SGRAイベントの報告

第10回フォーラム「21世紀の世界安全保障と東アジア」

2003年2月8日(土曜日)午後2時、第10回SGRAフォーラム「21世紀の世界安全保障と東アジア」が、お台場の東京国際交流館で開かれた。今回のフォーラムは、SGRA研究会「世界平和と安全保障」研究チームが企画及び準備段階から関わったものであった。「世界平和」研究チームは、元渥美国際奨学生を中心とした留学生同士が、世界平和と安全保障のための議論を一緒にしようという目的をもって、昨年作られたばかりの研究チームである。今回のフォーラムはその最初の仕事であり、チームの南基正チーフが発表者の一人として、そして幹事の筆者が司会者として役割を分担した。こうした留学生による試みに対して日本国際教育協会と東京国際交流館、中島記念国際交流財団、朝日新聞アジアネットワーク、渥美国際奨学財団が、協賛・支援して下さった。記して謝意を表したい。

 

フォーラムが開かれた国際交流館のプラザ平成メディアホールでは、SGRA会員25名を含むと80名の方々が駆け付けた。日本人のみならず、交流館に住んでいる留学生の姿も少なくなかった。国際交流館が開館した2年前に最初に入館した筆者の記憶から、これぐらいの人数が集まったのは、昨年のワールドカップ共同応援以来初めてではなかったろうか。改めて、我々が作った「世界平和」研究チームが立ち上げた目的に、顔の知らなかった世界各国からの留学生が、国籍と専門分野の壁を越えて共感してくれるのだと感じた。

 

研究チームの設立とフォーラム開催に至るまで、すべての仕事を担ったSGRA研究会の今西代表による開会挨拶の後、四人の発表者による講演が行われた。

 

京都大学東南アジア研究センターの白石隆教授は、「日本とアジア」というタイトルで基調講演をしていただいた。白石先生は、東アジアという概念を政治経済的システムとして捉え、こうしたシステムがどのような歴史的な過程の中で形成され始めているのかを説明しつつ、1980年代の後半から東アジアの範囲で地域秩序形成の動きが活発になっている背景として、日本と韓国による直接投資の要因が働いていると分析した。しかしこうした東アジアにおける地域秩序形成の過程を、ヨーロッパにおける地域秩序の現実と比較してみると、ナショナリズムの過剰や、共同体に向けた政治意識の欠如、共通規範の不在、政治経済体制の差異などの、地域秩序の形成を妨害する要因が少なくない。従って、東アジアにおける共同体に向けては、諸国家共同の利益と規範の共有、特に強大な力を持つアメリカの関与如何が重要な鍵を握っていると展望した。白石先生の基調講演は、大変幅広い歴史的且つ比較政治的アプローチに基づいて、東アジアにおける地域共同体成立の可能性とその現実的な条件を検討して下さった、興味深いものであった。

 

最初の講演は、東北大学法学部の助教授であり、「世界平和」研究チームのチーフでもある南基正先生に「朝鮮半島の平和構築と日本の役割」というテーマでお話し頂いた。南先生は、2002年9月17日に行われた日本と北朝鮮の首脳会談とその後の情勢を分析しつつ、日米関係が日朝交渉に臨んでいる日本の外交を拘束しているのか、或は米朝関係が日本の存在なしに機能しているのかに関する仮説を各々検討した。結論として南先生は、日米関係が北朝鮮に対する日本の外交従属性を意味するものではない、そして米朝関係は日朝交渉の制約要因であると同時に促進要因でもあると述べつつ、東アジア地域の安全保障のためにも日本政府が日朝交渉により積極的に取り組むことを提案した。

 

二番目の講演は、「中国の台湾戦略を解く」というタイトルで、宇都宮大学国際学部の外国人教師であり、SGRA研究会「歴史問題」研究チームのチーフである李恩民さんに発表して頂いた。李先生は台湾に対する中国の基本政策を、江沢民時代の「平和統一」や「一国二制度」政策を中心として説明した後、現在展開されている両岸の動きを軍事・経済・政治などの分野に関する具体的なデータに基づいて紹介した。そして今後の提案として、台湾が中国との平和統一を通して中国の全体的な民主化を促してくれること、中国側からも「一国二制度」に拘らず、平和統一への意思を徹底することを打ち出した。

 

三番目の講演は、「ブッシュ政権の東アジア戦略」というタイトルで、同志社大学法学部助教授の村田晃嗣先生にお話しして頂いた。村田先生は冷戦後のアメリカが軍事的な側面から断然他国を圧倒しうる超大国になっていることを説明しつつ、現在のブッシュ政権が、イメージとは異なって、レトリックと実際の行動を異にしていると分析した。そうしたアメリカ認識に基づいて同盟国として日本が何をすべきかという問いに対して、村田先生は、只の反米感情は、反中や反ロの感情と同様、日本にとって、望ましい選択肢にはなれないと強調した。先生は、今こそ更なる日米同盟の再定義と国際協調が求められていると結論づけられた。

 

四人の先生による熱い講演の後、第二部では参加者による質問が続けた。お台場に住んでいる日本人RAの富川英生さん(東京大学経済学研究科)と金子光さん(東京大学経済学研究科博士課程)、留学生の和愛軍さん(中国出身、東京大学農学生命科学研究科博士課程)及び李明賛さん(韓国出身、慶応大学法学研究科博士課程)が各々発表者に対して質問を投げかけた。その他、インドネシア、台湾、中国などから来た留学生や研究者が予定した時間を遥かに過ぎてまで、熱気溢れる質問を問いかけた。長々4時間にわたって行われた第10回SGRAフォーラムは、午後6時半、嶋津忠廣SGRA運営委員長の閉会挨拶を最後に、盛会の幕を閉じた。

 

日本に来た留学生同士が、SGRAのお陰でこの「世界平和」研究チームを作ったきっかけは、20世紀の東アジアに対する反省からであった。20世紀のアジアは、日ロ戦争、第一次世界大戦、満州事変、日中戦争、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、中国-ベトナム戦争など、戦争の絶えない時代であった。21世紀を迎えた今も、これら戦争の傷は、講演にも触れられたように、朝鮮半島や中国-台湾の間でまだ残っている。そうした戦争の連続で、加害者も被害者も、戦争の犠牲者になった。戦争の責任を問うこと、どちらが悪かったかを問うことは、勿論大事な問いである。しかし21世紀を生きている我々は、20世紀を生きていた先輩の世代が避けられなかった戦争の時代を超えて、何とかして、協力と平和の時代を切り開けなければならないと思う。

 

武器を溶かして平和の材料を作る作業は、一国の国境を越えて、各国が協力しなければならない。特に各国の若い世代同士が共に力と知恵を合わせなければできない。そうした意味で、SGRA研究会の「世界平和」研究チームが、各国の留学生が一緒に住んでいるお台場の東京国際交流館で試みた本フォーラムは、まさに東アジアの平和と協力に向けた小さな一歩であろう。元々お台場は、150年前の幕府時代に海を渡って来た西欧の黒船を防ぐために作られた砲台であった。世界に「閉じられた鎖国」のシンボルでもあったお台場で、150年の時間が過ぎて各国の研究者と留学生が集まって、「21世紀の世界安全保障と東アジア」というテーマのもとで共に議論する場を設けたことは、その意義が少なくなかったと思われる。

 

文責:朴栄濬(「世界平和と安全保障」研究チーム幹事)