SGRAイベントの報告

金 雄熙「第14回日韓アジア未来フォーラム『アジア経済のダイナミズム』報告」

 

201527日(土)、国立オリンピック記念青少年総合センターで第14回日韓アジア未来フォーラム(第48SGRAフォーラム)が開催された。今回は「アジア経済のダイナミズム-物流を中心に」というテーマだったが、2013年度から5年間のプロジェクトの第2年目として、日韓の交通・物流システムにおける先駆的な経験が、アジアの持続可能な成長と域内協力にどのように貢献できるのかという問題意識に立ち、アジア地域で物流ネットワークが形成されつつある実態を探り出し、その意味合いを社会的にアピールすることを目的とした。

 

フォーラムでは、未来人力研究院理事長の李鎮奎(リ・ジンギュ)教授による開会の挨拶に続き、基調講演と2人の研究者による発表が行われた。基調講演では、「ミスター円」と呼ばれた榊原英資(さかきばら・えいすけ)さんが、中国やインドが19世紀初めまでは世界の2大経済大国であったことを考えると、昨今の高い経済成長は「リオリエント」現象とも呼ばれるべきものであると力説した。また、インドネシアなど東南アジア諸国も高い成長を続けており、次第に成長センターは西に移っているとした。おそらく20年後にはインドの成長率が中国のそれを越え、2050年のGDPでは中国がアメリカを抜いてナンバーワン、インドはナンバーツーに近いナンバースリーになると予測されているとした。ちょうど15年前(渥美国際交流財団設立5周年)に榊原さんがこの同じ場所で中国の浮上を熱く語ったことがあったのだが、いまや「G2」論が話題になるようになった。これから15年後インドがグローバル経済という大舞台でどういう役を演じるようになるのか、またどの国・地域が新しく浮上し、東アジア共同体の成功への期待を膨らませるか興味はつきない。

 

安秉民(アン・ビョンミン)韓国交通研究院ユーラシア・北朝鮮インフラセンター所長は、北東アジアにおいて活発に行われている国境を越えた多国間開発事業、特に北朝鮮、中国、ロシア、モンゴルなどの国々による交通・物流インフラなどをめぐる新しい協力方式を中心に、北東アジアの交通・物流協力の実状と今後の展望について発表した。

 

ド・マン・ホーン桜美林大学経済経営学系准教授は、GMS(大メコン圏)経済協力プログラムの中で、最も積極的に進められてきたプロジェクトである輸送インフラ整備を中心に、同地域での物流ネットワークの現状を分析し、ソフト(制度など)とハード(インフラシステム)の両面に関わる課題について発表した。

 

休憩を挟んで、ラウンドテーブルでは、まず第48SGRAフォーラムの仕掛け人でもある北陸大学未来創造学部の李鋼哲(り・こうてつ)教授が「アジアハイウェイの現状と課題について」報告を行った。討論のたたき台としてのミニ報告を予定していたが、「アジア人」として長年にかけての「ロマンチックな」夢が熱く語られ、会場を大いに盛り上げた。その後、畑村洋太郎(はたむら・ようたろう)東京大学名誉教授、沼田貞昭(ぬまた・さだあき)鹿島建設顧問、韓国未来人力研究院の徐載鎭(ソ・ジェジン)院長、滋賀県立大学のブレンサインさん、SMBC日興証券のナポレオンさんらによるコメントが続いた。著しく成長しつつある物流ネットワークの域内協力をキーとし、アジア経済のダイナミズムについてそれぞれの立場や専門領域を踏まえた、そして夢が込められた素晴らしい議論であった。

 

今回は渥美財団20周年祝賀会と日韓アジア未来フォーラムが立て続けに開催され、準備が本当に大変だったに違いないが、スタッフの皆さんは勿論のこと、家族的なラクーン・ネットワークに支えられ、成功裏に終えることができ、改めて顔の見えるネットワークのパワーを実感した。交通の便が悪かったにもかかわらず、100名を超える参加者が集まるというすごい反響は、これからのフォーラム運営により一層の活力とやりがいを与えてくれた。なお、第2回アジア未来会議に続き、大学や研究機関の研究者のみならず若い学生たちにも参加いただき、次世代への期待をフォーラム運営の在り方につなげるものとなった。慌ただしい日程のなか、高麗大学の学生たちを青少年総合センターまで案内してくれた今西勇人さん夫妻にこの場を借りて感謝したい。残念ながら、公式乾杯酒の「春鹿」、そして入り混じったラブショットはみられなかったものの、日本ならではの節度ある良いフォーラムであったと思う。

 

前回のフォーラム報告でも言及したが、これから「ポスト成長時代における日韓の課題と東アジア地域協力」について、実りのある日韓アジア未来フォーラムを進めていくためには、総論的な検討にとどまらず、今回のように各論において掘り下げた検討を重ねていかなければならない。次回のフォーラムの開催に当たっても、このような点に重点を置きつつ、着実に進めていきたい。最後に第14回のフォーラムが成功裏に終わるようご支援を惜しまなかった今西代表と李先生、そしてスタッフの皆さんに感謝の意を表したい。李先生、今西さん、そしてラクーンのみなさん、日韓アジア未来フォーラムも20周年祝賀会やりましょう!

 

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<金雄煕(キム・ウンヒ)☆ Kim Woonghee

89年ソウル大学外交学科卒業。94年筑波大学大学院国際政治経済学研究科修士、98年博士。博士論文「同意調達の浸透性ネットワークとしての政府諮問機関に関する研究」。99年より韓国電子通信研究員専任研究員。00年より韓国仁荷大学国際通商学部専任講師、06年より副教授、11年より教授。SGRA研究員。代表著作に、『東アジアにおける政策の移転と拡散』共著、社会評論、2012;『現代日本政治の理解』共著、韓国放送通信大学出版部、2013;「新しい東アジア物流ルート開発のための日本の国家戦略」『日本研究論叢』第34号、2011。最近は国際開発協力に興味をもっており、東アジアにおいて日韓が協力していかに国際公共財を提供するかについて研究を進めている。

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2015年3月4日配信