SGRAイベントの報告

ボルジギン・フスレ「ウランバートル・レポート2023」

シルクロードは古くから東アジアと中央アジア、西アジア、さらにヨーロッパ、北アフリカとを結んできた道である。「草原の道」はそのルートの一つであった。一方、近年、匈奴の「龍城」を含む、モンゴルにおける考古学の新発見が世界的に注目されている。モンゴルにおけるシルクロードの文化遺産を焦点に研究することは大きな意義がある。

 

2023年9月2日、昭和女子大学国際学部国際学科と渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)、モンゴル国立大学科学カレッジ人文科学系アジア研究学科の共同主催、モンゴルの歴史と文化研究会の後援、麒麟山酒造株式会社、ユジ・エネルジ有限会社の協賛で、第16回ウランバートル国際シンポジウム「モンゴルにおけるシルクロード文化遺産」がモンゴル国立大学図書館202室で開催された。本シンポジウムは、歴史学、考古学、文化遺産学などの諸分野の最新の研究成果と課題を総括し、モンゴルにおけるシルクロード遺跡の文化遺産としての位置づけを試み、その保護と復元をめぐって、創造的な議論を展開することを目的とした。

 

開会式では、在モンゴル日本国大使館参事官菊間茂、モンゴル国立大学副学長G.ガルバヤル(G. Galbayar)が祝辞を述べた。その後、日本、モンゴルの研究者17名(共同発表も含む)より、14本の報告がなされた。近年、関係諸国の研究者によるシルクロードにおける「草原の道」のルートや交易の町、匈奴、鮮卑の遺跡、チンギス・ハーンの長城等に関する研究成果が報告された。オープンディスカッションは東京外国語大学名誉教授二木博史が司会をつとめた。フロアーからさまざまな質問がだされ、活発な議論が展開された。100名ほどの研究者、大学院生、学生等が対面で参加した。同日の夜、チンギス・ハーンホテルで招待宴会がおこなわれ、モンゴルの著名な歌手や馬頭琴奏者、ヤタグ(琴)奏者、柔軟演技者が素晴らしいミニコンサートを披露した。

 

本シンポジウムについては、モンゴルの『ソヨンボ』『オラーン・オドホン』などの新聞により報道された。また報告文は2024年3月に『日本モンゴル学会紀要』で発表する。また本シンポジウムの成果をまとめた論文集は2024年3月に日本で刊行される予定である。

 

9月3日のエクスカージョンで、海外からの参加者はウランバートル郊外の観光リゾートチンギスーン・フレーを見学した。ここでは、ちょうどIHAA(国際ホースバックアーチェリー連盟) World Championshipsが開催されていた。い会場に飾られている国旗からみると、モンゴル、ドイツ、ロシア、中国、韓国、日本、カナダ、スイス、イギリス、イタリア、フランス、アメリカ、スペイン、ハンガリー、マレーシア、南アフリカ、ポルトガル、アイルランド、カザフスタン、オーストラリアなどの国の代表が同世界選手権大会に参加したことがわかる。本シンポジウムの報告者は、その素晴らしい競技から、意外の喜びを味わった。

 

当日の写真

 

<ボルジギン・フスレ Borjigin Husel>

昭和女子大学大学院生活機構研究科教授。北京大学哲学部卒。1998年来日。2006年東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了、博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科・日本学術振興会外国人特別研究員、ケンブリッジ大学モンゴル・内陸アジア研究所招聘研究者、昭和女子大学人間文化学部准教授、教授などをへて、現職。主な著書に『中国共産党・国民党の対内モンゴル政策(1945~49年)――民族主義運動と国家建設との相克』(風響社、2011年)、『モンゴル・ロシア・中国の新史料から読み解くハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2020年)、『日本人のモンゴル抑留の新研究』(三元社、2024年)、編著『国際的視野のなかのハルハ河・ノモンハン戦争』(三元社、2016年)、『ユーラシア草原を生きるモンゴル英雄叙事詩』(三元社、2019年)、『国際的視野のなかの溥儀とその時代』(風響社、2021年)、『21世紀のグローバリズムからみたチンギス・ハーン』(風響社、2022年)、『遊牧帝国の文明――考古学と歴史学からのアプローチ』(三元社、2023年)他。