SGRAイベントの報告

趙 国 「第4回SGRAワークショップ『知の空間を創ろう』報告」

第4回SGRAワークショップが、「『知の空間』を創ろう」というテーマで、7月3日から3日間行われた。蓼科への「旅行」なのか、「ワークショップ」(しかも、かなり重いテーマである)なのか、少し不安を抱きながら参加した。以下は、極めて個人的な感想を込めた参加レポートである。

 

7月3日(金)

 

朝から激しい雨が降り続いていた。新宿を午前9時の出発予定だったが、激しい雨と思わぬ事情により、1時間程度遅れていよいよ出発。幸い目的地への道は渋滞もなく、諏訪に着くころには雨もほぼ止んだ。

 

お昼はSUWAガラスの里のレストラン。諏訪湖を眺めながら食事をし、食後SUWAガラスの里の美術館・ショップを見るのが定番のコースらしい。美術館で印象深かったのは、金箔の漆器箱をガラスで表現した作品だった。見た目は六角の漆器箱そっくりだが、ガラスの表面に金箔を張り付けたそうだ。わざわざガラスで造る必要があるのかとの思いもなくはなかったが(隣には、ガラスで作ったキャベツもあった!)、とにかく美しい。

 

次の目的地は諏訪大社。雨は降ったり止んだりしていたが、雨霧に囲まれた古社は神秘感を増した。たまたまあった茅の輪で夏越しの大祓もやってみた。くぐり方だけに気をとられて、その時は何も祈ることが出来なかったが、同期の皆さんが無事に博論を出せるように祈ったらよかったと思う。

 

予定より少し遅れて最終目的地、チェルトの森へ到着した。夕食後、アイスブレーキングタイムがあった。「私の強みは_______である」「私の弱みは_______である」などなど、親しい人ともなかなか話さない話題について、小グループごとに話し合う時間だった。これでアイスブレーキングができるかよく分からないが、個人的には話すうちにどんどん盛り上がってきた。また周りを見ると、積極的に、真面目に話す人や、ボンヤリのんびりとする人など、個々の個性が浮かび上がるのも面白い。続く懇親会では、聞くだけでも非常に楽しい話が長く続いた。

 

7月4日(土)

 

2日目から本格的なワークショップが始まった。午前中は劉傑先生、茶野純一先生のトークショーがあった。まずは両先生より知・空間の概念定義から始まり、知と政治との関係など、深度の深いお話を伺った。茶野先生はアメリカのthink tankと政治政策について、劉先生は中国における日本学(者)の状況などを例として取り上げ、知の問題が現実の政治権力と微妙な緊張関係にあることを鋭く指摘した。

 

そもそも蓼科ワークショップは、蓼科旅行とも言われているように、博論執筆に疲れている今年度の奨学生にリフレッシュの時間を与えようとの財団の配慮で、気軽に楽しむという趣旨もあるようだが、今回のテーマはなかなか重い。それゆえ参加者皆が真面目に、真摯にテーマを受け入れた様子であった。講演の後に続く質疑応答時間でも「知の空間」における東アジア共同体の可能性、知と権力との関係、「専門性」と「知」との関係設定、アカデミックの「知」と地域の「知」との結びつきなどなど、様々な側面・観点から議論が行われた。

 

確かに、日本史、しかも日本近現代史という狭いといえば狭い領域で暮らしていた私にとって、刺激になる、それなりに楽しめる時間だったが、他方、これからのワークショップの分科会、翌日のプレゼンテーションなどへのプレッシャーも次第に高くなった。

 

しかしながら、これは私の杞憂にすぎなかった。午後から始まった小グループの活動は、ワークショップ本来の趣旨の通り、気軽で、楽しめる時間だった。5つに分けられた各チームは、蓼科の自然を満喫しながら、宝探しを兼ねて知の空間をイメージする色・形や、知の空間に必要なもの、禁止すべきものなどの課題を見つけ、それについて自由に話し合う時間を持った。

 

その後、話し合った結果を元に、各チームは明日のプレゼンテーションに向けて準備にはいった。私のチームでは、知の空間を象徴する各種のイメージをコラージュすることにした。最初は、どういう形になるか分からずに始めたが、皆が少しずつアイデアを出して、ふさわしいイメージを探し出すことによって、作業はどんどん具体化された。よいチームワークの結果、夕食前に、明日の発表準備をほぼ終わらせることができた。これで一安心。外は少しずつ雨が降り出したが、おいしい夕食と、続く懇親会も思う存分、楽しめた。

 

7月5日(日)

 

最後の3日目。ワークショップの結果をチーム毎に発表する時間となった。各チームいずれも発表内容や形式において、個性溢れる、面白い発表であった。私のチームのコラージュは知の空間のイメージから、宇宙と秩序を背景とした人間の形状を作り出した。他の発表の面々を見ると、知の空間とその誕生を、卵の形で立派な照明効果も活用しながら表現したもの、とても面白い料理番組で知の空間へのチョコ(直行)焼きを造ったもの、知の空間のつながり・拡散を真面目な説明と分かりやすい紙工作で表現したものなどがあった。最後のチームは、発表順まで緻密に計算して、会場の全員の手をつなぎ合わせ、知の空間における人と人との結びつきを表現した。実に今回のワークショップのテーマにふさわしい最後の発表であったと思う。また、議論、まとめ、発表全体を通して、新入奨学生に任せきりではなく、奨学生のOBやOG、財団の方々、それに講師の先生方までも皆が積極的に参加してくださって、本当にありがたいと思った。

 

発表が終わってみんなが満足できる授賞式もあった。それからお昼を食べて、バスで東京へ向かった。短い時間であったが、自然を楽しめる(しかも鹿を二度も見ることが出来た)、皆とより一層親しくなった、貴重なリフレッシュの時間だった。

 

蓼科ワークショップの写真

 

英語版はこちら

 

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<趙 国(チョ・グック) Guk CHO>

歴史学専攻。早稲田大学大学院文学研究科博士課程在学中。研究分野は日本近現代史で、現在は日本の居留地における清国人管理問題について博士論文を執筆している。

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2015年7月30日配信