SGRAイベントの報告

第30回SGRAフォーラム「教育における『負け組』をどう考えるか」報告

第30回SGRAフォーラムは、素晴らしい晴天に恵まれた2008年1月26日(土)、東京国際フォーラムG610会議室にて晴れ晴れと開催されました。「教育問題」が世間やマスコミを賑わしている昨今のご時勢において、「教育における『負け組』をどう考えるか ~日本、中国、シンガポール~」という今回のフォーラムは非常にホットなテーマであると言わざるを得ません。SGRA「グローバル化と地球市民」研究チームが担当する6回目のフォーラムとなりますが、一般的な教育問題を扱ったフォーラムは初めてだそうです。

 

発表者および発表の流れは以下の通りです:

 

【発表1】佐藤 香 (東京大学社会科学研究所准教授)
「日本の高校にみる教育弱者と社会的弱者」
【発表2】 山口真美(アジア経済研究所研究員)
「中国の義務教育格差 ~出稼ぎ家庭の子ども達を中心に~」
【発表3】シム・チュン・キャット(東京大学大学院教育学研究科博士課程)
「高校教育の日星比較 ~選抜度の低い学校に着目して~」

 

基調講演を担当していた佐藤先生は、まず近代教育システムの特徴を説明しつつ、日本の教育モデルとメリトクラシー(meritocracy 能力主義)の現実を明らかにした後、日本におけるメリトクラシーの緩和および教育弱者の厳しい現状について説明しました。そして、教育弱者が社会的弱者になりやすい傾向の中で、彼らが社会に拡散してしまう以前に教育現場において集中的に支援を行なったほうが効率的であると主張しました。非常に濃い内容を簡潔にまとめられた佐藤先生の発表が素晴らしかったこともさることながら、SGRAフォーラムの講演者としては初めての着物姿もとてもステキでした。

 

二人目の発表者であった山口さんは、中国の都会に住む出稼ぎ労働者の現状とその子どもたちの教育問題に着目し、中国における義務教育の格差問題について報告しました。山口さんはまず中国の教育制度と各教育段階の就学率の推移について説明し、経済発展が著しい中国において国内出稼ぎがどのように発生・拡大していったのか、そして出稼ぎ家庭の子どもの義務教育を受ける権利がいかに草の根レベルでの解決によって制度化されるように至ったのかを詳述しました。データと写真を表示しながら、丁寧に且つ力強く中国の教育現状を訴えた山口さんの発表はとても印象に残るものでした。

 

最後の発表者の私は、日本とシンガポールにおける選抜度の低い学校に焦点を当て、教育の「負け組」への両国の対処のあり方を比較しながら、教育が果たすべき社会的役割について検討しました。日星両国の高校生を対象とした質問紙調査のデータをもとに、私はまず両国ともに選抜度の低い下位校には学力も出身階層も低い生徒が集まることを示したうえ、シンガポールの下位校生徒が、学校の授業や先生を高く評価し、高い学習意欲と進学アスピレーションを持っているのとは反対に、日本の下位校生徒は授業や先生に対する評価が低いだけでなく、意欲にも欠けていることを明らかにしました。そして、日本の下位校の厳しい現状を言及しつつ、どの国でも下位校が教育的・社会的セーフティネットとなるべく、下位校への投資と改革が急務であると強く主張しました。

 

「教育問題」は非常に身近でホットなテーマであるだけに、フォーラム当日には会議室の席がほぼ全部埋まるほど参加者が集まりました。パネル・ディスカッションのときも、フロアから質問とコメントが引っ切り無しに出され、会場は盛り上がりました。教育弱者への支援の重要性について意を同じくした参加者もいれば、学力以外にも「生きる力」を柱とした教育の必要性を強く訴えた参加者もいました。教育のあるべき姿を考えるヒントとして、自国の教育制度や自らの体験を熱く語ってくれた参加者もいました。そして、ディスカッションの熱気は冷めることなくそのまま大盛況の懇親会へと持ち越され、最後の最後まで熱い議論が交わされる一日となりました。

 

当日、SGRA運営委員の足立さんとマキトさんが撮った写真は、下記URLからご覧ください。

 

http://www.aisf.or.jp/sgra/photos/

 

(文責:シム・チュン・キャット)