SGRAイベントの報告

金 雄熙「第13回日韓アジア未来フォーラム『ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力』報告」

2014年2月15日(土)、高麗大学の現代自動車経営館で第13回日韓アジア未来フォーラムが開催された。今回は「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力」というテーマで行われたが、今後5年間のプロジェクトの初年度として、いくつかのテーマを総合的に検討した。

 

日本は、地震をはじめ自然災害への対策、鉄道システム、経済発展と環境負荷軽減及び省エネルギーの両立、少子高齢化への対処など、多くの分野において関連する経験や技術の蓄積、優位性を有している。一方、いまや日本以上に課題先進国といわれるようになった韓国の経験や悩みもまた、東アジア地域における将来の発展や地域協力の在り方に貴重な手掛かりを提供する。今回のフォーラムは、日本と韓国の経験やノウハウを生かした社会インフラシステムを、東アジア地域及び他国へ展開する場合、何をどのように展開できるか、そして東アジアにおける地域協力、平和と繁栄においてもつ意義は何なのかについて探ってみる場となった。

 

フォーラムでは、未来人力研究院理事長の李鎮奎教授による開会の挨拶と、今西淳子SGRA代表の挨拶に続き、4人の研究者による発表が行われた。基調講演で東京財団の染野憲治氏は、北東アジアの気候変動対策と大気汚染防止に向けて、今後のエネルギー計画の明確な将来像を描きにくい状況下において、日中韓の専門家、市民運動家は比較検討を通じて相互に客観的な理解を深め、適切な対応策を探ることが求められていると提言した。次に韓国国防大学校安全保障大学院の朴栄濬教授が、北極海をめぐって新しい協力の可能性が芽生えていることに注目し、北極海をめぐる関連諸国の政策を検討した上で、日中韓相互協力の可能性を検討した。そして北陸大学未来創造学部の李鋼哲教授は、北東アジアの多国間地域開発と物流拠点としての図們江地域開発が、近年どのように変貌しているのかについて報告を行った。最後の国民大学の李元徳教授は、日韓が協力して東アジア地域及び他国へ展開する場合、何をどのように展開できるか、そして新時代における日韓両国の協力が東アジアの平和と繁栄にもつ意義について持論を展開した。

 

コーヒー・ブレークを挟んで東京大学の木宮正史教授、韓国交通研究院北韓・東北亜交通研究室の安秉民室長、内山清行日本経済新聞ソウル支局長、李奇泰延世大学研究教授、李恩民桜美林大学リベラルアーツ学群教授らによる活発な討論が続いた。課題先進国日本、そして日本以上に課題や悩みを抱えている韓国が課題と悩みを共有しながら、これからいかにアジアへ国際公共財を提供していくか、これこそが課題ではないかとの意見が多かったように思われる。

 

特筆すべきは、2年前の第11回フォーラムも高麗大学LGポスコ経営館で行われたが、今回も同大学の現代自動車経営館で開催されたことである。高麗大学の経営学部だけで2つの立派な独立した建物をもっているわけであるが、とりわけ現代自動車経営館は李鎮奎理事長が学部長(兼経営専門大学院長)在任中に現代自動車からの寄付金で建てられたそうである。この点は、李先生が繰り返し強調されたことなので、この場を借りて改めて取り上げておく。「首都圏地方大学」(首都圏に所在しながらも地方大学のように経営環境がよくない大学のこと?)の教員の私からすると、うらやましいどころか唖然とするぐらいの施設である。「富める者は益々富み、貧しい者は益々貧しくなる」という「富益富、貧益貧」が大学社会でも当てはまることを実感した。

 

私が学生の頃から、いや大昔から、高麗大学は民族精神に徹した大学というイメージが強かった。その「民族高大」で日本語のみでの学術会議が開催されたことも特筆すべきであろう。「民族高大」で日本語のみでのフォーラムを行っても全く違和感がない理由はいくつかあるように思われる。一つは今は高麗大学が「グローバル高大」を目指しているからであり、もう一つはもっぱらフォーラム運営上の予算節約のためとの説である。さらに主催側の戦略的な試みという解釈もできるが、この点については更なる検討が必要であろう。いずれにしても、私は高麗大学出身ではないので、高麗大学の宣伝になることはこのぐらいにしておこう。

 

この他にも今回のフォーラムは、いくつかの点で印象に残る会議であった。フォーラムに大学や研究機関の研究者のみならず、現場で日韓両国の課題や悩みを肌で感じるマスコミや政府関係者も加わり、多様な立場から立体的に検討することの持つ意義について実感できたことも評価すべき点ではないかと思われる。また、今回のフォーラムが非公開で行われたにもかかわらず、3名の方から問い合わせがあり、参加に至ったことは、これからのフォーラム運営に活力を与えると思われる。なお、今回は渥美理事長にもご参加いただき、フォーラム終了後懇親会が終わるまで長時間にわたってお付き合いいただいたことも力強い励ましとなった。公式乾杯酒の「春鹿」の「任務完了」、そして入り混じったラブショットも楽しいものであった。

 

これから「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア協力」について、実りのある日韓アジア未来フォーラムを進めていくためには、総論的な検討にとどまらず、各論において掘り下げた検討を重ねていかなければならない。次回のフォーラムの開催に当たっては、このような点に重きを置きつつ、研究者でもある自分の責務として重く受け止めつつ、着実に進めていきたい。最後に日韓アジア未来フォーラムがガバナンスの安定性、そして懇親会での乱れという本来の姿を取り戻したことを自ら祝いながら、第13回目のフォーラムが成功裏に終わるよう支援を惜しまなかった李先生と今西代表に改めて感謝の意を表したい。

 

当日の写真

 

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<金雄煕(キム・ウンヒ)☆ Kim Woonghee>
89年ソウル大学外交学科卒業。94年筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、98年博士。博士論文「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。99年より韓国電子通信研究員専任研究員。00年より韓国仁荷大学国際通商学部専任講師、06年より副教授、11年より教授。SGRA研究員。代表著作に、『東アジアにおける政策の移転と拡散』共著、社会評論、2012;『現代日本政治の理解』共著、韓国放送通信大学出版部、2013;「新しい東アジア物流ルート開発のための日本の国家戦略」『日本研究論叢』第34号、2011。最近は国際開発協力に興味をもっており、東アジアにおいて日韓が協力していかに国際公共財を提供するかについて研究を進めている。
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2014年3月12日配信