SGRAイベントの報告

李趙雪「第19回SGRAチャイナ・フォーラム『琳派の創造』報告」

 

2025年11月22日(土)午後3時(日本時間4時)より第19回SGRAチャイナ・フォーラム「琳派の創造」が北京大学外国語学院(日本文化研究所)で開催された。突然緊張が高まった日中関係のなか、参加者の温かい支えを受け、会場・オンラインのハイブリッド形式で日中両国の視聴者に同時配信した。

 

暖かく穏やかな天候に恵まれ、北京大学構内の未名湖や博雅塔周辺は観光客で賑わい、活気に満ちていた。キャンパスで記念写真を撮影した後、フォーラムは始まった。孫建軍先生(北京大学外国語学院)が司会を務め、主催者代表の李淑静書記(北京大学外国語学院)、今西淳子常務理事(渥美国際交流財団)、後援の野田昭彦所長(北京日本文化センター)が挨拶した。講師として日本近代美術史の研究者・古田亮先生(東京藝術大学大学美術館)、討論者には戦曉梅先生(国際日本文化研究センター)、中村麗子先生(東京国立近代美術館)、董麗慧先生(北京大学芸術学院)をお迎えした。

 

講演では、日本美術史において「琳派を一つの流派」と捉える言説が近代にどのように構築されたかが議論された。琳派は1615年に起源を持ち、400年の歴史があるとされている。しかし、流派の開祖である俵屋宗達や本阿弥光悦、さらには継承者とされる尾形光琳や酒井抱一は、自らを「琳派」画家と称することはなく、狩野派のような伝承関係も存在しない。明治時代の19世紀後半、海外におけるジャポニスムの中で尾形光琳が最初に注目された。その後、大正時代には個性を重視するモダンニズムの中で俵屋宗達が評価された。昭和時代の20世紀中期には、美術史学の展開や江戸絵画の再評価の中で酒井抱一の文学性が評価された。近代の異なる背景や文脈の積み重ねで「琳派」が成立した。今回の講演内容は美術史だけでなく、古田先生がこれまでに企画した琳派展の紹介も含まれており、近年では「琳派」が中国で初めて詳細に紹介されるイベントになった。

 

日中近代美術史・比較文学の研究者である戦曉梅先生は、日中がまだ国交を結んでいない1958年に中国で開催された尾形光琳展について紹介した。「琳派」に対する異なる視点が生み出すさまざまな評価の可能性を提起し、「琳派」がつくられた歴史の中で、「イメージの背後にある文学的想像力」が無視されている理由は、近代日本美術史の選択によるものであると指摘した。かつて古田先生の琳派展覧会を手伝った中村麗子先生は、近代の日本画家の光琳についての言説を分析し、明治中期の日本画の制作過程において、日本画家が自らの制作に正統性を求める中で、光琳が「日本」を象徴する存在となったことを指摘した。近年、若手研究者として大活躍する董麗慧先生は過去の「歴史記述」、時空を越える対話としての「芸術的伝承」、今日の「文化的生成」という3つの内容から古田先生の講演の意義について述べた。

 

自由討論は前回と同様にモデレーターの名手、澳門大学の林少陽先生によって進められた。林先生は E・ホブズボウムと T・レンジャー編集の英語論文集『The Invention of Tradition』(和訳:創られた伝統)を想起し、近代における一連の「創られた伝統」がナショナリズムの下で、想像上の共同体の結束力を高めるために行われたことを述べた。琳派も例外ではない。フォーラムの日本語の題名は「『琳派』の創造」であるが、それが「琳派的発明」と中国語に翻訳される理由は、The Invention of Traditionの中国語翻訳が「伝統的発明」とされるためである。その後、戦先生は「裝飾性」をはじめとする美術用語の使用、董先生は琳派の海外伝播の問題について問いかけた。中村先生は近代の美術学校が設立された後、流派が解体された状況において、画家たちが前近代の画家に私淑した問題について言及。古田先生はそれぞれの質問に丁寧に回答し、内容を深めた。

 

最後に清華東亜文化講座を代表して、王中忱先生より閉会の挨拶があった。王先生は自身の琳派に対する理解を述べ、グローバル化が進む今日において、芸術の流動性が実際に創造性に満ちていること、琳派の流転の中で中国に影響を与えた可能性について議論した。王先生は、毎年チャイナ・フォーラムが新しいテーマを提起することは非常に意義深いと考えており、企画・支援してきた渥美国際交流財団関口グローバル研究会に感謝の意を表し、次回への期待を寄せた。

 

本フォーラムは、「ラクーン(元渥美奨学生)」や陳言教授をはじめとする過去の参加者たちの熱心な呼びかけにより、参加申請者は200名を超えた。同じ日に多くのシンポジウムが開催される中、会場とオンラインで約150名の参加者が集まった。テーマの選定や質疑応答については、特に若い世代からのアンケートでも多くの好評を得た。フォーラム終了後、参加者たちは国際交流基金北京日本文化センターの野田昭彦所長や中国在住の「ラクーン」の方々と共に、大学近くのレストランで懇親会に集まった。穏やかな雰囲気の中で交流が進み、孫建軍先生の提案を受けて、皆が最近の活動や過去の興味深いエピソードを共有した。

 

当日の写真

 

<李 趙雪(り・ちょうせつ)LI_Zhao-xue>

中央美術学院人文学院美術史専攻(中国・北京)学士、京都市立芸術大学美術研究科芸術学専攻修士、東京藝術大学美術研究科日本・東洋美術史研究室博士。現在南京大学芸術学院の副研究員。専門は日中近代美術史・中国美術史学史。

 

 

2025 年12月18日配信