SGRAの活動

  • 2017.09.07

    イザベル・ファスベンダー「第10回SGRAカフェ『産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?』報告」

    去る7月29日(土)「産まれる前から死んだ後まで頑張らないと?「妊活」と「終活」の流行があらわすもの」というテーマで第10回SGRAカフェが開催されました。年齢、性別、肩書を越えて、幅広く、60名を超える方々にお越し頂き、プレゼンターの一人としてとても嬉しかったです。「妊活」と「終活」についての30分ずつの発表の後、参加者全員を巻き込んでのディスカッションとグループワークがありました。とても活発な議論となり、大事な意見を一杯いただくことができました。参加者の皆さま、積極的に議論に貢献してくださいまして本当にありがとうございました。そして、今回のイベントに向けて様々な形で支えていただいた渥美財団の皆さま、心より感謝申し上げます。とりわけ太田美行さんからは企画当初から運営の柱として大きなご助力を賜り、ここに特別に感謝の気持ちをお伝えさせていただきたく存じます。   今回のテーマは、講師を務めた私たち2人(ライプチッヒ大学東アジア研究所日本学科のドロテア・ムラデノヴァさんと私)の研究と直接の関連をもつものでした。私たちはこれまで会う度に議論し、意見交換をしてきましたが、その内容を広く、この社会に生きる人々とシェアし、話し合いたいという想いを強く持ち続けてきました。それを今回SGRAカフェにて実現させていただけて、共々本当に嬉しく思っております。「妊活」という生に関わる活動、「終活」という死に関わる活動、その扱うところのものは正反対であるにもかかわらず、私たちの思考・分析方法は驚くほど重なっています。ただそれは偶然ではなく、必然的なもののように思われます。人生を国家や社会が管理・活性化しようとするメカニズムにおいて、「妊活」と「終活」は鏡合わせのようなものです。   私たちは、人生の節目において追い立ててくるこれらの「活動」に関わる言説を、人の生を社会的なある思惑へ従わせるための「運営」手段として批判的に考察することを試みています。今や生涯(とそれ以前・以後)のあらゆる「節目」にこうした「活」が浸透し、その都度人生を活発にデザインするように呼び掛けられています。こうした「活」が「自分なりに生きられる人生のあり方」、「自己決定する権利」や「ある問題を抱えている人へのエンパワーメント」を唱導するものとして捉えることも不可能ではなく、このような言説の潜在的な力を否定できないかもしれないのです。一方でそれは、人生の選択肢を上手く扱えずに失敗した場合、個人の責任であるという「自己責任論」につながりやすい考え方であるということも大いにあります。ある社会の中で活動している限り、自分の人生を自らの意志に沿って挑戦的に生きることなどそもそも可能なのだろうか、という根本的な問いにもつながります。   今回の私たちの報告、そしてその後の各議論において、中心的な問いになったのは、「社会から要請された『がんばれ』を、各個人がどのように受け止め、いかに人生における選択を主体的なものとするか?」でした。「頑張れ、頑張れと社会に言われるのが腹立つ」という方もいれば、逆に「私も終活のこと考えた方がいいね」、「今日の話を聞いて、私も妊活の準備をした方がいいと思った」という意見を会後にいただくこともありました。勿論、[正しい]答えはありませんし、実際、参加した皆さんからは本当に多様なお考えを聴かせていただきました。私たちのいつもの考え方とは別な価値観に基づいてお話しくださった方もいらっしゃいまして、視野が広がり新たな社会の側面を覗き込むことができた思いでした。   ある社会において盛んに流通する言葉の背景に何があるのか、そこにどういったアクターが関わっているのか、それが誰のどういった利益につながっているのか。こうしたことを考えることによって、自分をある種の社会的なプレッシャーから開放する手がかりを探ることが今回の企画の目的でした。ドロテアさんの「終活」のお話を伺い、「自分らしさ」というキーワードが、私たちの研究において、共通して頻繁に出て来ることを発見しました。「自分らしく生きる」という言葉は、多くの方にとって、理想的な生を思わせる響きをもつことと思います。しかし、その「自分らしさ」がどこまで本当に自分に属するものなのか、批判的に問い直されなければならないでしょう。   「妊活」も「終活」も、その目的とやり方は大方社会によって決められていますし、政治的にも利用されます(例えば「妊活」の場合、少子化対策の文脈で)。その上、莫大な利益が生まれるビジネス領域であり、日々発展するテクノロジーによる社会変化とも大いに関係があります。自分らしさというのは真に自発的なものではなく、社会的なものです。誰かにとって都合のいい枠組みのうちにつくられた「自分らしさ」に過ぎないかもしれないということに、注意を払う必要があると思います。「自分らしさ」は時に、社会的に「都合の悪い」とされている生き方を選ぶ・選ばざるをえないということに基づいています。そうした時の「自分らしさ」は認められるのか?認められないなら、それは差別や不平等の対象になってはしまわないか(例えば、子どもを産まないことを選択すること等において)?「自分らしさ」をこのような問いから捉え直すことはとても大切です。   ある社会の中で、そこで生産され流通する言説から「逃げる」ことは大変に難しいです。流布する[言葉]の背景にある権力関係、利益、関係者のつながりを明らかにし、自らの立場を相対化して考えた上で、主体的な選択をいかにとりうるのか逡巡すること、その重要性を今回の議論を通じて改めて強く感じることとなりました。私自身の「妊活」をめぐる研究においては、フェミニズムの視点が中心にあります。「早く産みなさい、産む前にこうしなさい、産んでからはこうしなさい、子育てはこうしなさい」という社会からの命令が、主に男性中心主義的な立場から為されることがとても根強いと、研究の場面でも、日本におけるプライベートな生活領域でも、思わされることが非常に多いです。   私も子育てをしながら研究している立場にあり、日常的な女性に対するプレッシャーと不平等を身近なところで感じています。完璧なお母さんとして全てを子どもに捧げることが社会的に求められており、しかも同時に、格好いい女性(=仕事を頑張っている、自立している)であることも求められている時代状況にあって、その葛藤に引き裂かれる辛く深刻な状況は多くの母親に共有されていることと思います。今回のディスカッションに参加された若い女性の方々のコメントにおいて、同様の葛藤で悩んでいる方が多いことも確認されました。   カフェの最後に、コメンテーターのシム・チュンキャットさんが投げかけてくださった言葉が、状況に対するひとつの態度表明として、決然として喚起的であり、大いに参照されるべきものと思いますので、この報告文の最後に引用します。すなわち「無活に生活をする」こと。私の勝手な解釈ですが、「妊活」や「終活」においてみられるような、社会的に生産される[自分らしさ]を消費するのではなく、そうした言説の網の目から自らを外してやることを、このスローガンは意図しているのではないでしょうか。私たちが住み、共有していると思い込んでいるひとつの言説空間としての社会は、ある部分、つくられた幻想でしかなく、その外部もしっかりと存在していることを知った上で、その社会とは異なるところに「自分」を見つけ直すこと。こうした態度はとても大事だと思います。ただそれを求めることは決して易しいものではなく、一生の課題ともいえる闘いになると思いますが、それでも大事だと思います。   当日の写真   <イザベル・ファスベンダー☆Fassbender,Isabel> 渥美国際交流財団2017年度奨学生。ランツフート(ドイツ)出身。2011年チューリッヒ大学(スイス)日本研究科卒業。2014年東京外国語大学大学院総合国際学研究科地域国際専攻にて修士号取得。現在、東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程国際社会専攻に在籍、博士論文を執筆中。専門は家族社会学、ジェンダー論。   2017年9月7日配信
  • 2017.08.24

    第24回日比持続可能な共有型成長セミナー「人や自然界を貧しくさせない進歩:地価税や経済地代の役割」へのお誘い

      下記の通り第24回日比持続可能共有型成長セミナーをオーストラリアのシドニー市で開催します。参加ご希望の方は、SGRAフィリピンに事前に申し込んでください。   第24回日比持続可能な共有型成長セミナー ◆「人や自然界を貧しくさせない進歩:地価税や経済地代の役割」 “Progress Without Poverty of People and Nature: The Role of Land Value Taxation and Economic Rents"   日時:2017年9月23日(月)9:00~17:00 会場:Sydney Mechanics School of Arts(オーストラリア、シドニー市) 言語:英語 共催:Association for Good Government (良き政府協会)AGG 申込み・問合せ:SGRAフィリピン ( [email protected] ) (詳細はこちら)   〇セミナーの趣旨   SGRAフィリピンが開催する24回目の持続可能な共有型成長セミナー。 持続可能な共有型成長セミナーは目標が効率・公平・環境ということで、KKKセミナーとも呼ばれている。現在まで、年2回というペースで開催されているが、フィリピン大学ロスバニョス校と協力し、より頻繁に開催される予定である。今回の24回目のセミナーは初めてフィリピンの外で行われることになる。オーストラリアに本部を置く、良き政府協会研究員のジョッフレ・バルセ氏(Mr. Joffre Balce)との議論により、第20回持続可能な共有型成長セミナーで発表された「地価税」がKKKの発表候補者リストに入れられた。バルセ氏は良き政府協会の総書記であり、この協会は19世紀米国の政治経済学者のヘンリー・ジョージ(Henry George) の政治経済政策を提唱している。そのなかの重要な議論の一つが地価税である。今回のセミナーの開催地及び日時は、特別の意味がある。9月は1901年に設立された良き政府協会の設立月にあたり、開催地は地価税が課税される国である。   〇プログラム 08:00–09:00 登録   09:00–09:15 開会挨拶   09:15–10:00 発表1「ヘンリー・ジョージの社会哲学」リチャード・ガイルス(Richard Giles)AGG会長   10:00–10:30 発表2「地価税:理論・証拠・実施に関する調査」 マックス・マキト(Max Maquito)フィリピン大学ロスバニョス校・SGRA   10:30–11:00 休憩   11:00–11:30 発表3「地価税の便益:マニラ都内の複数市の事例」 グレイス・サプアイ(Grace Sapuay)SGRAフィリピン運営委員   11:30–12:00 発表4「反貧困が少数派であり続ける理由:フィリピンに対するヘンリー・ジョージ流の改革の関連性」 ジョッフレ・バルセ(Mr. Joffre Balce)良き政府協会総書記   12:00–13:00 昼食   13:00–13:30 発表5「土地への平等アクセスやグローバルな移住の問題」 フランクリン・オべング・オドーム(Franklin Obeng-Odoom)シドニー技術大学   13:30–14:00 発表6「先住民の土地所有権に対するジョージ主義の含意の検討」 ヨギスワラム・スブラマニアン(Yogeeswaram Subramanian)マレーシア大学   14:00–14:30 発表7「貧困や金の番人」 ロン・ジョンソン(Ron Johnson)「The Good Government」編集長   14:30–15:00 休憩   15:00–17:00 SGRAのビジョン、近況報告+円卓会議(モデレーター:マックス・マキト)   セミナー終了後 シドニー見学  
  • 2017.08.17

    エッセイ544:張桂娥「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」

    日本では誰もが知っている漫画の神様・手塚治虫は、「絵を文字にするのが小説。絵を絵にするのがイラスト。文字を絵にするのが漫画。文字を文字にするのが評論」だと述べ、「漫画は映像文化と文字文化の間のもの、いわば第三の文化である」と考えていたという。   一方、芸術作品の独創性に独特の美意識、鋭敏な鑑識眼を光らせて来たフランスでは、漫画は「9番目の芸術」と位置づけられ、近年では評論や研究の対象となっている上、世界最高峰の美術の殿堂「ルーヴル美術館」が21世紀、視覚芸術の映像美、言語表現の様式美を兼ねそろえた漫画に、ついにその扉を開いたというほど、熱い注目を浴びている。   かつて俗悪な読み物、低俗な娯楽、ビジネス先行のサブカル産業として貶められてきたマンガは、創造性と革新性を追求したクリエイティブな作家たちの努力によって、深層文化を表象する芸術の宝庫や、社会思想や世界と人生に関する深い哲理ないし世界観を広く発信する文化的産物として、全世界の人類に共有されつつある現状である。そのため、近年日本、フランスをはじめとする世界各国では、図書館・ミュージアムにおけるマンガコレクションを充実させるブームが巻き起こされたわけである。   また、デジタル映像の生成・加工技術の飛躍的進化により、マンガのアニメ化とともに実写映画化も劇的に進み、あっという間に世界を席巻する爆発的な流行文化に発展した。グローバル化したマンガ・アニメ文化は、視覚芸術を極めた魅惑的なコスモスのような不思議なワールドを築き、世界中の若者を虜にした。非日常な世界に誘われ、魅了された視聴者にとって、マンガ・アニメは、まさに自己と他者ないし世界を理解するための媒介である。   紙媒体のコミック・コミックスをはじめ、アニメ、キャラクター周辺グッズ、コスプレなど、サブカルチャーだったマンガ・アニメ文化は、世界市場規模のコンテンツ産業を誕生させ、一国の経済成長に大きな影響を与えるメインカルチャーに転換していき、我々現代人の消費行為(価値観)、ライフスタイルをダイナミックに変えるソフトパワーの源でもある。   2001年に「日本マンガ学会」が設立され、アカデミック的な見地から、奥深いマンガの世界に学際的・国際的アプローチの可能性が広がった。また、マンガを教育研究する日本初の大学マンガ学部が創設された2006年には、世界初の「博物館的機能と図書館的機能を併せ持った、新しい文化施設」京都国際マンガミュージアムも同時期に設立され、生涯に一度必ず訪れるという熱狂的なマンガファンが世界中から殺到し、コンテンツツーリズムの観光聖地として世界から注目されている。   一方、台湾の大学でも近年、マンガを通して各国の文化・社会への理解を深める教養講座が相次いで開設されている。2014年コミックス蔵書を充実させた東呉大学図書館は、マンガコレクションを楽しむ「マンガ読書エリア」を開設し、日本語学科と協力した上、マンガ・アニメ文化の可能性を探究する学術シンポジウムを開催している。他大学に先駆けて、グローバル的に浸透し定着していくマンガ・アニメ文化研究の最前線に立って、アカデミックな研究の未来を見据え、その可能性をさらに切り拓こうとしている。   2018年5月に台北市で、日本公益財団法人渥美国際交流財団と台湾東呉大学が共同主催で行う予定の、第8回日台アジア未来フォーラム※では、全世界規模に広がったマンガ・アニメ文化の魅力に着目し、「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性―コミュニケーションツールとして共有・共感する映像文化論から学際的なメディアコンテンツ学の構築に向けて―」について議論する。つまり、文化を発信するコミュニケーションツールとして共感・同調・共有されてきたマンガ・アニメが、いかに次世代の地球市民の手によって共創するコンテンツ産業へ進化していくかのプロセスや、それを実現させるあらゆる創発の原理を創造的に思考する場を設けたいと考えている。   各セッションで取り上げるテーマとして、マンガの収集・保存と利用、マンガ・アニメの翻訳と異文化コミュニケーション、マンガ・リテラシー形成の理論と実践、マンガ・アニメと物語論、視覚芸術論、映像論、マンガ・アニメのメディアミックス化・マルチユース化、マンガ・アニメの文化的経済学、マンガ・アニメ文化と社会学などが予定されている。   本フォーラムでは、グローバル化したマンガ・アニメ研究のダイナミズムを、研究者・参加者たちの多様な立場と学際的なアプローチによって読み解いた上、新たな可能性を見いだすことを目指している。これにより、日台関係・日台交流、また東アジア地域内の相互交流のさらなる深まりへの理解促進に貢献するものと考えられる。   ※「日台アジア未来フォーラム」とは、日本公益財団法人渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)の主催のもとで、台湾在住の元奨学生(台湾ラクーンメンバー)を中心とした実行委員会によって企画提案・実施運営される国際会議である。SGRAは日台の学術交流を促進し、日本研究の深化を目的とすると同時にアジアの未来を考えることをその設立の趣旨としている。思想信条の自由や言論の自由などを尊重するリベラルな台湾を発信基地として展開する本フォーラムでは、主にアジアにおける言語、文化、文学、教育、法律、歴史、社会、地域交流などの議題を幅広く取り上げている。8回目の開催となる2018年は、東呉大学日本語学科と図書館との共同主催のもとで、マンガ・アニメ文化国際シンポジウムを行う予定である。   英訳版はこちら <張 桂娥(ちょう・けいが)Chang_Kuei-E> 台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本語教育、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科副教授。授業と研究の傍ら日本児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。   2017年8月17日配信
  • 2017.08.14

    第8回日台アジア未来フォーラム「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」論文募集

    SGRAでは、来年5月26日に台北市の東呉大学で共催するシンポジウムで発表する論文を下記の通り募集します。皆さん奮って応募ください。また興味のある方にお知らせください。   第8回日台アジア未来フォーラム並びに台湾東呉大学マンガ・アニメ文化国際シンポジウム ◆「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」 ――コミュニケーションツールとして共有・共感する映像文化論から学際的なメディアコンテンツ学の構築に向けて――   主 催:日本公益財団法人渥美国際交流財団、台湾東呉大学日本語学科、東呉大学図書館 共 催:東呉大学英文学科、東呉大学教養教育センター   会 場:東呉大学外双渓キャンパス第一教学研究棟普仁堂(大講堂) 開催日:2018年5月26日(土)   ◇シンポジウムの趣旨:   第8回日台アジア未来フォーラムでは、世界な規模に広がったマンガ・アニメ文化の魅力に着目し、「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性―コミュニケーションツールとして共有・共感する映像文化論から学際的なメディアコンテンツ学の構築に向けて―」について議論します。各セッションで取り上げるテーマとして、マンガの収集・保存と利用、マンガ・アニメの翻訳と異文化コミュニケーション、マンガ・リテラシー形成の理論と実践、マンガ・アニメと物語論、視覚芸術論、映像論、マンガ・アニメのメディアミックス化・マルチユース化、マンガ・アニメの文化的経済学、マンガ・アニメ文化と社会学などが予定されています。 本シンポジウムでは、グローバル化したマンガ・アニメ研究のダイナミズムを、研究者・参加者たちの多様な立場と学際的なアプローチによって読み解いた上、新たな可能性を見いだすことを目指している。これにより、日台関係・日台交流、また東アジア地域内の相互交流のさらなる深まりへの理解促進に貢献するものと考えられます。   ◇研究発表関連分野・ジャンル・課題   1.マンガの収集・保存と利用(公共・大学図書館におけるマンガの所蔵状況、学術的マンガ研究、マンガと読書、マンガ読書の効果等) 2.マンガ・アニメの翻訳と異文化コミュニケーション、プロ翻訳者の養成と外国語教育、翻訳技術の開発等 3.マンガ(テキストとしてのマンガの本文)を読み解く技法の理論と実践、マンガ読解力/マンガ・リテラシーの形成等 4.マンガ・アニメと物語論(ナラトロジー、記号論、言語学、ディスクール、表現論、文化的要素、視点の分析等) 5.マンガ・アニメと視覚文化論、映像論、視覚芸術論、映像美学、表象等 6.マンガ・アニメのメディアミックス化・マルチユース化、マルチメディア展開(創意工夫、映像デザイン、クリエイティブスキル、映像制作実務と関連技術の応用等) 7.マンガ・アニメと文化的経済学(マンガ・アニメフェアビジネス、マンガ・アニメの市場経済と商品化、コンテンツ産業の現状と課題、今後の発展の方向性等) 8.マンガ・アニメ文化と社会学(政治、歴史、人類学、ジェンダ学、心理学、科学、哲学、生態学、表象等)   ◇発表形式: ・使用言語:日本語、中国語、英語、その他 ・発表時間:発表20分・質疑応答10分   ◇申込方法: 2017年9月04日(月)までに「研究論文発表申込書」(発表要旨【中国語+外国語(日or英)】要提出)を下記までメール添付で送って下さい。   ※発表申込の締切は10月10日(火)までに延期されました。   詳細は下記リンクをご参照ください。 発表論文募集要項 申込書 開催の趣旨          
  • 2017.07.22

    レポート第80号「日中韓の国際開発協力-新たなアジア型モデルの模索-」

    SGRAレポート80号 SGRAレポート80号(表紙)   第16回日韓アジア未来フォーラム 「日中韓の国際開発協力-新たなアジア型モデルの模索-」 2017年5月16日刊行   <もくじ> はじめに:金 雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学科教授)   【報 告1】「中国的ODAの展開:レシピエントの視点」 李 恩民(桜美林大学グローバル・コミュニケーション学群教授)   【報 告2】「開発協力に対するアジア的モデルの可能性の模索:北東アジア供与国間の収れんと分化」 孫 赫相(慶熙大学公共大学院院長・韓国国際開発協力研究センター所長)   【ミニ報告及び討論1】「国際開発協力におけるアジア・モデル構築に向けて」 李 鋼哲(北陸大学未来創造学部教授)   【討論2】金 泰均(ソウル大学国際大学院教授兼副院長)   【自由討論】上記報告者、渥美財団SGRA及び未来人力研究院の関連研究者              
  • 2017.07.20

    エッセイ540:ジャクファル・イドルス「飯舘村からインドネシアの原発問題を考える:2015年秋のSGRAスタディツアーに参加して」

      私はジャワ島中部の北部海岸に面したジュパラという小さな港町で、高校まで平穏に育った。しかし、2000年に入った頃、政府が突然ジュパラ近郊にインドネシアで最初の原子力発電所の建設計画を発表したため、この静かな町はその賛否を巡って住民の間で激しい対立が生じることとなった。私も自然な流れで原発問題に関心を抱くようになっていた。その結果、私の日本留学の当初の目的は、原発が立地された地域住民の意識について調査を行うことにあった。   私が来日を果して間もなく、新潟中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原子力発電所にかなり大きな被害がもたらされたと聞いた。私は自らの貧乏な生活を無視して妻を説得し、柏崎刈羽原発とその周辺地域の現地調査に向かった。   現地調査で出した私の結論は大きくまとめると次の2点であった。   第1に、さすが日本の原子力発電所は、世界一といわれる高い技術と安全性に守られて、これだけ大きな地震が起きてもその危険性は制御でき、深刻な被害には至らなかったということである。説明役の技術者は全く原発についての知識がないインドネシア人留学生に解り易い日本語で、驚く程親切な対応をしてくれた。そのため、今迄以上に「さすが日本だ」と日本の科学技術への信頼が高まったのである。   第2は、柏崎という小さな町の風景に驚かされたことである。柏崎は小さな地方の町にもかかわらず、あちらこちらに立派な学校、病院、市民会館、ホテル等が立ち並び、道路等インフラも整っていた。立派なスーパーマーケットに陳列された商品の値段が、当時私が住んでいた東京の町田よりもかなり安いのに驚かされた。これは、「電源三法交付金」という原発の立地に伴う仕組みによって実現したものである。ジュパラ住民がこの現実を知れば、私の故郷での原発を巡る激しい対立は一挙に解決するように私には思えた。もちろん、交付金のかなりの額は賄賂となって消えていくのであるが。   2011年3月11日、東北地方に発生した大地震により、福島第1原子力発電所で発生したメルトダウンによる原発事故が発生した。この事故から4年が経って、ようやく私に計画避難区域に指定された飯舘村の状況を視察する機会が訪れた。この村は福島原発から30キロメートル離れたところに位置しており、避難区域とされた20キロメートルの圏外にあった。この村の人口は約6000人で、日本でもっとも美しい100村のひとつであった。しかし、現在(注)、この村は「帰宅は許されるが、宿泊は禁止される」という村全体が絶滅状態に置かれている。   (注)2015年当時。飯舘村に対する「避難指示」は、2017年3月31日に解除され、4月から村民の帰還が始まっている。)   私自身、飯舘村の現状を直接眼で見て大きなショックを受けた。原発事故の恐ろしさを実感させられた。一体この問題の解決に今後何十年必要とするのか。誰もその見通しをつけることができない。先祖伝来の土地を奪われ、家族は離れ離れになり、村の人々にどんな新しい人生が待っているのだろうか。それは決して補償金で償えるものではない。原発に対する私の甘い考えは飯舘村の見学によって根底から吹き飛んだのである。 実は、原発ではないが、インドネシアでも似たような悲惨な出来事があった。   それはジャワ島最東部東ジャワ州にある第二の大都会スラバヤ市から南に25キロメートル離れているシドアルジョ県で起きた泥火山による熱泥などの噴出事故、いわゆるシドアルジョ泥噴出事故である。この事故の発端は、2006年5月29日、東ジャワ州シドアルジョ県ポロン郡レノクノゴ村でラピンド社が運営するブランタス鉱区のバンジャル・パンジ天然ガス田の掘削の失敗によって水蒸気噴出が起きたことだった。当初は、バンジャル・パンジ田近くの沼地から水蒸気が吹き出ただけだったが、突然、水蒸気とともに摂氏50度にも及ぶ熱い泥が噴出し、巨大な噴水のような泥は高さ8メートルにまで達した。その後噴出した泥の量は増え続け、毎日およそ1億2,600万平方メートルに上り、あっという間に広い範囲の地域に拡大していった。   発生から9年たった2015年現在、泥噴出は止まる気配さえない。具体的な被害状況は、3つの郡にまたがる12の村が壊滅的状態にある。この事故によりシドアルジョ県ポロン郡にあった10,426戸の住宅が全壊し、住居を失い、失業し、避難生活を続けている住民は 6万人に達している。   このような状況の下、インドネシア政府の避難住民に対する対応政策が何も行われないことに対して、故郷を奪われた村民たちは「自分たちは見捨てられた」と感じている。そして政府に対して強い批判と反発を生んでいるが補償は今なお困難である。   このような現状があったにもかかわらず、近年インドネシアでは原子力発電所の建設に関わる動きが再び活発になってきた。しかし、原子力に関する知識の不足、公共施設に対する管理能力の無さ、国家責任に対する無自覚などなど、インドネシアでは技術的な視点だけでなく、社会的・政治的な視点からも原子力発電所を建設するための環境条件は全く整っていない。万一事故が起こったら、政府は「国民を守れる」と自信を持って言えるのか、これらの問に答えを出せる者はインドネシアには誰もいない。   高度な安全性で、優秀な原子力の専門家や技術者が多い日本においてでさえ、福島原発事故を終わらせる道が未だ見えていない。「インドネシアの国民の発展のため」と考えるなら、原子力発電建設の計画は見直すべきところか、むしろ原子力発電所は不要であり、建設すべきではないといえる。   <M.ジャクファル・イドルス M. Jakfar Idrus> 2014年度渥美奨学生。インドネシア出身。ガジャマダ大学文学部日本語学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科に在籍し「国民国家形成における博覧会とその役割:西欧、日本、およびインドネシアを中心として」をテーマに博士論文執筆中。同大学21世紀アジア学部非常勤講師、アジア・日本研究センター客員研究員。研究領域はインドネシアを中心にアジア地域の政治と文化     2017年7月20日配信  
  • 2017.07.19

    第6回ふくしまスタディツアー「『帰還』-新しい村づくりが始まる」へのお誘い

    関口グローバル研究会(SGRA)では昨年に引き続き、福島県飯舘(いいたて)村スタディツアーを下記の通り行います。 参加ご希望の方は、SGRA事務局へご連絡ください。   SGRAでは2012年から毎年、福島第一原発事故の被災地である福島県飯舘村でのスタディツアーを行ってきました。   そのスタディツアーでの体験や考察をもとにしてSGRAワークショップ、SGRAフォーラム、SGRAカフェなど、さまざまな催しを展開してきました。今年も第6回目の「SGRAふくしまスタディツアー」を行います。ぜひ、ご参加ください。   日 程:          2017年9月15日(金)、16日(土)、17日(日) 人 数:           10人程度 宿 泊:           「ふくしま再生の会-霊山(りょうぜん)センター」 参加費:           一般参加者は新幹線往復費用+1万2千円 (ラクーン会会員には補助が出ます) 申込み締切:       8月31日(木) 申込み・問合せ: SGRA事務局 角田 E-mail:  [email protected]  Tel:  03-3943-7612   プログラム・詳細
  • 2017.07.06

    第57回SGRAフォーラム「第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性:蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」へのお誘い

    下記の通りSGRAフォーラムを北九州市で開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。   テーマ:第2回日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性     「蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」   会 期: 2017 年 8 月 7 日(月)~9 日(水)     8月7日(月)16:00~17:00 基調講演     8月8日(火)9:00~12:40 14:00~18:00 論文発表     8月9日(水)9:00~12:00  全体討議・総括   会 場: 北九州国際会議場国際会議室   主 催:(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 助 成:(公財)鹿島学術振興財団 協 賛:北九州市/(公財)北九州観光コンベンション協会   参加費:無料(一般参加者の食事と宿泊は自己手配) 使用言語:日・中・韓同時通訳付き お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局([email protected], Tel:03-3943-7612)   ◇フォーラムの趣旨  東アジアにおいては「歴史和解」の問題は依然大きな課題として残されている。講和条約や共同声明によって国家間の和解が法的に成立しても、国民レベルの和解が進まないため、真の国家間の和解は覚束ない。歴史家は歴史和解にどのような貢献ができるのだろうか。  渥美国際交流財団は2015 年7月に第 49 回 SGRA(関口グローバル研究会)フォーラムを開催し、「東アジアの公共財」及び「東アジア市民社会」の可能性について議論した。そのなかで、先ず東アジアに「知の共有空間」あるいは「知のプラットフォーム」を構築し、そこから和解につながる智恵を東アジアに供給することの意義を確認した。このプラットフォームに「国史たちの対話」のコーナーを設置したのは2016年9月のアジア未来会議の機会に開催された第1回「国史たちの対話」であった。いままで3カ国の研究者の間ではさまざまな対話が行われてきたが、各国の歴史認識を左右する「国史研究者」同士の対話はまだ深められていない、という意識から、先ず東アジアにおける歴史対話を可能にする条件を探った。具体的には、三谷博先生(東京大学名誉教授)、葛兆光先生(復旦大学教授)、趙珖先生(高麗大学名誉教授)の講演により、3カ国のそれぞれの「国史」の中でアジアの出来事がどのように扱われているかを検討した。  第2回対話は自国史と他国史との関係をより構造的に理解するために、「蒙古襲来と13世紀モンゴル帝国のグローバル化」というテーマを設定した。13世紀前半の「蒙古襲来」を各国の「国史」の中で議論する場合、日本では日本文化の独立の視点が強調され、中国では蒙古(元朝)を「自国史」と見なしながら、蒙古襲来は、蒙古と日本と高麗という中国の外部で起こった出来事として扱われる。しかし、東アジア全体の視野で見れば、蒙元の高麗・日本の侵略は、文化的には各国の自我意識を喚起し、政治的には中国中心の華夷秩序の変調を象徴する出来事であった。「国史」と東アジア国際関係史の接点に今まで意識されてこなかった新たな歴史像があるのではないかと期待される。  もちろん、本会議は立場によってさまざまな歴史があることを確認することが目的であり、「対話」によって何等かの合意を得ることが目的ではない。  なお、円滑な対話を進めるため、日本語⇔中国語、日本語⇔韓国語、中国語⇔韓国語の同時通訳をつける。円卓会議の講演録は、SGRAレポートして3カ国語で発行する。   ◇プログラム   〇8月7日(月)16:00~17:00 開会と基調講演 【趣旨説明】三谷博(跡見大学) 【基調講演】葛兆光(復旦大学)「『ポストモンゴル時代』?―14~15世紀の東アジア史を見直す」   〇8月8日(火)全日円卓会議(9:00~12:40 14:00~18:00) 【問題提起】劉傑(早稲田大学) 【研究発表】 (1)四日市康博(昭和女子大学)「モンゴル・インパクトの一環としての『モンゴル襲来』」 (2)チョグト(内蒙古大学)「アミルアルホンと彼がホラーサーンなどの地域において行った2回の戸籍調査について」 (3)橋本雄(北海道大学)「蒙古襲来絵詞を読みとく」 (4)エルデニバートル(内蒙古大学)「モンゴル帝国時代のモンゴル人の命名習慣に関する一考察」 (5)向正樹(同志社大学)「モンゴル帝国と火薬兵器」 (6)孫衛国(南開大学)「朝鮮王朝が編纂した高麗史書にみえる元の日本侵攻に関する叙述」 (7)金甫桄(嘉泉大学)「日本遠征をめぐる高麗忠烈王の政治的狙い」 (8)李命美(ソウル大学)「対蒙戦争-講和の過程と高麗の政権をめぐる環境の変化」 (9)チェリンドルジ(モンゴル社会科学院歴史研究所)「北元と高麗との関係に対する考察―禑王時代の関係を中心に」 (10)趙阮(漢陽大学)「14世紀におけるモンゴル帝国の食文化の高麗への流入と変化」 (11)張佳(復旦大学)「『深簷胡帽』考:蒙元とその後の時代における女真族帽子の盛衰史」   〇8月9日(水) 午前:総合セッション(総括と自由討論) 司会進行:劉傑(早稲田大学) 【論点整理】趙珖(韓国国史編纂委員会) 【討論】(日中韓モから各1名が発問、その後自由討論) 【総括】三谷博(跡見大学)   関係資料はここからご覧いただけます。  
  • 2017.06.29

    レポート第79号「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」

    SGRAレポート第79号     中国語版    韓国語版 SGRAレポート第79号(表紙)     中国語版      韓国語版   第52回SGRAフォーラム 「日本・中国・韓国における国史たちの対話の可能性」 2017年6月9日刊行   <もくじ> <第一部>   【問題提起】「なぜ『国史たちの対話』が必要なのか-『国史』と『歴史』の間-」 劉 傑(早稲田大学社会科学総合学術院教授)   【報 告1】「韓国の国史(研究/教科書)において語られる東アジア」 趙 珖(ソウル特別市歴史編纂委員会委員長/高麗大学校名誉教授)   【報 告2】「中国の国史(研究/教科書)において語られる東アジア-13世紀以降東アジアにおける三つの歴史事件を例に」 葛 兆光(復旦大学文史研究院教授)   【報  告3】「日本の国史(研究/教科書)におけて語られる東アジア」 三谷 博  (跡見学園女子大学教授)   <第二部> 討 論 【討 論1】「国民国家と近代東アジア」 八百啓介 (北九州市立大学教授)   【討 論2】「歴史認識と個別実証の関係-『蕃国接詔図」を例に-」 橋本 雄 (北海道大学大学院文学研究科准教授)   【討 論3】「中国の教科書に書かれた日本-教育の『革命史観』から『文明史観』への転換-」 松田麻美子 (早稲田大学)   【討  論4】「東アジアの歴史を正しく認識するために」 徐 静波  (復旦大学教授)   【討  論4】「『国史たちの対話』の進展のための提言」 鄭 淳一 (高麗大学助教授)   【討  論4】「国史における用語統一と目標設定」 金 キョンテ (高麗大学校人文力量強化事業団研究教授)   円卓会議・ディスカッション モデレーター:南 基正(ソウル大学日本研究所副教授)、討論者:上記発表者ほか    
  • 2017.06.15

    蔡英欣「第7回日台アジア未来フォーラム報告『日本・韓国・台湾における重要法制度の比較―憲法と民法を中心に』」

    2017年5月20日、第7回日台アジア未来フォーラムが、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)と国立台北大学法律学院との共同主催で開催されました。今回は、「日本・韓国・台湾における重要法制度の比較―憲法と民法を中心に」をテーマとし、憲法上の国会制度、および民商二法分立・統一に焦点を当て、日本、韓国、台湾の専門家を招いて、各国の現行制度の説明と、今後の課題について検討しました。   開会式では、渥美国際交流財団の渥美伊都子理事長の開幕のご挨拶の後、日本台湾交流協会の塩澤雅代室長と台湾日本人会台日交流部の安東徳幸部会長よりご祝辞をいただきました。そして最後に、国立台北大学法律学院の林超駿院長より歓迎の挨拶と共同主催者と賛助団体への謝辞をいただきました。   続いて、アメリカハーバード大学のコーヤン・タン教授より、立憲主義、すなわち憲法の精神について、日本、韓国、台湾の憲法の歴史と現在までの発展について、全般的な比較を行う基調講演がありました。これら3国の憲法は、全て第二次世界大戦後に生まれたもので、また、どの国も日本の統治を受けていたにもかかわらず、相当程度の相違点が存在するという点でとても興味深いものでした。   タン教授はご報告の中で、主権、教育およびジェンダーについて3国の比較をした上で、3国ともに主権は国民にあり、また教育水準は一流であるが、ジェンダーについては日本と韓国は保守的であると指摘しました。40分という短い時間でしたが、日本、台湾、韓国の立憲の精神がわかりやすくまとめられ、さらに、各国が直面している国際問題、領土問題、高齢化問題など、私達が考えなければならない問題が提示され、とても内容の濃いご報告でした。   午前の部【憲法】では「日本、韓国、台湾における国会制度」が取り上げられ、タン教授のご報告に続いて、各国の立憲制度に対する私達の理解をより掘り下げるものとなりました。   まず、日本の東北大学の佐々木弘通教授より、日本国憲法上の国会の現状と課題についてご報告をいただきました。日本の国会の選挙制度の成り立ちから今日に至るまでの法改正の歴史、現在の選挙制度においては内閣の解散権が大きなものとなってしまっている問題、そして今後の調整についての考え方などをお話しいただきました。   つぎに、韓国慶星大学の孫亨燮教授より、韓国で法改正論が出ている下での国会の変化の概要をご報告いただきました。韓国においては大統領の権力が大きすぎて濫用のおそれがあること、憲法改正により一部の権限を国会と国務大臣に移譲する方法があることなどをお話しいただきました。   最後に、台北大学林超駿教授より、アメリカ法を参考とした台湾の国会議員の定数についてご報告をいただきました。台湾における国会議員定数の移り変わりが、民意の反映、議会運営などに対してどのような影響を与えたのかなど、台湾の法制度について一歩踏み込んだ観点からお話しいただきました。   続いて、石世豪教授(国立東華大学財経法律研究所)、林明昕教授(国立台湾大学法律学院)および陳愛娥准教授(国立台湾大学法律学院)の3名のコメンテーターより、それぞれ異なる角度から、国会、民意、および立憲制度の関係についてコメントをいただきました。   昼食後、まず台湾司法院前院長の賴英照教授よりご報告をいただき、判決中に外国法を引用する際に、理を説くのか、詭弁をなすのか、両者の間でどのようなバランスをとれば、判決に法律上の根拠があるとされ、また判決が社会の変化に対応したものとなるのかについての考え方をお話しいただきました。   午後の部【民法】では「民商二法分立・統一」が取り上げられました。まず、韓国成均館大学の権澈准教授より、韓国の立法制度の流れ、および、民商二法分立・統一に関する議論が日本や台湾ほどに注目されていない現実が報告されました。現代社会において、商人の場合の特殊性を過度に注視する必要はなく、民法を主体として調整を行うことができるが、この問題は討論するに値すると指摘されました。   ドイツ法の影響のもと、民商二法統一に近い考えを持つ日本と台湾については、日本東北大学の中原太郎准教授と、台北大学向明恩准教授より、制度の紹介をしていただきました。両教授ともに、商法学者と民法学者はもっと話合いの場を持つべきだとの見解を提示されました。 v   その後、民法学者である陳自強教授(国立台湾大学法律学院)、商法学者である廖大穎教授(国立中興大学法律学系)と張心悌教授(国立台北大学法律学院)よりコメントをいただき、異なる観点から、興味深い問題点を提供していただきました。   予定時間が大分オーバーしましたが、最後に、渥美国際交流財団の角田英一事務局長より、参加されたすべての専門家に対して謝辞が述べられ、参加者全員が今回のフォーラムに参加したことで、3国の異なる法制度の現状と今後の発展についての理解を深めることができたことを今後の研究に活かしたいとし、フォーラムは無事に閉会しました。   当日の写真   <蔡英欣(さい・えいきん)TSAI Ying-hsin> 2004年度渥美奨学生。2006年3月に東京大学で博士号を取得し、現在は国立台湾大学法律学院副教授。専門は商法。     2017年6月15日配信