Asia Cultural Dialogue
第6回アジア未来会議「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」報告
第6回アジア未来会議は2022年8月27日(土)~29日(月)、ハイブリッド形式で実現しました。本来は2021年8月に台北市で開催する予定でしたが、新型コロナウイルスの世界的な流行により1年延期し、その代わりに同年8月26日に1日限りの「プレカンファランス」をオンラインで開催しました。それから1年。東アジアではまだパンデミックの収束の目途が立たない状況ですが、台湾の中国文化大学をメイン会場とし、海外からはオンラインで参加というハイブリッド形式で、多くの人が参加できる会議を実施することができました。
総合テーマは「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」です。2020年1月のマニラ会議の閉会式で、共催の中国文化大学の徐興慶学長(当時)が台湾での開催を宣言。同年2月には渥美財団の担当チームが訪台して会場や宿泊施設、宴会場を視察し、中国文化大学で最初の準備会議を開催しました。当時もほとんどの人がマスクを着用していましたが、その後台湾と日本の往来が全くできなくなり、しかも2年半以上も続くとは誰も予想できませんでした。
今回のアジア未来会議は全員が一堂に集まることはできませんでしたが、最新のオンライン会議技術を駆使して3日間にわたって実施され、基調講演とシンポジウム、3つの円卓会議と179篇の研究論文発表を行い、広範な領域における課題に取り組む国際的かつ学際的な議論が繰り広げられました。今、アジアや世界は大きく変化しています。このような時だからこそ「みんなの問題、みんなで解決」の必要性が強調されました。
8月27日(土)は台北市の中国文化大学の会場とハイブリッド形式で実施。午前は12の分科会で英語、日本語、または中国語による45篇の論文発表が行われました。分科会はZoom会議のブレイクアウトルーム機能を使い、会場の座長や発表者もオンライン会議に参加しました。午後2時(台湾時間)、中国文化大学と東京の渥美国際交流財団をつないで開会式が始まりました。会場参加者は220名、Zoomウェビナーへの参加者は324名でした。最初に明石康大会会長が第6回アジア未来会議の開会を宣言しました。続いて渥美国際交流財団の渥美直紀理事長が主催者として、中国文化大学の王淑音学長が共催者としてあいさつし、日本台湾交流協会台北事務所の泉裕泰代表と中国文化大学傑出校友会の黄良華会長から祝辞をいただきました。
次は、前中華民国副総統の陳建仁博士による基調講演「国際感染症と台湾―新型コロナウイルスとの共存かゼロコロナか?」(中英、中日同時通訳)でした。感染症対策の第一人者だけにパワフルなお話で「台湾の100万人当たりの累計感染者は世界最少で、同死亡者もニュージーランドに次ぎ2番目に少なく、2020年のGDP成長率3%超を維持できたという『成功の主役』は台湾の人々である」と強調しました。
シンポジウム「パンデミックを乗り越える国際協力―新たな国際協力モデルの提言」(中英、中日、英日同時通訳)では、中国文化大学の徐興慶先生がモデレーターを務め、国立台湾大学の孫效智先生、ソウル大学の金湘培先生、台北市立聯合病院の黄勝堅前総院長、日本の国立国際医療研究センターの大曲貴夫先生、中国文化大学の陳維斌先生が会場やオンラインで登壇され、それぞれ哲学、国際政治学、医学、公衆衛生学、国際交流の視点から分析し、国際的な協力によっていかにパンデミックを「みんなの問題、みんなで解決」していくか検討しました。
8月28日(日)と29日(月)には、円卓会議と分科会(研究論文発表)を行いました。円卓会議I「あなたは大丈夫―アジアにおけるメンタルヘルス、トラウマ、疲労」と円卓会議II「コミュニティとグローバル資本主義―It’s a small world after all」(いずれも英語)では、パンデミックだけでなく、自然災害や戦争によって現れたコミュニティのさまざまな課題、さらにはそれが人々の精神、感情に与えた影響についてアジア各国から報告があり、いかに対応していくかを議論しました。また、一般社団法人東北亞未来構想研究所(INAF)主催の「台湾と東北アジア諸国との関係」(日本語)セッションでは、東北アジア地域協力の視点から台湾に照準を合わせて、各国との国際政治・経済・文化などの関係について多面的に検討しました。
円卓会議と併行して34の分科会(参加登録者308名)を開催し、英語と日本語の134篇の論文の口頭発表が行われました。世界各地から2名の座長と4名の発表者がZoomのブレイクアウトルームにオンラインで参加し、研究報告と聴講者を交えた活発な議論が展開されました。アジア未来会議は国際的かつ学際的なアプローチを目指しており、各セッションは使用言語と発表者が投稿時に選んだ「環境」「教育」「言語」などのトピックに基づいて調整されました。
分科会ではセッションごとに座長の推薦により優秀発表が選ばれました。
会議に先立って学術委員会が優秀論文を選考しました。1年間の開催延期があったため、3年間の間に優秀論文の選考を2回実施しました。1回目の選考についてはプレカンファランス報告をご覧ください。2回目の選考は2021年8月31日までに発表要旨、2022年3月31日までにフルペーパーがオンライン投稿された133篇の論文を12のグループに分け、各グループを6名の審査員が以下の7つの指針に沿って審査しました。 (1)会議テーマ「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」との関連性、 (2) 構成と読みやすさ、 (3) まとまりと説得力、 (4)オリジナリティ、 (5) 国際性、 (6) 学際性、 (7) 総合的なおすすめ度。投稿規定に反するものはマイナス点をつけました。各審査員はグループの中の9~10本の論文から2本を推薦し、集計の結果、上位18本を優秀論文と決定しました。
優秀論文集『アジアの未来へ-私の提案-Vol.6B』は2023年3月に出版予定です。
また、台湾実行委員会による台湾特別優秀論文も同じプロセスで選考されました。
分科会セッションの後の閉会式もオンラインで実施されました。本会議の短い報告のあと、優秀発表賞が発表されました。最後に次回2024年に開催される第7回アジア未来会議のお誘いが開催地のバンコク市から呼びかけられました。
コロナ禍の第6回アジア未来会議の開催経緯については、プレカンファランス報告もご参照ください。
第6回アジア未来会議「アジアを創る、未来へ繋ぐ―みんなの問題、みんなで解決」は、(公財)渥美国際交流財団関口グローバル研究会(SGRA)主催、中国文化大学の共催、(公財)日本台湾交流協会の後援、国家科学及び技術委員会と(公財) 高橋産業経済研究財団の助成、台湾大学日本研究センターと台中科技大学日本研究センターの協力、そして日本と台湾の組織や個人の方々からご協賛をいただきました。
運営にあたっては、中国文化大学を中心に台湾実行委員会が組織され、基調講演とシンポジウムを企画実施してくださいました。また台湾特別優秀論文賞を設けて台湾在住の研究者を特別支援しました。アジア未来会議全般の運営は、元渥美奨学生の皆さんが、優秀賞の選考、セッションの座長、技術サポート、翻訳や通訳等、さまざまな業務を担当してくださいました。とりわけ、台湾出身の方々は台湾実行委員会メンバーとして諸調整や翻訳等をお手伝いくださいました。
論文を投稿・発表してくださった200名のみなさん、会場またはオンラインでお集りくださった基調講演・シンポジウム500名、分科会300名の参加者のみなさん、開催のためにご支援くださったみなさん、さまざまな面でボランティアで協力してくださったみなさんのおかげで、第6回アジア未来会議を成功裡に実施することができましたことを心より感謝申し上げます。
第7回アジア未来会議は、2024年8月9日(金)から13日(火)まで、チュラロンコーン大学文学部東洋言語学科日本語講座の共催で、タイ王国バンコク市で開催します。皆様のご支援、ご協力、そして何よりもご参加をお待ちしています。
<今西淳子(いまにし・じゅんこ)Junko_Imanishi>
学習院大学文学部卒。コロンビア大学人文科学大学院修士。1994年の設立時より(公財)渥美国際交流財団に常務理事として関わる。留学生の経済的支援だけでなく国際的かつ学際的研究者ネットワークの構築を目指し、2000年に「関口グローバル研究会(SGRA:セグラ)」を設立。2013年より隔年でアジア未来会議を開催し実行委員長を務める。
2022年9月22日配信