SGRAイベントの報告

第12回フォーラム報告②「地球益を考慮した国際理解と行動こそ、地球温暖化を解決する唯一の道」

SGRA環境とエネルギー研究チームチーフ 高 偉俊

 

2003年7月19日(土)、第12回SGRAフォーラムin軽井沢「環境問題と国際協力:COP3の目標は実現可能か」が開催された。渥美財団の渥美伊都子理事長、韓国高麗大学の李鎮奎教授、留学生ら40名が参加した。開会にあたり、SGRA今西淳子代表から、地球市民を目指す当研究会が地球温暖化問題の理解を深め、地球温暖化防止にどのような役割を果せるか、そのスタートとして本フォーラムへの期待が寄せられた。

 

フォーラムでは先ず外岡豊埼玉大学経済学部社会環境設計学科教授に「地球温暖化防止のための国際協力」と題した基調講演をしていただいた。外岡教授は地球温暖化問題の本質、温暖化がもたらす気候変動の危機的状況を説明し、参加者の共感を促した。さらに問題を解決するための国際協力について、地球と人類の500万年の歴史を踏まえること(20世紀は異常!)、USA型自由競争社会でなくEU型共存社会をめざすべきこと、そして、南北問題と同様に地球温暖化防止ための国際協力は簡単ではないことを説明した。国際協力を成功させるためには、相互信頼・相互理解の推進ともに、目的意識を共有しなければならない。排出取引、共同実施、CDM(クリーン・デベロップメント・メカニズム)や吸収源評価等には多くの抜け道があるものの、京都会議(COP3)の目標を実現するためには、スタートすることが重要で、共同作業による経験の蓄積から始める以外に道はないと指摘した。そして、このように各国からの留学生が集まって地球環境問題を討議するこのフォーラムの意義を強調した。

 

SGRA研究報告では、先ずSGRA運営委員で独立行政法人建築研究所の李海峰博士から「ビジュアルに見る東京ヒートアイランド」の報告があり、地球環境温暖化の縮影として、巨大都市温暖化の深刻さをビジュアルに参加者に見せながら、ヒートアイランドが都市の居住性を損なっていることを警告した。

 

SGRA研究員で鳥取環境大学専任講師の鄭成春博士は「カリフォルニアにおけるRECLAIM制度の最近動向報告」と題し、アメリカ・カリフォルニア州の事例を通して大気汚染物の排出権取引制度の事例を紹介し、その成果及び問題点を報告した。鄭氏はその制度をある程度は評価したものの、制度自体が様々な抜け道をたくさん用意したことを批判し、企業が排出量の削減への努力よりも安い排出権を買い自助努力を怠った事実を指摘した。そして、排出取引権が長期的な見通しのないまま、市場万能主義にはしる発想は非常に危険であると結論づけた。

 

SGRA環境とエネルギー研究チームのチーフで、北九州市立大学の高偉俊助教授は「(中国だけではなく)途上国からみたCOP3目標の実施」と題し、途上国の視点から京都メカニズム(排出権取引、共同実施、クリーン開発メカニズム)を検証した。排出権取引等は先進国が自助努力を放棄し、安易に途上国等から排出権を買う危険性があることを指摘し、温暖化という地球環境問題を解決するための京都議定書が、逆に環境を破壊し南北問題を拡大するかもしれないと警告した。また、植林によるCO2削減効果の計測方法は科学的にまだ立証されていないので、吸収源として認めるのは合理的でない。排出権取引の利益を排出削減に寄与する財源として用いる場合のみ、排出権を認める国際的な監視体制が必要であると主張した。

 

引き続き、アジア各国の地球温暖化防止への取り組み状況の調査報告があった。ベトナム人間科学研究所のブ・ティ・ミン・チィ博士は、現在ベトナムではまだ地球温暖化への関心が薄く、今後貧困問題の解決を含めて、環境教育の重視が必要だと指摘した。一橋大学のマンダフ・アリウンサイハン氏は、モンゴルが地球温暖化など気候変動により大きな影響を受けている実態を報告し、地球温暖化を阻止することはモンゴルの国益にとって重要な課題の一つであると主張した。韓国の取り組みに関しては、鄭成春博士(前出)が報告を行った。未だ先進国グループから免れている韓国は、地球温暖化防止に関する認識はあるものの、実施に関しては、産業に対する影響を考え、できれば次の次のCOPまで削減義務を課せられない立場でいたいと思っていること、それまでは、拘束力のない枠組みのもとで自発的な削減に努力するという方針が政府の立場となっていることが報告された。テンプル大学ジャパンのF.マキト博士は、地球温暖化防止に関しては、フィリピン政府は早い段階で調印したものの、いまだに批准していないが、温暖化による水温の上昇によって、世界遺産のTubbatahaサンゴ・パークが危なく、水面上昇による影響も大きいことから、早い時期に批准されるだろうと予測した。

 

最後のパネルディスカッションでは、地球温暖化防止実現ための排出権取引に焦点を当てさらに議論を交えた。排出権に関しては、色々な抜け道があり、不完全なものではあるが、環境は無料ではないこと、また現時点では国際協力で得られた重要な成果であること、今後の運営方法によっては大きな成果を挙げる可能性があること等が話し合われた。実現のためには、発展途上国の視点からの議論が必要であり、安易に排出取引権を利用するのは危険であり、このための国際的な監視体制が必要であるという共通認識をもたらしたと、司会の李海峰博士が締めくくった。

 

閉会挨拶として、SGRAの担当研究チームの顧問で、国際人間環境研究所代表・早稲田大学名誉教授の木村建一博士よりフォーラムの総括をいただいた。地球益を重視し、国際交流や相互理解のもとで問題の解決を試みるSGRAの努力を評価し、更なる活動を期待すると励ましの言葉を頂いた。