SGRAイベントの報告

第1回SGRAチャイナフォーラム「若者の未来と日本語」報告

去る2006年10月21日(土)、北京大学生命科学学院報告庁にて、「北京大学日本言語文学科設立60周年記念シンポジウム特別企画」として、SGRAフォーラム in 北京『若者の未来と日本語』が盛大な雰囲気の中で開催されました。

 

中国で初めてのSGRAフォーラムでしたが、参加者は予想外に100名を越え、会場を熱気で包んでくれました。テーマが『若者の未来と日本語』だけあって、参加者のほとんどは、北京大学、北京語言大学、北京外国語大学など、北京市内の大学から来た学生でしたが、中でも北京語言大学の学部生がもっとも多かったのです。これは、たぶん本フォーラムが実用日本語を中心に翻訳通訳者の養成に力を入れている北京語言大学の学生のニーズに合ったからではないかと思われます。

 

フォーラムは、午後2時から5時までの予定でしたが、4人のパネリストの熱気に溢れるスピーチの後、フロアーの参加者との真摯なディスカッションが続き、時の経つのも忘れ、5時50分になってやっと惜しい気持ちで閉会を告げました。

 

総合司会の孫建軍先生(北京大学日本言語文化学部助教授、SGRA研究員)の開会の言葉がよいスタートとなり、引き続き、開会の挨拶として、今西淳子代表(SGRA代表、渥美国際交流奨学財団常務理事)が、素晴らしいデザインのパワーポイントでSGRAを紹介して、参加者の人気を集めました。その好調子に乗って、パネリストが登壇し、自己紹介お後、パネルディスカッションのための主題講演が、池崎美代子先生(JRP専務理事、SGRA会員)の「ビジネス日本語とは」から始まり、続いて武田 仁先生(富士通(中国)有限公司副董事長(兼)総経理)の「グローバル企業が求める人材」、張潤北先生(三井化学北京事務所所長代理)の「日本文化と通訳の仕事」、徐向東先生(キャストコンサルティング代表取締役、SGRA研究チーフ)の「『日本語』の壁を超える」といった順で行われました。最後にSGRA運営委員長の嶋津忠廣氏がフォーラムをまとめ、閉会の辞を述べました。

 

パネリストの主題講演には、それぞれ特徴があって、それに対するコメントとともに、フォーラムに異彩を放ってくれました。というのも、フォーラムのテーマ自体が「若者の未来」と「日本語」という二つの意味を含んでおり、パネリストの主張も主に「ビジネスマナー」としての「美しい日本語」と、「ビジネスセンス」として『日本語』の壁を越えた「中身のある言葉」の二つが議論のテーマになっていました。池崎先生と張先生の講演では、「美しい日本語」、「文化としての日本語」とつながるものが多く覗われ、武田先生と徐先生の講演では、「若者の未来」を提示した「企業が求める人材」についての内容が多く覗われたのです。

 

池崎先生は「ビジネス日本語」の特徴として「美しい日本語」を強調し、「ビジネスセンス」と「日本語能力」を外国人高度専門人材像の備えるべき大切な資質としてあげました。一方、武田先生は「企業の求める人材」像について「人格(職員の魂)、センス(マナー)、能力(目標評価)、個性(自分だけのもの)」といった総合的立場から概括し、それに続いて徐先生が「ビジネスキャリア、知識(母語のレベルも含めて)、創造性(チャレンジ精神)」を「企業の求める人材」像の条件として付け加えました。張先生は、文化的要素の重要性について生き生きとした翻訳の例を挙げて興味深く説明し、また、コミュニケーションにおける「文化」的要素を「企業の求める人材」の条件の一つとして強調しました。

 

閉会後、参加者に「どうでしたか」と聞いたら、「とても勉強になりました」「励まされました」「日本語の勉強の目標を見つけました」「日系企業や日本社会の求める人材像が分かりました」などなど、評判の声が多かったです。

 

残念なのは、参加者の中に北京大と北京語言大以外の学生が少なかったことです。もっと多くの大学に声かけて、日本語を無難に駆使できる大学高学年生や大学院生に来てもらえたらもっとよかったのに・・・。

 

本フォーラムは、急増している中国での日本語学習者のニーズに合わせて、日本語学習者を対象に、日本語教育の現状や日系企業を含む社会のニーズや先輩の経験談を紹介し、日本語を学ぶことによって広がる未来へのビジョンを提供することで、若者の期待に応えるためにはどのような教育が必要とされているか提案することを目標として開催されましたが、予想通りの成果を上げたと思います。なお、今回のように、SGRAフォーラムを世界中に広げていくことは、われわれのこれからの仕事ではないかとも思います。

 

文責:朴貞姫(北京語言大学助教授、SGRA研究員)

 

☆足立憲彦さんと石井慶子さんが撮ってくださった写真は、アルバム1アルバム2から覧いただけます。