SGRAの活動

  • 2009.06.17

    F.マキト「立教大学国際シンポジウム参加報告」

    SGRAかわらばん257号でお知らせした通り、立教大学第二回経営学部国際シンポジウムに参加し、「Rediscovering Japan's Leadership in "Shared Growth" Management: Some Findings from a Study on Philippine Ecozones and Automotive Industry」という報告をした。 基調講演をされたRICHARD STEERS博士は、アメリカ型の経営がグローバル化に対応できない部分があると指摘した。例えば、20年以上前に出版された「IN SEARCH FOR EXCELLENCE」という経営学のMUST READINGに掲載された優勝なアメリカの企業グループの3分の1は現在すでに存在していないという。そして、アメリカの大学のMBAのいわゆる国際的経営の指導は十分であるかどうかという疑問も投げかけた。グローバル化が生み出した多文化の経営環境にアメリカ型の経営者が適応できるかどうかと。アメリカの大学の経営学の教授の発言として非常に謙遜で妥当な自己評価だと思った。 懇親会のときに、STEERS先生とお話しした。僕は「多文化のアメリカは、本来、多文化経営に優れているはずだが、なぜそれが欠けているか」と質問した。先生は「アメリカの『上の階級』は実際多文化ではなく、多くのアメリカ人はそれに対して不満を持っている。(オバマ大統領を含む・・・先生はオバマ大統領は『GOD』であると評価している。僕も同感。)」とお答えになった。もうひとつの共通点は、このままでは、HAVEとHAVE NOTSとの格差が拡がっていくという懸念である。面白い調査結果を聞かせていただいた。従業員の一番高い給料と一番低い給料の平均的な差は日本では20倍ぐらいだが、アメリカでは420倍だという。 この調査結果を、共有型成長の経営の必要性を強調した僕らの発表で引用させていただいた。ただ、最近、この必要性がどのぐらい日本で浸透しているか、はっきりわからなくなってきている。だから、僕らが発表した論文では、この共有型成長の魂の「再発見」を提案している。いつものように、発表を聴いてくれた人は多くなかったけれど、学会の会長は僕らの論文を一番良いと評価してくれた。僕の住まいから自転車でいける学会で、これだけ勉強させていただいたのは贅沢かもしれない。 当日の写真はこちらからご覧いただけます。 -------------------------- <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA運営委員、SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームチーフ。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師。 -------------------------- 2009年6月17日のSGRAかわらばん「会員だより」で配信
  • 2009.06.17

    第35回SGRAフォーラム「テレビゲームが子どもの成長に与える影響を考える」報告

     2009年6月7日(日)、東京国際フォーラムにて「テレビゲームが子どもの成長に与える影響を考える」をテーマに第35回SGRAフォーラムが開催された。   本フォーラムは「ITと教育」チームが担当した。昨年フォーラム後の懇親会で話題になった「子どもに携帯電話をもたせるべきか」という報道から発展させ、「ITは子供にどのような影響を与えるのか、本当に子供教育に役立つのか」という問いをベースに、抽象的ではなく、具体的に議論ができるよう、「テレビゲーム」に焦点を絞り、子供に与えるよい影響、悪い影響を考える会として企画された。   フォーラムでは、今西淳子SGRA代表の開会の挨拶に続き、3人の専門の先生方とSGRA研究員による研究発表が行われた。 「現代社会はテレビゲームをどう受容してきたか」と題してテレビゲームの影響を多面的に捉える必要性を、東京大学大学総合教育研究センター助教の大多和直樹先生が説いた。大多和先生は、現代社会では、テレビゲームの議論が悪玉・善玉といった具合に二極化されやすいが、ニュートラルにテレビゲームを捉える必要があり、現代の子どもが、管理される学校化社会と、インターネット等による情報化社会の双方に取り込まれつつあることを力説し、さらに、これによる悪影響を学校が排除しようとする動きを指摘し、この排除あるいはコントロールは問題を解決するのかと問題提起した。 東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学分野教授の佐々木敏先生は、テレビゲームと子供の肥満の関係性について調査結果を発表した。アメリカでは男子の肥満はテレビ視聴時間と強く関連しているが、女子は運動頻度とテレビ視聴時間の両方が関連しているとの調査結果だった。日本では現段階で信頼度の高い調査・研究は少ないが、過去25年間を見ると、日本の子供たちの肥満者率は増加してきている。さらに、東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野客員研究員であるU Htay Lwinさんは研究結果の少ない日本の子供(那覇市、名護市の6歳から15歳の児童)を対象に健康調査を行った結果を発表した。日本でもやはりアメリカと似た結果が出た。   最後に、テレビゲームが子供の心理に与えるポジティブな影響とネガティブな影響について、慶応義塾大学メディアコミュニケーション研究所研究員である渋谷明子先生からの報告があった。空間処理能力、視覚的注意、帰納的問題解決能力などが代表的なポジティブな影響で、ネガティブな影響としてテレビゲームの過度な依存による社会性の欠如などが指摘された。ご専門である、子どもの暴力化については、とりあげて心配しなければならないほど強い影響力はないという調査結果がでているとのことだった。 パネルディスカッションでは参加者からたくさんのご質問をいただき、白熱した議論ができた。ゲームの地域性、家庭背景、その人にとって価値などにも関係していることが指摘され、無限に子供にゲームを与える、あるいは必要以上にゲームを制限することの欠点についても討論した。明確な良し悪しの結論は出ないものの、子供の能力を引き出す、あるいは、子供の成長を助けるゲームは存在するのは間違いなく、適宜に教育に取り入れることが必要であるという議論であった。最後にパネル進行役である自分も驚いた結果であるが、会場の40数名の聴講者の約半数が「自分の子供にゲームを与えたい」と挙手によって答えた。時代の変遷に伴い、ゲームに対する観点も変化しつつあり、テレビゲームとのかかわり方も今後少しずつ変わっていくだろうと想像がつく。   最後に、この場を借りて、ご講演いただいた4名の先生方と最後まで聴講していただきアクティブにディスカッションに参加してくださった会場の皆様に感謝の気持ちをお伝えするとともに、司会のナポレオンさんおよび会場の設営を手伝っていただいたSGRA研究員のみなさまにお礼を申し上げたい。 フォーラムの写真はここから  ご覧ください。 ------------------------------ 江 蘇蘇(こう・すーすー ☆ Jiang Susu) 中国出身。留学する父親と一緒に来日。日本の高校から、横浜国立大学、大学院修士課程・博士課程を卒業。専門分野は電子工学。現在(株)東芝セミコンダクター社勤務。SGRA研究員。 ------------------------------ 2009年6月17日配送
  • 2009.06.01

    国際学術シンポジウム「世界史のなかのノモンハン事件(ハルハ河会戦):過去を知り未来を語る」ご案内

    世界史の大きな転換がはじまった、1939年5月から9月にかけて、モンゴルと満州国との国境沿いのハルハ河で日本・満洲国連合軍とソ連・モンゴル連合軍による大規模な国際紛争が起きました。巨大な犠牲をはらったこの戦争について、関係諸国では、当事者・専門家によるさまざまな視点からの研究が活発になされてきましたが、解明されていない点がいまだおおく残されています。冷戦後、ロシアとモンゴル国はこの国境紛争に関する秘密文書を公開し、あらたな歴史事実が提示されつつあり、ノモンハン事件(ハルハ河会戦)に対する認識はますます深くなっていっています。21世紀を迎えた今日、国や政治、民族、文化を超えて、各国の研究者が共同の場に立って、歴史を直視し、率直に話し合って、より広い視野のもとに、ハルハ河会戦をめぐる新しい研究の展開が強く求められています。   このような考えから、ノモンハン事件(ハルハ河会戦)70周年にあたって、関口グローバル研究会(SGRA)とモンゴル国中央文書管理局は、モンゴル科学アカデミー歴史研究所と共同で、国際学術シンポジウム「世界史のなかのノモンハン事件(ハルハ河会戦)――過去を知り、未来を語る――」を開催することにいたしました。   本シンポジウムは、20世紀前半の国際情勢を背景に、ハルハ河会戦を振り返り、さまざまな問題点を多角的に問いなおしながら、歴史の真実を探り、さらに、ハルハ河会戦が世界史に占める位置、およびその帰結を体系的に検討し、それが後の世界秩序の形成に及ぼした影響を検証することを目的とします。同時に、お互いに批判的視点を尊重しながらも、対等なパートナーシップに基づいて、ハルハ河会戦に対する共通の歴史認識の構築をはかり、今後の北東アジアの平和共存と国際的な相互理解の促進をめざします。   皆さまのご参加を、心からお待ちしております。   実行委員会委員長  今西淳子(関口グローバル研究会代表) D.ウルズィバートル(モンゴル国家文書管理局長) Ch. ダシダワー(モンゴル科学アカデミー歴史研究所長)   日程:2009年7月3日(金)~4日(土) *参加登録:7月2日(木)午後4~5時、モンゴル・日本センターにて *参加自由:7月6日(月)~8日(水) ハルハ河へ視察旅行 (費用は参加者自己負担、600ドル、6人以上で実施)   会場:モンゴル・日本人材開発センター(モンゴル国ウランバートル市)   関連資料は下記からダウンロードしていただけます。   発表要旨集   プログラム   日本語案内状   英語案内状
  • 2009.04.20

    第10回共有型成長セミナー「労働移住と貧困:国内や海外におけるパターン」ご案内

    日 時: 2009年5月7日に午後1時半から5時半まで   会 場: フィリピンのアジア太平洋大学(UA&P)   言 語: 英語   【概要】   今回は、「労働移住と貧困:国内や海外におけるパターン」がテーマで、今年後半に開催する学会の準備作業のため、東京大学の中西徹教授との共同研究として開催します。   【プログラム】   ・開会挨拶:Dr. Bernie Villegas (UA&P運営委員長) ・報告1:「海外労働移住の概観」Prof. Bien Nito (School of Economics, UA&P) ・報告2:「フィリピン人の海外移住史」Dr. Trining Osteria (Yuchengco Center, De La Salle University, センター長) ・報告3:「国内の労働移住と貧困」中西徹教授(東京大学) ・オープン・フォーラム及び総括と政策提案:進行:Dr. Max Maquito(SGRA研究員) ・閉会の挨拶:Dr. Peter Lee U(School of Economics、UA&P、学部長)   言語は英語ですが、ご関心のある方はどなたでも大歓迎です。
  • 2009.03.03

    第8回日韓アジア未来フォーラム・第34回SGRAフォーラム「日韓の東アジア地域構想と中国観」報告

    2009年2月21日(土)、東京国際フォーラムで「日韓の東アジア地域構想と中国観」をテーマに第8回日韓アジア未来フォーラムが開催された。前回のグアムフォーラムにおいて「東アジア協力」と「ソフトパワー」というキー概念を念頭に置きながら、中国に対する見方の日韓の差に注目し、今後具体的に検討していくことにしたのを受けて、今回のフォーラムでは、日韓の東アジア地域構想について比較の視座から考えてみることにし、その大きなポイントとなる中国観の日韓における相違などについて検討する機会を設けた。   フォーラムでは、今西淳子(いまにし・じゅんこ)SGRA代表と韓国未来人力研究院の李鎮奎(イ・ジンギュ)院長による開会の挨拶に続き、4人のスピーカーによる研究発表が行われた。まず 名古屋大学の平川均(ひらかわ・ひとし)氏は20世紀から現代までの日本における主なアジア主義について思想と実態とに分けてその特徴を明らかにした上で、昨今の東アジア共同体ブームに関連して、現在が歴史の再現ではないことを力説するとともに、日本の東アジア共同体構想に対する立場は米国配慮と中国牽制であるとした。延世大学の孫洌(ソン・ヨル)氏は、韓国の地域主義について「東北アジア時代構想」と「東北アジアバランサー論」を主な事例として取り上げながら、地域の範囲、性格、アイデンティティ、方法論の側面から日本や中国のそれとの違いを明らかにした。そしてミドルパワーとしての韓国のバランサーとしての役割を強調した。東京大学の川島真(かわしま・しん)氏は「日本人の中国観」について、これまでの日本の対中観を歴史的な経緯や、近30年間の調査結果、そして昨年の状況などについて概括した。とりわけ、東洋/日本/西洋という三分法の下にあった日本の中国観は戦後日本にも継承され、中国があらゆる分野で存在を強めたことで、日本内部で拒否反応が起きてきたと主張した。また、現在も、日本では中国についての否定的な言説が支配的であるが、中国そのものへの不信感は政治や歴史認識問題ではなく、しだいに生活そのものに脅威を与える存在として中国が認識されつつあるとした。そして最後の発表者としてソウル大学の金湘培(キム・サンベ)氏は「韓国人の中国観」について発表を行った。21世紀東アジアにおける世界政治はソフトパワー(soft power)や国民国家の変換 (transformation)に注目すべきであるとした上で、こうした文脈から理解される中国の可能性とその限界とは、取りも直さず技術・情報・知識・文化(これらをまとめて「知識」)と「ネットワーク」という21世紀の世界政治における二つのキーワードにいかにうまく適応できるかを基準にしながら評価できるものであると主張した。   パネル討論では、SGRA研究員であり北陸大学の李鋼哲(り・こうてつ)氏は、「中国からみた日韓の中国観 」について、対中国認識における日韓両国と国際社会の間の乖離、対日本認識における中韓両国と国際社会の乖離、中国観と現実の中国の間にみられる乖離に触れつつ、「求大同、存小異」の姿勢を力説した。このほかにもパネルやフロアーからたくさんの意見や質問などが寄せられたが、時間の制約上議論は惜しくも懇親会の場に持ち越された。   今回のフォーラムは67名の参加者を得て大盛会に終えることができたが、これには同時通訳という「重荷」をボランティアーで快く引き受けてくれたSGRA会員の方々の存在が大きかった。この場を借りて感謝の意を表したい。例年だと、フォーラム終了後は「狂乱」の飲み会に変わってしまうことが多かったが、今年はグローバル金融危機のしわ寄せもあって静かな夜に終わったような感じがする。来年を期待してみたい。   *フォーラム当日の写真を下記よりご覧ください。    足立撮影    フェン撮影   -------------------------- <金 雄熙(キム・ウンヒ)☆ Kim Woonghee> ソウル大学外交学科卒業。筑波大学大学院国際政治経済学研究科より修士・博士。論文は「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。韓国電子通信研究院を経て、現在、仁荷大学国際通商学部副教授。未来人力研究院とSGRA双方の研究員として日韓アジア未来フォーラムを推進している。 -------------------------   2009年3月3日配信
  • 2009.01.23

    レポート第46号「水田から油田へ」

    SGRAレポート第46号   第31回フォーラム講演録 「水田から油田へ:日本のエネルギー供給、食糧安全と地域の活性化」 2009年1月10日発行   <もくじ>   【基調講演】東城 清秀(東京農工大農学部准教授) 「エネルギー、環境、農業の融合を考える:バイオマス利用とエネルギー自給・地域活性化」   【報告】田村 啓二(福岡県築上町産業課資源循環係) 「福岡県築上町の米エタノール化地域モデル:水田を油田にするための事業構想」   【パネルディスカッション】 進行:李 海峰(北九州市立大学国際環境工学部特任准教授、SGRA研究員) コメンテーター:外岡 豊(埼玉大学経済学部教授、SGRA顧問) パネリスト:発表者  
  • 2009.01.08

    第8回日韓アジア未来フォーラム・第34回SGRAフォーラム 「日韓の東アジア地域構想と中国観」ご案内

    下記の通り第8回日韓アジア未来フォーラムを開催します。参加ご希望の方は、ファックス(03-3943-1512)またはemail([email protected])でSGRA事務局宛ご連絡ください。当日参加も受付けますが、準備の都合上、できるだけ事前にお知らせくださいますようお願いします。   日 時:2009年2月21日(土)午後2時30分~5時30分 その後懇親会   会 場:東京国際フォーラム ガラス棟G409会議室   参加費:無料 (フォーラム後の懇親会は、賛助会員・特別会員1000円・非会員3000円)   申込み・問合せ:SGRA事務局 Email: [email protected] TEL: 03-3943-7612, FAX: 03-3943-1512   【フォーラムの趣旨】   東アジア地域構想と相互依存は非常に複雑である。本フォーラムでは、主に1990年代後半以降の日韓の東アジア地域構想について比較の視座から考えてみることにする。また、その大きなポイントとなる中国観の日韓における相違などについて検討する。それぞれのテーマについて主題発表をお願いし、その後、パネルディスカッション、自由討論を行う。日韓同時通訳つき。   【プログラム】 詳細はここからご覧ください   ● 「日本の東アジア地域構想-歴史と現在-」   平川 均 (名古屋大学経済学部教授、SGRA顧問)   ● 「韓国の東アジア地域構想-韓国の地域主義-」   孫 洌 (延世大学国際学大学院副教授)   ● 「日本(人)の中国観」   川島 真 (東京大学大学院総合文化研究科准教授)   ● 「韓国(人)の中国観」   金 湘培 (ソウル大学外交学科副教授)   ● パネルディスカッション     コメント「中国からみた日韓の中国観」」     李 鋼哲(北陸大学未来創造学部教授、SGRA研究員)  
  • 2008.12.19

    第33回SGRAフォーラム『東アジアの経済統合が格差を縮めるか』報告

    SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームが担当する第33回SGRAフォーラムは、2008年12月6日(土)の午後、東京国際フォーラムガラス棟G402会議室にて開催された。今回のテーマは「東アジアの経済統合が格差を縮めるか」であった。フォーラムは、研究チームのサブチーフの李鋼哲さんの司会で始まり、東茂樹先生(西南学院大学経済学部教授)の基調講演の後、SGRA顧問の平川均先生(名古屋大学経済学研究科教授)、ド・マン・ホーン先生(桜美林大学経済経営学系講師)、そして研究チームのチーフを務めるマキトの3名による感想と問題提起が行われ、休憩を挟んでパネルディスカッションというプログラムであった。    基調講演で東先生は、最初に、SGRAがめざす「誰にでも分かるように」という趣旨に則って、 FTA(Free Trade Agreement自由貿易協定)についての基礎的な説明をしてくださった。主流な経済学では、FTAは貿易を促進し、企業の生産性に対してあらゆる便益を与えるとしている。WTO(World Trade Organization世界貿易機関)もこのように考えているので、積極的に貿易の自由化を押し進めてきたが、いわゆるドーハ開発ラウンドという、貿易障害をとり除くための交渉にはいまだに決着がついていない。そこで、行き詰まった状況を打開するために、WTOが条件付きで容認せざるを得ないFTAが盛んに提携されている。さらに、「物」の国境を越えた売買だけではなく、サービスや貿易関係の取り決めまでを取り入れたEPA(Economic Partnership Agreement 経済連携協定)まで展開しつつある。    WTOが進めている多国間自由貿易と違って、FTA(EPAを含む、以下同じ)は二カ国或いは地域間の交渉になる。東先生はご専門の政治経済学の視点からFTAの交渉過程を検討し、国家間の戦略的なやり取りとして捉えた。つまり、2カ国間或いは地域間でFTAが結ばれることにより、第3国/地域が不利な立場に落とされる可能性があるのでFTAの獲得のラッシュが発生し、複雑に絡み合う貿易協定が生み出されている。その一つのデメリットとして、生産地の規制が取り上げられた。あるFTAの輸出国にとっての便益を得るためには、その輸出した製品の価値の一定の割合はその国で実際に生産されたことを証明する義務があり、その手続きにかかるコストが高くなるからである。東先生は、最後に、日本の自由貿易の交渉の仕方について触れ、東アジアと共生できるような新しい交渉戦略の構築を呼びかけた。   「感想と問題提起」のコーナーでは、3人のコメンテーターが東先生の論文を参考に、FTA・EPAの日本の交渉を中心に感想と問題提起を述べた。まず平川先生は東先生の分析方法が新しい視点からの分析だと評価し、JETROの最新の白書を利用しながら、交渉の非妥協的態度、日本の貿易自由化率の低さ、情報不開示と相互不信(フィリピンへの有害廃棄物の輸出を事例として)の3つの問題点をとりあげた。そして、このような態度で日本が東アジアと結ぶFTAは、果たしてアジア共同体を導いていけるのか、という疑問を投げかけた。   次に、東南アジアの研究者を代表して、ホーンさん(ベトナム)とマキト(フィリピン)が、引き続き、自由貿易に関しての意見を述べた。ホーンさんは、ベトナムにとっては、現段階まで、一部を除き、市場の開放による経済的な効果は大きくないと主張した。特に、FTAの交渉を、先進国同士の場合、企業と企業の戦いだが、先進国と途上国の場合、先進国の企業と途上国の政府との戦いとみなし、結局、現状の交渉し方のままだと、FTAの締結によるデメリット(被害)を受けるのは途上国の民間企業であるから、これを克復するため、FTAの交渉と同時に、先進国から途上国の民間セクターの振興への協力と支援が必要だと主張した。     マキトは日本の通産省とJETROの報告書を利用しながら、東アジアにおける国際分業という日本の構想と日本自身のそれに対する理解とのギャップ、構想と現場とのギャップ、というふたつのギャップの存在により、自由貿易の交渉が余計に困難になっていることを指摘した。そして、東アジアの経済統合が格差を縮めるために、日本の独自の構想を生かした「STOP 格差!」を呼びかけた。   10分間の休憩を挟んで、4人によるパネルディスカッションが行われた。進行役の平川先生は会場からいただいた質問を整理して、3人の研究者に振り分けた。取り上げられた質問は、格差の定義、格差の解決の可能性、日本の独自性を巡るものなどがあった。詳しくは来年の春に発行予定のSGRAレポートをご期待ください。    当日の写真を下記からご覧いただけます。 足立撮影 ナポレオン撮影   -------------------------- <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA運営委員、SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームチーフ。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師。 --------------------------
  • 2008.12.06

    第33回SGRAフォーラム「東アジアの経済統合が格差を縮めるか」ご案内

    下記の通り第33回SGRAフォーラムを開催します。参加ご希望の方は、ファックスまたはemailでSGRA事務局宛ご連絡ください。当日参加も受付けますが、準備の都合上、できるだけ事前にお知らせくださいますようお願いします。よろしければ下段の申込欄をお使いください。SGRAフォーラムはどなたにも参加いただけますので、ご関心をお持ちの皆様にご宣伝いただきますようお願い申し上げます。   日時:2008年12月6日(土)  午後2時30分~5時30分 その後懇親会   会場: 東京国際フォーラム ガラス棟G402会議室     参加費:無料 (フォーラム後の懇親会は、賛助会員・特別会員1000円・非会員3000円)   申込み・問合せ:SGRA事務局 Email: [email protected]   TEL: 03-3943-7612,   FAX: 03-3943-1512   【フォーラムの趣旨】   WTOが進めている多国間自由貿易交渉が行き詰まり、2カ国間自由貿易協定(FTA)への政策転換の動きが本格化している。しかし、これらの協定が複雑に絡み合い自由化を妨げる、いわゆる「スパゲッティ・ボール現象」が懸念される。今後、FTAはどの方向に進むべきか、その課題と留意点を考察し、東アジアの発展を展望したい。   当フォーラムでは以下の議論を提起したい。SGRA独自の研究調査によると、東南アジア域内における産業構造が変わり、国家間の格差が広がっている。しかも、国家間の格差が国内格差にも連動するというダブル・パンチ現象が引き起こされている。この背景には日本(政府+企業)の東南アジア戦略も大きく関わっている。   1993年に発行された世界銀行の「東アジア奇跡」では日本を含む東アジア経済の目覚しい発展に注目した。当研究チームも、成長と分配が同時に進む発展モデルを「共有型成長」(SHARED GROWTH)と名づけた。いうまでもなく、この発展は20世紀後半の日本と東アジアの経験であり、その成長における日本の役割は極めて重要であった。経済協力を通じ成長と分配が共に促進される発展を東アジアで再現するために、何が必要か。   東アジア地域の経済統合は「共有型成長」を再現し、国際、国内における格差を縮めることができるのか。このフォーラムを通して、東アジアの経済統合への様々なビジョンを提示し、域内FTA戦略の形成に少しでも貢献できれば幸いである。   【プログラム】 詳細はここからご覧ください   ● 基調講演:東 茂樹(西南学院大学経済学部教授) 「FTAで経済関係が深まる日本と東南アジア」   日本はここ数年、二国間あるいは地域の自由貿易協定(FTA)を推進する戦略をとっている。FTAの締結により海外から、熱帯果実や食肉、魚介類など農水産物の輸入が増加し、看護師や介護福祉士など日本で働く外国人も増えることになる。また日本から、電機や鉄鋼、自動車製品など工業製品の輸出が増加して、日本企業の海外投資もさらなる拡大に向かおう。FTA締結相手国との経済面における相互依存関係は深まって、東アジア地域共同体構築への一歩となるかもしれない。 FTAは締結にともない、必ず利害関係者を生じさせることに注意を払う必要がある。貿易の自由化により競争が進めば、比較優位のある産業は輸出を拡大する一方で、比較優位のない産業は淘汰あるいは事業転換に追い込まれる。また消費者にとって、良質な輸入品・サービスの価格低下は、生活に良い影響をもたらす。しかし発展途上国では、製薬特許などの知的財産権保護により、消費者の負担が増す場合もある。FTA実施により影響を被る関係者に対し政府は補償措置を導入して、格差の拡大を防ぐことが喫緊の課題となっている。   ● コメント・パネルディスカッション   ド・マン・ホーン(桜美林大学経済経営学系講師)、ベトナム出身 フェルディナンド・C・マキト(SGRA研究チーフ)、フィリピン出身 平川 均(名古屋大学経済学研究科教授、SGRA顧問)
  • 2008.10.03

    第3回SGRAチャイナフォーラム「一燈やがて万燈となる如く」報告

    講演:工藤正司(アジア学生文化協会常務理事) 「一燈やがて万燈となる如く~アジアの留学生と生活を共にした協会の50年~」 中国における第3回目のフォーラムは、9月26日(金)に延辺大学総合棟七階報告庁にて、9月28日(日)に北京大学外国語学院民主楼にて開催されました。2006年に北京大学で開催したパネルディスカッション「若者の未来と日本語」、2007年に北京大学と新疆大学で開催した緑の地球ネットワーク高見邦夫事務局長のご講演「黄土高原緑化協力の15年:無理解と失敗から相互理解と信頼へ」に引き続き第3回目です。今回は、50年にわたり東京で留学生の受け入れ態勢の改善に取り組んできたアジア学生文化協会(ABK)の工藤正司常務理事に、協会の創設者穂積五一氏の思想とABKを通して見た日本とアジアのつながり、そして民間人による活動の意義をお話しいただきました。   工藤さんは、「お国の発展ぶりに讃辞を送ることからお話を始めることになるのですが、私の本当の心を申しますと、それよりも前に、私の国・日本が過去に皆様のお国に行ったことをお詫びさせて戴きたい思いです」、「今日私がお話しするのも、私たちの協会や創設者のことを、誇るためでも、宣伝するためでもありません。敗戦した国で日本人は何を考え、どのように行動したか、そして、現在はどう動いているかを、1つの例として、私たちの協会とその創設者の人間を通してのぞいてみること、そして、それを通じて『公益事業を民間が行うこと』の意味を皆さんと一緒に考えてみて、もし、皆様にも参考になることがあれば、活用していただきたいということです」と講演を始め、戦前の日本に対する反省に立って「新しい戦後日本」を構想して設立されたABKと創設者穂積五一氏の思想、その後の協会の展開と工藤さんご自身の関わりを、パワーポイントで写真を映しながら話されました。そして、最後に、「日本に居る留学生たちは、今、いじめにあうのを恐れて、自由にものを言えないのではないか」「移民政策が定かでないのに、日本の労働力不足を補うために留学生の受け入れを急増させようという留学生30万人計画は危ないのではないか」「日本も中国も短絡的に相手を見ることが多すぎるのではないか。お互いの現在の状況を新しい姿勢で、もっとよく研究する必要があるのではないか」と問題提起し、「具体的提案があれば、私はABKが現在進めている改革に、文化交流の一環として、組入れることを真剣に検討する用意があると申し上げます」と結ばれました。   延辺大学フォーラムの参加者は、主に国際政治学を専攻する学生約150名で、日本と中国の教育や学生の違いについて等の質問がありました。北京大学フォーラムの参加者は、日本語学習者を中心とした北京大学、北京第二外語大学、北京語言大学、北京人民大学等の学生、日本留学中にABKや太田記念館に滞在した方々、渥美財団の渥美理事長他関係者など約80名でしたが、大学で日本語を勉強する学生さんは皆さんとても流暢な日本語で質問したので驚きました。ふたつのフォーラムを実現してくださった延辺大学の金香海さんと北京大学の孫建軍さんに心から感謝いたします。また、参加してくださったSGRA会員のみなさん、呉東鎬さん、金煕さん、張紹敏さん、朴貞姫さん、馮凱さん、宋剛さん、ありがとうございました。   (今西淳子)     ◆ 延辺大学の金香海さんより:   延辺大学のフォーラムでは、講演の後も、学生達の興味深い質問に対し、工籐さんは熱心に回答してくださり、会場は一貫して熱い雰囲気でした。その余蘊が去らず、30名の参加者達は、日本国際交流基金の援助で出来たばかりの「延辺大学日中ふれ合いの場」で立食パーティーを開き、ワインを交えながら、再び工籐さんから日中学生気質の違いや日本語教育についてのお話を伺い、夜が過ぎるのを忘れました。このように大きな共鳴を引き起こしたのは、やはり工籐さんの講演の内容とそのすばらしい人格のためであったと思います。 日本とアジアは長い文明交流の歴史がありました。日本は明治維新を通じて西洋と肩を並べる近代国民国家になりましたが、その過程でアジアを否定して西洋の価値観を取り入れて“空想的帝国”をつくろうとしたが失敗しました。この後、またアメリカの価値観を取り入れ、先進国になったけれども、ここにはいろいろな歪みが生じました。これがまさに、ABK創設者の穂積先生が、日本社会の疾病としたもので、敗戦直後から「アジアのために」アジアの留学生を支援してきた理由です。工藤さんは、日本の再生、そしてアジアの価値の回復と創造は、学生達の草の根の交流があって初めて、“一燈やがて万燈となるごとく”実現できると仰いました。大変優しく、すばらしい人格の持ち主で、文明に対する深い理解を持っていらっしゃる工藤さんを、私は非常に尊敬しています。     ◆ 北京大学の孫建軍さんより:   「留学」について深く考えさせられるお話でした。外国の進んだ技術や裕福な生活に憧れ、または外国語の習得や学術研究に役立たせるために、留学したい人が多いものです。多くの人の場合、それは夢だけに終わってしまいますが、僅かながら留学を実現させた人もいます。自分を中心に生活を考える留学生と違い、工藤さんのいらっしゃるABKは留学環境を整えるために50年奮闘して来られました。日本国内政治の動きや国際関係の変化に翻弄されながらも、留学生のためという信念を曲げることがありませんでした。ABKのような組織は、アジアの学生にとってどれだけ心強い存在でしょう。ABKにお世話になった元中国人留学生が、会場にたくさん集まったのもABKの強い求心力の表れに違いありません。 講演を聞きながら考えました。心にゆとりのある人でなければNPO活動は成立しません。留学がきっかけで、自分はNPOの存在を知り、関わるようになりました。精神的に豊かな方のそばにいるだけで励まされます。もっと精神的に成長しなければならないと切実に感じました。     ◆ フォーラムの写真は下記URLよりご覧いただけます。   延辺フォーラム   北京フォーラム