SGRAカフェ

  • 2021.08.05

    ソンヤ・デール「第16回SGRAカフェ『安全であること―環境と感覚、ジェンダー、人種、セクシュアリティから考える―』報告」

    2021年7月17日(土)、第16回SGRAカフェが開催された。今回のカフェはSGRA関西の初イベントで、会場(インパクトハブ京都)とZoomのハイブリッド形式で開催された。コロナ禍の中で「安全」についてのイベントをすることは少し皮肉に感じられたが、会場ではマスク着用、消毒、ソーシャル・ディスタンスや体温測定などを実施し、できるだけ安全な環境が提供できるよう努力した。Zoom配信のためにマイクやカメラの設置などもあり、ハイブリッド形は普通のイベントの倍以上の準備が必要だと実感した。渥美財団とインパクトハブ京都のスタッフが、東京および京都で力強くサポートしてくださり、おかげで参加者登録者は100名(会場:15名、オンライン:86名)を超えた。   イベントでは3名のパネリストからそれぞれの活動を短く紹介していただいた後、フリートークを行った。司会は私、ソンヤ・デール(2012年度渥美奨学生)、Q&Aサポート役はイザベル・ファスベンダー(2017年度渥美奨学生)。パネリストは中島幸子氏(NPO法人レジリエンス)、キナ・ジャクソン氏(BLM関西、Black Women in Japan)とNPO法人いくの学園のスタッフのM氏だった。   NPO法人レジリエンスは性暴力やDV、虐待などの原因による心の傷やトラウマに焦点をあて、情報を広げる活動をし、支援者や被害者向けの研修や講演会を行っている。Black Women in Japan(BWIJ)は日本在住3000人以上のアフリカ系女性のオンラインコミュニティで、メンバーは幅広くヨーロッパ、イギリス、北中南米、カリブ、アフリカと日本から集まっており、情報交換、ネットワーキング、異文化交流などを行っている。BLM関西(Black Lives Matter関西)は差別撤廃に対する意識向上を目的とした活動と反黒人差別に関する教育プログラムを提供しており、NPO法人いくの学園は暴力や虐待、性的搾取など生活上の困難を抱えた人への支援活動を行っている。女性やLGBTなど誰もが尊重され、安心して暮らせる社会の実現に寄与することが目的で、相談支援、非公開シェルターなども提供している。   今回のテーマのきっかけとなったのは、以前働いていた大学で企画した二つの講演会である。その一つの講師が今回のパネリストの中島幸子氏で、講演会でストレートに投げかけた質問は「あなたは安全ですか?安全というのはどういうことですか?」だった。それまでずっと安全だと思っていた自分が、本当はそうではないかもしれないと初めて実感した。もう一つの講師は、関東に住んでいる黒人系のアメリカ人の記者、ベイ・マクニール氏だった。氏は黒人として、米国と日本で経験している暴力について話した。米国の場合、暴力はわかりやすい形で感じる―実際に投げられたり、打たれたり、すぐ体で感じるものである。しかし、日本の場合は、毎日少しずつ体の違うところを紙で切られるような感覚で、最初はこれぐらいなら我慢できると思ってしまうが、少しずつ傷が溜まってきて、気づいたらなぜか精神的に壊れている、ボロボロになっているという「ずるい暴力」だそうだ。   その話から暴力と安全の多様な形について、いろいろ考えさせられ、このイベントを企画することになった。論理的に安全について話すのと、実践的に話すのとは違うと感じており、学者より、さまざまな現場で活動している方を招待し、トークイベントという形でこの話題について話す・考えることができればと思った。目的としては結論にいたるのではなく、安全について考え始める、安全という概念のさまざまな側面に気づく、さまざまな現実を知るということだった。   トークでは、以下の話題が取り上げられた。   「安全」の概念について いくの学園のM氏が「安全」と「安心」の違いを指摘した。例えば安心を感じるために、自分が客観的に安全ではない行動をする、ということ。どのようなトラウマや経験があるのかを簡単に知ることはできないので、その人が行動する時にすぐ判断するのではなく、その行動が本人にとって必要なことであり、安心させることなのだという可能性を考える必要がある。中島氏によると「安全」と「安全感」は似ている事を指しているようだが、人が明らかに安全な環境にいるのに安全感がないという事例を挙げた。   制度と社会的なバイアス 「安心」「安全感」は感情・精神的なことを指しているといえる。しかし、安全は身体的・社会的・法的な側面がある。ジャクソン氏がBWIJのメンバーの経験を紹介し、国籍によってビザの期間が異なる話をした。1年間のビザしか取得できない人はさまざまな社会的な問題を抱え、生活にも大きく影響する。外国人は法的にみんな一緒だと思っていた自分にとって、この情報は衝撃的だった。   警察と安全についてもふれた。警察は人の安全を守る役割であるはずだが、その役割を果たしていない場合もある。特に性暴力やストーカー事件に関して、担当者が研修を受けたかどうかによって対応が大きく変わる。被害者が警察に助けを求めたことで警察からの二次被害を受けることが多いという事実は残念ながらある。   人に寄り添う社会をつくるため 多くの人は希望がない、と中島氏が指摘した。希望がないと生きる意味を感じるのが難しい。希望は人間にとって必須なものである。希望を見つける、与えることが重要だが、実は小さな行動から希望は少しでも与えることができる。その行動とは他人の存在を気づくことであり、他人とのつながりを少しでも作っていくことである。ジャクソン氏の提案は、人を素直にほめることだ。例えば、知り合いの靴がかわいいと思ったらその思いを言葉にし、「靴かわいいですね!」と本人に伝える。単純だと思われていることについて声をかけることで、相手の気持ちが少し明るくなるかもしれない。地域の人と交流し、周りにいる人たちとのつながりを作っていくことである。   安全でない環境にいる多くの場合、その理由を他人に伝達することは難しい。カナダにできたハンドサイン運動(あるしぐさをすることによって他人に「私は安全ではない」ということを伝える)や英国や米国にあるバーの注文暗号(ある飲み物を注文すると安全に感じていないとスタッフに伝わる)など、より安全な社会を作るための具体的な事例も紹介された。   一人の参加者からの質問は「被害に遭った人の力になりたい時、やりがちなミスや絶対にやめてほしいこと」だった。ジャクソン氏はその問題は自分の国・環境にはないと思わないでほしいと話した。「BLM運動は日本の問題ではない」ということをよく耳にするが、その意見を表している人は自分の周りをしっかり見ていないと指摘する。この問題はマイノリティに関してよくあり、例えばLGBTは周りにいないと思いがちの人もいる(絶対いるのに)。「人に寄り添う」ことは、人の存在を認めることでもある。なにかの理由で人や問題の存在を疑問視したい時、ひとまず自分の気持ちを探る必要があると思う。自分はなぜ人種差別は日本にないと思いたいのか、なぜLGBTは周りにいないと思いたいのか、と。素直に自分に向き合うことも大切である。   終わりに 90分はあっという間に立ってしまい、話題の表面にしか触れずにイベントが終わってしまった。オンラインで参加した方からの質問について話し合う時間もなく、もっともっと話したいと思いながら閉会した。結論はなかったが、安全について考え、より安全な社会を作るために、小さな一歩を踏みだせたと感じている。   パネリストの話から、「安全」のカギは人に寄り添うことだと感じた。現在の社会は他人に無関心になりやりやすい。しかし、人に声をかけることによって、その人の気分も変わるかもしれない。自分が一人ではないと実感することがとても大切で、特に孤独感が強くなっているコロナ時代において、他人の存在を忘れない、大事にすることも必要だと考えている。   これからも安全についてもっと考えていきたい。課題は、マイノリティの可視化と男性の参加者を増やすことだと個人的に考えている。今回のイベントのアンケートで、「Xジェンダー・その他」と「男性」を選んだ回答者の数は同じだった。これからイベントでも、様々な人がいることを前提にし、様々な経験を共有しながら理解および共感を増やしていきたい。また、社会において権力をもつ立場にいる多くが男性であることが現実なのに、男性の参加者が非常に少ないことも残念に思っている。人に寄り添う社会は、やはりすべての人の協力も必要なので、男性もこの話題に関心を持つように、何ができるのか考えていきたい。   今回のイベントは本当に「始まり」として感じており、これからも皆さんと安全について、考えていこう!   当日の写真   アンケート集計   <ソンヤ・デール Sonja Dale> ウォリック大学哲学部学士、オーフス大学ヨーロッパ・スタディーズ修士を経て上智大学グローバル・スタディーズ 研究科にて博士号取得。一橋大学専任講師、上智大学・東海大学等非常勤講師を担当。ジェンダー・セクシ ュアリティ、クィア理論、社会的なマイノリティおよび社会的な排除のプロセスなどについて研究。2012年度渥美財団奨学生。     2021年8月5日配信  
  • 2021.06.11

    第16回SGRAカフェ「安全であること ―環境と感覚、ジェンダー、人種、セクシュアリティから考える―」へのお誘い

    下記の通り第16回SGRAカフェを開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。   テーマ:「安全であること―環境と感覚、ジェンダー、人種、セクシュアリティから考える―」 日 時:2021年7月17 日(土)午後3時~4時30分 方 法: 会場(定員20名)とオンライン(Zoom)開催 会 場:Impact Hub Kyoto (〒602-8061京都市上京区油小路中立売西入ル甲斐守町97番地西陣産業創造會舘(旧西陣電話局)2階・3階) 言 語:日本語 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込:こちらよりお申し込みください   お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)       ■ テーマ「安全であること―環境と感覚、ジェンダー、人種、セクシュアリティから考える―」   日本社会は「安全」だと言われているが、「安全」であるということは何を指しているのだろうか?本イベントでは、様々な立場や視点から「安全」の意味および基準を考え直し、社会的な構造・環境と、その構造が個人に及ぼす影響について対談する。コロナ時代となった現在は社会格差が広がり、弱い立場にいる人たちがより危険な状況に陥りやすくなっている。ジェンダーや人種、セクシュアリティなど、様々な視点と立場から安全および社会における差別・不平等について話し合う。できるだけ多くの人々にとってより安全な社会をつくるために、自分は何ができるのか?自分にとって安全な場所を見つけるために何をすればいいのか?身近な問題から社会的な構造まで、安全について考えてみよう。   性暴力被害者の支援をしている中島氏やBLM活動をしているジャクソン氏、シェルター運営者など、さまざまな視点から安全について話し合う。本イベントの目的は、日本にいる人々の経験を知り、「知る」ことから活動につなぐことである。「安全」という単純に思われている概念を考え直し、自分は本当に「安全」と感じているかということを、参加者に考えてもらいたい。自分のまわりを安全にするため、もっと安全な環境を見つけるためにはどうすればいいのか、という実践的な話にまでつなぎたい。   会場とオンライン方式の同時開催で、質問はトークの中で受け付ける。東京の渥美財団ホールともオンラインでつなぎ、渥美奨学生有志がディスカッションに参加する。   ■プログラム   登 壇 者 スピーカー: 中島幸子(NPO法人レジリエンス) キナ・ジャクソン(BLM関西、Black Women in Japan) いくのがくえんスタッフ   司会/モデレーター:ソンヤ・デール(SGRA関西)   サポート:イザベル・ファスベンダー(同志社女子大学)
  • 2021.05.06

    陳龑「第15回SGRA-Vカフェ『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力の報告」

      3月20日(土)、第15回SGRA-Vカフェが開催された。コロナ禍のためオーディエンスは全員オンラインで参加する形式で行われたが、オンラインだからこそ日中韓「同時通訳・同時翻訳付き」の3言語開催が実現できたとも言える。今回の企画・準備・運営においては、新型コロナウィルス対策や新たなオンラインの可能性を探るさまざまな試みが行われ、視聴者の積極的な参加と財団スタッフの努力によって、世界中から集まった200人を超える参加者を満足させるウェビナーに「仕上げ」ることができた。   今回のテーマ設定の背景にささやかなストーリーがある。2年前に日中映画に関するSGRAチャイナフォーラムが北京で開催されたことをきっかけに、私は「いつか“アニメ”に関連するテーマも取り扱ってみたい」と思い始め、2019年度のチャイナフォーラムで大塚英志先生をお誘いして日本のマンガ・アニメ業界の特徴とされている「メディアミックス」について語っていただいた。その際の反響が良かったので、今度は東京で開催するSGRAカフェでもアニメに関連するテーマを取り上げたいという思いがあった。当初は「アニメの文化研究」をテーマに、と考えたが、具体的な話の「入口」がなかなか決まらなかった。その理由は、アニメ研究の歴史はあまり長くないにもかかわらず、メディアの発展に伴いアニメ自体の在り方も急速に変化し続けているということ、また、代表的な作品・作家・時代と現象の事例が意外と多いと言うことからであった。   悩んでいた時に、タイミングよく話題作が現れた…!――『鬼滅の刃』である。興行収入が『千と千尋の神隠し』を抜いて歴代ランキング第1位になり、原作のファンだけではなく、世界中のアニメファンやそれまでアニメに興味が無かった人々からも注目を集めていた。そこで早速、アニメーション研究家の津堅信之先生に「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」というテーマをお伝えし、講演内容を考えていただいた。偶然にも津堅先生の著書は中国語と韓国語にも翻訳されていたので、今回の3言語開催のウェビナーにとっては最適なゲストだったと言えよう。   当日は、同時通訳はもちろん、投影されるスライドも3言語対応で用意された。また、ウェビナーのQ&Aに寄せられたコメントをリアルタイムで3言語に翻訳するべく、渥美奨学生のみなさんもオンラインで待機してくださった。定時に開会後、2016年度奨学生の全相律さん(韓国出身)が渥美財団とSGRAの紹介をし、筆者(中国出身)から講演ゲストの津堅先生を紹介した。この部分のアレンジも運営側の特別な手配がうかがえる。   第1部の津堅先生の講演は、『鬼滅の刃』がヒットした理由の分析とその実像の説明から始まった。そして、実は『鬼滅』の劇場版(或いは映画版)は原作のファンをターゲットにして制作されただけで、そのビジネスモデルははるか前から日本のアニメ業界で形成されていたもので、一般人にまで広まる空前の大ヒットとなることは誰も想像だにしなかった、と説明された。スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫は、「(興行収入)100億円までは作品の実力、それ以上は社会現象」と語っている。今回その「社会現象」が起きた理由については様々な専門家が分析しているが、津堅先生は無視できない事実として2点挙げられた。一つは、新型コロナウィルスの感染拡大によって、多くの映画の公開が延期になり、映画館に生じた空き時間に『鬼滅』が集中的に上映されたこと。実際、とある映画館の4つのスクリーンで、15分おきに上映が始まるという普段ではありえない状況が起きていた。   もう一つは、劇場版の『鬼滅』の映像美やストーリー性の高さが原作のファンを満足させる質の高いものだったため、初期の段階で見に行った原作ファン(10日間で100億円を超えた)の口コミがかなり良く、原作ファン以外の観客も「それほど評判なら一度は見に行こう」と考え、非常に大きな相乗効果が生まれ、その「相乗効果」が「興行収入歴代トップ」の結果をもたらした。余談として、『鬼滅』の中で、「全集中」という言葉が出てくるが、これが実社会でもあらゆる場面で使われ、津堅先生によると「総理大臣が国会でも使っていた」とのことだった。(注:2020年11月2日の衆院予算委員会で『全集中の呼吸』で答弁させていただく」と答弁。江田憲司立憲民主党代表代行の質問に)   では、この大ヒットとなった『鬼滅の刃』現象は日本アニメの歴史の中ではどのように位置づけられるだろうか。津堅先生は、1960年代から日本アニメがたどってきた道を整理しながら、その「魅力」がどこにあるのを分析された。   戦後の代表作で日本初の長編アニメ『白蛇伝』の公開後、1963年の『鉄腕アトム』テレビシリーズが日本アニメの「特徴」と「伝統」を作り上げた。毎週30分が1話のサイクルで放映するパターンの定着である。当時は世界でもテレビアニメの供給がまだ少なかった時期で、先行していたアメリカのテレビアニメは1話5~10分の長さでギャグネタを1つだけ紹介するのが主流だった。それに対して、日本アニメは1話が30分だったので、キャラクターの感情をより豊かに描くことができた。その後、時代の変化と共にテレビアニメが多く制作されるようになった現在でも、この1話30分パターンが続いている。   70年代に入るとテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)と『機動戦士ガンダム』(1979年)が子ども向けではない複雑なストーリー、キャラクターの心理描写を重視し、「ヤングアダルト」向けという世界的に見て稀なジャンルを確立した。この頃からテレビアニメの人気作において、オリジナルのストーリーから長編アニメが制作され、映画館で公開される「劇場版」という新ジャンルが生まれた。以上の2点から、人気マンガを原作としてテレビアニメ化し、その後劇場版をつくるという一連の制作スタイルが一つの定型となり、これが『鬼滅の刃』へとつながっている。   80年代のアニメ業界はマンガ雑誌「週刊少年ジャンプ」連載のテレビアニメ化の全盛期を迎え、代表作の数々(『ドラゴンボール』『SLAM DUNK』『幽☆遊☆白書』『るろうに剣心』『One Piece』など)が、それぞれ異なるブームを形成した。スタジオジブリの活動が本格化した時期も80年代。宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(1984年)、『天空の城ラピュタ』(1986年)、『となりのトトロ』(1988年)など現代を鋭く批判し社会性を帯びた一連の作品が、それまでアニメに興味のなかった観客からも注目された。   90年代以後、人気マンガが原作の制作スタイルとジブリのオリジナルアニメ映画がそれぞれの発展を果たし、それに加えてアニメ制作におけるデジタル化が進み、日本独自のデジタル技術が発達した。   以上のように日本アニメの歴史を整理した後、津堅先生が日本アニメの「独自性」と「文化力」をまとめた。ジャンルが多様でヤングアダルト向け、また、3DCG(=3ディメンション・コンピュータグラフィックス)ではなく2D(=2ディメンション)デジタルを中心に発展してきた日本アニメが、国外に対する新たな日本文化として発信され、アニメの舞台になった国内スポットが注目されたり、登場する日本食が流行したりする現象をもたらした。   盛りだくさんだった講演後、第2部の対談では私自身がインタビュアーとなり、津堅先生と3つの話題を中心に語ってみた。まずは、講演の中では触れられていなかった『鬼滅』の内容について、主人公のキャラクター設定が従来の「ジャンプ系主人公」より「成長のスピードが遅い」「相対的に弱い」点についてお話を聞いた。津堅先生からみれば、これまでと大きな違いはなく、やはり日本アニメの伝統通り主人公が成長するプロセスを強調しながら表現している、と述べられた。また、「これから誰が日本アニメを見るのか」「観客の多様化や変化は日本アニメに影響するか」という話題に対しては、海外の観客が大幅に増えていることを前提として、日本アニメ自体を最初から世界向けに企画・制作すべきだというのが津堅先生のご意見だった。   最後に、津堅先生の研究の重要な論点の一つと繋がる「アニメ」と「アニメーション」の使い分けについて伺った。津堅先生は商業的アニメと芸術系のアニメーションの区別や、ファミリー向けと大人向けのジャンル分け、および制作スタイルの違いあるいは地域などによって言葉の定義が異なると説明された(例えば欧米では、ポケモンはファミリーの棚に、ジブリが「アニメ」に、ディズニーが「アニメーション」になど;中国でも「動画」「動漫」などがある)。また、こうした言葉の使い分けについては、地域の文化の中での変遷を分析することで理解が進むと強調された。   第3部のオーディエンスからのQ&Aでは、多くの質問の中から2012年度渥美奨学生のソンヤ・デールさんに代表的な内容をピックアップしてもらい、「日本アニメの海外展開」や「アニメ研究を始めたきっかけ」、「日本アニメの暴力表現」などについて津堅先生と筆者とがそれぞれの経験と理解からお答えした。   3言語「同時通訳・同時翻訳」を実現した初のオンライン版SGRAカフェが終わったが、SGRAでは今回の経験を生かして「次は英語の同時通訳もつけてさらにグローバルに発信する」を目指すらしい。今後のウェビナーがどのような「盛り上がり」を見せるのか、楽しみである。   当日の写真   フィードバックの集計   当日の録画     英語版はこちら     <陳龑(ちん・えん)CHEN Yan> 京都精華大学マンガ学部専任講師。2017 年度渥美奨学生。北京大学学士、東京大学大学院総合文化研究科修士・博士課程単位取得満期退学。研究領域はアニメーション史、日中アニメ・マンガ交流史、「動漫」「IP」の概念史など。研究以外、マルチクリエイター・プロデューサーとして日中コンテンツ業界にて活動中。     2021年5月6日配信
  • 2021.03.18

    15th SGRA-V Cafe Program and Note

            Program : プログラム  会议流程  會議流程  프로그램   Note      : 補足資料     补充材料   補充材料  보조자료      
  • 2021.01.25

    第15回SGRA-Vカフェ「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」へのお誘い

    下記の通り第15回SGRA-Vカフェをオンラインで開催いたします。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。聴講者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式で開催しますので、お気軽にご参加ください。   テーマ:「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」 日 時:2021年3月20 日(土)午後3時~4時30分(日本時間) 方 法: Zoomウェビナー による 言 語: 日中韓3言語同時通訳付き 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込:こちらよりお申し込みください   お問い合わせ:SGRA事務局([email protected] +81-(0)3-3943-7612)        ■ テーマ「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」   昨年の長編アニメ『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の大ヒットは、日本の現代文化におけるアニメ の強さをあらためて印象づけた。一方でアニメは大衆文化の中でも日陰の存在だった時期は長く、決して順調に発展してきたわけではない。そんなアニメが現在に至る歴史、世界的視野からみた独自性の確立、これまでにヒット・注目された作品の特徴、そしてアニメがこれからも発展し、日本を代表する大衆文化としての力を持続するための課題、展望について解説する。     ■ プログラム   第1部(15 :00-15:30) 司会: 陳 龑(京都精華大学マンガ学部専任講師)   講演「『鬼滅の刃』からみた日本アニメの文化力」 津堅信之(アニメーション研究家、日本大学藝術学部映画学科講師)   第2部(15:30-16:00) 対談/インタビュー   津堅信之×陳 龑   第3部(16:00-16:30) 質疑応答(会場+オンライン)   韓国語版サイト 中国語(簡体字)版サイト 中国語(繁体字)版サイト
  • 2020.10.01

    エッセイ647:尹在彦「SGRAカフェを終えて:半年間のコロナ対策の教訓と日本モデル」

      米国の調査会社ピュー・リサーチが最近、興味深い調査結果を発表した。14カ国を対象としたこの調査では「感染症の拡散を重大な脅威と認識しているか」が問われた。どの国が最も強く脅威を感じていたのか。1位は89%が「重大で脅威である」と答えた韓国で、2位は88%の日本だった。誤差を考えるとコロナへの両国民の脅威認識はそれほど変わらないと言って良いだろう(調査期間は6~8月)。他に米国78%、英国74%で、最下位はドイツの55%だった。極めて緩い対策を取ったスウェーデンも56%と低かった。   韓国のマスコミの報道ぶりや政府の派手な対応を見ていると高い脅威認識は十分うなずけるものだ。しかし、日本でこれほど脅威認識が高いのは意外だった。マスコミのコロナ報道は抑制的で、政府や自治体の対応も急速に緩くなっていったからだ。ここで浮き彫りになったのは、日本のコロナ対策というのは「非常に高い脅威を感じた個々人の努力で国全体を牽引している」ということだ。強制的措置がなかったにもかかわらず、JR各社が過去最大の赤字に陥るほど人々の移動は急減した。「日本モデル」というものがあるとするならば、それは個々人の行動変容の徹底ぶりだろう(これはたやすく真似できるものでないため、本当に「モデル」と呼べるかには疑問が残るが)。   今回のSGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」で感じたのも、各国のリポーターの報告と日本のケースとの「温度差」だ。ベトナムを除いた5カ国(日本・韓国・台湾・インド・フィリピン)は民主主義体制だが、移動制限や個人情報を基にした追跡技術が用いられている。「コロナ拡散を抑え込むため」という名目で一定程度、人権侵害が許されている。罰金刑を伴う移動制限やマスク義務化、営業制限は欧米諸国でも導入されている。もちろん、韓国や台湾は過去の失敗経験が一種の「社会的予防接種」として効果を発揮した側面も否めない。社会的合意のもとでの規制措置が採用された。数多くの島から成り立っているフィリピンや、膨大な国土と人口を擁するインドも強力な移動制限に踏み切るしかなかった。   日本は強硬路線をとらなかったものの欧米諸国のような「感染爆発」は起きていない。個人的には、コロナ禍の中で注意深く観察しているのが「コロナ・マスク否定論者の集会(反ロックダウンデモ等の反政府集会)」だ。そういった集会への参加者はいわば「反知性主義者」とも言うべき人々だが、それにしても欧米諸国が大切にしてきた価値を反映したものと言えなくもない。   また、少なからぬ日本のマスコミは韓国の感染症対策を「全体主義的」という論調で報じていたが、筆者は「韓国も民主主義国」と信じているため、やりすぎた措置と考えられる時にはいつでも激しい反発が出ると見ていた。それが8月15日の「反政府デモ」として表れる。デモ参加者については極めて愚かな行動だったとは思うが、欧米とは違う形とはいえ韓国も民主主義体制であることを証明したと思う。   それを考えると、日本の場合はやはり「異例」としか言いようがない。強権的な措置もなかったが、世論調査の半数以上が政府の対策に不満を表しつつも市民らの見える形での反発は非常に弱かった。渋谷で「ノーマスクイベント(クラスターフェス)」は開かれたものの、欧米や韓国と比較すると「みすぼらしい」ものだった。「自粛」という形での「自発的移動制限」が実行され、お盆休みにも新幹線の利用は大幅に減少した。これは個人の自由を強調する欧米諸国や権威主義体制の名残のある韓国・台湾にも、権威主義体制の中国・ベトナムにも属さない「日本的特徴」だ。   政府やマスコミとは別に「強く脅威を感じる個々人の対応が日本のコロナ対応を引っ張ってきた」といえるのではないか。否定的にのみ捉えられるいわゆる「自粛警察」もその意味では「日本モデル」を構成する一部分だ。地方のみならず、豊島区役所の職員さえ自粛警察と化した現象(営業中の飲食店を脅した疑いで逮捕)は見逃せない。他国では自粛警察の役割を本物の警察が担っており、ここでも日本の特殊性は鮮明に見えてくる(現代刑法は私的制裁を禁じるため、自粛警察をそのまま助長するわけにはいかないが)。ある意味、金田一耕助が警察より先に事件を解決する文化の継承(?)と言えなくもない(ちなみに筆者は横溝正史のファンだ)。   しかしながら、日本の緩い政策が経済的後退を防げなかった点は必ず考慮しなければならない。筆者の住んでいる国立市や隣の立川市の繁華街では閉店が相次いでいる。老舗の文具店(創業81年)やステーキ店(同30年)等が閉店してしまった。ある程度コロナの脅威を抑え込まない限り、経済の持ち直しは困難になるだろう。   SGRAカフェの報告から明らかになったのも、経済と防疫の両立が容易ではないということだ。   半年間のコロナウイルスとの戦いからの教訓は「感染拡大期に経済と防疫の両立は極めて困難であること」だ。コロナが弱毒化した明確な証拠やワクチンの開発がない間は、これは変わらないだろう。恐らく来年も今年のような「抑制と拡大の繰り返し」が続くのではないか。これまで「希望的観測」が次々と裏切られてきた経験からは、やはりそう考えざるを得ない。最悪を想定した上でのコロナ対策がむしろ最も効果的かもしれない。   当日の写真はこちらよりご覧いただけます。   当日のアンケート集計結果はこちらご覧いただけます。   当日の録画(YouTube)を下記リンクよりご覧いただけます。     英語版はこちらよりご覧いただけます。     <尹在彦(ユン・ジェオン)Jaeun_YUN> 2020年度渥美国際交流財団奨学生、一橋大学大学院博士後期課程。2010年、ソウルの延世大学社会学部を卒業後、毎日経済新聞(韓国)に入社。社会部(司法・事件・事故担当)、証券部(IT産業)記者を経て2015年、一橋大学公共政策大学院に入学(専門職修士)。専攻は日本の政治・外交政策・国際政治理論。共著「株式投資の仕方」(韓国語、2014年)。     2020年10月1日配信  
  • 2020.10.01

    尹在彦「第14回SGRAカフェ『国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策』報告」

      現在、全世界が様々な形でコロナウイルスと向き合っている。各国政府はもちろん、あらゆる団体や個々人まで何らかの対応を取らざるを得ない状況だ。ウイルスの危険性が完全には判明していないため、気を緩めることも難しい。世界中どこでもこのような認識を前提に、対策がとられている。   2020年9月19日(土)に開かれた今回のSGRAカフェのテーマ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」もまさにここに焦点が当てられていた。渥美財団ホールを会場としてスタッフを含め20人余りが参加し、世界各地からZoomでの参加者も50人に達した。誰もが認識している現実問題のため高い関心が寄せられた。15時にスタートした今回のSGRAカフェは17時に公式イベント(講演・報告・質疑応答)が終了し、後半の「懇親会」(1時間)では自由な雰囲気の中で議論が行われた。   まず、日本、とりわけ東京の対応について最前線で戦っている大曲貴夫先生(国立国際医療研究センター国際感染症センター長)よりお話をいただいた。クルーズ船(ダイヤモンド・プリンセス号)や第一波への対応の問題点を踏まえ、次第に対応が改善されていった。検査体制が整備され、待機時間は飛躍的に減らされた。まだ特効薬はないものの、治療法が改善された結果7月から始まった第二波では、死亡者や重症者多少減少した(高齢者は依然として油断はできない)。   大曲先生の30分間の講演後、韓国(金雄熙_仁荷大学教授)、台湾(陳姿菁_開南大学副教授)、ベトナム(チュ・スワン・ザオ_ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員)、フィリピン(ブレンダ・テネグラ_アクセンチュアコンサルタント)、インド(ランジャナ・ムコパディヤヤ_デリー大学准教授)の順で元渥美奨学生のみなさんの現地報告(Zoom)が続いた。   韓国からはIT技術を活用した追跡・隔離措置とともに、国内政治の複雑な状況がもたらした感染拡大についての説明があった。コロナ対応が単純に感染症対策にとどまらず、政治問題に飛び火する構図が良くわかる。初期からコロナを抑え込んでいた台湾からも、奏功したIT技術の役割とともに経済との両立問題(国境開放)が述べられた。ベトナムでは国を挙げての対策がとられたが、気のゆるみで第二波の際には苦戦した。現在は厳しい政策の下、落ち着きつつある。宗教的な儀礼としての疫病退散も紹介された。フィリピンとインドでは依然として感染拡大が続いている。フィリピンは数多くの出稼ぎ労働者の帰国という悩ましい問題を抱えながらコロナと戦っている。インドでもIT技術を通じたコロナ対策が導入されているものの人口の多さゆえに対応に苦慮している。   質疑応答(16時半より30分間)は会場とZoom接続の参加者の両方からリアルタイムで行われた。東京の満員電車問題、コロナの後遺症等についての質問が大曲先生に出された。満員電車の場合は、高いマスク着用率を考えると危険性はそれほど高くないが、後遺症については十分注意する必要があるとの説明があった。大曲先生も自らリポーターに積極的に質問を投げかけたのが印象的だった。質疑応答の後、会場+オンラインの「ハイブリッド懇親会」も用意され、比較的自由な雰囲気で各国の状況や教育現場の課題等の話が交わされた。   過去にお世話になったとある奨学財団では、9月にようやく顔合わせ会を開催したと聞く。それを考えると、渥美国際交流財団のスタッフの方々の安全かつ楽しい交流会への取り組みには感謝申し上げたい。今回のSGRAカフェはある意味、新たな試みとして他の交流団体にも十分参考となり得ると思う。司会としても有意義な経験だった。 (文責:尹在彦)   当日の写真はこちらよりご覧いただけます。   当日のアンケート集計結果はこちらご覧いただけます。   当日の録画(YouTube)を下記リンクよりご覧いただけます。   <尹在彦(ユン・ジェオン)Jaeun_YUN> 2020年度渥美国際交流財団奨学生、一橋大学大学院博士後期課程。2010年、ソウルの延世大学社会学部を卒業後、毎日経済新聞(韓国)に入社。社会部(司法・事件・事故担当)、証券部(IT産業)記者を経て2015年、一橋大学公共政策大学院に入学(専門職修士)。専攻は日本の政治・外交政策・国際政治理論。共著「株式投資の仕方」(韓国語、2014年)。   2020年10月1日配信
  • 2020.08.20

    李彦銘「第13回SGRAカフェ『ポストコロナ時代の東アジア』報告」

    今回のカフェはバーチャルカフェ(以下Vカフェ)という形をとり、延べ100名ちかくの参加が実現でき、SGRAカフェ史上最大規模となったといえよう。この成果は「ポストコロナ時代の東アジア」というタイムリーなテーマ、林泉忠先生をはじめとする講師陣、それからバーチャル形式という新しい実現手段の魅力を語ってくれた。   当日のVカフェは講演と懇親会の2部構成となったが、本レポートは講演内容を中心に報告し、懇親会については林先生のレポートに譲ろう。林先生の講演はまず現在の状況に対する見方、つまりグローバル時代の終焉から始まった。その具体例として、グローバルサプライチェーンの断絶や企業の自国内への回帰、人的交流の一時中断とナショナリズムの高揚、またウイルスに対する初動と「香港国家安全維持法」(国安法)の制定・実施をめぐって世界各国の中国に対する不信感が増長していることが挙げられた。   その後は、米中「新冷戦」が顕在化する状況における東アジア各国の関係性の変化について見解が述べられた。日韓にとっては、米中とどのようにバランスを維持していくのかが最大の問題であるが、中国が日韓と米国を分断させる戦略に乗り出している一方で、日韓の間で軋轢の深刻化が止まらない。日中は最近2年間の「疑似蜜月」関係から「中熱日冷」へと転換したと主張され、またこの日中友好の状態は主に中国主導によるものであったが、現在は日本の対中イメージが悪化する一途であり、習近平主席の国賓訪日もあやふやな状態になったと指摘された。中韓関係もまた、中国が主導しているように見え、韓国外交は主体性を持って臨んでいないと指摘された。   ではコロナが鎮静化したら中国の影響力は一気に強まるのか。まず香港に対し、中国政府は英米などの反発や批判を無視して権威主義体制へ移行させるだろう(1997年より以前の香港は行政主導+半植民地)。一方で台湾に対しては、新型コロナウイルス騒動は予想外の効果、つまり大陸と距離を維持することは悪いとは限らないという見方をもたらした。これは北京の「両岸融合」「恵台31カ条」のような急進的な政策による逆効果ともいえよう。これに加えて「香港統制」は台湾にさらなるプレッシャーをもたらし、また香港という緩衝地帯を失う結果、台湾の対米依存はさらに増すだろうという。   以上の議論を踏まえ、ポストコロナの時代は「新冷戦」時代が到来すると講演を結んだ。香港、台湾はこの新冷戦の激戦地になるだろう。11月の米大統領選の結果も注目しなければならないが、米国内では対中政策の合意がすでに出来上がっており、新冷戦はもはや回避できないと予測される。世界は米中2大ブロックに分割されるのか。今後日本に問われるのは主体性がある行動・リーダーシップである。   コメントとしてまず下荒地修二先生から、コロナの問題は国際社会に予想外のことをたくさんもたらし、相互不信もその一部ではあったが、現在はウイルスという共通敵にどう対処すればいいのかという段階に来ているではないかと指摘された。それから日中関係の改善は望まれる方向で、どちらが主導かということは重要ではなく、肝心なのは国際秩序をどのように建設的な方向へ持っていくのかであり、特に大国の間では議論をしなければならないと提起された。   南基正先生からは、ニューオーダー(new_order)としてポストコロナの国際秩序を考えるときに、国際政治のリアリズム理論の枠を超えなければならないと指摘された。コロナ問題によって各国では、アイデンティティ・ポリティックスから脱皮し、人々の生活を中心とする政治を構築する必要があることが浮き彫りになった。アイデンティティ・ポリティックスにこだわる結果、日韓関係には破綻が起るだろう。しかしコロナなど生活を中心とする政治の観点から見れば、ナショナリズムに訴えても問題は解決できない。アイデンティティやナショナリズムに訴えても票にならないことを、コロナは政治家に悟らせたのではないか。また政治家は政権のレガシーとして何を残すのかを考えるべきであり、特にミドルパワーの国々や日韓に期待したいという。   講演部分はここですでに1時間45分になり、一段落となった。個人的な感想は、まず長い時間をかけてさらに議論したい話題がたくさん出て、研究者として非常に興味深い集まりであった。もう一つは、一人の市民として、今後の国際秩序をどう展望し、そしてどう行動していけばいいのか、という大きな課題を改めて考えさせられたことである。一個人の力は本当に小さいものであり、そして懇親会でも指摘されたように、個人にとってアイデンティティは容易に越えられるものではない。まして政治情勢や情報制限、マイナスの歴史といった「人的操作」を受ければ、恨みや偏見が生まれやすい。しかしそこであきらめていいのか。この半年の間、外出自粛や会合自粛のなか、私も自分自身が閉塞感を感じたり事を悲観的にとらえやすくなったと感じたりしたが、そのバイアスで見落としてきた積極的な要素も現実に存在するのではないか。   英語版はこちら   当日の写真   <李彦銘(リ・イェンミン)LI_Yanming> 専門は国際政治、日中関係。北京大学国際関係学院を卒業してから来日し、慶應義塾大学法学研究科より修士号・博士号を取得。慶應義塾大学東アジア研究所現代中国研究センター研究員を経て、2017年より東京大学教養学部特任講師。       2020年8月20日配信
  • 2020.08.07

    第14回SGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」へのお誘い

    SGRAでは、良き地球市民の実現をめざす皆さまに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺い議論をする<場>として、SGRAカフェを開催しています。今回はオンラインZoomと渥美財団の会場とを繋ぎ、リアルとバーチャルを組み合わせて開催します。皆さまのご参加をお待ちしています。 ◆第14回SGRAカフェ「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」 日時:2020年9月19日(土)15時00分~17時00分(日本時間) 参加方法:オンライン(Zoom)または渥美財団へご来訪かを参加登録時にお選びいただけます。 言語:日本語のみ 会費:無料 定員:オンライン:100名/渥美財団へご来訪:15名   (人数に達した時点で申込を締め切らせていただきます)   参加申込:こちらよりお申込みください お問合せ:[email protected] ◇プログラム 14:45 Zoom接続開始 司会:尹 在彦 15:00 開会挨拶 15:10 講演:大曲 貴夫「国際的観点から見た日本の新型コロナウイルス対策」 15:40 コメント(10分)&各国リポート5ヵ国(1人5分程度) 16:20 質疑応答(会場+オンライン) 17:00 終了 17:00~ご希望の方々によるZoom懇親会(18:00頃終了予定)   趣旨: 新型コロナウイルス(COVID-19)は世界を席巻し、各国は感染拡大防止と社会経済活動の両立を目指して試行錯誤を繰り返しています。日本でも一旦終息に向かうかに思われた感染も再び勢いを増し、先行きの不透明感は深まっています。一方で、新型コロナウイルスについての知見、研究成果も蓄積されつつあります。今回のSGRAカフェでは、国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲貴夫先生をお招きして新型コロナウイルスとはなにか、日本の新型コロナウイルス対策の特徴と現状についてのお話を伺うと共にアジア各国からのリポートを交えての対話を行います。更に「感染症とリスクコミュニケーション」、「防疫の国際協力」等の議論も行いたいと思います。   講演要旨:「国際的観点から見る日本の新型コロナウイルス対策」大曲 貴夫 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、新しく発生した感染症としてその診断、治療、感染防止対策が医療上の大きな課題となっている。そればかりでなく、この感染症が社会全般特に経済に及ぼす影響は極めて大きく、COVID-19の影響が今後数年以上継続すると予想されているなかで、この脅威に社会としてどのように対応するかは国際的な大きな課題となっている。日本では1月に患者発生が始まり、3-5月には第一波と呼ばれる多数の重症患者の発生に対応してきた。そして6月以降は軽症患者を中心とした新たな波への対応を迫られている。今回の講演では日本の現状と、今後この感染症にどのように向き合っていくべきかについて、私の意見をお伝えしたい。 ◇略歴 講演:大曲 貴夫(おおまがり のりお) 国立国際医療研究センター国際感染症センター長 理事長特任補佐、DCC科長感染症内科医長併任 聖路加国際病院内科レジデント 国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター長(兼任)   司会:尹 在彦(ユン ジェオン) 一橋大学大学院 国際関係論専攻/元新聞記者(毎日経済新聞・韓国) リスク・コミュニケーションや経済・移動制限政策を中心にコロナ時代における国際社会の変容をウォッチしている。   リポーター: 韓  国:金 雄熙(1996渥美奨学生) 仁荷大学国際通商学科教授。筑波大学 博士(国際政治経済学) 国際通商論を専攻するが国際政治経済、グローバリズムの展開も研究領域としている。   台  湾: 陳 姿菁(2002渥美奨学生) 開南大学副教授。お茶の水女子大学 博士(日本語教育)。日本語教育、中国語教育等の学習評価に焦点を当てている。   ベトナム : チュ スワン ザオ(2006渥美奨学生) ベトナム社会科学院文化研究所上席研究員。総合研究大学院大学博士(文化人類学)。新型コロナウイルス感染症を背景に疫病と人類の文化・宗教との関わりに注目している。   フィリピン : ブレンダ テネグラ(2005渥美奨学生) アクセンチュアコンサルタント・チームリード。お茶の水女子大学博士(社会学)。 ジェンダー、海外出稼ぎ労働者、送金の複層的政治に関心がある。   イ ン ド:ランジャナ ムコパディヤヤ(2002渥美奨学生) デリー大学准教授。東京大学博士(宗教社会学)。現在、ポストコロナ時代における人間関係と教育問題に焦点を当てている。   プログラム
  • 2020.06.17

    第13回SGRA-Vカフェ「ポストコロナ時代の東アジア」へのお誘い

    SGRAでは、良き地球市民の実現をめざすみなさんに気軽にお集まりいただき、講師のお話を伺い議論をする<場>として、SGRAカフェを開催しています。今年は初めての試みとして、オンラインZoomによるSGRA-Vカフェを開催します。オンライン参加ご希望の方は、事前にSGRA事務局宛てお申し込みください。 みなさまのご参加をお待ちしています。   ◆第13回SGRA-Vカフェ「ポストコロナ時代の東アジア」   日時:2020年7月18日(土)15時~16時30分(日本時間) 参加方法:オンライン(Zoom)による 言語:日本語のみ 会費:無料 定員:100名(人数に達した時点で申込を締め切らせていただきます) 参加申込・問合せ:SGRA事務局 <[email protected]> 申込内容:お名前・居住国/都市・ご所属・Zoom接続用メールアドレスをお送りください。 ※事前参加登録していただいた方に、カフェ前日に招待メールをお送りします。 ※ 事前に Zoom 接続テストをご希望の方は、参加申込メールでお知らせください。担当者よりテス ト日について折り返しご連絡差し上げます。接続方法、ミュート機能の ON/OFF の切り替え、 チャットの見方などについてご不安な方はどうぞお気軽にご連絡ください。   ◇プログラム   14:45 Zoom接続開始 司会:李彦銘 15:00 開会挨拶・講師コメンテーター紹介 15:10 講演:林泉忠 15:50 コメント:下荒地修二、南基正 16:05 質疑応答 16:25 まとめ・閉会挨拶 16:30 終了   講演要旨: 世界を震撼させた2020年の新型コロナウイルスが世界システムをかく乱し、「ポストコロナ時代」の国際関係の再構築が求められる中、東アジアはコロナの終息を待たずに、すでに激しく動き始めている。 コロナが発生するまで、中国のアメリカと日・韓の分断戦略はある程度効いていた。しかし、コロナ問題と香港問題によって「米中新冷戦」が一気に進み、今まで米中のバランスの維持に腐心してきた日韓の選択が迫られる。とりわけ日中の曖昧な「友好」関係の継続はいよいよ限界に達し、日本の主体性ある「新アジア外交戦略」が模索され始めている。 中国による「国家安全法」の強制導入で、香港は一気に「中国システム」の外延をめぐる攻防の激戦地になり、米中新冷戦の最前線になる。香港という戦略上の緩衝地帯を喪失する台湾は、「台湾問題を解決する」中国からの圧力が一段と高まり、アメリカとの安全保障上の関係強化を一層求めることなり、台湾海峡は再び緊迫した時代に入る。「ポストコロナ時代」における「米中新冷戦」が深まっていくことはもはや回避できない。   略歴: 林泉忠(りん・せんちゅう Lim Chuan-Tiong) 国際政治学専攻。2002年東京大学より博士号を取得(法学博士)。同年より琉球大学法文学部准教授。2008年よりハーバード大学リサーチ・アソシエイト、2012年より台湾中央研究院近代史研究所副研究員、国立台湾大学兼任副教授、2018年より台湾日本総合研究所研究員、香港アジア太平洋研究センター研究員、中国武漢大学日本研究センター長、香港「明報」(筆陣)主筆、を歴任。 著書に『「辺境東アジア」のアイデンティティ・ポリティクス:沖縄・台湾・香港』(明石書店、2005年)、『日中国力消長と東アジア秩序の再構築』(台湾五南図書、2020年)など。   下荒地 修二(しもこうじ・しゅうじ SHIMOKOJI Shuji) 日本の元外交官、中国、韓国などの勤務を経て、駐パナマ大使や駐ベネズエラ大使を歴任。   南基正(ナム・キジョン NAM Ki-Jeong) 専門は戦後日本政治外交。東京大学で「朝鮮戦争と日本― ‘基地国家’ における戦争と平和」の研究で博士号を取得。東北大学法学研究科助教授・教授、韓国・国民大学国際学部副教授、ソウル大学日本研究所副教授を経て、同研究所教授。   李彦銘(リ・イェンミン LI Yanming) 専門は国際政治、日中関係。北京大学国際関係学院を卒業してから来日し、慶應義塾大学法学研究科より修士号・博士号を取得。慶應義塾大学東アジア研究所現代中国研究センター研究員を経て、2017年より東京大学教養学部特任講師。   プログラム詳細およびレジュメ