SGRAイベントの報告

李 鋼哲「第23回日韓アジア未来フォーラム『朝鮮半島から読み解く新しい東北アジアの地政学』開催報告」

 

本フォーラムは金沢らしい大雪後の晴れ晴れとした青空のもと、2026年2月20日午後、石川県立図書館食文化体験スペースにて現地参加17名およびオンライン参加21名で開催された。

 

当日は金雄煕先生(仁荷大学教授・同大学副総長)が総合司会を務め、渥美国際交流財団の今西淳子常務理事の開会挨拶で始まった。今西さんは挨拶の中で、「本フォーラムは24年間滞りなく続いています。本事業は日韓若手研究者の交流をマッチング・ファンドで始めようという李鎮奎先生(未来人力研究院理事長)のご提案を受け、2001年10月にソウル郊外ヤンピョンの未来財団交流館で両財団の若手研究者が集まって始まりました。懇親会はサムギョプサルと爆弾酒という非常に濃い交流の始まりでした」と懐かしそうに振り返った。

 

第1部 基調講演と報告

 

基調講演は朱建栄先生(東洋学園大学客員教授)が「中国・北朝鮮関係の地政学的変化」をテーマに行った。朱先生は、中国の対朝鮮半島政策、特にその「変」と「不変」について分析し、中国は一貫して朝鮮半島の平和と安定を支持して来たと述べた。米国こそ「新冷戦」の構図を煽っているが、中国は自身の発展戦略と地域平和への期待により、東北アジア地域の分断、陣営化を望んでいないと強調。そして、昨年9月3日の北京での記念式典で中露朝の指導者が並ぶ様子を公開し国際社会に3カ国が結束する印象を与えたが、三者による合同会談は行われなかったことに着目した。中韓関係は尹錫悦前政権時代に大幅に後退したが、習主席が昨年、11年ぶりに韓国を公式訪問したことが両国の関係正常化の新しい起点になった。中国は東北アジアにおける韓国の独特で重要な役割に引き続き期待を寄せており、半島の「非核化」問題について中国は従来の立場は変わらないと表明。国連安保理決議による義務を依然果たしていることを指摘し、内外情勢の激変を踏まえて、今後も 関係諸国とともに半島の恒久的平和体制を追求していく姿勢だ、と展望した。

 

続く「報告1」では、私、李鋼哲(INAF所長)が「北朝鮮の情勢変化と東北アジアにおける〈新冷戦〉構図の形成」について発表した。金正恩氏は2012年に政権を引き継いで以来、大きな政策転換を見せていると指摘。経済的には、2021年の朝鮮労働党第8回大会で、新たな「国家経済発展五カ年計画」を策定し、対外経済に左右されない『自力更生、自給自足』を基本路線にし、地方開発にも力を入れようとしている一方、韓国との関係を「敵対的な二国関係」と決め「統一」を目指さないことを強調した。対外関係では、ロシア対ウクライナ戦争をきっかけにロシアとの急接近を図り、朝露軍事同盟を結び、同時に中国との伝統的友好関係を維持することで、結果的には朝中露3カ国の結束が強まり、日米韓3カ国の同盟と対抗する構図が形成され、 東北アジア地域は「新冷戦」時代に突入しつつあると述べた。

 

前半最後の「報告2」では、李成訓先生(国家安保戦略研究院安保戦略研究室長)が、「北朝鮮のサイバー脅威とクーパン事態から見たサイバー安全保障の課題」というタイトルで発表され、北朝鮮のサイバー脅威は、外貨獲得(仮想資産窃取)・諜報活動・インフラ攪乱を組み合わせた「国家主導の犯罪・諜報複合体」へと進化していると指摘。対応策として、重要なデジタル・インフラの指定と復旧能力の強化、北朝鮮脅威に特化した追跡・制裁パッケージの構築において、日韓間の協力強化が必要であると述べた。

 

第2部パネル討論

 

後半は、平川均先生(名古屋大学名誉教授)がモデレターを務め、新たに登壇した5名の先生方とともにパネル討論が行われた。

 

まず三村光弘先生(新潟県立大学教授)は、「東北アジアの将来と米国——「新冷戦」論を中心として」と題して発表し、進行する多極化と後退する「新冷戦」について言及し、米国が朝鮮と非核化を前提としない対話を始めたとき、東北アジアには朝鮮戦争の終了と共に「米国のいない 東北アジア」の姿が見え始めると述べた。

 

続く金崇培先生(釜慶大学准教授)は「日韓の地政学的関係性とその力学」をテーマに発表した。報告者の議論を前提としつつ、地政学の視点から日韓関係を省察し、「1910年体制」、日韓国交正常化による「1965年体制」、「1998年体制」において、リアリズムが顕在化している現状について分析した。

 

権南希先生(関西大学教授)の発表は、「『敵対的二国家関係』は朝鮮半島の法秩序を変えるのか」という題で、近年北朝鮮は南北関係を「敵対的二国家関係」と位置づけるが、こうした政治的宣言が朝鮮半島をめぐる国際法秩序において既存の法的枠組みを変更するものかを検討し、併せて、危機管理や交渉、抑止の前提を再構成する性格を有するのかに着目し、法的安定性と実務的変容が交錯する局面を重視すべきと述べた。

 

盧明華先生(韓国国防組織学会長)は「北朝鮮によるサイバー攻撃に対する見解と対応方向」について発表され、現代の北朝鮮によるサイバー攻撃に対し、サイバー・セキュリティの実効性を確保するため、攻撃原点への打撃手段の確保、攻撃勢力間の共助体制の分断、および海外拠点の閉鎖に向けた緊密な国際協力の推進を提言した。

 

最後の木宮正史先生(東京大学名誉教授)は、「国交正常化60年を迎える日韓が共有する困難な課題」と題し、日韓関係は国交正常化から60年を経て非対称・相互補完関係から対称・相互競争関係になったと指摘。同盟を共有するトランプ米政権の登場に伴う戦略的不透明さ、米中対立の尖鋭化・構造化、体制生存のため核ミサイル開発の邁進、韓国との関係を「敵対的な二国間関係」と規定する北朝鮮など、様々な不透明で困難な戦略環境に直面し、共有する困難な課題への対応に関して日韓両政府、両社会がどのような選択をするのかを注視する必要があると述べた。

 

後半の締めくくりに登壇者間でのパネルディスカッションが行われ、充実したフォーラムのプログラムが全て終了した。閉会挨拶では、李鎮奎未来財団理事長が「今後も引き続き本フォーラムが継続されることを望んでおり、日韓研究交流では日本の学者にも韓国語で報告してほしい」と述べ締め括った。

 

当日の写真

 

<李鋼哲(り・こうてつ)LI Kotetsu>

1985年北京の中央民族大学業後、大学院を経て北京の大学で教鞭を執る。91年来日、立教大学大学院経済学研究科博士課程単位修得済み中退後、2001年より東京財団、名古屋大学国際経済動態研究所、内閣府傘下総合研究開発機構(NIRA)を経て、06年11月より北陸大学で教鞭を執る。2020年10月1日に一般社団法人・東北亜未来構想研究所(INAF)を有志たちと共に創設し所長を務め、日中韓+朝露蒙など多言語能力を生かして、東北アジア地域に関する研究・交流活動を幅広く展開している。SGRA研究員および「構想アジア」チームの代表。近著に『アジア共同体の創成プロセス』、その他書籍・論文や新聞コラム・エッセイ多数。

 

 

 

 

2026年4月2日配信