SGRAイベントの報告

第3回SGRAチャイナフォーラム「一燈やがて万燈となる如く」報告

講演:工藤正司(アジア学生文化協会常務理事)
「一燈やがて万燈となる如く~アジアの留学生と生活を共にした協会の50年~」

中国における第3回目のフォーラムは、9月26日(金)に延辺大学総合棟七階報告庁にて、9月28日(日)に北京大学外国語学院民主楼にて開催されました。2006年に北京大学で開催したパネルディスカッション「若者の未来と日本語」、2007年に北京大学と新疆大学で開催した緑の地球ネットワーク高見邦夫事務局長のご講演「黄土高原緑化協力の15年:無理解と失敗から相互理解と信頼へ」に引き続き第3回目です。今回は、50年にわたり東京で留学生の受け入れ態勢の改善に取り組んできたアジア学生文化協会(ABK)の工藤正司常務理事に、協会の創設者穂積五一氏の思想とABKを通して見た日本とアジアのつながり、そして民間人による活動の意義をお話しいただきました。

 

工藤さんは、「お国の発展ぶりに讃辞を送ることからお話を始めることになるのですが、私の本当の心を申しますと、それよりも前に、私の国・日本が過去に皆様のお国に行ったことをお詫びさせて戴きたい思いです」、「今日私がお話しするのも、私たちの協会や創設者のことを、誇るためでも、宣伝するためでもありません。敗戦した国で日本人は何を考え、どのように行動したか、そして、現在はどう動いているかを、1つの例として、私たちの協会とその創設者の人間を通してのぞいてみること、そして、それを通じて『公益事業を民間が行うこと』の意味を皆さんと一緒に考えてみて、もし、皆様にも参考になることがあれば、活用していただきたいということです」と講演を始め、戦前の日本に対する反省に立って「新しい戦後日本」を構想して設立されたABKと創設者穂積五一氏の思想、その後の協会の展開と工藤さんご自身の関わりを、パワーポイントで写真を映しながら話されました。そして、最後に、「日本に居る留学生たちは、今、いじめにあうのを恐れて、自由にものを言えないのではないか」「移民政策が定かでないのに、日本の労働力不足を補うために留学生の受け入れを急増させようという留学生30万人計画は危ないのではないか」「日本も中国も短絡的に相手を見ることが多すぎるのではないか。お互いの現在の状況を新しい姿勢で、もっとよく研究する必要があるのではないか」と問題提起し、「具体的提案があれば、私はABKが現在進めている改革に、文化交流の一環として、組入れることを真剣に検討する用意があると申し上げます」と結ばれました。

 

延辺大学フォーラムの参加者は、主に国際政治学を専攻する学生約150名で、日本と中国の教育や学生の違いについて等の質問がありました。北京大学フォーラムの参加者は、日本語学習者を中心とした北京大学、北京第二外語大学、北京語言大学、北京人民大学等の学生、日本留学中にABKや太田記念館に滞在した方々、渥美財団の渥美理事長他関係者など約80名でしたが、大学で日本語を勉強する学生さんは皆さんとても流暢な日本語で質問したので驚きました。ふたつのフォーラムを実現してくださった延辺大学の金香海さんと北京大学の孫建軍さんに心から感謝いたします。また、参加してくださったSGRA会員のみなさん、呉東鎬さん、金煕さん、張紹敏さん、朴貞姫さん、馮凱さん、宋剛さん、ありがとうございました。

 

(今西淳子)

 

 

◆ 延辺大学の金香海さんより:

 

延辺大学のフォーラムでは、講演の後も、学生達の興味深い質問に対し、工籐さんは熱心に回答してくださり、会場は一貫して熱い雰囲気でした。その余蘊が去らず、30名の参加者達は、日本国際交流基金の援助で出来たばかりの「延辺大学日中ふれ合いの場」で立食パーティーを開き、ワインを交えながら、再び工籐さんから日中学生気質の違いや日本語教育についてのお話を伺い、夜が過ぎるのを忘れました。このように大きな共鳴を引き起こしたのは、やはり工籐さんの講演の内容とそのすばらしい人格のためであったと思います。
日本とアジアは長い文明交流の歴史がありました。日本は明治維新を通じて西洋と肩を並べる近代国民国家になりましたが、その過程でアジアを否定して西洋の価値観を取り入れて“空想的帝国”をつくろうとしたが失敗しました。この後、またアメリカの価値観を取り入れ、先進国になったけれども、ここにはいろいろな歪みが生じました。これがまさに、ABK創設者の穂積先生が、日本社会の疾病としたもので、敗戦直後から「アジアのために」アジアの留学生を支援してきた理由です。工藤さんは、日本の再生、そしてアジアの価値の回復と創造は、学生達の草の根の交流があって初めて、“一燈やがて万燈となるごとく”実現できると仰いました。大変優しく、すばらしい人格の持ち主で、文明に対する深い理解を持っていらっしゃる工藤さんを、私は非常に尊敬しています。

 

 

◆ 北京大学の孫建軍さんより:

 

「留学」について深く考えさせられるお話でした。外国の進んだ技術や裕福な生活に憧れ、または外国語の習得や学術研究に役立たせるために、留学したい人が多いものです。多くの人の場合、それは夢だけに終わってしまいますが、僅かながら留学を実現させた人もいます。自分を中心に生活を考える留学生と違い、工藤さんのいらっしゃるABKは留学環境を整えるために50年奮闘して来られました。日本国内政治の動きや国際関係の変化に翻弄されながらも、留学生のためという信念を曲げることがありませんでした。ABKのような組織は、アジアの学生にとってどれだけ心強い存在でしょう。ABKにお世話になった元中国人留学生が、会場にたくさん集まったのもABKの強い求心力の表れに違いありません。
講演を聞きながら考えました。心にゆとりのある人でなければNPO活動は成立しません。留学がきっかけで、自分はNPOの存在を知り、関わるようになりました。精神的に豊かな方のそばにいるだけで励まされます。もっと精神的に成長しなければならないと切実に感じました。

 

 

◆ フォーラムの写真は下記URLよりご覧いただけます。

 

延辺フォーラム

 

北京フォーラム