構想アジア

世紀を跨いで、アジアは興隆と繁栄の時代になりつつある。歴史を鏡としながら、現在のアジアはどうあるべきか、50年または100年後のアジアをどのように構想し、構築していくべきか。それに向けての諸課題をグローバルな視点に立って探求します。
  • 2021.10.28

    李鋼哲「第67回SGRAフォーラム『誰一人取り残さない:如何にパンデミックを乗り越えSDGs実現に向かうか―世界各地からの現状報告―』報告」

    2021年9月23日午後、第67回SGRAフォーラムが渥美財団ホールおよびオンライン(ZOOM)で開催された。テーマは「誰一人取り残さない:如何にパンデミックを乗り越えSDGs実現に向かうか―世界各地からの現状報告―」で、SGRA構想アジアチームにより企画され、渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)が主催、一般社団法人東北亜未来構想研究所(INAF)の共催で行われた。国内外から約80名がオンラインなどで参加し、国連が掲げるSDGsの2030年目標達成に向けて世界各地からの報告があった。   総合司会はロスティカ・ミヤさん(大東文化大学講師、SGRA構想アジアチームメンバー)が務めた。冒頭に今西淳子SGRA代表より開会の挨拶があり、SGRAとINAFについて紹介、共催に至った経緯を説明した。   引き続き、李鋼哲がモデレーターを務め、第1部は基調講演、第2部は世界各地の報告5本、そして第3部は指定討論およびパネル・ディスカッションが順次行われ、最後に渥美国際交流財団理事・INAF理事長の平川均先生が総括した。   基調講演は、佐渡友哲先生(さどとも・てつ:日本大学大学院講師、INAF理事)の「SDGs時代における私たちの意識改革」で、会場の渥美財団ホールで行われた。先生は、国際関係論が専門で、北東アジア学会会長など多くの要職を歴任され、2019年12月には『SDGs時代の平和学』(単著、法律文化社)を出版された。冒頭で「いま私たちに求められていることは、私たちが『持続可能ではない世界』に住んでいることを知り、そのことを強く意識することであり、『知る→意識する→考える→行動する』というプロセスが重要である」と強調。かつてゼミ生を引率してインドを始め発展途上国で現地調査を行った実体験と結果を踏まえながら、「持続可能な発展」目標と「持続可能ではない世界」の現状について明晰に分析し、「SDGs達成のためには、私たちの現代文明が行き着いた大規模化・集中化・グローバル化という仕組みを見直し、循環型社会を強化することであることに気づかなければならない」と訴えた。   SDGs時代の教員に求められていることは「持続可能な社会の創り手」を育成すること、この「創り手」とは経済成長に貢献する、いわゆるグローバル人材(人財)ではなく、いま生活しているこの社会・世界が持続不可能であることを認識し、SDGsの理念を理解して、地球的諸問題の解決へ向けて行動を起こす地球市民(global_citizen)のことである。これはSGRAが設立当初から提唱する「良き地球市民」と共通しており、その中身についての重要な示唆点を提示してくれた。   休憩を挟んで第2部では、5本の現地報告があった。 第1報告は「フィリピンにおけるSDGs」について、フェルディナンド・マキト・SGRA大先輩(フィリピン大学ロスバニョス校准教授)により、オンラインで行われた。フィリピンはパンデミックによりSDGsへの取り組みが大幅に妨げられており、「COVID-19で死ななくても、仕事が無くて飢え死んでしまうだろう」という生々しい現場の声を伝えた。しかし、明るい兆しも見えてきており、(1)国内農業の重要性の見直し、(2)多くの有力な民間企業が株主だけではなく社会的役割も重要であるという認識が芽生えていること、(3)大学は学術的な実績だけではなく、社会へのインパクトも評価されつつあるという、とても示唆に富む話であった。   第2報告は「ハンガリーにおけるSDGs」というテーマで、杜世鑫さん(と・せきん:INAF研究員、グローバル国際関係研究所研究員)により行われた。東欧諸国の中でハンガリーのSDGs達成度は高く(世界で第25位)、「水資源の開発」をめぐるハンガリーと中国との協力関係を事例に取り上げ、持続可能な開発における先導的な役割を果たしていることを紹介した。   第3報告は、「中東・北アフリカ地域におけるSDGs」をテーマに、ダルウィッシュ・ホサムさん(アジア研究所研究員、SGRAメンバー)により行われた。この地域は過去50年間、平均寿命の伸び率が他のどの地域よりも高く、保健、教育、所得という3つの人間開発指標(HDI)と生活の多様な側面で大幅に改善されていることを紹介すると同時に、2020年の「アラブ持続可能な開発報告書」によれば、この地域では、2030年までにSDGsを達成できる国はないと結論づけられている現実についても紹介し、その原因について分析した。   第4報告は、「朝鮮におけるSDGs」をテーマに李鋼哲が報告した。日本や国際社会であまり知られていない朝鮮の社会と経済開発の実態について分析し、開発途上国でありながら社会主義体制を維持する朝鮮社会の特質について認識した上でSDGsの達成度を評価する必要性を強調し、経済的な困窮の中でも国連と連携しながらSDGsの実現に向けて取り組んでいる現状を紹介した。   第5報告は、「アフリカにおけるSDGs」というテーマで、モハメド・オマル・アブディンさん(参天製薬㈱、SGRAメンバー)が報告した。スーダン出身のアブディンさんは、2019年4月に30年間に及んだ独裁体制がやっと崩壊し、民主化に向けて暫定政府が発足したが、半年後にパンデミックが猛威を振るい始めた状況のなかで、国境封鎖やロック・ダウンを含む厳しい非常事態宣言が行われ、スーダン経済に及ぼした影響について紹介し、収入を保障できない貧困国における感染対策実行の難しさについて述べた。   以上の報告に対し、羽場久美子先生(神奈川大学教授、INAF副理事長)と三村光弘先生(ERINA主任研究員、INAF理事、北東アジア学会会長)がコメントした。続いて基調講演者と報告者全員によるパネル・ディスカッションが行われ、SDGs実現に向けての現状およびパンデミック対策や問題点など重要な論点について白熱した議論が交わされた。   最後に、平川均先生が総括した。パンデミックによる世界の現状について、豊富なデータによってワクチン接種における先進国と開発途上国の格差問題について取り上げ、グテ―レス国連事務総長とテドロス世界保健機関(WHO)事務局長の訴えを紹介して締めくくった。   当日の写真   アンケート集計   英語版はこちら   <李鋼哲(り・こうてつ)LI Kotetsu> 中国延辺朝鮮族自治州生まれの朝鮮族。1985年中央民族大学(中国)哲学科卒業後、中共北京市委党校大学院で共産党研究、その後中華全国総工会(労働組合総会)傘下の中国労働関係大学で専任講師。91年来日、立教大学大学院経済学研究科博士課程単位修得済み中退後、2001年より東京財団研究員、名古屋大学国際経済動態研究所研究員、内閣府傘下総合研究開発機構(NIRA)主任研究員を経て、06年より北陸大学教授に就任。2020年10月より、一般社団法人・東北亜未来構想研究所(INAF)を有志たちと共に創設、所長に就任。日中韓+朝露蒙など多言語能力を生かして東北アジアを檜の舞台に研究・交流活動を行う。SGRA研究員および「構想アジア」チーム代表。近著に『アジア共同体の創成プロセス』(編著、2015年、日本僑報社)、その他書籍・論文や新聞コラム・エッセイ多数。     2021年10月28日配信
  • 2021.09.01

    第67回SGRAフォーラム「誰一人取り残さない」へのお誘い

    下記の通り、第67回SGRAフォーラムをオンラインで開催します。一般視聴者はカメラもマイクもオフのZoomウェビナー形式ですので、お気軽にご参加ください。参加ご希望の方は、事前に参加登録をお願いします。 テーマ:「誰一人取り残さない:如何にパンデミックを乗り越えSDGs実現に向かうか―世界各地からの現状報告―」 日 時:2021年9月23 日(木・祝)午後2時~4時30分 方 法:オンライン(Zoomウェビナー)開催 言 語:日本語 主 催:渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA) 申 込:ここからお申し込みください お問い合わせ:SGRA事務局(sgra@aisf.or.jp +81-(0)3-3943-7612)   ■フォーラムの趣旨 SDGs(Sustainable Development Goals 持続可能な開発目標)は、2015 年 9 月の国連サミットで、国連加盟193 カ国が採択した、2016 年から 30 年までの 15 年間で持続可能で、より良い世界を目指すために掲げた目標。国連では SDGs を通じて、貧困に終止符を打ち、地球を保護してすべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動を呼びかけている。具体的には、17 のゴール(なりたい姿)・169 のターゲット(具体的な達成基準)から構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。SDGs に取り組むのは、国連加盟国の各国政府だけではなく、企業、NPO、NGO などの各種団体、地方自治体、教育機関、市民社会、そして個人などすべての主体がそれぞれの立場から取り組んでいくことが求められている。 2020 年は SDGs の 5 年目になる年であったが、新型コロナウイルスによるパンデミックが世界を席巻し、世界各国の経済や社会生活に多大な打撃を与え、世界大戦に匹敵する死傷者を出す悲惨な状況になってしまった。世界では先進国を中心にワクチン開発・供給などで取り組んで来ているが、多くの発展途上国は、資本主義の生存競争のなかで、パンデミックの対応に困難を極める状況に置かれているのが現状である。本フォーラムは、SDGs の基本理念と目標について理解するとともに、いくつかの国をケーススタディとしてとりあげ、パンデミックを如何に克服して「誰一人取り残さない」SDGs の実現に対応すべきかについて議論を交わすことを通じて、「地球市民」を目指す市民の意識を高め、一人一人が SDGs に主体的に取り組むアクションを起こすきっかけを提供することを目的とする。 ◇プログラム: 総合司会:ロスティカ・ミヤ(大東文化大学/SGRA) 【第1部】 基調報告(14:10~14:40): 佐渡友 哲(さどとも・てつ:日本大学/INAF) テーマ「SDGs時代における私たちの意識改革」 概要 (参考図書:『SDGs 時代の平和学』法律文化社、2019.12) 【第 2 部】世界各地からの現状報告(14:40~15:30): 報告1:フィリピンにおける SDGs:フェルディナンド・マキト(フィリピン大学ロスバニョス校/SGRA) 報告2:ハンガリーにおける SDGs:杜世鑫(INAF 研究員) 報告3:中東・北アフリカ地域におけるSDGs:ダルウィッシュ  ホサム(アジア研究所/SGRA) 報告4:朝鮮におけるSDGs:李鋼哲(北陸大学/SGRA/INAF) 報告5:スーダンにおけるSDGs:モハメド・オマル・アブディン(参天製薬㈱/SGRA) 【第 3 部】自由討論(15:40~16:20): モーデレーター:李鋼哲(北陸大学/SGRA/INAF) パネリスト:報告者全員+羽場久美子(青山学院大学名誉教授/INAF)、三村光弘(ERINA/北東アジア学会)、その他数名 総括:平川均(名古屋大学名誉教授/SGRA/INAF) 詳細はプログラムをご覧ください  
  • 2020.04.10

    李恩民 「第4回東アジア日本研究者協議会パネル 『日本のODAとアジア:再評価の試み』報告」

    2019年11月2日、400人以上の参加者を迎えた東アジア日本研究者協議会第4回学術大会にて、SGRAより参加した3パネルの一つである「日本のODAとアジア:再評価の試み」が台湾大学の普通教学館で挙行された。 このパネルは公益財団法人渥美国際交流財団の助成を受けて企画されたものである。1950~60年代に始まった日本の政府開発援助(Official Development Aid=ODA)は、1989年には米国を抜きODA拠出額では世界ナンバーワンとなった。しかし、その過程で世界各国からさまざまな批判、日本国内からも不満または評価の高まりを受け、日本政府は予算の縮小・戦略の再構築を決断した。2015年、ODA大綱は「開発協力大綱」と名称を変更し、より一層強く「国益」の確保への姿勢を打ち出した。他方、政治的な要因で対台湾の経済協力事業は中止、経済的な要因で対韓国のODAは予定通り「卒業」、急速に経済の高度成長を遂げた中国へのODAも2019年春をもって終了した。アジアにおける複雑な政治経済の動きが世界規模で影響を拡大している現在、「日本の重要な政策ツールのひとつ」と位置づけられた「ODAを主体とする開発協力」について、立体的かつ総合的にレビューする機が熟した。 これまで日本が行ってきたODAについては政策決定のプロセスや戦略意図についての論考が多かったが、今回のパネルでは黄自進・中央研究院教授(Prof. Huang Tzu-chin, Academia Sinica)の司会のもと、異国で博士学位を取った多文化なバックグラウンドを持つ学者陣と共に、日本のODA政策へのレビュー、対アジア主要国ODAのケース・スタディーに重点を置いた議論を進めていった。 基調講演をされた深川由起子・早稲田大学教授(Prof. Fukagawa Yukiko, Waseda University)は「日本の開発援助政策転換~韓国との比較から~」というタイトルで、日本ODAの歴史と現在、成果と問題について総合的に語った。深川教授の研究によれば、日本のODAをめぐっては1990年代にその規模がピークに達すると、欧米から自国利益を拡大するための「商業主義」であるという批判を受けた。しかしながらその後、多くの研究によって誤解が解かれると共に、結果としてアジア各国が優れた経済発展を遂げることで、むしろ「商業的」なODAが民間企業の誘致や技術の波及に役立ったとする肯定的な評価が台頭していった。深川教授はさらに、アジアにおいてODAには自国の発展経験の移転といった側面が強く、中国の「一帯一路」がさらに商業性を強めた「経済協力」として展開されるようになって以来、日本のODAもより経済権益に直結するインフラ輸出などの「経済協力」として再編されつつある。これに対し、韓国はセマウル運動の移植や人材育成などより古典的なODAを展開している、との見解を示された。最後、深川教授は「北東アジアでは政治的障壁からドナー間の協力や対話が進んでいないが、潜在的には様々な補完性もあり、アフリカ支援協力などで具体的な協力を模索する時期に来ている」と鋭く指摘した。都市鉄道システム(高度な建設技術・安全・正確な運行管理など)をはじめとするパッケージ型インフラ輸出とODAの活用といった事例紹介は特に印象深かった。 次に韓国に絡んだ諸課題が提起され、金雄煕・仁荷大学教授(Prof. Kim Woonghee, Inha University)が登壇し、「日本の対韓国ODAの諸問題」をテーマに事例報告を行った。金教授の話によると、日本の対韓経済協力に対する研究は、その重要性にもかかわらず、いくつかの理由から客観的な分析が困難な状況である。1965年の日韓国交正常化を皮切りに実施された多くの協力案件は半世紀以上の歳月が経過してしまい、韓国経済において日本による資金協力や技術協力の痕跡を見出すことは、もはや容易ではない。また請求権資金がもつ特殊性、すなわち、戦後処理的・賠償的性格と経済協力としての性格を併せ持つことによる複雑性もある。さらに元徴用工の戦後補償問題に由来し最終的に最悪の状態に陥った日韓関係のなかで、日本が韓国に対し資金協力や技術協力を行ったことを公に議論することはかなりセンシティブでリスキーなことと認識されている。 同問題について金教授は次の通りに指摘した。韓国で請求権資金の性格や役割に対する評価は、一般的に日韓国交正常化に対する評価と密接につながっている。安保論理と経済論理が日韓の過去の歴史清算を圧倒する形で日韓国交正常化が進められ、肯定的な評価と否定的な評価が大きく分かれてしまった。請求権資金についても同じく評価が分かれているが、構造的な韓国の対日貿易不均衡などいくつかの問題は起こしたものの、請求権資金が韓国経済の初期発展過程で重要な役割を果たしたことは否定できないというのが韓国国内での一般論である。 報告の中で、金教授は詳細なデータをもって、請求権資金を中心に日本の対韓経済協力についての異なる評価や様々な論点を紹介し、特に日本の外務省が「日本の援助による繁栄」の象徴的事業としているソウル首都圏地下鉄事業と浦項製鉄所(現在のPOSCO)の建設事業についての異なる評価も取り上げつつ、より客観的に日本の対韓経済協力をレビューした。 上記の報告を踏まえて、フェルディナンド・シー・マキト准教授・フィリピン大学ロスバニョス校(Prof. Maquito, Ferdinand C. University of the Philippines Los Baños)は、商業主義や日中韓ODAの補完性についてコメントを入れながら「フィリピンからの報告:日本ODAの再検討」というタイトルで最新の研究成果を報告した。マキト准教授は、日本のODAを西洋諸国または中国のODAと比較した上で、その相違性と類似性を分析し、アジアにおける共有型成長への日本によるODAの貢献を評価した。マキト准教授は最後に、韓国や中国にとっても日本型ODAのシステムは模範的だったと指摘した。 最後は被援助国としての中国のケース・スタディーを私、李恩民・桜美林大学教授(Prof. LI Enmin, J.F.Oberlin University)より発表し、日本の対中ODAの40年を概観した。 1979年、鄧小平が推進した改革開放政策は経済発展を最優先にする新時代の幕明けであった。この年、中国政府は日本の財界人の助言を受け、これまでの対外金融政策を改めて日本からODAを受け入れ、主要インフレと文化施設の建設に集中した。それ以降の40年間、政府から民間まで日本側は円借款、無償資金提供、技術協力などを通して中国の経済発展、人材育成、格差の是正、環境保全等分野に大きく貢献してきた。その証として、ODAプロジェクトの現場で撮った写真を展示しながら中国民衆の認識・評価を紹介した。 全員の報告を終えた後、石原忠浩・台北にある政治大学助理教授の質問を皮切りにディスカッションに入った。しかし時間の制約があって、会場では十分な議論ができなかった。そのため、司会者の黄自進教授は国際性に富んだこのパネルの特徴について総括した後、パネルの締め括りとして今後も他地域で同じメンバーで会議を重ね、良き研究成果を出すよう力強く訴えた。 学術の立場から日本によるODAへのレビューは、理論的な検討も現地考察も欠かせない至難の作業である。90分のパネルだけで議論を尽くすことはほぼ不可能である。この意味で言えば、この種の研究成果の活発な意見交換は今後も進めて行かなければならない。   当日の写真   < 李 恩民  Li Enmin > 中国山西省生まれ。1996年南開大学にて歴史学博士号、1999年一橋大学にて社会学博士号取得。桜美林大学国際学系教授、公益財団法人渥美国際交流財団理事。2012~2013年スタンフォード大学客員研究員。主な著書に『中日民間経済外交 1945~1972』(人民出版社1997年)、『転換期の中国・日本と台湾』(御茶の水書房2001年、大平正芳記念賞受賞)、『「日中平和友好条約」交渉の政治過程』(御茶の水書房2005年)、『中国華北農民の生活誌』(御茶の水書房2019年)。共著に『歴史と和解』(東京大学出版会2011年)、『対立と共存の歴史認識』(東京大学出版会2013年、中文版:社会科学文献出版社2015年)、『日本政府的両岸政策』(中央研究院2015年)などがある。
  • 2018.01.11

    朴准儀「一帯一路フォーラム開催まで」

    シンガポール国立大学でポストドクター/博士後研究員2年目を過ごしていた2017年初めに、慶應大学の訪問研究員として派遣された私は、久しぶりに2011年度渥美奨学生(ラクーン)の同期であった李彦銘博士と東京で再開した。東アジアを中心とする国際政治経済を勉強し共通点が多い私たちは、話すことがたくさんあった。ある時、ランチをしながら話し続けるうちに、彼女が私に「もしも機会があれば、一緒にパネルを作ってみない?」と言い、私はもちろん「そうしましょう!」と答えた。   そして私はシンガポールに戻り、彼女は東京で研究活動を続けていたが、私が7月頃シンガポールから韓国に移る準備をするためソウルに一時帰国していた時に、偶然2018年8月にソウルで渥美財団が主催する予定のアジア未来会議(AFC)の準備会議に出席し、今西さん(渥美財団常務理事)から渥美財団が元奨学生を対象にパネル企画を募集していることを知らされた。それが切掛けとなり、ちょうどシンガポールでエネルギー市場の動きを研究し、中東での中国の戦略を見ていた私は、李さんに「一帯一路」政策の研究に興味があるかと聞いたところ、日本ではあまりに語られていないが、興味を持っているということだった。   渥美財団のパネル企画案募集は中国や日本で開催されるいくつかの日程が計画されていたので、私は、中国の関連の内容である一帯一路政策関連のパネルを日本で行うのはどうか、そしてそのプレフォーラムとしてSGRAフォーラムを考えるのはどうかと提案した。応募するためには渥美奨学生出身者が3人以上必要であったので、先輩の朴栄濬教授の参加の意思を確認してから、私と李さんが他に関心を持ってくれると思うパネリストに接触した。   このパネルは日中韓出身の学者に揃って欲しかったため、パネルの構成は、発表者数を、少なくとも国籍に限っては、均等にしたかった(日本2人、中国2人、韓国2人)。参加する学者たちは各自の個人研究で国際安全保障、国際経済、地政学、外交政策、エネルギーなどの場面で活発な活動をしている方々であり、北東アジアやアメリカ、そして東南アジアをめぐる両国関係や地域関係を専門にしている方が望ましい。その上、一帯一路のテーマの特性上、中国の国内政治と外交政策、米中競争とそれに反応する隣国の立場、そして中国の南シナ海(地政学的な拡張)や中東での進出(エネルギー貿易)等、北東アジア圏外の地域を含めることにし、北東アジアや太平洋での地政学に限らず、全世界がカバーできなくても主に一帯一路に現れた中国の世界戦略に近づいてそれを読み解く機会にしたかった。   最初はアメリカの先生を含めたほうがいいかと思ったが、そうするとアジアの国々からの立場がよく現れなくなるのではないかと思った。その結果、司会者をのぞいて日本を代表し古賀さんと西村さんが、韓国を代表し朴(栄)先生と私が、そして中国を代表し朱先生と李さんに決まった。司会者としては国士舘大学の平川先生にお世話になることになった。この構成であれば、アメリカの発表者がいなくても十分だと思った。   SGRAフォーラムでパネルを作る初めての経験であったが、私はこのテーマについてどうしても日本人の一般の方々にたくさん参加して欲しかった。一帯一路政策については中国では無論、韓国やアメリカ、特にワシントンでは頻繁に論争されているが、5月に中国でこのテーマで発表を行った時に、中国の学者たちから中国の拡張について否定的な反応を見かけ、日本の人々はどう考えているのかを一般の参加者に聞いてみたかったからだ。それで、観客を集めるため、ポスター作りを渥美財団に提案し、それをSNS(Eventbrite, Facebook)に乗せて幅広く広報した。SGRAフォーラムとしては初めての試みであったが、結果としては良い戦略だったと思う。そして次の機会には、画期的な案(例:マスコミの使用)でさらに一般の観客に近づきたい。それが政策の複雑さをもっと多くの人々に説明する学者やパブリックインテレクチュアルの義務だと思っている。   最後に、このフォーラムを実現するためにお世話になった渥美財団へもう一度感謝の気持ちを伝えたい。   <朴准儀(パク・ジュンイ)June_Park> 高麗大学政治学学士、高麗大学国際政治学大学院碩士、ボストン大学政治学大学院博士。 東京大学社会科学研究所訪問研究員、日本財務総合政策研究所訪問研究員、北京大学国際関係学大学院訪問研究生、シンガポール国立大学李光耀行政政策大学院博士後課程研究員等を経て、現在ソウル大学アジア研究所北東アジア選任研究員、Pacific_Forum_CSIS ジェームス・ケリーフェロー、アジアソサエティアジア21フェロー。専門分野は国際政治経済、貿易保護主義、エネルギー(アメリカ―東アジア、中東)。     2018年11月11日配信
  • 2018.01.11

    李彦銘「『一帯一路』―中国の戦略の含意を探る:第58回SGRAフォーラム報告」

    「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」と題する第58回SGRAフォーラムが2017年11月18日(土)午後、東京国際フォーラムガラス棟にて開催された。基調講演者(朱建栄/東洋学園大学)及び報告者(李彦銘/東京大学、朴栄濬/韓国国防大学校、朴准儀/ソウル大学アジア研究所、古賀慶/シンガポール南洋理工大学)、討論者(西村豪太/『週刊東洋経済』)の構成から見れば、日中韓の三カ国からそれぞれ2名と非常にバランスの取れるものになった。また、パネルにおけるパネリストは国際政治、国際政治経済を専門とする研究者が中心だが、全体司会/モデレーター(平川均/国士館大学)と討論者の設定により、経済学からの視点とジャーナリスト/実務レベルの視点も組み込まれたといえよう。   今回のフォーラム開催の直前にあった中国共産党の第19回党大会(10月18-24日)では、「一帯一路」は習近平総書記が繰り返し強調したキーワードの1つとなり、さらに共産党の党章(党の性格や目標、組織構成を規定する規約)の、党の求める対外政策の性質を説明する部分に書き込まれた。その結果、フォーラム開催は非常にタイムリーなものとなり、多くの方々の関心を得た。その後、年末に安倍首相が日本の対外政策を「一帯一路」と連携する意向があると明らかにし、2018年は日中の政治関係が漸く改善すると見込まれる。「一帯一路」をはじめとする日中の経済協力は今後、より一層注目されるだろう。   基調講演では、「一帯一路」構想の具体的内容、推進された背景、経緯とその主な手段、戦略的目的についての分析がまず紹介され、後半の報告は各国の反応を中心に展開された。発展途上国のインフラ整備需要にうまくマッチしていることから中央アジアを中心とするいくつかの地域では支持を得られやすい一方、米欧日、そしてロシアとインドにも地政学における警戒と懸念をもたらしている。それに対し中国政府も一定の対応策を示し、各国の開発戦略、構想との連携性を強調しつつ、「海」ではなく「陸」のほうを優先的に、そして経済を前面に推進して来ていると見られる。その点で日中協力の余地も大きいのではないかと論じられた。   個別報告セッションでは、まずはかつて日本が70年代から推進したプラント(インフラもプラントの一種)輸出戦略や、80年代後半からの対アジア直接投資、技術移転と対日貿易拡大が三位一体になった「ニューエイドプラン」が紹介され、中国の「一帯一路」との類似性及び、さらなる経済成長のための対外経済政策であることがその本質だと理解できると、李によって提起された。   朴(栄)報告は、国家の対外戦略と海軍力の立場からの検討であるが、「一帯一路」は地政学から見てもアメリカとの海での直接対決を避けるために中国が取った陸での戦略だととらえられると言う。   朴(准)報告は、中東地域を取り上げ、これらの地域における中国の政策、援助や港湾建設などが紹介された。しかし当地域では複雑な国内・国際政治(米ロの競争)が展開されているため、パワーの空白の中その経済利益を守るためにも、今後中国は自身の政治と軍事的プレゼンスを増大させざるを得ないだろうと言う。   最後は、ASEAN諸国のような大国ではないアクターの態度と立場、担いうる役割が古賀報告によって検討された。小国でありながらも、米中のような大国の間で、自らの利益を守るためにバランスをとる可能性があると論じられた。この点、韓国も似ているような戦略を取っていると朴(栄)からも主張された。   フリーディスカッションでは、フロアを含め様々な質問があったが、全体としてまとめると、やはり「一帯一路」に対する警戒や危惧というようなものはまだまだ強いと言える。これは今までの日本社会での論じ方と概ね一致するものだろう。パネルからは「一帯一路」は1990年代後半からすでに始まっていた中国企業による「走出去」の成果、その延長線上にあるという指摘や、今まで中国が2国間でやってきたものを束ねたものにすぎないという指摘があったものの、「一帯一路」というように世界地図で示されるようになると、地政学による心配が一層高くなるのは当然のことかもしれない。   一方、中国が2013年に「一帯一路」を正式に打ち出した後、その内実についてまだ内外に対し十分説明できていないことや、政策形成のプロセスがやはり不透明であると言わざるを得ない。ただし全貌が不透明の中でありながらも、「一帯一路」のサポート役であるAIIBの運営実態からは中国は開かれた姿勢を保っている現状も確認できると西村が指摘した。グローバルスタンダードが中国のリードで形成されることを危惧するのであれば、「一帯一路」を静観/敬遠するのではなく、日本がより積極的に参加し、自らのイニシアティブを発揮していくことも必要であろうという西村の論点はパネリストたちの共通する見方となった。またグローバル経済史や人類史の長いスパンから見る場合、世界の中心が移動することなど、多様な論点が提起され、地政学におけるパワーバランスのみではなく、「一帯一路」が持ちうる、より大きな意味にも気付く必要がある。   紙幅の関係で個々の論点について展開できないが、フォーラムを企画した当時の目的は概ね達成され、「一帯一路」に関する知識と考える場、多様な思考回路を少しばかり提供できたといえよう。フォーラム当日の具体的な報告は、2018年の秋までにSGRAレポートとして纏められる予定なので、関心がある方は是非ともご参照いただきたい。   今回のフォーラムを企画した当初は、確かに日本ではまだあまり「一帯一路」の話は表に出ていなかった。もちろん専門家や経済界等、特定のオーディエンスを対象とする勉強会や講演会などは開かれていたと思うが、今回のように一般向けで、そして政策当局に少し距離を置く学者の立場から議論したものは少なかった。   また、企画者としての感想となるが、「一帯一路」の政策形成プロセス、つまり具体的に誰がどのように案を練り上げ、そしてアクター間のどのような力関係を経て、このような政策結果ができてきたのかを明らかにしたい、というさらなる研究課題が与えられたような気がする。   最後は、今回の企画に賛同し、隅々までサポートしてくれたSGRA事務局と、報告を快諾してくださったパネリストの先生方にお礼を申し上げたい。当日足を運んで、たくさんの質問を熱心に寄せてくだったオーディエンスの皆様や、フォーラムの内容に個人的に関心を示してくれた方々にも深く感謝したい。 (文中は敬称を略した)   当日の写真   <李彦銘(り・えんみん)Yanming_Li> 北京大学国際関係学院学士、慶應義塾大学法学研究科修士・博士、現在:東京大学教養学部特任講師。専門分野は日中関係、政策形成過程、国際政治経済。主な著作に『日中関係と日本経済界――国交正常化から「政冷経熱」まで』(単著、勁草書房、2016年)、『中国対外行動の源泉』(共著、慶應義塾大学出版会、2017年)ほか。     2018年11月11日配信  
  • 2017.11.20

    レポート第83号「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」

    SGRAレポート第83号   SGRAレポート第83号(表紙)   第58回SGRAフォーラム講演録 「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」 2018年11月16日発行   <フォーラムの趣旨>   中国政府は2013年9月から、シルクロード経済ベルトと 海上シルクロードをベースにしてヨーロッパとアジアを連結させる「一帯一路」政策を実行している。「一帯一路」政策の内容の中心には、中国から東南アジア、中央アジア、中東とアフリカを陸上と海上の双方で繋げて、アジアからヨーロッパまでの経済通路を活性化するという、習近平(シーチンピン)中国国家主席の意欲的な考えがある。しかし、国際政治の秩序の視点から観れば、「一帯一路」政策が単純な経済目的のみを追求するものではないという構造を垣間見ることができる。   「一帯一路」政策は、表面的にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)を通じた新興国の支援、融資、そしてインフラ建設などの政策が含まれており、経済発展の共有を一番の目的にしているが、実際には、貿易ルートとエネルギー資源の確保、そして東南アジア、中央アジア、中東とアフリカにまで及ぶ広範な地域での中国の政治的な影響力を高めることによって、これまで西洋中心で動いて来た国際秩序に挑戦する中国の動きが浮かび上がってくる。   本フォーラムでは、中国の外交・経済戦略でもある「一帯一路」政策の発展を、国際政治の観点から地政学の論理で読み解く。「一帯一路」政策の背景と歴史的な意味を中国の視点から考える基調講演の後、日本、韓国、東南アジア、中東における「一帯一路」政策の意味を検討し、最後に、4つの報告に関する議論を通じて「一帯一路」政策に対する日本の政策と立ち位置を考える。   <もくじ> 【基調講演】 「一帯一路構想は関係諸国がともに追いかけるロマン」 朱建栄(Prof. Jianrong ZHU)東洋学園大学教授   【研究発表1】 「戦後日本の対外経済戦略と『一帯一路』に対する示唆」 李彦銘(Dr. Yanming LI)東京大学教養学部特任講師   【研究発表2】 「米中の戦略的競争と一帯一路:韓国からの視座」 朴 栄濬 (Prof. Young June PARK) 韓国国防大学校安全保障大学院教授   【研究発表3】 「『一帯一路』の東南アジアにおける政治的影響:ASEAN中心性と一体性の持続可能性」 古賀慶 (Prof.Kei KOGA)シンガポール南洋理工大学助教   【研究発表4】 「『一帯一路』を元に中東で膨張する中国:パワーの空白の中で続く介入と競争」 朴 准儀(Dr.June PARK)アジアソサエティ   【フリーディスカッション】「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」 -討論者を交えたディスカッションとフロアとの質疑応答- モデレーター:平川均(Hitoshi Hirakawa)国士舘大学21世紀アジア学部教授 討論者:西村豪太 (Gouta NISHIMURA) 『週刊東洋経済』編集長    
  • 2017.10.07

    第58回SGRAフォーラム「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」へのお誘い

    下記の通りSGRAフォーラムを開催いたします。参加ご希望の方は、事前にお名前・ご所属・緊急連絡先をSGRA事務局宛ご連絡ください。   テーマ:「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」 日時:2017年11月18日(土)午後1時30分~4時30分 その後懇親会 会場:東京国際フォーラム ガラス棟 G610 号室 参加費:フォーラムは無料 懇親会は賛助会員・学生1000円、メール会員・一般2000円 お問い合わせ・参加申込み:SGRA事務局(sgra-office@aisf.or.jp, 03-3943-7612)     ◇フォーラムの趣旨   中国政府は2013年9月から、シルクロード経済ベルトと 海上シルクロードをベースにしてヨーロッパとアジアを連結させる「一帯一路」政策を実行している。「一帯一路」政策の内容の中心には、中国から東南アジア、中央アジア、中東とアフリカを陸上と海上の双方で繋げて、アジアからヨーロッパまでの経済通路を活性化するという、習近平(シーチンピン)中国国家主席の意欲的な考えがある。しかし、国際政治の秩序の視点から観れば、「一帯一路」政策が単純な経済目的のみを追求するものではないという構造を垣間見ることができる。   「一帯一路」政策は、表面的にはアジアインフラ投資銀行(AIIB)を通じた新興国の支援、融資、そしてインフラ建設などの政策が含まれており、経済発展の共有を一番の目的にしているが、実際には、貿易ルートとエネルギー資源の確保、そして東南アジア、中央アジア、中東とアフリカにまで及ぶ広範な地域での中国の政治的な影響力を高めることによって、これまで西洋中心で動いて来た国際秩序に挑戦する中国の動きが浮かび上がってくる。   本フォーラムでは、中国の外交・経済戦略でもある「一帯一路」政策の発展を、国際政治の観点から地政学の論理で読み解く。「一帯一路」政策の背景と歴史的な意味を中国の視点から考える基調講演の後、日本、韓国、東南アジア、中東における「一帯一路」政策の意味を検討し、最後に、4つの報告に関する議論を通じて「一帯一路」政策に対する日本の政策と立ち位置を考える。   ◇プログラム 詳細はこちらをご覧ください。   【基調講演】 「一帯一路構想は関係諸国がともに追いかけるロマン」 朱建栄(Prof. Jianrong ZHU)東洋学園大学教授   【研究発表1】 「戦後日本の対外経済戦略と『一帯一路』に対する示唆」 李彦銘(Dr. Yanming LI)東京大学教養学部特任講師   【研究発表2】 「米中の戦略的競争と一帯一路:韓国からの視座」 朴 栄濬 (Prof. Young June PARK) 韓国国防大学校安全保障大学院教授   【研究発表3】 「『一帯一路』の東南アジアにおける政治的影響:ASEAN中心性と一体性の持続可能性」 古賀慶 (Prof.Kei KOGA)シンガポール南洋理工大学助教   【研究発表4】 「『一帯一路』を元に中東で膨張する中国:パワーの空白の中で続く介入と競争」 朴 准儀(Dr.June PARK)アジアソサエティ   【フリーディスカッション】「アジアを結ぶ?『一帯一路』の地政学」 -討論者を交えたディスカッションとフロアとの質疑応答- モデレーター:平川均(Hitoshi Hirakawa)国士舘大学21世紀アジア学部教授 討論者:西村豪太 (Gouta NISHIMURA) 『週刊東洋経済』編集長  
  • 2016.11.11

    レポート第77号「これからの日韓の国際開発協力-共進化アーキテクチャの模索」

    SGRAレポート77号(本文) SGRAレポート77号(表紙)   第15回日韓アジア未来フォーラム 「これからの日韓の国際開発協力-共進化アーキテクチャの模索」 2016年11月10日発行   <もくじ> はじめに:金 雄煕(キム  ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授)   第一部 【講演1】「韓国の学者たちがみた日本のODA」 孫 赫相(ソン  ヒョクサン:慶熙大学公共大学院教授・韓国国際開発協力学会会長)   【講 演 2】「韓国の開発経験とODA戦略」 深川由起子(早稲田大学政治経済学術院教授)   第二部 【円卓会議(ミニ報告と自由討論)】 【ミニ報告1】「日本のODAを振り返る-韓国のODAを念頭においた日本のODAの概括-」 平川  均(国士舘大学教授・名古屋大学名誉教授)   【ミニ報告2】「日本の共有型成長DNAの追跡-開発資金の観点から-」 フェルディナンド・C・マキト(テンプル大学ジャパン講師)   【自由討論】 モデレーター:金 雄煕(キム  ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授)   パネリスト:上記講演者、報告者及び下記の専門家 園部哲史(政策研究大学院教授) 広田幸紀(JICAチーフエコノミスト) 張   玹植(チャン  ヒョンシク:ソウル大学行政大学院招聘教授・前KOICA企画戦略理事) その他 渥美財団SGRA及び未来人力研究院の関連研究者    
  • 2016.10.20

    エッセイ508:マックス・マキト「マニラ・レポート2016@アジア未来会議」

    (第3回アジア未来会議「環境と共生」報告#3)   当初、日本の風景をゆっくり楽しもうと考えて、東京から鈍行列車で北九州まで行きたいと思っていたのだが、結局、仕事の関係で1日遅れて第3回アジア未来会議(AFC)に参加した。今回、フィリピンからの参加者は30人で、その4割ぐらいは何等かの参加補助をいただき、残りは自費でやってきた。意外にも、毎回自費参加者の割合が増しているようで嬉しく思っている。フィリピン人の中でAFCの評判が高まっている証拠といえよう。   僕は、10月1日(土)に発表者、座長、討論者として参加した。と同時に、できるだけフィリピンからの参加者の世話をした。このエッセイでは、討論者としての役目を中心に話したい。   それは、国士舘大学の平川均教授と北陸大学の李鋼哲教授が座長を務める自主セッション「アジア型開発協力」で、「東アジアを中心にして過去半世紀以上にわたって経済成長を実現してきたこの地域は、欧米とは異なる形の開発協力や地域協力の枠組みを創り上げてきたように思われる。しかし、そうした地域における協力や開発の在り方が欧米とはどう異なるのか、また独自の協力の在り方をどのように整理し、ひとつの理念あるいは哲学に育て上げるかは依然として課題である」という問題意識に基づくものであった。   午後の2セッションを使う長丁場であったが、僕は、午後2時から他のセッションで座長の仕事があったので、後半しか出られなかった。参加者の積極的な議論が続き、セッションが終わろうとしていた時、わざわざ会場まできた今西SGRA代表からフィリピンの参加者に関する事務的手続きについて連絡があったので、部屋から静かに出ようとしたところ、座長の平川先生から討論のご指名をいただき、逃げ道は塞がれてしまった。普段の研究や授業では日本語をあまり使わないので、学会などではできるだけ発言を控えているのだが、しかたなく、一生懸命書いておいた日本語のメモを思い出しながら、以下のような感想を述べた。   後半の最初の上海財経大学の範建亭先生の発表では、中国の国際政治関係が経済関係に影響を与える因果関係を特定する試みを興味深く拝聴した。因果関係をもっと突き止めるために、範先生は別の経済学モデルを取り入れると言われたが、今の方法論でもう十分ではないかとコメントした。ただ、心配な点もある。それは、範先生の分析にはさまざまな国が入っているのに、僕の母国のフィリピンが入っていないことである。単にデータがないのか、それともフィリピンと中国の外交関係が問題なのか。   残念ながら、時間切れで回答を聞けなかったが、その時に思い浮かんだのは、最近、領土問題でフィリピンと中国の外交関係が膠着状態に陥っていることである。仮に政治関係が経済関係に影響するという分析が正しいとしても、その背後にある考え方は危険ではないだろうか。つまり、国際政治関係が悪化したら、経済関係も悪化するという状況は好ましくない。両国の関係が悪くなった時にこそ、なんらかの形で両国の繋がりを保つのが賢明な方策であろう。   後半の最後の報告は、李鋼哲先生のアジア的モデルの提唱だった。欧米の援助や開発の考え方とアジア的なものとの区別を明確にするということは、大変意義があると最初にコメントした。援助理念を明確化するのは重要な作業だ。李先生の発表にも取り上げられた、世界銀行が1993年に発行した「東アジアの奇跡」報告は、実は、被援助国の自助努力を尊重する日本が欧米の援助や経済開発に対抗した結果であると指摘した。   僕の目から見ると、当時の日本は輝いていたのだが、その後の受身姿勢に対してはがっかりしている。最近のDAC(開発援助委員会:OECDの委員会のひとつ)の査読(ピア・レビュー)を読むと、日本が提唱してきた「被援助国の自助努力を支援する」という理念が、欧米でも認められるようになっていることがわかるのだが、その合理性がまだ十分に説明されていないという課題が、20年以上経っても残っている。日本人は曖昧さを好んでいるが、やはり国際的な場では、もっと明確に説明しないといけない。それは他国と違ったやり方をしている時にこそますます重要であるといえよう。   以上のように「政治外交関係が経済関係に影響を与えること」と「開発援助理念の曖昧さ」の2点を指摘したが、実は、これが今の南シナ海の緊張に不安材料を与えている。本来、被援助国の経済発展のために使うべきODAが別な目的のために使われかねないからである。具体的な例として、日本のODAがフィリピンの軍備に使われていることを取り上げた。すぐに会場から「まさか!」という反論を浴びた。「日本のODAにはそれを防ぐための装置があるはずだ」と。僕は一歩も譲らずに、平和憲法があっても武器輸出が始まっていると反論した。最後に座長の平川先生の「鶴の一声」によって、どちらかというと、僕の側が優勢で議論が終わった。   その夜、ホテルに戻ってオンラインで調べたら、記事を見つけたので、「会場から『信じられない』という反応があんなにあって驚いた」と書き添えて、その記事のリンクを平川先生にメールした。     2015年6月5日のフィリピンの新聞の記事で、「日本は来年から新哨戒船10隻をフィリピンに引き渡す」という題名である。駐日フィリピン大使が、「これらの船はODAの一貫として引き渡される。今までのインフラ整備中心の方針と違う」と語っている。領土問題になっている西フィリピン海(南シナ海)で活動させるという。2020年まで、日本、韓国、米国、イスラエルからの武器輸入でフィリピンは自国の防衛体制を充実させる構えである。   翌日の打ち上げ夕食会でも議論が続いた。同じような意見を述べ、同じような結論に辿り着いた。僕の主張は正しかったわけだが、全然嬉しくない。むしろ、これからどうなるか非常に心配である。   酒の勢いで陽気になったあらゆる国から来た狸たち(註:元渥美奨学生)は、僕の心配を少し晴らしてくれた。「あなたの国の大統領が大好きだ!」と、ミャンマー、内モンゴル、韓国の狸たちからエールが送られた。僕も暴れん坊の大統領を支持しているが、最近の行動は心配の種になっている。これからの難しいかじ取りを上手くしてくれるよう祈っている。   <マックス・マキト ☆ Max Maquito> SGRA日比共有型成長セミナー担当研究員。SGRAフィリピン代表。フィリピン大学機械工学部学士、Center_for_Research_and_Communication(CRC:現アジア太平洋大学)産業経済学修士、東京大学経済学研究科博士、アジア太平洋大学にあるCRCの研究顧問。テンプル大学ジャパン講師。     2016年10月20日配信
  • 2015.11.24

    レポート第73号「アジア経済のダイナミズム」

    SGRAレポート73号(本文1) SGRAレポート73号(本文2) SGRAレポート73号(表紙)   第14回日韓アジア未来フォーラム 第48回SGRAフォーラム 「アジア経済のダイナミズム-物流を中心に」 2015年11月10日発行   <もくじ> はじめに 金 雄熙(仁荷大学国際通商学部教授)   【基調講演】「アジア経済のダイナミズム」榊原英資(さかきばら えいすけ:インド経済研究所理事長・青山学院大学教授)   【報 告 1】「北東アジアの多国間地域開発と物流協力」安 秉民(アン・ビョンミン:韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室長)   【報 告 2】「GMS(グレーター・メコン・サブリージョン)における物流ネットワークの現状と課題」ド・マン・ホーン (桜美林大学経済・経営学系准教授)   【 ミニ報告】「アジア・ハイウェイの現状と課題について」 李鋼哲(リ・コウテツ、北陸大学未来創造学部教授)   進行及び総括:金雄煕(キム・ウンヒ、仁荷大学国際通商学部教授) 討論者:上記発表者、指定討論者(渥美財団SGRA及び未来人力研究院の関連研究者)、一般参加者