SGRAイベントの報告

原田健「第22回日韓アジア未来フォーラム『ジェットコースターの日韓関係-何が正常で何が蜃気楼なのか』報告」

木々の青葉が美しく、吹く風も爽やかな2024年5月18日(土)の午後、ソウル大学国際大学院の会議室に日韓両国の研究者50名以上が集い、オンラインも組み合わせた第22回日韓アジア未来フォーラム「ジェットコースターの日韓関係-何が正常で何が蜃気楼なのか」が開催された。

 

2023年3月の徴用工問題の第三者支援解決法を契機に、7回にわたる首脳会談を経て日韓関係は一挙に正常化軌道に乗った。この1年間の成果と課題、日韓協力の望ましい方向について、政治・安保、経済・通商、社会・文化の3分野から検討した。

 

最初に未来人力研究院(未来財団)の李鎮奎(イ・ジンギュ)理事長から「渥美財団と未来財団は日韓両国がジェットコースターのようなアップ・ダウンの関係にある時も、ずっと友好関係を深めており、平坦な道を走るローラースケートのようである。両財団が30周年を迎えるが、この先40周年、50周年と手を携えて共同事業を続けて行けることを祈っている」とあいさつした。

 

ソウル大学日本研究所の南基正(ナム・キジョン)所長は「長崎県・対馬に行く船に乗った時に『日韓関係』を感じた。外の景色を見たくて窓際に座ったら波が荒くてひどく船酔いをしたが、真ん中で均衡を取りながら座った人は平気な顔をしていた。もうろうとする中で陸地に見えた蜃気楼は高い波だった。その時、早く陸に上がりたいなどと考えず、諦めも大事だと感じた。和解は単独で存在するものではない。日韓関係は複雑で難しく『あなたが思っていることが全てではない』ことを考える機会にしたい」と話した。

 

第1部「日韓関係の復元、その一年の評価と課題」では、まず、西野純也・慶應義塾大学教授が政治・安保分野の成果として、尹大統領と岸田首相による両国が協力パートナーであることの再確認、指導者間の信頼関係の構築、政府間の対話・協議チャンネルの復元と新設、政治家同士のネットワーク活性化などを挙げ、課題として、協力パートナーとしての国民的理解やコンセンサスの醸成、それに資する制度的措置の実施として欧州連合(EU)の歴史経験、国内政治からの悪影響の管理・低減、相互の政策・戦略への理解などを挙げ、残りの任期3年に尹政権が国民の支持をどう得ることができるかが重要であると述べた。

 

次に李昌ミン(イ・チャンミン)韓国外国語大学教授が、日本が方針表明後4カ月という短期間で韓国を安全保障上問題がない国として輸出手続きを簡略化する「グループA(旧ホワイト国)」へ再指定したことは、これまでの日本の行政手続きではなかったことと評価。2023年を起点に日韓関係は新たなステージに入った。経済安保は「大きな政府の時代」の到来を意味するが、日韓ともに企業のモチベーションやインセンティブを考慮しないと政策的連帯が滞る可能性があり、総選挙後の韓国の「与小野大」の状況、日本のリーダーシップの状況、米大統領選でのトランプ氏の帰還の可能性などを総合的に考慮した協力のシナリオが必要と展望した。

 

最後に小針進・静岡県立大学教授が、この5年間の音楽動向をまとめた「オリコンランキング」で韓国のBTSが日本で一番売れたこと、日本の輸入化粧品第1位は韓国であり、日本の女性がファッションの参考にしている国も韓国が1位であると指摘した上で、社会・文化の全ての動向がこの1年間で「復元」した訳ではないが、政治・外交関係の「復元」が日韓間の人の往来を増幅し、人的交流や文化交流にプラスに作用したことは間違いないと評価。良好な関係維持に新しい日韓共同宣言は必要なのか、新しいビジョン(ジェンダー、少子高齢化、環境、災害、国際協力、対北朝鮮・・・)とは何か、そもそも宣言を発出できる政治環境なのかと問いかけた。

 

3人の発表に対して3人の討論者からのコメントがあった。金崇培(キム・スンべ)釜慶大学准教授は、西野教授の報告(関係修復に向けた動き、1年の成果、課題)に対してひとつひとつ丁寧に論評した。安倍誠・アジア経済研究所上席主任調査研究員は、李教授の「2023年に日韓関係が新たなステージに入る中で、新たに協力と競争の重層的関係を構築する空間が広がるだろうが、日韓協力のあり方を議論する際には政治状況を考慮する必要がある」という主張に同意し、補足的なコメントを行った。鄭美愛(ジョン・ミエ)ソウル大学日本研究所客員研究員は、小針教授の観点については全面的に共感するが、討論を引き受けた立場でと前置きした上、「宣言を発出できる政治環境」について質問した。

 

休憩の後の第2部「日韓協力の未来ビジョンと協力方向」ではパネル討論が行われた。国民大学の崔喜植(チェ・ヒシク)先生、ソウル大学の李政桓(イ・ジョンファン)先生、ソウル大学日本研究所の鄭知喜(チョン・チヒ)先生、東北アジア歴史財団の趙胤修(チョ・ユンス)先生、西野教授、小針教授、安倍研究員の7名が順次発言した。小針教授の「日韓それぞれが相手国をどう見ているのかという面で不安になった。今後、政権が変わったらどうなるのか?2019年当時、韓国に対する日本の見方は慰安婦、徴用工などを蒸し返す国という認識があった。一方、韓国側の持っている不安も理解できる。日本に対する不満もあると思う。不安と不満はあっても不信を招かないようにするにはどうするかが大事である。メディアには正確な報道をお願いしたい。糾弾する報道は『不信』を招く」とのコメントが印象的だった。

 

閉会にあたり、渥美国際交流財団の今西淳子常務理事が「今回のフォーラムは未来人力研究院だけでなく、韓国の現代日本学会、ソウル大学日本研究所との共同主催ということで、韓国で開催した日韓アジア未来フォーラムでは最大規模となった。渥美財団は日本の大学院で博士論文を執筆中の若手研究者を支援する奨学財団で、現代日本学会の金雄熙会長、ソウル大学日本研究所の南基正所長は1996年度に支援させていただいたご縁で、その後30年間途切れることなく交流を続けている。こういうことは滅多になく、本日は本当に奨学財団冥利に尽きると感じている」と感謝を述べた。

 

最後に日韓アジア未来フォーラム存続の立役者の金雄熙仁荷大学教授が「日韓関係は激しく上へ行ったり下へ行ったりジェットコースターのようだ。一定の動力があればジェットコースターは軌道から脱線しない。日韓関係にはその動力が働くだけに『山あり谷あり』を楽しめるようになりたい」と挨拶した。

 

フォーラム終了後、参加者はソウル大学の近くの学生街でサムギョプサルと「爆弾酒」を楽しんだ。

 

当日の写真

 

<原田健(はらだ・けん)HARADA Ken>
渥美国際交流財団事務局長。鹿島建設(株)、(一社)日本建設業連合会を経て、2023年より渥美財団で勤務。

 

 

2024年6月30日配信