SGRAイベントの報告

李貞善「2025年国際和解学会パネル『尊厳の遺産―国連墓地』報告」

2025年7月14日から18日、第6回国際和解学会年次会ソウル大会2025が韓国・ソウル大学日本研究所の主管で開催された。私が企画した渥美パネル「『尊厳の遺産』国連墓地:朝鮮戦争の記憶と和解」は、大会唯一の特別セッション(Alternative Session)として実施され、私の中では今でも余韻が続いている。

 

 

この渥美パネルは、自分が2021年に監修・出演した韓国放送公社(KBS)ドキュメンタリー「記憶の地、国連墓地」の上映会とトークイベントだ。昨年末に渥美国際交流財団のパネル募集を確認した途端、「和解(reconciliation)」をテーマとするこの学会にはこのドキュメンタリー上映がぴったりだと確信した。短期間で適任の先生方が集まり、意欲にあふれた企画書を作った。結果は幸いにも採択。

 

企画の意図は、国連創設80周年と朝鮮戦争勃発75周年、日韓国交正常化60周年の節目の年を迎え、朝鮮戦争に伴う文化遺産を通して、国際和解と「死者の尊厳」に関する知見を共有することだ。これは私が東京大学で担当している学術プロジェクト「尊厳学の確立:尊厳概念に基づく社会統合の学際的パラダイムの構築に向けて」を国際的に広く発信することとも共鳴する。パネルの先生方が途中で交替されることもあったが、渥美財団と学会事務局のご協力で、無事に開催することができた。朝鮮戦争の墓地に関するドキュメンタリーも、それを取り上げるパネルも、フィルムの内と外で劇的に「和解」に向かっていく私の道のりは、起承転結のナラティブそのものと言える。

 

7月15日、私の司会でパネルが始まった。KBSプロデューサーの李京玟(イ・ギョンミン)さん、パネルの趙明鎭(ジョ・ミョンジン)先生と私で渥美パネルのために英語字幕を付けたドキュメンタリーを上映。トークイベントでは李さんと私が番組制作の裏話を披露した。

 

パネルディスカッションでは、専門家の先生方から国際和解学的観点からみる「朝鮮戦争以降の東アジアの平和への道」をテーマとした自由討論が続いた。欧州連合(EU)理事会の趙先生は、ドキュメンタリーの感想に続き、ヨーロッパの安全保障に関する見解と、「ハイヒューマニズム(high-humanism)」の主唱者として記憶を通じた和解の実践方案を、自作の詩とともに提案された。東京大学名誉教授の木宮正史先生は、日本の国際政治学と日韓関係の観点からみる和解の方向を説明された。最後に、元渥美奨学生でソウル大学日本研究所長・南基正(ナム·ギジョン)先生は大会の主催者として、様々な和解に関する見解と学会のテーマである「分断を超えてー私たちを分ける障壁を克服して」について語られた。

 

質疑応答では、過去の戦争の記憶」を「未来の平和の道」へ導くための意見が参加者たちと共有された。2023年に朝鮮戦争停戦70周年を記念し、外務省の支援のもと「国際理念と秩序の潮流:日本の安全保障戦略の課題」の一環として東京大学で行ったドキュメンタリー上映会が、国際和解学会の場まで広がったことを考えると感慨深い。われわれの認識と経験の地平が拡大するにつれ、「和解」を見るまなざしも次第に深まるだろう。国を越えた和解、彼我間の和解、過去と現在・未来との和解、南北間の和解、生死の和解、自分との和解など…。

 

企画から実現に至る私の半年間の道のりは幕を閉じたが、この渥美パネルが、参加者たちにとって色々な障壁を乗り越える「和解」の幕を開けることを願う。

 

当日の写真 

 

関連エッセイ:李貞善「記憶の地、国連墓地が遺すもの」

 

<李貞善(イ・ジョンソン)LEE Chung-sun>

東京大学大学院人文社会系研究科附属次世代人文学開発センターの特任助教。2021年度渥美奨学生として2023年2月に東京大学で博士号取得。高麗大学卒業後、韓国電力公社在職中に労使協力増進優秀社員の社長賞1等級を受賞。2015年来日以来、2022年国際軍史事学会・新進研究者賞等、様々な研究賞受賞。大韓民国国防部・軍史編纂研究所が発刊する『軍史』を始め、国連教育科学文化機関(ユネスコ)関連の国際学術会議で研究成果を発表。2018年日本の世界遺産検定で最高レベルであるマイスター取得後、公式講師としても活動。

 

 

 

2025年9月5日配信