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2014.06.13
第4回日台アジア未来フォーラム報告(その1)
午後の研究発表は、「古典書籍としてのメディア」「メディアによる女性の表象」「メディアと言語学習」「メディアとイメージの形成」「文学作品としてのメディア」「メディアによる文化の伝播」という6つのセッションで行われた。
フォーラムに先立ち、世界中の研究者や専門家を対象に論文を公募した。応募数は予想より多く、大変な盛況であった。国籍から見ても、台湾、日本、韓国、スウェーデンなどがあって、まさにグローバルな会合であった。発表題目も古典研究から近現代研究まで、そしてオーソドックスな研究から実験的な研究までさまざまである。紙幅の都合上、すべての発表は紹介することができないが、いくつか例を挙げておこう。
(1)「日本古典籍のトランスナショナル―国立台湾大学図書館特蔵組の試み―」(亀井森・鹿児島大学准教授)は、地道な書誌調査で、デジタルでの越境ではなく古典籍のトランスナショナルという観点から文化の交流を考える。
(2)「草双紙を通って大衆化する異文化のエキゾチシズム」(康志賢・韓国全南大学校教授)は、草双紙を通して、江戸時代の異文化交流の実態を究明する。
(3)「なぜ傷ついた日本人は北へ向かうのか?-メディアが形成した東北日本のイメージと東日本大震災-」(山本陽史・山形大学教授)は、日本文化における東北地方のイメージの形成と変容を和歌・俳諧・小説・流行歌・映画・演劇・テレビなどの文学・芸術作品を題材にしつつ、東日本大震災を経験した現在、メディアが越境することによっていかに変化していくのかを研究する。
(4)「発信する崔承喜の「舞踊写真」、越境する日本帝国文化―戦前における崔承喜の「舞踊写真」を手がかりに―」(李賢晙・小樽商科大学准教授)は、崔承喜の舞踊写真が帝国文化を宣伝するものであると提示し、またこれらの写真の持つ意味合いを追究する。
(5)「The Documentary film in Imperial Japan, before the 1937 China Incident」(ノルドストロム・ヨハン・早稲田大学博士課程)は、日中戦争期、ドキュメンタリー映画がいかにプロパガンダの材料として使われていたかを論じる。
(6)「Ex-formation Seoul Tokyoにおける日韓の都市表現分析」(朴炫貞・映像作家)は、情報を伝えるinformationに対して、Ex-formationという概念を提出したデザイン教育論である。ソウルの学生はソウルを、東京の学生は東京をエクスフォメーションすることで、見慣れている自分が住む都市を改めてみることを試みた。
(7)「溝口健二『雨月物語』と上田秋成『雨月物語』の比較研究」(梁蘊嫻・元智大学助理教授)は、映画と文学のはざまを論じる。
(8)「漢字字形の知識と選択—台湾日本語学習者の場合―」(高田智和氏・日本国立国語研究所准教授)及び「漢字メディアと日本語学習」(林立萍氏・台湾大学准教授)は、東アジアに共通した漢字学習の問題を取り上げる。
(9)「日本映画の台湾輸出の実態と双方の交流活動について」(蔡宜靜・康寧大学准教授)は、日本と台湾の交流に着目する。
発表題目は以上のとおり、実にバラエティに富んでいた。それだけでなく、コメンテーターもさまざまな分野の専門家、たとえば、日本語文学文化専攻、建築学、政治思想学などの研究者が勢揃いした。各領域の専門家が活発に意見を交換し、実に学際的な会議であった。今回、従来の日本語文学会研究分野の枠組みを破って、メディアという共通テーマによって各分野の研究を繋げることができたのは、画期的な成果であるといえよう。
研究発表会の後、フォーラムの締めくくりとして座談会が行われた。今西淳子常務理事が座長を務め、講演者の3名の先生方(延広真治先生、横山詔一先生、佐藤卓己先生)と台湾大学の3名の先生方(陳明姿先生、徐興慶先生、辻本雅史先生)がパネリストとして出席した。
まず、今西理事が、フォーラムの全体について総括的なコメントをし、そして基調講演について感想を述べた。延広先生の講演については、寅さんが大好きな韓国人奨学生のエピソードを例に挙げながら、「男はつらいよ」にトランスナショナルな魅力があるのは、歴史のバックグランドや深さがあるからだと感想を述べた。また、横山詔一先生の講演については、今後、日本人や台湾人における異体字の好みをデーター処理していけば、面白い問題を発見できるかもしれないとコメントした。そして、佐藤卓己先生の講演については、ラジオの普及がきっかけで、「輿論」と「世論」の意味は変わっていったが、インターネットがますます発達した今日における「輿論」と「世論」の行方を観察していきたいと話した。
質疑応答の時間に、フロアから、中央研究員の副研究員・林泉忠氏から、「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流」というフォーラムを台湾で開催するに当たって、台湾の役割とは何か、という鋭い質問があった。この質問はより議論を活発にした。
台湾大学の辻本雅史先生は準備委員会の立場から、フォーラムの趣旨について語った。「メディア」を主題にすれば、いろいろな研究をフォローできるからこのテーマを薦めたという企画当初の状況を話した。しかしその一方、果たして発表者が全体のテーマをどれだけ意識してくれるのかと心配していたことも打明けた。結果的には、発表者が皆「メディア」を取り入れていることから、既存の学問領域、すなわち大学の学科に分類されるような枠を超えて、横断的に議論する場が徐々に作られていったことを実感したと述べた。最後に、林泉忠氏の質問に対しては、台湾はあらゆる近代史の問題にかかわっているため、「トランスナショナルな文化の伝播・交流」を考えるのに、絶好の位置にあると説明し、知を伝達する一つの拠点として、「メディアとしての台湾」というテーマは成り立つのではないかと先見の目も持って提案した。
陳明姿先生は、いかに異なった分野の研究者を集め、有効的に交流させるか、というのがこのフォーラムの目的であり、また、それによって、台湾の研究者と大学院生たちに新たな刺激を与えることが、台湾でシンポジウムを開催する意義になると指摘した。
「台湾ならでは」について、今西理事も、台湾の特徴といえば、まず日本語能力に感心する。これだけの規模のシンポジウムを日本語でできるというのは、台湾以外はない。日本はもっと台湾を大事にしなければならない。また、SGRAは学際的な研究を目指しているが、それを実現するのは非常に難しい。しかし、台湾大学の先生方はいつも一緒に真剣に考えてくださる。こうして応えてくださるというダイナミズムがまた台湾らしい、との感想を述べた。
最後に、徐興慶先生がこれまでの議論を次のように総括した。①若手研究者の育成立場から、19本の発表の中に院生の発表が4本あったというのは嬉しい。②20年間で241名の奨学生を育てた渥美財団は非常に先見の明がある。育成した奨学生たちの力添えがあったからこそ、去年タイのバンコクで開かれたアジア未来会議のような大規模の海外会合を開催することができた。また、若い研究者の課題を未来という大きなテーマで結び付けた渥美財団のネットワークができつつあることに感銘を受けている。③学際的な研究を推進する渥美財団の方針に同感であり、台湾大学でも人文科学と社会科学との対話を進めている。④この十数年間、台湾の特色ある日本研究を模索しながら考えてきたが、その成果として、これまで計14冊の『日本学叢書』を出版することができた。台湾でしか取り上げられない課題があるが、台湾はそういう議論の場を提供する役割がある。徐先生は、台湾の日本学研究への強い使命感を示して、座談会を締めくくった。
同日夜、台湾大学の近くにあるレストラン水源会館で懇親会が開催された。参加者60名を超える大盛況で、皆、美食と美禄を堪能しながら、歓談した。司会を務めた張桂娥さん(東呉大学助理教授)は、抜群のユーモアのセンスで、会場の雰囲気を一段と盛り上げた。その調子に乗って、山本陽史先生は「津軽海峡冬景色」を熱唱し、引き続き川瀬健一先生も台湾民謡「雨夜花」をハーモニカで演奏した。最後に、フォーラムの企画者である私が皆様に感謝の言葉を申し上げ、一日目のプログラムは円満に終了した。
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<梁蘊嫻(リョウ・ウンカン)Liang Yun-hsien>
2010年10月東京大学大学院総合文化研究科博士号取得。博士論文のテーマは「江戸文学における『三国志演義の受容』-義概念及び挿絵の世界を中心に―」である。現在、元智大学応用外国語学科の助理教授を務めている。
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2014年8月20日配信
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2014.06.13
第4回日台アジア未来フォーラムが6月13日、14日の2日間にわたって、台湾大学及び元智大学で開催された。グローバル化が急速に発展した今日、メディアの発展が進むことで、文化の交流が盛んになり、文化の国境は消えつつある。この現象に着目しつつ、フォーラムのテーマを「東アジアにおけるトランスナショナルな文化の伝播・交流―文学・思想・言語―」とした。「メディア」は英語のmediaの訳語であり、新聞・雑誌・テレビ・ラジオなどの近現代以降にできあがった媒体として捉えられることが多い。ここではより広義的な意味を取っている。もとよりメディアは、時代によって異なり、メディアの相違が文化のあり方に関わってくる。
今回のフォーラムは、台湾・日本を含めた東アジアにおける文化交流・伝播の様態に迫り、異文化がどのようにメディアを通じて、どのように影響し合い、そしてどのような新しい文化が形成されるかを考えるものである。
1日目は台湾大学にて「文学とメディア」「言語とメディア」「思想とメディア」の3分野の基調講演、また19本の研究発表を行った。6月13日午前、台湾大学の文学院講演ホールで開幕式が行われた。渥美財団今西淳子常務理事、交流協会文化室福増伸一主任、台湾日本研究学会何瑞藤理事長、台湾大学日本語学科陳明姿主任のご挨拶によって、フォーラムが始まった。
1本目の基調講演では、東京大学名誉教授延広真治先生に「「男はつらいよ」を江戸から見れば―第五作「望郷篇」の創作技法―」というタイトルでお話をいただいた。山田洋次監督「男はつらいよ」は48連作に及ぶ喜劇で、ギネスブックにも登録された。48作中、監督自ら客がよく笑うと思われたのが第5作。延広先生は、この「望郷篇」の創作技法を江戸時代の作品に求められると指摘した。具体的に、江戸時代とかかわりの深い作品、たとえば落語「甲府い」・「近日息子」(原話:手まハし)・「粗忽長屋」(袈裟切にあぶなひ事)・「湯屋番」・「半分垢」(原話:駿河の客)、講談「田宮坊太郎」や曲亭馬琴『南総里見八犬伝』などを綿密に考察し、それらの作品と「望郷篇」の関係について詳しく説明した。
延広先生の講演を通して、日本人にとっての国民的映画「男はつらいよ」のユーモアは、監督の古典作品に対する造詣によるものであるとのことがよく理解できた。笑いは日本文化の中においては、非常に特徴的で大切なものである。落語の笑いは馬鹿馬鹿しくて、理屈がいらない。「男はつらいよ」が長く続けられたのは、落語的なユーモアセンスが染み付いているからではないかとつくづく思った。落語の笑いは外国人に理解されにくい。なぜならば言語の壁があるからだ。しかし、日本の笑いはドラマというメディアを通して伝えれば、外国人に受け入れられやすくなるであろう。
続いて、国立国語研究所横山詔一教授が「電子メディアの漢字と東アジアの文字生活」という演題で講演した。横山先生は、(1)「漢字をイメージする」、(2)「漢字を打つ」、(3)「文字の生態系モデル:文字と社会と人間」、という3つの要点を話した。横山先生はまず東アジアで共通して観察される「空書(くうしょ)行動」を紹介した。(空書行動とは、文字の形をイメージするとき、指先で空中に文字を書くような動作を言う)。この現象から、漢字文化圏の人は、漢字や英単語の形を思い浮かべるときに、視覚イメージだけではなく、体・肉体の動作(action)という運動感覚成分もあわせて活用しているということを指摘し、漢字は東アジアの人々の肉体感覚とつながっているメディアだという見解を提出した。
また、ネットツールの普及により、文字をキーボードで打つことが当たり前の時代になり、漢字は手書きよりも、パソコンの変化候補から「見て選択すれば書ける」時代になったとともに、字体の使用にも変化がみられたということを指摘した。この現象を(1)異体字の好み、(2)台湾の日本語学習者が日本人にメールを書く場面、との両方面から考察した。これらの研究課題については、伝統的な語学研究法ではなく、「文字の生態系モデル」に基づいて分析した。横山先生はいくつか興味深い研究成果を提示したが、その中の一つを次に挙げておこう。台湾の日本語学習者がメールを書く時には、読み手の日本人が読みやすい表記、あるいは違和感を持たない表記を意識的・無意識的に選択するという傾向があるという。「文字と社会と人間は一体であり、切っても切れない関係にある」ということだが、インターネットが発達すればするほど、この傾向はますます強くなるといえよう。
横山先生の講演は、電子メディア(ネットメディア)の発達によって、東アジアにおける文字文化の国境が消えつつある実態に着目し、東アジアの文字生活が「漢字」という記号・媒体を通じて今後どのように変化していくのかを考える手がかりとなった。
3本目の講演は、京都大学佐藤卓己准教授の「輿論と世論の複眼的思考―東アジアの理性的対話にむけて」というテーマであった。佐藤先生は、マスメディアの普及にもたらされた「輿論」と「世論」の混同という現象には、知識人がどのような姿勢でいるべきかについて、次のような見解を述べた。
「輿論」と「世論」は、戦前の日本ではそれぞれ「ヨロン」と「セイロン・セロン」と読まれていた。意味上においても、「輿論」は「public opinion」、「世論」は「popular sentiments」と区別されていた。しかし今日に至って、「輿論」という言葉が使われなくなった一方、「世論」を「ヨロン」と読む習慣が定着し、「輿論」の意味と混同する例が見られるようになった。これは歴史の経緯から見れば、戦後1946年に「輿」という字が制限漢字に指定された政策と関係しているが、1920年代の「政治の大衆化」とともに生じた「輿論の世論化」という現象によるものでもあった。「輿論の世論化」はさらに1943年5月情報局の「輿論動向並びに宣伝媒体利用状況」調査結果が示すように、戦時下の国民精神総動員で加速化した。「輿論の世論化」は理性が感性に、知識人の輿論が大衆の世論に飲み込まれていく過程であった。日本ではこうした同調圧力への対応を「空気を読む」と表現するが、この「空気」、すなわち誰も責任をもたない雰囲気である「世論」の暴走は現在ますます警戒する必要がある。インターネットが普及した情報社会では、空気(世論)の中で、個人が担う意見(輿論)はますます見えなくなっている。
こうした状況に対しては、「輿論」と「世論」の区別を回復し、さらに「世論の輿論化」を目指すことの必要があると佐藤先生は指摘した。また、「世論の輿論化」とは、知識人が大衆の感情にどのような言葉を与え、対話可能な枠組を創っていくかということだと述べている。世論は即時的な感情的反応の産物であり、討議という時間を経て熟成されるのが輿論である。インターネットのように欲望を即時的に満たすメディアによって、現在ではますます「輿論の世論化」が加速化している。こうした現状に対しては、佐藤先生は、インターネット中心の今日だからこそ、伝統的な活字メディアによる人文知の重要性はますます高まると強く主張した。また、「世論の輿論化」の実践は、「トランスナショナルな文化の伝播・交流」として始まるべきだということが講演の結びとなった。
以上の3本の講演は、それぞれ文学研究、言語学研究、思想研究に大きな示唆を与えているものであった。午後は、分科研究発表が行なわれたが、その詳細は引き続き報告する。(つづく)
フォーラムの写真 ……………………………… <梁蘊嫻(リョウ・ウンカン)Liang Yun-hsien> 2010年10月東京大学大学院総合文化研究科博士号取得。博士論文のテーマは「江戸文学における『三国志演義の受容』-義概念及び挿絵の世界を中心に―」である。現在、元智大学応用外国語学科の助理教授を務めている。 ………………………………
2014年8月13日配信
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2014.05.31
下記のとおり、第47回SGRAフォーラムを開催いたしますので奮ってご参加ください。SGRAフォーラムはどなたにもご参加いただけますのでご関心のある方々にご宣伝ください。
テーマ:「科学技術とリスク社会」~福島第一原発事故から考える科学技術と倫理~
日時 :2014年5月31日(土)午後1時30分~4時30分
会場 :東京国際フォーラム ガラス棟 G610会議室
参加費:フォーラム/無料 懇親会/正会員1000円、メール会員・一般2000円
お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局宛に事前にお名前、ご所属、連絡先をご記入の上、参加申込みをしてください。
SGRA事務局(
[email protected] Tel: 03-3943-7612 )
◇プログラムの詳細はここをご覧ください。
フォーラムの概要:
3・11/福島原発事故以降、「科学技術の限界」あるいは「専門家への信頼の危機」が語られてきました。今回のSGRAフォーラムでは、島薗進先生(上智大学神学部教授-宗教学/応用倫理)、平川秀幸先生(大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授-科学技術社会論)をお招きして、福島第一原発事故を事例として「科学技術と倫理」、「科学技術とリスク社会」、「科学なしでは答えられないが、科学だけでは答えられない問題群」などをテーマとしてオープンディスカッションを行います。
①理工系科学者のみならず社会系科学者、人文系科学者の役割と倫理
②科学者と市民を結ぶ科学技術コミュニケーションの可能性
〔トピック〕
福島第一原発事故から考える「科学技術の限界」、「専門家への信頼の危機」
巨大科学、先端科学が生み出す「リスク社会」の様相
「科学技術と倫理」の課題及び社会系科学者、人文系科学者の役割
科学者と市民を結ぶ科学技術コミュニケーションの可能性
プログラム:
1.問題提起:(5~10分)
チェ・スンウォン(韓国)理化学研究所/生物学
2.対談:(約40分)
島薗進先生 上智大学神学部教授(宗教学/応用倫理)
平川秀幸先生 大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授(科学技術社会論)
モデレータ:エリック・シッケタンツ(ドイツ)
東京大学大学院人文社会系研究科特別研究員/宗教史
3.オープンディスカッション:(約90分)
ファシリテータ:デール・ソンヤ(ノルウェー)
上智大学大学院グローバルスタディーズ研究科特別研究員/グローバル社会
◇プレスリリース・参加申込み
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2014.05.15
SGRAレポート66号本文(日中英合冊版)
宮崎幸雄(日本YMCA同盟名誉主事) 「ボランティア・志願者論」講演録 2014年5月15 日発行
☆日本語の講演録、中国語訳、英語訳を一冊に纏めてあります。
<講演要旨>
1)私のボランティア原体験 <ベトナム戦争とボランティア> ①自分で手を挙げて(挫折からの逃走) ②こちらのNeeds (体育) とあちらのInterests(養豚) ③信頼なくして “いのち” なし(地雷原の村) ④解放農民の学校(自立・自助) ⑤プロ・ボランティアとして国際社会へ
2) ボランティア元年といわれて—神戸・淡路大震災によって広まるボランティア(観)
3)ボランティア活動の社会的効果(地域への愛着・仲間・達成感・充実感・希望)
4)大災害被災地のボランティア活動と援助漬け被災者 中国人が見た東日本大震災救援活動と日本人が見た四川大震災救援活動
5)3 ・11若者の自意識と価値観の変化 国際社会の支援と同情・共感・一体感と死生観・共生観と人と人との絆
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2014.03.12
2014年2月15日(土)、高麗大学の現代自動車経営館で第13回日韓アジア未来フォーラムが開催された。今回は「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力」というテーマで行われたが、今後5年間のプロジェクトの初年度として、いくつかのテーマを総合的に検討した。
日本は、地震をはじめ自然災害への対策、鉄道システム、経済発展と環境負荷軽減及び省エネルギーの両立、少子高齢化への対処など、多くの分野において関連する経験や技術の蓄積、優位性を有している。一方、いまや日本以上に課題先進国といわれるようになった韓国の経験や悩みもまた、東アジア地域における将来の発展や地域協力の在り方に貴重な手掛かりを提供する。今回のフォーラムは、日本と韓国の経験やノウハウを生かした社会インフラシステムを、東アジア地域及び他国へ展開する場合、何をどのように展開できるか、そして東アジアにおける地域協力、平和と繁栄においてもつ意義は何なのかについて探ってみる場となった。
フォーラムでは、未来人力研究院理事長の李鎮奎教授による開会の挨拶と、今西淳子SGRA代表の挨拶に続き、4人の研究者による発表が行われた。基調講演で東京財団の染野憲治氏は、北東アジアの気候変動対策と大気汚染防止に向けて、今後のエネルギー計画の明確な将来像を描きにくい状況下において、日中韓の専門家、市民運動家は比較検討を通じて相互に客観的な理解を深め、適切な対応策を探ることが求められていると提言した。次に韓国国防大学校安全保障大学院の朴栄濬教授が、北極海をめぐって新しい協力の可能性が芽生えていることに注目し、北極海をめぐる関連諸国の政策を検討した上で、日中韓相互協力の可能性を検討した。そして北陸大学未来創造学部の李鋼哲教授は、北東アジアの多国間地域開発と物流拠点としての図們江地域開発が、近年どのように変貌しているのかについて報告を行った。最後の国民大学の李元徳教授は、日韓が協力して東アジア地域及び他国へ展開する場合、何をどのように展開できるか、そして新時代における日韓両国の協力が東アジアの平和と繁栄にもつ意義について持論を展開した。
コーヒー・ブレークを挟んで東京大学の木宮正史教授、韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室の安秉民室長、内山清行日本経済新聞ソウル支局長、李奇泰延世大学研究教授、李恩民桜美林大学リベラルアーツ学群教授らによる活発な討論が続いた。課題先進国日本、そして日本以上に課題や悩みを抱えている韓国が課題と悩みを共有しながら、これからいかにアジアへ国際公共財を提供していくか、これこそが課題ではないかとの意見が多かったように思われる。
特筆すべきは、2年前の第11回フォーラムも高麗大学LGポスコ経営館で行われたが、今回も同大学の現代自動車経営館で開催されたことである。高麗大学の経営学部だけで2つの立派な独立した建物をもっているわけであるが、とりわけ現代自動車経営館は李鎮奎理事長が学部長(兼経営専門大学院長)在任中に現代自動車からの寄付金で建てられたそうである。この点は、李先生が繰り返し強調されたことなので、この場を借りて改めて取り上げておく。「首都圏地方大学」(首都圏に所在しながらも地方大学のように経営環境がよくない大学のこと?)の教員の私からすると、うらやましいどころか唖然とするぐらいの施設である。「富める者は益々富み、貧しい者は益々貧しくなる」という「富益富、貧益貧」が大学社会でも当てはまることを実感した。
私が学生の頃から、いや大昔から、高麗大学は民族精神に徹した大学というイメージが強かった。その「民族高大」で日本語のみでの学術会議が開催されたことも特筆すべきであろう。「民族高大」で日本語のみでのフォーラムを行っても全く違和感がない理由はいくつかあるように思われる。一つは今は高麗大学が「グローバル高大」を目指しているからであり、もう一つはもっぱらフォーラム運営上の予算節約のためとの説である。さらに主催側の戦略的な試みという解釈もできるが、この点については更なる検討が必要であろう。いずれにしても、私は高麗大学出身ではないので、高麗大学の宣伝になることはこのぐらいにしておこう。
この他にも今回のフォーラムは、いくつかの点で印象に残る会議であった。フォーラムに大学や研究機関の研究者のみならず、現場で日韓両国の課題や悩みを肌で感じるマスコミや政府関係者も加わり、多様な立場から立体的に検討することの持つ意義について実感できたことも評価すべき点ではないかと思われる。また、今回のフォーラムが非公開で行われたにもかかわらず、3名の方から問い合わせがあり、参加に至ったことは、これからのフォーラム運営に活力を与えると思われる。なお、今回は渥美理事長にもご参加いただき、フォーラム終了後懇親会が終わるまで長時間にわたってお付き合いいただいたことも力強い励ましとなった。公式乾杯酒の「春鹿」の「任務完了」、そして入り混じったラブショットも楽しいものであった。
これから「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力」について、実りのある日韓アジア未来フォーラムを進めていくためには、総論的な検討にとどまらず、各論において掘り下げた検討を重ねていかなければならない。次回のフォーラムの開催に当たっては、このような点に重きを置きつつ、研究者でもある自分の責務として重く受け止めつつ、着実に進めていきたい。最後に日韓アジア未来フォーラムがガバナンスの安定性、そして懇親会での乱れという本来の姿を取り戻したことを自ら祝いながら、第13回目のフォーラムが成功裏に終わるよう支援を惜しまなかった李先生と今西代表に改めて感謝の意を表したい。
当日の写真
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<金雄煕(キム・ウンヒ)☆ Kim Woonghee>
89年ソウル大学外交学科卒業。94年筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、98年博士。博士論文「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。99年より韓国電子通信研究員専任研究員。00年より韓国仁荷大学国際通商学部専任講師、06年より副教授、11年より教授。SGRA研究員。代表著作に、『東アジアにおける政策の移転と拡散』共著、社会評論、2012;『現代日本政治の理解』共著、韓国放送通信大学出版部、2013;「新しい東アジア物流ルート開発のための日本の国家戦略」『日本研究論叢』第34号、2011。最近は国際開発協力に興味をもっており、東アジアにおいて日韓が協力していかに国際公共財を提供するかについて研究を進めている。
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2014年3月12日配信
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2014.03.05
2014年1月25日(土)午後、東京国際フォーラムにおいて「インクルーシブ教育:子どもの多様なニーズにどう応えるか」をテーマに第46回SGRAフォーラムが開催されました。
今回のフォーラムの開催に当たって、最初は障害のある子どもの教育についての話から始まりましたが、企画を進めていく中、インクルーシブ教育をテーマにしたフォーラムへと広がりました。インクルーシブ教育という言葉は、元々障害のある子どもへの教育を考える過程で生まれた概念ですが、ユネスコでは、「学習、文化、コミュニティへの参加を促進し、教育における、そして教育からの排除をなくしていくことを通して、すべての学習者のニーズの多様性に着目し対応するプロセスとして見なされる」と定義しています。このインクルーシブ教育の定義に沿って日本の教育問題を考えると、障害のある子どもの教育問題の他に、外国籍労働者の子どもたち、家庭や経済的な事情により学業に困難を伴う子ども等、色々なニーズを持つ子どもへの対応が求められることが分かります。「学習等への参加、排除をなくす」「多様性への着目と対応」がインクルーシブ教育のキーワードなのですが、上述の多様なニーズを持つ子どもの教育の問題は、教育の周辺課題として扱われてきた印象を受けます。「インクルーシブ教育」という言葉そのものの認知もあまり進んでおらず、インクルーシブ教育を実現していくのにはまだまだ多くの課題があると思われます。
今回のフォーラムでは、インクルーシブ教育の実現に向けて、障害のある子どもや外国籍の子どもへの支援の実際を踏まえながら、日本の教育がこれからの子どもの差異と多様性をどう捉え、権利の保障、多様性の尊重、学習活動への参加の保障にどのように向き合うべきかについて議論の場を提供することを目的としました。
茨城大学教育学部の荒川智教授は、基調講演「インクルーシブ教育の実現に向けて」において、障害者権利条約と教育条項に触れながら、インクルーシブ教育を、教育システムやその他の学習環境を学習者の多様性に対応するため如何に変えるかを追求するアプローチとし、それを実現するには通常教育そのものの改革が不可欠であると指摘し、学習者の多様なニーズに対応できる通常教育の改革のあり方について丁寧にお話しされました。
続いて、特定非営利活動法人リソースセンターoneの代表理事である上原芳枝さんからは「障碍ある子どもへの支援について」、川崎市多文化活動連絡協議会の代表である中村ノーマンさんからは「外国につながりを持つ子どもへの支援について」をテーマに、実践の場の現状とその取り組みについてお話をしていただきました。上原さんと中村さんの講演内容を受けて、SGRA会員で日本社会事業大学社会福祉学研究科博士課程のヴィラーグ ヴィクトルさんと東京大学総合文化研究科博士課程の崔佳英さんが指定討論としてそれぞれ問題提起をしました。
3人の講演を終えた後は、休憩をはさみ、フォーラムの第2部であるパネルディスカッションに移り、第1部での問題提起とフロアからの質問をめぐって熱い議論が展開されました。
会場からは、「教育現場において、インクルーシブ教育を推進していくに当たって、具体的にどのような取り組みが実際に必要か」「インクルーシブ教育の推進には社会の意識改革が大事だが、まず親や地域が多様なニーズを持つ子どもの、教育に対する意識改革をするのにはどうしたら良いか」等、子育てを終えたお母さんとお婆さんからの質問がありました。また、「子どもの多様性に応えるためには、国の教育政策も大事だが、より現場の実用に合わせて現場から提案し、柔軟に対応していくことが大事ではないか」「子どもの多様なニーズを尊重するためには既存の学校教育の枠組みを崩し、子ども一人ひとりのニーズにあった学びをすれば良いのではないか」等の質問をめぐっての議論も絶えませんでした。
会場からのこれらの質問に対し、3名の講師の方からは、「国が多様なニーズを持つ子どもをどのように育てて行きたいのかを考えていく必要がある」、「多様性に応える教育が目指す先にはどのような社会を目指すかの問題があり、子どもの多様なニーズに応えるのには財政的な負担がかかると思われがちだが、合理的な配慮という視点からそのような偏見を見直し、教育財政の正義論の構築も必要である」、「障害児が教育を受ける権利を享受するには長い道のりが必要であった経験から、既存の学校教育の枠組みの中で多様なニーズを持つ子どもへの対応を求めていくことは、子どもの教育を受ける権利の保障に繋がることである」、「学校現場で多様なニーズを持つ子どもを支えていくためには、具体的に教員が子ども同士の関係調整の役割を果たしながら、子ども一人ひとりと丁寧に向き合う眼差しやクラス運営についての工夫が必要である」等の提言がありました。
パネルディスカッションでは、予定の時間を大幅に超えて熱気溢れる議論が行われましたが、その後の夜の懇談会では、さらに3人の講師を囲んで、美味しい中華料理をいただきながら教育の話を続けました。
フォーラムの企画の段階でも予想がついていましたが、会場の60数名の聴講者の半数以上がインクルーシブ教育という言葉を聞いたことがないと答えていました。このように、インクルーシブ教育を実現していく道のりはまだまだ長いですが、今回のような場を設け、議論を重ねていくことが大切なのではないかと思います。ご講演いただいた3名の講師の方と、インクルーシブ教育に興味関心を寄せてご出席された参加者のみなさまと、このような議論の場を設けてくださったSGRAの皆さまにお礼を申し上げます。
(注:「障害」に関する表記には、他に「障碍」「障がい」等があります。本文においては「障害」を使用し、上原さんについての記述箇所はご本人の発表資料の表記に従い「障碍」としました。)
当日の写真
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<権 明愛(けん・みんあい)☆ Quan Mingai>
十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科専任講師。中国で大学を卒業して来日し、埼玉大学教育学研究科で教育学修士、日本社会事業大学社会福祉学研究科で福祉学の博士を取得。障害者支援施設での実践アドバイザー及び保育園での発達相談等の活動をしながら障害児者の教育、福祉に関する実践研究を行っている。主著に『自閉症を見つめる-中国本土における家庭調査研究と海外の経験』(中国語、共著)、『成人知的障害者及び家庭の福祉政策』などがある。
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2014年3月5日配信
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2014.02.25
SGRAレポート67号
第12回日韓アジア未来フォーラムin キャンベラ
「アジア太平洋時代における東アジア新秩序の模索」
講演録 2014年2月25日発行
<もくじ> 【発表1】構造転換の世界経済と東アジア地域統合の課題
平川 均(名古屋大学大学院経済学部教授)
【発表2】中国の海洋戦略と日中関係:新指導部の対外政策の決定構造
加茂具樹(慶応義塾大学総合政策学部准教授)
【発表3】アジア貿易ネットワークの結束と競合:ネットワーク分析技法を用いて
金 雄熙(仁荷大学国際通商学部教授)
【パネルディスカッション】
【発表4】日韓関係の構造変容、その過渡期としての現状、そして解法の模索
木宮正史(東京大学大学院情報学環(流動)教授)
【発表5】米中両強構図における韓日関係の将来
李 元徳(国民大学国際学部教授)
【発表6】東アジア新秩序と市民社会:脱北者の脱南化現象を中心に
金 敬黙(中京大学国際教養学部教授)
【パネルディスカッション】
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2014.02.15
下記の通り第13回日韓アジア未来フォーラムを開催します。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。
日時:2014年2月15日(土)午後2 時00分~5時00分
会場: 高麗大学現代自動車経営館301号
申込み・問合せ:SGRA事務局
● フォーラムの趣旨
「課題先進国」日本、そして「葛藤の先進国」とも言われる韓国が今までに経験してきた課題と対策のノウハウを東アジア地域に展開しようとするとき、どのような分野が考えられるだろうか。日本は、地震をはじめ自然災害への対策、鉄道システム、経済発展と環境負荷軽減及び省エネルギーの両立、少子高齢化への対処など、多くの分野において関連する経験や技術の蓄積、優位性を有している。さらに、日本以上の課題先進国となった韓国の経験や後遺症も、東アジア地域におけるこれからの発展や地域協力の在り方に貴重な手掛かりを提供している。本フォーラムでは、日本と韓国の経験やノウハウを生かした社会インフラシステムを、東アジア地域及び他国へ展開する場合、何をどのように展開できるか、そして、それが東アジアにおける地域協力、平和と繁栄においてもつ意義は何なのかについて考えてみたい。
● プログラム
進 行: 金 雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授)
開会の辞: 李 鎮奎(リ・ジンギュ、未来人力研究院理事長/高麗大学教授)
挨 拶: 今西淳子(いまにし・じゅんこ、渥美国際交流財団常務理事)
円卓会議:報告のあと自由討論
【基調講演】「北東アジアの気候変動対策と大気汚染防止に向けて」 染野憲治(そめの・けんじ、環境省地球環境局中国環境情報分析官/東京財団研究員)
【報 告】「北極海の開放と韓日中の海洋協力展望」 朴栄濬(パク・ヨンジュン、韓国国防大学校安全保障大学院教授)
【報 告】「北東アジアの多国間地域開発と物流拠点としての図們江地域開発」 李鋼哲(り・こうてつ、北陸大学未来創造学部教授)
【報 告】「ポスト成長時代における日韓の課題と日韓協力の新しいパラダイム」 李元徳(リ・ウォンドク、国民大学国際学部教授)
【討 論】 報告者+討論者
木宮正史(きみや・ただし、東京大学大学院総合文化研究科教授)
安秉民(アン・ビョンミン、韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室長)
内山清行(うちやま・きよゆき、日本経済新聞ソウル支局長)
李奇泰(リ・キテ、延世大学研究教授)
李恩民(リ・エンミン、桜美林大学リベラルアーツ学群教授)
他数名(未来人力研究院及び渥美財団SGRAの関連研究者)
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2014.02.05
下記の通り、フィリピンのマニラ市でSGRA主催のセミナーを開催いたします。参加ご希望の方は、下記連絡先、またはSGRA事務局へご連絡ください。
第17回日比共有型成長セミナー 「ものづくりと持続可能な共有型成長」 "Manufacturing and Sustainable Shared Growth"
日時:2014年2月11日(火)8:30-17:30
会場:フィリピン大学大学工学部エンジニアリング・シアター Engineering Theater, College of Engineering (Melchor Hall), University of the Philippines, Diliman Campus
言語:英語
開催の趣旨:
3K(効率・公平・環境)の調和ある発展を目指す、日比共有型成長セミナーの2本の柱となるテーマは「都会・地方の格差」と「製造業」です。今回は後者に注目し、8月頃に前者のテーマのセミナーを開催予定です。しかしながら、今回のセミナーでも、2本の柱のつながりがより具体的に示されるようになっています。
また、本セミナーにおいては、ふくしま再生の会の田尾陽一代表に飯館村における活動を通して福島の報告をしていただきます。
プログラム(英文のみ)
参加申し込み・お問い合わせ:SGRAフィリピン Ms. Lenie M. Miro (
[email protected] )
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2013.12.25
第5回SGRAカフェは2013年12月7日(土)17時より、東京九段下の寺島文庫みねるばの森で開催されました。衆議院議長、外務大臣を長年務めた元自由民主党総裁の河野洋平氏の「一私人として見た日中・日韓関係」と題するご講演の後、イギリスから帰国して成田から駆けつけてくださった日本総合研究所理事長の寺島実郎氏から世界情勢を含めたコメントがありました。セグラ会員や渥美奨学生約40名が参加し、質疑応答を通して活発な議論が繰り広げられました。
今回のカフェは、河野氏のご講演を伺うだけでなく、同氏とSGRA会員の留学生や元留学生との交流も目的とされていました。河野氏は従軍慰安婦に関する「河野談話」等でアジアからの留学生に人気が高く、講演が始まる前から会場は熱気に包まれていました。今回のカフェのコーディネーターで司会を務めたセグラ参与の高橋甫氏がいくつかのエピソードを交えて河野氏をご紹介し、聴衆の期待はますます高まりました。
講演開始早々、河野氏は悲痛な声で「日本にとっては、中国と韓国ほど、大事な国はありません。中国と韓国とうまく付き合えば、日本という国はやっていけると思っています。今の政治状況は、はなはだ遺憾で、最も悪い状況です。一日も早くこの状況から脱出しなければなりません」と述べられました。その後、議員になる前から中国と交流し、香港経由で汽車に乗って、3日もかかって北京へ辿りついたエピソードや、若い頃から鄧小平氏や金大中氏と親密に交流した話を紹介しながら、政治家として日中関係、日韓関係を中心に、アジアにおける日本外交に尽力されたご自身の中国、韓国と交流の歴史と想いを語ってくださいました。最後に「留学経験は非常に大事だと思います。私たち日本人は日本に生まれたわけですが、日本に来ている留学生の皆さんは、ご自身の選択によって日本を留学先として選んだのです。そこに大きな期待をかけています」と講演を締めくくりました。
講演後、予定時間をはるかにオーバーして、アジアからの留学生・元留学生からの質問に次々と的確に答えてくださいました。数々の質問から、近年著しく悪化した日中・日韓関係の影響で、日本で生活している中韓両国の留学生の生活まで大きく影響されている様子が浮かび上がりました。しかし、その苦しい状況を十分理解していると前置きした後、河野氏は「私としては頑張ってもっと日本でやっていっていただきたい。今、日本の社会的な雰囲気は甚だよくない。しかし、これは日本の社会の普通の状況ではない。ヘイトスピーチは遺憾であるが、日本人の多くがそう思っているわけでは決してない。いつか必ず理解しあう状況を作らなければいけない」と関係改善への努力を強調しました。そして河野氏は、今硬直している日中・日韓関係を改善するために、お互いに譲歩することの大切さを訴えました。
「今日のアジアにおける政治家は、昔のような大物が殆ど見られなくなりましたが、現在の日本の政治家に対してどのように思われますか」という質問に対して、河野氏は政治家の資質の変化は世界の趨勢の変化と連動していることが関係していると指摘しました。その上、日本の政治家の変化は、政治家としてのキャリア不足が目立ち、それが政治の混迷につながっていること、特にその原因として、派閥による教育機能が希薄になり、先輩政治家からの知識の継承ができなくなっていることが大きな影響を与えているとの指摘があり、とても興味深いと思いました。
河野氏の講演と第一部の質疑応答が終わったところで、寺島実郎氏からコメントがありました。まず、寺島氏が北海道の高校生の時に、渥美財団の渥美伊都子理事長のご尊父である鹿島守之助氏に手紙を書いたところ、所望のクーデンホーフ・カレルギーの書物を送ってくださったというエピソードが紹介されました。寺島文庫2階のミニアーカイブスには、渥美理事長より寄贈されたクーデンホーフ・カレルギーの翻訳本や日本外交史全集が保管されています。寺島氏はイギリスから帰国したばかりということもあり、欧州情勢を紹介しました。イギリスの雑誌『The World in 2014』では、米中の力学が世界を動かすもっとも大きな要素としてあげられ、6月の米中首脳会談、7月の米中経済戦略対話、11月のバイデン訪中を見て、米中関係は日米関係よりはるかに深いレベルでコミュニケーションが取れていると報告しました。しかし、日本のマスコミは日本と関係ないことを殆ど取り上げません。次元の低い小さなナショナリズムにとらわれてしまい、本当の国益を追求できない状態になっています。イギリスは嫌われずに植民地から去る技を持っていましたが、それができなかった日本は近代史における段差を埋めることが大事であり、小さな猜疑心、嫉妬心からの足の引っ張り合いから脱出しなければいけないと強調しました。
両氏の講演、コメントを受けて、第二部の質疑応答の時間では、「日中韓の首脳会談を実現するためにどのような譲歩が必要なのか」、「中国と韓国のナショナリズムをどのように見るべきなのか」、「北朝鮮問題について日韓両国はどのように対処していくべきなのか」、「日韓・日中関係の改善に向けてリベラルな政治家、外交官を育成するのには、どうすればよいのか」、「金大中大統領の訪日の時に行われた日本政府による謝罪の経緯はどうだったのか」等など、来場した留学生・元留学生より、東アジアの国際関係をめぐる問題がたくさん提起され、河野氏と有意義な意見交換の場となりました。
講演会終了後、引き続き同会場で懇親会が開催され、参加者はさらに議論を深めることができ、忘れがたいひと時になりました。
当日の写真は下記よりご覧ください。
ゴック撮影
太田撮影
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<王 雪萍(おう・せつへい)WANG Xueping>
1998年に来日、2006年3月に慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士後期課程修了、博士(政策・メディア)。専門は戦後日中関係。慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所助教、関西学院大学言語教育研究センター常勤講師、東京大学教養学部講師を経て、現在東京大学教養学部准教授。著書に『戦後日中関係と廖承志――中国の知日派と対日政策』(編著、慶應義塾大学出版会、2013年)、『改革開放後中国留学政策研究―1980-1984年赴日本国家公派留学生政策始末』(単著、中国世界知識出版社、2009年)、その他著書や論文多数。
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2013年12月25日配信