SGRAイベントの報告

文景楠「第8回アジア未来会議AFCフォーラム4『東北地方の自然再生エネルギーの課題:3.11後の変化と課題』報告」

 

2026年8月26日に仙台市で開かれた第8回アジア未来会議AFCフォーラム「東北における再生可能エネルギーの将来:3.11後の変化と課題」では、東京電力福島第一原子力発電所事故以後のエネルギー政策において重要な争点の一つとなっている再生可能エネルギーをめぐって、さまざまな立場を有する3名の報告者と1名の指定討論者による発表と討論が行われた。

 

再生可能エネルギーに対して私のような門外漢が抱くのは、「環境に優しいクリーンでよいもの」といった程度の認識だろう。しかし、同じくクリーンなエネルギーと呼ばれることがある原発が引き起こしうるおよそ最悪の事態を経験した東北が直面している現実は、こんなに単純なものではない。本フォーラムは、再生可能エネルギーをめぐって何が起こっているのかを踏まえたうえで、基本となる論点を整理するためのものだった。

 

本フォーラムを企画した東北学院大学国際学部教授の松谷基和氏による開会挨拶の後、秋田大学情報データ科学部准教授の古林敬顕氏によって、「東北地方における再生可能エネルギーの現状と課題」という発表が行われた。古林氏は、日本全体のエネルギー供給の内訳や、温室効果ガス排出量の推移といった根幹となるデータを読み解きながら、基本的には再生可能エネルギー政策を推し進めていく必要があること、また、その際に東北地方が特に重要な位置づけを有していることを明確に示した。同時に、再生可能エネルギー政策の導入過程で生じうる問題にも目配りし、該当する地域の当事者にどのように利益を還元するのかを考えることが重要であるとの指摘も行った。

 

続いて、福島テレビ報道部に所属し、再生可能エネルギーを扱ったドキュメンタリー『かげる針路』の製作者でもある古川峻氏によって、「原発被災県における再エネ導入と課題:福島県の事例」と題する発表が行われた。古川氏は、福島県で進められているメガソーラー建設が「光害」などのさまざまな問題を引き起こしている事例を丹念に追い、国や事業者、自治体がそれぞれの合理性を個別に発揮するのではなく、互いへの信頼をもとに地域社会との共生を実現する政策づくりを目指すことが必要だと論じた。

 

最後に、NPO法人ふくしま再生の会理事長である田尾陽一氏が「原発被災からの再生とエネルギー:福島県飯舘村の事例」という発表を行った。自身が原子爆弾の被爆者でもある田尾氏は、原発事故で全村避難を余儀なくされた飯舘村で、科学的な調査をもとにコミュニティーの生活を立て直す活動を実践してきた。田尾氏は、われわれがエネルギーにまつわる多様な論点を評価する際の基礎となる判断基準を、自然と人間の共生、そして地域の主体性という二つの軸をもとに新たに設定したうえで、現在の再生可能エネルギー政策が特に後者を十分に考慮したものになっていないと指摘した。

 

3者による発表に続いて、ナンテール大学(フランス)博士課程に在籍中のアマリス・コルニヨン氏による指定討論が行われた。同氏は、他の発表者と同じく自身も再生可能エネルギーの問題を政治的な文脈から考えていることを明示したうえで、エネルギーシステム全体を一つの「問題解決マシーン」として見るという発想を提示した。ポイントとなるのは、同システムは単にエネルギーを生み出すだけでなく、関係者の利益やリスクといったさまざまな要因を取り込みながら動くという点である。ここまでのコメントを踏まえてコルニヨン氏が特に注目したのは、発表者全員がおおむね賛同する「脱中心化」という目標をどのように実現するのかという問いだった。

 

自由討論では、この問いをめぐって各発表者が互いの見解や経験を共有した。時間の制約もあり十分に論じ尽くすことはできなかったが、例えば、脱中心化の主体となる地域の住民に利益を還元することは重要だが、そもそも地域の住民自身がそこまでの関心を持たない(または、持てない)場合があることや、地域社会の意見をまとめる際に生じうる地域内でのジェンダーバイアスをどのように扱うべきかといったデリケートな論点が言及された。

最後に、本フォーラムは松谷氏による閉会の挨拶をもって幕を閉じた。

 

司会として発表と討論を聴講した私は、本フォーラムが今まさに東北において話題となっている――しかし全世界と関係する――アクチュアルな争点を論じていくための基本的な視座を与える重要な場となったと感じる。今後は、アジア未来会議を構成する中心メンバーである東南アジアからの参加者も巻き込みながら、さらなる対話が展開されることを期待したい。

 

当日の写真

 

<文景楠(ムン・キョンナミ)MOON Kyungnam>

東京大学大学院博士後期課程修了。博士(学術)。現職は法政大学文学部准教授。専門分野は古代ギリシア哲学、特にアリストテレス。主な著作:「Λ前半部の展開」(『ギリシャ哲学セミナー論集』19、1-14頁、2023)、「アイティアーのもつれ」(『哲學』73、363-374頁、2022)、“Aristotle’s disturbing relatives”(Apeiron、vol. 54、pp. 451-472、2021)など。

 

 

 

2026年10月1日配信