SGRAイベントの報告

金雄熙「第19回日韓アジア未来フォーラム『岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいのか』報告」

2021年5月29日(土)、第19回日韓アジア未来フォーラムが盛会裏に終了した。本来は2020年3月に東京で開かれる予定だったが新型コロナウイルスのパンデミックで中止となり、Zoomウェビナー方式で実施することになった。コロナ禍の中でも「オンタクト」(ON-TACT:韓国社会で広がった言葉。非対面を指す「アンタクト」にオンラインを通じた外部との「連結(On)」を加えた概念で、オンラインを通じて外部活動を続ける方式を指す)で、積極的にグローバルなコミュニケーションに取り組んできたSGRAの旗振りにより開催されることになった。

 

日韓関係は、日米における政権交代、韓国裁判所による前例とは異なった判決などで改善の兆しが生まれつつも、なかなか接点を導き出すことが難しい現状である。これからどうすればいいか。現状を打開するためには何をすべきなのか。政府は何をすべきで、日韓関係の研究者には何ができるか。本フォーラムでは日韓関係の専門家を日韓それぞれ4名ずつ招き、「岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいのか」について意見交換を試みた。

 

フォーラムでは、SGRAの今西淳子(いまにし・じゅんこ)代表による開会の挨拶に続き、日本と韓国から2名の専門家による基調報告が行われた。まず、小此木政夫(おこのぎ・まさお)慶應義塾大学名誉教授は、「日韓関係の現段階――いま、我々はどこにいるのか」という題で、今後の政治日程を考えれば日韓関係を短期的に改善することは容易ではないが、長期的に見れば新しいアイデンティティの誕生と日韓の世代交代が相互関係の不幸な歴史の清算を促進するとした。バイデン政権の出帆により、米国が中国を戦略的な競争者と定めて同盟国や友好国に団結を呼びかけており、米中対立の狭間にある日韓両国の戦略共有は日韓の相互イメージを改善し、広範な認識共有を先導するとした。そして、金大中・小渕共同宣言の再確認が当面の目標になると強調した。

 

李元徳(イ・ウォンドク)国民大学教授は、「岐路に立つ日韓関係:これからどうすればいいのかー韓国の立場から」について報告した。日韓関係は攻守転換し、加害者・被害者関係の逆転現象が目立つようになったと診断、米中戦略競争が激化する中日韓は多層的かつ多次元的な協力を推進する方向に進むことが望ましいと強調した。一般大衆の感情に流されず、冷徹な国益の計算と徹底した戦略的思考で対日外交を定立しなければならず、その基盤は日本のありのままのリアリティを正しく読むことから出発しなければならないとした。そして「徴用工問題」については、4つの選択可能なシナリオを提示した。シナリオ1は放置(現状維持)、シナリオ2は代位弁済(基金設立)による解決、シナリオ3は司法的な解決(国際司法裁判所)、シナリオ4は政治的決断(賠償放棄や金泳三フォーミュラ)で、そのうち、シナリオ4が適切な道ではないかとの意見を示した。

 

指定討論に入り、沈揆先(シム・ギュソン)元東亜日報編集局長は小此木教授の発表について、両国関係を外部的な要因や過去の事例を土台に改善するのではなく、両国内部の意思と未来ビジョンの共有で改善する方法はないか、それを可能にするためには、誰が、いつ、何をすべきかを考える必要があり、結局国民の自覚と説得、リーダーシップと政界の開かれた態度、国際的認識の共有などに帰着すると指摘した。李元徳教授の発表については、伊集院敦(いじゅういん・あつし)日本経済研究センター首席研究員が、西側先進国で全面的な「対中大連合」を構築するのも容易ではなく、安保、技術、サプライチェーン、人権など個別テーマごとにオーダーメイドや特定目的の連帯を組織する方が現実的であり、日韓もそうした取り組みを利用しながら戦略の共有を図ったらどうかとコメントした。

 

第2部の自由討論では、金志英(キム・ジヨン)漢陽大学副教授は、現実的に日韓の複合葛藤を解決するカギは当面の徴用工、慰安婦問題の収拾から求められるしかないとしたうえで、菅義偉政権においては韓国に対する謝罪や韓国への柔軟な態度と解釈される余地のある前向きな変化は難しいと展望した。

 

小針進(こはり・すすむ)静岡県立大学教授は、両国国民の相互認識においても「リアリズムとアイデアリズム」の均衡が必要であり、「コロナ禍と人的往来の全面中断」という状況において双方が直接体験ではない「頭に描かれた社会」による疑似環境に基づいて、相手国への認識が形成されないかが憂慮されるとし、オンライン対話の促進等で対処すべきだと強調した。

 

西野純也(にしの・じゅんや)慶応義塾大学教授は、日本も韓国も相手国のリーダーの言動のみで相手を理解しようとしているが、相手の社会は多様であるという当たり前の事実にもっと注意を向けるべきであり、さらに進んで相手がどのような国際秩序認識を持っており、それに基づいてどのような戦略や政策を展開しようとしているのかについて理解することも重要であるとした。また日韓両政府は関係を「管理」しながら、「復元」ではなく、「新たな関係」を作っていくことにより自覚的であるべきだと提言した。

 

朴栄濬(パク・ヨンジュン)国防大学教授は、日韓関係の改善の契機は韓国政府が「和解・癒し財団」解散の決定を見直し、これを日本政府との協議を通じて解決しようとする態度をとる必要があるとした。また、日韓協力は韓国が求める外交安全保障面での戦略的目標の達成に不可欠であるとした。

 

第3部では、金崇培(キム・スンベ)忠南大学招聘教授のアシストでウェビナー画面の「Q&A機能」を使って一般参加者との質疑応答が行われた。今回は100人を超える一般参加者からの参加申し込みがあり、慶応大学、静岡県立大学、国民大学の学生の参加も多かった。時間の制約もあり、十分な質疑応答の機会になったとは言えないかもしれないが、20年も続いてきた日韓アジア未来フォーラムの歴史では最も参加者が多く、しかも両国の若い世代が同時接続したという点は特筆すべきであろう。

 

最後は、徐載鎭(ソ・ゼジン)未来人力研究院院長により、小此木教授との長年の学問的な付き合いに触れるコメントと閉会の辞で締めくくられた。本来はこれで会が終わるはずだったが、会議の初めの思わぬ音響トラブルで20分ほど遅れ、また開会挨拶もよく伝わらなかったため、今西代表が再登場し、状況の説明とともに最後の仕上げをした。今回は惜しくもコロナ禍で日韓アジア未来フォーラムならではの「狂乱の夜」が再現されなかったが、きっと「狂乱」のハウリングは次回の懇親会を予告するものに違いない。

 

今回オンライン反省会も行ったが、主に本フォーラムの位置づけについての議論が多かったように思われる。今後研究者に限らず、多くの関係者との議論、そして日韓の若い人を中心とした一般の人々との対話ができるフォーマットについて工夫していこうと思う。最後に第19回目のフォーラムが成功裏に終わるようご支援を惜しまなかった今西代表と李鎮奎前理事長(咸鏡道知事)、そして素晴らしいウェビナーの準備に万全を期したスタッフの皆さんのご尽力に感謝の意を表したい。

 

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<金雄煕(キム・ウンヒ)KIM_Woonghee>

89年ソウル大学外交学科卒業。94年筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、98年博士。博士論文「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。99年より韓国電子通信研究員専任研究員。00年より韓国仁荷大学国際通商学部専任講師、06年より副教授、11年より教授。SGRA研究員。代表著作に、『東アジアにおける政策の移転と拡散』共著、社会評論、2012年;『現代日本政治の理解』共著、韓国放送通信大学出版部、2013年;「新しい東アジア物流ルート開発のための日本の国家戦略」『日本研究論叢』第34号、2011年。最近は国際開発協力に興味をもっており、東アジアにおいて日韓が協力していかに国際公共財を提供するかについて研究を進めている。

 

 

2021年6月24日配信