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張桂娥「第8回日台アジア未来フォーラム『グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性』報告<その2>」

前日(5月25日)400名を越える観客でにぎわったフォーラム前夜祭【神級名師 弘兼憲史先生 特別講演会】の余韻に浸る間もなく、26日早朝8時半、第8回日台アジア未来フォーラムの開会式は東呉大学普仁堂大講堂で執り行われた。東呉大学董保城副学長と渥美国際交流財団今西淳子常務理事に続き、日本台湾交流協会台北事務所広報文化室の浅田雅子主任、台湾日本人会日台交流部会の高橋伸一部会長から開会のご挨拶をいただいた。

 

【午前の部】では、日本・韓国・中国から招致した研究者による3つの基調講演会に続き、フォーラムの主題である「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性―コミュニケーションツールとして共有・共感する映像文化論から学際的なメディアコンテンツ学の構築に向けて―」をテーマに、6名のパネリストによるパネルディスカッションが約1時間にわたって開催された。昼食を挟んで1時半から開始した【午後の部】においては、台湾を代表するマンガ研究者2名による講演会がパラレルに進行した後、3会場に分かれて合計6セッションで18本の研究発表が行なわれた。総勢200名近くの方々に参加していただく盛会であった。

 

最初の基調講演は、北九州市漫画ミュージアム専門研究員の表智之先生が、日本における「研究者のネットワーク化とマンガ研究の進展-学会・地域・ミュージアム-」というテーマでお話しくださった。2001年に「日本マンガ学会」、2006年に「京都国際マンガミュージアム」、そして2012年に「北九州市漫画ミュージアム」が設立されたことに触れ、「マンガ学会は、多種多様な学術分野が合流する刺激的な場となった。また、マンガ研究に欠くべからざる基礎資料である雑誌や単行本をミュージアムという場に集積し、展覧会や講演会などの場でその学術的意義を広めてきた結果、マンガ資料を一種の文化財として保存する意義が社会に共有された。

 

現在では政府機関である文化庁をはじめ、福岡県北九州市や秋田県横手市などいくつかの地方自治体がマンガ資料の恒久的な保存活動を進めている」という現状を指摘した上、ここ20年ほどの間に日本で起きたマンガ研究環境の変化や、研究者と研究資料のネットワーク構築及び研究方法の進展について整理してくださった。その結果として得られた新たなマンガ研究の視座に基づき、地域の視点でマンガを考える意味について分析した上、膨大なマンガの「1次資料」を連携・分担して収集し保存するマンガミュージアムの役割及び資料ネットワークの構築、そして、日本を含む世界各国の評論家たちの研究成果の継承の重要性を強調した。

 

次の基調講演は、韓国で出版企画会社コミックポップ・エンターテインメント代表を務める傍ら、『韓国声優の初期歴史』など、韓国・日本でもマンガ関連研究の書籍・コラムの執筆、翻訳活動など精力的に携わっておられる宣政佑氏が「韓国ではアジア漫画をどう見てきたか(Asian_comics_in_Korea)」をテーマに、韓国におけるアジア漫画の受け入れの歴史を振り返ってくださった。

氏は、「アメリカンコミックス(スーパーヒーロー物・グラフィックノベル)、日本漫画(少年漫画・少女漫画・青年漫画)、BD(バンド・デシネ/bande_dessinee:主にフランス語で発表される、フランスとベルギー中心のヨーロッパ漫画)は勿論として、台湾・香港など中国系の漫画も多数翻訳出版」されている事実を踏まえた上、台湾文化の韓国への輸入の背景、特に人気のある台湾出身の漫画家蔡志忠、林政德、游素蘭、高永、周顕宗、陳某らの作品を詳しく紹介してくださった。さらに、ウェブトゥーン・電子書籍時代以後、韓国におけるアジア漫画受容の変化、特に増えつつある中国漫画の存在感についても興味深く語ってくださった。

 

3本目の基調講演は、日本近現代文学、日本大衆文化、東アジアマンガ・アニメーション史など、様々な分野において、膨大な研究業績を挙げられた中国北京外国語大学北京日本学研究センターの秦剛教授による「『白蛇伝』における『中国』表象と『東洋』幻想」であった。1958年10月に公開された東映動画制作の『白蛇伝』が戦後日本の最初の長編アニメーションであるが、なぜ中国の民間伝説を題材に選んだのか、またその歴史的なアニメーション作品において、どのような中国のイメージを表象しえたのかについて、細かい画面構成に注目しながら制作者側の真意を紐解いた秦剛教授は、『白蛇伝』のビジュアル的イメージの歴史的な連続性、および映画のナラティブに反映された植民地主義的意識の残影を浮き彫りにした。

「敗戦によって終焉した旧植民地支配時代へのノスタルジーを匂わせながら、植民地主義的な他者支配の再演という欲望が輸出商品としての『白蛇伝』制作の商業的な企図にも内在していた」と結んだ秦剛教授の結論に、かつて植民地支配の被害、搾取に虐げられていた台湾出身者として、「たしかにその通り」と頷かずにいられない共感を得た。

 

続くパネルディスカッションでは、渥美国際交流財団の今西淳子常務理事を司会に迎え、本フォーラムの主眼に据えている「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」というテーマをめぐって、台湾、日本、中国、そして韓国という多文化的視点から議論を掘り下げていった。

 

マンガ学会・マンガミュージアムの設立に積極的に関与・貢献してきた表智之先生は、(1)日本のマンガ研究は日本以外の研究成果に関心を持っているか、(2)日本以外の地域からの日本マンガ研究者の受け入れ態勢、(3)グローバルな視点からのマンガ研究の可能性について、グローバル化された日本マンガ学の視点から論じた上、「表現論をしっかりと踏まえてのグローバルな対話が、これからは求められていく」と力強く締めくくった。

 

宣政佑氏は、漫画・アニメの記事やコラムなどを書いてきたライターとして、また主に漫画・アニメ関連の日本の批評書や研究書を翻訳してきた翻訳家として、そして書籍などの国際契約の仲介や展示・各種事業の企画を行ってきた身として、その立場から「漫画・アニメ研究」というもの、グローバルな観点を持つ漫画・アニメ研究の必要性について論じ、たとえ限界はあるにしても、国際的な交流やシンポジウムには意味があるという考え方を示した。

 

鋭い批判精神で東アジアにおけるマンガ・アニメーション史を凝視してきた秦剛教授は、西遊記でもっとも話題性に富んだキャラクター鉄扇公主を主人公に仕上げた、中国初の長編アニメーション映画「西遊記 鉄扇公主の巻(原題:鉄扇公主)」の越境史に注目しながら、マンガ・アニメ研究の新地平への展望よりも、歴史あるアニメーションの芸術性とその文化的価値を回顧・再考することの重要性を力説した。記憶に葬られそうな過去の漫画・動画を今一度見直すことこそ、グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性を切り拓く決め手ではないかと訴えた。

 

台湾U-ACG発起人、旭メディアテクノロジー会社創立者としてマンガ・アニメの普及・発展の最前線をけん引する傍ら、清華大学でも非常勤講師として「御宅学」講座の開設に尽力してきた梁世佑先生は、台灣におけるACG(アニメ・コミック・ゲーム)の概念の移り変わりを振り返った上、グローバルなマンガ・アニメマーケティングの戦略的コンセプトが確立された時代において、台湾オリジナルマンガ・アニメ作品にどんな特色を持たせるべきか、どういった位置づけを狙うべきかについて論じた。パラダイス鎖国化・ガラパゴス化されていく傾向の強い日本業界と手を組んで需要が高まる中国市場に挑むべきだと提言した。

 

一方、台湾で初めてのアニメーション評論団体「Shuffle_Alliance」発起人で、東海大学に続き国立交通大学でも「御宅学」講座を創設して開講以来圧倒的人気を誇る講師であるJOJO先生こと黄瀛洲先生は、マンガ・アニメ研究者からマンガ・アニメ作品制作会社「石破天驚行銷(股)」CEOに転身した実体験に基づき、台湾におけるマンガ・アニメ関連イベントの企画開催の現状及び困難点について言及した上、台湾オリジナルマンガ・アニメ・ゲーム作品制作現場が直面する課題を展望した。

 

最後に登壇したパネリスト住田哲郎先生は、韓・台・日の3か国で日本語教育に携ってきた経験を活かし、言語研究者・日本語教師として、マンガ・アニメ研究の可能性について貴重な意見を述べられた。特に、「マンガ・アニメがいかに社会貢献を果たせるか(いかに有効活用できるのか)」という切実な課題に、日本語教育への活用、情報メディアとしての活用、マンガ学・アニメ学の確立と学校教育への活用といった3つの示唆に富んだ解決策を提示された。

 

パネリスト6名の発言がそれぞれ時間内におさまるよう、スムーズな進行を心がけられた司会者今西淳子常務理事の適宜な時間管理の下で、2本目の特別講演会の司会者邱若山教授の感想・問題提起を筆頭に活発な議論が交わされた。本フォーラムのメインテーマ「グローバルなマンガ・アニメ研究のダイナミズムと新たな可能性」をめぐって、東アジア諸国の有識者を招いた約1時間にわたるパネルディスカッションは滞りなく終了した。

 

台湾グルメの名物弁当が振る舞われたランチタイムを挟んで、午後1時半からは、台湾の大学に大フィーバーを巻き起こした「御宅学」講座開設のパイオニア、梁世佑先生と黄瀛洲先生の両氏による特別講演会であった。プログラム時間の制限でパラレル進行形式を余儀なくされるため、台湾「オタク学・オタク研究」史上最高のゴージャスな競演といわれるほど、本フォーラムでも注目度の高い目玉企画であった。

 

「日本のアニメから見る国家と社会の構造―人型ロボット兵器を例に―」という題目で講演された梁世佑先生は、台湾のマンガ・アニメファンの目線から、『鉄腕アトム』『鉄人28号』『マジンガーZ』など、人型ロボットを兵器に見立てた日本で有名なアニメ作品を例に、日本の映像文化やエンターテインメント作品にみられる日本人のアイデンティティーやセルフイメージの形成のプロセスに迫ろうと試みた。さらに、芸術家岡本太郎が手がけた「太陽の塔」の無機質な顔に表象された日本の美意識に着眼し、日本のアニメや特撮映画の技術を最大限に盛り込んだアメリカ発エンターテインメント映画『パシフィック・リム』(Pacific_Rim)や、『機動戦士ガンダム』『宇宙戦艦ヤマト』『沈黙の艦隊』などロボット兵器や巨大な武器を主役に据えたアニメ作品を取り上げ、「大和文化」の本質を再発見・再認識しようとした日本アニメから見る国家と社会の構造を解き明かそうとした。

 

一方、自ら手掛けたアニメ映画の実体験を踏まえて、「未来を見据えた台湾アニメの発展―アニメ映画『重甲機神BARYON』を例に」というテーマで講演された黄瀛洲先生は、1950年代に欧米や日本のプロダクションの下請けからスタートした台湾のアニメ産業の歴史を振り返った上、台湾アニメ産業が直面した問題点を、国際・政治・経済・社会・教育など各方面から鋭く分析した上、様々な課題を指摘した。ただ決して悲観的に捉える必要はなく、常に第一線で活躍するパイオニアならではの洞察力を発揮して、21世紀を迎えた台湾アニメ産業が挑戦すべき分野、目指すべき方向及び未来を切り拓く新たな可能性について、広範多岐にわたる活路を見いだした。現在、山積する課題の解決に向けて、気鋭の若手たちを率いて制作している台湾初のオリジナルアニメ映画『重甲機神BARYON』の取り組みを手掛かりに、発展的・創造的な活動を積極的に展開していこうと、並々ならぬ意欲を示した姿勢が印象深いものであった。

 

台湾におけるマンガ・アニメ文化の進化やオタク文化の深化、オタク学の研究に人生をかけてきたお二人の真剣な眼差しと未来に対する意欲に満ちる講演は今後への期待感が溢れ、大変説得力があった。日本から受け継いで台湾でさらなる大きなソフトパワーに成長していくマンガ・アニメの価値と意義が改めて認識された、非常に充実した講演内容であった。

 

午後2時20分からの論文発表シンポジウムでは、3会場でそれぞれ2つのセッションを構成して、台湾、日本、中国、ノルウェー出身の学者たちを招き、多角的な視点から深い議論が展開された。合計18本の論文発表が行われたが、詳細は引き続き報告する。(つづく)

 

当日の写真

 

<張 桂娥(ちょう・けいが)Chang_Kuei-E>

台湾花蓮出身、台北在住。2008年に東京学芸大学連合学校教育学研究科より博士号(教育学)取得。専門分野は児童文学、日本語教育、翻訳論。現在、東呉大学日本語学科副教授。授業と研究の傍ら、日本児童文学作品の翻訳出版にも取り組んでいる。SGRA会員。

 

 

2018年8月9日配信