま話題となっている「就活」や「婚活」。「活」という概念は、自分の力で情報を集め、自分にとっての最適な選択を行うことですが、ともすれば自己責任論に繋がりやすいものでもあります。そうした中で、人は自分の意志に沿って挑戦的に生きていくのか。今回は「活」の中でも新しい「妊活」と「終活」に注目し、会場も一体となったディスカッションを通して皆さんとこの問題を考えます。
参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局(
[email protected])へお名前、ご所属、連絡先をご連絡ください。
第10回SGRAカフェへのお誘い
◆「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと? 『妊活』と『終活』の流行があらわすもの」
〇日時:2017年7月29日(土)13:30~16:00
〇会場:渥美国際交流財団/鹿島新館ホール (地図)
〇会費:無料
〇申込み・問合せ:SGRA事務局 (
[email protected])
〇プログラム:
発表:13:30~14:30
ティータイム(休憩):14:30~14:45
ディスカッション・質問応答:14:45~16:00
講師:ムラデノヴァ、ドロテア (ライプチッヒ大学大学院 東アジア研究所日本学科博士後期課程)
ファスベンダー、イザベル (東京外国語大学大学院 総合国際学研究科博士後期課程)
司会:金 律里
メッセージ:
婚活や就活といえば馴染みのある表現ですが、最近「妊活」や「終活」といった言葉も流行してきています。婚活と就活は「生きている間」のことですが、妊活と終活は「人生が始まる前」と「終わった後」の「節目」を管理しようというものです。今や生涯(とそれ以前・以後)のあらゆる「節目」にこうした「活」が浸透し、その都度人生を活発にデザインするように呼び掛けられています。「活」という概念は、自分の力で情報を集め、あらゆる選択肢を考慮に入れた上で、自分(と自分の身内)にとって最適な選択をしなければならないという意味を強く含んでいます。もちろん、そこには自分の人生に関わるものを自分で決めることができ、自分なりに生きられるという自己決定のメリットはあります。しかし一方でそれは、人生の選択肢を上手く扱えず失敗した場合は、個人の責任であるという「自己責任論」につながりやすい考え方でもあります。時に生きることの選択に失敗した場合、それを自分の責任として背負い込まねばならないとすれば、人は果たして人生を、自分の意志に沿って挑戦的に生きることができるでしょうか?
まずは「人生をうまくやるために、どうしてこんなにも頑張らなければいけないのか」という問いから始めようと思っています。それも生まれる前から死んだ後にまで。個人を「活」動させずにはおかないような社会的仕組みはいつ生まれてきたのでしょうか?この社会において「自由であること」とはどういうことでしょうか?国家はそこにどのように関わってくるのでしょうか?これらの問いを考える道具として、「自己管理する主体(entrepreneurial self)」という言葉を手がかりにしながら、皆さんで、今日の日本社会で生きることの自由と責任について、ひろくディスカッションしていきたいと思っています。
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ムラデノヴァ、ドロテア (Mladenova、Dorothea)
ブルガリア系ドイツ人。ライプチッヒ大学 東アジア研究所 日本学科博士後期課程在籍(研究テーマ:経営管理する自己の終焉の最適化―日本における終活)。
ファスベンダー、イザベル (Fassbender, Isabel)
ランツフート(ドイツ)出身。東京外国語大学大学院総合国際学研究科国際社会専攻 博士後期課程在籍(研究テーマ:「産むこと」をめぐるポリティクス—日本の少子化社会におけるファミリープランニングをめぐる言説の分析ー)。2017年度渥美奨学生。
金 律里 (Kim, Yul Lee)
韓国出身。韓国梨花女子大学を卒業してから来日、2015年東京大学大学院人文社会系研究科博士課程を退学。渥美国際交流財団2015年度奨学生。
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2017.06.01
2015年9月、国連は17の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDG)を定めた。その6番目の目標に「すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」ということが掲げられている。これを背景として、第23回SGRA持続可能な共有型成長セミナーが、「経済的に困窮しているコミュニティのための水の統合システム」というテーマで、2017年5月7日(日)にマニラで開催された。共同主催者は、雨水利用を推進するアメコス・イノベーション社(AMECOS INNOVATION, INC.)で、自社を会場として提供してくれた。
SDGのウェブサイトには、次のような統計がある。
・2015年の時点で、改良飲料水源を利用する人々の割合は、1990年の76%から91%へと増大しています。しかし、トイレや公衆便所など、基本的な衛生サービスを利用できない人々も、25億人に上ります。
・毎日、予防可能な水と衛生関連の病気により、平均で5000人の子どもが命を失っています。
・水力発電は2011年の時点で、最も重要かつ広範に利用される再生可能エネルギー源となっており、全世界の総電力生産量の16%を占めています。
・利用できる水全体の約70%は、灌漑に用いられています。
・自然災害関連の死者のうち15%は、洪水によるものです。
フィリピンでも水の状況はあまり芳しくない。今のままでは、フィリピンは今後10年以内に水不足が深刻な問題になり得る。不衛生な水しかなくて毎日55人が命を落としている。ボトルウォーターの使用が急増している。
SGRA持続可能な共有型成長セミナーの目標は「効率・公平・環境」の鼎立であるので、実行委員会ではKKKセミナーと呼んでいる。ちなみに、フィリピン語にしてもKKKなのである。毎年2回フィリピンで開催する共有型成長セミナーでは、1人の委員のKKKに関する研究とアドボカシー(主張)に焦点を当て、発表と議論が行われる。
第23回KKKセミナーの午前中の司会者は、フィリピン出身の元渥美奨学生のブレンダ・テネグラさんであった。彼女は暫くの間参加できなかったが、今西淳子SGRA代表の誘いで、前回のKKKセミナーから復帰してくれたので嬉しく思っている。今回のKKKセミナーの焦点は、アメコス社の社長で、元大学教授であるアントニオ・マテオ先生の雨水利用の活動であった。
マテオ先生と角田英一渥美財団事務局長の開会挨拶の後、マテオ先生が「イノベンション(発明+革新)と気候変動の影響」(Innoventions Versus Climate Change Effects)というテーマで発表した。雨水利用は家計の水道費を節約するだけでなく、気候変動によって頻繁に起きている湖水の被害を軽減できるという主張であった。水源に注目したマテオ先生に対して、フィリピン固形廃棄物管理協会(Solid Waste Management Association of the Philippines)のグレース・サプアイ会長と娘のカミールさんは、下水に焦点を当てた「浄化槽における環境に優しいイノベンション(発明+革新)」(Green Innoventions in Septic Tanks)を発表した。
ちなみに、KKKセミナーへの次世代の参加が増えていて嬉しく思っている。彼らには未来が託されているからこそ、積極的に参加してもらいたい。KKKセミナーは2004年にスタートしたが、その時から僕の兄弟たちはもちろん、姪と甥もできるだけ参加してもらうようにしている。今回も、マニラの大学の工学部を卒業した甥が参加した。別の甥は、セミナー前日の夜遅くまで仕事があったが、セミナー当日には運転手として手伝ってくれた(セミナーでは眠っていたけれど)。
サプアイ親子の発表の次に、「コモンズの管理と債務の開発のための交換 (Managing the Commons and Debt for Development Swap:コモンズとは誰の所有にも属さない資源を指すもの)についてジョッフレ・バルセ氏が発表した。彼は、100年以上も続く古いオーストラリアの「良き政府の協会」(Association for Good Government)の会長であり、セミナーのためにシドニーから来てくれた。バルセ氏は、汚職などが絡んで正しく使われなかった借入金はインフラ開発のため(例えば、水道システムの開発)に使えるようにすべきだと主張した。
最後に、フィリピン大学経営学部のアリザ・ラゼリス先生が「営利団体による水源の管理」(Water Resources Management by Business Organizations)について発表した。国連の「統合水源管理」が発表した理論的な分析枠組みを展開し、文化的要素を含む社会的な様相をその枠組みに導入しようとした。
昼食を挟んで、午後はSGRAフィリピン代表のマキトが司会を務め円卓会議を行った。他の委員のアドボカシーを事例として円卓会議の進め方を説明した後、発表者や参加者と一緒に、午前中の発表を1つずつ、5つの観点(つまり、効率・公平・環境・研究・アドボカシー)から論じた。その詳細と当日の写真は、セミナーの報告書(英文)をご参照ください。
円卓会議の後、マテオ先生にアメコス社をご案内いただいた。本社屋は多目的で、自宅でもありながら、発明用の研究室+展示施設でもある。獲得した特許はすでにご自分の年齢を上回っているほどで、「母の胎内にいた時にも発明をやっていた」と冗談を言っていた。
しかし、特許に関しては問題もある。あるフィリピン政府機関が無断で彼の発明を利用しているそうだ。知的財産の権利を守る番人でもある政府が、その役割を果たしていないのであるから問題の深刻さを物語っている。政府は国の発展のためにその発明を広めようとしているかもしれないが、さらなる発明や革新の妨げになるだろう。それでも、マテオ先生は国の発展のために発明や革新を呼びかけている。
アメコス社のプチ観光の最後に、子ども達や家族や友人たちを楽しませるために、再利用した資材を使って自分で作ったツリー・ハウス(樹上の家)に案内してくださった。マテオ先生が発明や革新の意欲を失わず、しかも、KKKセミナーの参加者とのネットワークがビジネスにも役立ったと話してくれたことを嬉しく思っている。
<マックス・マキト☆Max Maquito>
SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。
2017年6月1日配信
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2017.04.27
渥美国際交流財団関口グローバル研究会は、バンコク、バリ島、北九州に続き、ソウルにて第4回アジア未来会議を開催します。アジア未来会議は、日本で学んだ人、日本に関心をもつ人が一堂に集まり、アジアの未来について語る<場>を提供することを目的としています。毎回400名以上の参加者を得、200編以上の論文発表が行われます。国際的かつ学際的な議論の場を創るために皆様の積極的なご参加をお待ちしています。
日時:2018年8月24日(金)~8月28日(火)(到着日・出発日も含む)
会場:韓国ソウル市 Kホテル
http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/
アジア未来会議は下記の要項にしたがって論文・小論文・ポスター/展示を募集します。
◆テーマ
本会議全体のテーマは「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」です。本会議では葛藤や格差などの人類共通の諸課題を解決するために、「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」を目指します。朝鮮戦争の後、韓国は絶え間ない努力と海外からの多大な援助によって「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展を遂げました。韓国は、その歴史的経験から、開発にともなう苦痛や悩みをよく理解していると言えるでしょう。こうした点からも韓国ソウルで開催される本会議が、これからのアジアの「平和、繁栄、そしてダイナミックな未来」に寄与することを願います。
第4回アジア未来会議で学際的に議論するために、下記のテーマに関連した論文、小論文、ポスター/展示発表を募集します。登録時に一番関連しているテーマを3つ選択していただき、それに基づいて分科会セッションが割り当てられます。
平和Peace、繁栄Prosperity、活力Dynamism、幸福Happiness、人権Human_Rights、成長Growth、グローバル化Globalization、教育Education、共存Coexistence、公平Equity、長寿Longevity、健康Health、メディアMedia、多様性Diversity、革新Innovation、歴史History、
コミュニケーションCommunication、社会環境Social_Environment、自然環境Natural_Environment、持続性_Sustainability
◆学術分野
下記の分野を受け付けます。
A 自然科学
物理学、化学、生物学、数学、医学、農学、工学、その他
B 社会科学
法学、政治学、経済学、経営学、社会学、教育学、その他
C 人文科学
哲学、宗教学、心理学、歴史学、芸術学、文学、言語学、その他
◆発表言語
第4回アジア未来会議の公用語は英語、日本語と韓国語です。登録時に、まず口頭発表およびポスター/展示の言語を選んでいただきます。英語で発表する場合の発表要旨は250語以内に纏めてください。日本語か韓国語で発表する場合は、発表要旨のみ英語(250語)と日本語(600字)あるいは韓国語(600字)との両方で投稿していただきますが、論文および小論文は日本語あるいは韓国語のみで結構です。
◆発表の種類
アジア未来会議は日本で学んだ人、日本に関心のある人が集まり、アジアの未来について語り合う場を提供することを目的としています。国際的かつ学際的なアプローチによる、多面的な議論を期待しています。専門分野の学術学会ではないので、誰にでもわかりやすい説明を心掛けてください。
1.小論文 short_paper(2~3ページ)
自分の専門とは違う研究者も参加して国際的かつ学際的な議論をすることを前提に、口頭発表の内容をまとめた小論文を投稿してください。小論文の代わりに発表レジュメ・パワーポイント等の配布資料でも構いません。
発表要旨のオンライン投稿の締め切りは2018年2月28日、合格後の小論文のオンライン投稿(PDF版のアップロード)の締め切りは2018年5月31日です。5月31日までに投稿がない場合は、アジア未来会議における発表を辞退したと見なされますのでご注意ください。小論文は、奨学金、優秀論文賞の選考対象にはなりません。
2.論文 full_paper(10ページ以内)―奨学金、優秀論文賞の選考対象になります
アジア未来会議は、多面的な議論によって各人の研究をさらに磨く場を提供します。必ずしも完成した研究でなくても、現在進めている研究を改善するための、途中段階の論文を投稿していただいても構いません。
奨学金と優秀論文賞に申請する場合、発表要旨のオンライン投稿締め切りは2017年8月31日で、合格後の論文のオンライン投稿(PDF版のアップロード)の締め切りは2018年3月31日です。発表要旨の合格後、論文の投稿を前提に奨学金を申請できます。奨学金の選考結果は1月20日までに通知します。
また、学術委員会による審査により、優秀論文20本が選出されます。優秀論文には、アジア未来会議において優秀賞が授与され、会議後に出版する優秀論文集「アジアの未来へー私の提案Vol.4」に収録されます。既にアジア未来会議で優秀論文賞を受賞したことのある方は、選考の対象外となりますので予めご了承ください。
奨学金と優秀論文賞に申請しない場合、発表要旨のオンライン投稿締め切りは2018年2月28日で、合格後の論文のオンライン投稿(PDF版のアップロード)の締め切りは2018年5月31日です。
3.ポスター/展示発表
・ポスターはA1サイズに印字して当日持参・展示していただきます
・展示作品は当日の朝に自分で搬入し展示していただきます
発表要旨のオンライン投稿締め切りは2018年2月28日で、合格後のポスター/展示のデータのオンライン投稿(PDF版のアップロード)の締め切りは2018年5月31日です。アジア未来会議において、AFC学術委員会により優秀ポスター/展示賞数本が選出されます。ポスター/展示作品は、奨学金と優秀論文賞の選考対象にはなりません。
◆分科会セッションの割り当て
分科会は、2018年8月26日(日)に、韓国ソウル市のKホテル会議室で開催します。分科会セッションのスケジュールは、2018年8月5日までにAFCオンラインシステム上に発表し、その後調整の上、8月15日に決定します。
1.一般セッション(アジア未来会議実行委員会が割り当てる)
下記のグループセッションと学生セッションのものを除き、2018年5月31日までに投稿された論文または小論文は、まず口頭発表言語によって英語、日本語、韓国語のセッションに分かれます。次に、登録時に選んでいただく3つのテーマに基づき分科会セッションを割り当てられます。
2.グループセッション(グループで独自のセッションを作る)
独自のセッションを希望する方は、発表者3~5名、座長1~2名のグループを作り、①セッションのタイトルと趣旨(英語の発表の場合は英語のみ、日本語か韓国語の発表の場合は英語と日本語か韓国語)、②発表者および座長の氏名とAFCユーザー登録番号(4桁)と投稿番号(3桁)③発表言語を、2018年5月31日までにアジア未来会議事務局へEメールでお送りください。
3.学生セッション
大学院修士課程や学部の学生は、学生セッションに参加してください。大学院博士課程の学生は、どのセッションにも参加できますが、学生セッションを選ぶこともできます。
◆論文投稿のスケジュール
2017年5月1日:論文の発表要旨のオンライン投稿受付開始(英語で発表する場合は英語。日本語か韓国語で発表する場合は、英語と日本語か韓国語の両方
2017年8月31日:論文の発表要旨の締め切り(奨学金と優秀論文賞の対象)
※奨学金と優秀論文賞に応募しない場合の締め切りは、2018年2月28日
2018年3月31日:論文(英語か日本語か韓国語)のオンライン投稿(PDF版のアップロード)の締め切り
(優秀論文賞の選考対象)
※優秀論文賞に応募しない場合の論文の投稿締め切りは、2018年5月31日
◆詳細は、http://www.aisf.or.jp/AFC/2018/call-for-papers/こちらをご覧ください。(一番上のタブで言語を選択)
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2017.04.20
下記の通り第7回日台アジア未来フォーラムを台北市で開催します。参加ご希望の方は、下記リンクより登録してください。
テーマ:「台・日・韓における重要法制度の比較─憲法と民法を中心として」
主 催:国立台北大学法律学院、公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)
開催日:2017年5月20日(土曜日) 08:50-18:00
会 場:国立台北大学台北キャンパス(台北市民生東路三段67号)
参加申込み登録:参加申込みはこちら から
申込み締切:2017年5月13日(土)13時まで
お問合せ:SGRA事務局
●フォーラムの趣旨:
第7回日台アジア未来フォーラムは、法制史の観点から、東アジア諸国における憲法と民法に関する法制度の比較をテーマとする。法領域のなかから、憲法と民法をピックアップした理由は、この2つの法律が我々の日常生活と緊密に関係する法であると共に、憲法は法領域のなかで、最も位階の高い法律であると言われており、憲法以外の法が憲法の規定に違反するとその法は無効となる。市民の基本的な権利を始めとして国家組織のあり方まで、国家の最も重要な事項の原則はすべて憲法に定められるといっても過言ではない。また、民法は市民生活における市民相互の関係(財産関係と家族関係)を規定する法であり、民事法の領域の憲法とも言われる。すべての人間は、その一生において、必ず民法と関わることは言うまでもない。
今回のフォーラムでは、日本、韓国、台湾の法学者をお招きし憲法と民法から、それぞれ一つの重要な論点をピックアップして議論していただく予定である。2つのセクションを通じて、日本、韓国と台湾における民法ないし憲法の論点について、お互いの相違点を見出し、お互いに自らの国の法制度の改正に示唆を得ることができると期待する。
(基調講演1は英語。基調講演2と報告は日中逐次通訳)
●プログラム
【基調講演1】「立憲主義ー過去、現在および未来」
コーヤン・タン教授(ハーバード大学法科学院)
〇第1セクション【憲法】「台湾・日本・韓国の国会制度」
【報告1】「日本国憲法上の国会の現状と課題」
佐々木弘通教授 (日本東北大学法学部)
【報告2】「韓国の改憲論における国会変化」
孫亨燮教授(韓国慶星大学法政大学)
【報告3】「台湾における国会議員定数の考察ーアメリカ法からの示唆」
林超駿教授 (国立台北大学法律学院)
【基調講演2】「理由あるいは詭弁ー判決における外国法の引用についての論争」
頼英照教授 (元司法院院長)
〇第2セクション【民法】「台湾・日本・韓国の民商統一・分離」
【報告4】「韓国における民商・分離立法の現状と課題」
権澈准教授 (韓国成均館大学法律系)
【報告5】「日本における民商法の関係」
中原太郎准教授 (日本東北大学法学部)
【報告6】「台湾民法における民商二法統一制度への懸念」
向明恩准教授 (国立台北大学法律学院)
●日台アジア未来フォーラムとは
日台アジア未来フォーラムは、台湾在住のSGRAメンバーが中心となって企画し、2011年より毎年1回台湾の大学と共同で実施している。過去のフォーラムは下記の通り。
第1回「国際日本学研究の最前線に向けて:流行・ことば・物語の力」
2011年5月27日 於:国立台湾大学文学院講堂
第2回「東アジア企業法制の現状とグローバル化の影響」
2012年5月19日 於:国立台湾大学法律学院霖澤館
第3回「近代日本政治思想の展開と東アジアのナショナリズム」
2013年5月31日 於:国立台湾大学法律学院霖澤館
第4回「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流―文学・思想・言語」
2014年6月13日~14日 於:国立台湾大学文学院講堂および元智大学
第5回「日本研究から見た日台交流120 年」
2015年5月8日 於:国立台湾大学文学院講堂
第6回「東アジアにおける知の交流―越境、記憶、共生―」
2016年5月21日 於:文藻外語大学至善楼
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2017.03.28
SGRAレポート78号
SGRAレポート78号(表紙)
第51回SGRAフォーラム
「『今、再び平和について』― 平和のための東アジア知識人連帯を考える」
2017年3月27日発行
<もくじ>
はじめに:南 基正(ソウル大学日本研究所副教授)
【問題提起1】
「平和問題談話会と東アジア:日本の経験は東アジアの公共財となり得るか」
南 基正(ソウル大学日本研究所副教授)
【問題提起2】
「東アジアにおけるパワーシフトと知識人の役割」
木宮正史(東京大学大学院総合文化研究科教授)
【報告1】
「韓国平和論議の展開と課題:民族分断と東アジア対立を越えて」
朴 栄濬(韓国国防大学校安全保障大学院教授)
【報告2】
「中国知識人の平和認識」
宋 均営(中国国際問題研究院アジア太平洋研究所副所長)
【報告3】
「台湾社会における『平和論』の特徴と中台関係」
林 泉忠(台湾中央研究院近代史研究所副研究員)
【報告4】
「日本の知識人と平和の問題」
都築 勉(信州大学経済学部教授)
パネルディスカッション
討論者:劉傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授)他、上記発表者
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2017.03.02
あなたは、ロボットが人間に反乱を起こす日が来ると思うだろうか?
近年、日本のみならず世界中でヒト型ロボットの開発が行われており、また車両の自動運転などロボット技術の社会応用も進んでいる。その一方で人工知能の進化によるシンギュラリティ(技術的特異点)、人工知能やロボットが人間の能力を超え人間の仕事を奪うという将来への不安も取り沙汰されている。果たしてロボットは人間を幸せにするのか、ロボットが「こころ」を持つ日は来るのか、そもそもロボットとは何なのか。日本のロボット研究の第一人者である東大の稲葉雅幸教授を始めとする工学者と新進気鋭の哲学者が「人を幸せにするロボット」について自説を延べ、ディスカッションを行った第56回SGRAフォーラムをレポートする。
東京大学大学院情報理工学系研究科の教授である稲葉雅幸氏は『夢を目指す若者が集う大学とロボット研究開発の取り組み』と題して、稲葉研究室で行われているヒト型ロボットを中心とした研究とその教育効果について基調講演を行った。
稲葉氏は学部生の頃から現在まで、一貫して情報システム工学研究室に所属しロボットの研究開発を行ってきた。1993年に16個のモータを有する小型ヒト型ロボット、2000年には人間と同等のサイズのヒト型ロボット研究プラットフォームを開発。折しも福島第一原発事故を背景として米国国防省による災害救助ロボットのコンテスト『DARPAロボティクスチャレンジ』が世界全体の課題として行われ、それへの挑戦のためにベンチャー企業『SCHAFT』を創業したのが、稲葉研究室の卒業生である中西雄飛氏と浦田順一氏である。その後Googleに買収された同社には20名以上の稲葉研究室の卒業生が集まりロボット開発を行っている。
その一方で稲葉研究室でも「これまでできていなかったことを、誰もこれまでやったことのない方式でできるようにする」という方針のもと電磁モータ駆動・水冷気化熱利用により高出力を実現するヒト型ロボット『JAXSON』が開発された。稲葉氏によればロボットとは「感覚と行動の知的な接続法の研究」であり、「先端技術の総合芸術」であり、「工学分野における複数の技術の融合・統合体」であるという。稲葉研では学生がめいめい小型のヒト型ロボットを作り動かすことで、多様な技術を広く体験して研究テーマとなる問題を自分自身で発見し、それを深めていくというスキームを経験することができる。そのようなロボット研究開発について「『苦労』と感じるかもしれないけど、同時に『幸せ』なことでもある」という考えを示した。
立命館大学情報理工学部情報コミュニケーション学科・教授の李周浩氏は『ロボットが描く未来』と題し、SF作品などを通じて描かれるロボットとその未来技術、そして社会におけるロボット技術の在り方について話題提供を行った。
李氏は韓国出身で、幼少の頃に観たロボットアニメ『マジンガーZ』に魅了されロボット科学者の道を志した。1920年に『ロボット』という言葉が生み出されて以来、人間の理想を映すものや友達、従順な僕などとして現在までさまざまなロボットが描かれ、『ロボット』というものへの印象を人々の中で構築している。そこではロボットは、単に人間のために労働力を提供する機械としてだけではなく、人間が全知全能の創造主として自らの夢や希望を投影できる対象であり、人間を理想として発展している唯一技術として人々に夢を与えるものとして描かれている。また現実のものとしてのロボット技術は「期待のピーク」の直前に位置しているが(2016年ガートナー社ハイプ・サイクルより)、その一方で労働者階層・中間層の雇用がロボットや人工知能に代替されることを危ぶむ声も少なからず耳にする。明暗あれど現在ロボットは脚光を浴びていることは事実であり、この現状を踏まえてロボットが描く未来はどうなるのかという問いを後半のフリーディスカッションに投げかけ、李氏は講演を締めくくった。
3人目の講演者である東京大学教養学部助教の文景楠氏は、古代ギリシャ・アリストテレスを専門とする哲学者である。本フォーラムでは『ロボットの心、人間の心』と題して、「ロボットは心を持つのか?」という問いへのアプローチを示した。
この問いに答えるためには「心とは何か」、そして「心を持つ・持たないということをどうすれば判定できるのか」という2つの問いに先に答える必要がある。第1の問いに対して、心とは「痛みを感じるような何か」というように曖昧に定義し、その上で第2の問いに対しての「人間らしいそぶりを示す」という答えについて考察する。あなたのことを「心を持っていないロボット」と信じ込んでいる人がいた場合、あなたはどうやって自分が心を持っていることを示すだろうか。自身を殴らせることで痛みを感じている表情や様子を示しても、殴られた結果生じる身体のあざを示しても、それはただの「ふり」で巧妙なつくりのロボットだと言われれば反証はできない。
このように「『人間らしいそぶりを示す』ことで心の有無を判定する」ということ自体に嫌疑をかけると、ロボットはもとよりほとんどすべての人間に対して相手が心を持っていない可能性を考慮しなければならなくなるため、人間らしいそぶりを示すものは心を有していると考えるべきである。しかしこの「人間らしい」という基準が曖昧である以上、先の結論は「ロボットは心を持たないと断定すべき根拠はない(どういうロボットが心を持つロボットかはさらなる議論が必要)」と弱めた形で受け入れられることとなる。講演の最後に文氏は、「ロボットが心を持つか」という問いは「心を持つとはどういうことか」という問いを経由し人間の自己理解を問い直すものとして重要であるという考えを示した。
最後の講演では物書きエンジニアの瀬戸文美が「(絵でわかる)ロボットのしくみ」と題して、ロボットや科学技術を一般に広め身近なものとするにはどうしたらよいのか、自身の著書である「絵でわかるロボットのしくみ」を例としてその方法論を示した。ことロボットにおいては見た目や構造が人間と似ているため、技術的に困難であるなしに関わらず人間が行っていることはロボットも当然できるはずというバイアスが見る側にはかかってくる。姿形や派手な動きといった表面的なことだけではなく、その裏に存在する技術や技術者・研究者を伝えることがロボット技術の発展に重要であるという考えを述べた。また写真を並べたカタログ的な紹介冊子か専門的な教科書かという二極化していた従来のロボット書籍と異なり、数式や専門用語を用いずに分野全体の俯瞰を行いロボット工学へのはじめの一歩を踏み出すことを目的としたという著書のアプローチを示した。
その後のフリーディスカッションでは「人間と同様のロボットが誕生した場合にどんな法的整備が必要になるのか」「心の1つの要素として、ロボットは自由意志を持てるのか」といった会場からの問いに、4名の講演者がそれぞれの見解を述べ活発な議論が行われた。
当日の写真
<瀬戸文美(せと・ふみ)Fumi_SETO>
2008年東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻博士後期課程修了 工学博士
大学院修了後、千葉工業大学未来ロボット技術研究センター(fuRo)主任研究員などを経て、現在は「物書きエンジニア」として研究や執筆活動を行う。その間、人間協調型ロボットの研究をしながら、科学の魅力や研究の面白さを伝える『東北大学サイエンス・エンジェル』の第一期生として、サイエンスコミュニケーション活動を行う。主な著作:『私のとなりのロボットなヒト:理系女子がロボット系男子に聞く』近代科学社(2012)『絵でわかるロボットのしくみ(KS絵でわかるシリーズ)』平田泰久(監修)、講談社(2014)
2017年3月2日配信