SGRAイベントの報告

  • 2005.11.04

    第5回日韓アジア未来フォーラム in ソウル報告

    第5回日韓アジア未来フォーラム「東アジアにおける韓流と日流:地域協力におけるソフトパワーになりうるか」が韓国高麗大学仁村記念館にて11月4日(金)に開催された。前回のフォーラムのテーマを広げ、これまでの東アジア国際関係史に見られなかった画期的な出来事である韓流と日流の文化経済的・国際的意義について考えるフォーラムであった。日韓アジア未来フォーラムは、SGRAと韓国未来人力研究院が共同で2001年より進めてきている日韓研究者の交流プログラムで、毎年交互に訪問しフォーラムを開催している。   韓国未来人力研究院の院長、高麗大学の李鎮奎(イ・ジンギュ)教授による開会の挨拶に続き、ソウル大学人類学科の全京秀(ジョン・ギョンス)教授が「いわば韓流文化論の可能性と限界」という演題で基調講演を行った。 全教授は韓流文化論の可能性と限界について、文化論は技術-組織-観念の三拍子がうまくかみ合うときに成り立つものであるとしたうえで、韓流文化論においてみられる三拍子間の格差、すなわち文化遅滞(cultural lag)現象は韓流の衰退につながる恐れがあると指摘した。このような認識から韓流と日流をめぐる文化論は窮極的には自分を見出す鏡探しであり、三拍子がうまくかみ合ういい鏡を探すべきであると力説した。   基調講演に引き続き韓国中央大学の孫烈(ソン・ヨル)氏の司会で第一セッション「文化交流現象としての韓流と日流」が始まった。最初の発表者である富山大学の林夏生(はやし・なつお)氏は、日韓文化交流政策の政治経済について発表した。韓流と日流が一般にはまるで「最近になって唐突に」出現した現象のように受け止められているが、実は「そうではない」とし、政策的には規制されながらも、海賊版が大量に流通するなど非公式な側面も含む「文化交流現象」が存在したこと、そしてそれへの対応がせまられたこともまた、近年の急激な変化をもたらす重要な要因のひとつであったと指摘した。   『韓国を消費する日本』 という著書が韓国で注目されている延世大学社会学科博士課程の平田由紀江(ひらた・ゆきえ)さんは「食の韓流」というテーマで発表を行った。韓国側の代表ということで日本人でありながらも流暢な韓国語で発表した。平田さんは日本国内における韓国食文化の形成が在日韓国・朝鮮人の移動土着化によるものであるとすれば、最近の韓国飲食の象徴的な意味の変化は両国間のいろいろな双方向的な交流によるものであると主張した。そして韓国ドラマ「ジャングム」に触発された韓国「伝統」飲食に対する関心などの社会現象を調べ、人的流れおよびメディアの流れと日本国内の韓国飲食との関係を考察し、日本国内の韓国飲食文化に現れている変形されたナショナリズムとその多層的意味について論じた。   「香港のハヤシ」さんである琉球大学法文学部の林泉忠(リム・チュアンティオン)氏は、「哈日」や「韓流」のいずれも、意外に知られていないかもしれないが、中華圏で始まってまた現在も中華圏を中心に、東アジア全体そして東南アジアの一部まで拡大してきている現象であると指摘した。そして「哈日」と「韓流」現象は中華圏のどこから動き始め、如何に中華圏全体に拡大して変遷してきたか、それぞれの特徴と中華圏内外への影響ついて見解を述べた。   第一セッションの3人の発表が終わり、「韓国のハヤシ」さんである全北大学東洋語文学部の林慶澤(イム・ギョンテク)氏と延世大学社会学科の韓準(ハン・ジュン)氏はそれぞれ文化人類学、社会学の観点から理論的なコメントを兼ねた討論を行った。   休憩を挟んで第二セッションでは国民大学の 李元徳氏の司会で「東アジア地域協力における韓流と日流」というテーマについて議論が行われた。ベトナム社会科学院人間研究所のブ・ティ・ミン・チーさんは、ベトナムにおける日本ブーム・韓国ブームについて、日本ブームと韓国ブームは、日韓両国ともに過去にベトナムに与えた悪い印象を解消し、しだいにいい印象をもたらすようになったと指摘した。そしてこうした文化的交流はソフトパワーとなって、物的・人的交流につながる経済的・社会的インパクトを与えてきたと肯定的に捉えた。   NHKエンタープライズの山中宏之(やまなか・ひろゆき)氏は、「東アジアにおけるエンターテインメント相互交流」について、東アジア各国でライブを開催した経験を紹介し、今後の東アジアのエンターテイメント相互交流の展望を探った。また、北京のテレビ局で仕事をしていた時に見た、大金をかけてプロジェクトをする日本対し、草の根から人脈を築いていた韓国のやり方が今の韓流を導いたと語った。   最後の発表者として韓国情報文化振興院の趙瑢俊(ジョ・ヨンジュン)氏は、「デジタル韓流のブルーオーシャン」について、時の経過によりレッドオーシャン(既存市場)に変貌しているIT産業の熾烈な競争の中で、韓国がどうすればレッドオーシャンでの優位を保ち、ブルーオーシャンを創出できるか、その解決策を提示した。また、次第に立場が縮小しているように思われる韓流との総合的な比較分析を通じ、「デジタル韓流」が韓流の新たな可能性であることを逆説した。   第二セッションの3名による発表が終わり、東京大学の木宮正史氏とグローカル・カルチャー研究所の高煕卓(コウ・ヒタク)氏による討論で第2セッションが幕を閉じた。その後、ディスカッションはフロアーに開放されたが、同時通訳を入れても5時間にも及ぶ長い会議で議論が尽くされたためか、述べ80名にも及ぶ参加者の中からコメントや感想は寄せられなかった。   最後にSGRA代表の今西さんによる閉会の挨拶では、日韓アジア未来フォーラムが内容と形式両面において立派なものに一歩前進を見せたことについてのお祝いの言葉があり、拍手で締め括られた。フォーラムの講演録は、日本語版とハングル版でそれぞれ発行される予定である。尚、今西さんから、次回の日韓アジア未来フォーラムについて、「環境」をテーマに東京か軽井沢で開催しましょうという提案があった。(文責:金雄煕)   SGRA運営委員の足立さんが撮った写真の アルバムをご覧ください。  
  • 2005.07.23

    第20回SGRAフォーラムin 軽井沢「東アジアの経済統合:雁はまだ飛んでいるか」報告

    F.マキト SGRA「日本の独自性」研究チームチーフ フィリピン・アジア太平洋大学研究助教授   渡り鳥の飛ぶ季節にはまだ早いけれども、「東アジアの経済統合:雁はまだ飛んでいるか」というテーマで、20回目のSGRAフォーラムが、2005年7月23日に、鹿島建設軽井沢研修センター会議室で開催されました。   まず、開催の趣旨説明のなかで、私は、日本で生み出された開発経済学の「雁行形態ダイナミックス」理論を、SGRAの担当研究チームが取り組んでいる研究課題「日本の独自性」に関連する経済学として位置づけました。そして、雁行形態論の理念・実行手段・結果を参考とする日本独自の開発経済学についての共同研究を、フォーラムの参加者に提案しました。   さらに、経済学者赤松要氏が提唱した雁行形態ダイナミックス理論の3つのパターンを簡単に説明しました。第1パターンは基本形態であり、ある産業が輸入→輸入代替(現地生産)→輸出→逆輸入というように発展します。第2パターンは副次形態1であり、ある国の産業の高度化が図れます。第3パターンは副次形態2であり、先発国の産業の一部の産業が後発国へ進出します。   趣旨説明の後半では、名古屋大学の平川均教授(SGRA顧問)が、「今あえて『雁はまだ飛んでいるか』を議論する意義」について語られました。東アジアを囲む環境は劇的な変化を遂げつつありますが、特に次の4要素が強調されました。すなわち、(1)中国を「磁場」とする統合化の進展、(2)金融協力の進展、(3)FTAを通じた経済統合の深化、(4)地域協力から「東アジア共同体」への議論の転換です。環境の変化に応じる体制が不十分という懸念を抱きながらも、雁行形態によるデ・ファクト(事実上)の統合は既に進んでおり、今後、このダイナミックスが継続するのか、ポスト雁行形態か新雁行形態の時代が到来するのか、あるいは到来すべき なのかを、この変革の時代において議論すべきであると提案されました。   基調講演をお引き受けくださった拓殖大学の渡辺利夫学長は、東アジアのデ・ファクトの経済統合についての興味深い最近の動きを取り上げられました。貿易の面において、日本を含む東アジアの世界経済に占める存在は高まりつつあります。渡辺教授ご自身が命名された「中国のアジア化―”Asianizing” China」でも象徴されるように、東アジアの域内貿易や海外直接投資の依存度が急増しています。EUとNAFTAに匹敵する勢いです。しかし、北東アジアには、政治的な難題があるため、「地域共同体」までの発展の可能性は低いと主張されました。   一方、早稲田大学のトラン・ヴァン・トウ教授は、 22ページにも及ぶフル・ペーパーで、東アジアを意識するベトナムの視点から、雁行形態ダイナミックスを中心に検証されました。東アジア地域では、雁行形態の工業化が続いているが、国の資本・労働などの資源の状況が似てきており、分業の中身が従来と異なってきています。中国経済の台頭にいかに対応するかということが、ベトナムにとって大きな挑戦となっています。そのために、貿易や海外投資の面においても雁行形態ダイナミックスを利用するべきだという分析を発表されました。   上海財経大学の範建亭さん(SGRA研究員)は、雁行形態ダイナミックスの分析手法によって、中国の家電産業を分析しました。その結果は、渡辺教授が指摘された、中国の産業の海外直接投資への高い依存度の具体的な事例として考えることができます。韓国産業研究院(KIET)の白寅秀さん(SGRA研究員)も雁行形態ダイナミックスの手法で、韓国の化学産業をとりあげ、中国や日本と関連させる分析を行いましたが、日本・韓国・中国の三カ国が絡む雁行形態戦略が綺麗に描かれていました。環日本海経済研究所(ERINA)のエンクバヤル・シャグダルさんは、東北アジアの三カ国へのモンゴルの依存度が高まりつつあると指摘しました。特に、1990年から始めた市場経済への平和的移行で、貿易、海外投資、観光においてモンゴルと東北アジアとの経済関係が深まっています。最後に、私が、フィリピンの経済特区に雁行形態ダイナミックスを適用することによって、フィリピン全体に共有型成長を達成するための分析枠組みを説明しました。   後半のパネル・ディスカッションでは、総合研究開発機構(NIRA)の李鋼哲さん(SGRA研究員)が進行役を務め、東アジア経済統合と雁行形態ダイナミックスについて、パネリストから追加意見を伺ったあと、会場からの質問や発言を受け付けました。とくに印象的だったのは、北東アジアにおいて雁行形態型開発があまり知られていないという指摘に対して、トラン教授が「ベトナムでは皆知っている」という堂々とした反応があったことでした。あとでトラン夫人からお聞きしたのは、トラン教授ご自身が雁行形態理論の発信源だったそうです。トラン教授まではとても及ばないが、私も、フィリピンにおいて同じ存在になれればと思うようになりました。パネル・ディスカッションの議論は面白い反面、もう少し整理が必要だという印象も受けました。とてもここで纏められるものではないので、詳細はSGRAレポートに譲りたいと思います。   代わりに、主催者の不手際で当日に実現できなかったことを2点お伝えします。まず、パネル・ディスカッションでトラン教授から2つの鋭いご指摘がありましたが、その2つ目は私に向けたものだったのに、ちゃんと答える時間がありませんでした。トラン教授は、私の「共有型成長」の分析が、「成長」に偏っており、「共有型」の方があまり強調されていないと指摘されました。真に先生のおっしゃる通りです。研究はまだ進行中なので、後日、先生にちゃんとした答えを報告できるように頑張ります。      もう一つ大変残念だったのは、アンケート結果の報告ができなかったことです。食事前に提出していただいたアンケートを食事中に集計して、食後のセッションでお見せする予定でした。SGRAのチームメートのナポレオンさん(ヤマタケ研究所)がプログラムを作って、私と一緒に、夕食をとらずにがんばって集計したのですが、その後の手違いがあって、時間切れでお披露目できませんでした。そこで、この場を借りてご報告したいと思います。   回答者の国別プロフィールは中国(36%)、日本(32%)、韓国(13%)、その他(19%)になりました。雁行形態の役割についての5番目の質問に対する回答は「凄く重要」・「やや重要」が大半でした。実は、アンケートの設計時、この質問に対する答えが前の2、3、4番目の質問と一致(あるいは矛盾)しているかどうかチェックできる仕組みにしました。結果をみると「一致している」という結論になると思います。2番目の質問「日本が発展途上国からの安い物を輸入することの是非」に対する回答は「やや賛成」や「凄く賛成」というのが大半でした。3番目の質問「日本の空洞化の是非」に対する回答も同様でした。4番目の質問「日本の次世代産業への転換の是非」に対する回答は「凄く遅い」や「やや遅い」というのが大半でした。   アンケート集計の詳細は下記URLここをご覧ください。   最後に、軽井沢で休暇中だった王毅駐日中国大使が、フォーラムの途中に立ち寄ってくださり、「日本という雁も、中国という雁も、一緒に飛んでいきましょう」というご挨拶をしてくださるというビッグ・サプライズがあり、参加者全員の大きな励みとなったことを付け加えさせていただきます。   尚、SGRA運営委員の全振煥さん(鹿島建設技術研究所)が撮った写真を集めたアルバムを、ここからご覧いただけます。  
  • 2005.07.23

    第20回SGRAフォーラムin 軽井沢「東アジアの経済統合:雁はまだ飛んでいるか」報告

    F.マキト SGRA「日本の独自性」研究チームチーフ フィリピン・アジア太平洋大学研究助教授   渡り鳥の飛ぶ季節にはまだ早いけれども、「東アジアの経済統合:雁はまだ飛んでいるか」というテーマで、20回目のSGRAフォーラムが、2005年7月23日に、鹿島建設軽井沢研修センター会議室で開催されました。   まず、開催の趣旨説明のなかで、私は、日本で生み出された開発経済学の「雁行形態ダイナミックス」理論を、SGRAの担当研究チームが取り組んでいる研究課題「日本の独自性」に関連する経済学として位置づけました。そして、雁行形態論の理念・実行手段・結果を参考とする日本独自の開発経済学についての共同研究を、フォーラムの参加者に提案しました。   さらに、経済学者赤松要氏が提唱した雁行形態ダイナミックス理論の3つのパターンを簡単に説明しました。第1パターンは基本形態であり、ある産業が輸入→輸入代替(現地生産)→輸出→逆輸入というように発展します。第2パターンは副次形態1であり、ある国の産業の高度化が図れます。第3パターンは副次形態2であり、先発国の産業の一部の産業が後発国へ進出します。   趣旨説明の後半では、名古屋大学の平川均教授(SGRA顧問)が、「今あえて『雁はまだ飛んでいるか』を議論する意義」について語られました。東アジアを囲む環境は劇的な変化を遂げつつありますが、特に次の4要素が強調されました。すなわち、(1)中国を「磁場」とする統合化の進展、(2)金融協力の進展、(3)FTAを通じた経済統合の深化、(4)地域協力から「東アジア共同体」への議論の転換です。環境の変化に応じる体制が不十分という懸念を抱きながらも、雁行形態によるデ・ファクト(事実上)の統合は既に進んでおり、今後、このダイナミックスが継続するのか、ポスト雁行形態か新雁行形態の時代が到来するのか、あるいは到来すべき なのかを、この変革の時代において議論すべきであると提案されました。   基調講演をお引き受けくださった拓殖大学の渡辺利夫学長は、東アジアのデ・ファクトの経済統合についての興味深い最近の動きを取り上げられました。貿易の面において、日本を含む東アジアの世界経済に占める存在は高まりつつあります。渡辺教授ご自身が命名された「中国のアジア化―”Asianizing” China」でも象徴されるように、東アジアの域内貿易や海外直接投資の依存度が急増しています。EUとNAFTAに匹敵する勢いです。しかし、北東アジアには、政治的な難題があるため、「地域共同体」までの発展の可能性は低いと主張されました。   一方、早稲田大学のトラン・ヴァン・トウ教授は、 22ページにも及ぶフル・ペーパーで、東アジアを意識するベトナムの視点から、雁行形態ダイナミックスを中心に検証されました。東アジア地域では、雁行形態の工業化が続いているが、国の資本・労働などの資源の状況が似てきており、分業の中身が従来と異なってきています。中国経済の台頭にいかに対応するかということが、ベトナムにとって大きな挑戦となっています。そのために、貿易や海外投資の面においても雁行形態ダイナミックスを利用するべきだという分析を発表されました。   上海財経大学の範建亭さん(SGRA研究員)は、雁行形態ダイナミックスの分析手法によって、中国の家電産業を分析しました。その結果は、渡辺教授が指摘された、中国の産業の海外直接投資への高い依存度の具体的な事例として考えることができます。韓国産業研究院(KIET)の白寅秀さん(SGRA研究員)も雁行形態ダイナミックスの手法で、韓国の化学産業をとりあげ、中国や日本と関連させる分析を行いましたが、日本・韓国・中国の三カ国が絡む雁行形態戦略が綺麗に描かれていました。環日本海経済研究所(ERINA)のエンクバヤル・シャグダルさんは、東北アジアの三カ国へのモンゴルの依存度が高まりつつあると指摘しました。特に、1990年から始めた市場経済への平和的移行で、貿易、海外投資、観光においてモンゴルと東北アジアとの経済関係が深まっています。最後に、私が、フィリピンの経済特区に雁行形態ダイナミックスを適用することによって、フィリピン全体に共有型成長を達成するための分析枠組みを説明しました。   後半のパネル・ディスカッションでは、総合研究開発機構(NIRA)の李鋼哲さん(SGRA研究員)が進行役を務め、東アジア経済統合と雁行形態ダイナミックスについて、パネリストから追加意見を伺ったあと、会場からの質問や発言を受け付けました。とくに印象的だったのは、北東アジアにおいて雁行形態型開発があまり知られていないという指摘に対して、トラン教授が「ベトナムでは皆知っている」という堂々とした反応があったことでした。あとでトラン夫人からお聞きしたのは、トラン教授ご自身が雁行形態理論の発信源だったそうです。トラン教授まではとても及ばないが、私も、フィリピンにおいて同じ存在になれればと思うようになりました。パネル・ディスカッションの議論は面白い反面、もう少し整理が必要だという印象も受けました。とてもここで纏められるものではないので、詳細はSGRAレポートに譲りたいと思います。   代わりに、主催者の不手際で当日に実現できなかったことを2点お伝えします。まず、パネル・ディスカッションでトラン教授から2つの鋭いご指摘がありましたが、その2つ目は私に向けたものだったのに、ちゃんと答える時間がありませんでした。トラン教授は、私の「共有型成長」の分析が、「成長」に偏っており、「共有型」の方があまり強調されていないと指摘されました。真に先生のおっしゃる通りです。研究はまだ進行中なので、後日、先生にちゃんとした答えを報告できるように頑張ります。      もう一つ大変残念だったのは、アンケート結果の報告ができなかったことです。食事前に提出していただいたアンケートを食事中に集計して、食後のセッションでお見せする予定でした。SGRAのチームメートのナポレオンさん(ヤマタケ研究所)がプログラムを作って、私と一緒に、夕食をとらずにがんばって集計したのですが、その後の手違いがあって、時間切れでお披露目できませんでした。そこで、この場を借りてご報告したいと思います。   回答者の国別プロフィールは中国(36%)、日本(32%)、韓国(13%)、その他(19%)になりました。雁行形態の役割についての5番目の質問に対する回答は「凄く重要」・「やや重要」が大半でした。実は、アンケートの設計時、この質問に対する答えが前の2、3、4番目の質問と一致(あるいは矛盾)しているかどうかチェックできる仕組みにしました。結果をみると「一致している」という結論になると思います。2番目の質問「日本が発展途上国からの安い物を輸入することの是非」に対する回答は「やや賛成」や「凄く賛成」というのが大半でした。3番目の質問「日本の空洞化の是非」に対する回答も同様でした。4番目の質問「日本の次世代産業への転換の是非」に対する回答は「凄く遅い」や「やや遅い」というのが大半でした。   アンケート集計の詳細は下記URLここをご覧ください。   最後に、軽井沢で休暇中だった王毅駐日中国大使が、フォーラムの途中に立ち寄ってくださり、「日本という雁も、中国という雁も、一緒に飛んでいきましょう」というご挨拶をしてくださるというビッグ・サプライズがあり、参加者全員の大きな励みとなったことを付け加えさせていただきます。   尚、SGRA運営委員の全振煥さん(鹿島建設技術研究所)が撮った写真を集めたアルバムを、ここからご覧いただけます。  
  • 2005.05.17

    第19回フォーラム「東アジア文化再考」報告

    第19回SGRAフォーラム報告 「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」   2005年5月17日(火)午後6時半から9時まで、東京国際フォーラムG棟にて、SGRA「地球市民」研究チームが担当する第19http://www.aisf.or.jp/mt-static/images/formatting-icons/bold.gif回SGRAフォーラム「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」が開催された。SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームが担当する5回目のフォーラムである。今回は63名もの参加者が集まり、大盛況なフォーラムとなった。参加者はSGRA会員と非会員がそれぞれ半分ずつという構成であった。   SGRA研究会の今西代表による開会挨拶が行われた後、講師の宮崎法子氏(実践女子大学文学部教授)が「中国山水画の住人達―「隠逸」と「自由」の形」という題でゲスト講演を行った。宮崎氏は中国絵画史に深い造詣のある方で、一つ一つの絵の事例で簡潔でありがなら感性的な形で山水画の歴史を紹介してくれた。いわば4世紀から19世紀まで1500年以上もの山水画の歴史をわずか45分間で紹介したわけで講演方法もかなり洗練された印象を受けた。普通の絵画史の紹介とは違い、氏の講演は、絵画のモチーフを社会的思想的な文脈において解釈したことが特徴である。なかでも「漁夫」、「旅人」などのイメージから「自由」な境遇、「自由」な境界を求める結晶としての山水画を例に、東アジアの「自由」というものを実例で以っていきいきと紹介してくれた。   続いて、東島誠氏(聖学院大学人文学部助教授)が「東アジアにおける市民社会の歴史的可能性」いう題でゲスト講演を行った。東島氏は歴史研究者の視点から、近代のliberty, freedom翻訳語としての「自由」、そして「公共性」という社会学のキー・ワードを念頭に、江戸時代にあった災害事件後のボランティア活動を例に、江戸時代の江戸の災害救済現場という前近代の公共的空間のあり方を紹介した。そして「自由」というキー・ワードとの関連で、中世日本のある禅僧の逡巡を例に、公的秩序にある「公方」との対照にある「江湖」という思想を説明した。二つの例を通して氏は、前近代の「公共性」なるものとそれと関連している「自由」、「江湖」なるものを紹介した。「市民社会」というキーワードをめぐって西洋中心/東アジア伝統中心という二項対立的な考えがあるが、そのような構造から脱出するために、アジアであれ、ヨーロッパであれ、それを特権化しない形でそれぞれを完成形として見ずに新しい社会を目指すこと自体が重要であるということを、氏は講演の冒頭部と結語の部分において繰り返し説明した。   2人のゲスト講演が終わった後、SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームのチーフである高煕卓氏(韓国グローカル文化研究所首席研究員)が進行役を務め、パネルディスカッションが行われた。時間があまり残っていないため、4名しか質疑できなかったが、講演者が非常に上手く纏めるような形で答えてくれた。「意なお尽くさず」のためか、フォーラム終了後に沢山の参加者が地下一階の懇親会にも参加し、ディスカッションの場をレストランに移したような感じであった。   二つの講演が、「自由」「東アジア」「前近代」などのキーワードで、お互いに高い関連性があったことが印象的であった。この講演会が、現在一つのネーション内部にだけ「自由」、「民主」、「人権」が認められ、それ以外の範囲の人々に対しては普遍的であるはずの「自由」、「民主」、「人権」そのものが戦争まで許容するという世界的な背景で行われたことも改めて注意していただきたい。今はこのような重い課題を東アジアの歴史の深部から考える機会かもしれない。ここからも「地球市民」なる理念を考えることが、多少理想的な面があるとはいえ、如何に重要な意味を持つか垣間見られよう。今日はなにはともあれ、63名もの方々が参加してくれたことで司会者・進行役のわれわれが多大に励まされた。今後のフォーラムもこのような新しい「江湖」でありつければと願っているばかりである。 (文責:林少陽)   当日、SGRA運営委員のマキトさんと全振煥さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください第19回SGRAフォーラム報告 「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」   2005年5月17日(火)午後6時半から9時まで、東京国際フォーラムG棟にて、SGRA「地球市民」研究チームが担当する第19http://www.aisf.or.jp/mt-static/images/formatting-icons/bold.gif回SGRAフォーラム「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」が開催された。SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームが担当する5回目のフォーラムである。今回は63名もの参加者が集まり、大盛況なフォーラムとなった。参加者はSGRA会員と非会員がそれぞれ半分ずつという構成であった。   SGRA研究会の今西代表による開会挨拶が行われた後、講師の宮崎法子氏(実践女子大学文学部教授)が「中国山水画の住人達―「隠逸」と「自由」の形」という題でゲスト講演を行った。宮崎氏は中国絵画史に深い造詣のある方で、一つ一つの絵の事例で簡潔でありがなら感性的な形で山水画の歴史を紹介してくれた。いわば4世紀から19世紀まで1500年以上もの山水画の歴史をわずか45分間で紹介したわけで講演方法もかなり洗練された印象を受けた。普通の絵画史の紹介とは違い、氏の講演は、絵画のモチーフを社会的思想的な文脈において解釈したことが特徴である。なかでも「漁夫」、「旅人」などのイメージから「自由」な境遇、「自由」な境界を求める結晶としての山水画を例に、東アジアの「自由」というものを実例で以っていきいきと紹介してくれた。   続いて、東島誠氏(聖学院大学人文学部助教授)が「東アジアにおける市民社会の歴史的可能性」いう題でゲスト講演を行った。東島氏は歴史研究者の視点から、近代のliberty, freedom翻訳語としての「自由」、そして「公共性」という社会学のキー・ワードを念頭に、江戸時代にあった災害事件後のボランティア活動を例に、江戸時代の江戸の災害救済現場という前近代の公共的空間のあり方を紹介した。そして「自由」というキー・ワードとの関連で、中世日本のある禅僧の逡巡を例に、公的秩序にある「公方」との対照にある「江湖」という思想を説明した。二つの例を通して氏は、前近代の「公共性」なるものとそれと関連している「自由」、「江湖」なるものを紹介した。「市民社会」というキーワードをめぐって西洋中心/東アジア伝統中心という二項対立的な考えがあるが、そのような構造から脱出するために、アジアであれ、ヨーロッパであれ、それを特権化しない形でそれぞれを完成形として見ずに新しい社会を目指すこと自体が重要であるということを、氏は講演の冒頭部と結語の部分において繰り返し説明した。   2人のゲスト講演が終わった後、SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームのチーフである高煕卓氏(韓国グローカル文化研究所首席研究員)が進行役を務め、パネルディスカッションが行われた。時間があまり残っていないため、4名しか質疑できなかったが、講演者が非常に上手く纏めるような形で答えてくれた。「意なお尽くさず」のためか、フォーラム終了後に沢山の参加者が地下一階の懇親会にも参加し、ディスカッションの場をレストランに移したような感じであった。   二つの講演が、「自由」「東アジア」「前近代」などのキーワードで、お互いに高い関連性があったことが印象的であった。この講演会が、現在一つのネーション内部にだけ「自由」、「民主」、「人権」が認められ、それ以外の範囲の人々に対しては普遍的であるはずの「自由」、「民主」、「人権」そのものが戦争まで許容するという世界的な背景で行われたことも改めて注意していただきたい。今はこのような重い課題を東アジアの歴史の深部から考える機会かもしれない。ここからも「地球市民」なる理念を考えることが、多少理想的な面があるとはいえ、如何に重要な意味を持つか垣間見られよう。今日はなにはともあれ、63名もの方々が参加してくれたことで司会者・進行役のわれわれが多大に励まされた。今後のフォーラムもこのような新しい「江湖」でありつければと願っているばかりである。 (文責:林少陽)   当日、SGRA運営委員のマキトさんと全振煥さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください第19回SGRAフォーラム報告 「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」   2005年5月17日(火)午後6時半から9時まで、東京国際フォーラムG棟にて、SGRA「地球市民」研究チームが担当する第19http://www.aisf.or.jp/mt-static/images/formatting-icons/bold.gif回SGRAフォーラム「東アジア文化再考:自由と市民社会をキーワードに」が開催された。SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームが担当する5回目のフォーラムである。今回は63名もの参加者が集まり、大盛況なフォーラムとなった。参加者はSGRA会員と非会員がそれぞれ半分ずつという構成であった。   SGRA研究会の今西代表による開会挨拶が行われた後、講師の宮崎法子氏(実践女子大学文学部教授)が「中国山水画の住人達―「隠逸」と「自由」の形」という題でゲスト講演を行った。宮崎氏は中国絵画史に深い造詣のある方で、一つ一つの絵の事例で簡潔でありがなら感性的な形で山水画の歴史を紹介してくれた。いわば4世紀から19世紀まで1500年以上もの山水画の歴史をわずか45分間で紹介したわけで講演方法もかなり洗練された印象を受けた。普通の絵画史の紹介とは違い、氏の講演は、絵画のモチーフを社会的思想的な文脈において解釈したことが特徴である。なかでも「漁夫」、「旅人」などのイメージから「自由」な境遇、「自由」な境界を求める結晶としての山水画を例に、東アジアの「自由」というものを実例で以っていきいきと紹介してくれた。   続いて、東島誠氏(聖学院大学人文学部助教授)が「東アジアにおける市民社会の歴史的可能性」いう題でゲスト講演を行った。東島氏は歴史研究者の視点から、近代のliberty, freedom翻訳語としての「自由」、そして「公共性」という社会学のキー・ワードを念頭に、江戸時代にあった災害事件後のボランティア活動を例に、江戸時代の江戸の災害救済現場という前近代の公共的空間のあり方を紹介した。そして「自由」というキー・ワードとの関連で、中世日本のある禅僧の逡巡を例に、公的秩序にある「公方」との対照にある「江湖」という思想を説明した。二つの例を通して氏は、前近代の「公共性」なるものとそれと関連している「自由」、「江湖」なるものを紹介した。「市民社会」というキーワードをめぐって西洋中心/東アジア伝統中心という二項対立的な考えがあるが、そのような構造から脱出するために、アジアであれ、ヨーロッパであれ、それを特権化しない形でそれぞれを完成形として見ずに新しい社会を目指すこと自体が重要であるということを、氏は講演の冒頭部と結語の部分において繰り返し説明した。   2人のゲスト講演が終わった後、SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームのチーフである高煕卓氏(韓国グローカル文化研究所首席研究員)が進行役を務め、パネルディスカッションが行われた。時間があまり残っていないため、4名しか質疑できなかったが、講演者が非常に上手く纏めるような形で答えてくれた。「意なお尽くさず」のためか、フォーラム終了後に沢山の参加者が地下一階の懇親会にも参加し、ディスカッションの場をレストランに移したような感じであった。   二つの講演が、「自由」「東アジア」「前近代」などのキーワードで、お互いに高い関連性があったことが印象的であった。この講演会が、現在一つのネーション内部にだけ「自由」、「民主」、「人権」が認められ、それ以外の範囲の人々に対しては普遍的であるはずの「自由」、「民主」、「人権」そのものが戦争まで許容するという世界的な背景で行われたことも改めて注意していただきたい。今はこのような重い課題を東アジアの歴史の深部から考える機会かもしれない。ここからも「地球市民」なる理念を考えることが、多少理想的な面があるとはいえ、如何に重要な意味を持つか垣間見られよう。今日はなにはともあれ、63名もの方々が参加してくれたことで司会者・進行役のわれわれが多大に励まされた。今後のフォーラムもこのような新しい「江湖」でありつければと願っているばかりである。 (文責:林少陽)   当日、SGRA運営委員のマキトさんと全振煥さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください   
  • 2005.05.13

    第15回SGRAフォーラム「この夏、東京の電気は大丈夫?」

    2004年5月13日(木)午後6時半~8時半、日本プレスセンターの日本記者クラブ10階ホールにて、第15回SGRAフォーラム「この夏、東京の電気は大丈夫?」が開催された。このフォーラムの目的は、電力自由化の是非を含む、正しい電力供給のあり方を市民レベルで考えることであり、また、上海を中心とした中国の電力事情が豊富なデータによって紹介された。司会は全振煥氏(鹿島建設技術研究所研究員/SGRA運営委員)であった。   まず、ゲストの住環境計画研究所所長中上英俊氏が「この夏、東京の電気は大丈夫?」を題として講演を行った。中上氏は日本の電力政策、電力の供給並びに電力の利用状況について、豊富なデータを用いて説明を行った。また、電力自由化等の規制緩和による市民生活への影響を分かり易く説明した。日本の電力構造、国民の省エネルギー意識の向上等により安全な電力供給ができるようになったが、京都会議のCO2削減目標を達成するために、なお国民全体の努力が必要だと指摘した。「東京の電気は大丈夫?」の問いに対しては、日本の経済事情及び省エネ努力の結果から「大丈夫!」と結論付けた。    次に北九州市立大学国際環境工学部助教授・SGRA「環境とエネルギー」研究チームチーフの高偉俊氏が「この夏、上海の電気は大丈夫?」と題とし、上海の電力事情を紹介した。昨年の夏、上海は記録的な猛暑に見舞われた。昨今のめざましい経済発展と市民生活の向上とによって電力消費の伸びは中国政府の予想を越え、限定的な地域停電を行わざるをえない状況となった。その原因としては家庭用空調機の普及により民生用エネルギーが急増したことが指摘された。但し、この問題の解決に関しては、単に電力設備容量等の増強だけでは解決できない。中国の行政手段により一時的なピーク回避も評価したいという意見を述べた。「上海の電気は大丈夫?」の問いに対しては、「中国の技(わざ)」ありなので「大丈夫!(上海では昨年夏のニューヨークのような大停電はおこらない)」と結論付けた。     その後、限られた時間だが、SGRA「環境とエネルギー」研究チームの李海峰サブチーフ(独立行政法人建築研究所客員研究員/SGRA運営委員)の司会により、中上英俊氏と高偉俊氏のおふたりに対して、質疑応答を行った。日本の将来のエネルギー開発のあり方に関する質問に関して、中上氏から、新エネルギー利用(燃料電池等)がインフラの整備等(水素ステーション)により一定の発展を見せているが、当面はエネルギーを上手に使う工夫等が重要である。自然エネルギー利用にしても、従来型システム(例えば太陽熱温水器)等のほうが効率が高いとの指摘があった。   47名(内会員25名)の参加者は、お二人の講師の豊富なデータに基づきながらも、ユーモアたっぷりの講演を楽しんだ。   (文責:高偉俊)  
  • 2005.02.20

    第4回日韓アジア未来フォーラム・第18回SGRAフォーラム「韓流・日流:東アジア地域協力におけるソフトパワー」報告

    第4回日韓アジア未来フォーラム・第18回SGRAフォーラム「韓流・日流:東アジア地域協力におけるソフトパワー」が東京国際フォーラムで2月20日(日)に開催された。これまでの日韓交流史に見られない画期的なできごとである韓流の意義について考えるフォーラムであった。日韓アジア未来フォーラムは、2001年より始めた韓国未来人力研究院と共同で進めている日韓研究者の交流プログラムで、毎年交互に訪問しフォーラムを開催している。    SGRAを代表して今西淳子さんによる開会の挨拶に続き、韓国未来人力研究院の院長、韓国高麗大学の李鎮奎(イ・ジンギュ)教授(自称、ジン様)が「韓流の虚と実」という演題で基調講演を行った。日本における韓流ブームを時代別の事例と日本と韓国双方の分析を用いて検証し、日本での韓流ブームの原因をドラマ・中心層・日本人の意識的変化という観点から説明した。また、韓国ではなぜ日流ブームは起こらないのかという疑問点を歴史的認識と日本側の市場開拓戦略という面から説明した。さらに韓流ブームにおける危険性として韓流による韓国での文化経済主義的な視点、文化民族主義的視点への警戒を述べた。    基調発表に引き続き日本富山大学の林夏生(はやし・なつお)氏は、日韓文化交流政策の政治経済について発表した。韓流・日流が一般にはまるで「最近になって唐突に」出現した現象のように受け止められているが、実は「そうではない」とし、政策的には規制されながらも、海賊版が大量に流通するなど非公式な側面も含む「文化交流現象」が存在したこと、そしてそれへの対応がせまられたこともまた、近年の急激な変化をもたらす重要な要因のひとつであったと指摘した。    自由に生きていきたいと叫ぶ韓国の新世代文化評論家の金智龍(キム・ジリョン)氏は「 冬ソナで友だちになれるのか」とやや刺激的な演題で発表した。自分の言いたいことは前の講演で言われてしまったとし、アドリブで30分ほどの発表をこなした。多年間にわたる日本での文化体験に基づきながら、今の韓流ブームは一方的な文化流入に對する反感を和らげる役割を十分に果たしているし、韓國の若者たちが日本文化を楽しむことに対するいかなる批判も根據や理屈を失うことになるとした。日本文化であれ、韓國文化であれ、文化を共有することはお互いの理解を深めるになり、韓流ブームをきっかけとし、日韓両国の人がもっと親しみを感じて友だちになることにつながると言い切った。    休憩を挟んで発表者を含めて5人のパネリストによるパネルディスカッションが行われた。内閣府参事官(元在韓国日本大使館参事官)の道上尚史(みちがみ・ひさし)氏は、政府の見解ではないという前提で、「文化、ソフトパワーと新日韓関係」について討論し、「こぐのをやめると自転車は倒れる」、「はやりすたれに任せるには、日韓関係は重要すぎる」という含みのあるメッセージを伝えた。   韓国国民大学(東京大学客員教授)の李元徳(イ・ウォンドク)氏は「韓流と日韓関係」について、韓流・日流は明るい将来の日韓関係を示すシンボルであるとしながら、早急な楽観論は警戒すべきと指摘した。    最後に東京大学の木宮正史(きみや・ただし)氏は日韓関係の構造的変容のなかで韓流現象を捉え、韓流は単なるブームだけではなく、日韓関係の緊密化という構造変容によって支えられているものであると指摘した。    その後、ディスカッションはフロアーに開放され、70名にも及ぶ参加者の中からコメントや感想が寄せられた。ジャーナリストの櫻井よしこ氏からは李元徳氏と木宮正史氏に対北朝鮮政策や歴史教科書問題について「攻撃的」質問もあり、一瞬「戦雲」が場内をおおう場面もあった。予定より25分遅れてフォーラムは終了し、フォーラムの最後に韓国未来人力研究院の宋復(ソン・ボク)理事長による閉会の挨拶が行われた。「ジュン様(姫?)」と「ジン様」のご協力で立派なフォーラムができたことについてのお祝いの言葉と拍手で締め括られた。    尚、今西さんから、次回の日韓アジア未来フォーラムは今回のフォーラムの成果を踏まえ、日本における韓流、韓国における日流 、そしてアジアにける韓流と日流をアジアの視点から幅広く論じる形で2005年10月韓国で開催しようと呼びかけがあった。(文責:金雄煕)   当日、SGRA運営委員の許雷さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください。 
  • 2005.02.20

    第4回日韓アジア未来フォーラム・第18回SGRAフォーラム「韓流・日流:東アジア地域協力におけるソフトパワー」報告

    第4回日韓アジア未来フォーラム・第18回SGRAフォーラム「韓流・日流:東アジア地域協力におけるソフトパワー」が東京国際フォーラムで2月20日(日)に開催された。これまでの日韓交流史に見られない画期的なできごとである韓流の意義について考えるフォーラムであった。日韓アジア未来フォーラムは、2001年より始めた韓国未来人力研究院と共同で進めている日韓研究者の交流プログラムで、毎年交互に訪問しフォーラムを開催している。    SGRAを代表して今西淳子さんによる開会の挨拶に続き、韓国未来人力研究院の院長、韓国高麗大学の李鎮奎(イ・ジンギュ)教授(自称、ジン様)が「韓流の虚と実」という演題で基調講演を行った。日本における韓流ブームを時代別の事例と日本と韓国双方の分析を用いて検証し、日本での韓流ブームの原因をドラマ・中心層・日本人の意識的変化という観点から説明した。また、韓国ではなぜ日流ブームは起こらないのかという疑問点を歴史的認識と日本側の市場開拓戦略という面から説明した。さらに韓流ブームにおける危険性として韓流による韓国での文化経済主義的な視点、文化民族主義的視点への警戒を述べた。    基調発表に引き続き日本富山大学の林夏生(はやし・なつお)氏は、日韓文化交流政策の政治経済について発表した。韓流・日流が一般にはまるで「最近になって唐突に」出現した現象のように受け止められているが、実は「そうではない」とし、政策的には規制されながらも、海賊版が大量に流通するなど非公式な側面も含む「文化交流現象」が存在したこと、そしてそれへの対応がせまられたこともまた、近年の急激な変化をもたらす重要な要因のひとつであったと指摘した。    自由に生きていきたいと叫ぶ韓国の新世代文化評論家の金智龍(キム・ジリョン)氏は「 冬ソナで友だちになれるのか」とやや刺激的な演題で発表した。自分の言いたいことは前の講演で言われてしまったとし、アドリブで30分ほどの発表をこなした。多年間にわたる日本での文化体験に基づきながら、今の韓流ブームは一方的な文化流入に對する反感を和らげる役割を十分に果たしているし、韓國の若者たちが日本文化を楽しむことに対するいかなる批判も根據や理屈を失うことになるとした。日本文化であれ、韓國文化であれ、文化を共有することはお互いの理解を深めるになり、韓流ブームをきっかけとし、日韓両国の人がもっと親しみを感じて友だちになることにつながると言い切った。    休憩を挟んで発表者を含めて5人のパネリストによるパネルディスカッションが行われた。内閣府参事官(元在韓国日本大使館参事官)の道上尚史(みちがみ・ひさし)氏は、政府の見解ではないという前提で、「文化、ソフトパワーと新日韓関係」について討論し、「こぐのをやめると自転車は倒れる」、「はやりすたれに任せるには、日韓関係は重要すぎる」という含みのあるメッセージを伝えた。   韓国国民大学(東京大学客員教授)の李元徳(イ・ウォンドク)氏は「韓流と日韓関係」について、韓流・日流は明るい将来の日韓関係を示すシンボルであるとしながら、早急な楽観論は警戒すべきと指摘した。    最後に東京大学の木宮正史(きみや・ただし)氏は日韓関係の構造的変容のなかで韓流現象を捉え、韓流は単なるブームだけではなく、日韓関係の緊密化という構造変容によって支えられているものであると指摘した。    その後、ディスカッションはフロアーに開放され、70名にも及ぶ参加者の中からコメントや感想が寄せられた。ジャーナリストの櫻井よしこ氏からは李元徳氏と木宮正史氏に対北朝鮮政策や歴史教科書問題について「攻撃的」質問もあり、一瞬「戦雲」が場内をおおう場面もあった。予定より25分遅れてフォーラムは終了し、フォーラムの最後に韓国未来人力研究院の宋復(ソン・ボク)理事長による閉会の挨拶が行われた。「ジュン様(姫?)」と「ジン様」のご協力で立派なフォーラムができたことについてのお祝いの言葉と拍手で締め括られた。    尚、今西さんから、次回の日韓アジア未来フォーラムは今回のフォーラムの成果を踏まえ、日本における韓流、韓国における日流 、そしてアジアにける韓流と日流をアジアの視点から幅広く論じる形で2005年10月韓国で開催しようと呼びかけがあった。(文責:金雄煕)   当日、SGRA運営委員の許雷さんが撮った写真を集めたアルバムをご覧ください。 
  • 2004.10.23

    第17回フォーラム「地球市民の義務教育」報告

    日本は外国人をどう受け入れるべきか ―地球市民の義務教育―   2004年10月23日(土)午後1時半より、東京国際フォーラムG棟610号室にて、SGRA「人的資源と技術移転」研究チームが担当する第17回SGRAフォーラム「日本は外国人をどう受け入れるべきか―地球市民の義務教育」が開催された。昨年11月に開催した同テーマのフォーラムでは、実質的に移民受け入れ大国となっている日本の実態と、研修生制度について考えたが、今回は、日本の小中学校における外国人児童生徒の不就学問題を紹介し、「全ての子どもたちが教育を受ける権利」について考え、日本の公立学校は彼等彼女等にどのような教育を提供すべきかを議論した。今回も昨年11月と同様に、大勢の聴衆が集まり、子供の教育を受ける権利について、活発な議論がなされた。   SGRA研究会の今西代表による開会挨拶が行われた後に、日本や欧州社会における外国人問題に造詣の深い立教大学社会学部教授・宮島喬氏が、「学校に行けない子どもたち:外国人児童生徒の不就学問題」と題するゲスト講演を行った。氏は、今から十数年前、イラン人の12歳の少年ユセフ・ベン・ベグロ君が栃木県のある古紙問屋で働いていて、機械に巻き込まれて死亡した事件から話を切り出し、「なぜそんな出来事が起こるのか、学齢期の子どもが学校に通うのは、当然ではないか」という問題意識を踏まえて、近年における日本の義務教育における外国人児童生徒の教育問題を取り上げた。ドイツなど欧米の国々の多くは、保護者が学齢期の子どもを学校に通わせることを在留条件としている。しかし日本ではそうではない。このため、教育委員会や学校は、外国人の子どもを就学させるための真剣な努力を行っていない。一方、日本の公立小・中学校で行う義務教育は「日本国民のための教育」という性格を濃厚に帯び、外国人を排除しかねないものである。日本の学校に馴染めない子どもたちは、ブラジル人学校等の民族学校に通うことになるが、はたしてそれは結果的に永住することになる彼らに意味のある将来を保障してくれるだろうか。「国際人権規約」(日本は1978年に批准している)では、「初等教育は、義務的なものとし、すべての者に対して無償のものとする」と定めている。日本の学校教育をどう変えるべきだろうか。宮島氏は、具体的に、母語教育の公認、英語中心主義からの脱却、「日本語」という科目の設置、漢字・漢語・歴史文化語の見直し、社会科・歴史教育の国際化、スクール・ソーシャル・ワーカーの配置、学習支援のボランティア、外国人学校の改善と認可等々を提案した。   続いて、外国人児童の教育問題をめぐって3名の方による研究報告が行われた。   SGRA研究員で、一橋大学社会学研究科博士課程で研究をしているヤマグチ・アナ・エリーザ氏は、フィールドワークを通じて得た膨大な現場の情報を踏まえて、「在日ブラジル人青少年の労働者家族が置かれている状況と問題点:集住地域と分散地域の比較研究」と題する発表を行った。日系ブラジル人労働者が来日するようになって15年以上になるにも関わらず、多くの問題が発生したまま時間がただ経過していく現状が紹介された。家族呼び寄せが始まり、子どもたちが日本に暮らすようになった結果、さらに問題は複雑化している。その中、最も深刻なのは子どもの不就学問題と非行問題である。そのような「問題」になる前の段階及び環境の中で、彼らが属している家族が直面している問題、家族の置かれている状況が、実は、青少年に大きな影響を与えている。個別訪問による調査により、日本にいる外国人労働者の子供たちの教育問題の深刻さがいっそう浮き彫りになった。   東京学芸大学連合大学院博士課程の朴校煕氏は、「在日朝鮮初級学校の『国語』教育に関する考察:国民作りの教育から民族的アイデンティティ自覚の教育へ」と題する報告を行った。在日朝鮮学校の朝鮮語教育は、当初、民族語を知らない児童・生徒の識字率を上げる運動からスタートしたが、北朝鮮政府と総連の組織が成立すると、北朝鮮の海外公民として帰国を前提とした「国語」教育政策に変容した。しかし、このような「国語」教育政策には、日本社会を生活の舞台とする現実的な側面が看過されていたため、教育需要者である、多くの在日韓国・朝鮮人の支持基盤を失う原因となった。1970年代の後半から、総連は、このような実態を省み、在日外国人としての現実により着目し、生徒たちの母国語駆使能力と民族的情緒の両方面を育てることに、大路線転換を図った。現行の在日朝鮮学校における民族語教育のあり方と北朝鮮の「国語」教育について、テキストの内容の比較を通じて、興味深い分析が示された。在日朝鮮学校における民族的アイデンティティ自覚の教育への転換の試みは、今後の日本における外国人の子どもの教育問題に対して多くの示唆が含まれていると感じた。   慶應義塾大学大学院法学研究科に所属し、静岡文化芸術大学非常勤講師も勤めている小林宏美は、「カリフォルニア州における二言語教育の現状と課題:ロサンゼルスの3つの小学校の事例から」という報告を行った。1998年からアメリカのカリフォルニア州において二言語教育を原則として廃止する住民提案227が可決され、州内の各学区の教育プログラムは多大な影響を受けた。ヒスパニック系移民子弟が生徒の多数を占めるロサンゼルス統合学区でも、「英語能力が不十分な生徒」に対して、原則として英語で授業を行うイングリッシュ・イマージョンプログラムの比重が高まった。カリフォルニア州は二言語教育の長い歴史があり、提案227可決はしばしば米国社会における保守化の現れと捉えられているが、改変による教育効果も現れている。現場調査を踏まえ、教育の現場の写真などを示しながら、ロサンゼルス統合学区における3つの小学校の事例が紹介された。   *************************   4人の講演と報告が終わった後、アジア21世紀奨学財団常務理事でSGRA顧問の角田英一氏が進行役を務め、パネルディスカッションが行われた。   まず、フロアからの質問に答える形で、ヤマグチ・アナ・エリーザ氏は、いままでの若年層の外国人が年をとっていくうちに、彼らの保障をどうすれば良いかという問題がまた生まれるという課題を示した。朴校煕氏は朝鮮学校を例に、組織化が母語維持の重要な場を形成するのに大きな役割を果たしているとの見解を示したが、ヤマグチ氏は在日ブラジル人学校の組織化はまだ難しいという現状認識を示した。小林宏美氏は、第2言語の習得は、第1言語がどの程度に発達しているかによって決められるという学界の定説を紹介しながら、母語教育の重要性をあらためて提示した。   宮島氏は、講演で話した「ソーシャルワーカー」という言葉は一種のメタファーで、要は、外国人生徒を適切に指導できる学校職員を配置すべきだと説明した。重要なのは外国人の子どもの就学であり、学校に行くように働きかけることからはじめるべきである。これは、単に教育の問題だけではなく、実は、外国人出稼ぎ労働者の移動の仕方、子どもの権利の見地から、日本のこれまでの政策の反省を促している。そして、外国人労働者とその子どもたちを受け入れない、あるいは、受け入れを困難にしている日本社会が問われている。それは、外国人やその子どもへのいじめや無理解という態度にも現れている。教育の国際化とは、従来日本でいわれている「国民のための教育」から「市民のための教育」に変えていくことであると強調した。   パネラーたちのディスカッションに触発されて、フロアからの質問やコメントは、今回の講演や報告で触れられなかったインドネシアなどのアジア諸国からきた外国人研修生の問題や、中国人など他の在日外国人の子ども教育問題まで広がった。宮島教授は、これらの話を踏まえて、再び、「日本はすでに実質的に移民国家になっており、移民国家であるという自覚が必要だ」と力を込めて日本社会の自覚を訴えた。   パネルディスカッションに誘われ、会場から次々とコメントや質問が出た。予定時間を大幅にオーバーして、フォーラムは熱気に包まれる中で終了した。今回のフォーラムは、外国人の子どもの教育問題を取り上げたが、実は、人権の普遍理念や国のあり方など、非常に大きなテーマについても深く考えさせられる内容であった。グローバル化が進むなかで、出稼ぎ労働者を含めて、人の移動が盛んになっている。アジアでは、日本を先頭に、新興工業国やアセアン、さらに中国と、次々と急ピッチで近代化社会に邁進している。しかし、人間は、物の豊かさだけを追求しても幸せを得られない。お互いに理解し、尊敬しあい、共生共存を図っていくことこそ、心の豊かさが生まれ、真の幸せを実現できるのだ。今回のフォーラムを聞いて、久々に有意義で充実した週末を過ごしたと思ったのは、私だけではないだろう。   (文責:SGRA「人的資源と技術移転」研究チームチーフ 徐 向東)
  • 2004.03.26

    第1回マニラセミナー「共有された成長を目指せ:フィリピン経済特区日系企業を通して効率性と平等性の向上を探る」報告

    昨年のフィリピン・アジア太平洋大学(UA&P)とSGRAの共同研究(日比自由貿易協定の準備調査-フィリピン政府宛の内部報告)に続いて、最初の一般公開の共同事業となった経済セミナーが、2004年3月26日(金)午後1時半から5時まで、マニラ中心部にあるUA&PのPLDT会議室で開催された。テーマは「共有された成長を目指せ:フィリピン経済特区日系企業を通して効率性と平等性の向上を探る」。SGRA側は今西淳子代表とF.マキト研究員とSGRAフィリピンのボランティアスタッフが5名参加した。   開会挨拶で今西代表がSGRAやマキト研究員や渥美財団を紹介してから、在日フィリピン人についてのデータを紹介した。日本にはフィリピン人が大勢居るのに留学生は少ない。英語ができるしアメリカ文化にも親しみをもっているので留学先がほとんど英米になるであろう。セミナーの前、UA&Pのラウンジでのランチで「日本への留学したいフィリピンの若者はいるが、どうやっていけばいいかわからない」という指摘があったが、それが十分な理由かどうか、いまだに疑問に思う。   その後、4名のエコノミストが30分間ずつ発表した。最初に、SGRAとの調整役を果たしてくれた、UA&P産業研究科のディレクター、ピーター・ユー博士がフィリピンの電子産業と自動車産業について発表した。電子産業より自動車産業のほうが待遇的政策の対象になっているにもかかわらず、電子産業のほうが輸出によって外貨を多く稼いでいるという問題提起をした。   次に、マキト博士がセミナーのテーマ中心でもあるフィリピン経済特区について発表した。特区はフィリピンの二つのダイナミックスが収斂していると指摘してから22ヶ所の特区を比較した。予備調査によれば、トヨタに任せている特区は一番効率的であることが判明したという。最後に、富の配分の平等化がフィリピンの地方に広がっていることがわかるが、これは成長とともに自動的に発生したものではないことを指摘した。   その次に、UA&Pの副総長のベルナルド・ビリエガス博士はフィリピンの今後の5年間の展望について語った。今年の5月の大統領選挙で誰が大統領になっても、いつものようにフィリピンの政治は無視すれば良い、という楽観的な見方を明らかにした。企業がリスク管理をきちんと行えば、自分の強みと弱みを認識して置かれた環境の脅威と機会に巧みに対応できるはずだ。(フィリピンの難しい環境でも、トヨタは効率的なビジネスができることが比較分析でわかったように。)将来性のあるフィリピン産業を取り上げながら、  ASEANと中国の経済関係が今後さらに強くなることを予想した。   15分間の休憩の後、UA&Pのビック・アボラ教授が中国ファクターについて発表した。ビリエガス博士同様、中国はフィリピンにとって脅威よりは機会であることを強調した。対中国のフィリピンの輸出と対フィリピンの中国の輸出の品目を詳細に分析した結果、フィリピンと中国とが競争する品目があまりないことが判明した。この品目データの時系列的な変化をみても、同じ結果が得られるという。 最後に、オープン・フォーラムでセミナーの参加者との質疑応答があった。経済特区に入っている日系企業の日本人とフィリピン人から、それぞれの見方を分かち合ってもらって、今後の研究への貴重な示唆をいただいた。フィリピンの経済特区管理局からの参加者(政策企画部)には、引き続きご協力いただくよう呼びかけてもらった。   参加者からのアンケートによると、セミナーについての好意的な反応が多く、次回のセミナーにも招いてもらいたいという回答が圧倒的に多かった。セミナーでの発表は英語で行われたが、それと同時に日本語のスライドと配布資料を使った。これが自分か自分の組織の日本人にとって役に立つという回答が得られた。この方法とこのテーマでUA&P-SGRA共同セミナーをまた開催しようという励みになった。   (文責:F.マキト)
  • 2004.02.07

    第14回フォーラム「国境を越えるE-learning」報告

    2004年2月7日(土)午後1時半から6時半まで、東京お台場の国際研究大学村東京国際交流館・プラザ平成3階メディアホールにて、第14回SGRAフォーラム「国境を越えるE-learning」が開催されました。今回のフォーラムは「ITと教育」研究チームの研究活動の一環として行われたものでした。会場には、非会員37名を含む60名の方々が、遠くは大阪や仙台からお集まりくださり、特に大学関係者の間でのこのテーマへの関心の高さが示されました。   まず、SGRA「ITと教育」研究チーム顧問の斎藤信男教授(慶應義塾常任理事)に、基調講演「Asia E-learning Networkと大学の国際戦略」をしていただきました。【要旨】アジア地域への日本の連携活動は、政府レベルでも大きな課題になっている。これからの政治、経済の中心はアジア地域になっていくことを考えると、今後ますます文化、社会、医療、教育などさまざまな分野での連携が重要になっていく。人材育成、基礎研究を担う日本の大学でもこのような国際情勢に合わせた将来構想とそれに基づく個々の活動の戦略が必須の課題として迫られている。現在、経済産業省が主導しているアジア諸国とのE-Learning Networkは、2年目を迎え、基盤、共通技術の開発に重点を置いて活動をしている。また、関連する連携活動は個々の大学などの努力により進められている。このような諸活動が真に有効なもの、有益なものに統合化されていき、大学の国際戦略の一つとして活かされていかなければならない。   SGRA会員の福田収一教授(都立科学技術大学工学部学部長)からは、先駆的な事例として、「ネットワークを介したGlobal Project Based Learning ―都立科学技術大学とスタンフォード大学の協調授業を事例として―」をご紹介いただきました。【要旨】東京都立科学技術大学は1998年からStanford大学の大学院の設計授業ME310にネットワークを介して参加している。この授業は、Project Based Learning方式で、企業が提供する現実の課題を学生が主導で解決し、実際に試作を行って案の妥当性を実証する。通常の講義形式のe-Learningとは異なり、日米の学生がチームを構成して、現実の課題に取り組む。そのため、最近話題の技術経営教育の実践に他ならず、単なる工学的な知識の応用だけではなく、法律、経済など幅広く問題を考え、文化の壁を乗り越える努力が必要となる。本活動は、国際的な活動であるとともに、きわめて効果的な産学連携でもある。   渡辺吉鎔教授(慶応大学総合政策学部)からは、やはり先駆的な事例として、「日中韓3大学のリアルタイム共同授業の可能性と課題 ―慶応・復旦・延世大学の国際化戦略とオンライン共同授業―」をご紹介いただきました。渡辺先生の「国際交流は技術を手段とした人間同士の情の交流である」という信念は参加者に強い共感を与えました。【要旨】慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)は2002年度より中国の復旦大学、韓国の延世大学と一緒に「三者間リアルタイム共同授業」を推進してきた。具体的には大学院の2科目、学部・院共通の1科目を共同で提供・担当しながらその中で学生たちが日中韓の共通課題について共同研究を行うという仕組みが取られている。さらにこの三者間共同授業は、単なるリアルタイムのネット授業にとどまらず、学期の半ばでの「Pilgrim Workshop」の共同主催・共同参加、学期後の「グローバル・ガバナンス国際シンポジウム」という対面式の共同研究発表の場を提供し、教育・研究の国際化を推進するようにつとめてきた。   30分間の休憩の後、SGRA研究員からの報告として、 Ferdinand Maquito氏(フィリピンアジア太平洋大学研究助教授・SGRA研究員)は、「オンライン授業の可能性と課題~私の場合~―フィリピンアジア太平洋大学(UAP)-名古屋大学、及びテンプル大学ジャパン(TUJ)でのオンライン授業を事例として―」というタイトルで、この数年間、自分なりに実施したことを参考にしながら、オンライン授業についての考え方を整理して、これからの方向を検討しました。発表では、まず欧米を中心としたオンライン授業の現状を概観し、アメリカでの市場としての失敗とヨーロッパのEU市民の育成を目標としたE-learning計画を参考に、今後の日本とフィリピンの大学間のオンライン授業戦略を考えました。   最後に、金雄熙氏(韓国仁荷大学助教授・SGRA研究員)は、「韓国の大学における国際的E-learningの現状と課題」というタイトルで、政府主導の成長政策と先進国に比べても決して劣らない情報通信インフラなどのおかげで韓国のE-learningが急速な量的成長を成し遂げていることを発表しました。しかしながら、その総体的な発展が果たして望ましい方向に向かっているかについてはまだ疑問が残っているとして、韓国の大学におけるE-learning課題を指摘しました。また、国境を越える事例として、世界銀行のGDLN (Global Distance Learning Network)のアジアセンターの役割を担っている韓国開発院(KDI)大学院大学のE-learning(Blended Learning)を紹介しました。   その後、王溪氏(東京大学新領域創成科学研究科研究助手・SGRA研究員)の進行で進められたパネルディスカッションでは、サイバー教育の是非について活発な議論が行われました。回答者によって「E-learningが全てできるわけではない」ということが強調されましたが、同時に「講義を公開せざるを得ないことによって、現在あまり高くない講義の質を向上させることもできるのではないか」という消極的肯定論もありました。しかしながら、インターネットは手段にすぎず、人の交流が基本でなければならないという点では、全員の意見が一致しました。また、東アジア市民の育成のための国境を越えたLearningが英語で為されることについての質問がありましたが、3国間の授業では英語を共通語とするが、参加者に相互の言語を第一外国語として勉強することを義務づけたり、2国間授業では当事者の言語を使ったりするなど、様々な工夫がされていることが紹介されました。   土曜日の午後1時半から長時間にわたって開催された第14回フォーラムは、盛会の内、午後6時半に幕を閉じました。   (文責:J.スリスマンティオ、編集:今西淳子)