日比共有型成長セミナー

  • 2013.07.17

    エッセイ380:マックス・マキト「マニラ・レポート2013年夏」

    2013年6月19日から21日まで、マニラにあるアジア開発銀行(Asian Development Bank, ADB)の本部で開催されたGlobal Development Network (GDN) の第14回年次グローバル会議に出席するため、マニラに一週間ほど帰った。論文発表をしないのに、飛行機代や会場の近くにある五つ星のホテルの滞在費などを補助してもらえたし、「不平等性、社会保護、包括的成長」(Inequality, Social Protection, Inclusive Growth)というテーマがSGRAフィリピンのテーマである「持続可能共有型成長」(Sustainable Shared Growth)と関わっているので、大学は夏学期の最中であったが、スケジュールを調整して、世界中から集まった400人余りの経済開発研究者との議論に参加することにした。   アキノ大統領による基調講演では、フィリピン政府の、不平等性改善のための重要な対策である、条件付き補助金制度(Conditional Cash Transfer)が取り上げら れた。貧しい子供達が学校に通うことを条件に、現金が与えられている社会保護措置である。会議のなかでも、これについていくつかの興味深い研究が発表された。   本会議や分科会の間、僕はできるだけ参加者と話して研究やアドボカシーの可能性を摸索した。今後もさらに可能性を追求していきたいと思っている。セッションの質疑応答でも活発な議論があり、議長は大体の場合、参加者の勢いに負けないよう に必死だったし、できるだけ多くの人が質問できるように取り纏めていた。運よ く、僕はセッション中に質問の機会が2回まわってきたが、時間の制限で質問できなかったことも多かった。そのため、できるだけ、発表者を休憩時間中に捕まえて議論した。僕が質問したことは、重要だと思うので、下記のとおりご報告させていただきたい。   一つは「アジアや太平洋における包括的成長の実施」(Operationalizing Inclusive Growth in Asia and the Pacific) というテーマの分科会であった。発表者全員がADBの研究者だった。参加者が後ろの方に集まり、会議の間にさらに減ってしまいそうだったので、座長は「質疑応答の時に互いの顔がよく見えるよう に」前の方に移動するように促した。僕はすでに前のほうに座っていたので、移動の必要性がなかった。ADBの研究者が一般参加者との対話を嫌う傾向があるという印象を、僕はこの学会の早い段階で受けていたので、これで少し和らげることができてよかったと思った。   ADBの発表者の話を聞きながら、自分の頭で整理しようとしたのは、ADBが積極的に進めている「包括的成長」は以前の「共有型成長」とどう違うか、ということであった。どうしても発表者に確認しておきたかったので質問を投げかけた。「共有型成長」は1993年に世界銀行が発行した「東アジアの奇跡」という報告書で取り上げられた。発表者の一人が示した「成功した東アジア」がこの報告書の対象となっているが、日本を含むこれらの国々が成功できた理由の一つは、政府が行なった戦略的産業政策であると分析されている。発表者であるADBの研究者の報告を聞くと、両方の成長概念・開発政策・戦略が、貿易による地域統合、人材育成や雇用創出と言ったところで一致しているように聞こえた。ただ、雇用創出に関しては、一人の発表者が熱心に語ったものの、包括的成長の中では後からの思いつきのような存在だと受け止めざるをえなかった。これは一人が発表したADBの評価報告で最も明確だったと思う。ADBがあなたのプログラムをどう評価するか、ADBにとって何が重要であるか、明確に教えてくれる。ADBが発表した評価報告をみると、包括的成長は社会保護(=SAFETY NET、つまり人材育成や失業対策)を強調しているようである。この理解で行くと、次のフィリピンの事例のような問題がでてくるのではないか。フィリピンで教育を受けさせ、看護師やコール・センター従業員などを育てることは、果たして今のフィリピンにとって良いのだろうか。というのは、このような開発モデルに乗れば、フィリピンの早期非産業化(EARLY DE-INDUSTRIALIZATION)がますます深刻になりかねかないからである。僕は、今のフィリピンは、製造業を育てなくてはいけないと考えている。   例の「成功したアジア」を取り上げたADBの発表者は、正しい雇用創出がやはりフィリピンにとって重要で、この早期非産業化の議論をフィリピンで深める必要があると賛成してくれた。包括的成長の生みの親のようなもう一人のADB報告者(日本人ではないらしい)は、言葉的に両方の成長は似ているが、共有型成長のほうは「機会の平等性」を無視しているのではないか、と答えてくれた。この答えは先の僕の理解を確認できたと僕は受け止めている。教育のためにお金がない人々に補助金を提供したり、解雇者を救ったりすることは大事であるが、先ほどの早期非産業化の問題の解決策にならず、フィリピンは「中所得の罠」から益々脱出できなくなる。   もう一回質問の機会を与えられたのは、フランスに本拠を置いているFERDI財団(FONDATION POUR LES ETUDES ET RECHERCHES SUR LE DEVELOPPEMENT INTERNATIONAL、国際開発の研究財団)が設けた 分科会であった。   そこでは、被援助国の災害に対する脆弱性を含む成果主義の評価に基づくODAの配分について報告された。それに対して、指定のコメンテーターが、「このようなシステムは被援助国の政策者にとって難し過ぎて、下手をすると贈与の金額が削減される可能性がある。援助の政治経済学を念頭に置きながら、評価の提案を批判しなければいけない」と強調した。つまり、これ以上ODAの配分を複雑化するな、というコメントだった。   東京大学の博士論文や名古屋大学で研究員として研究をしていたときに、僕も日本のODAについて近代経済学の観点から研究したことがあるので、先のコメンテーターに対して、「政治経済といっても、ODAは政治家・官僚が参加している交渉テーブルではなく、最終的な恩恵者である被援助国の国民のところで終わるものである」と指摘した。FERDI財団が設けようとする成果主義のODA評価システムは、被援助国の政府の成績を評価する道具にもなりえるので、国民にとってありがたいものになるであろう。その意味でも、援助国のODAのやりかたを評価できるシステムでもあると思うので、研究の対象になった世界銀行の援助以外に、他の機関の援助の配分が成果主義に基づくものであるかどうか調べたことがあるかと質問した。   以上の僕のコメントについて、コメンテーターは笑顔でその通りだと認めてくれた。成果主義の評価システムの開発者は、他の国際援助機関の援助配分も調べたが、大体世界銀行と同じような結果が出た。ただし、成果に基づいて配分していない援助機関もあるので、そのような機関は今後、配分を見直す必要があるだろう。   会議の3日目の朝、今西淳子SGRA代表のアドバイスで、会議を抜けて、鹿島フィリピンの事務所に足を運んだ。SGRAフィリピンが8月にフィリピン大学と共催するセミナーのスポンサーをお願いするためであった。加藤総明COOと斉藤幸雄CFOが応対してくださり、僕がセミナーについて説明させていただいた後、セミナーの最大のスポンサーになることを決断してくださった。お二人は、第16回共有型成長セミナーで発表予定の建築学関係の研究に関心をもっておられるが、フィリピンにおける都会と農村の格差の解消にも興味を示してくださった。これからご指導とご支援をよろしくお願いします。   この他、SGRAフィリピンのセミナーだけでなく、来年8月にバリ島で開催するアジア未来会議への参加を誘ったり、インドやベトナムの参加者と共同研究プロジェクトの可能性を探ったりした。おかげさまで大変充実した3日間を過ごすことができた。Global Development Networkに感謝の意を表したい。今回僕は「SGRAジャパン」のメンバーとして登録した。僕の顔をみればすぐ日本人ではないとバレてしまうが、開発に関する日本の素晴らしい発想を信奉する者としてそう表現させていただいた。   英語版 -------------------------- <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。テンプル大学ジャパン講師。 --------------------------   2013年7月17日配信
  • 2013.01.30

    第15回日比共有型成長セミナー「人と自然を大切にする製造業」へのお誘い

    下記の通り、フィリピンのマニラ市でSGRA主催のセミナーを開催いたします。参加ご 希望の方は、下記連絡先、またはSGRA事務局へご連絡ください。   第15回日比共有型成長セミナー 「人と自然を大切にする製造業」 "Manufacturing as if People and Mother Nature Mattered"   日時:2013年2月8日(金)9:00-18:30   会場:フィリピン大学労働・産業連携大学院 SOLAIR, Bonifacio Hall, E. Jacinto St., UP Diliman, Quezon City   語:英語   開催の趣旨:3K(効率・公平・環境)の調和ある発展を目指す、日比共有型成長セ ミナーの2本の柱となるテーマは「都会・地方の格差」と「製造業」です。今回は前 者に注目し、8月頃に後者のテーマのセミナーを開催予定です。しかしながら、今回 のセミナーでも、2本の柱のつながりがより具体的に示されるようになっています。 また、本セミナーにおいて、SGRA顧問の平川均先生が、ベトナムとフィリピンで実施 した人材育成についての調査報告が発表されます。   プログラム(英文のみ)   参加申し込み・お問い合わせ:SGRAフィリピン Ms. Lenie M. Miro ( sgra_ph@yahoo.com )  
  • 2010.05.05

    SGRA研究員からのお知らせ:マックス マキト「変わらないために変える」

    みなさま、SGRA研究員として書いた日本の経済学についての私の論文が選ばれ、下記の通り、立教大学のシンポジウムで発表いたしますので、お時間があればどうぞご参加ください。2010年5月21日から22日まで開催されますが、私の発表は22日になります。 マックス マキト ------------------------------ 立教大学国際経営学シンポジウム テーマ:「ビジネスのグローバル化の次のチャプター:その課題と機会」 Next Chapter of the Globalization of Business: Challenges and Opportunities 詳細は下記のリンクをご参照ください。 http://cob.rikkyo.ac.jp/en/news/1369.html ■マックス マキト「変らないために変える:日本の企業・銀行関係のレビュー」 <概要> 本稿は、現代のグローバル化の背景にある、ある一定の距離を置いた(arm's length)国際金融構造と代替的な日本型の企業・銀行関係のレビューを行う。とりわけ、本稿は伝統的な日本メインバンク制度に対する二つの批判に焦点を当てる。すなわち、メインバンクの顧客企業の利益の低さと、倒産に迫られる企業に対する融資(ever greeningいわゆる常緑樹化)。企業に十分に配慮した戦略的な決定ができるために、これらの批判に対するカウンター・アーギュメント(反対の議論)、すなわち非最大化の目的と景気循環と反対の融資を強調する。日本型の企業・銀行関係の一般的なレビューに加えて、本稿は三菱自動車工業(株)とそのメインバンクをケース・スタディーとして取り上げる。三菱自動車の長年に渡るフィリピンへの進出歴を考えれば、このケース・スタディーは二つの批判の象徴的な事例として考えられる。 ------------------------------------- 2010年5月5日配信
  • 2009.06.17

    F.マキト「立教大学国際シンポジウム参加報告」

    SGRAかわらばん257号でお知らせした通り、立教大学第二回経営学部国際シンポジウムに参加し、「Rediscovering Japan's Leadership in "Shared Growth" Management: Some Findings from a Study on Philippine Ecozones and Automotive Industry」という報告をした。 基調講演をされたRICHARD STEERS博士は、アメリカ型の経営がグローバル化に対応できない部分があると指摘した。例えば、20年以上前に出版された「IN SEARCH FOR EXCELLENCE」という経営学のMUST READINGに掲載された優勝なアメリカの企業グループの3分の1は現在すでに存在していないという。そして、アメリカの大学のMBAのいわゆる国際的経営の指導は十分であるかどうかという疑問も投げかけた。グローバル化が生み出した多文化の経営環境にアメリカ型の経営者が適応できるかどうかと。アメリカの大学の経営学の教授の発言として非常に謙遜で妥当な自己評価だと思った。 懇親会のときに、STEERS先生とお話しした。僕は「多文化のアメリカは、本来、多文化経営に優れているはずだが、なぜそれが欠けているか」と質問した。先生は「アメリカの『上の階級』は実際多文化ではなく、多くのアメリカ人はそれに対して不満を持っている。(オバマ大統領を含む・・・先生はオバマ大統領は『GOD』であると評価している。僕も同感。)」とお答えになった。もうひとつの共通点は、このままでは、HAVEとHAVE NOTSとの格差が拡がっていくという懸念である。面白い調査結果を聞かせていただいた。従業員の一番高い給料と一番低い給料の平均的な差は日本では20倍ぐらいだが、アメリカでは420倍だという。 この調査結果を、共有型成長の経営の必要性を強調した僕らの発表で引用させていただいた。ただ、最近、この必要性がどのぐらい日本で浸透しているか、はっきりわからなくなってきている。だから、僕らが発表した論文では、この共有型成長の魂の「再発見」を提案している。いつものように、発表を聴いてくれた人は多くなかったけれど、学会の会長は僕らの論文を一番良いと評価してくれた。僕の住まいから自転車でいける学会で、これだけ勉強させていただいたのは贅沢かもしれない。 当日の写真はこちらからご覧いただけます。 -------------------------- <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA運営委員、SGRA「グローバル化と日本の独自性」研究チームチーフ。フィリピン大学機械工学部学士、Center for Research and Communication(現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、テンプル大学ジャパン講師。 -------------------------- 2009年6月17日のSGRAかわらばん「会員だより」で配信
  • 2004.03.26

    第1回マニラセミナー「共有された成長を目指せ」ご案内

    Aiming for Shared Growth 共有された成長を目指せ Enhancing Efficiency and Equity through Japanese Companies in Special Economic Zones フィリピン経済特区日系企業を通して効率性と平等性の向上を探る   ■日時:2004年3月26日(金)午後1時半から5時まで ■会場:アジア太平洋大学(UA&P)PLDT会議室 Pearl Drive, Ortigas Center, Pasig City ■プログラムは別紙参照ください。このセミナーでは、経済特区の日系企業の評価だけでなく、UA&Pのエコノミストが、フィリピン経済の展望や中国ファクターの評価についても発表いたします ■参加費:3000ペソ(受付でお支払いください) ■参加申込み・お問い合わせ: Ms. Arlene Idquival  637-0912 to 26 ext. 362(英語) Dr. Peter Lee U  peteru@uap.edu.ph (英語)  Dr. Ferdinand Maquito maquito@aisf.or.jp (英語・日本語)   ■プログラム   1時 (受付開始) 1時30分  開会挨拶 今西淳子  関口グローバル研究会(SGRA)代表、渥美国際奨学金財団常務理事   1時40分 「2004年のフィリピン経済展望」 Dr. Bernardo M. Villegas (ベルナルド・M・ヴィレガス博士) アジア太平洋大学、副総長   2時10分 「フィリピンにおける経済特区の評価」 Dr. Ferdinand C. Maquito (フェルディナンド・C・マキト博士) アジア太平洋大学研究助教授・SGRA「日本の独自性」研究チームチーフ 2時40分 「2つの産業の物語:フィリピンにおける電子と自動車産業」 Dr. Peter Lee U(ピター・リー・ユウ博士) アジア太平洋大学 産業経済プログラム ディレクター   3時10分 「中国に関する脅威と機会」 Dr. George Manzano (ジョージ・マンザノ博士) アジア太平洋大学 応用ビジスネス経済プログラム ディレクター Dr. Victor Abola (ヴィクター・アヴォラ博士) アジア太平洋大学 戦略ビジスネス経済プログラム ディレクター   3時40分(休憩)   4時  研究内容と将来の研究課題についてのオープン・フォーラム 5時(閉会予定)   ■SGRAの「グローバル化における日本の独自性」研究チームの活動の一環として、マキトによる下記の記事をご参照ください。 「日本の尊い非軍事技術」2002年12月6日の朝日新聞朝刊に掲載 (オンライン版は次のURLをご参照ください) http://www.asahi.com/international/aan/column/021206.html 「『古い日本』の良さに学ぶ 」2002年8月2日の朝日新聞朝刊に掲載 (オンライン版はつぎのURLをご参照ください) http://www.asahi.com/international/aan/column/020802.html
  • 2002.12.12

    レポート第13号「経済特区:フィリピンの視点から」マキト 

    SGRAレポート第13号(PDF) 投稿 F.マキト「経済特区:フィリピンの視点から」 2002.12.12発行 ---要旨---------------------- 小泉政権の骨太方針の第2弾〔正式には「経済財政運営と構造改革の基本方針2002」〕が、6月25日に発表された。その中に「経済改革特区」の設立が盛り込まれている。周知のように、経済特区というのは、発展途上国において開発手段として利用されてきた。フィリピンもその一国である。基本的な方法としては、日本の経済特区もフィリピンの経済特区と変わらない。指定された地域を対象に特別優遇政策(税金免除、補助金、充実したインフラ設備)によって経済活性化を図る。経済特区の中で活動している企業は、まるで現地の経済と「一国二制度」議論を引き起こすほど違うのである。 しかし、理念的には日本とフィリピンにおける経済特区は異なっている。日本の場合は従来の日本的な方法から脱却するために行うという意味合いが強いが、フィリピンの場合はどちらかというと、日本が経験した「共有された成長」をフィリピンで実現するために行っているのである。 本稿ではフィリピンの特区に焦点を絞り、そこで期待される日本の役割を検証してみたい。これにより、経済特区がどのようなものであるか、日本の皆さんへ、海外とりわけフィリピンからの一つの視点を提供できればと思う。 -------------------------