SGRAイベントの報告

第27回SGRAフォーラム「アジアの外来種問題:ひとの生活との関わりを考える」報告

2007年5月27日(日)、秋葉原UDX南6階カンファランスにて、第27回SGRAフォーラム「アジアの外来種問題―ひとの生活との関わりを考えるー」が開催された。同会場でのSGRAフォーラム開催は初めてであり、生物学の分野での開催も初めてと、初めてづくしの記念すべき開催であった。また、ブラックバス問題に代表されるように、現在、熱く議論されている問題をテーマとして、今をときめく電脳空間アキバでフォーラムを行うという、その画期的な試みに、気分は否が応にも盛り上がった。

 

開演時間の午後2時半が近くなるにつれ、用意されていた椅子も徐々に人で埋められていき、会場はほぼ満席となった。

 

フォーラムは、多紀保彦教授(自然環境研究センター理事長、東京水産大学[現東京海洋大学]名誉教授)の講演「外来生物とどう付き合うか:アジアの淡水魚を中心に」で始まった。多紀教授はご自身がなじみの深い東南アジアの自然環境、魚、養殖、人々のくらしについて、個人的な体験も盛りこみ、ユーモアをまじえながら話してくださった。60年代から今日にかけて、東南アジアをときにきびしく、ときに暖かい目で見続けてきた多紀教授の見解は多くの示唆に富んでおり、魚を専門とされていながら、常に“初めに人間ありき”の視点で世界を見てきた教授ならではのものである。

 

次に講演を行ったのは加納光樹氏(自然環境研究センター研究員)である。氏は、「外来生物問題への取り組み:いま日本の水辺で起きていること」と題して、外来種をとりまく日本の現状についていくつかの例を用いてわかりやすく説明してくださった。外来種はけっして生物学だけの問題ではなく、文化や経済や政治的な利害も含めた、正に “社会”問題であることが氏の講演からひしひしと伝わってきた。氏のわかりやすい洗練されたプレゼンテーションによって外来種問題の深刻さ、一筋縄ではいかない難しさをはじめて理解した人も多かったのではないだろうか。氏は、「アジアの外来種問題」をテーマとしたフォーラムは初めての試みであり、今後このような場を増やすことが必要と強調された。

 

最後の講演者はSGRA研究員でもある私、プラチヤー・ムシカシントーン(タイ国立カセサート大学水産学部講師)の「インドシナの外来種問題:魚類を中心として、フィールドからの報告」であった。私は恩師の多紀教授が見守るなかでの講演であったこともあり、緊張しつつ、主に私自らの観察によるインドシナ地域での外来魚問題の現状について話した。講演の後半は最近調査を行ったミャンマーのインレ湖に関してのもので、インドシナの貴重な数少ない古代湖の一つであるインレ湖に現在多くの外来魚が定着しているという現状の報告であった。

 

コーヒーブレイクをはさみ、フォーラムの後半は講演者全員がパネリストとなり、今西淳子氏(SGRA代表、渥美国際交流奨学財団常務理事)を司会にむかえ、パネルディスカッションを行った。今西氏がパネルディスカッションの進行役を勤めるのも初めての試みであったが、客席との活発なやり取りが行われた。経済を専門にする参加者からの意見もあれば、工学専門の研究者からの意見もあった。いろいろな分野の方々の間での意見交換が行われたことも今回のフォーラムのよかった点ではないだろうか。本フォーラムが、参加者全員にとって、アジアの外来種問題を考えるきっかけになったとしたら、本フォーラムの目的は達せられたのではないかと思う。
(文責:P.ムシカシントーン)

 

当日、運営委員の足立憲彦さんとF.マキトさんが写した写真は、アルバムよりご覧いただけます。