SGRAイベントの報告

第11回フォーラム「地球市民研究:国境を越える取り組み」報告

2003年5月26日(月)午後6時半より、東京国際フォーラム・ガラス棟G602会議室にて、第11回SGRAフォーラム「地球市民研究:国境を越える取り組み」が開催されました。今回は、SGRA研究会「地球市民」研究チームが主催する4回目のフォーラムですが、駐日欧州委員会代表部調査役・高橋甫氏と国境な医師団日本でプログラムマネージメントを担当されている貫戸朋子氏をゲスト講師として迎えての開催で、SGRA会員をはじめ、約50名が参加しました。

 

高橋甫氏からは「市民とEU」のテーマで以下の諸点についてお話し頂きました。
・欧州統合は二度にわたる世界大戦への反省がその原点にある。
・武力衝突のきっかけになった石炭や鉄鋼に対する共同管理ため、まず6カ国でこの石炭や鉄鋼に限られた分野での主権委譲を伴った統合(石炭鉄鋼共同体)に着手。
・統合の深化と拡大の半世紀(欧州経済共同体、欧州共同体)を経て、現在(欧州連合)に至る。
・その特質として、連邦国家でもなく、また伝統的な国際機構でもない。加盟国から主権の委譲を伴う「共同体システム」(経済)と主権委譲が伴わない「政府間協力制度」(外交・安全保障)の二重構造をもつ存在。
・そのプロセスにおける現実的漸進主義や言語・宗教などの文化的多様性を承認しながらの推進。
・欧州における国境を越えた「他者との連帯」、またその統合の主体は、単に政府ではなく、欧州市民であるという理想・信念。
・「市民のための欧州」を目指して、欧州市民のアイデンティティ確立(共通のパスポート、EUの旗・歌)、欧州市民権・欧州基本権憲章、欧州議会・欧州憲法。
・EUの構造的特質、経過、理念などへの分かりやすい説明。とくに「市民のため」「市民による」連帯や協働の重要性を他地域との比較で説明。

 

貫戸朋子氏は「国境なき医師団的発想とは」という演題で、自分の体験を交えながら、国境なき医師団の結成経緯・性格・活動などを紹介してくれました。写真による現場の生々しい光景は、過度に日常平穏に過ごしている私達にとって良い刺激になりました。氏の講演の要旨は以下の通りです。
・3人のフランス人医師の決意から生まれた。
・既存の国際的医療組織が政治によって強く左右されている現状をふまえたうえで、医療援助がもっとも切実なのに、国際社会において看過・無視されている地域の人々を優先的な対象として医療行為を行なう。
・政治的中立・公平、人道主義的普遍倫理にもとづきながら、自らの奉仕・犠牲によって成り立つ。
・それを支えるものとして、弱者の救済・それへの献身というヨーロッパの一種の精神的貴族主義。
・自らの権力化を防ぐため、組織状態を自発的結社として、運動的存在として定位。

 

質疑の時間において、質疑者から「EUの統合は一つの巨大国家の出現にすぎないのではないか」や「欧州統合における宗教問題への対処」、「国境なき医師団にはどうして日本の参加者が少ないか」や「現地人とのコミュニケーションの取り方」などの質問がありました。

 

今回のフォーラムで取り上げられたEU市民社会や「国境なき医師団」のことは、「地球市民」研究チームが取り組んでいる「地球市民とはなにか」の課題に大いに参考になるものでした。欧州統合における強い意志と信念・確固たる実践、多様性への配慮や長期的な枠組みの中での漸進的プロセス、しかも共有部分のシステム化などの経験は、最近活発化した東アジアでの国際協力において大きな参考材料になることでしょう。さらに、国境を越えた連帯と協働、国境を越えた他者への関心・思いやり、自己犠牲による奉仕・献身などは地球市民の形成における徳性の問題とも深くかかわる気がしました。とくに東アジアの将来を考える上で大変大きな示唆になると思われました。 

 

(文責:薬会、高煕卓)