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2009.08.05
2009年7月25日(土)午後2時より9時30分まで、軽井沢にて「東アジアの市民社会と21世紀の課題」をテーマに第36回SGRAフォーラムが開催された。
「良き地球市民の実現」を基本的な目標に掲げるSGRAは、2000年7月の設立以来、常にグローバル化と同時に市民社会に注目して研究活動を続けている。今回のシンポジウムはその一環として、「グローバル化と地球市民」研究チームが担当した。本フォーラムは、東アジアという地域の中でも特に、日本・韓国・フィリピン・台湾・香港・ベトナム・中国において市民社会とは何かという疑問を様々な角度から考察し、意見交換する場として実現した。東アジア各国の「市民」とは何か、NGO及びNPOなどの市民社会運動体の現状を、ヨーロッパ的な市民社会の背景と比較したうえで考え直す試みであった。
フォーラムでは、今西淳子代表の開会挨拶に続き、7人の先生方及びSGRA研究員による研究発表が行われた。まず、本シンポジウムの基調講演として、宮島喬氏(法政大学大学院社会学研究科教授)が「市民社会を求めての半世紀ヨーロッパの軌跡とアジア」というテーマの発表をした。宮島氏は、国境なきヨーロッパを作ることを目標とするEUとヨーロッパ市民社会の伝統・その現実との関連、その展望と問題点について述べた。特に、第二次世界大戦後、アジア諸国は独立国家を目指し、その過程でナショナリズムが高揚したが、それに対して、戦後ヨーロッパは、国家ナショナリズムは悪という自覚から出発していることを指摘した。「市民社会」というキーワードの出自であるヨーロッパを今回のシンポジウムの基調講演のテーマに設定したのは、東アジアの現実と可能性を意識しているからである。しかし、国家単位を超え、一つの共同体として変容していくヨーロッパとは異なり、東アジアにおいては、ASEANを除けばまだ実現していない「国境を越えた地域統合」は今後の課題である。特に難民や移民の受け入れに対する、ヨーロッパの国々の義務感、人権意識が強調された。
2番目の都築勉氏(信州大学経済学部教授)の発表は近代日本の市民社会政治の研究者の立場から「『市民社会』から『市民政治』へ」というテーマだった。都築氏は「市民社会」というキーワードで、近代日本とりわけ戦後社会の変遷、60年安保における市民運動の誕生の経緯や、その影響と発展などについて紹介した。そして、党派のセクト主義、偏狭的なナショナリムを超えるような「アソシエーション的新しい市民政治」の可能性を呼び掛けた。氏の発表は日本の国内レベルでは、市民の主体性につながる市民と政府の契約の結びなおしの可能性、国外のレベルでは日本とアジア、特に東アジアの連帯の可能性への期待を感じさせた。
3番目の発表者の高煕卓氏(延世大学政治外交学科研究教授、SGRA「地球市民研究チーム」チーフ)は「韓国の市民社会と21世紀の課題:『民衆』から『市民』へ~植民地・分断と戦争・開発独裁と近代化・民主化~」という発表をした。高氏は19世紀末の植民地期間における「民衆」「人民」という語の意味から、解放・南北分断後、60~70年代の開発独裁と近代化期間の民主化運動におけるこれらの言葉の意味の変化と表わし方の変容までの歴史を紹介し、市民政治の今日における韓国での意味・問題点を紹介した。「市民」が肯定され、「非営利民間団体支援法」が誕生したのは2000年のことであり、それが韓国の市民社会の芽生えだと位置づけた。高氏の発表では、下からの民主主義の歴史を誇る韓国の現代史の独自性が印象的であった。高氏は今回のシンポジウムの企画・実施のためにたいへんご尽力をいただいたキーパーソンでもある。
4番目の発表者は中西徹氏(東京大学大学院総合文化研究科教授)であり、氏のテーマは「フィリピンの市民社会と21世紀の課題:「フィリピンの『市民社会』と『悪しきサマリア人』」である。中西氏は、塔に先に上った人々が「梯子を外す」ということに譬えながら、開発経済学の「新自由主義」によって強化された先進国の抑圧的な構造を紹介した。つまり、「国際社会におけるBad Samaritan (IMF、世界銀行、WTOなどの国際機関、及びそれらを支えている先進国)」との関係性の中で、フィリピンが発展途上国の貧困から抜け出すことが出来ないと指摘した。しかし、フィリピンの農村の人々が既に有しているコミュ二ティの資源を利用して、その固定的な階層社会を相対化し流動化していることを紹介し、貧困層が権利獲得と自立のためにネットワークを形成するという意味で市民社会の可能性を提示した。
5番目の発表は林泉忠氏(琉球大学准教授/ハーバード大学客員研究員、SGRA研究員)による発表である。林氏の発表は、「台湾・香港の市民社会と21世紀の課題:『国家』に翻弄される『辺境東アジア』の『市民』~脱植民地化・脱「辺境」化の葛藤とアイデンティティの模索~」というテーマだった。林氏は台湾・香港を例に、この二つの地域における市民社会形成の特徴を纏めつつ、それと「国家」との関係、植民地の歴史との関係を提起した。氏はこの二つの異なる地域における市民社会の形成の過程と民主化との関係、アィデンティティ形成との関係を示した。
6番目発表者であるブ・ティ・ミン・チィ氏(ベトナム社会科学院人間科学研究所研究員、SGRA会員)は、「ベトナムの市民社会と21世紀の課題:変わるベトナム、変わる市民社会の姿」という発表をした。ブ氏は社会学的な角度からこの15年間におけるベトナムの「市民社会」という「デリケート」な用語・概念自体の変遷を具体的なデータで示し、NGO組織、CGO組織のなどの増加の傾向を提示した。ブ氏は同時にべトナムの市民社会の形成の経緯・現状とその可能性を、中国、シンガポールなどの国と比較した。
最後の発表者は劉傑氏(早稲田大学社会科学総合学術院教授)であり、テーマは「中国の市民社会と21世紀の課題:模索する『中国的市民社会』」である。劉氏は中国の現代における「1949年」と「1978年」(とりわけ後者)の意味を強調し、さらにオリンピックと四川省の大地震後の民間組織とボランティア活動が盛んであった「2008年」を「中国公民社会元年」と位置づけた。また、劉氏は「公民社会」というキーワードで中国の市民社会の独自な文脈を強調し、同時に「知識界」という用語で、台頭する民族主義を、知識人が批判していることを取り上げつつ、中国の知識人の中国の「公民社会」の形成における役割を紹介した。劉氏は、インターネットと「公民社会」との関係、若い世代と「公民社会」との関係、「公民社会」と民族主義との関係を提示した。
夕食後、午後7時30分~9時まで、孫軍悦氏(明治大学政治経済学部非常勤講師、SGRA研究員)を進行役に、上記の講演者・発表者をパネリストとして、「東アジアの市民社会と21世紀の課題」をテーマとするパネル・ディスカッションを行った。パネル討論ではたくさんの質問が寄せられ、パネリストによる返答・討論を行った。東アジアが今後一つの共同体として姿を形作るには、まだ時間がかかることを認めたうえで、様々な経済的・政治的な問題が課題として残されていることが討論された。今回のフォーラム自体が「東アジア」という単位で考えるための一つの試みであったことは最も大きな成果だと考えられる。これからの東アジアの有様は、中国の国際プラットフォームでのステータスの上昇に大きく左右されると考えられる。また東アジア地域が戦争の負の記憶を乗り越え、新たな連帯・協力の体制を作るのがこれからの課題であろう。その過程において経済的にも比較的に余裕のある日本が自発的に協力・統合を呼びかける役割を果たすべきではないだろうか。
当日の写真は、下記からご覧ください。
足立撮影
マキト、郭栄珠撮影
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<林少陽(りん・しょうよう)☆Lin Shaoyang>
厦門大学卒業後、吉林大学大学院修士課程修了。学術博士(東京大学)。1999年来日。東京大学博士課程、東大助手を経て東京大学教養学部特任准教授。著書に『「文」与日本的現代性』(北京:中央編訳出版社、2004年7月)、『「修辞」という思想:章炳麟と漢字圏の言語論的批評理論』(白澤社、近刊)及び他の日本・中国の文学・思想史関係の論文がある。SGRA研究員
<Kaba Melek(カバ・メレキ)>
トルコ出身。2003年来日。現在、筑波大学人文社会科学研究科文芸言語専攻博士課程後期に所属。専門分野は比較文学・文化。SGRA会員
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2009.07.29
下記の通りSGRAチャイナフォーラムを開催します。参加ご希望の方は、SGRA事務局(
[email protected])までご連絡ください。また、北京と上海にお住いで、興味をもっていただけそうな方にご宣伝いただけますと幸いです。
【講演】 近藤正晃ジェームス
「TABLE FOR TWO ~世界的課題に向けていま若者ができること~」
★プログラムは下記URLよりダウンロードしていただけます。
日本語版
中国語版
■ 日時と会場
【北京】
2009年9月16日(水)午後4時~6時
北京外国語大学日本学研究中心三楼多功能庁
【上海】
2009年9月17日(木)午後6時~8時
上海財経大学梯一教室(国定路777号)
■ フォーラムの趣旨
開発途上国の飢餓と先進国の肥満や生活習慣病に同時に取り組む、TABLE FOR TWOという日本発の社会貢献運動の創始者、近藤正晃ジェームスさんにご講演いただきます。TABLE FOR TWOとは、先進国の食卓に出される健康的な食事が、開発途上国の食卓の学校給食に生まれ変わることを意味します。2007年に始められた活動ですが、協力企業はどんどん増え、たくさんの日本のメディアにとりあげられています。日中同時通訳付き。SGRAは、民間人による公益活動を、北京をはじめとする中国各地の大学等で紹介するフォーラムを開催していきたいと思っています。
■ 講演要旨
世界には60億人以上の人々が暮らしていますが、10億人が飢餓、10億人が肥満などの生活習慣病で苦しんでいます。世界の死亡と病気の原因は、1位が肥満、2位が飢餓です。戦争、事故、感染症を大きく上回る人類の課題です。この飢餓と肥満の同時解消に取り組もうと立ち上がったのがTABLE FOR TWO(TFT)です。TFTに参加する企業食堂、レストラン、ホテルなどで健康的な食事をとると、開発途上国で飢餓に苦しむ子供に学校給食が1食寄付されます。1人で食べていても、世界の誰かと2人で食べている。それでTFTという名前をつけました。日常の中で、世界とのつながりを感じられる。小さな一歩で、お互いに救われる。そんな運動です。社会起業家のキャリアに興味がある方、食や健康に興味がある方、TFTを中国で広げることに興味がある方。幅広い方々との議論を楽しみにしています。
■ 講師紹介
近藤正晃ジェームス(こんどう まさあきらじぇーむす)
現職:
特定非営利活動法人TABLE FOR TWO International 共同代表理事
特定非営利活動法人 日本医療政策機構 副代表理事 兼 事務局長
東京大学先端科学技術研究センター 特任准教授
略歴:
1990年慶応義塾大学経済学部卒。1997年ハーバード・ビジネス・スクール修了。
マッキンゼー・アンド・カンパニーにおいて、世界各国の支社で15年間、政府の経済政策および国際企業のグローバル戦略を立案。2003年より東京大学医療政策人材養成講座の設立・運営に関わる。2004年、特定非営利活動法人日本医療政策機構を共同設立。2005年ダボス会議ヤンググローバルリーダーに選出。各国のリーダー達と共にTABLE FOR TWOの構想を固め、2007年、特定非営利活動法人TABLE FOR TWO Internationalを設立。現在に至る。
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2009.07.05
下記の通り第36回SGRAフォーラム in 軽井沢を開催します。参加ご希望の方は、ファックス(03-3943-1512)またはemail(
[email protected])でSGRA事務局宛ご連絡ください。
日時:2009年7月25日(土)
午後2時~6時 夕食後 午後7時30分~9時
会場: 鹿島建設軽井沢研修センター会議室
申込み・問合せ:SGRA事務局
【フォーラムの趣旨】
「良き地球市民の実現」を基本的な目標に掲げるSGRAは、2000年7月の設立以来、常にグローバル化と同時に市民社会に注目して研究活動を続けている。
「市民社会」という言葉の定義は多岐にわたる。18世紀のヨーロッパにおける市民革命後の「近代市民社会」だけでなく、国家権力からも市場からも統制を受けない「公共空間」を指す場合もあり、またマルクス主義の立場からは、階級対立を前提として有産階級が支配する社会を指す。市民革命を経た近代市民社会においては、個人の自由が保障され自発的な活動組織が社会を形成することが、その成立要件となっている。冷戦後、市民的自由を確保するためには、従来の共産党・労働組合を主体とした一極型の運動ではなく、市民の日常生活にかかわる諸団体がネットワークを結んで多極的な運動を展開すべきだという考えが形成された。こうした観点に立ったとき、非政府組織(NGO)や非営利組織(NPO)と、それらが結びついて構成される市民ネットワークを指して市民社会と称することもある。
一方、近年、東アジア諸国においては、めざましい経済発展に伴い、市民社会を形成する中産階級が生まれた。また各国とも欧米の文化や教育の影響を非常に強く受け、さらには交通情報技術の発展により情報化と人的交流が進み、各国の知識人の間では市民社会への関心も高まっている。しかしながら、東アジアでは未だに政治体制が異なっており、各国の社会基盤も、さらには国民の思想基盤も多様である。そのため、東アジアにおける「市民社会」についての議論は、非常に複雑な問題を内包しており、必ずしも活発であるとは言えない。
本フォーラムでは、東アジアという地域を念頭におきながら市民社会とは何かを考えた上で、東アジア各国の専門家から各国における市民社会の成り立ちや現状についての報告を受け、その後、10ヶ国を超える日本語が堪能な若手研究者により東アジアにおける市民社会の発展への今後の課題を自由に議論する。
本フォーラムは、問題の解決や提言をめざすものではなく、啓発と問題意識の共有化を目的とする。
【プログラム】
詳細はここからご覧ください。
● 基調講演
宮島 喬(法政大学大学院社会学研究科教授)
「市民社会を求めての半世紀ヨーロッパの軌跡とアジア」
● 日本の市民社会と21世紀の課題
都築 勉(信州大学経済学部教授)
「『市民社会』から『市民政治』へ」
● 韓国の市民社会と21世紀の課題
高 煕卓(延世大学政治外交学科研究教授、SGRA研究員)
「『民衆』から『市民』へ」
~植民地・分断と戦争・開発独裁と近代化・民主化~
● フィリピンの市民社会と21世紀の課題
中西 徹(東京大学大学院総合文化研究科教授)
「フィリピンの『市民社会』と『悪しきサマリア人』」
● 台湾・香港の市民社会と21世紀の課題
林 泉忠(ハーバード大学客員研究員/琉球大学准教授、SGRA研究員)
「『国家』に翻弄される『辺境東アジア』の『市民』」
~脱植民地化・脱「辺境」化の葛藤とアイデンティティの模索~
● ベトナムの市民社会と21世紀の課題
ブ・ティ・ミン・チィ(ベトナム社会科学院人間科学研究所研究員、SGRA会員)
「変わるベトナム、変わる市民社会の姿」
● 中国の市民社会と21世紀の課題
劉 傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
「模索する『中国的市民社会』」
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2009.06.30
SGRAレポート第49号本文
SGRAレポート第49号表紙
第33回SGRAフォーラム講演録
「東アジアの経済統合が格差を縮めるか」
2009年6月30日発行
<もくじ>
【基調講演】東 茂樹(西南学院大学経済学部教授)
「FTAで経済関係が深まる日本と東南アジア」
【コメントと問題提起】
・平川 均(名古屋大学経済学研究科教授、SGRA顧問)
・ド・マン・ホーン(桜美林大学経済経営学系講師)
・フェルディナンド・C・マキト(SGRA研究チーフ)
【パネルディスカッション】
平川 均(司会)、東 茂樹、ド・マン・ホーン、F・C・マキト
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2009.06.17
SGRAかわらばん257号でお知らせした通り、立教大学第二回経営学部国際シンポジウムに参加し、「Rediscovering Japan's Leadership in "Shared Growth" Management: Some Findings from a Study on Philippine Ecozones and Automotive Industry」という報告をした。 基調講演をされたRICHARD STEERS博士は、アメリカ型の経営がグローバル化に対応できない部分があると指摘した。例えば、20年以上前に出版された「IN SEARCH FOR EXCELLENCE」という経営学のMUST READINGに掲載された優勝なアメリカの企業グループの3分の1は現在すでに存在していないという。そして、アメリカの大学のMBAのいわゆる国際的経営の指導は十分であるかどうかという疑問も投げかけた。グローバル化が生み出した多文化の経営環境にアメリカ型の経営者が適応できるかどうかと。アメリカの大学の経営学の教授の発言として非常に謙遜で妥当な自己評価だと思った。 懇親会のときに、STEERS先生とお話しした。僕は「多文化のアメリカは、本来、多文化経営に優れているはずだが、なぜそれが欠けているか」と質問した。先生は「アメリカの『上の階級』は実際多文化ではなく、多くのアメリカ人はそれに対して不満を持っている。(オバマ大統領を含む・・・先生はオバマ大統領は『GOD』であると評価している。僕も同感。)」とお答えになった。もうひとつの共通点は、このままでは、HAVEとHAVE NOTSとの格差が拡がっていくという懸念である。面白い調査結果を聞かせていただいた。従業員の一番高い給料と一番低い給料の平均的な差は日本では20倍ぐらいだが、アメリカでは420倍だという。 この調査結果を、共有型成長の経営の必要性を強調した僕らの発表で引用させていただいた。ただ、最近、この必要性がどのぐらい日本で浸透しているか、はっきりわからなくなってきている。だから、僕らが発表した論文では、この共有型成長の魂の「再発見」を提案している。いつものように、発表を聴いてくれた人は多くなかったけれど、学会の会長は僕らの論文を一番良いと評価してくれた。僕の住まいから自転車でいける学会で、これだけ勉強させていただいたのは贅沢かもしれない。 当日の写真はこちらからご覧いただけます。 -------------------------- <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA運営委員、SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームチーフ。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師。 -------------------------- 2009年6月17日のSGRAかわらばん「会員だより」で配信
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2009.06.17
2009年6月7日(日)、東京国際フォーラムにて「テレビゲームが子どもの成長に与える影響を考える」をテーマに第35回SGRAフォーラムが開催された。
本フォーラムは「ITと教育」チームが担当した。昨年フォーラム後の懇親会で話題になった「子どもに携帯電話をもたせるべきか」という報道から発展させ、「ITは子供にどのような影響を与えるのか、本当に子供教育に役立つのか」という問いをベースに、抽象的ではなく、具体的に議論ができるよう、「テレビゲーム」に焦点を絞り、子供に与えるよい影響、悪い影響を考える会として企画された。
フォーラムでは、今西淳子SGRA代表の開会の挨拶に続き、3人の専門の先生方とSGRA研究員による研究発表が行われた。
「現代社会はテレビゲームをどう受容してきたか」と題してテレビゲームの影響を多面的に捉える必要性を、東京大学大学総合教育研究センター助教の大多和直樹先生が説いた。大多和先生は、現代社会では、テレビゲームの議論が悪玉・善玉といった具合に二極化されやすいが、ニュートラルにテレビゲームを捉える必要があり、現代の子どもが、管理される学校化社会と、インターネット等による情報化社会の双方に取り込まれつつあることを力説し、さらに、これによる悪影響を学校が排除しようとする動きを指摘し、この排除あるいはコントロールは問題を解決するのかと問題提起した。
東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学分野教授の佐々木敏先生は、テレビゲームと子供の肥満の関係性について調査結果を発表した。アメリカでは男子の肥満はテレビ視聴時間と強く関連しているが、女子は運動頻度とテレビ視聴時間の両方が関連しているとの調査結果だった。日本では現段階で信頼度の高い調査・研究は少ないが、過去25年間を見ると、日本の子供たちの肥満者率は増加してきている。さらに、東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野客員研究員であるU Htay Lwinさんは研究結果の少ない日本の子供(那覇市、名護市の6歳から15歳の児童)を対象に健康調査を行った結果を発表した。日本でもやはりアメリカと似た結果が出た。
最後に、テレビゲームが子供の心理に与えるポジティブな影響とネガティブな影響について、慶応義塾大学メディアコミュニケーション研究所研究員である渋谷明子先生からの報告があった。空間処理能力、視覚的注意、帰納的問題解決能力などが代表的なポジティブな影響で、ネガティブな影響としてテレビゲームの過度な依存による社会性の欠如などが指摘された。ご専門である、子どもの暴力化については、とりあげて心配しなければならないほど強い影響力はないという調査結果がでているとのことだった。
パネルディスカッションでは参加者からたくさんのご質問をいただき、白熱した議論ができた。ゲームの地域性、家庭背景、その人にとって価値などにも関係していることが指摘され、無限に子供にゲームを与える、あるいは必要以上にゲームを制限することの欠点についても討論した。明確な良し悪しの結論は出ないものの、子供の能力を引き出す、あるいは、子供の成長を助けるゲームは存在するのは間違いなく、適宜に教育に取り入れることが必要であるという議論であった。最後にパネル進行役である自分も驚いた結果であるが、会場の40数名の聴講者の約半数が「自分の子供にゲームを与えたい」と挙手によって答えた。時代の変遷に伴い、ゲームに対する観点も変化しつつあり、テレビゲームとのかかわり方も今後少しずつ変わっていくだろうと想像がつく。
最後に、この場を借りて、ご講演いただいた4名の先生方と最後まで聴講していただきアクティブにディスカッションに参加してくださった会場の皆様に感謝の気持ちをお伝えするとともに、司会のナポレオンさんおよび会場の設営を手伝っていただいたSGRA研究員のみなさまにお礼を申し上げたい。
フォーラムの写真はここから ご覧ください。
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江 蘇蘇(こう・すーすー ☆ Jiang Susu)
中国出身。留学する父親と一緒に来日。日本の高校から、横浜国立大学、大学院修士課程・博士課程を卒業。専門分野は電子工学。現在(株)東芝セミコンダクター社勤務。SGRA研究員。
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2009年6月17日配送
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2009.06.01
世界史の大きな転換がはじまった、1939年5月から9月にかけて、モンゴルと満州国との国境沿いのハルハ河で日本・満洲国連合軍とソ連・モンゴル連合軍による大規模な国際紛争が起きました。巨大な犠牲をはらったこの戦争について、関係諸国では、当事者・専門家によるさまざまな視点からの研究が活発になされてきましたが、解明されていない点がいまだおおく残されています。冷戦後、ロシアとモンゴル国はこの国境紛争に関する秘密文書を公開し、あらたな歴史事実が提示されつつあり、ノモンハン事件(ハルハ河会戦)に対する認識はますます深くなっていっています。21世紀を迎えた今日、国や政治、民族、文化を超えて、各国の研究者が共同の場に立って、歴史を直視し、率直に話し合って、より広い視野のもとに、ハルハ河会戦をめぐる新しい研究の展開が強く求められています。
このような考えから、ノモンハン事件(ハルハ河会戦)70周年にあたって、関口グローバル研究会(SGRA)とモンゴル国中央文書管理局は、モンゴル科学アカデミー歴史研究所と共同で、国際学術シンポジウム「世界史のなかのノモンハン事件(ハルハ河会戦)――過去を知り、未来を語る――」を開催することにいたしました。
本シンポジウムは、20世紀前半の国際情勢を背景に、ハルハ河会戦を振り返り、さまざまな問題点を多角的に問いなおしながら、歴史の真実を探り、さらに、ハルハ河会戦が世界史に占める位置、およびその帰結を体系的に検討し、それが後の世界秩序の形成に及ぼした影響を検証することを目的とします。同時に、お互いに批判的視点を尊重しながらも、対等なパートナーシップに基づいて、ハルハ河会戦に対する共通の歴史認識の構築をはかり、今後の北東アジアの平和共存と国際的な相互理解の促進をめざします。
皆さまのご参加を、心からお待ちしております。
実行委員会委員長
今西淳子(関口グローバル研究会代表)
D.ウルズィバートル(モンゴル国家文書管理局長)
Ch. ダシダワー(モンゴル科学アカデミー歴史研究所長)
日程:2009年7月3日(金)~4日(土)
*参加登録:7月2日(木)午後4~5時、モンゴル・日本センターにて
*参加自由:7月6日(月)~8日(水) ハルハ河へ視察旅行
(費用は参加者自己負担、600ドル、6人以上で実施)
会場:モンゴル・日本人材開発センター(モンゴル国ウランバートル市)
関連資料は下記からダウンロードしていただけます。
発表要旨集
プログラム
日本語案内状
英語案内状
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2009.04.20
日 時: 2009年5月7日に午後1時半から5時半まで
会 場: フィリピンのアジア太平洋大学(UA&P)
言 語: 英語
【概要】
今回は、「労働移住と貧困:国内や海外におけるパターン」がテーマで、今年後半に開催する学会の準備作業のため、東京大学の中西徹教授との共同研究として開催します。
【プログラム】
・開会挨拶:Dr. Bernie Villegas (UA&P運営委員長)
・報告1:「海外労働移住の概観」Prof. Bien Nito (School of Economics, UA&P)
・報告2:「フィリピン人の海外移住史」Dr. Trining Osteria (Yuchengco Center, De La Salle University, センター長)
・報告3:「国内の労働移住と貧困」中西徹教授(東京大学)
・オープン・フォーラム及び総括と政策提案:進行:Dr. Max Maquito(SGRA研究員)
・閉会の挨拶:Dr. Peter Lee U(School of Economics、UA&P、学部長)
言語は英語ですが、ご関心のある方はどなたでも大歓迎です。
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2009.03.03
2009年2月21日(土)、東京国際フォーラムで「日韓の東アジア地域構想と中国観」をテーマに第8回日韓アジア未来フォーラムが開催された。前回のグアムフォーラムにおいて「東アジア協力」と「ソフトパワー」というキー概念を念頭に置きながら、中国に対する見方の日韓の差に注目し、今後具体的に検討していくことにしたのを受けて、今回のフォーラムでは、日韓の東アジア地域構想について比較の視座から考えてみることにし、その大きなポイントとなる中国観の日韓における相違などについて検討する機会を設けた。
フォーラムでは、今西淳子(いまにし・じゅんこ)SGRA代表と韓国未来人力研究院の李鎮奎(イ・ジンギュ)院長による開会の挨拶に続き、4人のスピーカーによる研究発表が行われた。まず 名古屋大学の平川均(ひらかわ・ひとし)氏は20世紀から現代までの日本における主なアジア主義について思想と実態とに分けてその特徴を明らかにした上で、昨今の東アジア共同体ブームに関連して、現在が歴史の再現ではないことを力説するとともに、日本の東アジア共同体構想に対する立場は米国配慮と中国牽制であるとした。延世大学の孫洌(ソン・ヨル)氏は、韓国の地域主義について「東北アジア時代構想」と「東北アジアバランサー論」を主な事例として取り上げながら、地域の範囲、性格、アイデンティティ、方法論の側面から日本や中国のそれとの違いを明らかにした。そしてミドルパワーとしての韓国のバランサーとしての役割を強調した。東京大学の川島真(かわしま・しん)氏は「日本人の中国観」について、これまでの日本の対中観を歴史的な経緯や、近30年間の調査結果、そして昨年の状況などについて概括した。とりわけ、東洋/日本/西洋という三分法の下にあった日本の中国観は戦後日本にも継承され、中国があらゆる分野で存在を強めたことで、日本内部で拒否反応が起きてきたと主張した。また、現在も、日本では中国についての否定的な言説が支配的であるが、中国そのものへの不信感は政治や歴史認識問題ではなく、しだいに生活そのものに脅威を与える存在として中国が認識されつつあるとした。そして最後の発表者としてソウル大学の金湘培(キム・サンベ)氏は「韓国人の中国観」について発表を行った。21世紀東アジアにおける世界政治はソフトパワー(soft power)や国民国家の変換 (transformation)に注目すべきであるとした上で、こうした文脈から理解される中国の可能性とその限界とは、取りも直さず技術・情報・知識・文化(これらをまとめて「知識」)と「ネットワーク」という21世紀の世界政治における二つのキーワードにいかにうまく適応できるかを基準にしながら評価できるものであると主張した。
パネル討論では、SGRA研究員であり北陸大学の李鋼哲(り・こうてつ)氏は、「中国からみた日韓の中国観 」について、対中国認識における日韓両国と国際社会の間の乖離、対日本認識における中韓両国と国際社会の乖離、中国観と現実の中国の間にみられる乖離に触れつつ、「求大同、存小異」の姿勢を力説した。このほかにもパネルやフロアーからたくさんの意見や質問などが寄せられたが、時間の制約上議論は惜しくも懇親会の場に持ち越された。
今回のフォーラムは67名の参加者を得て大盛会に終えることができたが、これには同時通訳という「重荷」をボランティアーで快く引き受けてくれたSGRA会員の方々の存在が大きかった。この場を借りて感謝の意を表したい。例年だと、フォーラム終了後は「狂乱」の飲み会に変わってしまうことが多かったが、今年はグローバル金融危機のしわ寄せもあって静かな夜に終わったような感じがする。来年を期待してみたい。
*フォーラム当日の写真を下記よりご覧ください。
足立撮影 フェン撮影
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<金 雄熙(キム・ウンヒ)☆ Kim Woonghee>
ソウル大学外交学科卒業。筑波大学大学院国際政治経済学研究科より修士・博士。論文は「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。韓国電子通信研究院を経て、現在、仁荷大学国際通商学部副教授。未来人力研究院とSGRA双方の研究員として日韓アジア未来フォーラムを推進している。
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2009年3月3日配信
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2009.01.23
SGRAレポート第46号
第31回フォーラム講演録
「水田から油田へ:日本のエネルギー供給、食糧安全と地域の活性化」
2009年1月10日発行
<もくじ>
【基調講演】東城 清秀(東京農工大農学部准教授)
「エネルギー、環境、農業の融合を考える:バイオマス利用とエネルギー自給・地域活性化」
【報告】田村 啓二(福岡県築上町産業課資源循環係)
「福岡県築上町の米エタノール化地域モデル:水田を油田にするための事業構想」
【パネルディスカッション】
進行:李 海峰(北九州市立大学国際環境工学部特任准教授、SGRA研究員)
コメンテーター:外岡 豊(埼玉大学経済学部教授、SGRA顧問)
パネリスト:発表者